【守ること、戦うこと】ちっぽけなプライド

■シリーズシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 10 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月25日〜01月31日

リプレイ公開日:2008年02月02日

●オープニング

「こんちは〜、また見せて貰うね!」
 ここはキャメロットの冒険者ギルド。元気に入って来たのはウォルフリード・マクファーレン、ウォルだった。
 ウォルはこのところ、キャメロットに来る度にギルドの書庫に入り浸っていた。何でも、冒険者達が携わった事件の記録を見て色々と勉強するのだそうだ‥‥その生き方や考え方、様々な局面での対処の仕方などを。
「‥‥あの‥‥すんません‥‥」
 ウォルが書庫に入ろうとしたその時、ギルドに新たな客が現れた。
 いかにも不慣れな様子で不安げに辺りを見回しながら、その男はモンスターの退治を頼みたいのだが、と切り出した。
「あの‥‥わしらの村は、ずっと南の、クラウボローっちゅうトコの外れにある小さな村で‥‥」

「‥‥クラウボロー‥‥?」
 漏れ聞こえたその声に、報告書の棚を物色していたウォルは顔を上げる。
「クラウボローって、確か‥‥」
 彼の師匠、ボールスが治めるタンブリッジウェルズにある自治領。今はボールスの亡き妻の弟ジャスティン・スタンフォードが管理を任されている筈だった。
「なんか、問題でもあったのかな‥‥?」
 ウォルは戸の隙間から聞こえてくるその会話に耳をすました。

「はァ、近頃‥‥村の近くに恐ろしげなモンスターが現れるようになって、領主様に討伐をお願いしたんだけんども、その‥‥まるで歯が立たなかったっちゅう事で‥‥わしらの村は、見捨てられてしもうたんですじゃ」
 先日は家畜が被害に遭い、今度はいつ人間が襲われるかと村じゅうの者がビクビクしているのだと男は言った。
「村の近くには、滅多にモンスターなぞ出なかったもんが‥‥今年は何だか森に餌が少ないようで、野性の動物に畑を荒らされる被害も出てたんだけんどもねぇ、まさかモンスターまで‥‥」
 だが、今年はその被害の影響もあって収入が少なく、依頼を出そうにも満足に金も払えないのだと男が言ったその時。
「おっちゃん! ちょっと待って!」
 書庫からウォルが飛び出した。
「えっと、その‥‥会わせたい人がいるから! その人、絶対力になってくれるから、だからちょっとだけ待ってて! 良いな!? 動くなよ!?」
 言うなり、目を白黒させている男を置き去りにして、ウォルは店を飛び出して行った。


 その日、猫屋敷に滞在中のボールスの元に届いた手紙の冒頭には一言、大きな字でこう書かれていた。
『ジャスティン・スタンフォードに領主としての素養を認めず』
 それは、クラウボローの若き領主ジャスティンの元へ補佐役として送り込んだ部下からの報告書だった。
 続く本文には、ジャスティンが如何に領主として相応しくないかが事細かに書き連ねてある。
 曰く、頭は良く教えた事の理解も早いが、応用が利かない。言われた事はそつなくこなすが、可もなく不可もなく、それ以上でも以下でもない。他人に使われ、指図される事でしかその能力を発揮出来ない。小さなプライドばかり気にする小心者。情緒不安定かつ気分屋。何より他人の置かれた状況を思いやる能力、及びその余裕がない。
 結論。あれは図体が大きいだけの、ただの子供である。
「‥‥ボロクソですね‥‥」
 ボールスは力ない笑みを漏らしながら、溜息をついた。
 ジャスティンも父親が生きていた頃は、補佐役として高い評価を得ていたのだが。
「補佐役として優秀なら私の所に‥‥は、無理か」
 何しろ未だに不倶戴天の敵と思われているのだから。
 それにしても、ジャスティンの補佐役として付けたこの部下にも問題がある。具体的にどんな事例をもってそう判断したのか、その根拠が全く書かれていない。
 これは一度、自分の目で確かめる必要があるか‥‥と、そう考えていた矢先。
「師匠ーーーっ!」
 弟子が転がるように飛び込んで来た。
「来て、早く、ギルドっ!! クラウボローのおっちゃんが、モンスターで‥‥っ!!」


「‥‥あのう‥‥、どちらさまで‥‥?」
「あのね、この人はタン‥‥ぶへっ!」
 師匠を連れてギルドに舞い戻り、言いかけた所でウォルはその口を塞がれた。
「初めまして、私はボールス・ド・ガニスと申します」
 言われて、男は「はて、聞き覚えがあるような、ないような‥‥」と首を傾げる。有名どころなら名前を聞いただけで正体がバレるが、彼の場合はまずその心配はない‥‥というのも円卓の騎士としてどうなんだろうと周囲はかえって心配になるのだが、本人は全く気にしていなかった。
「クラウボローは私の古い友人に縁のある土地で‥‥もしそこで何か問題が起きているなら是非とも手助けをさせて頂きたいのですが、よろしければ詳しいお話をお聞かせ願えないでしょうか?」
 そして、丁寧に頭を下げる。相手が王侯貴族だろうが平民だろうが、更にはもっと下の人々だろうが、態度を変える事はない。
「‥‥はァ、その、ええ‥‥まあ」
 余りに丁寧なその言葉と態度に面食らいながらも、男は乞われるままに話して聞かせた。
 村の近くに凶暴なモンスターが現れる事。それを討伐に行った領主お抱えの騎士達がボロボロになって逃げ帰った事。それ以来、何度要請しても誰も討伐に来ない事。
 ジャスティンお抱えの騎士達は、現在その数も、強さも十分ではない。その代わり、何か手に負えないような事態が生じた場合は速やかにボールスに報告し、戦力の増強を要請するようにと伝えてある。
 だが‥‥なるほど、この辺りが「小さなプライドばかり気にする」という事か。自らの力が及ばない事を知られたくないか、他人に頼る事を恥と考えるのか‥‥或いはただ、ボールスが嫌いだから、かもしれない。
 いずれにしろ、その判断は領主として不適切だ。領民が苦しみ、助けを求めている現実を前にして自らのプライドも何もない。
 これは一度、彼に自分の下した決断の結果を見せる必要がある。彼がその村を見捨てた事で何が起きたか、その現実を。それで何も変わらなければ、残念だが彼にクラウボローを任せる事は出来ない。
「わかりました。その依頼、私が引き受けましょう」
 ボールスは言った。依頼を肩代わりし、報酬も自分が負担すると。
「これは私にも関わりのある事なのです。クラウボローは私にとっても大切な土地ですから‥‥」
「で、でででも、そそそんな‥‥っ!」
「その代わり、期間中の宿を提供して頂けませんか?」
 この時期に野宿は厳しい。報酬よりも寧ろその方が有難いと、ボールスはにっこり微笑んだ。


 そして一足先に男が村へ戻った後。
「師匠、オレも行きたい!」
 ウォルが言った。
「やっぱオレも現場を見なくちゃさ、報告書だけじゃわかんないもん!」
「あなたには村の責任者を任せてあるでしょう? あれも立派な現場ですよ」
「そりゃそうだけど‥‥でも、あそこにはモンスターいないし! オレだって騎士見習いだもん、戦いの現場が見たい!」
 武器を手にし、物理的に守る事だけが「戦い」ではないのだが‥‥と、ボールスは苦笑いを浮かべる。だがそれを知る為には、確かに現場に立つのが最も効果的だろう。この依頼がそれを知る為の好機となるかどうか、それはわからないが。
「相手が何か、数も正体も不明です。何があっても無茶な行動はしないと約束出来ますか?」
「します! 出来ます!!」
 瞳をキラキラと輝かせて答える弟子の頭を、師匠は「仕方がありませんね」と、くしゃくしゃにした。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7244 七神 蒼汰(26歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb3630 メアリー・ペドリング(23歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb6596 グラン・ルフェ(24歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec0246 トゥルエノ・ラシーロ(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

サクラ・フリューゲル(eb8317

●リプレイ本文

「あれ? サクラ、なんでここにいるの?」
 猫屋敷の門前に集まった冒険者達の中にサクラ・フリューゲルの姿を見付けたウォルは、不思議そうに尋ねた。
「名簿に名前、なかったよね?」
「ええ、お見送りさせて頂こうと思いまして‥‥お気をつけて行ってらっしゃいませ。貴方に神のご加護があらんことを‥‥」
 そう言って胸元で十字を切ったサクラに、ウォルは呆れたように言う。
「大袈裟だな〜、なんか今からすっげぇ危ないトコ行くみたいじゃん?」
 自分も無闇に突っ込んで行ったりしないから大丈夫だと言い残して、ウォルは仲間達と共に、一足先に出掛けたボールスの後を追った。
「‥‥そうか、ボールス卿はジャスティン殿を連れ出す仕事があるんだったな」
 ウォルと馬を並べて進みながら、七神蒼汰(ea7244)が言った。
「俺は立場上色々話を聞いているだけで、直接の面識はないが‥‥聞いた話によると何だか厄介そうな相手だな。事によると敵より厄介だったり‥‥」
 蒼汰は思わず苦笑いを漏らす。噂や人伝に聞いた話だけで判断してはいけない、とは思うものの、ジャスティンに関してはボールスも扱いに困っている様だ。あの人でさえ持て余しているという事は、相当に扱いが難しいものと思って間違いはないだろう。
 今の所わかっている敵の情報は、オークロードが10体程度に、武器破壊が出来る正体不明の敵がいる事くらいだ。敵の方はこの面子ならさほど苦戦はしないだろうが‥‥
「油断は禁物であるよ」
 ウォルの乗った馬の頭にちょこんと座ったリデト・ユリースト(ea5913)が二人を振り返る。
「ウォルが実際にモンスター退治の現場を見るのに良い頃合であるが、オークロード10体が本当なら危険大である」
「え、でも‥‥たかがブタのバケモノだろ? 普通より少しは強いのかもしれないけどさ、力押ししか能がないヤツみたいだし」
 近頃ギルドで報告書を読み漁っているウォルが言った。
「確かに魔法や厄介な特殊能力は持っていないであるが‥‥」
 それを受けて、リデトは専門家としてオークロードの特性を詳しく解説する。
「とにかくウォルは前に出ない事であるな。武器を衝撃で折るモンスターもいる様であるし、足手纏いにならないように動くであるよ?」
「わかってるよ。見てるだけって約束したもん」
「まあ、ウォルは大丈夫だろうな」
 蒼汰もウォルに関してはさほど心配はしていなかった。問題は‥‥
「やはり、ジャスティン殿‥‥かなぁ」
 とにかく、ボールスに対する敵対心から来ているのだろうプライドのせいで住民がどう被害を受けたのか、彼は領主として知る必要がある。
「領主ってのは自分の都合だけで行動して良い者じゃないんだから。何より、見習でも補佐役としてこれ以上ボールス卿の仕事増やさせて堪るかっての」


 そして辿り着いた問題の村で、グラン・ルフェ(eb6596)がジャスティンの背中を押す。
「村の皆様、もう安心です。領主様が自らオーク退治に来てくれましたからねっ!」
 ボールスに引っ張られて渋々ながらもどうにかここまでは来た彼だったが、自分が何をすれば良いのか、何を期待されているのか、全くわかっていないらしい。
「ぼ、僕はオーク退治に来た訳じゃ‥‥むが!」
 その口を、蒼汰が慌てて押さえる。
 村は見るからに田舎の寒村という寂れた雰囲気を漂わせていた。恐らく生活水準は必要最低限のレベルはどうにか保っている、といった程度だろう。これでは家畜の一頭でも失えば直ちに死活問題になりかねない。そして、失った家畜は全部で羊が7頭。
 やるべき事、期待されている事は多いだろうが、まずはオークロードの脅威を排除する事が最優先だ。
 だが、ボールスはジャスティンに何も言わなかった。
「私はただ、ここに来て何が起きているかを見ろと言っただけですよ」
 ジャスティンと冒険者達が村人の歓迎を受ける中、目立たないように後ろに下がって成り行きを見守っていたボールスが、同じく遠巻きに様子を見ていたヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)に言った。
「ふむ‥‥自分で考え、適切な判断が出来なければ領主としては失格、という事であるかな」
 ヤングヴラドの問いに、ボールスは黙って頷いた。
「つまり今回の件でそれが出来なければ、彼は降格という事であるか‥‥見かけによらず、厳しい御仁であるな」
 うっかりすると存在を見落としてしまいそうな、目立たない優男。しかも武人には見えない。それがヤングヴラドのボールスに対する第一印象であったらしい。
「でも、ここで領主を降ろされたら彼のプライドに大きな傷を与えてしまう事になるわ」
 やはり人の輪から距離を置いていたトゥルエノ・ラシーロ(ec0246)が言った。
「勿論それよりも村の件の方が大事かもしれないけれど‥‥」
「ええ、ですから両方とも上手く行くように、皆さんにお願いしたのですよ。彼も私の言う事は聞きませんし、言われて渋々動くのでは何も変わりませんからね」
 ここに連れて来た事、自分の関与はそれで終わりだと言うボールスに、トゥルエノはなるほど、と頷いた。
「私も過度の指図はしない。自分で壁に当たらなきゃ成長はないものね。とにかく、やってみるわ」
 ところで‥‥と、トゥルエノは周囲を見渡す。
「補佐役の人、ケヴィンと言ったかしら。あの人は来ないの? 彼にも色々と訊きたい事があったんだけど」
「彼まで外してしまうと、統治機能が麻痺しますからね」
 ボールスは苦笑した。それに、補佐役にも確かに問題はあるが、一番の問題は彼ではない。まずはジャスティンが変わらなければ、変わろうという努力をしなければ、誰を補佐に付けても同じ事だろう。
「‥‥わかったわ。なら、ジャスティンだけに絞って‥‥ボールス卿には憎まれ役をお願いするわ。スタンフォードとは関係ない一上役として叱責してもらいましょうか。フォローは私達でするから」
 憎まれ役も何も、実際に憎まれ、恨まれ、嫌われているのだが。
「大丈夫、いつかわかってくれるわよ」
 返事をしないボールスに、トゥルエノは微笑みかける。だが、彼の心配はそこではなかった。
 自分が憎まれる事は構わない。憎む事が力となり、成長の為の糧となるなら。だが憎しみを糧に育った力は、新たな負の感情を呼び起こしはしないだろうか‥‥。
 その時、村人達の間で騒ぎが起こった。
「お前のせいだ!」
 一人の少年が、ジャスティンに掴みかかった。
「お前が助けてくれないから、ハリーが死んじゃったんだ!」
「ハリー?」
 少年の叫びにジャスティンは首を傾げ、人垣を分けてその前に飛び出した母親と思しき女性に尋ねた。
「誰か、死んだのか?」
「申し訳ございません!」
 女性は子供を守るように腕の中にかき抱く。
「ハリーというのは、私どもの家で飼っていた牧羊犬でございます。羊がモンスターに襲われた時に‥‥」
「なんだ、犬か」
 吐き捨てるように言ったジャスティンのマントを、誰かが後ろから思い切り引っ張った。
「おい! そんな言い方あるかよ!?」
 ウォルだ。
「犬だって大事な家族なんだぞ!? 謝れ!」
 だがジャスティンは何も言わない。人の命なら対処もするが、動物の命など気にかける必要もないと思っている様だ。
「だから、羊が襲われても知らん顔してたのか? 動物なんかどうでもいいからって? ‥‥もういいっ!」
 そう叫ぶと、ウォルは後ろで見ていたボールスの元に走り寄った。
「師匠! 助けてよ、師匠なら生き返らせる事、出来るだろ!?」
 聞けば、その犬が死んだのは一週間前。まだ埋葬もせずにいるらしい。
 確かに蘇生は可能だ。だが出来るからといって無闇に生き返らせて良いものではない。冒険者なら魔法で生き返る事を知っているが、一般人にとって死とは不可逆で絶対的なものだった。それにジャスティンの前でそれをすれば、どうなるか‥‥
「でも、出来るのにやらないなんて、おかしいじゃないか!」
「‥‥そうですね」
 ボールスは小さく微笑んでウォルの頭を撫でた。
 事故で命を落とすのも運なら、それを拾える者に巡り会えるのもまた運。全ての者に与えられないからといって誰にも与えないなら、何の為の力か。
「神様にお願いしてみましょう」
 少年の前に跪き、ボールスは言った。
「もしかしたら、神様が順番を間違えてしまったのかもしれませんね。もしそうなら、きっと返してくれますよ」
 その後ろでは、ジャスティンが蒼白な顔で拳を震わせていた。

「‥‥話に聞く限りでは、経験不足が祟って実際にどう行動すればいいかをわからないのに全てを自分で抱え込んで何もできなくなってしまう人と想像していたのだが‥‥」
 どうやらそれ以前の問題らしいと、目の前にいる本人には聞こえないようにメアリー・ペドリング(eb3630)が呟いた。
「先程の言動、あれは色々な意味で痛かった」
 死んでから時間の経った遺体には、クローニングとリカバーをいずれも超越レベルでかけなければ蘇生は出来ない。シエラ・クライン(ea0071)にフレイムエリベイションを頼み、成功率を上げるアイテムを借りて漸く魔法を成功させたボールスに、ジャスティンが言った言葉。
『どうせお前は姉さんより、たかが犬の方が大事なんだ! 姉さんは平気で見捨てたくせに‥‥!』
 大事なのは犬ではない。愛犬を失って傷ついた少年の心を救う事だ。
 それに見捨てた訳ではない。当時は今よりも更に成功率が低く、それを上げる術も持たなかった‥‥と、本人は言い訳などしないが。
「それで、ボールス卿は‥‥まだ戻らないのか?」
 もう帰ると駄々をこねたジャスティンを何とか押しとどめ、明日以降の行動を話し合う為に設けた席に引っ張って来た蒼汰が誰にともなく尋ねた。
 その問いに、クリスクリステル・シャルダン(eb3862)が黙って頷く。ジャスティンに散々罵倒されたボールスは、怒りの嵐が過ぎるのを黙って耐えた後「少し森の様子を見て来る」と言って仲間の元を離れていた。疲れた様子だったのが気にかかってはいたが、クリスは後を追う事が出来なかった。ジャスティンが見ている前でそんな事をすれば、余計に感情を悪化させてしまいそうで‥‥
「‥‥大丈夫だとは思いますが、念の為に様子を見て来ます‥‥」
 考えてみたら一年ぶりに会ったというのにまだきちんと挨拶もしていなかった、と大宗院透(ea0050)が立ち上がった。
「では、私も‥‥少しボールス卿にお話がありますので」
 ルーウィン・ルクレール(ea1364)も席を立つ。
「‥‥オレのせい‥‥かな」
 犬を生き返らせて欲しいなどと頼まなければ良かったのかと呟いたウォルに、クリスは首を振った。
「ウォルは正しいと思う事をしたのでしょう?」
「そりゃ、そうだけど‥‥」
「それに、ウォルが頼まなくてもボールス様ならきっと同じ事をしたわ」
 何しろ見知らぬ野良猫にさえ惜しみなく力を使うような人だ。ウォルが初めてボールスと会ったのも、そんな現場だった。いや、姿を見ただけだし、実際に魔法が使われる所は見ていないが。
「あれは誰も見てないと思ったからかな‥‥」
 魔法で誰かを生き返らせる事は、果たして良い事なのだろうか。
 良いに決まってる。あの子はすごく喜んでた。でも反対に、ジャスティンは怒った。怒って、泣き喚いて‥‥
 それは、誰のせい? 誰が悪いの?
「そうそう、子供はそうやって沢山悩んで大きくなるであるよ」
 リデトが悩める少年の肩に乗り、その頭を撫でる。答えは自分で出すもの‥‥ただし、誰にとっても正しい、絶対の正解は多分、ないが。
「自分なりの答えを見付ける事が肝心であるな」
「まあ悩める少年は悩ませておくとして‥‥」
 問題はジャスティンだと、蒼汰。
「まず‥‥この村の現状。しっかり見て頂けましたか? 今回の自分の行動がどれだけの影響を与えたのか、ご自身で確認してどう思われましたか?」
「どうって‥‥べつに」
 その答えに思わず頭を抱えた者、少なからず。
「力を持つ者が暴走すれば、虐げられるのは必ず一番弱い人々なのです」
 シエラの言葉にジャスティンは口を尖らせる。
「僕は暴走なんかしてない」
「人の上に立つ者が責務を投げ出す、それも同じ事です」
「投げ出してなんかいない! 必要ないと思っただけだ!」
「必要ない? この現状を見た、それが貴殿の答えであろうか? 今回は幸い人命が失われる事態には至っておらぬが、もし一歩間違えば‥‥」
 だが、そんなメアリーの問いにもジャスティンは対応に問題はなかったと言い張った。
「今回、ボールス殿から問題がおきたら応援を頼むようにと言われていたそうだが‥‥人に頼る事を恥だと考えておられるのか? 人に頼らずに結果を出せないことは、人に頼って結果を出すより遥かに恥であると‥‥」
「あいつにだけは、死んでも頼まない!」
「死んでも、と言われましたが‥‥でもそうして意地を張って、実際に死ぬ事になるのは誰でしょうね?」
 グランが言った。
「素晴らしい素養があって、でも様々な事情と御自身の感情が邪魔をして‥‥でも領民にはそんなのカンケイーないっ! のです」
「‥‥領主になる上で必要なのはプライドでなく、必要ならどんな手を使っても領民を守る覚悟と行動力だと思いますよ」
「領主なんか、なりたくてなった訳じゃない!」
 シエラの言葉にそう叫んだジャスティンに対し、ヤングヴラドが盛大に溜息をついた。確かに領主などというものは大半が世襲。中には望まずにその地位に就く者もいるだろうが‥‥
「理想の領主像など、聞いても無駄であるかな」
 目標を設定してそこへ向かう努力と工夫、それと時に現実に即して目標を練り直す柔軟さを磨けばいいのだが‥‥現状、それさえ無理のようだ。
「上に立つ者が判断を誤れば、誰かが犠牲になります。そして犠牲になった『誰か』を愛する人も傷つける事になるのです。フェリシア様が亡くなった時、ジャスティンさんが傷ついた様に‥‥」
 目を釣り上げ、顔を真っ赤にして口を開きかけたジャスティンには構わず、クリスは続けた。
「でも、適切な判断が出来れば、誰も犠牲にならずに済みます。傷ついて、悲しい思いをする人を‥‥少しでも減らしたいとは思われませんか? 私はジャスティンさんに、良い領主になってほしいのです」
 だが今の彼には他人を思いやり、他人の為に何かをしようという考えはない。領主として最低限の仕事はこなしているが、それはただ、それが自分に与えられた役割だから。それ以上の事は思いつかないし、思いやる余裕もなかった。
「どうして僕が、そんな名前も顔も知らないような連中の為に頑張らなきゃいけないんだ!? 僕が苦しい時は誰も助けてくれなかった‥‥あいつも、神様も、姉さんを助けてくれなかった。なのにどうして、僕が他の誰かを助けてやる必要があるんだ!?」
 彼が未だに黒派を信仰しているのは、白の神聖騎士も、そして慈愛神も、姉を助けてくれなかったせいだろうかと、ヤングヴラドは考える。
 味方でありたい、大切に思い心配している人もいる事をどうか忘れないでほしい‥‥そう願うクリスの思いも、彼の心には届かない。
 結局、彼が受けた傷は今も生々しい姿を晒したまま、全く癒えてはいない様だった。

「‥‥ボールスさんは相変わらず甘いですね‥‥」
 森から出て来たボールスを見付けた透がまず口にしたのは、そんな言葉だった。自分なら猶予など与えずに、使えない者は即刻首を切るという意味か、それとも他の何かについてだろうか。
 その他の「甘い」物と言えば、心当たりがなくもないが‥‥今回は仕事でもあるし、仲間にはテンプルナイトもいる。破門されるような事はしていないし、本人もさほど戒律に厳しくはない様だが、念の為に警戒は必要だろう。それに何より、ジャスティンをこれ以上刺激したくない。
「彼が一番大変な時に、私は自分の事で手一杯で‥‥何もしてやる事が出来ませんでした。彼がああなってしまったのも私の責任です。ですから‥‥」
 何とかしてやりたい。今からでも間に合うのなら。
「私は彼が戻ってくるまで補佐役見張り役で仕官することにしました」
 ルーウィンが唐突に言った。
「正直なところ、本格的な部下というよりも暴走を防ぐ形というのが狙いですし」
「ええと‥‥彼、というのは‥‥?」
 ロランの事だろうか。そして暴走すると思われているのはジャスティンか。
「ジャスティンについては、基本的に領主になって貰いたいという感じですね。彼が戻る場所を用意しておかないといけませんしね」
 やはり彼というのはロランの事らしいが‥‥
「折角のお申し出ですが」
 ボールスは言った。
「ただの見張りなら手は足りています。それに今必要なのは、ジャスティンの暴走を防ぐ事ではありません。彼に何を示し、どう導くかです。あなたは彼に何を示せるのですか? あなたが彼に伝えたい事は?」
「え‥‥」
 ルーウィンは返事に詰まった。
「その答えを見付けたら、もう一度来て下さい。ただし、それだけですんなり採用されるとは限りませんが」
 要は意欲と熱意、そして個性。いくら高い技術を持っていても、それを生かす事が出来なければ宝の持ち腐れだ。逆に少々技術は足りなくても意欲と熱意さえあれば大抵の事は何とかなる。そして高い技術を持っただけの人材なら、それほど不足はしていないのだ。


「逃げ帰った騎士達の話では、殆ど間をおかずに複数の武器が壊された様ですね。姿も見えなかったという事ですし‥‥」
 翌朝、暖炉の火をファイアーコントロールで操り、ランタンの中に火種として収めながらシエラが言った。
 距離と威力から考えるにディストロイの魔法なら達人クラス、しかも単体の仕業だとしたら高速詠唱付きでも成功率が下がらないレベルの持ち主か。
「だとしたら、相当に高位のデビルか何かであろうか‥‥?」
 メアリーが空中に浮き、腕組みをしながら考える。
「でもそれなら、武器だけを狙うのは不自然ですね。ディストロイは生体にも効果があるのに‥‥」
「デビルが武器だけを狙うというのは、余り聞いた事がないであるな」
 シエラが投げた疑問にリデトが答える。
「やはりバーストアタックの方が現実的であるかな。ソニックブームと組み合わせれば遠距離の破壊も可能であるし。ただ、そんな技を使うオークロードは聞いた事がないである」
 新種か、それとも他に何かいるのか。歴戦の冒険者と円卓の騎士で向かうとは言え、気を引き締めてかからなければ‥‥とは思うものの。モンスター学者としてはわくわく状態 のリデトであった。

「では、私達は村の護衛に残る故、調査の方はお任せ致した」
 村に残るのはメアリーと、蒼汰、透、それにジャスティンの4人。ジャスティンはここでモンスターを片付けるのが当面の仕事だと認識したらしく、逃げる気配はなかった。
「無理しなくていいの。ちょっとずつ。でも自分自身の目で見て決めて‥‥この際だから村の人達に話を聞いて回っても良いかもしれないわ」
 トゥルエノがその肩を軽く叩いて行く。ハーフエルフである彼女に対してジャスティンはあからさまに嫌悪の表情を現したが、そんな事はお構いなしだ。
 そして彼女はルーウィン、シエラ、クリス、それにウォルと共に森に分け入る。
「松明に集まる蛾の如く、お騒がせ様達が順調にお膝元に集まってきていますね」
 ジャスティンに嫌われてもお構いなしその2、グランがお疲れ気味のボールスの背をポンと叩く。残る一組、彼とボールス、それにヤングヴラドとリデトは、ウォル達とは別の方向へ森の中を進んだ。
「この辺りの木は落葉樹が多いであるな。お陰で見通しが利くであるよ」
 上空からモンスターの気配を探りつつ、リデトが言った。村人達の話では、家畜が襲われ、騎士達が逃げ帰って以来、オークロード達は現れていないという事だった。
「例の武器破壊がディストロイだとしたら、使い手は変わり者の黒信徒かデビルに限定されると思うのだ」
 ヤングヴラドはヘキサグラム・タリスマンをいつでも使えるようにポケットに忍ばせていた。
「もっとも、人間の仕業だとするとオークロードを援護する理由がよく分からないであるが‥‥いや、それはデビルも同じ事であるか」
「どちらにしても警戒は必要ですよね‥‥武器を壊されたらまともに戦えないし」
 ヤングヴラドの言葉にグランが返す。
「弓って耐久性はどうなんでしょうね? 念の為にダーツも持って来ましたけど‥‥」
 飛び道具を封じられたら後は逃げ回るしかない。攻め込むよりも罠を仕掛け待ち伏せる戦法の方が得意なグランは、願わくば途中でバッタリ出くわしたりしませんようにと秘かに願っていた。

 その頃、村では透が周囲を警戒しながら罠を張り巡らせていた。
「村人や猟師などの話から、調査に向かった方面以外から襲撃される可能性は低そうですが‥‥」
「確かに、この状態でいきなりオークロード10体に襲われるのはキツイ‥‥って言うか、死ねるかもな、俺」
 透の言葉に蒼汰が苦笑いを浮かべる。班を分けた結果、村に残った彼等の中には回復要員がいなくなってしまった。
「ジャスティン殿の回復魔法はちょっと怖いしな‥‥」
 まさか味方にメタボリズムとデスのコンボを使って来るとは思えないが、そうでなくても黒派の回復魔法は使い勝手が悪い。
「もし何かあれば、私が連絡係となり皆を呼んで来る故、安心されよ」
 と、メアリー。その為にも時間稼ぎの罠は必要だろう。
「しかしジャスティン殿は戦力として期待しても良いものであろうか‥‥?」
 指示待ち待機状態でぼんやりしているジャスティンを見て、メアリーは溜息をついた。
「‥‥まあ、指示を出せば従ってはくれるんじゃないか‥‥と、思いたいな」
 自分がボールスの部下である事はまだ知られていない。反発される事はない筈だ、と蒼汰。
「上に立つ者が敬われるのは責任を負っているからであり、責任を負いたくないなら上に立たない事をお勧めします‥‥」
 罠作りが一段落した透が、いつの間にかジャスティンの背後に立っていた。
「僕が悪いんじゃない。役立たずの部下しか寄越さない、あいつが悪いんだ。なのに、僕にその責任まで押し付ける気か?」
「‥‥援助の要請を拒んだのは自分であるという事は、すっかり忘れているらしいな‥‥」
 メアリーが大きく溜息をついた。

 もう一方の調査班は、ウォルを真ん中に守るようにして森の中を進んでいた。
「ウォルくん‥‥町作りは大切ですよ。わかっているとは思いますけど今回のことでそれを理解して貰いたいですね」
 歩きながら、ルーウィンが言う。
「もし何かあっても、安全な所で見ていて下さいね」
「わかってるよ‥‥さっきも透に修練を積む事は良いけど無謀は愚かだとか言われたけど、オレってそんなにバカっぽく見える?」
「皆それだけ心配してるのよ」
 文句を言うウォルに、トゥルエノが微笑む。
「耳に痛い忠告は、言って貰えるうちが花ですよ」
 人を育てる事には余り興味のなさそうなシエラまでもがそんな事を言った。
 仲間達のそんなやりとりを聞きながら、クリスは足跡や枝が折れた跡等の痕跡を探す。出来ればオークロード達の行動範囲を限定し、住処にしている場所を探して罠を仕掛けたい所だが‥‥
 その両脇では二頭の忍犬が周囲を警戒していた。一頭は自分の愛犬瑠璃、もう片方はボールスが自分の代わりにと付けた珠だ。
「そう言えば、村人達の話では森の中には領主の保護を受けない孤立した集落がいくつかあるという事でしたが‥‥」
 シエラが言った。
「あの村が家畜の被害だけで済んだのは、森の中のそうした集落が代わりに襲われているから、かもしれませんね」
 統治者のいる村を襲えば、いずれな強力な軍隊が送り込まれて窮地に陥る。オークロード達、もしくはその背後にいる何者かがそれを知っているなら、騎士達を殺さずに追い返したのも納得が行く。
「殺してしまえば、必ず報復があるから‥‥?」
 そして、シエラの予想は当たっていた。
 暫く森の中を進んだ頃、二頭の犬が急に走り出す。行く手の木立の影に、小さな‥‥集落とも言えないような、何軒かの粗末な小屋があった。
 その周囲を取り囲んでいる、大きな影。弛んでブヨブヨの体に、豚の頭。それが今まさに、一人の男の頭上に槌を振りかざしていた。
 咄嗟に、クリスがその一頭にコアギュレイトをかける。ふいを突かれたオークロードは一瞬でその動きを止めた。だが‥‥
「10、11、12‥‥って、どんだけいるんだよ!?」
 相手の数を数えたウォルが叫ぶ。
「15体、ですね」
 ブレスセンサーを唱えたシエラが言った。相手に気付かれる前に撤退し、仲間と合流するのが利口なやり方だろうが、目の前で誰かが襲われているのを放っておく事は出来ない。
「珠、師匠たち呼んで来い! 早く!」
 犬が踵を返して走り出すと同時に、ルーウィンとトゥルエノが前に飛び出し、固まっているオークロードの前から男を救い出した。
「怪我はない? 他に誰か‥‥この村には何人いるの?」
 トゥルエノの問いに、男は12人だと答えた。
「お、俺の他には女子供と年寄りばかりで‥‥皆、家に籠もってる。俺は奴等を追い返そうと思ったんだが‥‥」
 無理に決まっている。冒険者達でさえ‥‥一対一ならまだしも、多勢に無勢。囲まれたら終わりだ。
 だがそれでも。
「私が囮になるわ。民家を襲おうとしてる奴を引き付けるから‥‥」
 後は頼んだと、トゥルエノが飛び出した。
「囲まれないように出来るだけ引き付けて‥‥後は救援を待つしかなさそうですね」
 ルーウィンが続いた。
「生木なら表面が焦げる程度で済むでしょうが‥‥流石に民家を燃やす訳には行きませんね」
 シエラはファイアーコントロールを諦め、マグナブローでの攻撃に切り替えた。
「ウォル、絶対に傍から離れないでね?」
 前に立ち塞がり、ホーリーフィールドを唱えたクリスが言う。
「で、でも‥‥っ!」
 手が足りない。しかし、かといって自分が出れば足手纏いになり、かえって仲間達を窮地に追い込む事はウォルにもわかっていた。
「‥‥師匠、早く‥‥っ!!」
 今のウォルには、ただそうして祈る事しか出来なかった。
 暫くはほぼ互角に渡り合っていた彼等だったが、何しろ数が違いすぎる。次第に疲労の色が濃くなり始め‥‥僅かな隙に、二枚しかない前衛の壁が破られた。
「拙い‥‥!」
 トゥルエノが後ろを振り返る。だが、その彼女の目の前にも新たな敵が迫っていた。
 後ろの三人はホーリーフィールドに守られてはいる。だが、大きく振りかぶったオークロードのその攻撃は、スマッシュ。結界の耐久力を超えた分は、中の者にダメージが行く。当たれば一撃で重傷だ。
 その時‥‥
「ギャアアッ!」
 トゥルエノを狙っていたオークロードの目に一本の矢が突き刺さり‥‥ほぼ同時に、後衛の三人が巨大な白い光に包まれた。
「我らは慈愛神の地上代行者! 民の安寧のため神罰の鉄槌を与えん!」
 背後からはそんな口上も聞こえてくる。
「‥‥ヤングヴラドね」
 トゥルエノが振り向きもせずに言った。
 やがて先を走る犬に導かれ、助っ人が駆けつける。
「遅いよ、師匠っ!!」
 そんな弟子の文句には構わず、三人に怪我がない事を一瞥の後、ダメージを受けたオークロードをコアギュレイトで固めると、ボールスは黙って敵の中に突っ込んで行った。
 敵に囲まれても全く意に介さない。弛んだ腹に突き刺した剣を引き抜いたその手で、脇と後ろの敵を薙ぎ払う。
 その無駄のない動きを、ウォルは口を開けて見ていた。この間見た練習とは違う。オークロードがまるで雑魚のように次々と倒れて行く‥‥
「流石は円卓の騎士、やはり人は見かけによらぬものであるな‥‥などと感心している場合ではない!」
 ヤングヴラドが自分でツッコミを入れる。
「ボールスどの、少しは遠慮するのだ! 余の出番がなくなってしまうではないか!」
 とは言え、オークロードは固かった。彼の力では一度に一体を相手にするのが精一杯。
 そんな彼と、トゥルエノ、ルーウィンに対した敵達の急所を狙ってグランが矢を射かけ、その隙にリデトがリカバーをかけて回る。
 だが、その様子を遠く離れた木立の影からじっと見つめている影に気付いた者は、誰もいなかった。


「‥‥どうした、元気がないな」
 その日の夕刻、無事に戻ったウォルを剣の練習に誘った蒼汰は、作戦が上手く行ったのに何故か塞ぎ込んでいるその様子を不思議に思う。
「‥‥だってオレ、何の役にも立てなかったし」
「そりゃ仕方ないだろ、剣の方はまだ習い始めたばかりなんだし」
「そうじゃなくて、さ。オレ、どうすれば良いんだろ‥‥」
 どうやら師匠の戦いぶりを見て自信をなくしたらしい。体力に自信のないウォルは、同じようにどう見てもパワー型ではないボールスの戦い方を真似しようと考えていたのだが。
「あんなの、オレには無理だ」
「無理に真似する必要はないと思うぞ? これからゆっくり、ウォルにしか出来ない戦い方を探して行けば良いんじゃないかな」
「そうですよ、それにウォル様には戦うだけじゃなく、領民さん達を大事にする方になって欲しいですしね」
 グランが言った。そして、耳元でこっそりと囁く。
「でも冒険はいいですよね〜」

 翌日も彼等は森の中の調査を行ったが、結局、ソニックバーストを使う敵は姿を現さなかった。手分けをすればまた囲まれる危険があるし、かといって全員で纏まって調べるには森は深く、広すぎた。
 だが、とりあえず当面の脅威は取り除き、襲われていた集落もこの村も、無事に守り切る事が出来た。後は残る敵への対処と、ジャスティンへの対応だが‥‥
 村へは護衛を残し、森の調査もボールスの部下が引き続き行う事になった。ジャスティンについては‥‥まあ、焦らずに。