【勲の謡】壱

■シリーズシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月29日〜06月03日

リプレイ公開日:2008年06月06日

●オープニング

「う〜〜〜ん‥‥」
 幽霊屋敷の一角にある自室で、ガイが腕組みをしながら天井を仰ぐ。
「いざとなると、なかなか見付からないもんだな‥‥」
 あれから、何か面白い冒険話はないものかとガイも自ら探してはいたのだが、求めるような冒険にはなかなか出会えずにいた。
「ギルドには相変わらず事件がてんこ盛りなんだけど‥‥やっぱりこう、ギルドではお目にかかれない様な、変わった冒険がしてみたいよなぁ」
 この間の冒険者達も探してみるとは言っていたが、今の所めぼしい収穫はない様だ。
 と言うか‥‥
「レディの奴がなあ」
 気分が乗らないと言って、動こうとしない。
 実際に歌を作るのはレディだ。その彼が動かなければ話にならないし、気分が乗らないものを無理に作らせようとしても、顧客を満足させるような歌が作れる筈もない。
「誰か、あいつの琴線に触れるような冒険、見付けて来てくんねぇかな‥‥」
 もし何もなければ‥‥と、ガイは先程からじっと、黙って自分を見つめている少女の幽霊に言った。
「アイリーン、お前の事でも歌にしてみるか? 本当の事じゃなくても構わないさ、こうだったら良いな、とか‥‥そうだ、お姫様にでもなってみるか?」
 だが、少女は眉一つ動かさずに、黙って壁の中へ消えてしまった。
 音楽好きな少女の幽霊、彼女もまた、いいかげんに作った歌では喜んでくれないだろう。
「ま、家の中でウダウダ言ってても始まらないからな。今回はちょっと、どこでも良いから出掛けてみるか‥‥」
 吟遊詩人も歩けばネタに当たる‥‥かもしれない。
 まあ、出掛けられる程に話が進めば、だが。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8484 大宗院 亞莉子(24歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 eb2288 ソフィア・ハートランド(34歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

「余としては、特にこのような依頼がしたい、とゆーような強烈な意思は無いのだ」
「え、そうなのか?」
 冒険を探しに町へ出たヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)の言葉に、何故か一緒に付いてきたガイが尋ねる。
「そうなのだ。どっちかと言うと、報告書に書いてもらう際に浪漫修正をかけてもらえれば充分なのだ」
「‥‥まあ、その修正はOKってレディは言ってるけどな」
 やりすぎて依頼人である貴族の不興を買うような事にならなければ良いが、とガイは心の中で呟いた。
「無論、修正なしでも浪漫溢れる展開になるならそれに越した事はないのであるが‥‥敢えて言うならば、もし異端教団やら悪魔崇拝者どもに出くわしたならば、神罰の地上代行をかましてやるのだが」
 大宗院透(ea0050)から提案のあった「悪い領主に支配された村を解放する」という趣旨に合う事件を探して、ヴラドはキャメロットの隅々にまで足を伸ばし、様々な場所で噂話に耳を傾ける。
「悪い領主‥‥か。確かに、ギルドじゃあんまり見ないかな」
「まぁ、よく考えてみればギルドに募集をかけるほどの人物となれば、そこそこに資産家でなくては手続きも踏めないであろう」
 そういう意味で、貧しい村の訴えなどというものはギルドに出にくいのではなかろうか?
「領主が民の訴えを握りつぶしていたとすれば納得なのだ。うむ、まさに成敗するにはうってつけの悪徳領主であるな」
 しかし領民が訴えでたくとも出られない様な、そんな背景があるとすれば余計に、噂でさえ流れて来るのは難しそうだ。
「運よく円卓の騎士などが通りかかったら何か知ってるかもしれないであるなぁ。ボールスどのでもウロウロしていないものであろうか?」
 ‥‥流石に、今はそれほど暇ではないようだ。それに、そんな話を知っていたら本人が放っておかない気がする。
「ふむ、ボールスどのも忙しいのであるかな‥‥。もし何も見付からなければ、最初の内は円卓の騎士殿の抱える仕事の代行でもいいかもなのだ」
「円卓の騎士かぁ‥‥。ま、そういう人種は放っといても誰かが歌にするだろうからな」
 彼等の手では拾いきれない人々の、小さな、だが彼等にとっては重大な事件。そうしたものを拾ってすくい上げるのが自分達の‥‥そして冒険者達の仕事だろう。

 一方、ソフィア・ハートランド(eb2288)も冒険の種を探し歩いていた。
 モンスターが現れたり、行方不明者がでているが冒険者に払うお金はなく、領主に頼んでも小さな村なので相手にされない様な事件。そんな事件が起きていないかと、ソフィアは貴族のコネを利用して心当たりを尋ねる。
「行方不明者などが出て困っている領主がいるという様おな話を、ご存知ではありませんか?」
 だが、領民の訴えを無視するような所謂悪徳領主の噂など、そうそうある筈もない。ましてや貴族同士、敵対関係にある間柄でもなければ、何かあったとしても互いに庇うのが通例だろう。
「‥‥しかし、敵対する相手の事なら必要以上に悪く言う場合もあるか。濡れ衣という事もあるかもしれないな‥‥」
 尋ねるなら支配階級ではなく、庶民の方が良さそうだ。
 ソフィアは聞き込みの為に用意したドレスから普段着に着替えると、手近の酒場へと入って行った。

 そして後刻。
「色々と調査した結果、以下の事件を発見しました‥‥」
 集合場所の、幽霊屋敷。顔を揃えた仲間達の前に、透が一枚の報告書を差し出した。
「ここから徒歩2日程度の村で、子供が一人行方不明になっているそうです‥‥」
 村の人口は50人程度。三方を森に囲まれた小さな村だ。
「東西に広がる森は村人達も良く利用している様ですが、北の森だけは入ってはいけないと、昔から言い伝えられているそうです‥‥」
 子供は恐らく、その森に入ったのだろうと言われていた。
「入ってはいけない森か‥‥奥に謎の遺跡があったりしたら面白そうだな」
 ソフィアが目を輝かせる。
「そこまでは、現地で調査してみないとわかりませんが‥‥どうしますか‥‥?」
 透はガイに尋ねた。
「どうするって、その子はまだ見付かってないんだろ? だったら助けに行かなきゃ」
「そうであるな。人命が最優先である」
 行ってみたら思わぬ冒険に出くわす事もあるかもしれないとヴラド。
「それじゃあ、出発ってカンジィ」
 大宗院亞莉子(ea8484)が、まるでピクニックにでも出掛けるかの様に気楽な調子で言った。

「この前云ってたけどぉ、恋の詩は作れないってどういうことってカンジィ」
 村に向かう道中、ガイを捕まえた亞莉子はそう言って口を尖らせる。
「いや、作れないんじゃなくてさ‥‥歌えないんだ。歌わせて貰えないって言うか」
「それって、どういう意味ってカンジィ」
「レディの奴がさ、恋のひとつもした事ない奴には無理だって‥‥」
「へえ、そうなんだってカンジィ。あっ、でもぉ、私と透は恋じゃなくってぇ、愛だからいいってカンジィ」
 あ、そう。
「なんてぇ、冗談ってカンジィ。透並に面白いでしょぉ?」
 はいはい。
「どんな歌になってもぉ、透と息の合った活躍ってゆーかぁ、いちゃつければ問題なしってカンジィ?」
 わかりました、心に留めておきます。だが、肝心の透の方には亞莉子と息を合わせるつもりはあるのだろうか?
『‥‥そこも演出って事で、浪漫な方向に解釈しておけば良いのかな‥‥』
 こっそりとテレパシーで話しかけたガイに、レディが頷く。
 まあ良いか、本人さえそれで良ければ‥‥。

「それじゃあ、情報収集してくるってカンジィ。これでもくノ一ってカンジィ」
 問題の村に着いた亞莉子は早速、一緒に行こうと透の腕をとる。
「私は領主の所を訪問してみるか。ハートランド家の娘として訪ねれば、相手も門前払いはするまい」
 ソフィアが言い、誰か従者になってくれる者はいないかと仲間達を見る。
「‥‥オレ!?」
 目があったガイが、思わず自分を指差して声を上げた。
「貴族の娘が、供の一人も連れていないのでは不自然だろう?」
 透と亞莉子、それにヴラドも、独自に村を調べる方針だった。手の空いている適任者はガイしかいない。
「レディでは目立ちすぎるからな」
「じゃあ、それらしく変装とかした方が良いってカンジィ」
 亞莉子が嬉々として手伝いを申し出る。まあ、変装などしなくても充分、従者として通用しそうな容貌ではあるが‥‥。

「‥‥それは困ってらっしゃるのでしょう。これも何かの縁、わたくし共に協力させていただけませんか?」
 暫く後。適当な理由を付けて領主の館を訪問したソフィアは、すっかりその場に馴染んでいた。
 だが、流石にその申し出には、相手が難色を示す。
「いや、お気持ちは有難いが、これは我が領内の問題だ。それに、村の運営は村人達に任せてある。その様な些末な事で、我々が動く訳にはいかん。貴女も上に立つ者なら、それはお判りだと思うが?」
「‥‥ええ、そうですわね‥‥」
 確かに、領主お抱えの騎士団やその他の人員は、村人に奉仕する便利屋さんではない。彼等はもっと大きな敵‥‥個人の力ではどうにもならない様な、そんな敵を相手にし、多数の利益を守る為に存在しているのだ。
 それに、鄙びた寒村など助けた所で何の益もない。
「この辺りには、近頃モンスターが頻繁に現れるようになっているのだ。もし、子供一人を捜す為に騎士団が出払っている所に、それが大挙して押し寄せたらどうする? 便利屋が欲しければギルドで頼めば良い。金がなければ諦めるか、自分達で何とかする事だ」
 この領主には、自分が報酬を肩代わりしようという発想はないらしい。たった一人の為に税を投入する事は出来ないという事か。領主ともなればそれ位はポケットマネーで賄えそうな気もするが‥‥。
「ならば‥‥わたくしがその便利屋を雇って彼等に協力する事は構わないでしょうか?」
 ソフィアの問いに、相手は僅かに眉を上げる。だが、特に反対する気はない様だった。
「世の中には人助けが趣味という御仁もおられると聞いたが‥‥好きになさればよろしい」

「‥‥多数を守るために、小数を切り捨てることは悪くはないと思うのですが、あまり民には好かれていない様です‥‥」
 話を聞いて、透が不思議そうに首を傾げた。
「大きなものを守るために小さなものを切り捨てるというのは悪ではなく、機能的に事を進める為には必要な事だと思うのですが‥‥」
「話を聞く限り、確かに悪人ではなさそうであるが‥‥」
 ヴラドが言う。
「悪でさえなければ良いというものでもあるまいな。特に当事者‥‥行方不明になった子供の親にしてみれば、万一の事があれば領主に怨みを抱くような事にもなろう」
 そうなれば、彼等にとっては領主は立派な「悪人」だ。
「ご両親は、既に諦めている様子ではあったのだが‥‥しかし更なる犠牲を出さぬ為にも、ここはきちんと調査をしておくのが良かろうと思うのであるが」
「領主さんが動かないならぁ、私達がやるしかないってカンジィ?」
 森の奥には何かしらの遺構の様なものが在るらしいとの噂も聞いた。
 ただ、森にはモンスターも多く、その遺構にしても何が待っているかわからない。今の装備で深入りするのは危険すぎた。
「子供が助かる可能性は低くなるが‥‥仕方がない、か」
 ソフィアが呟く。
 幸い、季節は初夏だ。森の中には食べ物もあるだろうし、夜も凍死するような寒さではない。モンスターに襲われてさえいなければ、助かる可能性はあるだろう。
「確実に助ける為にも、万全の準備が必要だな。下手に踏み込んで共倒れではシャレにならん」
「では、ここで出来るだけの情報を集めてから、装備を整えて出直す‥‥それで良いであろうか?」
「そうですね‥‥『冒険』は『望見』しているだけでは始まりません‥‥」
 今、何か心に隙間風が吹いた様な気がするが‥‥。
 出来る限りの聞き込みを終えると、子供の無事を祈りつつ、冒険者達は村を後にした。