【華の乱】留守の勤め・追 其の四

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 86 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月18日〜10月25日

リプレイ公開日:2007年11月03日

●オープニング

 凶賊盗賊改方に呼ばれていた受付の青年は、平蔵からの便りと現状の平蔵の状況・牢内に留め置かれた女の話の依頼を依頼書へと書き付けてから、改めて久栄と武兵衛へと向き直りました。
「それで‥‥もう一組には‥‥」
「うむ、夜鷹のお梶と、お梶の元へ身を寄せている剛蔵の後を探り、出来れば、と思う手居るのだが‥‥」
 そう言って話し始めた武兵衛。
 お梶は今までと変わらず客を取って稼いだ金で剛蔵をせっせと養い、それを張っていた同心達は動きもないままに、お梶の家でじっと身を潜めている剛蔵との根気比べの様相を呈していました。
 もっとも、剛蔵が張られていて身を潜めているのか用心のために身を潜めているのかは分からないそうで。
「しかし、少々妙な動きをお梶が始めてな」
「妙な動き‥‥ですか?」
 怪訝そうに首を傾げる受付の青年に武兵衛が頷けば、久栄も口を開いて。
「江戸より出て直ぐに林がございまする。そこに本当に小さなお堂が有るのですが、その傍らにお地蔵様が安置された祠が‥‥」
「祠‥‥‥‥あぁ、確かにあった気がしますね」
 うろ覚えの知識を探りつつ頷く受付の青年に微笑を浮かべる久栄。
「お梶は日中、そこに2日と開けずに出かけていっては饅頭を供えるようになってな」
「まぁ、お地蔵様にお供えでお饅頭は別に‥‥」
 首を傾げる受付の青年ですが、小さく息を吐いて首を振る武兵衛。
「最初の日は1つ‥‥それ以降、2つを置いては拝むようでもなくその場を立ち去るそうでな。それと同時にお梶に幾度となく客では無くに接触をしていた男達の姿が、ぱったりと途絶えた」
「‥‥‥‥なにかの合図、と言うことですか?」
「ではないかと思うておる。今までは、話の内容は窺えなんだが仲介して幾ばくか手に入れていたようでな、お梶は。すっかりとふて腐れながら地蔵に饅頭を供えている様は流石に異様であろう?」
 武兵衛がそう言えば、想像してか苦笑する受付の青年。
「では‥‥」
「こちらはお梶と連絡を付けている者達の情報と、剛蔵について。密偵達を危険に晒すわけにも行かずに派手に何かを仕掛けるわけにもいかなんだが、お梶に動きがあったとすれば、何かがあったのだ」
 武兵衛の言葉に唾を飲み込むと依頼書へと受付の青年は筆を走らせて口を開きます。
「では、こちらはお梶と剛蔵の動き、それとお梶に接触して来ていた男達の背後を探る、ですね」
「苦労をかけますが、くれぐれも気を付け、此度の捜査に当たって貰えますよう、宜しく頼みまする」
 久栄は気遣うように僅かに表情を曇らせて念を押すのでした。

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea7755 音無 藤丸(50歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2413 聰 暁竜(40歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

九十九 刹那(eb1044

●リプレイ本文

●潜む獣
 そこはお梶の住む長屋から、ほんの少しだけ先にある小さな小間物屋の二階。
「‥‥気取られては本末転倒だからな」
 近付き過ぎないよう、怪しまれないようにと距離と機会を上手く計りつつお梶の長屋を確認して来た聰暁竜(eb2413)が言えば、頷くのは時永貴由(ea2702)。
 貴由は繋ぎに来た同心が、もう一組の方で平蔵を迎えに向かったらしいことをついでに伝えてから帰るのを見送り僅かに目元を手拭いで抑えると小さく呟き。
「長谷川様がご無事で本当によかった‥‥」
 平蔵が先の乱で行く方知れずになってからどれほど経ったか、それを思えば微笑を浮かべた表情を引き締め、薄く開けられた障子から長屋へと目を向ける貴由。
「今、私達がするべき事は長谷川様がお戻りになられた時に少しでも奴等の確保に近付くようにする事だな」
「それにここまでこの根比べに耐えてきた同心達の働きも、無駄にはしたくない‥‥あそこが、お梶の長屋だな?」
 言いかけた言葉を途中で切りじっと見据えるように長屋へと暁竜が目を向ければ、ああ、と肯定した貴由も僅かに目を細めて。
「一つ表の通りに出れば色々な人間が入り交じっている‥‥江戸に出てきてこれからの希望を見ているのか、諦めて収まっているのかは分からないが、」
「流石に他国の人間は通りかかってもこの辺りには住み着きはしていないが、な‥‥」
 暁竜の視線の先には通りと長屋の側を行き交う人々の姿、それは貧富も種族もあまり関係なしに行き交う人の流れ。
 そこから見ても、長屋に近づくだけならばそれこそ怪しまれることなどないでしょうが、実際に長屋を調べるとなれば足がかりがなければどうにもならないところ。
「何にせよ、頃合いを見てもう少し詳しく調べる必要があるな」
「‥‥上手く長屋に入ることになればそこを足がかりにもっと近くで確認できるんだが‥‥」
 そう2人が話しつつ長屋へと目を向ければ、その視線の先には姿をどこぞの旦那風に変えた逢莉笛舞(ea6780)が手土産の包みを持ち大家の家へと入っていく姿が見えます。
「そうですね、部屋は開いておりますし、ただちょっとばかり、隣が五月蠅いかも知れませんがね」
 質素で落ち着いた着物を身に纏った舞が長屋で大家と言葉を交わしていて、長屋の一室を少しの間借りると話を付ければ、少し困ったように言う大家。
 その長屋は生活の苦しい者達が集まっているにしては珍しく二間続きですが、少々薄暗く、障子などが破れたりはしていないものの壁も薄そうで。
 ここに連れ合いと共に入ると伝えたためでしょうか、猫の額ほどの土間を加えても狭い一室ではありますが、実際に長屋内を張る拠点としては申し分なさそうで。
「何かあったらあたしの所においでなさい。では、これから宜しくお願いしますよ」
 そう言って帰る大家を見送ると、舞は緩やかに息を付いて。
「さて‥‥2人に連絡をしないと‥‥」
 言いかけてふと耳を澄ます舞は、何やら聞こえてくる物音がよくよく聞けばくぐもった男の悪態であることに気がついて僅かに目を細め。
「‥‥恐らくはこの声の主が剛蔵なのだろうな」
 舞が外の二人に連絡をつけて貴由を呼べば、貴由と舞は互いにそれを確認し頷き合って。
「とにかく、確認と‥‥よく調べたうえで確保をしなければな」
 そう囁き合う2人は、隣の家の戸が開く音と共に、小さく悪態をつきながらお梶が歩き去るのを見送るのでした。

●お梶
「小さなお堂じゃん? 何を祀ってるんだろー?」
 レーラ・ガブリエーレ(ea6982)が小さく首を傾げつつ言えば、その脇にあるお地蔵様の祠へと目を向けていた氷川玲(ea2988)が目を上げて軽く首を傾げて。
「随分と古いもんだからな、字が擦れて良く読めねぇが‥‥後で沖松辺りにでも聞いてみるか」
 そこはお堂近くの小さな宿の一室、奥の座敷で、障子の隙間から覗いていた2人は先程から祠や人の流れを確認しているようで、レーラはお店のお団子をもしゃもしゃ食べつつ時折氷川に質問を投げかけてみたり。
 白鐘の紋左衛門に挨拶をしてきた後で来た氷川は、そのついでとばかりにざっとお梶の長屋からここまでの道筋を調べてから来たようで。
「それにしても、わざわざこんな所まで女に足を運ばせるってぇのもな。手前ぇで来いってぇ感じだよな」
「長屋からここまで、けっこー遠いの?」
「まぁ、日が暮れるって程じゃねえが、ちょいと距離があるからなと」
 肩を竦めてみせる氷川に、不思議そうに首を傾げるレーラ。
「しかし、饅頭で暗号‥‥忠次がここにいたら『勿体無い』って言って喰っちまいそうだな‥‥」
 そこへ笑いを滲ませた声で入ってくるのは九十九嵐童(ea3220)。
「お饅頭、ちゃんと食べたのかな?」
「いや、今店のものにそれとなく聞いたが、夜中前に片付けるらしいし、持ち去る者は今まではいなかったそうだ。片付けるのは、それ目当てに野生動物がこの辺りに出てこないようにとの配慮らしいな」
 レーラが軽く首を傾げれば、嵐童が軽く首を振って答えて。
「んじゃ、合図だとしたら、あの饅頭を見に来られる時間は限られているって訳か」
 言いながら僅かに目を細めてお地蔵さまの祠をねめつけていれば、道の向こう側から膨れっ面の女が包みを手に歩いてくるのが見え、よくよく見ればお梶のその人が、僅かに赤く見える片頬を擦っているのに気がつく氷川。
「‥‥‥あの男‥‥?」
 氷川の様子に祠の方へと目を向けた嵐童は、お梶を確認するとその周囲へと目を走らせ、一人の男へと目を向けて小さく呟きすと部屋を出ていきます。
「あの男??」
 きょとんとしたレーラも障子越しから覗きこめば、お梶はいらついた様子でお饅頭を二つ置いて手を合わせるでもなく方を怒らせ歩き去るお梶の姿を目にして。
「嵐童さんがあの人追っかけるのはいいとして‥‥あれー?」
「どうした? レーラ」
 レーラが何かを聞き取ろうとでもするかのように眉を寄せれば問いかける氷川に、あれ、と指さして。
「なんか、あそこの蔭に誰かいるじゃん?」
 その言葉に目を向けた氷川もその男に気がつき。
「‥‥あれは‥‥嵐童を尾けている?」
 立ち上がりレーラと共に急ぎ外へ出る氷川、先をゆく男を追う嵐童も十分に距離を取っていますが、今一人の男は嵐童が後を尾け始めてから通りへと出てきたようで、それを笠をかぶったレーラと氷川は距離を置きつつ後を更に追うのでした。
「‥‥お梶は元は江戸近郊にある宿場の女郎で、身請けした男と江戸に来ていた、か‥‥」
 手元に来た報告を確認しながら呟くのは天風誠志郎(ea8191)。
 九十九刹那がお梶の過去を洗えば、お梶の素性はあっさりと割れました。
 子沢山な漁師の末に生まれたものの何に巻き込まれたか、とにかく両親が亡くなり兄弟たちもばらばらに引き取られ、お梶を引き取った人間はお梶を売ってさっさと金を持って姿を眩ませたとか。
 その素性だからかはわかりませんがかなりお金に煩いというよりは汚かったようで、身請けしてくれた男を騙すような形で金を奪って別れたらしいですが、結局は夜鷹になり、そこで剛蔵を客に取ってからの付き合いのよう。
「‥‥お前から見てどうであった?」
「へぇ‥‥ありゃあ食えねぇ女で、金がありそうな男にだったらいくらでも食らいついてくるでしょうがねぇ‥‥」
 そう言って苦笑する孫次は、客としてお梶と接触すれば甘えて酒を奢って欲しいとせがみ、奢ってやれば涙ながらに自分の境遇をそれこそ嘘を交えてさも哀れっぽく話したそうで。
「『酷い男に食いつかれて後は死ぬしかない、あんたがあの男を消してくれりゃ、あたしはあんたの女だよ』なんて‥‥酷ぇ女もいたもんでさ」
「それで、なんて答えた?」
「いきなり言われたってこまらぁな、ちょいと考える時間をくれねぇか、そう言って誤魔化して戻って来た次第で‥‥場合によっちゃ、何か使えるんじゃねえかと思いやしたもんで」
 わかったと頷く誠志郎、そこへ入ってきたのは、お梶が買っているのと同じ饅頭の包みを手にした音無藤丸(ea7755)です。
「今のところはお梶が客に饅頭を渡すなどといった話はないようですね。ただ、お店の方にお梶が来るようになったのは祠へお饅頭を置くようになってからだそうですよ」
「ふむ‥‥お梶の行きつけの居酒屋のおやじの話でも、その辺りからよくお梶が殴られたりするようになったそうだな。顔などの痣で客が嫌な気分になって買ってくれないなどと大荒れだった時もあるようだ」
「‥‥つまりはぜぇんぶ、その男がお梶を殴るようになったあたりからってことになりやすね」
 その言葉に頷くと、誠志郎は暫し思案に暮れるのでした。

●男達
 嵐童がその視線に気が付いたのは、男を尾け始めてから大分経った頃。
 それまでは前の男に気を取られていたのもありますが、その男が大分距離を置いて尾けてきていたからと言うのもあります。
「‥‥」
 前の男に気が付かれたら、それ以上に挟まれればどうなるかを確認した嵐童は、角を曲がり男の視線が一瞬途切れる瞬間を見計らって身を隠しました。
 慌ただしく近付いて来る足音を確認して息を潜めれば、暫くの間辺りを調べていた男は小さく舌打ちをすると弾かれたように駆けだしてその場を後にします。
「っと、気付かれたか?」
 そこに駆けつけてきた氷川とレーラ、どうやら男達の姿を見失った2人に嵐童も合流して。
「さーてと、どうすんべかねーっと」
 肩を竦める氷川ですが、一度お堂の側に戻ることにすれば、そこには連絡のために藤丸がやって来ていて。
「まぁ、剛蔵の合図を確認しなければならない様子だからな、必ず次の合図も確認しに来るだろう。次は少々厳しくはなると思うが‥‥」
そう言って眉を寄せる嵐童に藤丸は軽く首を傾げ。
「剛蔵も合図を出す必要があるのでしょうが、そうなるとこれから問題になるのがお梶の行動ですね」
「孫次さん利用してなんとかしようとしているみたいじゃん? ほっといたらなんか大変なことになりそうじゃん」
「今のところお梶に馴染みの客は?」
「あまり剛蔵以外で、ずっと客でいる男というのは居ないみたいです。どれも行きずりの客なのが現状ですね」
 夜鷹ならば馴染みなどと言ったものが出来ることもそうそう無く、だからこそ腕っ節もそれなりに強そうで金回りが良さそうな孫次に目を付けたのかも知れず、次に客として来る保証がないからこそ剛蔵殺しについて話を出したとも思え。
「暫くお梶の様子、頼めるか?」
「へい、任せておくんなせぇ」
「では、拙者は役宅の天風様に確認の後に‥‥」
「なら俺はまず長屋を張る方へと繋ぎを入れたら、祠の見張りに戻ろう。現状の連絡がお梶の合図だけしか手段がなければ再び現れるだろうからな」
 氷川の指示を受ける孫次を確認すれば、藤丸は立ち上がり、嵐童も考える様子を見せ口を開いて。
「もし祠が危ないからって来なかったとしたら、長屋の方に行ったりするんじゃん?」
「ああ、完全に見切りを付けられない限りは、な」
 レーラが首を傾げれば氷川がにやりと笑いを浮かべて続けます。
「見切りを付けるんだったら、とっくに切っているだろうしな。つーことは、剛蔵を切らない理由が何かあるってこったろう」
 逃がしゃしねぇぞ、低く氷川は笑うと、一同は再び自身の配置へと戻っていくのでした。
 長屋の床下、先程から耳に聞こえてくるのは男の唸るような怒声と、叩き付けられるかのような鈍い音。
「‥‥この声が、剛蔵‥‥か?
恐らくは間違いない、そう確信しつつも小さく呟く舞は、どうもお梶が言われたものを買ってこなかった、買ってきたじゃないのなどと言った口論が主で、今のところは重要な内容は聞こえてこないのですが。
 そろそろお梶が仕事に出ようという頃、そっと忍び寄り舞が借りた長屋へと入り込んだ暁竜は中の貴由とその日の様子を確認した後、庭をぐるっと回って垣根の影に入り込むと、お梶が出て行ったのを見計らって。
 こつっ‥‥。
 小石を投げて当てれば薄く開く障子、その隙間から窺うようにぎょろりと動くその目は確かに剛蔵のもので。
 直ぐに閉じられて中へと引っ込んだ剛蔵ですが、隙間から見えた表情は苛立ちで忌々しげに歪んで居ましたが、必要以上に警戒をしているようにも見えず。
 それを確認して、暁竜はそっと足音を忍ばせて長屋へと戻るのでした。

●その向こう側
 役宅では誠志郎が、平蔵は無事に江戸へと帰還したと知らせを表情を和らげて受けていましたが、嵐童からその名前を聞くと、役宅内にある調書きを引っ張り出して厳しい表情を浮かべます。
「その祠へとやって来ていたのは、末薪の新伍‥‥末薪のと言えば、流れ盗めで凶悪な男と聞く。牢の女もその名前を出していたな」
 あの後、再び祠を張ればやはりそこに現れた2人の男。
 慎重に調べて男達の他にはいないことを確認すると、改めて後を付ければ、今2人が塒にしている宿へと辿り着き、その会話を窺ったよう。
 剛蔵の方は変わりがないようだから今暫く待たせて良いとのことや、役宅はここのところ警戒が厳しくて牢へと接触できないがどうするか、等との会話を耳にしたそうで。
「‥‥なるほど、我慢比べ、か。とことん付き合おうじゃないか」
 隙が出来るまで伺っているとも見られる男達の言葉に、誠志郎は睨み付けるかのように眉を寄せて呟くのでした。