裏切りの報酬
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■シリーズシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月17日〜08月22日
リプレイ公開日:2007年08月25日
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●オープニング
「お前、イアンを助けたんだって?」
ゴミゴミとした下町の、小さな路地裏。
袋小路になったその奥で、ネズミのような顔をした小男が気弱そうな男を壁際に追い詰め、小声で何事かを話しかけていた。
「しかも、奴の治療費まで払ってやったそうじゃないか、ん?」
小男は口元をねじ曲げニヤリと笑う。
「それで、奴が復活したら俺達はどうなると思う? 奴は頭は空っぽだが腕っ節だけは強いからな‥‥」
「そ、その腕っ節のお陰で今まで何度も助けられてたじゃないか。そりゃ、確かに‥‥あいつの態度にはもう我慢出来ないと思った事は一度や二度じゃない‥‥けど、なにも殺さなくたって!」
追い詰められた男、トムは何とかイアンの弁護を図ろうとする。
だが、小男は聞く耳を持たなかった。
「お前も空気の読めねえ野郎だな。俺達にはもう、あいつは要らねえんだよ。ぶっちゃけ、邪魔なんだ」
元々後ろ暗い事に手を染めてきた集団だ。邪魔者を消す事に対しては、不要品を捨て去る程の痛みさえ感じないのかもしれない。
「とにかく、奴に戻って来られちゃ困るんだ‥‥お前にも、な」
「‥‥!?」
「奴の始末を付けた後で、お前にもきっちり受け取って貰うぜ」
裏切りの報酬を。
「その日まで、そいぜいそうやってビクつきながら過ごすが良いさ、裏切者!」
小男はそう言うと、足早に姿を消した。
「う‥‥うそつきっ! ひ、秘密は守るって、い‥‥言ったじゃないかっ!」
後刻、トムはギルドのカウンターで受付係に向かってそう叫んでいた。
「嘘などついていませんよ」
受付係は心外そうな表情を浮かべる。
「私達職員も、勿論依頼を受けた冒険者達も、依頼人の秘密を漏らすような事は絶対にしません」
「じゃあ、何で奴等が知ってるんだよ!?」
自分がイアンを助けた事、それに治療費を負担した事まで。
「さあ‥‥寧ろそれはあなたの方がよくご存知なのでは?」
話を聞く限りでは、彼が属していたのは所謂「裏街道」を歩く集団であったらしい。ならば当然、事情通でなければ生き残れないだろう。
「‥‥そう‥‥だな‥‥。確かに、耳の早い奴も、わりと頭の切れる奴もいる‥‥」
そう言うと、トムはまたしても頭を抱え込んだ。
「‥‥って事は‥‥もしかして、今俺がここにいるって事も‥‥バレてる!?」
「そう考えた方が良いでしょうね」
受付係が落ち着き払って答える。
「どうせバレているなら、ついでに護衛を頼んで行きませんか?」
「そ‥‥そうか、あんたトボケた顔してるけど、なかなか頭良いな!」
トボケた顔は余計だ。って言うか普通それ位の頭は回らないか? この依頼人、余程動揺しているらしい。
「じゃあ、頼む。イアンは今、俺の家で面倒見てるんだ‥‥まだ当分動けないし、あいつ、人望もないけど身寄りもないからな」
もうあいつらは仲間じゃない‥‥トムは自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
●リプレイ本文
「傭兵の仕事ってすごく危ないって聞くけど、それで何年も生き延びてきたなんて、あなた達はよっぽど腕が立つのね」
薄暗い安酒場の隅に陣取った人相の悪い一団に酒を注ぎながら褒めちぎっているのは、マロース・フィリオネル(ec3138)だ。
しかし勿論、本気で褒めている訳ではない。これも情報収集の為だ。
「でも、最近は仕事も少ないんじゃない? 近頃は大きな戦の話もあんまり聞かないし‥‥」
「そんときゃそん時で、ちゃんと仕事はあるもんさ」
「へえ、じゃあ今もお仕事中なの?」
問われて、傭兵達はてんでに語りだした‥‥現在の雇い主の事、どんな計画なのか、逃走経路はどうなっているのか、等々。彼等には守秘義務という言葉も概念も存在しないらしかった。
「トム‥‥付き合う相手は選ぼうぜ」
ギルドで顔を合わせたトムの肩をぽむと叩くと、空木怜(ec1783)は溜息混じりに言った。
「友ってのは何事にも重要なファクターだしさ」
「面倒くせえが‥‥まあ、関わっちまった以上は最後まで面倒をみない訳にはいかねえよな‥‥やっぱり」
ジェイス・レイクフィールド(ea3783)は相変わらず悪態をつきながら、それでもやはり放ってはおけなかったようだ。
「全く小悪党の考える事はいつも同じだよな。邪魔になったら殺す? 短絡的だな」
「悪事を悔いて、かつての仲間を助ける者も居るのに‥‥」
ジェイスの言葉にロッド・エルメロイ(eb9943)が頷く。普段は穏やかで紳士的な彼も、流石に少しばかり腹に据えかねているようだ。
「我が身を振り返る事も無く、両者とも口封じを狙うとは、悪党の中でも更に許し難い」
「そんな人達の仲間だったのに、トムさんは彼等に染まらなかったのですね」
マリエッタ・ミモザ(ec1110)は前回の報告書に目を通し、トムの行動に感じるものがあったらしい。
「トムさんって、義のある方とお見受けしました。マリエッタ、参戦します! 」
「私も及ばずながら、引き続きお手伝いをさせて頂きたいと思います」
衣笠陽子(eb3333)が頭を下げる。
「では、ご自宅まで道案内をお願いしますね。私が仕入れてきた情報は、歩きながらでも‥‥」
マロースが一同を促し、彼等は地図を書いても恐らく辿り着けないだろうと言われたトムの家に向かって歩き出した。
「確かにこれは、案内がないと無理そうですね」
地形を把握しようとババ・ヤガーの木臼で上空に上がったマリエッタは眼下の光景を見てそう呟く。
道に沿って家を建てたと言うよりも、家を建てた際に余ったスペースが道になったと言うような道ばかり。道幅も大小様々だ。
トムの家は比較的広い道に面してはいたが、その道はくねくねと曲がりくねっていた。
「縦深陣を敷けるような場所はなさそうですね」
混戦になるのは避けられそうもない。
「マロースさんの話では武器を振り回せないような狭い道は通らないという事でしたが‥‥」
一方、家の中では怜がイアンを見舞っていた。
「さーて、イアン。経過を見に来たぞ」
処置はきちんとしたが、場所が場所だけに感染症の症状など出ていないかと心配していたのだが‥‥
「‥‥生え、かかってる‥‥?」
足首が。
「ああ、教会で治して貰えるように頼んだんだ。すごいよな、神様の奇跡って‥‥まあ、お布施もたっぷり取られたけど」
トムが言う。どうやら教会で魔法をかけて貰ったらしい‥‥とは言え、失った組織が完全に再生するまでには、まだ当分かかりそうだが。
「心配すんな、治ったら宝探しに行くんだからな。すぐに元は取り返せるさ」
俺は受けた恩は忘れない、とイアン。勿論、冒険者達にもきちんと礼をするつもりだった‥‥そして元仲間達にも、意味は違うが。
「やめとけ、そんな価値ねーよ、あんな小悪党ども」
「奴等には俺達が、二度と悪事がしたくなくなる位の恐怖をその身と魂に刻み込んでやるさ」
怜が鼻を鳴らし、ジェイスがニヤリと不敵な笑いを浮かべる。
「それで‥‥その後はどうするつもりなのですか?」
彼等の今後を心配したロッドが訊ねた。
「もし良ければ薬草の取り方や、一寸した生活の知恵など、生活していく方法のアドバイスなどをさせて頂きますよ。これでも結構長く生きていますので‥‥」
とても敵の襲撃を待っているとは思えないような、のんびりした会話が続く。
やがて‥‥
『来ました』
マリエッタの木臼に乗せて貰い、二人で屋根の上から見張っていた陽子からテレパシーが届いた。
「よし、じゃあ打ち合わせ通りに」
正面から来るという傭兵達を相手にするジェイスが玄関から、ロッドは屋根裏の窓から外へ出て弓を構える。マリエッタもそのまま屋根の上から迎撃する構えだ。
そして、傭兵達が彼等を引き付けている間に裏口から侵入する手筈だという小悪党3人組を捕縛すべく、怜が扉の内側で待機する。陽子はそのまま屋根の上、マロースは傭兵達から聞いた逃走経路の先で待ち伏せをしていた。
やがて情報通りに傭兵達が3人、正面からやってきた。
「覚悟して下さいね。あなた方の生死は、私も問いませんから!」
過去の辛い経験を思い出しつつ、マリエッタはトルネードのスクロールで先制攻撃を仕掛ける。
纏めて巻き上げられ、地面に叩き付けられた傭兵達に向けて、今度は矢の雨が降った。
「どこに飛ぶかわかりませんよ! だからと言って、気を付けろとは言いませんが」
仲間と自分にフレイムエリベイションをかけたロッドが、屋根の上で半ばヤケクソ気味に弓を引き絞る。狙っても当たらないなら適当に射っても同じ事‥‥いや、下手に狙わない方が当たるかもしれない。
「奴らが情報通なら、俺達とまともにやり合って勝てるかどうかぐらい判るってもんだろうに」
魔法と弓の洗礼が終わった所で、ジェイスが大剣を手に前へ出ようとしたその時‥‥
――ドガアッ!!
背後でものすごい音がした。振り返ると、トムの家の裏口付近で土埃が盛大に舞い上がっている。
「バカが、俺達が流したニセ情報を信じ込みやがって」
「‥‥ニセ情報‥‥!?」
慌てて家の中に戻ろうとしたジェイスの行く手をひとりの傭兵が塞いだ。
「場数が足りねえぜ、兄ちゃん」
「‥‥かもな。だが‥‥ここは俺が食い止める!」
ジェイスは屋根の上に向かって叫んだ。
「く‥‥そ、やられたっ」
崩れた壁の下から何とか脱出した怜は、ついさっきまで裏口の扉があった空間を見つめる。
「グラビティーキャノン‥‥か?」
安普請の多いこの辺りの家は耐久性もそう高くはないのだろう、裏口から続く路地もすっかり道幅が広がっていた。
「‥‥そうだ、トム、イアン!」
だが、後ろにいる筈の二人の安否を確認している暇はなかった。
魔法で削られ幅が広がった裏路地に数人の武装した男が現れ、まだ立ち上がる事も出来ずにいる怜に襲いかかる。
咄嗟に目の前の男をローリンググラビティーで巻き上げるが、多勢に無勢。しかし‥‥
「空木さん、大丈夫ですか!?」
屋根の上からの声と共に、地中から火柱が立ち上がった。壁が崩れて視界が開けたそこに可燃物はないと判断したロッドのマグナブローだ。
それに少し遅れてマリエッタが放った稲妻が走る。
魔法でダメージを受けた者達を、陽子がスリープで眠らせていった。
「とりあえず眠っていて貰いましょう‥‥さあ、この隙にお二人を!」
だが、安心するのはまだ早い。
怜が振り返った丁度その時‥‥背後の壁に丸い穴があいた。そこに現れたのは、ひとりの傭兵‥‥ただし、魔法使いの。敵に魔法を使える者がいる事は計算に入れていなかった。
その男の背後から、例の3人組が現れた。
「た‥‥助けてェ!」
動けないイアンを背中に庇ったトムが悲痛な叫びを上げる。
怜は咄嗟にローリンググラビティーを使おうとしたが、射程の短い初級では二人も巻き込む危険がある‥‥かといって専門レベルでは発動は殆ど博打、その上高速詠唱も使えない。
立ち上がった怜が距離を詰めるよりも早く、ひとりの男が手にした剣を振りかざす。
「間に合わない‥‥!」
だが、振り下ろそうとしたその刹那、男は凍り付いたように動きを止めた。
「‥‥何とか、間に合いましたね」
騒ぎを聞きつけて戻ってきたマロースがかけたコアギュレイトで拘束されたのだ。
「素敵なニセ情報をありがとうございました」
マロースは馬鹿丁寧な口調でそう言いながら、手にしたダガーで残りの連中にスマッシュを撃ち込む。
最初に固めた男が恐らく「永遠のナンバー2」だろう、それ以外は魔法使いも含めて、格闘での戦闘力はゼロに近い。魔法から格闘に切り替えた怜や、正面の敵を片付けて合流したジェイスの攻撃によって、彼等はほどなく鎮圧された。
「卑怯者! 罠に嵌めるやら怪我人を襲撃するのに人の手を借りるやら。女のわたしでも敵の前には立ちますよ!」
纏めて縛り上げられた賊達――首謀者も傭兵達も、一纏めにそう呼んで差し支えないだろう――に向かってマリエッタが怒りをぶつける。
「この二人に今後、手を出す様ならば必ず見つけだしてあの世に送り届けるからな。命が大事なら二度と姿を現すなよ」
と、ジェイス。もっとも、官憲に引き渡せば当分は出て来られないだろうが。
「しかし、油断は禁物だとわかっちゃいたんだがな‥‥」
「ああ、認識が甘かったな。幸い、上手く行ったから良かったが‥‥次からはもっと気を引き締めないと」
反省モードのジェイスと怜に、トムが大きな袋に詰め込まれた薬を手渡しながら言った。
「あの、これ‥‥手当に使ってくれ」
それから、と、怜には別の包みを差し出す。
「これは、この間イアンの治療に使った薬‥‥あの時はタダでやって貰ったからな」
せめて使った薬を補充しようと言う事らしい。マリエッタの見立て通り、なかなか義のある奴のようだ。
「しかし、この家は‥‥」
ロッドが瓦礫の山を見ながら言う。
「このまま住むのは難しそうですが、もし良ければ私の家に来ませんか?」
‥‥モンスター屋敷に住む勇気があれば、だが。
「巻き添えになったご近所の家も、何とかしなければいけませんね」
「そいつは、お宝を見付けて弁償でも何でもしてやるさ!」
陽子の言葉に、イアンが豪快に笑いながらそう言った。
どうやら例の洞窟の奥には本当に宝があると、本気で思い込んでいるようだが‥‥果たして真相は?