【凶賊盗賊改方】躙り寄る影
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■シリーズシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 32 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月12日〜06月19日
リプレイ公開日:2008年07月03日
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●オープニング
その日、ギルド受付の青年代理・正助少年が彦坂の屋敷を訪れたのは、嫌な雨が降り続く、薄暗い昼下がりでした。
「あの、その‥‥だ、大事なくて良かったです‥‥」
「あ、いえ‥‥お店の方はお休みしちゃっていますけれど、良くして頂いていますので」
正助にお茶を運んできたのは難波屋の看板娘・おきた。
二ノ宮基のおきた襲撃があってから、話を聞いた昭衛が激怒したそうで、今回の件が落ち着くまで念のためこちらの屋敷で預かることとなったよう。
昭衛は源徳側の人間のため、いざというときの事も考えられているようで、何かあれば清之輔と共に他の安全な場所へ移すという手配までしてあるそう。
「待たせたな」
その声と共に部屋へと入ってくる昭衛、何やら現状で色々と気に掛かる件が多いようで、少々疲れた様子は見えるものの、一つ息を付くと正助の前へと座り。
「さて‥‥先達ての調査の結果と、その商家についてのことを話す前に‥‥」
「は、はい‥‥」
「分かっていると思うが、先の件では、一般の人間を危険に晒し、協力してくれた者の命に関わるところであった。故に、その元凶となった者が万一来ることがあれば、私の前に顔を出すなと伝えておいて貰いたい。勿論、密偵達の前にもな」
それはおきたを巻沿いにして危険に晒した人間へ、昭衛が激怒していることを現しており、逆におきたと親しい者には申し訳ない、責任を持って安全が確認できるまで預かる旨を伝える昭衛。
そうして、被害はそこだけではなかったようで。
「さて、現状だが‥‥あれから辻斬りについては止まったのだが‥‥別の所に危害が出ておる」
「別の所‥‥ですか?」
「既に密偵であった男が2人、川に浮いている」
「えっ!?」
驚く正助に続ける昭衛、おきた襲撃の直後から、辻斬りはぴたりと止んだのですが、それからこの日までの間に、改方で経験の浅めであった同心個人へと協力していた者が消されてしまったとのこと。
「城山、緋宇美両名が行き着いた商家は嵯峨屋と言って上方からの色々とした小物を扱っているらしいが、大層羽振りが良いようだ。あの店で二ノ宮を張っているが、感付かれても不味い、その為どうしても後手に回ってしまうようだが‥‥」
そう言う昭衛、あれからその店を引き継ぎ張っているのですが、現状では二ノ宮はそこに逗留している客と言う立場のようで、嵯峨屋と何か特別なことを話し合う様子は窺えていないよう。
また、その二人の密偵は本来ならば昭衛もその男達を使っていることを知らないような、同心と直接の協力関係のため、何故彼等へと繋がったかも分かっていないとのことで。
「その両名のこともそうだが、嵯峨屋の方もな‥‥嵯峨屋が確かに上方よりやって来て店を出したと言うことははっきりしているが、それ以上の事も怪しい様子も見つかっていないとか‥‥」
普通に江戸で店を構えてから二ノ宮は暫くしてやって来たよう、店が商いを始める直前に嵯峨屋が何処へか出掛けていったようですが、それ以降は普通に御店を構えて商売をしている以外怪しいところはなく、江戸観光にでも行っていたのだろうと思われている様子。
「今回仕事の判断については任せよう。私は石川島の治安の方で少々忙しい。前回のように人前で堂々と情報の受け渡しをやろうなどと行ったことはないと思うが、くれぐれも宜しく頼むぞ」
昭衛の言葉に正助は頷くと、依頼書へと筆を走らせるのでした。
●リプレイ本文
●先のこと
「改め方に関係のある者は誰でも襲うか、まるで狂犬だな」
「‥‥確かに手に余るほどの狂犬ぶりですが‥‥そろそろ、攻めに転じる算段を始めても良い頃合でしょう‥‥」
天馬巧哉(eb1821)の言葉に城山瑚月(eb3736)は僅かに眉を寄せて頷きながら口を開き。
そこは庄五郎の飯屋の二階、一行は嵯峨屋と二ノ宮との関わりに付いて手にした情報から確認を進めているところでした。
「ところで、李さんはどうしたんでしょう?」
「あ‥‥先日のことで‥‥白鐘の親分さんの所へ、お礼を言いに行っているです、よ‥‥」
緋宇美桜(eb3064)が聞けば所所楽銀杏(eb2963)が食事をおさえから受け取ってきたのかお盆を手に上がってきながらそう言って。
「そうか‥‥それにしても、おきた殿が無事で本当に良かったな」
銀杏の言葉に僅かに息を付いたのは天馬、先日のおきた襲撃を思い出せば、その場に駆けつけられ、間に合ったことに改めて安堵の思いで。
難波屋の看板娘であったおきたと李連琥(eb2872)は近頃特に互いを憎からず思っている様子が窺え、それであればこそ、余計に間に合わなかったときのことを思えば連琥もじっとはしていられなかったようで。
「まぁ早いところ片を付けないと、おきたさんもお仕事に戻れないですしねー?」
「長引いてしまって申し訳ないが、もう少しの間だけ、密偵の方々には自重願うしかないな」
桜に同意を示すように頷く天馬。
「俺は緋宇美殿と手分けし嵯峨屋での潜伏調査、李殿とは尾行時の合流と連係で詰めていく形ですね」
城山が言えば桜も笑みを浮かべて頷いて。
「元々嵯峨屋には張り付いて調べるつもりでしたしね。‥‥でも、蛇腹屋が小物を二ノ宮一味に渡していたっぽいけど、蛇腹屋は米問屋だし嵯峨屋は小物屋だから逆の方が自然な気が‥‥」
「嵯峨屋と蛇腹屋についても、その辺り分かりそうな人に一緒に聞いてくる、ですよ‥‥」
疑問に思い至ったか首を傾げる桜に、銀杏はそう言うと天馬も口を開き。
「俺は吉三郎の方の探りから何か掴めるかも知れないし、そちらを続行する」
各人は改めて確認をすると、それぞれ立ち上がり散るのでした。
「おきた殿、本当に無事で良かった‥‥」
「す、すみません、その‥‥心配、お掛けしまして‥‥」
こちらは彦坂家屋敷、連琥は白鐘の紋左衛門の元へと寄った後報告なども兼ねて昭衛の元へとやって来ていました。
「それで、方針は決まったか?」
一通り再会と無事を喜ぶ二人、落ち着いたところを見計らってか昭衛が部屋へと入ってくれば、向き直り座り直すと頭を下げる連琥。
「嵯峨屋と二ノ宮の繋がりを洗うこと、二ノ宮の動向にこれまで以上に注意を払う事を優先してくことに。今暫く時がかかってしまうのが厳しくも」
「まぁ、仕方あるまい」
各人今以上に接触や連絡に気を使うようにとは通達してあるよう。
「しかし、私一人では太刀打ちが出来ぬ実力であることを思えば‥‥」
「ふむ、手が足りなば仕方あるまい、その時は愚弟を扱き使って構わん。各人命に代えられることはない、重々気をつけて動くよう」
言うと石川島の方に仕事があるとのことで席を立つ昭衛。
「おきた殿、不便をおかけするがきっともうすぐ全て片付けるので‥‥」
「‥‥はい、待っています。でも、李さんも、どうか‥‥どうかお気を付けて‥‥」
連琥の言葉に心配げに見るおきた、それを見て連琥は頷いて見せるのでした。
●嵯峨屋
「久し振り、良かった、怪我とかしてないか?」
客を装って沢の義兄が営む呉服屋へとやってきた銀杏、それを理解してか店の奥へと客として案内するそぶりを見せてから、辺りを確認して、沢はほっとしたような様子で銀杏へと笑いかけます。
「手紙で先に聞いてなかったらつい声かけちゃうとこだったけどな。まぁ、そのあたりは俺の方も義兄さん姉さんも気を付けるから、大丈夫。とと、義兄さんに話を聞きたいんだったよな、嵯峨屋だっけ?」
仕事で来ているのに会えた嬉しさを何とか抑えつつ話す沢に、銀杏も本当に微かにではありますが頬をほんのりと染めてこっくり頷き。
「嵯峨屋と‥‥あと、蛇腹屋の関係のこととかもです、よ‥‥。それに、火天の成長ぶりも、見せたかったです、し‥‥」
話しながら奥の客間へと入れば、沢の義兄である呉服屋の主人が待っており、いくつかの話を聞くことが出来る銀杏。
「では‥‥」
「あの店を手に入れるのに蛇腹屋さんの口利きがあったらしいですね。その代わりに人を紹介するなどといった見返りをしていたらしいですが」
主に荒事に長けた人間を蛇腹屋へと斡旋し、その見返りに店を開く手助けをさせたとのことで、嵯峨屋の前身は良く分かっていないものの、抜け目はないが商売人であったとは思えないとのことで。
「扱う品物は蛇腹屋の伝手である可能性が高い訳ですかー」
戻ってきた銀杏の報告を聞いて、嵯峨屋の様子を伝えに落ち合う予定だった飯屋へと来た桜は何処か納得したかのように頷いて。
もっともあの悪趣味な扇などを考えれば誰の趣味かは分かるところではあるのですが。
「少しだけ怪しげな人達は居るんですけどねー? どうも二ノ宮と嵯峨屋自身は店主と客としての行動しかしませんし‥‥城山さんの方でもそろそろて言う話になってきているんですが‥‥」
虎穴に入らずんばとの事なのですが、今までの動きが動きであったために少々危険の度合いが高すぎることもあってか、僅かに表情を曇らせる桜と銀杏。
「もう少し調べてからですけどねー」
桜の言葉に銀杏が頷くと、そろそろと言って立ち上がる桜。
「そう言えば、蛇腹屋は御店を立ち上げる際黒い噂がありましたけど、嵯峨屋は特になかったんですか?」
「ええ‥‥御店自体は、既に御店を開いている蛇腹屋が口利きだった、ですが‥‥ちょうどお店を売りたがっている人がいたそうです、よ‥‥」
「じゃあ、そちらから攻めるわけにも行かないようですね」
そう少し悩む様子を見せるも、桜は立ち上がるとにっこり笑って嵯峨屋を探りに戻っていくのでした。
●二ノ宮
「二ノ宮はなかなか動きませんか‥‥」
じっと息を殺して嵯峨屋の床下に潜んでいるのは城山。
二ノ宮に万一気付かれたらと気を付け、少々距離を取りながらではありますが、この三日ほど二ノ宮は外へと出る様子は見受けられず、緩く息を吐いて。
『‥‥した、出かける‥‥他所に泊まるかもしれねぇんでね? へぇ、明日の‥‥昼前辺りから出るつもりでなぁ』
低く笑いながらも何処か嫌な感覚を覚える声、僅かに眉を寄せる城山が耳を澄ませれば、果たして其の声の主は二ノ宮その人で。
「‥‥明日の昼前から‥‥」
口の中で小さく反芻すると暫くすれば御店で働く数人の二ノ宮への印象が酷いこと、不気味に思って居てあまり近付きたくない類の男と思って居ることが分かり、またそういう風に働いている人達はどうも口入れ屋から回されているらしいことが聞いて取れます。
「‥‥何処までが盗賊なのでしょうか? 嵯峨屋の動きがあまりにもなさ過ぎるのも気になりますが‥‥」
とは言え、桜も城山も、若い使用人のうち2、3人の足の運びなどが少々玄人っぽい者もおり、また嵯峨屋自身の足音もまたしないという状況に、否が応でも疑いは強まっていくのですが。
「一般の方でしたら大変なことになりますからね‥‥」
手の足りないことに僅かな焦りを感じ始めていた城山、そこへの手助けは外部からやって来ました。
別件に関わっていた数名が、打ち上げ前に同じ密偵として手を貸すとのことで顔を出して、二ノ宮と嵯峨屋への張り込みに手を貸してくれるとのことで、手分けして張り込みを頼み。
そうして、日は変わり二ノ宮が刀を手に嵯峨屋から出かけていけば、外から張っていた連琥と一瞬ちらりと目配せをし、後を尾ける城山。
距離を置いて、手伝いに来た貴由と御神村も加わり二ノ宮の後を追えば、やがて入っていくのは郊外の農家。
「‥‥‥あの男は‥‥」
二ノ宮が入っていって、家で外の様子を窺う男の姿が見えるのですが、それを見て思い出すかのように僅かに目を懲らす城山は、ふとそれが天馬が渡した人相書きの、難波屋でのおきた襲撃時に二ノ宮に耳打ちした男であることに気が付いて。
「‥‥今日は動く様子はもう無いと‥‥」
農家の様子を窺ってから城山はそう確認すると、連絡を頼んで伝えて貰うと、改めてその中の様子を窺い、策を仕掛ける頃合いを伺うのでした。
●裏の繋がり
一方、花街の方で吉三郎について探りを続けていたのは天馬。
先ほどから天馬の耳に入ってくる吉三郎の情報はと言えば、とにかく羽振りが良かったことばかり。
「‥‥しかし、吉三郎の羽振りが良かったとして、それは密告して仲間を売ったから‥‥? それはないな、罪を見逃して貰えたり、密偵として使われたりすることはあっても‥‥」
何故かと考えれば、推測の域を超えないまでも、当時吉三郎に売られた二ノ宮のそれまでのお勤めで稼いだ金は何処へ消えた、と言う話しとなり。
奉行所時代の事柄と考えれば改方でも分かるのは限られてくるものの、どれだけ貯め込んでいたか、それがどれだけ見つかったかを考えれば。
「吉三郎が二ノ宮の金を手に入れた、ってとこまでは推測できるんだけどな」
小さく溜息をつく天馬、吉三郎が大金を残していたという話も耳にすることはありません。
「でも、ならばお金は何処に消えた、ですか‥‥?」
庄五郎の飯屋で聞き込んだ情報を打ち合わせていた天馬と銀杏、銀杏がふと首を傾げて言えば、天馬も考え込む様子を見せて。
「吉三郎を追う理由の一つではあるのかも知れないが‥‥未だに死んでいないと思って居るのか、死んだことを知った上で調べているのかで言えば、死んでいないと思って居るんだろうが‥‥」
頭を掻いて言う天馬、変装して注意をしているとは言え吉三郎の動きを追って行けば死んだぐらい耳にしている筈だがと首を傾げて。
「でも、生きていると思いうならば、逆に生きていると信じる理由がある筈です、よ‥‥?」
「‥‥誰かが生きていると吹き込んでいる‥‥?」
顔を見合わせる2人、そこに聞こえてくるのはおさえが何やら考え込んでいる様子です。
「どうしました、ですか‥‥?」
「いや、貰った人相書き見ているうちに、どっかで見たような気がしてねぇ‥‥」
「この男をか?」
天馬に確認されれば、更に考え込む様子を見せるおさえはふと何かに思い至ったようで。
「この男、少し痩せて感じが変わったから気が付かなかったけれど、街道沿いにあった‥‥」
「ん? 言われてみりゃ、確かに‥‥」
覗き込んで頷く庄五郎、何でも江戸より一日ほどのところにある街道沿いで押し込みがあったらしく、その時に目撃された男と目元やほくろの位置などが同じようで。
「ずぅっと上方の方に行ったと思われていたからねぇ‥‥数年経てばちょいと見は分からないで江戸に入ってこられたのかもねぇ」
元々江戸に関わりのない事件のため、どうしても他の事件や情報の少なさ、しかも上方へと行っていたと思われるのを考えれば自然と探索が疎かになってしまうのは仕方のないことでもあり。
「名前も分かっちゃ居ないんだけどね? あぁ、でも、庄五郎さん、この時‥‥」
おさえが何かを思い出したかのように言えば、庄五郎はまじまじと男の人相書きを見て、怪訝そうな表情を浮かべて。
「こいつぁ‥‥その頃長谷川様のお役に立とうとして、現場まで足ぃ伸ばしたなぁ、そういやぁ」
念の為調べるのに同行した形となったそうですが、庄五郎もその前はそれと名の知られた盗賊であったため、まだその時人相書きの男が上方へと立っておらず、その時に見られていれば‥‥。
「売ったと見られて恨まれかねないと‥‥漸く繋がりが見えてきたな。庄五郎さんや密偵を恨むこいつにしてみりゃ、二ノ宮も裏切り者の吉三郎への恨みもある、色々と吹き込むのに良かったんだろう。悪人は都合の良い事だけは聞くらしいからな」
天馬の言葉に銀杏も頷いて。
「‥‥後は、嵯峨屋とのつながり、です‥‥」
漸くに見えてきた繋がりを思えば、そこへと戻ってくるのは桜です。
「ふぅ、危なかったですねー」
「どうした?」
「いえ、危うく潜んでたとこでこの男と鉢合わせするところでしたよ」
じっと息を殺し何とかやり過ごしたと告げながら桜が見せるのは、いましがた話に上がった男の人相書きなのでした。
●狂喜
怒りと恨みは人を尋常ならざる狂気へと誘うもの。
正しくそれは二ノ宮基という男の為にあると言っても過言でなく。
「吉三郎も、奴ぅ逃がしゃがった狗畜生も皆ぁ、苦痛にのたうち死ぬが良ぃ‥‥ふ‥‥ふふ、ふふふ‥‥ふはははははあははぁあああっはっはっはっっ!! あの男ん言う通りッ! 奴は生きてやがったてぇんなら、手ぇ下せんじゃねぇか、俺としてもよっ!!」
まるで毒が広がるようにじわりじわり、時を掛けるごとに膨らんだ狂気が噴出し、竹藪の中二ノ宮は狂ったように笑い続けています。
あたりはすっかりと茜色に染まり、血で染めるかのように二ノ宮の姿を映し出して。
これより少し前、周りと連携をとり助勢の手も借り嵯峨屋と二ノ宮の顔を出した農家を張り続けた一行は、吉三郎の死が耳に入っているであろうにも関わらず、異常な執念で追い続け常軌を逸し始めた二ノ宮に、一つ揺さ振りをかけることになりました。
一歩間違えば命がけのこととなるそれは、城山の人遁の術により吉三郎の姿で二ノ宮の前に出るということ。
それは万一に備え連琥が常に張り付くとはいえ、一対一で対峙すれば命の保証のないことで。
農家に出向いていた二ノ宮が嵯峨屋へ帰途に着く時分、城山は記録と吉三郎の顔を知る者の話から姿形を模して歩いていました。
「‥‥吉三郎‥‥」
そうして、思惑通りに城山を目にした二ノ宮が、小さく口の中で呟くと、凄絶な笑みを浮かべ、その飾り気のない刀へと指を滑らせてゆっくりと足を向けて。
「なんですかねー、あの人相書きの人郁清って呼ばれてましたけれど、嵯峨屋の主人と『そろそろ奴を使って切らないとこちらが危ない』とか言っていましたねー。あ、でも、店の人達に二人とも気付かれたくない様子でしたよ?」
「危ない?」
「予定以上に狂っちゃったらしいですよ? 陽動に使う為に色々と吹き込んでたとか何とか‥‥」
桜の報告、思い起こせば事件は徐々に悪意が増幅されると同じ程、狂気も膨れていったように思え。
「‥‥死ね、吉三郎ッ!!」
尋常ならざる様子の二ノ宮が仕掛けたのは郊外の竹藪、一気に距離を詰め踏み込む二ノ宮と城山の間に割って入った連琥、抜刀に気が付き身を翻し逃走を図る城山とそれを確認し自身も別の方向へと駆け出す連琥。
二ノ宮は助勢に来ていた冒険者たちに見張られているのにも既に気が付かず、茜空の中いつまでも哄笑し続けるのでした。