【勲の謡】序
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■シリーズシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月02日〜05月05日
リプレイ公開日:2008年05月11日
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●オープニング
「ああ、別に‥‥特に何をって訳じゃないんだ」
その日ギルドを訪ねたガイ・シンプソンは、受付係に仕事の内容を問われて困ったように頭を掻いた。
「まあ、その‥‥早い話がさ、新曲を作りたいからネタを提供して欲しいって事なんだよな」
彼とその相棒レディアス・ハイウィンドは、一部に熱狂的なファン‥‥主に女性の‥‥を持つ、知る人ぞ知る吟遊詩人コンビ。普段はムクツケキ男どもの集まる安酒場で演奏を披露している彼等だが、近頃はご婦人方の後押しもあり、貴族のパーティなどに呼ばれる機会も増えていた。
「そこで会った貴族の一人が、俺達の歌をいたくお気に召してね‥‥金はいくらでも出すから、自分の為に新しい曲を作れって言うんだ」
作るのは自分の為だが、題材は自由。出来た歌は自由に、どこでも誰にでも、好きなように披露して構わない。依頼人の貴族はそう言っていた。
「題材に不自由しているなら探せば良いって、これを」
じゃらん、どさり。
カウンターに置かれた金袋は、かなり重そうな音を立てた。
「冒険者が相手なら冒険談には事欠かないだろうから、話を聞くだけでも良いかとは思ったんだけどさ。せっかく資金も豊富にあるんだ、話を聞くだけじゃなくて、この目で見た方が臨場感もあるし、インスピレーションも湧くってもんだろ?」
曲を作るのは俺じゃないけどね、と、ガイは言った。
「俺は歌う事しか能がないからな。くりえいてぃぶな方面は相棒に任せてあるんだ」
その相棒はガイの後ろでじっと黙ったまま、彼等の話に耳を傾けている。流れるような銀の髪に、白く透き通るような肌。まるで月の女神が現世に降臨したかのように見えるその姿は、女性の目からは見目麗しい超絶美形に、そして男性の目からは絶世の美女に見えるらしい。そして常に沈黙を保ったまま一言も話さず、声を上げる事すらしない‥‥それがまた神秘的でタマラナイというのが男女を問わず、ファンの言。
まあ、その辺りはギルドに保管されている【美女(?)と野郎】と題された一連の報告書を読んで貰うとして‥‥いや、特に何も知らなくても一向に構わないのだが。
「つまり、俺達と一緒に冒険しないか、って事さ。いや、俺達は余計な手出しはしない。専ら見てるだけだけど」
見て、それをそのまま歌にする。まあ、望むなら多少の脚色はアリか。
「英雄譚でも血湧き肉踊る冒険譚でも、何なら恋の歌でも良いや。自分の活躍を歌にしたいって奴、いないか?」
募集は7人。
まずはどんな歌にしたいか、どんな歌の登場人物として後世に名を残したいか、それを皆で話し合って決める。
冒険を求めて旅立つのはそれからだ。
もっとも、旅立ったところで望んだ通りの冒険にぶち当たるとは限らないが、そこはそれ。とにかく一歩を踏み出さない事には何も始まらないし、誰にも出会えない。
「俺達は大抵、下町の酒場か‥‥ここにいるから」
と、ガイは自宅‥‥通称幽霊屋敷までの簡単な地図を受付係に差し出した。
「この話に乗っかりたいって奴は、そこに集まるように言ってくれ。じゃあ、頼むな?」
‥‥さて、一体どんな冒険が紡がれる事になるのやら‥‥?
●リプレイ本文
「まずは自己紹介であるな」
幽霊屋敷の客間に腰を落ち着けたヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は、冒険を共にする事となった仲間達を見渡すと、立ち上がって咳払いをひとつ。
「我こそは教皇庁直下テンプルナイトが一人、教皇庁認可聖女騎士団の一員にしてツェペシュ領男爵のヴラドと申す。以後お見知りおきを」
優雅に一礼すると、隣のラミア・リュミスヴェルン(ec0557)に視線を向けた。
「あ、次はウチ‥‥ですね」
ラミアは慌てて立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。
「はじめまして、エジプトから参りました、ラミア・リュミスヴェルンといいます。しばらくの間ですが‥‥よろしくお願いします」
次は‥‥と、隣を見たラミアに、大宗院亞莉子(ea8484)は隣に座った大宗院透(ea0050)の腕を‥‥とると言うか、しがみつくと言うか、押さえつけると言うか‥‥まあ、とにかく相手の迷惑顔を物ともせずに密着しながら、にっこりと微笑んだ。
「私、透の奥さんってカンジィ。透、ガイ達のためにいっぱい愛を奏でるってカンジィ。そう、これはガイ達のためってカンジィ」
「忍びの掟での形式上だけです‥‥」
かく言う透は現在女装中。端から見ると百合の花が咲き乱れる妖しい世界なのだが、亞莉子は特に気にしていないらしい。
「詩を作る時に男になってれば、普段女装している透にも問題ないってカンジィ。私はぁ、透とのラブロマンスができれば何でもいいってカンジィ。二人で怪しい屋敷に忍び込んで情報収集とかぁ、遺跡で助け合いながらトラップを回避するとかぁ、色々とできたらいいなぁん」
最後の一人、ソフィア・ハートランド(eb2288)の自己紹介が終わらないうちに希望を言い出す辺り、マイペースと言うか、周りが見えてないと言うか。
だが、ソフィアもそんな事は気にしない様で、自己紹介をすっ飛ばしていきなり本題に入ってしまった。
「冒険の内容としては、有名になれるものを希望する」
今回の件で有名人になり、玉の輿を狙うための足がかりにするのが彼女の狙いだった。
「私は匿名にする必要はないぞ。何せ、有名になって自分の夢を叶えるために協力するんだからな。可憐な感じに頼むぞ」
可憐、と言われても‥‥と、ガイは目の前の姉御を失礼と思いつつもまじまじと見つめ、そして困ったように相棒のレディに視線を投げる。が‥‥
「おい、何で視線逸らすんだよ?」
「そう言えば、この冒険は浪漫的な脚色はできるのであるか?」
そのやりとりを聞いて、ヴラドが尋ねた。
「例えば山賊10人を100人に水増しするとか、全員デフォルトでソニックブームを使うことにするとか、超絶秘奥義の存在とか、四天王とか八神将なんて名乗る強敵がいることにするとか‥‥」
――ぐっ!
レディさん、親指立ててます。
「あ‥‥そう。じゃあ、可憐な描写もOKなんだな?」
尋ねるガイに、レディは‥‥渋々頷いた。とにかく歌を作るようにと依頼してきた貴族が満足するような物さえ作れれば、中身が多少事実と異なる場合があっても問題はないらしい。
「ま、伝説には脚色が付き物だしな。流石に誰が見ても嘘八百ってのは無理だろうけど」
その辺の匙加減はレディに任せておけば大丈夫だろう‥‥多分。
「で、他に希望は? 言うだけならタダだぜ?」
「私としては、悪徳貴族の陰謀を暴く様な冒険をしてみたいです‥‥。私が将来就きたい職業はスパイですから‥‥」
「スパイ?」
「はい‥‥でも、自分の主を見つける前に私に必要なものを見つけないといけない事が分かりました‥‥。この依頼はそれに適したよい依頼です‥‥」
透はこの依頼を主に仕えるために何が必要なのかを探り、自分を見つめ直す為の良い機会だと捉えている様だ。
「他に現実性がある冒険があるなら、特にそれでなくても構いません‥‥」
「私は政略で民を苦しめている領主を倒し民を救うでも、古代遺跡に挑むでも、特に有名になれるならなんでもいいぞ。円卓の騎士とまではいわないが、玉の輿にのれそうな貴族の方々に広まる感じに有名になれるなら、な」
「まあ、依頼主が貴族だからな。気に入って貰えれば有名にはなれるだろうが‥‥あんた、玉の輿に乗りたいのか?」
尋ねるガイに、ソフィアはレディの顔を見ながら残念そうに答えた。
「まあな。しかし惜しいな。顔がよくても金と権力がない男には興味がないんでな」
「‥‥金と権力があっても、そいつだけはやめといた方が‥‥むにゃむにゃ」
怒りっぽいし、手は早いし、気は多いし、若作りのバケモンだし‥‥と、心の中で呟きつつ、ガイは先程からずっと聞き役に回っているラミアに話を振った。
「あんたは? さっきからずっと黙ってるけど‥‥皆の勢いに圧倒されたか?」
「あ、いいえ、そんな事は‥‥」
問われて、ラミアはおっとりと首を振る。どうやら、かなり大人しいのんびり屋さんの様だが‥‥
「歌のお話になるような冒険‥‥となると、やはり最後は幸せな結末、といきたい‥‥ですね。ポピュラーな歌‥‥ですと、歌の初めから敵役が決まっているもの、ですけれど、実話を元にすると、そうもいかない‥‥でしょうか。ウチとしても、だんだんと敵役の正体が明らかになっていくような、その過程なんかも面白い‥‥と思います、です」
のんびりはしていても、ちゃんと自分の意見は持っている。ただ、言い出すタイミングが難しかったらしい。
「悪の領主を倒して村を解放しようという、勧善懲悪を成したいという意見が多いようであるな」
仲間の意見を一通り聞いたヴラドが言った。
「はたして悪代官なんてどうやって探すか疑問であるが、志は悪くあるまい。また、謎解きという候補も挙がってるのだ。これはこれで面白そうであるな‥‥」
「権力者の圧制に苦しんでる村なんかは‥‥まあ、割と何処にでもありそうだな」
ガイとレディがが今までに旅してきた中でも、何かしらの問題を抱えた土地は多かった‥‥と言うか、何も問題がない土地の方が珍しいと言うべきか。
「端から見れば平和で幸せそうな所でも、それなりに不満はあるもんだし。脚色アリなら、そこらへんの小ネタを拾って話を広げるのも悪くないかな」
ただ、大した悪さもしていない様な輩を大悪人に仕立て上げたりといった、火のない所に煙を立たせるような真似は出来れば避けたい。それに、下手に手出しをすると拙い事になるような、ヤバいネタも避けた方が無難だろう。歌を作るという目的とは別に、きちんと事件に向き合う覚悟があるならそれも良いだろうが‥‥。
「ギルドや役人の所に駆け込む事が出来ずに困っているような村や町というのも、あるかもしれないであるな」
「では‥‥裏の世界の情報網から、皆の希望する冒険があるかを調べてみます‥‥」
「私も探すってカンジィ」
と、忍者夫婦。亞莉子はくノ一らしく、理美容技能で着飾って、ナンパ技能で男を誑かして冒険に関する情報を集めるつもりらしい。そして、レディの顔をじぃっと見つめる。
「本当に綺麗だねぇん。化粧していいってカンジィ」
だが断る、と冷たい視線が返るが、亞莉子は気にも留めていない様子だ。
「あなたも苦労しているのですね‥‥」
色々と勘違いされいるレディに、同類を自負する透が言った。そして、ますます距離を縮めてくる亞莉子に溜息をつく。
「邪魔です‥‥」
だが、相手はやっぱり気にしない。
「私はぁ、透と一緒にいられれば幸せってカンジィ」
はいはい、そうですか。
これからずっと、この光景を見せつけられるハメになるのかと、彼女いない歴=年齢のガイはがっくりと肩を落とした。
「言っとくけど、俺は恋の歌なんか歌えないからな。そっち方面の歌にはならないぞ?」
その手の歌はレディが得意なのだが‥‥奴は歌わないし喋らないし。
「私も、これでも一応貴族だからな」
ソフィアが言った。
「そのコネを利用して、現在怪しいと思われる村や町、怪しい遺跡などがないか調べてみるか。酒場で聞き込むのも良いな」
圧政関係なら政治的な事についてはそれなりに詳しい。その観点については協力出来るだろう。だが‥‥
「古代遺跡なら前に出て戦うが、戦闘などは私よりも皆の方が優れているだろうからな。そんなに役には立てないぞ」
「わかった、一応頭には入れておく‥‥けど、まだどうなるかわからないしな。これから人数が増えるかもしれないし」
必要なら自分達も戦闘に参加しても良いと、ガイが答える。ただし、余り期待して貰っては困るが。
「ウチは、この町に来てまだ間もなく、町の勝手さえよく分かっていない状態‥‥なので‥‥情報収集でお手伝いすることは難しい、ですね」
「ああ、無理しなくて良いよ。俺達も仕事のついでに情報は集めるしさ」
ガイ君、ラミアには何気に甘いような気が‥‥?
「はい、でも‥‥お仕事をしている合間にでも、お客さんなどに少しお話を聞いてみる事にします、です」
「そう言えば踊り子だっけ? なあ、俺達と一緒に仕事してみるって、どう?」
――ばこんっ!
返事の代わりに何かが飛んで来た‥‥レディの座っている方向から。
「いってえな! 俺は別にナンパしてる訳じゃないぞ、お前と違って!」
‥‥今度は椅子を持ち上げようとしていますが、レディさん。
「‥‥まあ、余としては迷宮探索から悪党退治まで全部闇鍋的に突っ込むとか、毎回日替わりで冒険内容を変えるとか、せっかくゆえ色々とやってみたいであるなぁ」
その様子をのんびりと見物しながら、ヴラドが呟いた。
「と、とにかく‥‥とりあえず希望は出たし、皆で一通り調べたらまたここに集まるって事で良いか?」
レディの手から椅子を取り上げながら言うガイに、透が答える。
「それで良いと思います‥‥。英雄と『謳』われる『詩』を作りましょう‥‥」
それ、駄洒落になってないと思うけど?