【村から町へ】まずは手近な所から
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■シリーズシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 71 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月30日〜01月05日
リプレイ公開日:2008年01月07日
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●オープニング
「ど、どう‥‥、ですか?」
差し出された書類を読み終わり、顔を上げた師匠に、弟子が珍しくかしこまった様子でおずおずと尋ねる。
その様子をいつものように優しい笑顔で見つめながら、師匠は軽く頷いた。
「良いですね、よく纏まっていますよ」
「ほ‥‥ほんと!?」
「ええ」
師匠はもう一度頷き、クスクスと笑いながら、ただ‥‥と、付け加えた。
「もう少し読みやすい字で書いて貰えると良かったかな?」
「え? あ、うん‥‥はい。れ、練習‥‥しときます」
自分でも汚い字だとわかっているらしく、ウォルは真っ赤になって下を向き、その手に握り締めたメモの綺麗な字に視線を落とす。
「‥‥それは?」
「あ、これ、その、えと‥‥参考にするようにって、皆から‥‥」
「ちょっと、見せて貰えますか?」
それを受け取ったボールスは書かれた内容にざっと目を通し、すぐに持ち主に返した。
「字のお手本には丁度良いですね」
などと言いながら。
だが実は、弟子が長い時間をかけて周囲からアドバイスを貰いながら必死で仕上げた報告書よりも、その簡潔なメモの方が数倍わかりやすかったりするのだが‥‥この師匠、弟子は褒めて育てる主義らしい。それに、何しろウォルにとっては初めての仕事だ。上手くいかなくて当たり前だろう。
「それで‥‥次はどうしますか?」
「え? どうするって‥‥お、オレが決めるの?」
「ええ、責任者はあなたですからね」
ボールスに問われ、ウォルは暫く考え込む。
「う〜ん、そうだな〜‥‥なんか、まだ全然形になってないし、村の人達もまだ、色々迷ってるみたいだし‥‥」
「何かひとつでも形になれば、また話が進むかもしれませんね」
頭を抱えた弟子に、師匠が助け船を出した。
「形って?」
「そうですね、この中で一番作りやすくて、しかも話題になりそうなものは‥‥」
「えっと、お風呂‥‥?」
確かに、地面を掘るなり大きな桶を作るなり、湯を溜める物さえあれば、後は温泉を引いて来るだけだ。作るのは簡単だろうし、温泉は飲むものだと考えている人々にとっては話題性も十分、かつ、今後の町の発展には欠かせない要素でもある。
「そうだね、今は寒いし‥‥お風呂ってすごく体が温まるって聞いたし」
この城にも風呂があれば、ボールスも風邪をひかずに済んだかもしれない。
「そういえばさ、師匠もお風呂って入った事ないんだっけ? ケンブリッジの学校にはあるって聞いたけど‥‥師匠ってどこの学校出たの?」
「学校には行った事がありませんね」
「え? そうなの? じゃあ誰に習ったの? 勉強とか、剣とか魔法とか‥‥」
ウォルにはまだ、自分の事について詳しい話をしていなかった。だが‥‥昔の事など、特に話す必要もないだろう。ウォルにとって、何か参考になるとも思えない。
「ウォル、ケンブリッジの騎士学校に‥‥行きたいですか?」
「ん‥‥病気しなければ、オレも行く筈だったんだけど‥‥でもいいや。学校行かなくても、騎士になれるんだよね?」
「ええ、方法は色々ありますよ。本気で騎士になりたいなら‥‥ね」
「え? あ、いや、オレは‥‥っ」
いつものように、なりたくない、と言いかけて、ウォルは口ごもった。
「いや、あの‥‥な、なりたい、です。えと‥‥その、師匠みたいな、その‥‥に」
流石のウォルも、ボールスの落ち着いた真っ直ぐな瞳に見据えられると、どうにも意地を張り通す事が出来なくなるらしい。
「‥‥では、少し剣の練習でもしましょうか?」
ボールスがにっこりと微笑んで立ち上がる。
「え‥‥い、良いのっ!?」
先に立った師匠の後を、犬コロのようにくっついて行く弟子が一人‥‥。
●リプレイ本文
「‥‥温泉‥‥か」
「そう言えばこの間、何か話が出ていたような‥‥?」
試しに温泉を使った風呂をひとつ、村の中に作ってみないかという冒険者達の提案に、村人達は余り気乗りがしない様子で答えた。
「うん、よくわからない物を作ろうって言われてもね」
デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)が言った。
「だから、ちゃんとわかって貰う為にまずひとつ、試しに作らせて貰えない? 規模は小さくて構わないからさ」
「私もケンブリッジの卒業生ですので、どんな風に作れば良いかは指導出来ると思います」
と、ルーウィン・ルクレール(ea1364)。
「小規模な物なら、皆さんに手伝って貰えばすぐに出来るでしょう」
「物は試しって言うし、論より証拠って言葉もあるし。ねえ、やってみない?」
デメトリオスの言葉に、村人達は「そこまで言うなら‥‥」と頷いた。
「‥‥まずは浴槽やお風呂場、脱衣所の設計‥‥」
「ちょ、設計って‥‥そこからやんの!?」
将来大きくする可能性も考慮し、きちんとした物を作ろうとするクリステル・シャルダン(eb3862)にウォルが待ったをかけた。
「そんな事やってたら時間なくなっちゃうだろ? 良いんだよ、お試しなんだから適当で!」
ウォルはただそこらに穴を掘って、湯を溜めれば良いだけだと思っているらしい。
「え、だって。水浴びの水がお湯になるだけだろ?」
「それも間違ってはいないと思いますが‥‥」
と、サクラ・フリューゲル(eb8317)が言った。
「温泉というものは、もっとこう‥‥情緒と言うか独特の風情と言うか、そういうものが‥‥」
まあ良い、それは実際に入って貰えばわかる事だ‥‥多分。
結局、近くに源泉が湧き、しかも皆が気軽に集まれるという事で、場所は集会所の隣に決まった。
「今の所ここが唯一、人が集まれる場所ですものね」
と、クリス。脱衣所は集会所の内部をカーテンで仕切って作れば良いだろう。
「でも、ここからお風呂場に出るのが問題ですわね‥‥」
風呂場は外だ。そして集会所の出入り口は表の一ヶ所。新たに専用の出入り口を作らないと、困った事になりそうだ。
「流石に、その‥‥」
裸で外を歩く訳にはいかないだろうと言いかけて、サクラは口ごもる。
「あ、でも‥‥湯着‥‥着るんですよ、ね?」
沈黙の理由を察したエスナ・ウォルター(eb0752)が言った。
「‥‥女性同士でも、裸‥‥見られるのは恥ずかしい‥‥ですし‥‥」
「あ‥‥こちらのお風呂は身に着けているものを脱がないのでしたか‥‥」
勘違いをして恥ずかしい事になる前に気付いてよかった、とサクラは胸をなで下ろす。彼女が思い浮かべたジャパンの温泉なら裸で入るのが当然だろうが、この国でそれは、少し難しいようだ。
「湯着‥‥どんな物が、良いでしょうか‥‥薄絹の単衣じゃ‥‥代用出来ないですよね‥‥」
「‥‥薄く、透けるような素材ではかえって逆効果でしょうね」
エスナの問いかけにマイ・グリン(ea5380)が答える。
「‥‥厚手の素材で、何か‥‥作りましょうか」
女性達がソフト面の準備を進める間、力仕事担当のルーウィンは村人達と共に、集会所の脇にせっせと穴を掘っていた。
「3〜4人が一度に入れる程度の大きさで良さそうですね」
適当な深さまで掘り進め、水か漏れないようにしっかりと踏み固める。誰かストーンの魔法でも使えれば良かったのだが、まあ、ない物は仕方がない。踏み固めた上に河原で拾って来た小さな丸石を敷き詰め、縁の部分は石垣作りの要領で大きめの石を隙間なく積んで行く。源泉から湯を引く水路も同様に。
それが終わったら、今度は浴槽を板塀で囲む作業だ。風除けと‥‥それに、覗き防止の為に。いくら湯着を着て入るとは言え、やはり人目は気になるだろう。将来の拡張を見越して、囲いは大きく余裕をもって作られた。
そんな彼等に、マイはせっせと炊き出しをする。ついでに、温泉水が料理に与える影響なども調べてみたり‥‥
「‥‥どうも、普通の水が温かい状態で湧き出ているのとは違うみたいですから‥‥、どんな事に使えるのか、出来る限り試してみたいですね」
だが、はっきりと違いがわかるのはお茶の風味くらいのもので、他の料理ではそれほどの違いは見られないようだった。
「さて、それでは、錬金術の実力を発揮しますか。これで、皆が錬金術の虜です」
村人達が土木作業に汗を流す傍らで、エリス・フェールディン(ea9520)は源泉から湧き出るお湯の成分を調べていた。
「‥‥匂いは特にないようですね‥‥。味も、特になし」
地元民の話では何となく健康に良いらしいという事だったが‥‥
煮沸してみたが、目に見えるような沈殿物は残らなかった。
「‥‥湯の花は出来ませんか‥‥」
もし出来るなら、街の特産品にならないかと考えていたのだが、残念。
そして風呂作りも順調に進んだ三日目。
「新しい年が始まったね。教会を欲しがっている人もいることだし、新年のミサをやって貰えないかな?」
「あ‥‥はい、司祭ではないので真似事になってしまいますが、それでもよろしければ‥‥」
デメトリオスの頼みを、クリスは快く受け入れ準備を始める。聖者の法衣に着替え、豪華な聖書とハイクロスを用意し‥‥後は、どこで行うか、だが。
「えと‥‥集会所で良いと、思います‥‥。簡単な祭壇とか、作って‥‥」
晴れ着に着替えたエスナが言った。京染めの振袖に花飾の帯留めを付け、髪を結って螺鈿の櫛 とかんざし「早春の梅枝」を飾り‥‥
「それ、ジャパンのキモノって奴?」
「はい‥‥お風呂も出来るし、少しでも、和風気分になれたらな‥‥って」
ウォルの問いに少し頬を染めながら答えるエスナはしかし、何となく寂しそうだ。
「この晴れ着姿、見せたかったな‥‥」
ぽつりと呟く。まあそれは、来年のお楽しみという事で。
そして村人達を集めて行われた新年のミサは、普段通りの言葉遣いと柔らかな雰囲気のまま、ほんわかと執り行われた。
「‥‥なあ、あんたこのまま、司祭として村に残る気ないか?」
ミサを終えたクリスに村人の一人が言った。
「あんたなら魔法も使えるし、医者も教師も兼任出来るだろ? 子供にも懐かれてるみたいだし」
仕事の合間に子供達と独楽で遊んでいたのを見ていたらしい。
「それにほら、同じ立場‥‥だよな? しかも相手は‥‥だろ?」
相手の視線が胸元の紋章に注がれる。
司祭と医師と教師、三人を雇う余裕はないが、一人で兼任出来るなら何とかなる。エスナが調べた所でも、医師の開業には薬品代だけでもかなりの資金が必要らしかったが、薬草の知識を持ったクレリックがいれば投資は殆ど必要ない。薬草などの植生についてはデメトリオスがあらかた調べを付けていたし、この前は薬草園を作る話も出ていた筈だ。
「まあ、急に言われても困るだろうけどさ、考えといてくれよ。な?」
そしていよいよ、手作り温泉のお披露目の時。
「では早速、入らせて頂きますね」
真新しい湯着を纏い、星宮綾葉(eb9531)が真っ先に湯船に飛び込んだ。
湯の温度はジャパン人には少し温いようだが、水浴び感覚のイギリス人には丁度良いかもしれない。
エリスなどはすっかりリラックスして、湯船に酒を持ち込んでいた。そして酔った勢いなのか、妙に艶っぽい声でウォルを呼んでみたり。
「ウォルさん、ちょっと来て下さい。代表者なのですから、自分で入ってみてはどうですか?」
見学者の為に一部未完成にしてある板塀の向こうで手をヒラヒラさせる。
「どうですか? ウォル、入ってみませんか? 気持ちいいものですよ♪」
代表者であるウォルがそもそも風呂の何たるかを知らないのでは説得力を欠くと、サクラまでもが手招きしている。
「いいよ、俺はデメっちやルーウィンと入るから。それに、時間制で男女交代って決めただろ?」
今は女性の時間。それにしても‥‥
「ねえ、ただそうやって、ぼ〜っと入ってるだけ?」
ウォルが湯煙の向こうに尋ねる。
「ケンブリッジでも、風呂はただ汗を流すだけでしたね‥‥」
こんな風に何分も、いや何十分も、もしかしたら何時間も湯に浸かっていた記憶はないとルーウィン。
だがこれが、ジャパンの温泉文化というものなのだ。
そして風呂上がりにはデメトリオスが用意したハーブティー、小腹が空いた者にはマイが作った欧風おせちが振る舞われた。
「‥‥これもジャパンの文化‥‥日保ちのする料理を作って年始の主婦を楽にするおせち料理という物です」
材料は違うが、ジャパンの食材は入手しにくいのだから仕方がない。特に餅米などは月道が開くと同時に売り切れてしまう。よって、餅つきもやっぱり来年のお楽しみ。
翌日、女性達が率先して見本を示したお陰か、村人たちもだいぶ「湯に浸かる」という行為に慣れてきた頃。
「異文化を受け入れてみるのも悪くないでしょう?」
綾葉が言った。
「今、この村は平和ですが‥‥それは領主であるボールス様が保護してくれているからです。でも‥‥」
考えたくはないが、と前置きしてから綾葉は続けた。
「ボールス様に万一の事があったり、このまま月日が経って、ボールス様の後にこの村の管理を引き継いでくれる方がいなかったら? その時に不当な圧力にさらされないという保証はありません。ボールス様もそこを心配して町興しを計画しているのではないでしょうか? 余所者を受け入れるのはこの村には辛い事かもしれません。しかし、自活力をつけるためにはこの村にこそ必要な事だと思うのです」
それは村人達にもわかっていた。わかってはいるが‥‥
「‥‥まあ、そう急には‥‥な」
一方その頃。和洋折衷な新年を楽しむ人々を余所に、ウォルはひとり机に向かっていた。
「村の名前に、名簿作り‥‥か。ええと、それから‥‥」
クリスが渡そうとしたメモも、補佐役をかって出たサクラの申し出も潔くすっぱり断り‥‥
まあ‥‥頑張れ、少年。