【凶賊盗賊改方・悔恨】冬晴れの道

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月05日〜01月10日

リプレイ公開日:2008年01月20日

●オープニング

 その日、ギルド受付の青年代理・正助は呼ばれて綾藤に顔を出していました。
「なるほど、一区切りの時に先の乱が起きてしまったんですね」
 出されたお茶とお茶菓子を初めは固辞していたのですが、お藤に遠慮する方が失礼と言われてお血を啜りつつ正助が聞けば、頷くのは凶賊盗賊改方筆頭与力・津村武兵衛。
 平蔵はゆっくりと煙管を燻らせてその様子を僅かに笑みを浮かべて見ています。
「なかなかここのところは落ちつかなんだが、多少状況も変わった、せめて新年ぐらいはゆるりと過ごして貰うも悪くは無いと思うてな」
「なるほど‥‥」
「それに昭衛の奴も、綾藤へと出てきて世話になった者達に振る舞いたいと申していたそうだ」
 頷きながら筆を走らせる正助、武兵衛はその様子を見て、一段落を付いたところを見計らい続けます。
「それと、白鐘の紋左衛門殿の所でも、こちら綾藤にて新年会を行うとのことと耳にした」
「‥‥えー‥‥あの、改方に協力していただいた冒険者さん達や、同心さん達が持ち回りで来られるのは分かりました、人足寄場の方から昭衛さんとその協力していた冒険者へのお誘いも分かりました」
「何か引っかかることでも?」
「いえ、白鐘の‥‥というと、その、香具師の元締めさん、でしたよね?」
 目を白黒させている正助に煙管盆を引き寄せ、灰を捨てながら低く笑う平蔵。
「なぁに、船宿で客は普通鉢合わせをしねぇもんよ。逆に言やぁ、宴で押さえられているとしておけば、中に他の客は入って子ねぇよ」
「‥‥はぁ、つまり鉢合わせしても特に問題はないと‥‥」
「そりゃあお前ぇ、協力して仕事をしたりってぇのもあるんだぜ? 表だってやらなきゃ、だぁれも構わねぇのよ」
 平蔵の言葉に目を瞬かせながら、正助は依頼書へと目を落とすのでした。

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb1098 所所楽 石榴(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●警戒の中で
「‥‥‥少し休んだらどうかな?」
 かけられた言葉に天風誠志郎(ea8191)が振り返れば、そこにいたのはジェームス・モンド(ea3731)と時永貴由(ea2702)。
「まぁ、書類が溜まっているのはわからないでもないが、どちらかといえばそれは‥‥」
 言いかけて貴由が視線を向けた先には、満面の笑みで幸せそうな様子をまき散らしている同心の木下忠治がお饅頭をこの世の幸せとばかりに頬張る姿。
 実際のところ、忠治は悪気はなかったのでしょうが、自身の書面を移動させるときに誤って誠志郎の抱えている書類の上に上乗せしていたようで、本人はすっかりと忘れており。
 また誠志郎は処理する方に意識が回っていたため、減ったはずの書面がいつまでたっても終わっていないことに疑問は抱いていたのですが、年末の忙しさを持ち越してしまった新年にどうしても引きずられていたようで。
「おや、時永殿、良い匂いがしますなぁ」
「あぁ、良いところに木下さま。我々は呼ばれていますので、こちらの方の書面を申し訳ないが引き受けて頂きたく」
 貴由が持つお重に食べ物の匂いを嗅ぎつけていた様子の忠治が笑みを浮かべて寄ってくれば、あえて笑みを浮かべて言う貴由に目を落とす忠治、そしてそこの書面が自身の仕事であることに気がついて、たははと情けない笑みを浮かべてごにょごにょ言葉を濁します。
「ところで、そういえばその包みは?」
 天国から地獄、お仕事を思い出した忠治が泣く泣く文机に向かったのを見てから席を立った誠志郎が首を傾げれば頷きつつ言う貴由。
「さっき綾藤で羽澄や舞さん、茉織と用意したお節で‥‥」
「御神村殿か? 久しいが本日は来られたのか?」
「ん‥‥ここのところの不在を少し気にしているようだが」
 名を聞いて僅かに笑みを浮かべて言う誠志郎に答える貴由、モンドはにかっと笑って口を開いて。
「あまり気にすることでもないと思うがな。乱もあったしいつもいつもいられるわけでもあるまい」
「御頭も久々に皆の顔が見られてさぞや喜ばれることだろう。それでは、そのお節は差し入れ、か?」
「ああ、これは役宅への差し入れの分でこれから久栄様にと。羽澄はとりあえずお節を持って寄場に向かっている。なんでも、餅搗き大会があるのだとか」
 なるほど、頷いて誠志郎は手土産を買ってから行くとのことで先に役宅を出、貴由とモンドは久栄の元へと向かいます。
「うんっ、役宅の護りは大丈夫そうだねっ?」
「そうですね、周囲の様子も確認しましたが今のところ、前回以上に警戒する必要はないようですし」
 所所楽石榴(eb1098)が首を軽く傾げて笑えば、微笑を浮かべて頷くのはレヴィン・グリーン(eb0939)。
 二人は周囲の状況などを警戒し確認していたようで、何の憂いもなしに新年会に参加できる状況であることを確かめられたよう。
「おさえさんには後で挨拶にいきたいなっ」
「そうですね、新年会の後、一緒に伺いましょうね」
 仲睦まじく言葉を交わしながら役宅を出る二人は、のんびりとした様子で綾藤の方へと歩を進めるのでした。
「お? あれは‥‥」
 御神村茉織(ea4653)が包みを手に待ち合わせをしている場所で待っていれば、男の子と女の子を引き連れて歩くサラ・ヴォルケイトス(eb0993)の姿に目を向けます。
「あ、御神村さん、やっほー」
 サラも気がついて声をかければ、サラに追いついてぺこりと頭を下げる子供たちは鶴吉少年と美名。
「これからあたし達、差し入れの御餅持って行くんだけど、御神村さんは行かないの?」
「ん? ‥‥あぁ、待ち合わせをな。一応気ぃつけていけよ」
 微苦笑を浮かべ言う御神村に頷いて、にこにこと楽しげに鶴吉と美名と歩き去るサラを見送れば、そこに歩み寄るのは逢莉笛舞(ea6780)。
「密偵の方々は綾藤に詰めている者以外は今の件が終わったら、代替えにぱっとやることになるそうだ」
「そうか‥‥まぁ、仕方ねぇな。時期が時期だろうしと」
「差し入れは喜ばれたが。あれを肴にちびちび酒を楽しむことにするそうだ」
 なるほど、と御神村が頷けば、そこへ合流する貴由。
「奥方様も屋敷の者と味わうと。では、そろそろ向かおうか」
 伝えてからにこりと笑って歩き出す貴由に御神村と舞はその後を追うように綾藤へと向かうのでした。

●宴会の席で
「これは白鐘の親分に昭衛殿、久方振りにございます」
「いや、其方も息災で何より」
「うちの例から聞いてはいましたがね、こうして皆さんお元気な姿を目にできるのは何よりのこと」
 誠志郎が言えば石川島人足寄場の責任者・彦坂昭衛は頷き、白鐘の紋左衛門は穏やかそうな顔に笑みを浮かべ頷きます。
「それにしても、改めて‥‥ご無事で何よりでした。行方知らずと聞き、生きた心地も‥‥」
「まぁ、そう責めるな。いきなりおっ始まっちまった戦に駆り出されたんだ、勘弁してくれ、な」
 貴由が心配そうに言えば、平蔵はまいったなとばかりに救いを求める視線を御神村に向けて。
「最近ごく潰ししてた身としては、同意を求められても困るってぇもんなんですがね。ま、心配掛けた分くれぇ、聞くしかないんじゃねぇかなと」
「それにしても、本当に復帰おめでとう。また今年もよろしく」
 舞が徳利を出せばそれを受ける盃に注がれる酒、御神村は平蔵の前にお十を出してから、少しばつが悪そうに頬を掻き。
「ま、おひとつ‥‥それにしても、近頃働いていなかった身としちゃ、ここに居て良いもんかと‥‥どうにも居心地が」
「そいつぁ違ぇぞ、御神村。確かにまぁ、今も事件は抱えちゃいる。だがなぁ、こりゃ、その前に凶賊達相手に無茶ぁさせた皆への、詫びの一つでもあり、感謝の形でもあり‥‥そして皆にとっても、一つの区切りよ」
「それ言ったら、あたしもここのところずーっとのんびりしてたし。あ、おいしそー、一つもらうね♪」
 ひょこっと顔を覗かせたサラが言ってお重から出しまきを一つとってぱくりと食べてにっこり。
「無理するこっちゃねぇが、一緒に酒をのんびり呑みてぇのもいるんだ、ま、ゆっくりしてけ」
 緩やかに笑う平蔵が指示せば、すでに一角にお酒を用意して待っている貴由と舞の姿、そして平蔵が小声で付け足します。
「まぁた大人しくしていろってぇ泣かれんのも堪らねぇ、ちょいとぐれぇ、引き受けちゃくれねぇか」
 その言葉に御神村が微苦笑を浮かべれば、平蔵は軽く盃を掲げて見せるのでした。
「あ、さて‥‥レーラ殿の手品に続いては、折角の目出度い席、ちと余興をさせてもらいましょうかな」
 賑やかなレーラの手品が終われば、次はほろ酔いの良い加減になったモンドが立ち上がります。
「古今東西愉快なものは数あれど‥‥‥あほれ、おかめに、ひょっとこ‥‥」
 てけてけと流れる三味線はどうやらお藤のよう、リーゼの横笛も入り、それに合わせてひょこひょこ踊るモンドは手ぬぐいを軽くかぶるように見せて、くるりと回れば顔はおかめからひょっとこへ。
「あいや、折角の目出度い日なれば、ここは目出度く七福神」
 手拭を手にするりと撫でる度に入れ替わる福の神の顔に、一同大いに盛り上がり。
 気がつけばあちらこちらで杯を手に、思い思いの者たちと賑やかな宴へと移り変わっていきます。
「んー、なんっか色々と大人の女性って感じがより一層してるような気がするなぁ‥‥」
「? 何が?」
 仲良くお手球などを始める鶴吉と美名を横目に、姉のリーゼと話すサラは、怪訝そうな表情で首を傾げて言い、リーゼは何を指しているのだろうかとこちらも首を傾げ反し。
「後で初詣に行こう」
「それは良いな。もちろん茉織もね」
「確定なのか。まぁ良いけどな」
 気心の良く知れた舞と貴由、それに茉織は静かに酒を酌み交わしつつ、その後の予定を話し合い。
「いろいろと骨を折って貰ったからな。今日ぐらいはゆっくりと楽しんでくれ」
「へ、こりゃぁありがてぇ。頂きやす」
 孫次も綾藤の船頭仕事を他の者が引き受けてくれるとのことで宴に加わり、誠志郎が酒を注ぐのににやりと笑ってくっと一気に飲み干して。
「いやほんと、今じゃこいつと御役目が、一番の楽しみでさ」
「頼もしいな。今年も世話をかけるが宜しく頼むぞ」
「へぇ、任せておくんなせぇ」
 にんまり笑う孫次に、頼もしいとばかりにさらに酒を勧めるモンド、それを笑いながら見つつ、時折昭衛や紋左衛門と言葉を交わす平蔵は、どうやら紋左衛門とは旧知の仲だったようで、そのことで昭衛が目を瞬かせてみたり。
「では、一指し」
 宴が少し落ち着いたところで、舞師である石榴が扇を手にすと前へと出れば、わっと上がる歓声。
 リーゼが直ぐに笛を手に取り、ゆったりと流れる音色に静まる宴席、能を思わせる緩やかな、それで居て艶やかな舞に、ほうと周囲からも溜息が漏れ聞こえます。
 舞を終えてつと頭を下げればわっと盛り上がるのは祝いの言葉と、感嘆の声です。
「んーっ、大丈夫、かなっ?」
「ええ、妙な動きは何も‥‥ですから、石榴さんももう少しゆっくりと休まれて大丈夫ですよ」
 舞を終え暫くして、石榴は窓辺でレヴィンと微笑を交わしていました。
 先ほどからレヴィンは定期的に綾藤の周囲の状況にも気を配っているようで、安全と確信が持てれば、石榴へと微笑みかけてゆっくりとするように告げて。
「でも、平蔵さんも無事に見つかったし、あと一踏ん張り、だねっ」
 にこりと笑いかける石榴に同意を込めて頷くレヴィンは、せめて肩でもなどと石榴のために何かをしてあげたい様子。
 楽しげで穏やかな時間は、この夫婦の間にもゆっくりと流れていくのでした。

●穏やかな冬晴れの中を
「良く晴れて良かったわね」
 羽澄が笑えば、貴由と舞も頷き。
 吐く息は白く肌寒くはありますが、心地好い冬晴れの空の下を羽澄と貴由に舞、そしてその3人の女性に囲まれるような形で歩く御神村の姿が参拝道の中にありました。
 流石に一番混み合うような時間は過ぎたのか、いつもよりは多めの参拝客が破魔矢や御札を手に楽しげに笑いながら行き交うのは、何だか心穏やかになるのんびりとしたお正月の光景。
「しっかし、両手に華どころか、だな」
 そんなことを言う御神村に笑う女性陣、面白いことに皆が願う願いが揃って、仲間達の無事や町の平穏など。
「今年は2人とも新年早々だが大仕事がまだ残ってるんだろ? 十分気を付けろよ」
 御神村が口を開けば貴由と舞は表情を引き締めて頷いて、羽澄もその事は気がかりだったのか、後でお守りでも買って帰りましょう、など話したり。
 少しだけ蔭りの出た会話もお堂に近付けば直ぐにお賽銭を用意して笑みを顔に浮かべる一行は、新年の穏やかな時間を、大切な仲間と共に過ごすのでした。
 社務所で御神籤を引いて一喜一憂している4人の姿を目にしてにと笑みを浮かべるのはモンド。
 モンドもお参りへとやって来たようで、擦れ違い歩いていく姿を見ながら本堂へと辿り着き。
「郷によれば郷に従え‥‥これくらいはタロン神もお許しになるだろう」
 にっと笑い祈るは事件の無事解決に家族や皆の健康、そして何より世の情勢不安が一日も早く回復すること。
「ま、詣でる人々のうちのどれぐらいが同じ事を考えるか‥‥存外同じ願いにこのお堂の中の方も驚かれていよう」
 何処か楽しげに笑いながら、モンドは神社と後にし、寺の方へと足を進めるのでした。
「‥‥今年も石榴さんや改方の皆さん達、動物さん達が平和で健やかにありますように‥‥」
「?」
 小さなレヴィンの呟きに不思議そうに首を傾げた石榴、レヴィンは大いなる父への祈りを捧げていたようで。
 レヴィンは石榴へと微笑みかけるとのんびりと、周囲に警戒は続けながらではありますが、庄五郎の飯屋へと足を向けていました。
「おや、これはご夫婦揃って良くおいで下さいました」
 飯屋の客のような様子で中へと入った2人を座敷へと勧めれば、直ぐにお茶を手に嬉しげに出て来るのはおさえです。
「あらあら、二人とも元気そうで。今年も、どうか宜しくお願いします」
「おさえさん、今年も宜しくお願いします、だよっ」
 おさえはと言えば、まるで娘夫婦が訪ねてきたかのような喜びようで、年越しも大変なりに楽しく過ごしたことなど楽しげに言葉を交わして、我が家と思ってゆっくりと指定って欲しいと2人に告げて。
 嬉しげに笑う石榴に笑みを浮かべて頷き返すレヴィン。
 2人は庄五郎の飯屋で、暫くの間のんびり穏やかに過ごすのでした。
「さーって、初詣ーっ!」
 元気な声で役宅の廊下をぱたぱた走るのはサラで、その後をついて走っていた美名と鶴吉がふととある部屋の前で立ち止まり。
 そこには詰まれた書面を前に、額に手を当てて深く溜息をつきながら筆を走らせる誠志郎と、申し訳なさそうに顔色を伺いつつ筆を持つ忠次の姿があり、サラも不思議そうに戻ってきて覗き込みます。
「あれ? 誠志郎さん、初詣行かないの?」
「‥‥‥‥当分行けなそうだ、かわりに俺の分も詣でておいてくれ」
「‥‥お参りって、代わりに出来るものなのかな? まぁいっか、じゃあいってきまーす」
 ぱたぱた歩き去る3つの足音を耳にしながら、誠志郎は再び深く溜息をつき、忠次は困ったように天上を仰ぎ見ているのでした。
 そして、とある寺の、改方同心達の墓の前。
 そこには幾つも花が添えられ、真新しいお線香の煙が立ち上ります。
 澄み渡った空にゆっくりと立ち上るお線香の煙と花々は、この日絶えることはないのでした。