【勲の謡】参
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■シリーズシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月26日〜10月01日
リプレイ公開日:2008年10月04日
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●オープニング
「‥‥結局、その八魔将とやらにも、蘇えらせるとかバアさんが言ってた「あのお方」にもお目にかかれなかったな」
自宅に戻ったガイは、何やら難しい顔をして考え込んでいるレディの傍らでひとり呟いた。
「そいつら、ホントにいるのかね? もしバアさんの妄想とかなら、これで事件解決って事だけど‥‥」
返事は期待していない。
レディが何か考え事をしているこんな場合、話しかけても無駄‥‥いや、下手に話しかけると鉄拳が飛んで来る事は承知していた。
しかし、今日は機嫌が良かったのか、或いはただの気紛れか、レディは細い指でトン、とテーブルを叩いた。
テレパシーのスクロールを使え、という合図だ。
「へいへい‥‥ったく、話せるんだから、ちゃんと口ききゃ良いのに‥‥頑固だねぇ、この爺さんは」
――どかっ!
ああ、余計な事を‥‥。ガイの顔面にレディの拳が飛ぶ。まあ、非力なエルフの拳など大して痛くはないのだが。
「‥‥で? 何?」
スクロールを広げ、そこに書かれている言葉を読み上げる。途端に頭の中に思念が飛んで来た。
『もう一度、調べる必要がある』
「調べるって‥‥あの廃墟を? でも、あの後でちゃんと調べたじゃないか。皆逃げちまって誰も残ってなかったし‥‥あの変な魔法陣みたいな奴? あの子供を生贄に開くとか言ってたあれも、本当かどうかわからなかったし‥‥」
実際に子供を使う訳にもいかない以上、本物かどうか調べ様がない。
『違う』
「‥‥へ?」
『あの領主だ』
「領主って‥‥あの辺一帯を治めてるとか言ってた? 確か、誰か聞き込みに行ってたけど‥‥別に、悪い奴じゃなかっただろ?」
まあ、良い奴でもなさそうだったけど、と呟くガイに、レディが言った。
『奴は何かを隠している‥‥証拠はないが、確信はある』
「‥‥年の功って奴か? 確かに伊達に長生きしてる訳じゃなさそうだが」
――ばしっ!
再び鉄拳が飛ぶ‥‥が、今度はガイの掌に防がれてしまった。
「なあ、やっぱ転職した方が良いんじゃないか? ほら、今は職業を変えるのもわりと楽に出来るようになったって聞くし、この非力っぷりでファイターなんて‥‥」
『余計な世話だ』
「‥‥っでえぇっ!!」
非力なエルフのファイターは、今度は相棒の向こう脛を思い切り蹴飛ばした。
『とにかく、奴はクロだ。だが‥‥』
調べたとて、素直に尻尾を出しはしないだろう。
『さて、どう調べたものか‥‥』
考え込んでしまったレディに、ガイがまたしても余計な一言を投げた。
「‥‥本当はこれだけじゃネタに困るから、何か適当にでっち上げようってんじゃないのか?」
三度、鉄拳が飛んだのは言うまでもない。
その、同じ頃‥‥
「ちょ、ちょっと‥‥待ってくれ!」
辺境の鄙びた村では、再び事件が起こっていた。
「娘は、人浚いの手から無事に戻って来たばかりなんだ! なのに‥‥!」
一件の家から、幼い少女が連れ出されようとしていた‥‥武装した騎士達の手で。
「領主様のご命令だ。逆らえばどうなるかは‥‥わかるな?」
騎士は小さな金袋を床に投げ捨てる様に置いた。
「他言も無用だ」
‥‥チャリン。
落ちた拍子に開いた袋の口から、金貨が数枚零れ出る。田舎暮らしの庶民にとっては当分の間遊んで暮らせる程の大金だった。
「‥‥まったく、手間をかけさせてくれる」
その地方を治める領主は、苛立ちを含んだ声でそう呟いた。
「この間は妙な連中に嗅ぎつけられたが‥‥邪魔はさせんぞ、今度は‥‥な」
あの老婆が言っていた、彼の地に封印されし邪悪なもの。
それが何かは知らないが、もし本当なら‥‥
「この国を牛耳る事も出来る、か」
封印解除に必要なのは8人の子供と、「それ」が目覚めた時に主人を認識させる為の血。
「‥‥あれだけ脅しておけば、口を割る事もあるまい。もし、禁を破れば‥‥」
村ごと潰してやる。
最初からこうすれば良かったのだ。神隠しや森での遭難に見せかけたりせずに。
ポーカーフェイスが得意な領主は、ニヤリと口元を歪めた。
「‥‥さて、あと三人‥‥どこから調達するか、な」
●リプレイ本文
「領主が怪しいと思うならば、調べればよいのです‥‥。考えるのはその後でも問題ないはずです‥‥」
「まあ、それはそうだけど、さ」
レディに向かって言った大宗院透(ea0050)の言葉に、ガイが代わりに答える。
「レディどのはやはり領主が怪しいとにらんでいるであるか。まあそーゆーのは武勇伝のお約束ゆえ、ありうる話とは思うのだ」
「それも、そうなんだけど」
ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)の言葉にも、ガイは何となく煮え切らない答えを返した。
「む、どうしたのであるかな、ガイどの?」
「いや‥‥下手に動いてヤブヘビにならなきゃ良いな、と思ってさ。レディの奴は多分、ネタが足りなくてあんな事を言いだしたんだと思うけど」
「ネタの為、であるか。確かにこのままでは今ひとつ盛り上がりに欠けるであるが‥‥まんざらただのデッチ上げとばかりも言えない様な気はするであるな」
とは言えいきなり証拠も無しに領主館に乗り込むのはどうか。
「まずは名門間諜たる大宗院ご夫妻の隠密活動、及びハートランドどのの文献調査と近隣住民、領主への聞き込み調査の結果を集約して、せめて状況証拠をつかんでから乗り込むのが妥当であろうな。」
「まっかせてぇ〜♪」
大宗院亞莉子(ea8484)が透の腕にしがみつき、片目を瞑って見せる。
「透が行くならぁ、私も行くってカンジィ。忍の本領発揮だしぃ」
「私も何か理由を付けて探ってみよう」
と、ソフィア・ハートランド(eb2288)。
「では久々の珍道中ちょっぴりぐだぐだ風味、出発なのだ〜」
ちょっぴりどころではない気もするが。
いや、それは記録係のせいだけど。
「本職の仕事なら任せてってカンジィ」
亞莉子は例の貴族の屋敷に務めている使用人や護衛などをたらし込‥‥いや、聞き込みをして回る。
聞き込みの内容は領主の性格や行動、女性関係など。だが‥‥
「何だお前は? ここは夜の女の来る所ではないぞ!」
遊女に扮したのは逆効果だった様で、カタブツの守衛につまみ出されてしまった。
「私の誘惑が通じないなんて、信じらんないってカンジィ。でも、別にイイけどぉ、透命だしぃ」
一方、亞莉子が屋敷の外回りで相手の目を引き付けている間に、透は屋敷の中を探る。
領主の部屋に侵入して資料を漁るが‥‥バレては困る悪巧みの計画を、わざわざ文書にして残す筈もない。隠密の技を駆使して本人の行動を見張ってもみたが、やはりそう簡単にボロを出す様な真似はしなかった。
「後はソフィアさんの結果次第という事ですか‥‥」
そのソフィアは、周辺の貴族や親戚縁者から話を聞いて回っていた。
「生き別れになった夫を探しているのです。夫も貴族ですので、もしかしたら何か噂をご存知ではないかと思いまして」
それをきっかけに、何か例の貴族についての後ろ暗い噂などを聞き出せればと思ったのだが。
「あんたも貴族なら、自分の家で不用意な事を口走るのがどんなに危険かわかると思うがね」
相手の貴族は言った。
「噂話が聞きたいなら、キャメロットの社交場にでも行く事だな。あそこならある事ない事、噂なら聞き放題だ。百の大嘘のうち、ひとつ位は真実があるだろうさ」
という事で。
「残る頼みの綱は、この余だけ、という事であるか」
実はこのヴラド、こう見えてもジーザス教の聖職者だった。
「ふむ、ならば余は流れの説教師として、この領主の村で説教を行うのだ」
上手くすれば村人の懺悔なども聞けるだろう。
「あ〜、聖フック・ザーワは言った」
誰だよ。
「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず、と! ん? 間違ったであるかな〜? 」
そんな事を触れて回ったら貴族達の目の敵にされそうだが。
だが、貴族から良く思われないという事は、逆に言えば庶民の味方という事だ。
「む、何か困り事であるかな? 何なりと相談に乗るである。勿論、相談者の秘密は厳守なのだ。領主の悪口でも不平不満でも、存分にぶちまけるが良いであるぞ?」
「ふはははは! 証拠は揃った! いざ敵陣へ颯爽と乗り込むのだ〜!」
ヴラドが取りだしたのは、出発前に銅鑼衛門から譲り受けた空飛ぶ大凧。
「おい、まさかそれで乗り込むつもりじゃ‥‥?」
「む、流石にこれは目立ちすぎるであるか?」
ソフィアに言われ、名残惜しそうに大凧を引っ込めるヴラド。
「まあ、正面から堂々と乗り込んで啖呵を切るには、村人の証言だけでは弱い気もするであるな」
「と言うか‥‥いざ戦いになった場合、戦力に不安があります‥‥」
と、透。
「相手はかなりの兵力を持っています‥‥。この人数で降伏を迫るのは難しいでしょう‥‥」
「それより私は、子供達を早く助けてあげたいってカンジィ。だって私もぉ、透との愛の結晶を浚われたらぁ、悲しいってカンジィ、だしぃ?」
「‥‥それは前にも聞きました‥‥」
「大事な事は何回言ってもOKってカンジィ」
まあ、夫婦の漫才は置いといて。
「あの廃墟に残る伝承のようなものも調べてみたんだが」
と、ソフィア。
「貴族の間にはそのような話は殆ど伝わっていなかった。反対に、村人の間ではまことしやかに語り継がれている様だが‥‥」
野性の動物やモンスターが現れるような危険な森に、子供達が入らないようにする為の方便の様なものではないだろうか。
「早く寝ないと山から鬼が来て浚って行くだの、良い子にしてないと怪物に食べられるだの‥‥そういった類の話ではないか、と」
遺跡に封じられたものの正体も、凶悪なデビルからGの大軍まで、村ごとに話の内容が微妙に違う。
「それを守る者についても、四天王に八魔将、果ては十二神将まで、色々あってな‥‥」
「つまり‥‥子供の頃にそれを聞かされて育った老婆が鵜呑みにし、その話を更にあの貴族が信じた、という事であろうか‥‥?」
それは余りに間抜けすぎる。
だが、これまでの展開からありえない話でもなさそうな。
「とにかく、あの遺跡に行ってみる‥‥か」
「ごく最近に人が出入りした形跡があります‥‥。気を付けてください‥‥」
先頭を歩く透が注意を促す。
周囲の様子は以前に来た時と殆ど変わっていない。冒険者達は勝手がわかった様子で奥へと進んだ。
そして‥‥
「‥‥さあ、お前が最後のひとりじゃ! 大人しくその血を捧げるのじゃぁっ!」
「い、いやだ! 離せっ!」
奥から声が聞こえる。
「しまった、間に合わなかったか!?」
慌てて飛び込んだ冒険者達の目に映った光景は‥‥
‥‥ぷち。
老婆が子供の指先に針を刺していた。じわりと滲み出た赤い滴が、地面に書かれた魔法陣にぽたりと落ちる。
「え‥‥こ、これだけ?」
生贄って‥‥殺して捧げるとか、そういう事では‥‥なかった、らしい。
それだけで解放された子供は、既に役目を終えた仲間達の元へ駆け寄り、身を寄せる。
「そうじゃ。この魔法陣は大層性能が良いモノでのぅ。鍵になる血はほんの少しで良いのじゃ。ただ‥‥」
老婆はヒッヒッと笑う。
「あの方が目覚めた時に、お前達がどうなるか‥‥そこまでは知らんがのぅ」
「や‥‥やっぱり‥‥食べられちゃうんだ!」
「やだ! 怖いよう!」
「助けて!」
その時‥‥
「しかし、あの方とやらは一向に目覚める気配がないであるな?」
――バアン!
声と共に勢い良く開いた扉から、入って来たのは四人の冒険者!
「く‥‥またお前らかい! しつっこいねえ!」
見張りはどうした‥‥と見る。しかし、彼等が役に立たない事は前回で証明されていた。
「ならば‥‥いでよ八魔将!!」
老婆が叫ぶ。
だが‥‥
「何も、出ませんね‥‥」
「そ、そんな筈は!」
「ってゆーかぁ、あの方っていうのも全然目覚めないってカンジィ?」
「バカな! 生贄はきちんと揃えた筈じゃ!」
「‥‥バカなのはアンタだろ、婆さん」
やはり、ここには何も封じられてなどいない、らしい。
「面倒ですから、大人しく捕まってください‥‥」
疾走の術を使った透が一気に老婆との距離を詰める。
「ひいィっ!?」
そして、背後に回ってスタンアタックをかけようとした。
いや、その人ただの婆さんだから。余り手荒な真似は‥‥
「そお? じゃあ、これで‥‥」
亞莉子が春花の術を使うと、老婆は何の抵抗もなく眠りについてしまった。
‥‥後刻。
「結局アンタはガセネタを掴まされてたって訳だ」
例の貴族の屋敷。
だが、応対に出た本人はソフィアの言葉にまだシラを切り続けていた。
「さて、何の事か‥‥私にはわかりかねますが?」
「わかんなくってもぉ、イイってカンジィ? ただぁ、これでもしこの辺の村で何かあったら、お婆ちゃんの妄想を信じちゃったどこかの領主さんのとっても間抜けなお話がイギリスじゅうに知れ渡っちゃうかもってカンジィ」
「こちらには吟遊詩人がいますので‥‥。噂が広まるのは早いと思います‥‥」
「老婆の身柄はこちらで押さえたのだ。もしその証言が証拠にならなくても‥‥例えそれが嘘八百であろうとも、不名誉な噂を流される事自体が致命的な傷になる事はご存知であろうな?」
相手の表情は変わらない。だが、前で組まれた手に浮き出た血管が、やけに鮮やかに見えた‥‥。
「さて、あれだけ言っておけば下手な真似はするまいと思うのであるが」
はてさて、この話を元に一体どんな歌が出来上がるのだろうか?
何やら色々と、脚色という名の修正が必要になりそうな気がするが。
「‥‥『老婆』の出身地はきっと神聖『ローマ』でしょう‥‥」
いや、それ苦しすぎるから。