【船宿綾藤・細腕繁盛記?】舟涼み

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月11日〜08月16日

リプレイ公開日:2007年08月20日

●オープニング

 その日、ギルドの受付の青年が打ち水をしていると、そこにひょっこりとやって来たのは船宿・綾藤で働いている娘さんのお燕。
 お燕はお藤からの文を持ってきていた為受付の青年が中へと通せば、日陰にはいれたことにほっとしたのかぱたぱた扇ぎつつ深く息を付き。
「いや、暑いですねー、本当に‥‥外に出るのが嫌になるくらいです」
 ふうと溜息をつくお燕、全く、と頷きながらお茶を出す受付の青年は、お燕から文を受け取り広げれば、どうやらこの暑さで少々気が塞いできそうなものでしょうから、屋根船で涼を取ってのんびりとしませんかというお誘いの言葉が。
「あぁ、綾藤の方も漸く落ち着いてきたみたいですね。では、こちらはいつものようにお誘いを出しておけば良いんですね?」
「はい、お願いします」
 ぺこりと頭を下げて報酬を私たち上がりかけたお燕は、ふとなにかを思い出したかのように立ち止まって振り返り。
「そうです、忘れていました」
「? 何がですか?」
「あぁ、いえ、料理は希望を伝えて貰えると支度できるのですが、お茶菓子や他に欲しいものや希望が有れば、前もって教えていただけますか、もしくは費用はこちらで持ちますので、舟涼みの前には‥‥」
「希望として伝えて欲しい、そうすれば買い出しに行けるので、と言うことですか?」
「はい、お願いしますね」
 受付の青年の言葉ににっこり笑って頷くと帰っていき、受付の青年はお藤の文を確認しながら依頼書へと目を落とすのでした。

●今回の参加者

 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7179 鑪 純直(25歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8922 ゼラ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●再会の喜び
「今年も舟で涼むでござるか。風情があって良いでござるの」
 周りの人々が暑さで溶けている中、涼やかな微笑を浮かべて言うのは沖鷹又三郎(ea5927)。
「今年ぁ妙に暑さが厳しいからなぁっと。だが暑けりゃ暑いだけ、舟の上じゃあ快適ってもんよ」
 嵐山虎彦(ea3269)の無茶な言葉も実際はどうだろうかと誰も言う気力もない、暑い暑い夏の日。
 ジャパンに元から居たわけではない2人がすっかりと日陰の風が通る辺りで、ぱたぱたお燕に扇いで貰いながらへたばっている姿が。
「舟涼み? 渡りに船とはこの事ね。助かるわ、もう暑くて暑くて食も進まないし‥‥融けてしまいそうよ」
 壁に寄りかかりながらはふぅと溜息をつくゼラ・アンキセス(ea8922)は、ぱたぱた扇がれて僅かに眼を細めると濡らした手拭いを受け取ると頬を拭い。
「ジャパンの暑さっていうのはエジプトとはまた別物だな。暑いの自体は慣れてるけどこうじめじめしてるとなぁ‥‥」
 たまったもんじゃない、リフィーティア・レリス(ea4927)はくてーっと日陰に転がりつつ天井を見上げて小さく呟き。
「今年は特に暑いですからねぇ‥‥お茶でも飲んで、少し休まれていて下さいましね」
 言って盆に湯呑、その中によく冷えた井戸水を汲んで持ってきたお藤に、少々へろへろとしながら手を伸ばしてゼラは受け取って。
「冷たい‥‥はー、これだけで多少は生き返ったような気がするわ‥‥」
 しみじみといった様子でお水を飲むゼラにつられた様にリフィーティアもよろよろと体を起こし湯呑を受け取ると、水を一口飲んではーっと大きく溜息。
「まぁ水でも飲まないとひからびるだろうからね‥‥」
「あ、お藤さん、そう言えばお茶菓子は事前に伝えておかないといけないのよね」
 お水を飲みつつほっと息を付いていたゼラはふと思い出したように言えば、そうして貰えると助かりますわ、と答え。
「この暑さだもの、冷たいお茶やところてんなど、スルッと食べられるものがいいわ。お燕さん、お藤さん、お願いできるかしら?」
「はい、頑張らせていただきますわ」
 にっこりと笑って言うお藤、そこへ顔を出したのは山下剣清(ea6764)です。
「取り敢えず今回はこれで揃ったのか?」
「その様ですねぇ‥‥暑い季節ですし、御加減でも崩されたのかも知れませんわね」
 朝顔の柄の入った団扇を手に、少し心配そうに首を傾げて頷くお藤は手配の方にと席を立ちかけ。
「あぁ、お藤殿、もし舟に余裕があるのでござったら、お呼びしたい人達が居るのでござるが‥‥」
「ええ、勿論、歓迎いたしますわ」
 沖鷹がかける声ににっこりと笑って頷くお藤は支度へと席を立ち、お燕はにこにこと扇ぎつつ小さく首を傾げます。
「どうしましょう、お誘いの文を届けるのでしたら、私行ってきますけれど」
「いやいや、折角なので自分でお誘いに行くでござるよ」
 ついでに色々と食材も見てくる様子で、沖鷹が立ち上がり出て行くとゼラは小さく首を傾げて。
「ああ、綾藤の皆さんとこうやって会うのは、半年ぶりなのよね‥‥」
 不意にしみじみとしたように言うゼラに嵐山も頷いて。
「まったくよぅ、えれぇ久し振りな気がすると思ったら半年ぶりかよ」
「‥‥ええ、本当に凄く久しぶりの気がするわ。色々あったもの」
 ゼラが眼を細めると、リフィーティアも同意を示すように小さく肩を竦めてみせるのでした。

●楽しい遊びには美味しい食べ物
 沖鷹はお誘いした先から戻ると、丁度裏口へとまわると嵐山とばったり。
「これはまた、凄いでござるなぁ」
 沖鷹が言うのも無理はないこと、ジャイアントの巨体の肩の上、そこにはでんと鎮座する大きな樽酒が。
「おう、そっちもいい感じに色々手に入ったようだなぁ」
 沖鷹が帰りに手に入れてきた笊を見て言う嵐山、二人が中へと入れば綾藤の厨房では既に料理人がにこにこと楽しそうに仕込みを始めていて。
「いやいや、やっぱりこの時期は舟ですよね。それにしても久々にこうやって、お仕事抜きのお客様が集まるのは良いものですねぇ」
 笑って言う料理人とにこやかに言葉を交わす沖鷹と、手伝いで井戸の水を瓶へと組み上げて持ってくる嵐山。
「さてと、何か精のつく料理や涼しげな料理を作りたい所でござるの」
 この暑い中に啜ることの出来る蕎麦は、夏の暑さに負けている人達にとっては食べやすく心配りの一品と言ったところでしょうか。
「そういや、さっき久し振りな人を見たぜ?」
「どなたでござるか?」
 水回しをしていた沖鷹ですが、何やらにんまりと笑って言う嵐山の言葉に不思議そうに目を向けると、その手の中にあるお皿の上の塊に目を瞬かせて。
「ちょいと挨拶に寄ってった水使いがくれてよ」
 どうやら過去にお魚を運ぶために氷を出して、商人と共にあちこち旅をしていた魔法使いが挨拶ついでに寄って氷を作ってくれたそうで。
「舟遊びにゃ、出立しちまうから来られねぇらしいが、その前にもう一度寄って氷をわけてくれるとよ」
 嵐山の言葉に何かを思いついたか、沖鷹は笑って頷くと木鉢の中の蕎麦の生地を練っているのでした。
 川でお燕とお藤が何やら桶に汲んだ井戸水を前にしているのを、貰った氷で少し調子もましになったゼラが通りかかり見れば、どうやら白玉を作っていたようで。
「ふぅ、この暑い中を待つのは大変だけれど、色々と楽しみがあるわね」
 小さく呟くと、ゼラは再び日陰へとのろのろと移動するのでした。

●ご招待されたお客様
「わざわざ気を使わせてしまい、済まなんだな」
 支度もすっかり出来て、これから舟にとなったときにやって来たのは落ち着いた風合いの着物を着た凶賊盗賊改方の筆頭与力・津村武兵衛です。
 どうやら嵐山が声をかけたようで、少々疲れた様子の武兵衛へ根を詰め過ぎないようと長官の奥方・久栄が言って送り出したようで。
「武兵衛さん、お久し振りです」
 それに気が付いたゼラが声をかけて舟へと乗り込み二言三言、やはり色々と気になる話は多いのか、へばりながらも言葉を交わし。
「おきたかのおにいちゃん‥‥」
 そして、やはり招待された比良屋の主人と荘吉にお雪、彦坂家へと養子へ行っており、今は安全のために専ら比良屋にいることが多い清之輔の姿が。
「お招きいただき有難うございます」
 沖鷹とお藤へと頭を下げて舟へと乗り込めば、沖鷹はお雪に手を貸して舟へと乗っけてあげて。
「お雪ちゃんも来たでござるか。のんびり楽しんで欲しいでござるよ」
「うん‥‥おじゃまします」
 ぺこり頭を下げて乗り込めば、荘吉は早速沖鷹の料理を運び込む手伝いを始めて。
「あれ‥‥ゼラさんもリフィーティアさんも大丈夫ですか?」
 そして、先程武兵衛と話していたものの、日陰の位置で水面を覗き込みながらへたっとしているゼラと、早く舟が出ないかとばかりに借りた扇でぱたぱた自身を扇ぐリフィーティアに清之輔は心配そうに声をかけて。
「‥‥‥やぁ‥‥‥」
「あら‥‥清之輔君、お久し振りね‥‥」
「あ、あの‥‥お水、貰ってきましょうか?」
 目を瞬かせながら言うも、大丈夫とばかりにてを軽く振るゼラ。
 そうこうしているうちに舟はゆっくりと進み出すのでした。

●舟涼み
 船が漕ぎ出されれば、同じように涼を取ろうと出ている舟を見つつ川面を滑り出す屋根船。
 さぁっと風が通り、涼やかな水音が耳に入ってくる頃、沖鷹の打った蕎麦に小さく切られてかりっと焼き上げられた鰻が載せられた白米入りのどんぶり、そして大きな急須に注がれるお水。
 蕎麦猪口には風味の良い汁が入っており、薬味は好みとして並べられ汁の中に浮かぶのは小さく砕かれた氷。
「はー‥‥生き返るわねー」
「へぇ? 冷やしうな茶? お茶漬けにする物ってあんまり思わなかったけど‥‥」
 お蕎麦の冷たい口当たりと香りに眼を細めるゼラの側では、先程のどんぶりに風味付け程度の冷たいお茶が注がれ氷が添えられるのに不思議そうに目を落とすリフィーティア。
「やっぱり鱧はうめぇな、夏だなってぇ感じがするぜ」
 嬉々として沖鷹の鱧の鮨を口に運んでは、酒が進むねぃとくぴくぴ湯飲みを傾ける嵐山。
「ふふ、水のしぶきにその涼やかさを風が運んできてくれれば、こういった熱い物も夏には良い物ですわねぇ」
「はふはふ‥‥ほくほくなの‥‥」
 こちらはこちらでお藤とお雪が沖鷹の焼いた鮎の塩焼きに何だかとっても幸せそう。
「荘吉殿はどれを食べたいでござるか?」
「その‥‥‥‥‥‥酸梅湯をいただけると‥‥」
 荘吉は余り自分からあれこれと希望を言うのはどうなんだろうかという葛藤があったようではありますが、結局負けて思わず希望を述べれば、清之輔は楽しげに白玉を小鉢へと装っていて。
「この時期は水の精霊魔法が使える人が羨ましいわね‥‥好きで選んだ道だから後悔していないけれど、この時期だけは別の道を考えてしまうわ」
 蕎麦を食べ終えそう言いながら何だか岸の方を見つめるゼラ。
「舟の辺りや水面はそうでもないけど‥‥あら、岸の方は真っ赤っか‥‥」
 どうやら陸地はそれほど暑いらしくげんなりとした表情を浮かべるゼラですが、ふと微妙な表情を浮かべてぼんやりと水面を眺めて。
「そういえば、今回は昭衛さん達が居ないのよね‥‥‥‥少し、変な気分ね‥‥‥」
 ぼんやりとしながら呟く言葉、ですが不意に首を捻り。
「‥‥‥ん?」
 自分でも何とも言えない不思議な表情を浮かべたゼラ、そこへ、どうですか? と差し出される白玉の小鉢。
「少し砂糖をかけてしまっていますけれど‥‥冷たくて気持ちいいですよ」
 そう言って隣へ失礼しますと言って腰を下ろすのは清之輔。
「あら、ありがとう。清之輔君、お久し振りね。何だかすっかり大きくなったようね」
「父上にはまだまだと言われます」
 言って白玉を並んで食べ、ほうっと息を付く2人。
「父上は取り敢えず暫く忙しかったようですが、石川島への介入を突っぱねつつ立場を維持とか何とか‥‥もう少ししたら余裕が出来るから少しだけ我慢してくれと言われました」
 そう言ってもこまめに気にかけて貰えるのが嬉しいのか、それともそう言う昭衛にすっかり懐いたのか嬉しそうな清之輔にゼラも微笑を浮かべます。
「さーってっと‥‥だいぶ涼しくなってきたし少しは気力もっと‥‥」
 そう言って立ち上がるのはリフィーティア、せせらぎの音に合わせて緩やかに涼やかに舞を始めます。
「どれ‥‥拙い演奏ではあるが‥‥」
 そう言って武兵衛が取り出す尺八、低く静かに響き渡るその音色と水音、そしてとんとんと軽やかに響く、リフィーティアの舞。
 舞が終わればいつの間にか、少し近くに居た舟からも喝采が上がり、舞という形で清しい水面や、まるで竹林の中にでも居たかのような心地好さを感じた舟の人々の笑顔。
「ふむ、こういうのも良いものだ‥‥」
 お燕がよく冷えたお酒のお酌をするのを受ける山下は舞が終わりお燕に進められる刺身を口へと運びしみじみ頷けば、ふと先程目の前にあったものではないことに気が付き問うようにお燕へと目を向けて。
 ちらりとお燕が見れば、その視線の先には釣り糸を垂れる沖鷹と比良屋の主人。
「やはりとれたての新鮮な魚は良いですねぇ‥‥釣った魚を直ぐに捌いて新鮮なままに食べる、これは贅沢です」
「‥‥旦那様は一匹も釣り上げていませんけどね」
 どうやら先程から釣り上げて捌く、そのどちらも行っているのは沖鷹だけ、比良屋主人は専ら釣り糸を垂らすだけで食べ役と入った様子。
「ふむ、通りで味が違うと思ったら」
「はい、とっても美味しいですよね♪ お陰で、先程から女将さんのお酒も進んでいるようで‥‥」
 頷いた山下に答えたお燕、ふと見れば、しみじみと武兵衛と何かを語りながらにこやかに表情も変えずにお酒を飲むお藤の姿もあり。
「お、そうだそうだ、綾藤の女将、絵でも描かせてもらえねぇかい?」
「まぁ、書いていただけるんですの? それは嬉しいですわ」
「ほれ、さらさらっと‥‥まぁ、美人画は専門じゃねぇがどうかねぃ?」
 出来上がった絵を覗き込むお藤に、先程からじっくりと、しかしかなりの量を飲み干しつつ表情一つ変わらなかった武兵衛も横からちらりと見て。
「‥‥‥嵐山殿、それでは人相書きになってしまう」
「お? ま、まぁいいじゃねぇか、近所に配れば商売繁盛になるんじゃねぇかな〜」
 笑って誤魔化す嵐山にあちこちから楽しげな笑い声が起こり。
 舟のあちらこちらで零れる笑顔。
「そうでござる、西瓜を冷やしていたでござるよ」
「わぁ、ゆき、だいすきなの」
「良いねぃ、風流だねぇっと」
 それは楽しげに上がる笑みであったり。
「まぁ、たまにはこうやってのんびりするのも良いよなと‥‥」
「酒も旨いしな、今のところ言うことはないだろう‥‥」
 自分に出来ることをしての微笑だったり、自身だけの静かな楽しみを味わっている者の笑みであったり。
「はぁ、少し楽になったわ‥‥」
「それは良かったです」
 水面に手を触れさせて話しながらの安堵の笑みであったり。
 暑い陸地から離れ、涼やかな水の上での宴は今暫くの間、心地好い涼しさと共に続くのでした。