【凶賊盗賊改方・悔恨】灼熱の道
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■シリーズシナリオ担当：想夢公司 対応レベル：11〜ｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：9 G 4 C 参加人数：8人 サポート参加人数：-人 冒険期間：04月05日〜04月10日 リプレイ公開日：2007年04月17日 |
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●オープニング
「さて、急を要する状況となってな」そう言いながら座るように受付の青年を促すのは凶賊盗賊改方長官・長谷川平蔵。
その日、綾藤に呼ばれた受付の青年は、呼びに来た忠次の只ならぬ表情から見ても何か大事が起こったと思い、取る物も取り敢えず、仕事道具の包みだけ抱えて飛んでやって来た次第です。
「それで、その、急を要する事態とは‥‥」
おずおずと切り出す受付の青年に、年を追う事に穏やかな風貌となっていた平蔵は、ぎっと鋭く一点を睨め付けながら煙管を燻らせ、やがてゆっくりと紫煙を燻らすと、煙管盆を引き寄せ。
「先の‥‥大火を憶えておるか？」
「そ、そりゃ‥‥あれは忘れたくったって忘れられませんよ」
「この先、この平蔵が恨みであれほどとは行かずとも、方々に火を放たれたと知れば、何と思う？」
「‥‥へ‥‥？」
予想もしなかった言葉に口をあんぐりと開けて平蔵を見る受付の青年。
しばしの沈黙の後に、小さく唾を飲み込んでから、再び口を開く受付の青年。
「‥‥火付けが、あるんですか‥‥？」
「勝次郎がぽろりと吐いてな」
低くほろ苦く笑う平蔵、煙管の灰を落とし袂へとしまうと、緩く息を吐いた平蔵の姿が妙に小さく見えます。
「恨みや気にいらねぇってなぁ、手前ぇに返ってくるにゃ幾らでもかかってきやがれたぁ思うが、何の罪もねぇ大事なもんを狙われちゃぁ、人間弱ぇもんよ」
恐らくはそれは、冒険者である一行に対しても向けられている悪意であるからでしょう、緩く再び気を吐くと、ぎりっと唇を噛みしめる平蔵。
「だが、それなら尚のこと、加減はいらん。その様なことを企て罪もない者を泣かせるような悪党は、産まれてきたことをも後悔させてやるまで」
再び煙管に煙草を詰め、只静かにそう呟く平蔵に、小さく身体を震わせる受付の青年は、平蔵の次の言葉を只じっと待ちます。
「すまねぇな‥‥きゃつ等にそれぞれの素性が割れているかと言えば、割れている者も割れておらぬ者も居よう。が、改方に関わったが故に、今仕事を受ければ捜査の間も狙われ危険が及ぶやもしれん」
煙草を詰めるも火の付けられない煙管を手の中に納めながら口を開く平蔵。
「だが、その危険を鑑みても、力を貸して貰いたく。俺と共に賊や愚か者の企てを挫くためにも、宜しく頼みたい」
平蔵の言葉に受付の青年は、我知らずに小さく頷いているのでした。
「では、どのように依頼として受ければ良いでしょうか？」
「うむ、勝次郎が語った内容によるとそれぞれが直接顔を合わせねぇで、一斉に示し合わせた刻限に火付けを行うこととなっていたようだ、が‥‥」
「が‥‥？ 何か、他にもあるんですか？」
「井綱の仙助が盗めを行わないわけがない。ここで恐ろしいのが、先にやって待つか、他の火付けに紛れて盗みを行うかがわからねぇことだ」
「それは‥‥確かに、どちらを選ぶか分からないのは恐ろしいですね」
平蔵の言葉にやや青ざめながら頷く受付の青年。
「今分かっているのが三カ所、どこに火を付けるかのみだ。それ以外の情報は各組によって持ちうる情報も違うであろう」
「そ、それで‥‥」
どこに、と言葉が続かずに途切れさせる受付の青年に、頷いて口を開く平蔵。
「１つは石川島・人足寄場‥‥これは今は昭衛が受け持っておるが、俺が進言で出来たもの故だそうだ」
「１つは石川島‥‥」
「今１つは、凶賊盗賊改方の本拠である、役宅」
「や‥‥役宅を‥‥でも、警備が厳重で‥‥」
「それ故、策を弄しておるのであろう」
「‥‥」
あまりのことに言葉も出ない受付の青年に茶でも飲めと微苦笑を浮かべ言う平蔵は、茶を飲んで少し落ち着いた様子を見せる受付の青年に続けます。
「そして今１つは大店‥‥油問屋『菱屋』」
「菱屋って、前に火立の為吉に‥‥っ！」
「一度それを回避した故、警戒も僅かに薄かろう。それに、近いうちに孫娘の祝いがあるそうだ」
「井綱の仙助は、祝いの日の夜を狙って押し入る、でしたよね‥‥」
「俺の家と古い付き合いもある。どれもこれも、嫌と言うほどに顔を覚え込んだ馴染みの者ばかりだ」
だから狙われたのであろう、悔しさも悲しさをも滲ませた声音で呟く平蔵は、一つ息を吐いて続けます。
「分かっているのは狙われている場所と、関わっている者数名のことのみだ。困難な探索となるであろうが、各組とも良く連係を取り当たって貰いたい。‥‥宜しくたのむ」
自分らも狙われる対象であろう冒険者一行に頼むのに苦悩を滲ませながらも、平蔵は改めて受付の青年へとそう伝えるのでした。
●今回の参加者
ea2702 時永 貴由（33歳・♀・忍者・人間・ジャパン）ea3731 ジェームス・モンド（56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国）
ea4653 御神村 茉織（38歳・♂・忍者・人間・ジャパン）
ea6780 逢莉笛 舞（37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン）
ea8191 天風 誠志郎（33歳・♂・侍・人間・ジャパン）
eb0939 レヴィン・グリーン（32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国）
eb0993 サラ・ヴォルケイトス（31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国）
eb1098 所所楽 石榴（30歳・♀・忍者・人間・ジャパン）
●リプレイ本文
●それぞれの役目「では、役宅の事、頼んだぞ」
天風誠志郎（ea8191）が同僚である同心たちに声をかければ、頷き返す男たち、その中には先日負傷し、療養から戻った伊勢の姿もあります。
誠志郎は平蔵より渡された、平蔵本人愛用の十手の複製品をジェームス・モンド（ea3731）と共に受け取り、一足先に菱屋へと向かい事情を説明するようで。
「長谷川様、みなまで言わなくとも私は貴方様と貴方様が大切にしている方々を護る為におります」
時永貴由（ea2702）が言えば頷いてみせる平蔵は、最後の一振りである十手を取り出して。
「こいつぁお前ぇにゃ重すぎるかもしれねぇが、お守りみてぇなもんだ、持っていけ」
ずっしりと重いそれは、平蔵が身につけている品と同じもので。
「長谷川様‥‥貴方様がお辛い顔をなさっては私も辛いです。最後は皆で笑い合いましょう」
微笑を浮かべて頷いてみせる貴由に平蔵もにと笑みを浮かべて返し。
貴由は江熊の邦市の尾行へと回るため、十手を押し抱いて密偵達の元へと足を向けるのでした。
「それにしても恨みの矛先を近しい者に向けようとは許せん所業‥‥長谷川殿の心中を考えると、このモンドも腸が煮えくりますぞ」
「悪党が何を企もうと阻止だ。長谷川殿、悪党の目論見は必ず潰してみせる」
モンドが言えば、逢莉笛舞（ea6780）もぽんと肩に手を置いて力強く頷き。
「苦労をかけるが、宜しく頼むぞ」
「なに、なぁに、力併せりゃ賊になんざ屈しやせんぜ」
ちょうど密偵の利吉や孫次と確認を取っていた御神村茉織（ea4653）も笑みを浮かべて平蔵へと言い、平蔵の口元に笑みが浮かぶのを見つつ探索へと出かけていくようで。
「では、私は取り調べの立ち会いに向かいますが‥‥」
「うんっ、十分気をつけるから、平気だよっ？」
レヴィン・グリーン（eb0939）が話ながらやって来れば、相手は奥様である所所楽石榴（eb1098）で、石榴は改方の羽織を身につけ少し離れたところに孫次さんとか交代でついてくれるっていうしっとにっこり笑顔で答えていて。
「それにおさえさんも繋ぎに出てくれてるからっ♪」
笑う石榴に元気が良いなと低く笑う平蔵、石榴は頷いて平蔵にきっぱりと言い放つ言葉。
「関わった事を後悔なんてしない、僕の意思でやってきたことだもの、胸をはれるよっ！ だから、安心して僕たちに任せてっ！」
「正直やる事なすこともりだくさーん、助けてーって思う、けど、あたしは美名ちゃんや鶴吉君が悲しむのを見たくないから‥‥みんな同じだと思う」
元気よく立ち去る石榴を見送るレヴィンと平蔵に、それまで縄と石を使い何やら作っていたサラ・ヴォルケイトス（eb0993）がにまっと笑って顔を上げて。
役宅の守りは憂愁組と同心たちに任せられ、一行はそれぞればらばらに目的地へと向かいます。
「‥‥左様にございますか‥‥お心遣い感謝したします。皆様に来ていただけるのでしたらば、私どもも安心していられます」
そう言って頭を下げる油問屋『菱屋』の主人は誠志郎の説明に少し驚いたように眉を上げますが、やがてゆったりと穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、お店の内部を説明しながら案内し、客間の用意など直ぐに手配をしてくれます。
「おや、天風さん、白鐘の親分から借りてきた人たちはちょっと離れたところで話が付くまで待機してくれているよ」
一通り見て回ってきた誠志郎を見つけて声をかけるのは風斬で、どうやら氷川率いる白鐘の手勢は堅気である油問屋のことを考えて、周囲を守る形で居るようで。
「後で上手く連絡が取れるように手配しておこう」
誠志郎の言葉に風斬が頷いて返してすと、風斬は氷川の元へと戻るのでした。
●凶賊達の居場所
改方の羽織を身に付け颯爽と街を行く石榴は、改方の人間が羽織を身に付けて野場合お役目で郊外や遠出を、そして捕り物の時に身に付けることを良く理解した上で町中を行き、どこからか感じる、町の人とは違う視線を受け流していました。
改方の馴染みの酒屋へと足を運び一息つかせて貰う石榴に、すっかりと付近の百姓家からやって来たしか見えない風体の中年女・密偵のおさえが裏から入ってくればどう金尾t、小さく照れたように見せる石榴。
「こんな危険なお役目に‥‥ちゃんとみんなで見ているから‥‥怪我一つさせないからね、絶対に」
「大丈夫っ、僕はシノビだけど、忍ばず‥‥姿を現す事を方針としてきた。だから、本領発揮なんだよっ♪」
でもありがとう、小さく笑って言う石榴に、おさえは心配そうにではありますがレヴィンの取り調べで掴んだ情報や舞が聞きつけてきたことを伝え、また後を尾けている人間の特徴や様子を伝えて。
石榴とおさえは情報確認と連絡を済ませると、再び互いにばらばらに酒屋を出て町中を歩くのでした。
「‥‥江熊が‥‥」
「あぁ、繋ぎを付けに来たんだろうな」
貴由が身を潜めて言えば、その姿が陰になるよう手前の店先を覗き込みつつ言う御神村。
采庵が身を寄せる寺の側にある茶屋は混み合っていて、そのに時折ちらりちらりと辺りに目を向ける邦市と悠然と茶を啜りつつ何事かを促している采庵の姿があります。
「‥‥で、予定に代わりはないであろうな？」
「へ‥‥へぇ、次お会いするのは、お手はず通りの‥‥」
「うむ‥‥」
途切れ途切れに聞き取れる言葉、どうやらお盗め前の繋ぎは今回で終わりのよう、一瞬目を見合わせて頷く御神村と貴由。
「それにしても、色々と探りをかけている様子の女がいまして‥‥」
「女？」
「うちの手の者で色々と調べさせて居るんですが、何を探っていやがるのか‥‥気味の悪ぃ大蛇まで出やがるし‥‥」
石榴とモンドのことを言っているのを理解する御神村に、そちらへ目が移っていて、改方の対策の方にまで目がいっていない様子に気がついてちらりと御神村を見る貴由。
やがて店を出る２人を追って貴由は邦市を、御神村は采庵の後を追い。
貴由はどこか落ち着き無く歩く邦市を見ながら僅かに怪訝な表情を見せてその様子を窺います。
「畜生‥‥肝心なときに伝太郎の野郎、勝次郎を‥‥」
ぶつぶつ小さく呟く邦市に注意深く後を尾ける貴由ですが、やがて邦市が入っていくのは郊外の建物で、そこには仙助一味の１人が住んでいると御神村が探ってきた場所。
「あ‥‥邦いっさん‥‥こりゃ、お頭は‥‥」
「お頭とは明日、な‥‥」
「当日までお会い出来ねぇって、今回の大仕事のの前のちぃせぇ仕事の時もそうでしたが、いってぇ何をそんなに‥‥」
「我々には鬼だかなんだかよく分からないけどね、火立ちのが捕まったってぇのを考えて念のためと思っているようでな‥‥あのお頭が言うんだ、おめぇらは黙って言うこと聞いてりゃ、良い目を見られるんだぜ？」
「でも、邦いっさん、あれだけの大店ってなって、しかも金蔵がそんな離れちゃいねぇんだ、こりゃ下手すりゃ皆殺しってなりかねねぇぜ」
「ならそれをすりゃあ良いだろう、なに、酔っぱらいや女子供だけだ、たいした仕事でもねぇさ」
そっと身を潜めて聞いていた貴由は小さく唇を噛んで。
押し込み前に邦市が仙助に接触しないのを理解すれば、菱屋を守るため、貴由は踵を返してその場を去るのでした。
「‥‥彼奴、相当腕が立ちやがる‥‥」
小さく口の中で呟いて慎重に歩を進めるのは御神村、御神村は采庵を追っていましたが、采庵の様子を窺っていて一つ気がついたことが。
「腕は立つが、やっとうの方だけか‥‥？」
とはいえ腕が立つと言うことはそれなりに感覚も研ぎ澄まされている者が多いのも事実、それだけに慎重に途中で合流した庄五郎と上手く距離を測りながら後を尾けていて。
やがて戻るのはやはりとある寺、そこの寺自体は改方の調べで幾らか貰って間借りさせているお医者様が居る、となっているそうで。
「仙助の居場所が分からねぇ限り、菱屋で待ち受けるしかねぇようだな」
参ったなとばかりに軽く頭を掻くと、見張りをしている同心達の元に庄五郎を預けて引き返す御神村。
そして同じ頃、舞も慎重に息を殺してとある一角を注意深く探っていました。
それは麻目の玄三の居場所。
麻目の玄三が消えれば、その分襲撃の手は緩むと読んだ憂愁組。
既に勝次郎からの情報で伝太郎からの最終連絡は麻目に伝えられており、決行予定に個々が割り当て通りに動くはずだったのを聞き出してるため、麻目の一味を取り逃がしさえしなければ有利に事を進められるからです。
「どうだった？」
「どうやら麻目は１人、二階で寝起きしているらしい」
「こちらの見る限りでは、出入りは極端に少ないのだが」
そっと戻ってきた嵐童に舞が声をかければ、内部を探ってきた様子の嵐童。
「一階に１０と‥‥２、３人‥‥食料もそれなりにあるようだ」
「ならば一味は揃っているのかも知れないな」
勝次郎から聞き出していて聞いていた、おおよその人数を頭の中で反芻しながら答える舞。
「何にせよ、一つ奴らの先を押さえることが出来そうだ」
言って頷くと舞は役宅へ、嵐童は綾藤へと情報を伝えにその場を立ち去るのでした。
●決意の夜
麻目の玄三を憂愁組と同心、白鐘の手の者が押さえに言った、襲撃の前日の夜。
「折角の美しい髪だってのに、勿体ないねぇ‥‥」
そう言いながら石榴の髪を梳るのはおさえ。
「うん、でも‥‥これからの目標のためには、この長さは都合が悪いから‥‥だから区切りと、けじめをね」
小さく笑んで答える石榴はどこか照れたように言うと、おさえは少し躊躇いを見せながらその髪へと刃を当てて。
ぱさりと落ちる艶やかな髪をそっと束ねて一つに纏めると、大切に包んで石榴へとおさえは差し出し。
「どう、かなっ？」
「うん、髪は少し短くなっちまったが、これはこれで‥‥やっぱり別嬪さんは違うのかねぇ」
笑いを漏らして石榴の髪を束ねて結い上げるおさえですが、結い上げた後、袖で目元を軽く押さえて。
「？」
「いやいや、あたしも頑張らないとねと思ったのさ」
まるで娘を見るかのように僅かに赤くなった目で微笑むおさえに、石榴もどこか照れくさそうに笑って頷くのでした。
●菱屋の攻防
ひらりと塀を上がり門を開けた小柄な男と、菱屋の裏戸が開かれるのを待ち構える一団が闇の中に浮かび上がり、薄く開かれた戸にするりと入り込んだその陰がぐるりと庭を見渡した、その時。
「井綱の仙助‥‥わざわざ鬼の刃を受けに来たか？」
上がる声と共に一斉に向けられる灯り、下がろうにも戸の向こう側から突進してきた男達に庭の中へと追いやられることとなった男達はぎりと歯ぎしりをして。
「貴様が鬼の平蔵とやらか！？」
「‥‥残念であったな、お頭は役宅でお仲間を待ち構えている」
裏戸を白鐘の一行に塞がれた井綱一味、声を上げた男が漸く明るさに慣れた目を向ければ、そこに立って居たのは誠志郎とモンド。
「ある時は片眼の老人、またある時は屋根上の渡り鳥‥‥お前らの動き、このモンドにはバッチリ筒抜けだ」
「てっ‥‥手前ぇは色々嗅ぎ回ってやがった‥‥」
「今日ばかりはお前らの卑劣さに、この場で即座に斬って捨てたい気分だ、死にたくなくば大人しくお縄に付け！」
一味の１人が言いかける言葉をぴしゃりと切って返すモンドにわなわな震え始める仙助。
「ここまでこけにされたなぁ初めてだっ！ 先生、思う存分斬り殺して構いませんぜ！ この際金は後回しだ、とっとと燃やしちまえっ！」
一斉に抜き放たれる刀や匕首、瞬く間に上がる血飛沫。
「采庵は１人で挑むなっ！ 複数で当たれっ！」
辛うじて深手を避けた白鐘の手下を助けて裏戸の前に立ちはだかる御神村、そこに助太刀として現れるのはモンドと石榴。
「どけ、女！」
裂帛の気合いと共に繰り出される一刀、しかしそれは石榴の身体にかすることもなく。
「扇舞は戦舞で扇武だからねっ♪」
軽やかに舞うように避ける石榴ですが、采庵自身も御神村とモンドの刀をかいくぐり一進一退。
采庵が３人を相手に火花を散らしている側、塀に油の袋と燧石を取り出した男ですが、不意に頭から被せられる冷水に飛び上がる男ですが、即座に叩き込まれた当て身に崩れ落ちて。
「折角の目出度き日、台無しにしては可哀相だろう」
空いた桶を手に言う貴由。
「あれは‥‥逃がすわけにはいかないのですっ！」
必死の思いで裏の戸に突進突き倒して飛び出したのは邦市ですが、踏み入れたところにあがる電撃、そしてレヴィンの放つ雷撃が一直線に邦市を捕らえ。
「うわ‥‥」
邦市が突破しかけた戸から逃げようという男達は、足に絡みついた何かに面白いように転がって。
「逃がすわけ無いでしょー。ちょっと都合良すぎるんじゃないかなーっと」
にっこり笑いながら声をかけるサラの手には、役宅で作っていた縄の両端に石を括り付けた投擲武器。
その横を通り抜けていこうという輩は壁に叩き付けられもんどりを打って倒れて。
氷川が白鐘の手の者を指揮して逃げようとする者を文字通り動けなくして捕まえていたようで。
「さて、ここまでやっておいて頭自ら逃げるのはどうだろうな」
「くっ‥‥」
仙助が他の者が捕まる隙をついて逃れようとしますが、そこに立ちはだかった舞に、後ろから追いつく誠志郎。
「く‥‥」
その様子に気が付いた采庵が仙助へと寄ろうとしますが、石榴が道を譲るはずもなく、モンドの打ち込む一撃をぎりぎり身を捩って受け止めた采庵に振り下ろされる御神村の刀。
「お前を助けてくれる采庵はあそこで取り押さえられた。諦めるのだな」
「くっ‥‥どけぇえっ！！」
思いの外に素早い一撃を受け止める舞に、柄で殴りつけて仙助を誠志郎が押さえ込めば、一味の者達も白鐘の手助けなどもあり、残らず捕らえられたのでした。
●一時の安息
「皆、ようやってくれたな」
役宅、引っ立てられた仙助一味と麻目の玄三一味、泥丹の明造他香具師達など、牢に入りきらないものは町奉行でも預かって貰い、漸く一息となった一行。
菱屋からの差し入れの料理や酒、お茶や菓子などを味わいながら言葉を交わして。
「目指されるその先にあるものへの想いは私も同じですから‥‥」
「‥‥うんっ」
お茶を頂き話していたレヴィンと石榴の夫婦は髪のことが話題となると微笑み頷き合って。
「皆無事だった？ よかった‥‥ひと段落ついたよ。これで心配しなくてもよいからね」
サラは大切な江戸の家族達が巻き込まれず無事でいたことに喜びを表し。
「しかし何処にも被害らしい被害も出ずに良かった」
「誠に‥‥しかし恐ろしい相手でしたな」
誠志郎がしみじみ言えば頷くモンド、采庵を思い出し肩を竦める御神村に酒の入った杯を傾けつつ小さく首を傾げる舞。
「本当に皆様がご無事で‥‥」
「うむ‥‥ようやってくれた」
平蔵へ酌をしながらほう方と息をつく貴由に優しげな眼差しで頷き返す平蔵。
捕り物を終えた一時はそんな風に穏やかに過ぎてゆくのでした。
