【華の乱】留守の勤め・追 其の七

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 57 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月07日〜04月17日

リプレイ公開日:2008年05月05日

●オープニング

 その日、彦坂昭衛に呼び出されて彦坂家へと顔を出した受付の青年代理・正助少年は疲労を色濃く浮かべた昭衛の前で所在なさげにちょこんと腰を下ろしていました。
「さてと、少々間が空いてしまったが、決着をつけねばな‥‥」
「では、末薪の新伍を‥‥」
「今度逃せば次の機会はあるまい」
 昭衛の言葉に頷いて依頼書を取り出す正助、それを見遣りながら、すと春の庭へと目を向けて緩く息をつく昭衛。
「なればこそ、おやじ殿は御自身で指揮をと思われていたのであろうが、嫌な話を聞いてな、それどころではなくなってきおった」
「‥‥その、一時的に姿を隠されているという、あれの理由ですよね?」
 おやじ殿と昭衛が言う人間はただ一人、凶賊盗賊改方長官・長谷川平蔵のことで、平蔵は本来帰還していないはずの人間。
 それは盗賊達を油断させる役にも立ってはいますが、元々の理由は改方の立場をはっきりと見せないことにより、治安維持への実績と引き換えに組織を存続させているからにほかならず。
「事情を、その、聞いても平気なんですか? 僕みたいな若輩者が」
「なに、賊らしき者に目をつけられる程に、しっかりと当事者になって居るではないか。それに、対処もしようが無かろう、事情を知らねば」
「そりゃ、そうですが‥‥」
 そう言って頬を掻く正助、昭衛が話すことには、改方自体は源徳の御尋ね者というそれについては詳しい話は知らずとも、同情も理解もしないわけではなく、また平蔵の下にいた者たちがその程度は瑣末な事と見ぬ振りすることに躊躇はありません。
 ですがそれが他人の物を乗っ取ってのさばる伊達――少なくとも彼らにとっては――に対しての、いわば主君を追い出した者へ不信や不快感が薄れる筈も無く。
「‥‥改方と石川島は、源徳公の物だ。提案を呑み大変な中費用を出し労力を割くことに許可を下された。維持費に関してはそれで足りるわけもなく持ち出しが必要であろうと、それを決断し実行されたことに対し、敬意を払っておる」
「‥‥」
「そして現状、改方も石川島も伊達からは一銭たりとも貰っておらぬ。石川島は十分に自分らで設備投資に回せるだけの物を島の者達が作り上げた。改方は同心達自らやりくりをし、主立ったものは親父殿の懐‥‥今は奥方殿が管理しているが、あの家より出ている」
 昭衛の言葉に何が言いたいのかを理解し、頷く正助。
 何せ仲間であった与力や同心を失っているのです。
「幸いにして我が家は元より裕福故苦しむこともないが、彦坂家はただ立場を明確にせず石川島を維持するために守っているに過ぎぬ。それは状況が違ったため出陣しておらなんだから済むことであるが、おやじ殿は前線にて真っ向から立ち向かっている」
「えぇと、戦場で敵対したから、とか言う理由じゃないですよね‥‥」
 正助の言葉におきたが運んでくる茶を啜り頷く昭衛。
「改方も石川島も、治安維持のために潰さぬ方が得だから放置されて自由に動けているようなもの。それも頭のおやじ殿が帰ってきていないからできること」
 改方は元来、冒険者を信頼する形で共に仕事をしてきました。
 しかし、絶対の信頼を向ける相手と、信頼を寄せることが不可能な相手というのが出てきてしまっていることも事実。
 中には密偵を挑発したり、時には不運も手伝ったとしても事態の悪化を進める事柄がここのところ続き、万一があればと悩んだ末に、平蔵が消息を消すようにと強く推したのは、昭衛。
「必要な時が至った時に、何かあって困るのはおやじ殿だ。私は良い息子に恵まれそれを支えてくれる者もおる、私は替えが利く。が、おやじ殿は御子息が良し悪しにかかわらず、変わりはおらぬ」
 流石に皮肉げに口元を歪めると、昭衛は低く笑って続けます。
「なればこそ、おやじ殿の信を置いている相手、またその相手が推さぬ限り、直接におやじ殿に接触できぬように手を打たせて貰った。まぁ、おやじ殿は不満があろうが、今、改方が無くなれば、混乱起きた時に賊の跋扈を止める者が居らぬであろう」
「‥‥」
「さて、孫次から知らせがあったのだが、庄五郎が末薪がそろそろ動くような、そんな予感がするそうだ。長年の勘とか言っておったな。今回武兵衛が主に受け答えをすることとなるが、捕物には同心数名回すのがやっとといったところだ」
「報告はどちらに?」
「私だと言いたいところだが、主に石川島の方に詰めている故、実際は武兵衛か、おやじ殿になるであろうな」
「え‥‥で、でも、長谷川様は‥‥」
「だから言ったであろう? おやじ殿の信を得ているものか、その者が推した相手以外、接触を断たせて貰った、と」
 そこで初めてにやりと笑いを浮かべた昭衛に、正助は意地が悪いのだからとでも言いたげな表情で昭衛を見て。
「でも、何か掴んだことはないのですか?」
「それだが、ちらりと新伍らしき者を郊外で見たという話もあったのでな。ここのところ全く息を潜めていたので、活動を再開し始めたのであろう。数日中にも、庄五郎の読みが当たれば石榴殿に接触もあろう。なればこそ、両組協力して当たって貰いたい」
「では、急いでこの旨を伝えることにします」
「ああ、お主もくれぐれも気を付けるよう‥‥近頃は妙に悪意ばかり渦巻いていて物騒であるからな」
 昭衛の言葉に頷くと、正助は急ぎギルドへと戻るのでした。

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2413 聰 暁竜(40歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●心情
「‥‥ここで終わらせないと逃げられる‥‥ちぃとばっか気ぃ入れなおすか」
「全く、少々厄介なことになっているが‥‥今度こそ奴らに縄をかけてやらねばな。それにしても御神村殿が助っ人とは心強いな」
 氷川玲(ea2988)がぎっと握った拳へと目を落としそう呟くように言えば、天風誠志郎(ea8191)は同意を示すと、僅かに目元の厳しい色を和らげて御神村茉織(ea4653)へと目を向けて。
「いや、久し振りの仕事だ、腕が鈍っちゃいねぇか‥‥ヘマやらねぇように気ぃつけねぇとな」
 御神村の言葉に微笑を浮かべ首を振るは時永貴由(ea2702)で、逢莉笛舞(ea6780)も笑みを浮かべて頷きかけて。
「密偵の方々は極力目立たないようにされているが、あちらの方も大きな動きがありそうだと孫次が言っていたな」
「こちらの方の蹴りがつけば、役宅の方の心労もそうだが、長谷川殿の憂いも少しは軽くなろう」
 貴由と舞いが口々に言うのに、ちょうど部屋へと入って来た彦坂昭衛が同意を込めて微かに頷いて。
「密偵達の方は、まぁ、な‥‥。おやじ殿の方は伊達との関係を匂わせた者がいた為、万が一を考え姿を隠して頂いたが、あの御人のことだ、今頃孫次を抱きこんでそれなりに動いているのではないかと思うが‥‥」
 じっとしていて頂きたいのだが無理であろう、微苦笑と共に言う昭衛に、心中お察ししますとは貴由の言葉。
「‥‥石榴殿の新伍との落ち合う刻は?」
「昼を過ぎたあたりに出るとのことだ。今日明日と同じ蕎麦屋へ刻限を指定してきた。向こうも慎重に様子を見ているようだ。今日危なげなら明日、ということであろうが‥‥」
「‥‥てぇこたぁ、明日までに何とか打ち合わせを済ませてぇ理由があるってこったな」
 九十九嵐童(ea3220)が昭衛に確認を取れば、いましがた繋ぎがあったと答える昭衛、なるほどなと御神村は頷いて言えば、レーラ・ガブリエーレ(ea6982)がきょとんとした様子で首を傾げて。
「つまりは仕事をするのに差し迫っているという事だ」
 レーラへとそう言って、聰暁竜(eb2413)は緩く息をつき。
 自身の生業からしても、このような賊が跋扈している状況は警戒が厳しくなり鬱陶しい状況でもあり。
「そうそう彦坂の旦那、関係者の周辺は大丈夫か?」
「改方の関係ある場所や者は、大抵何らかの自衛手段を持つ。まぁ、逆に普通の茶屋などならば目立つ行動さえしなければ、たまたま利用する客程度にしか見えん、いちいち手も出さんであろうな」
 氷川の疑問にそう答えれば、昭衛はこれから市中に出た後、人足寄場を回ってから屋敷に戻るとのこと。
「あの、昭衛様」
 部屋を出た昭衛を追って声をかけた貴由は、お気持ちはよく分かります、そうどこか思いつめた様子を見せ言って。
「できるならば、長谷川様にお伝え下さい。私は長谷川様の信頼に応えるべく、耳と目となる為ここに居ります。前回のような失態を決してしません。末薪の新伍の捕縛、確かにしてみせます、と‥‥」
「何、おやじ殿は主が失態したとも皆に期待を裏切られたとも思っておらぬ。私の一存故、あまり気に病むな。それにその言葉は、直接おやじ殿に言ってやれ」
 報告は孫次の客になれば良い、それだけ小さく笑いながら言うと、昭衛はゆっくりと歩み去るのでした。

●探索
「確かに羽振りが良さそうだ」
「聞いたところによりゃ、先の乱当時には壊滅的な被害を受けたらしいが、持ち直して今ではあの羽振りだと」
 付近の茶店で、近くの席に腰を下ろし目も合わせずに小声で互いにそれだけ告げ合うのは暁竜と御神村。
 氷川のところに簡単にではありますが集まってきた情報を舞がざっと洗い出して確認したものを、手分けして確認しているようで。
「後、あちらの呉服屋は賊などに対し警戒心が強ぇそうで、普段は知人筋からの道場の先生を迎えて世話をしているんだと」
「俺の見たところは近くに盛り場があって常に人目に曝されている場所。あれではあえて狙いもすまい」
 あくまで周りへと注意を払い他へ聞こえないように囁きで確認しあえば、怪しまれないように先に出る御神村と、頃合いを見計らって暁竜も店を後にするのでした。
「んー‥‥きっと一カ所で一気に稼いでお佐和を回収して、高飛びじゃん?」
 くいっと首を傾げるレーラに舞は少し考える様子を見せると頷いて見せます。
「恐らくは‥‥集まってきた情報から推測すればだが、どうにも金蔵にかなりの額が唸っていそうな御店ばかりだ、一件襲うだけでも、規模にも寄るが当分の間遊んで暮らして居られるな」
「むー、でもでも何処に押し込みしやがるかさっぱり分からないじゃん?」
「‥‥候補から、幾つか絞り込めはしたのだが、な‥‥」
 眉を寄せて考え込む様子のレーラに、改めて切絵図へと目を落として指を滑らせる舞、そこへ戻ってくるのは御神村と貴由です。
「あ、お帰りなさいじゃーん」
「よぅ、ちょいとばっかり孫次が面白い奴を見かけたってよ」
「守組の方で見かけたという、人相書きの男を見たそうだ。それと、その男が伺っていた御店のうちで飯炊き女を雇った所があるそうだ」
 二人の言葉に目を丸くするレーラ、舞は切絵図を開き幾つか絞り込まれた候補の御店を指し示し目を向ければ、歩み寄ってとんとんととある御店を指で叩くようにして示す御神村。
「江谷屋‥‥」
「何のお店?」
「米問屋だ。それも大分儲けている」
 店主の性質は悪くもないが良くもない、金儲けが得意な店らしいがと聞き及んだことを付け加える貴由に、江谷屋の付近を確認した後に一つ頷く舞。
「江谷屋ならば、見張り所に良さそうなところがある。天風殿に話して確認を取って貰おう」
「あ、じゃあ俺様せーしろさんに話に行ってくるじゃん♪」
 舞に場所を確認するとてこてこ部屋を出て行くレーラ、それを見送ると、舞と御神村、貴由の三人は改めて江谷屋への見張りや、引き込みの尾行の確認など打ち合わせ始めるのでした。

●追跡
「‥‥‥万一も無いとは思うが‥‥だが、今は‥‥」
 厳しい表情で役宅内部の警備指揮を執るのは誠志郎。
 誠志郎は新伍への対策で先程から怪しまれないよう警備を薄め、それでいて役宅を危険に晒すことが無いようとの警備に心を砕いていたようで、内部でも不審な行動や、外部へと平蔵生存を漏らす者がいないかと神経を張り巡らせていて。
「万が一不審な行動をとる者がいれば‥‥」
 手元の刀へと目を落し緩く息を吐く誠志郎、先の乱以降心労の絶えない立場のまま踏み留まり、漸くに平蔵が帰ってきたと思えばと言う現状、それを憂えているのは誠志郎だけではなく、心を痛めている仲間を思えば深く溜息をついて。
「誠志郎、ちょっと‥‥」
 そこにやってくるのは氷川と守組のリーゼで、その表情は深刻なもの。
「どうした?」
「密偵達の事件の方でだけれども、ちょっと一般のお店を巻き込んだみたいでね‥‥難波屋なのだけど‥‥」
「おきたは無事だが賊に関係者と疑われてちぃと危ねぇ。うちの親分がかたぎの娘だから、奥方に相談して役宅か昭衛の旦那んとこで預かって貰った方が良いんじゃねぇかとよ」
 リーゼと玲の言葉に頷くと立ち上がる誠志郎。
「では、直ぐに奥方にその旨を伝えに行こう」
「あと、女の引き渡しの指示は5日後だそうだから、あと4日後には目星を絞り込んで、確証を得なきゃならねぇようだ」
「‥‥今回の新伍は今までと違いあちこちに痕跡を残している。絶対に間に合う」
 言って平蔵が妻・久栄の元へと報告に向かうのでした。
「‥‥あれは‥‥」
 時は少し遡り、嵐童は新伍の後を慎重に追っていました。
 舞は石榴が役宅に帰還する間の警戒を続けて役宅へと向かっており、一般的にならば二段階で後を追うのが確実ですが、逆に新伍の警戒の様子から少しでも怪しまれる様子があれば、その時点で尾行は成立しなくなり。
 そのため尾行は嵐童が行い、舞は石榴が役宅に戻ったところを確認してから、愛犬と共に探索へと赴く手筈となっていて。
 その代わり、嵐童を少し離れたところから、氷川の寄越した白鐘の若い衆が一人付いてきています。
 慎重に身を潜めながらの尾行、新伍は神経質そうに辺りを見回し案硝子済みますが、どうやら嵐童に気が付いている様子はありません。
「‥‥何だ、あそこは‥‥」
 やがて辿り着くのは郊外に続く道、途中にある宿らしき所。
 その建物はあまり大きいとは言えない宿で、嵐童が慎重に様子を窺っていればそこにやってくる男に、それを付けてきたらしき人の姿が。
「‥‥九十九さんか? では、もしかして‥‥」
 嵐童が物陰に潜む貴由にそっと歩み寄れば、その気配からかちらりと目を向けた貴由は口を開き小さく言って。
「あぁ、新伍はこの宿に入っていった。それも客だとすれば長逗留しているのか、それとも‥‥」
「‥‥恐らくは、盗賊宿‥‥」
 見たところ何の気兼ねもない様子で入っていった新伍の様子、同じく後から来た男からそれを見て取った貴由が、盗賊宿へと目を向けて考える様子を見せていた嵐童に言って。
「‥‥あの宿のことを調べれば、恐らくは何か掴めるだろうが、その前に怪しまれては事だ」
 嵐童はそう言うと、この宿のことを若衆に伝えに戻らせると、付近に見張るのにちょうど良い場所はないかと辺りへと視線を巡らせるのでした。
「‥‥よし、あっちの組にも伝えてあんだろうな?」
「へぃ、あちらも準備は万端だそうでさ」
 少々意気込んで言う若衆に、にやりと笑みを浮かべる氷川。
「まぁ、お前も気ぃ張りすぎんな、石榴の話じゃ押し込みがあるなぁ明後日だ。ま、いつ予定が変わるともかぎらねぇが、今からがちがちになってたんじゃ満足に働けるもんも働けねぇぞ」
 氷川の言葉に頷く若衆、そこへ暁竜が顔を出し。
「では、交代の刻限にな」
「おう、ゆっくり休め」
 捕り物に備えて先に休憩に入った暁竜にそう声を掛けると、氷川は改めて標的となっている江谷屋へ目を向けるのでした。
「‥‥では、御頭」
「おうよ、世話かけるが、皆に宜しく伝えちゃくれねぇか」
 とある郊外に程近い船宿に、その姿はありました。
「盗賊宿の方も万事手抜かり無く押さえておりますが、少々人数が多いよう。押し込み先にて待ち構える手筈が整っていますが‥‥」
「江谷屋は御店に被害が出ることも御店の中で待ち構えることも拒否して居るため、店の外で全て処理をしろとのこと。これで万が一怪しまれることになれば‥‥」
 貴由が言えば誠志郎は万が一のことを考えて主に他言無用で話を通しに行きましたが、協力は一切拒否されたようで。
 それに対し、平蔵は煙管を燻らせながら暫し考えるように目を瞑り、口元には微苦笑を浮かべます。
「この場合は仕方ねぇさ、やるべき事をやるだけ、なぁ?」
「勿論です。必ずや、末薪の新伍を捕らえます」
 頷いて誠志郎が答えれば、すと眼を細めて平蔵は笑みを浮かべるのでした。

●防衛
「逃がすかよっ!!」
 夜道を物凄い勢いで突破していく新伍に、突破しようとした男を殴り倒しながら御神村がその背を追い縋ろうとするも、思い至ることがあったか舌打ちをして摺り抜けようとした一味の男を止めるために踏み留まって。
 そこは江谷屋の裏手の通り、そこでは既に新伍一味と捕り物の一行が既に接触して乱戦が始まっていました。
「ちぃっ!! 改めかっ!?」
「末薪の新伍っ! 神妙に縛につけっ!!」
「ほざけっ!! やっちまえっ!!」
 誠志郎の声に凄まじい形相で睨み付けた新伍は、懐の匕首を抜き放つと声を上げ、一斉に得物を手に血路を切り開こうとする新伍一味。
「ここで潰させてもらう‥‥」
 嵐童の愛犬伏姫と八房が左右から一人の男の腕に食らいつけば、小柄で斬り付け捕らえ、その横では暁竜が、斬り掛かってくる男をかわしざまに腕を振り抜き薙ぎ払って。
「ぐぁっ!? う、うご、け‥‥」
 薙ぎ払われた男がぐらりと揺れれば、身体が動かないようでどうと倒れてぴくぴくと小さく震え。
「ふん‥‥他愛もない」
 薙ぎ払った方の手を軽く握りながら、暁竜はぐるりと周囲の状況へと目を戻すのでした。
「うらあぁぁあぁっ!!」
 怒声と共に正面切って向かってきた男が斬り付けるよりも早くに蹴り飛ばすのは氷川。
 勢い良く蹴り飛ばされたことにより状態で吹き飛ばされた男が腹部を押さえ息も出来ない様子で悶絶するのをがっと踏みつければ、そのまま踏みにじりつつ周囲を見回し。
「あわ、あわわ、逃がさないじゃんっ!」
 コアギュレイトで身動きを封じながらわたわたするレーラの姿が目に入れば、駆け寄り様に固まっている男を、氷川は振り向き様に巻き込むような回し蹴りで昏倒させていて。
「新伍以外、押し込みに加わっていた者は全員捕縛したか‥‥」
 言って新伍の駆け去った方向へ目を向けると、誠志郎は頼んだぞ、と小さく口の中で呟くのでした。

●末路
 荒く息を付く男が急ぎ夜の町を駆け抜ければ、やがて見えてくるのは郊外手前の小さな茶屋、その店の前でした。
 とっくに閉まった茶屋の側にある2つの影はどうやら女性の者で、駆けていた男・新伍が二人に気が付き、その一方がお佐和であることを確認すると駆け寄ろうと姿を二人の前に見せるのですが‥‥。
「残念だったな、逃がすわけには行かないのだ」
 姿を現した新伍を押さえ込んだのは身を潜めていた舞で、暴れようとするところを更に貴由も加わり押さえ込んで。
 石榴が手を振り払おうと暴れるお佐和を押さえると、捕らえられた新伍と少しだけ言葉を交わしてから、手を貸しに来ていた数人の手により引き立てられていくのでした。
「てぇ感じで‥‥親分、前回もあいつら機転を利かせてくれて助かった。出来れば親分からもねぎらってやってくだせぇ」
 白鐘の紋左衛門宅では氷川が報告をしているところで。
「銕にゃもう報告は行っているのかぇ?」
「あぁ、確か誠志郎や貴由が向かっているとこかと」
「そうかぇ、ま、少し落ち着いたら、皆で仕事完遂の祝いでもしたらどうだぇ」
 紋左衛門の言葉に小さく笑みを浮かべて頷く氷川。
 ちょうどその頃役宅では捕縛が終わった一行が取り調べを行っている頃合いで。
 晴れて凶賊捕縛の報告を持たせることが出来た一行の表情は大分明るく、漸くに終えた大仕事の解決の余韻を、今暫くの間感じているのでした。