【凶賊盗賊改方】奔り寄る影

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月25日〜10月30日

リプレイ公開日:2009年03月16日

●オープニング

 その日、彦坂家にギルド受付の青年代理・正助少年が呼ばれてやって来たのは、そろそろ日々の暑さが和らぎ過ごしやすくなってきた、秋の日のことでした。
「よう来たな。ま、茶でも飲み菓子でも食いながら聞くが良い」
「‥‥あ、い、頂きます‥‥」
 呼ばれた件がどの案件に関してなのかが計りきれず出されたお茶とお菓子をおずおずと食べ始める正助、昭衛は何事か考えて居るようで袂に手を突っ込んだまま暫く目を瞑っていて。
「そう言えば、何か今年の夏はお仕事とか少なかったですねぇ」
「む‥‥まぁ、な。凶賊以外の仕事に手を出さなんだからな。夏に押し込みをする輩は少ない。ましてや商家が江戸の現状ゆえあまり落ち着いておらなんだからな」
「夏の押し込みって少ないんですか?」
「‥‥夏の夜、安眠は出来たか?」
「‥‥‥‥あ、そういえばそんなこと聞いたことがありました」
 ちらりと目を開けて言う昭衛にあまりご機嫌が宜しくないのだろうかとばかりに首を引っ込めつつ言う正助。
「それでな、そろそろ奴らも動くことであろうと思ってな」
「で、でも、今まであれだけ被害が出たりしていたんですよ? その、被害、出てないんですか?」
 言い辛いことでも気になったのかそう正助が問いかければ、緩く息を付いて袂から手を出すと口を開く昭衛。
「出て居るよ。‥‥尤も、それがあまり表だって話題になるような者達ではないがな」
 どうやら昭衛の言うには、今一つ身元の分からない町人が数人被害に遭っているらしいとのことで。
「まぁ、おやじ殿が居ない現状、他所から入ってくる話というのは、限られておってな」
 微苦笑気味に言う昭衛ですが、恐らく耳に入ってくる話では十中八九、二ノ宮基に寄る凶行であることはほぼ間違いがないのでしょう。
「嵯峨屋と庄五郎らを知って居った郁清、これらの捕縛と二ノ宮の捕縛、これを頼みたいと思ってな」
「でも、それだけとなると‥‥」
「捕縛について、手が足りぬのは分かって居る。二ノ宮を追うと言う一組と共に、手伝いにももう一組頼みたい」
 昭衛の言葉に正助は依頼書へと筆を走らせるのでした。

●今回の参加者

 eb1821 天馬 巧哉(32歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb2963 所所楽 銀杏(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3064 緋宇美 桜(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3736 城山 瑚月(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●闇夜のこと
 暗いくらい闇の中を駆ける小さな数人の男達の足音。
 ひたひた、ひたひたと自身の後を付けてくる足音を聞きながら、手拭いで顔を隠し先をかける男はまるで暗闇の中を縫い闇に溶け込むかのように男達の先を駆け抜けていきます。
 先頭を切って追う男の眼光は、まるで雲に隠れてしまった月の代わりのように妖しく光り狂気を宿し、其の男の後を追い走る男達は在る者は凶暴な笑みを、在る者は先頭を行く男に怯えるかのように目を向けながら続いていて。
 そうして、男達の一団に少し遅れて一人の男がそうっと後を付けており、この闇夜の奇妙な追跡劇を眺めながら後を追って様子を見ているようにも見え。
 先を行く手拭いの男の姿がふっと消えれば、周りは武家屋敷。
 闇に消えた手拭いの男は、追っ手らの案外側に居ました。
 気配を殺し木の枝が姿を隠す、塀の後ろ側で、ゆっくり手拭いを外し現れる顔は死んだはずの吉三郎、ですが、するりとその顔が崩れ落ちれば、下から現れた顔は城山瑚月(eb3736)です。
「‥‥あとは‥‥」
 小さく呟く城山が目を向ければ、男達の行く手を阻むかのように立つのは李連琥(eb2872)。
 そして退路を断つかのように彼等の入ってきた道に立ち塞がる誠志郎。
「冥府への道案内、浮世の鬼が勤めよう」
 誠志郎が言えば、にたりと笑う二ノ宮。
「‥‥改方、か? は、聞いたとうり、連んでるンだぁなぁ、おぃ」
「‥‥決して逃がしはせん。この場で禍根を断つ」
「いつだったかの坊主も一緒かよぉ、まぁ、俺としてはよぅ、てぇ抜いたとしても、手前ぇの刀ぁ、うけとめられるンは、気にいらねぇんだよっ!!」
 ゆらりと動けば一瞬自身の手下に目を向け誠志郎の方へと向かわせれば、自身は一度己の剣線に立ちはだかった連琥をまずは標的としたか刀の柄へと手を添える二ノ宮。
 同じ刻限、僅か手前、武家屋敷前で背を丸めて身体を引こうとしていたのは、二ノ宮達を少し離れて追っていた男。
「何処へ行くつもりだ?」
 天馬巧哉(eb1821)のかける声へぎょっとしたように目を向けたその男を見て、天馬と共に匕首を握り立っていた庄五郎が忌々しげに眉を寄せ。
「‥‥夜貫の介蔵‥‥郁清じゃありやせん」
「‥‥やはり、か‥‥」
 忌々しげに天馬も小さく呟くのでした。

●郁清と二ノ宮
「まー、自分のタニマチ自分から切るとも思えませんけどねー、郁清の所に出入りしてるのと蛇腹屋の雇われ者の顔が一致したらソレはソレで‥‥」
 緋宇美桜(eb3064)が言いながら現在の報告すれば、所所楽銀杏(eb2963)は少し考える様子を見せます。
 庄五郎の飯屋には庄五郎とおさえの他、もう一組から庄五郎に話を聞きにきた貴由と、二ノ宮捕縛の助っ人として誠志郎が加わっていますが、城山は丁度二ノ宮の方へと張り込んで機会を窺っているためこの場にはいません。
 問題点としてはどの頃合いにどこまで捕らえるか、実際の所蛇腹屋はあくどい事をしてもおり、嵯峨屋や二ノ宮が盗賊であるのを知っているとしても、当人が盗賊を出来ない体型であることは明らかです。
 それでも、御店の人間の大多数は、蛇腹屋のことや嵯峨屋のこと、二ノ宮のことなど、いろいろと知っていることはありそうで、その点では御店ごと抑えてしまって何ら問題はないかもしれません。
 ですが嵯峨屋はまだ完全に盗賊と奉公人の区別が付いていない状況、その上、庄五郎の知っている範囲内ではありますが、郁清はいつも危険を感じればいち早く察して逃げてしまうとのことで。
「二ノ宮を煽り、密偵達を狙うようけしかけてたならこいつが一番赦せない。‥‥現に、聞き及ぶところでは、吉三郎と接触していた男が人相書きの郁清によく似ていたとのことだしな」
「嵯峨屋は、上方の時も一応は御店を持っていたそうです、よ‥‥」
 天馬の言葉に頷いてから、銀杏も口を開きます。
「あまり大きな御店ではなかったそう、ですけれど‥‥嵯峨屋は、その頃に比べ、随分立派、とか‥‥」
 銀杏に話をしてくれた、上方から来た行商人の話から、上方の時代にあまりいい評判を聞かなかった様子の嵯峨屋では、今の江戸の嵯峨屋をそっくりと手に入れて開くは難しいのではないかとのことで。
「開店資金‥‥それまでの仕事の成果と、二ノ宮が宮辺だった頃の儲けも吉三郎さんから掠めてた‥‥なんて考え過ぎですか、ね」
「いや、二ノ宮の吉三郎への執着具合と、実際の吉三郎が死んだ時の懐具合を考えれば、ない話じゃないだろうな」
「まー、かなり立派な御店ですからねー、そっくりと御店や中の物をまとめて買い取るには、結構な金額必要でしょうし」
 銀杏の推論に天馬と桜は頷き、連琥も考え込む様子を見せ。
「なれば今の正常でない二ノ宮であれば、嵯峨屋と吉三郎のどちらを優先するかは考えるまでもない。とすれば、そのような二ノ宮に大事を話すとも思えん。二ノ宮からは嵯峨屋以外にいる一味の者の隠れ家などは全く知らされていないかもしれぬな」
「どちらにしろ時間との勝負となりそうだな」
 連琥が云えば天馬は小さく溜め息をつくのでした。
 動きがあったのはその二日後。
 城山は二ノ宮を張り、郊外の家の床下に潜み様子を窺っていました。
 張り付いてから三日目のその日まで、二ノ宮はだらだらと其の農家で茶碗に酒を注いではちびりちびりと舐めているようで、出かける気配はなく居たのですが、そこにやってきたのは、一見ただのお酒の徳利を持ったお百姓さん。
 ですが、そのお百姓さんは裏手へと回るとするりと当たり前の用に家の中へと入ってくると、ちらりと目を上げた二ノ宮に頷いて見せ、何やら徳利を置いて再び出て行きます。
「‥‥あの男は‥‥」
 目でだけ追う城山ですが、来た方へと戻っていくのを見送り家の中へと意識を戻せば、二ノ宮は声を張り上げ誰それを呼んでこい、明日の正午までには、等と指示を飛ばし始めて。
「‥‥決行は、明日ということですか‥‥」
 嵯峨屋の方の情報と確認を取らなければ、そう考えながら、城山は息を潜めて今暫くの間二ノ宮と家の中にいる者達の監視を続けるのでした。
 一方、蛇腹屋屋根裏にて、桜は人相書きと影働きの方より上がってきた嵯峨屋との結果を見比べていました。
「‥‥殆どの人は二ノ宮側みたいですけどねー?」
 蛇腹屋の方を出入りしている人間と直接嵯峨屋と出入りしている者はと言えば、商売付き合いをしていればこその手代の行き来ぐらいではあるものの。
 蛇腹屋から出かけていく用心棒らしき男達がちびちびと出かければ、出先の茶屋や花町で顔を合わせる者を調べてみれば、番頭と働いている、出入りをしていたのとは別の手代。
『‥‥で‥‥旦那様にも困った者で‥‥』
 僅かな上方訛りの言葉の強弱で笑いながらいう番頭に、腕を組む用心棒、桜は花町よりも酒場とかの方が潜みやすいんですけれどねーとか思いつつ床下で耳を澄ませてみれば。
『‥‥まさか協力していただけでなく、江戸に出てきて本格的に自分が‥‥とは大胆なことを考えるもの。まぁ、鬼も居らず狗たちを消して回る目立ちたがり屋のお陰で大分楽に動けはするが‥‥』
『へぇ‥‥あたしらのお盗めも、一通り片がついたらあの狂犬共におっかぶって貰って、ほとぼりが冷めたら‥‥へっへっ‥‥』
『‥‥あの郁清とか言う輩‥‥どうにも気に入らん。幾らお主らの頭が大枚でほとぼりが冷めるまで匿ってやったからと言って、聞くだにそれでもまだまだ懐に金を抱え込んでいるらしいじゃないか』
 用心棒の言葉に耳を欹てる桜、番頭は肩を竦めて。
『そりゃ‥‥手前ぇの金をぜぇんぶ出す奴ぁあまりおりゃしませんでしょ? そういやぁあのおっかない旦那はどうしてらっしゃるんで?』
『あれの仲間だった奴らは蛇腹屋の仕事の方が大分に楽らしいな。今周りにいるのは、あれと連むような頭の可笑しい浪人者か、あれに斬られることに怯えて従っているような奴らだけだ』
 金と隠れ家とお互いの都合に合わせて蛇腹屋と二ノ宮は関わっていたようで、二ノ宮の配下を蛇腹屋に回すように働きかけたのも郁清とか。
「これはこれは‥‥どうもこの様子じゃ、嵯峨屋の方の盗賊としての配下は郊外に隠れて済んでたりするようですし、二ノ宮のいた農家の方っぽくもないですねー?」
 押し込みの時に迎え撃つしか一網打尽にしにくいようだと小さく呟くと、桜は今暫く野間、二人の男達の会話を聞き続けるのでした。
「‥‥やはり、嵯峨屋の開店費用の出所は吉三郎の持ち逃げた金‥‥郁清経由で、だな‥‥」
 郁清が先に歩くのに、大部に距離を置いて後を付ける天馬が呟くのは先程の銀杏と沢との会話から。
「ええ、義兄の話では嵯峨屋の開店資金は多めに見積もってそれぐらいで‥‥他に隠し持っている場合は何とも言えないですけど」
「‥‥奉行所の調書き、では‥‥吉三郎が持ち逃げしたお金の、半分にも満たない‥‥です、よ‥‥?」
 人相書きを影働きの方より受け取る際に役宅へと寄れば、ちょうど奥方に着物を収めに来た沢から、お店のお義兄さんから聞いたことを言伝ようとしていたそうで直接話を聞いて考え込む銀杏と天馬。
「だが、嵯峨屋の番頭達が話していた内容じゃ開店資金ぐらいだったらしいしな‥‥まだまだ隠し持っている様子だったと言うことは、吉三郎殺しもほぼ郁清で間違いないのかも知れないと‥‥」
 桜の聞き込みと、自身が花町で吉三郎の足取りを確認し、郁清らしき男と接触してからどんどんと追い詰められていったらしき吉三郎が、当時相手をした女から郁清らしき男に何かを告げて頼んでいたらしいことを聞き出して。
 また其の直後に酷く荒れて騙された、などと口走ったこともあるとか聞き、また他の女より占いがてらに振った話から耳にしたのはとある竹林の事を酔って吉三郎が口走ったこと。
 実際に改方同心と共に行ってみれば、何年も前のことなので掘り返された痕跡などは分からなかった物の、目印だったろうと思われる石とその側を掘ってみて、こぼれ落ちたらしき小判を数枚見つけ。
「‥‥幾つか他にも気になることがあったが‥‥念のため、そちらには同心の方に確認して貰っているところだな」
 先を行く郁清を張りながら小さく再び呟く天馬、距離を取り気取られぬように細心の注意を払い後を付けながらも、郁清という盗賊に対して、掴み所がないようにも、その尻尾を掴まえたような気分にも感じられ、違和感を抱えながら今暫く後を追うのでした。
 城山はじっと息を殺しながら、銀杏が二ノ宮の後を追うのを確認して、同じく距離を置いて後を付け始めました。
 同じく頃合いを見て互いに先に付けるか後に付けるかを入れ替わりながら歩いて行けば、二ノ宮が入っていった蕎麦屋、ここは城山が潜み入り、銀杏は姿を変え離れた席へと着いて蕎麦を頼み様子を窺うと。
 やがて入ってくるのは酒の徳利を持って入ってきた男で、気になることと言えば、一瞬その男だと城山も確証が持てなかったと言うところで。
「では、手筈通りに‥‥あたしらと同じ頃合いに、お願いしますよ‥‥」
「斬る訳でないのがつまらねぇがなぁ、俺としてはよぅ。その後になら、あれだ、やっちまっても構わねぇよなぁ、おい?」
「へ、兎に角、同じ刻限にそっちの御店をやってくださりゃ、後は自由にと、あっしの旦那からの言伝でさ」
「郁の野郎が確かに言ったんだぁな? 俺としてはよ、あの後生き延びたってぇ奴が吉三郎の他にいたってぇだけで気にいらねぇからよぅ、しかも、足ぃ洗ったって? ‥‥しかし、憶えてねぇなぁ、そんな奴なんてよぉ?」
「そりゃ‥‥か、堅気になったッてぇんなら、違う名前を名乗っても可笑しかありゃしませんぜ」
 銀杏にも城山にも、どうにも男の言葉は苦し紛れの言葉に聞こえますが、二ノ宮にはそんな判断も既に出来ては居ないようで。
「安心しておけよ、明日の夜半にゃぁ、こっちの店ぇ、押し入ってやるからよぅ」
 低く小さく笑う二ノ宮に、銀杏は嫌悪感を憶えて知らず小さく唇を噛むのでした。

●奔り寄る影
 二ノ宮がその夜、配下達を連れて追うは、吉三郎に扮した城山、完全に血に飢え狂った様子で、打ち合わせられた店に向かうことはなく、また配下も押し込み先の御店を知らないか、在る者は血によりいきり立ち、在る者は血に怯えて付き従っており。
 そうして、武家屋敷にて立ちはだかる連琥に退路を塞ぐ誠志郎。
「‥‥危険なことに付き合わせ済まない。必ず守る」
「へ、私でお役に立てるんでしたら、覚悟は出来ておりやすよ」
 匕首を握り、懐に縄を抱いて静かに笑う庄五郎、命の預けるに足ると信じついてきた様子の庄五郎の言葉に天馬が更に何か言おうとするより早く、最初の一撃を踏み込んだのは二ノ宮の傍らに控えた体格の良い浪人者、ですが‥‥直ぐに木々の間より光る鏃、助っ人として木の上に控えていた彦坂兵庫がまるで二ノ宮と連琥の対峙を妨げる者を排除するかのように射抜き、急ぎ矢を番え直して。
「温い太刀筋だ。蝿が止まるほどにな」
 退路突破しようとした男の刀は、いとも容易く紫色に光る霊刀によって受け止められ、切り倒され血に伏せる男。
 誠志郎の位置より二ノ宮は遠く、銀杏が二ノ宮の動きを絡め取ろうとするも、配下の男達の動きを妨げ城山や桜で取り押さえるので精一杯、そんな中で兵庫の援護もあり、二ノ宮と対峙する連琥。
 極限までの集中、互いに呼吸を読みあい対峙していれば。
 空気が流れた、と思うときには既に抜き放たれた白刃が目にも止まらぬ速さで連琥に迫り。
「な、に‥‥?」
 其の一瞬を見切った連琥の白銀の篭手が二ノ宮の刀を受け流し、飛び退ろうとする二ノ宮の背を、配下達の姿を摺り抜け撃ち抜く光の矢。
「ここで、終わらせるっ!」
 ムーンアローで二ノ宮を撃ち抜いた天馬に気を取られた其の一瞬の隙、懐深く飛び込んだ連琥の拳が二ノ宮の胸へと撃ち抜けば、血に飢えた狂犬はその場に崩れ落ちるのでした。

●僅かの安息を‥‥
「それにしても‥‥郁清は、逃がしてしまいました‥‥」
 庄五郎の飯屋に集まった一行、銀杏が僅かに目を伏せ呟けば、おさえが微笑を浮かべて小さく首を振って。
「庄五郎さんが今出てるのはね‥‥」
 おさえの話に目を向ける庄五郎と天馬を除いた一行。
 ちょうどその頃、江戸の郊外を一人の旅人がのんびりと歩を進めています。
 嵯峨屋の盗賊をだまくらかして上手く逃げおおせた筈の郁清です。
「ふぅ、全く、また暫く江戸抜けか‥‥ん?」
 ふと、微苦笑混じりに呟いた郁清が憶えているのは、そこまで。
「事の元凶、逃がすわけがなかろう?」
 同心の木下と庄五郎とで眠りに落ちた郁清を縛り付けている側で、スリープにて郁清を眠りへと誘った天馬が口元に僅かの笑みを浮かべ呟くのでした。