【華の乱】留守の勤め・守 其の八

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月14日〜06月19日

リプレイ公開日:2008年07月17日

●オープニング

 その日、ギルド受付の青年代理・正助少年は、綾藤の女将・お藤に呼ばれて顔を出していました。
「あぁ、改方の‥‥打ち上げの宴会ですね」
「ええ。うちでやるのが一番安心と思いましてねぇ。今は色々と難しい時期ですけれど、だからこそこの一時を楽しんで頂きたいと思いまして」
 微笑を浮かべて言うお藤、難しいことは考えずにゆっくりと楽しんで欲しいとのことで。
「こちら、えぇと‥‥来られるんですか?」
「ええ、いらっしゃいますよ。それと昭衛様も都合を付けていらっしゃるとか‥‥同心の方なども折り合いを付けて顔を出されることも可能とか」
 誰が、と伏せて正助が聞けば微笑み頷くお藤は精一杯お持てなしさせて頂きますわ、と微笑んで。
「えぇと、ではこちら、二組の協力者の方々へのご招待という形で連絡すれば良いんですね?」
「ええ、くれぐれも皆様に、宜しくお伝え下さいましね」
 お藤へと確認を取った正助は頷くと筆を依頼書へと走らせるのでした。

●今回の参加者

 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea8703 霧島 小夜(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 eb1098 所所楽 石榴(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb4994 空間 明衣(47歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

所所楽 林檎(eb1555

●リプレイ本文

●人との繋がり
「しかし、今回は随分と‥‥」
 酒の徳利を軽く揺らしそこまで言ってから言葉を濁すのは嵐山虎彦(ea3269)。
 それはその目的地へと足を向ける一行にとって同じ思いであるからでもあり、僅かに暗い影となっているから。
「文吉はじめ同心と密偵達、命を落とした者はそう少なくないからな」
 なんとも言えない空気の中、口を開いたのは霧島小夜(ea8703)で、その言葉と花を持って同道しているレヴィン・グリーン(eb0939)も頷きます。
「ですが‥‥これで漸く報告ができます。今回の件のことも、文吉さんには一太さんが立派にやっていることも」
「おうよ、一太も見違えるほどになったからなぁ、文吉の奴ぁ喜んでるこったろうよ」
 嵐山がにと笑えば、見えてくるその寺の前、同じく入って行く姿はもう一組の誠志郎に嵐童、そしてレーラです。
 見ればその後ろに嵐童に付いて経を上げに来た方も。
「あぁ、墓参りか?」
 酒の徳利を揺らして見せる小夜、あちらでもどうやら花と線香を手向けに来ていたようで、門を潜り連れ立って墓へと向かう一団。
 その墓たちの前には既に他にも誰か来た後なのかお線香とお酒が備えてあり、それに習うかのように墓を洗い、酒を掛けてやり花を供えて。
「‥‥これ以上、そちらを賑やかにはしてやれないが‥‥」
 せめて酒を楽しんでくれ、小さく口の中で言って酒を掛けてやる小夜。
「ま、仏さんのところでしばらく骨休め、っとな」
 一同は暫くの間、そうして墓が並ぶ辺りに立ち尽くしているのでした。
「まぁまぁ、本当にかい!? そりゃぁ‥‥」
 その報告を聞いて、庄五郎の飯屋で驚いた声を上げるのは女密偵のおさえ。
 所所楽石榴(eb1098)が頬をほんのりと染めて嬉しげに頷くのに、おさえは目元を潤ませ手を取って、その顔を喜色に輝かせます。
「この件が落ち着いたら‥‥新しい家族が欲しいなって、思ってて‥‥その夢、次の年が明けたあと、叶いそうなんだ‥‥っ」
「ああ、ああ、本当になんて良い知らせなんだろうねぇ、あたしは何だか嬉しくって嬉しくって、涙が‥‥」
 ぎゅうっと石榴を抱きしめて涙を流さんばかりに喜ぶおさえ、賑やかな様子に食事を運んできた庄五郎が目を白黒させるも、銀杏にそら目出度いなぁ、等と言いながら眼を細め、はにかみつつ幸せそうに微笑む石榴。
「でも‥‥だから暫く冒険者稼業はお休み、かなっ? 少し出かけるとかは別としても‥‥」
「そりゃあ、子供は授かり物だよ、無理はしないできちんと身体を大事にして、丈夫な子を産むんだよ?」
 おさえの言葉に石榴はにっこり笑って頷くのでした。
「どうだい? もうすっかり固くなって男の手って感じだな」
 稽古ですっかりとまめだこすらも通り越した固く厚い掌を見ながら、空間明衣(eb4994)は満足げに笑みを浮かべて。
 一太は近頃では更に門番としての自覚も、そしてそれなりに使える人間の風格も出てきたようで、最初のいかにも少年っぽさが抜けなかった様子と比べ、ずっと大人びて来ていて。
「さて、念のため診察を‥‥同心達と稽古しているんだからね、ちょっとでも気になったことがあったらちゃんと言うんだよ」
 激しい稽古の間に生じる大なり小なりの怪我や痛み、身体の診察をしながら言う明衣に、まだちょっと恥ずかしがりつつも少し考える様子の一太。
「この間、少し足を捻って‥‥腫れは引いたんですが、時折まだ鈍い痛みが‥‥」
「えぇと、この辺りか?」
 頷く一太に暫く確認をした後明衣はにと笑って。
「ん、ちょっと無理したろう? 大事はないが、少しの間ここを固定しておこう」
 無理な我慢が取り返しの付かないことにもなるのだからな、明衣に言われて真摯な表情で聞いて頷く一太。
「そうそう、一太も来るんだろう? 宴会には」
 手早く包帯を使って足首の固定をしながら言う明衣に、一太は一員として認められていることが嬉しいようでにっこり笑って頷いてみせるのでした。
「お、別嬪さんが‥‥おい、そこの汚ぇツラしまって場所開けろぃっ!」
「ちょ、ちょっとそこまでしなくても‥‥」
 微苦笑で騒がしい屋敷内へと足を踏み入れるのはリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)。
 リーゼは氷川について白鐘の紋左衛門へと挨拶のために顔を出しており、氷川が賑やかに声を掛けているのに応える若衆達を微笑ましく見ていたのですが、そこはそれ、若い衆が集まって、そこにきれいどころが顔を出せば賑やかにもなろうというもの。
「おや、若頭も姐さんも、ささ、どうぞ奥へ」
 沖松が用事のために顔を出したのか騒ぎに気が付き声を掛けると、氷川とリーゼは紋左衛門の部屋へと足を運ぶのでした。
「こればっかりは一人暮らしだとどうにもならんからなっ‥‥いや、もっとも娘が嫁いでいってからは、同じだったか‥‥」
 どことなく遠くを見ながらそう呟くのはジェームス・モンド(ea3731)。
 モンドは襷がけに前掛け・手拭いで頭を覆って、口元も埃を吸い込まないようにと手拭いを使い、部屋の埃をぱたぱたと追い出しているところでした。
「悪党共を退治して、世の中を綺麗にしても、身の回りが汚れていてはどうにもならんからな‥‥ここのところ天気も良い、すっきりと宴に備えんとなっ」
 そうはいってもそれなりに気を付けては居ても季節柄溜まってしまった洗濯物は多く、モンドは何処までも晴れ渡る空を見ながら、むしろ、空を見続けながら少しの間だけ、途方に暮れているようなのでした。

●日常
「おう、清之輔、親父さんはどうしたぃ?」
「あ、父上でしたら、先程石川島の方へ‥‥」
 嵐山が昭衛を誘いに彦坂の屋敷まで足を向ければ、ちょうど道場の掃除に行くのでしょうか、防具と木刀の入った包みを背負いながら顔を上げて軽く首を傾げ。
「そうかぃ。なぁ清之輔、おやじさんの予定とか聞いてるか?」
 宴会の話とか、何とはなしに道場へと向かう清之輔と並んで歩きながら嵐山が聞けば軽く首を傾げる清之輔。
「たぶん行かれるんじゃないでしょうか? なんでしたら、道場で叔父上に尋ねて見ましょうか? 父上が帰られてから確認しても良いですし」
「そうさなぁ、面倒じゃなきゃ、ちぃと確認取って伝えておいちゃくれねぇか?」
「わかりました、伝えておきます」
 こっくり頷く清之輔に、嵐山は笑みを浮かべるとその頭をぐしぐしと撫でるのでした。
 その頃、石川島では小夜が細工師と言葉を交わしているところで。
「さらに腕を上げたようだな」
「いやいや、まだまだで‥‥もっと満足いくようなもんが作れたら、と」
 自然と弾む話、小夜は生業の関係上、細工師は現場で使う立場からの貴重な助言を受けられるとのこともあってかちびちびと交流があったよう。
「ま、この石川島はそれなりに人の出入りや入れ替えもありますけど、江戸の町よりは安全ですしね」
 伊達の息もかかっていないし、と小さく肩を竦めて言う細工師、小夜は暫く言葉を交わしていれば、また来ると言って席を立ち、昭衛へと挨拶をしてから、白鐘の親分のところへと顔を出すために嵐山や氷川と待ち合わせた店へと向かうのでした。

●慰安
「さて、これだけ差し入れの酒も集まれば、十分足りる‥‥足りるわよね?」
 綾藤にはお藤が用意しておいたお酒の他にもあれやこれや差し入れを合わせていけば、かなりの数の酒桶や酒樽が立ち並び、もはや圧巻と言える状況で。
 それでも呑む人間を考えてしまえば、そして誘った中にはさらに酒が好きな若衆たちもいるのを考えると、軽く額に手を当てて少し考える様子を見せるリーゼ。
「まぁ、足りなくなりそうになってから考えれば良いわね」
 ふう、と息をつくと改めて早めに来ていた嵐山を捕まえて手伝わせ、酒をより分け始めるリーゼは、さらに舞などによってその酒が追加されて目を瞬かせることになるのでした。
「では、御頭‥‥そろそろ」
「ああ。皆、此度も良ぅ働いてくれた、今日は存分に楽しんでくれ」
 誠志郎の言葉に頷き平蔵が言えば、あちらこちらで上がる乾杯の音頭。
「改めて、みんなお疲れ様でしたっ」
「おう、石榴もお疲れだねぃっと」
「ほんと、今回は危険な役目が多かったからね」
 一行へと石榴が声をかければ、嵐山とリーゼが口々に言い、同意を示す様にレヴィンが石榴へと微笑みかけて頷いて。
「そういや、お前ぇさんの妹御の林檎がわざわざ挨拶に来てくれたなぁ。話ぃ聞いたが、目出度ぇこった。十分に身体ぁ休めろよ?」
「うんっ! ‥‥でも、みんなに言われるのって、なんか照れる、かなっ?」
 はにかんで笑って見せてから、改めて平蔵に向きなおってぺこりと頭を下げる石榴。
「演じた立場の都合上、決着つくまで顔あわせないって決めていたから、本当に平蔵さんとはお久しぶりになっちゃってたねっ。遅ればせだけど、お帰りなさいっ♪」
「おぅ、やっぱりその一言が何より、戻って来たってぇ実感すらぁな」
 にと笑う平蔵に笑みを浮かべる一同。
「さて、折角の宴だ、花を添えんとな。‥‥なぁ? リーゼ」
「あぁ、笛なら今‥‥へ‥‥?」
 小夜が言うのにすと笛を出そうとしたらリーゼですが、がっしり掴まれずりずりと引き摺られて行くのに、予想外のことだったのか目を瞬かせ。
「おっしゃ、ま、何は兎も角酒だ酒! なぁ、御頭? ほら昭衛の旦那もよぅ!」
「待て、おやじ殿やお前に付き合って飲んだら死ぬ、流石に死んでしまう!!」
 どうやらもう一組の綺麗どころに酌をして貰いちびりちびりと酒を飲んでいた昭衛に気がついた嵐山ががっつりと引き摺りこめば、傍で同心たちとともに呑んでいたモンドはすでにほろ酔いを超える頃で。
「ま、ま、そう言わず一献‥‥いやいや、それでですな、そこでこのモンド、憶えたばかりの必殺モンドバリアーを‥‥」
「ば、ばりあ‥‥?」
「ほーりーふぃーるど、とかいうものですかね?」
 どうやら義父よりも適応の早い様子の清之輔が酒の肴を運ぶのを手伝いついでに補足を入れてみたり、相も変わらず平蔵と嵐山はぐいぐいと杯を煽ってみたり。
 その様子を見てくっくっと笑いながら紫煙燻らせ杯を傾ける明衣。
「いやいや、元気だな‥‥そら、一太殿もあまり遠慮せずに呑むと良い」
「あ、頂きます‥‥‥その、皆さん、やっぱり結構凄いですね」
 何が、と言わないのはある意味一太の優しさかも知れず。
 暫くは刀を相手に戦う術などを一太に助言し、一つ一つ明衣に頷いていれば、そこに戻ってきたのは小夜とリーゼ。
「いや、別にここまで‥‥」
「まぁまぁ、宴は華やかな方が良かろう」
 明らかに楽しんで着飾らせた様子の小夜、リーゼは艶やかな花の柄の振袖に緑の色彩の簪が髪を飾り、笛を奏でるためにちょんと座ればその上に被せられるのは金糸で飾った薄衣。
「まるで絵みたいですなぁ」
 誠志郎に扱かれへばっていた忠次が眼福とばかりに言うも、珍しく今回の絵師は絵よりも酒と相成ったようで、待っていましたとばかりに囃しつつも酒を煽っています。
「さて‥‥私もここは一つ、何か宴会芸でもやった方がいいのかね」
 ちょっと戻し斬りなど考えたようですが、条件に合いそうな材料などの用意がちょっと厳しかったようで、幾つか懐紙を使って居合いの妙技を披露してみたりすれば、そこは腕を誇る同心達や技を見るのが好きな若衆達が大いに盛り上がり。
 暫くの間、あちらでは手品、あちらでは一芸と賑やかに楽しげに、宴は続いてくのでした。

●あとは穏やかな休息を
 宴も佳境を超えれば酔い潰れて眠る者やじっくりと酒を楽しむものが思い思いの時を過ごすようになって。
「争い起こす奴の中には、自分が統べれば全て丸く収まって、平和になると思ってる奴もいる‥‥だが、ごたごたが続けば世ん中が荒れる度合いも強くなる一方、上手く行かないものですな」
「はは、誰だって手前ぇがってぇなぁ考えるだろうさ、手が届くところにいるってぇ思っちまったらな」
 深く追求すれば結局のところは行きつく先は同じになってしまう、だから考えねぇことよ、と微苦笑気味に言う平蔵が煙管を燻らせれば、傍でのんびりと酒を口にしていた明衣がふと目に留めて。
「私のは舶来物でな。長谷川殿のものは年季が入って良い物だと興味があってね。宜しければだが吸わしてもらって良いかな?」
 明衣が聞けば懐紙で吸い口を拭い差し出す平蔵。
「年季だけでいやぁ、俺が親父の愛用品だったもんだからな、折り紙つきよ」
 銀煙管のその吸い口に至るまでの丁寧な細工などからその品の確かさが窺え、緩やかに煙管を燻らせ明衣は笑みを浮かべて。
「やはり良い物だな。大事にされているのが伝わる。ありがとう」
「なに、礼を言われるようなこっちゃねぇよ」
 煙管を受け取り、平蔵は笑って答えるのでした。
「お、武兵衛の旦那もかなりいける口だったねぃと」
「いやいや、酒は過ぎず、十分に頂いておるのでな」
 静かに同心たちが羽目を外しすぎないようにと気を配りつつゆるりと休んでいた与力の津村武兵衛へと声をかけたのは嵐山。
 嵐山は笑いつつも一つ湯呑を差し出すと手に持った徳利から並々と酒をついて。
「これぐれぇじゃ過ぎたうちにゃ入らねぇだろ?」
「‥‥‥頂こう」
 武兵衛が実のところ酒が好きであることは、良い加減長い付き合いならばこそ知ってもいて。
「ほれ、忠次も一太も、たっぷり呑めよ」
 近くにあった膳に酒のたっぷり入った徳利を乗せて武兵衛の前へ置くと、嵐山は武兵衛がゆったり呑めるようにと敢えて忠次達の居る方へと足を向け。
「‥‥」
 気持ちが分かればこそ、武兵衛は小さく頷くと、手の中の湯飲みを口元へと運び、ゆっくり、それでいて一息にその酒を飲み干すのでした。
「大丈夫ですか? 石榴さん」
「うんっ、無理もしてないし、大丈夫だよっ?」
 夫婦二人であちこちで祝いを告げられたり冷やかされたりとしながら挨拶回りを済ませて、綾藤の中庭に面した縁側、のんびりと並んで座りながら言葉を交わすレヴィンと石榴。
「私がジャパンに来たのはひょんなことが原因でしたが‥‥」
 小さく口の中で呟いて、これからのことを思うと微笑を向けるレヴィン。
「石榴さんが冒険者のお仕事を辞められている間は私も自粛して家にいるつもりです。動物学者としてのお仕事は家でも出来ますし‥‥」
「んー‥‥一緒の仕事は嬉しいし、だからこそより頑張ってこれたんだなって思うよ? でもね、家で帰りを待つのも、レヴィンさんが相手なら、僕にとっては楽しみの一つになるから」
「‥‥私は、私を幸せにしてくれた貴女に、そして生まれてくる新しい家族にできる精一杯のことをしたいのですよ‥‥」
 待つ幸せもあれば、傍らにいる幸せもある、そう言うことなのでしょう。
 もっとも、石榴さん達に危険が及ぶような事態になった場合はその限りではありませんが、レヴィンの言葉に微笑み合う夫婦。
 月明かりの中、一つの仕事やり遂げた一行の宴は、今暫くの間続くのでした。