【村から町へ】なかったら、作ればいい
 |
■シリーズシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 71 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月21日〜11月27日
リプレイ公開日:2007年11月29日
|
●オープニング
「学校が欲しい‥‥か」
タンブリッジウェルズ領主にして円卓の騎士ボールス・ド・ガニスは、一枚の陳情書を前に考えを巡らせる。
それは、ただ「村」と呼ばれるエルフや人間、それにハーフエルフなど様々な種族が共に暮らす集落から寄せられたものだ。
「そう言えば、あの村もいつの間にか随分大きくなりましたからね‥‥」
ボールスがこの地に赴任した当時、そこはまだ数軒の家族が世間の目から逃れるように肩を寄せ合って暮らす、村とも言えないような小さな集団だった。
だが数年前、ボールスが彼等の存在を公に認め、自らの庇護の下に置くようになってから、状況は少しずつ変わり始めた。ここなら迫害を受ける事も、周囲の偏見に晒される事もなく、安心して暮らす事が出来る‥‥そんな噂が広まり、村には異種族婚を選んだ者やその子供達が移り住むようになった。今では人口も軽く100人を超えている。
子供の教育はそれぞれの家庭や、集会所で日曜学校のようなものを開いて行われているようだが、きちんとした設備や教師が欲しいという気持ちはわかる。それに、彼等は教会も欲しがっていた‥‥その殆どが教会に「禁忌」とされた者達なのだが、それでもやはり祈りの場は欲しいようだ。
「彼等を禁忌としているのは教会であって、神ではない‥‥などと言ったら破門されるかな」
ボールスは小さな声で呟き、今のは聞かなかった事にしてくれ、とでも言うように胸元で十字を切った。
その数時間後‥‥
「ええっ、オレ!?」
小さな村のインフラを整備し、立派な町に発展させようという遠大な計画。
その計画の全てを任せる‥‥師匠にそう言われたウォルは、頓狂な声を上げた。
「だってオレ、そんなのどうしたら良いかわかんないし、ええと、それに‥‥」
「わからない事があれば、誰かに聞けば良いんですよ。それに、実際に町を作れと言っている訳ではありません。あなたにやって欲しいのは、全体の纏め役ですから」
「まとめ‥‥?」
「きっと様々な意見が出るでしょうからね。それを纏めて、実現の可能性が高そうなものだけを私の所に持ってきて下さい。最終的に許可を出すのは私の仕事ですから」
「実現の可能性なんて‥‥そんなのオレ、わかんないってば!」
オロオロとうろたえる弟子に、師匠は笑いながら言った。
「なにも一人でやれとは言っていませんよ。好きなだけ、仲間を呼んで構いませんから‥‥依頼人がいなければ、仕事は頼めないでしょう?」
「あ‥‥なんだ、そーゆー事?」
ウォルは安心したように肩の力を抜いた。
「うん、ギルドに依頼出すくらいならオレにも出来るから。あと、仕事の説明したりとか。後は皆に任せちゃって良いんだよね?」
その言葉に、ボールスは微笑みながら頷く。
「まずは村へ行って、直接話を聞いて来てはどうですか? ここに書かれた以外にも、要望はあるでしょうからね」
ボールスはそう言って、先程の陳情書をウォルに手渡した。
「うん、わかった。じゃあちょっと行って来るね!」
そう言って、ウォルは元気に飛び出して行った。
その背を見送りながら、楽しそうに独り言を呟く腹黒師匠‥‥
「‥‥まあ、放り込んでしまえば、後は皆さんが鍛えて下さるでしょうからね‥‥色々と」
「そーゆー事でさ、町作りを手伝ってくれる人、募集したいんだ」
数日後、ウォルの姿は冒険者ギルドにあった。
「今んとこ要望が出てるのは学校と教会だけなんだけど、皆からも何か良いアイデアがあったら出して欲しいって、師匠が言ってた。あと、ついでだから何か人寄せになるような物も欲しいって‥‥」
「人寄せ?」
「うん」
受付係の問いに、ウォルはボールスに言われた事を思い出しながら答えた。
「えーとね、あそこの村も、もっと人が増えて、外との交流が増えれば、今よりもっと暮らしやすくなるんじゃないかって。ええと、今でもあの村の周りじゃ偏見とかあんまりないけど、遠くからも人が来るようになって、そんで村の人達と直接話したり、関わりを持って貰えるようになれば、もっと良くなるんじゃないかって‥‥村の周りだけじゃなくて、あちこち、遠くの方でもさ」
「‥‥まあ、確かに‥‥冒険者達の間にハーフエルフなどに対する差別や偏見が比較的少ないのは、彼等と直接関わり合う機会が多いから、かもしれませんね」
「うん、誰かがすげーヤな奴でも、それはそいつ個人がサイテーなだけで、種族の問題じゃないもんね。‥‥って事でさ、今んとこ名物に出来そうなのは、森や湖の眺めと‥‥あと、温泉くらいなもんかな、他のトコに無いようなのは」
そこまで言って、ウォルはふと思いついたように付け加えた。
「あー‥‥領主もある意味、名物かもしんない。うん」
●リプレイ本文
大きな字で「名称未定村開発作戦本部」と書かれた看板が掲げられた小さな集会所には、会議の様子を見ようと大勢の村人達が詰めかけていた。
「‥‥なんか、すごい注目されてる?」
ウォルはその様子を見て、ごくりと生唾を呑み込む。
「自分の村の事ですから、それだけ関心も高いのでしょうね。ウォル、この度は大任ご苦労様ですわね‥‥」
サクラ・フリューゲル(eb8317)に言われ、ウォルは初めてこの任務の重大さに気付いたようだ。
「だ、大丈夫かな、オレ‥‥ちゃんと、出来ると思う?」
「この仕事が終わった時、きっと貴方はご自分を誇れると思いますわ。自分が作った街なんだ‥‥と」
サクラはガチガチに緊張している小さな責任者に、安心させるように微笑みかけた。
「ですから頑張りましょう。私も出来る限りお手伝いさせていただきますわね‥‥ウォル」
「う、うん」
言われて、珍しく素直に頷く。
「最初はささやかでも、少しずつ形になるように作っていって、将来の発展を目指せるような物に出来るといいね」
デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)が言った。
「その為に、おいらも経験や知識を惜しみなく提供するつもりだからさ。おいら達が関わったって、誇りを持って言えるようにしたいね」
「う、うん」
「飲み物と軽食を用意しておきましたわ」
お茶とお菓子を乗せたトレイを運びながら、クリステル・シャルダン(eb3862)が声をかける。
「会議というよりも、お茶会のように楽しくお話が出来ると良いと思って」
「う、うん」
‥‥だが、ウォルは上の空。大丈夫なんだろうか、この子は?
「う〜ん、可愛いっ!」
可愛いもの大好きの星宮綾葉(eb9531)に頭を撫でられ、ウォルはやっと我に返った。
「な‥‥っ、撫でるなーーーっ!!!」
「ええと、今んとこ欲しいのは学校と教会だけ‥‥なんだよね?」
ウォルの問いに、住民達は頷き、口々に意見を言った。
「多くを望みはしません。この村で安心して暮らせる、それだけで充分なのですから」
「ただ、基本的な欲求が満たされれば‥‥その、多少は欲が出てくるもので」
「建物を造るのが無理なら、この集会所を使っても構わないんだ。ただ、専門の教師は欲しいと‥‥」
今までも手の空いた時に教師の役割をする者はいた。だがきちんと定期的に、出来れば毎日、子供達に色々な事を教えたい。
「この村は何しろ来る者拒まずだからね、教師も医者も、聖職者も‥‥大抵の人材は揃ってるんだ。ただ、それを専属で出来るだけの収入が、ね」
「なるほど、問題は収入ですか‥‥」
エリス・フェールディン(ea9520)が言った。
「やはりここは、宿泊、観光、食事などができる様な温泉観光地の様にして、経済的効果がより得られる様にするのが良いと思います」
「‥‥温泉、観光地?」
村人達は予想外の提案に首を傾げた。
「あ、うん。師匠‥‥じゃなくて、領主のボールス卿がね、住環境を整備するなら、ついでに村としての将来にわたる在り方を検討してみてはどうかって」
「‥‥あの、この村って‥‥ハーフエルフでも偏見を持たれずに‥‥村の外の人達とも仲良く暮らせる所‥‥なんですよね?」
自らもハーフエルフであるエスナ・ウォルター(eb0752)が、おずおずと尋ねた。
「だったら‥‥あの、この村がそのまま大きくなって、有名になれば、差別や偏見も少なくなるかな、って‥‥」
「‥‥要するに、この村を多くの人が行き交う価値のある街に発展させる事で、イギリス全体でジーザス教の禁忌に対する認識、迫害を和らげるのが狙いでしょうか」
マイ・グリン(ea5380)が、エスナの意見を補って要点を簡潔に纏めた。
「‥‥それだけの街が出来上がれば領主たるボールス卿にもメリットがあるでしょうし、損をする者のいない一石二鳥な計画かと」
事が成れば自分の恋愛にも大きなプラスだろうし、ウォルも街一つを任せられる程に‥‥新たな補佐役に育つだろうし、一石四鳥狙いともなると‥‥と、そこは声には出さないが、マイはそっとウォルの様子を覗き見た。
「‥‥頼もしい限りですね」
必死にメモを取っている彼は、今の所「頼もしい」とは程遠い様ではあるが。
「えっと、そういう事だからさ‥‥その、町作りのビジョンって言うの? それを、こっちから提案しても良いかな?」
ウォルの言葉に、住民達は「とりあえず聞いてみるか」と耳を傾ける。
「やっぱり、まずは温泉よね。収入源がなくちゃ始まらないわ」
綾葉が言った。
「ジャパン人の私とサクラさんで企画・宣伝に努めましょう。せっかくだからデザインを出来るだけジャパン風にして、見た目で惹きつけるように。‥‥そうだ、宣伝の一環として入らせていただこうかしら♪」
だが、そう言われても村人達にはピンと来ないようだった。彼等にとって、温泉とは飲むもの。先程マイが決死の覚悟で毒味をしていたようだが、実はこの周辺‥‥村では勿論、タンブリッジウェルズの城や城下町でも、温泉は井戸水の代わりとしてごく普通に、飲用に使われていた。と言うか、飲用以外の用途を思いつく者は誰もいなかった。
「ちょっと、待ってくれ。どうしてあんなものが収入源になるんだ? それに、入るとは‥‥?」
「‥‥まずは温泉とはどういうものか、そこからご説明させて頂きますわね」
サクラが入浴の習慣や、風呂とはどういうものかを説明したが‥‥川で冷たい水を浴びたり、塗らした布で体を拭く程度の事しかしない彼等には、お湯に浸かるという事自体が想像を絶する行為らしい。
「そんなもの‥‥誰が喜ぶんだ? とても、人が集まるとは思えないが‥‥」
「あの、大丈夫‥‥だと思います。私も‥‥ジャパンに行って、温泉、入りましたけど‥‥とっても気持ちよかった、です。一緒に、景色も楽しめたら、女性客にも喜ばれるんじゃないでしょうか?」
「ああ、露天風呂。良いですわね。そうでなくても‥‥お風呂は一度味わったら病みつきになる事、請け合いですわ」
エスナとサクラの力説に、村人達も温泉に興味を持ったようだ。だが‥‥
「もし、その通りに大勢の人が集まるようになったとしたら‥‥それはそれで、困るな。俺達は皆、何かしらの迫害を受けて、逃げる様にしてここに集まった者ばかりだ。余り目立つのは勘弁して欲しい‥‥まあ、俺達が積極的に外と関われば状況も良くなるかもしれないと、その理屈はわかるし、俺達としても望む所ではあるんだが‥‥」
「治安の問題は、確かに増えそうですね。迫害目的で来る人間がいないとは限らないですし‥‥」
ルーウィン・ルクレール(ea1364)が不吉な事を言う。しかし、それを杞憂とは言えない、それが今のこの国の現実だった。
「迫害が目的じゃなくても、この村がある程度上手く行って豊かになったら、将来差別感情と嫉妬がまぜこぜになってトラブルになる可能性は否定できないかな」
その為の警備の事も、今のうちから考えておいた方が良いかもしれない。
「‥‥そこまでして、大きくしたくはないな‥‥さっきも言ったが、俺達は静かに平和に、差別や偏見に晒される事なく、普通に生活して、普通に子供を育て‥‥そして、ここに骨を埋められれば、それで良いんだ」
一人の村人の言葉に、周囲の者が頷く。どうやら少し急ぎすぎたようだ。
「差別や迫害は無知が原因である事が多いように思われます。ハーフエルフの狂化について、正しい知識を伝える事から始めた方が良いのではないでしょうか。知識は勇気を与えてくれるものです。何なら私が狂化してみせましょうか?」
「私もハーフエルフの恋人がいます。それでも幸せになれる事を語らせて頂きますが‥‥」
ある事ない事、美化と脚色をふんだんに交えて。
だがエリスと綾葉のそんな提案は、あえなく却下された。ハーフエルフの誰もが、そんな気軽に語れるような狂化条件や過去を持っている訳ではない。中にはそれを聞いて辛い思いをする者もいるだろう。
「まあ、その‥‥風呂って奴は作ってみても良いとは思うが‥‥」
「じゃあ、小さなお風呂‥‥村の人だけで使うような公衆浴場、作りましょうか? 後は、お医者さんの居る場所があれば安心かな、って‥‥併せて、薬草園を作れば、薬の自給自足も少しは出来ますし‥‥」
「薬草の事ならおいらに任せてよ」
エスナの提案にデメトリオスが目を輝かせる。
「エルフさん達が多いから、薬草や果物といった森の恵みを特産品に出来ないかって考えてたんだ。それ目当てに商人なんかが訪れるようになれば‥‥ほら、町の噂なんかはそういう人達が運んでくれるでしょ? だから、良い宣伝にもなるかなって‥‥でも、それはまだ早いみたいだね。薬草園を作るなら、おいらも協力するよ。学校でそういう知識を教えたりしても良いんじゃないかな?」
「それに‥‥あの、気を悪くしないで頂きたいのですが」
そう前置きしてクリスが言った。
「親を亡くした子供を育てる場所を作りたいのですが‥‥異種族結婚ではどうしても寿命が違ってきてしまいますから‥‥」
子供の成長を待たずに亡くなる親もいるだろう。そして、子供に先立たれる親も。
「‥‥私が愛する方も人間ですから」
「私も、子供達を預かる場所は‥‥あった方が良いかな、って思います。両親が揃ってても、子供を預かってくれる場所があれば安心して仕事に行けるし‥‥」
「ええ、親のいる子もいない子も、分け隔てなく面倒を見られれば、それほど寂しい思いをしなくて済むのではないかと思って」
「そういうのは、やっぱり教会の付属かしら? 学校や診療所も兼ねるとしたら、作るなら大きめにした方が良いわね」
「大人達には酒場でしょうか。憩いの場所に‥‥」
「いずれは錬金術学校も‥‥」
‥‥後は各自、それぞれの意見や思いついた事などを、とりとめもなくワイワイガヤガヤ‥‥。
「‥‥これ、どうやって纏めれば良いんだろ?」
頭を抱える小さな責任者でありました。