【勲の謡】弐
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■シリーズシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月16日〜06月21日
リプレイ公開日:2008年06月24日
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●オープニング
「ひいぃッ!」
薄暗い部屋の一角に集められた子供達は、声にならない悲鳴を上げた。
「‥‥まあ、そう怖がるでない‥‥」
暗がりの中に老婆のしわがれた声が響く。
だが、怖がるなと言われてもそれは無理というものだ。老婆の張りを失い部品の配置が悉く崩れた顔を、蝋燭の明かりが下から照らし出しているのだから。
「誰でもいずれはこうなるんじゃよ、いかな美男美女でも、いずれは必ず、なぁ」
老婆は深く刻まれた顔の皺にますます深い影を落としながら、ヒヒヒ、と笑った。
「じゃが、お前達は幸せじゃぞ? 若くて美しく、汚れを知らぬまま、永遠に人々の記憶に留まる事が出来るのじゃ‥‥。もうすぐじゃ。8人の子供が集まれば、全ての準備が整う。それまで大人しく待っておるのじゃぞ‥‥?」
そう言うと、老婆は子供達に食事を与え、そして部屋を出て行った。重い扉が軋み、外で閂がかけられる音が響く。
部屋に残された一本の蝋燭が頼りなげな光を投げる部屋の中では、5人の子供達が肩を寄せ合い、蹲っていた。年齢はいずれも7歳から10歳くらい。見目の良い、綺麗な子供達ばかりだ。
「僕達、どうなるんだろう‥‥」
「イケニエにされるんだよ。あのお婆さんが言ってた‥‥でも、イケニエって何?」
「食べられちゃうのよ、きっと怪物に、頭からパクって!」
「や‥‥やだ! そんなのやだ! 帰りたいよぅ、おかーさぁん!!」
「助けて! 誰か助けて!!」
だが、子供達の叫びは誰にも届かない。
そこは森の奥深くに佇む、大昔に打ち捨てられた城の名残。近付くと呪われるという噂の為に、近寄る者は誰もいない。何か禍しいものが封じられていると話す者もいた。
そんな場所に敢えて根城を構え、子供達を集める老婆は一体何者なのか‥‥?
所変わって、冒険者ギルド。
「あれからこっちに戻るまで、仲間達に色々調べて貰ったんだが、どうもあの近くで行方不明になってる子供は一人じゃないらしいんだ」
依頼人、ガイ・シンプソンが言った。
「しかも、一つの村や集落でいなくなった子供は一人ずつ。事件が起きても泣き寝入りするしかない様な場所を選んで、騒ぎが大きくならないように慎重に動いてるフシがある」
誰の仕業か、目的は何なのか、それはまだわからない。だが、森の中で見付けたあの遺構が関係している事は確かだろう。
「のんびり歌なんか作ってる場合じゃないかもしれないな」
とにかく、まずは事件の解決と子供達の救出を急がなくては‥‥まだ無事でいるなら、だが。
「まあ、歌は後から思い出しながらでも作れるし、無事に成功すれば良い物が作れるだろうからな」
今までに関わりのなかった者でも構わない。歌にされるのを好まないなら、偽名にするなり謎の助っ人として登場して貰うなり、望む通りの措置を講じる。
「まずは事件を解決しない事には歌どころじゃないからな‥‥大勢の子供の命がかかってるんだ。なるべく多くの手が欲しい。よろしく頼むぜ」
●リプレイ本文
「ふはははははは!」
静かな森に悪役じみた高笑いが響く。声の主は言わずと知れたヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)だ。
「やはり冒険者は冒険をしてこそなのだ! 歌は後から付いてく‥‥」
「しぃ〜〜〜っ!!」
だが、それは仲間の冒険者達によって止められてしまった。
「大声を出すな、ここはもう敵陣なんだぞ!」
ソフィア・ハートランド(eb2288)の一喝に、ヴラドは慌てて声を落とす。
「‥‥すまぬ、そうであったな。とにかく子供を慎重に、計画的に拐おうとは、相手はなかなかのモノなのだ。組織力のある奴か、単独犯ならば凄腕。そして、身代金目当てでないことは寒村の子供から明白。デビルの類やもしれぬ」
森に入る前、一行は子供がいなくなったという近隣の村を調べて回っていた。
「私は領主の許可を得て子供達の捜索に来た。心当たりのある者は情報の提供を頼む」
派手で立派な、いかにも頼りになりそうな「華麗なる騎士」といったいでたちのソフィアが家々を回る。領主の許可を得たと聞いて疑わしげな視線を送る者もいたが、それでも子供達を救える可能性が少しでもあるならと、村人の多くが協力を申し出てくれた。
「子供達は森に食われたんだ」
「あそこは危ないから近付くなと、普段からあれほど‥‥!」
「森には恐ろしい怪物がいるんだ。領主様もそれを恐れてる。だから、いくら頼んでも‥‥」
「もう、今更探しに行っても無駄さ」
‥‥等々。
「民を守るのが貴族の仕事だとボールスさんは言っていたのですが、世の中の貴族は職務を全うしないのでしょうか‥‥」
「貴族にも色々いるのであろうな」
大宗院透(ea0050)の呟きに、ヴラドが答える。
「とにかく森が怪しいというのは確かな様であるな。何が現れるか判らない故に重武装の上、そのあからさまに怪しげな森を調査してくれるわ!」
という訳で、一行はモンスターや敵の影に注意しながら森の中を進む。
「行方不明になってから、ずいぶん時間も経っているようですので、のんびりはしていられません‥‥ね」
ラミア・リュミスヴェルン(ec0557)が緊張の面持ちで呟く。
が、大宗院亞莉子(ea8484)は‥‥
「私もぉ、透と私の愛の結晶の子が誘拐されたらぁ、すごく悲しいもんねぇ。早く助けないとけねぇん」
ノロケかい。
「ってか、お前ら子供いるのか?」
ガイが驚いて尋ねるが、亞莉子は「まっさかぁ♪」と首を振り、楽しそうに笑った。だが、その時‥‥
「しぃ〜〜〜っ!!」
‥‥何か、いる。
木陰に隠れて、何体かの‥‥多分、モンスター?
「ウチがモンスターを引きつけます‥‥ので‥‥」
両手に剣を構え、ラミアが言った。
「その間に、先に進んで‥‥下さい」
「一人じゃ無理だ、相手の正体も何体いるかもわからないのに」
ガイが剣を抜き、その横に立つ。が‥‥
「大丈夫‥‥です。ウチも、十分に引きつけた後はインビジブルで姿を消して撤退します‥‥です」
それに、装甲もろくな装備をしていないガイより格段に厚い。
「そ‥‥そうか? 無理すんなよ?」
余り仲間と離れてしまっても追い付くのが難しくなる。地図もない森の中ではダウジングペンデュラムは役に立たなかった。「地元の狩人さえ足を踏み入れないような所ですからね‥‥」
自分達も迷ったら遭難の危険があると透。森の中の情報は噂や言い伝えばかりで、実際の役には立ちそうもない。
それでも何とか森の奥に辿り着いた彼等が見たものは‥‥
「これは、大昔に打ち棄てられた城か何かの様であるな‥‥」
草が生え、蔦が絡み付き、半ば森と同化した様な廃墟。だが奥には雨露を凌げる場所もありそうだ。
「巧妙に隠されてはいますが、人が出入りした跡が残っています‥‥」
透が言った。どうやら、中に誰かがいる事は間違いなさそうだ。
「子供達も‥‥ここにいるのでしょうか」
ラミアが呟く。その可能性は高そうだが‥‥
「まず中の様子を調査する必要がある‥‥でしょうか。何が潜んでいるか分かりませんし、何もなく子供達が行方不明になるとは考えられません、から‥‥子供達を攫った何者かが存在する可能性も高いと思います」
ラミアはインビジブルを唱え、一足先に遺跡の中へと足を踏み入れる。
天井が抜け落ち、上空には木々の葉を空かして青空が見える‥‥とは言え、廃墟の中は薄暗く、足元などは殆ど見えない程だった。
「こんな時には何かセンサー系の魔法でも使えれば楽なんだがな」
出来るだけ足音を立てない様に気を付けて歩きながら、ソフィアが言った。
「ガイ、お前はスクロール使いだろう? 何か持ってないのか?」
「悪い、俺が持ってんのはテレパシーと攻撃魔法が幾つか‥‥それだけだ。色々あれば便利なんだけどな‥‥」
一部には大量に出回っている様だが、あの天下の回り物と同じで回り方にはムラがある様だ。
「まあ、無いものは仕方ないか。地道に探すぞ」
「‥‥ふむ、子供が行方不明になって随分と経つ。ここに閉じ込められているならば、比較的居住性の良い一角と、余は睨んでおるのだが‥‥」
見張りがいる気配はない。戦闘員などに出て来られても面倒だが、かといって何もないのは少々拍子抜け‥‥などと思いつつ一行は先へ進む。
「待って‥‥下さい」
行く手を塞ぐ古びた扉の前で、一行は魔法が解けて姿を現したラミアに呼び止められた。
「この扉は鍵がかかっています。それに‥‥向こうには敵の姿が」
鍵穴から覗くと、そこは大広間だろうか‥‥天井は崩れていないが、壁面のあちこちで松明が焚かれている為に自然光が入らなくてもかなり明るい。そして確かに、数人の人影が見えた。
「あの者達は武装しておる様である。遠慮は要らぬという事であるな?」
ヴラドは何だか嬉しそうだ。
「余らが正面から交渉或いは恫喝‥‥いやいや説得に臨むゆえ、忍びの御夫妻には隙を衝いて子供を奪還してほしいのだ」
「ウチも、子供達の元へ向かいます。まずは、子供達の安全を優先、で‥‥」
広間の一角には二人の男に守られた小さな扉がある。恐らく、あそこに‥‥
「よし、行くぞ!」
予め疾走の術をかけておいた透が鍵を開けると同時に、ソフィアが真っ先に飛び出す。
少し遅れて走り込んだヴラドが、まだ事態を把握し切れていない様子の敵に大声で呼ばわった。
「余は教皇庁直下テンプルナイト! 慈愛神の地上代行者である! 貴様らの行状尋常に非ず。神罰の代行を実施すべきところであるが、無垢なる子供らを無傷で解放するならば格別の慈悲を与えんとす!」
「だ、誰だっ!?」
いや、誰だと言われても。
「たった今、名乗りを上げたばかりなのであるが‥‥まあ、言って聞く相手ならば苦労しないであるな」
と言うか、口上が難しすぎて理解出来なかったのではないかと。
まあ、そんな事はどうでも良い。敵にぶち当たったら蹴散らすまで。全滅は無理でも、救出組が仕事を終えるまで敵の目を引き付けておければ良いのだ。
その間に、ラミアは姿を隠しつつ見張りに近付き両手の武器で攻撃を加える。
「ど、何処から‥‥っ!?」
慌てふためく見張りをラミアに任せ、透と亞莉子は閂を外して部屋の中へ入った。
「何事じゃっ!?」
子供達の様子でも見に来ていたのだろうか、老婆が振り返る。
「子供達を助けに来たってカンジィ?」
「何‥‥どこから嗅ぎつけおった!? 奴等め、しくじったか‥‥それとも裏切りか!?」
「何だか知らないけどぉ‥‥いあやぁん、年をとるとこんなに醜くなるのぉ!?」
透が老婆の背後に回り子供達に近付いた事を確認すると、亞莉子は注意を引き付ける為にわざとらしく挑発してみる。
「でも私はぁ、透との愛があるから大丈夫だけどってカンジィ」
「‥‥若い頃は誰でもそうやって夢を見るもんじゃ。じゃが、現実はこれじゃよ。アンタもいずれはこうなるのじゃ!」
ひゃっひゃっひゃ、と老婆は笑う。
「あらぁ? お婆さん、デビルじゃないのぉ、ってカンジィ? だってその顔で人間って、シンジラレナイってカンジィ」
「誰がデビルじゃ! 儂はれっきとした人間様じゃい! ‥‥今の所はなぁ」
今の所、という事は‥‥これからデビルになる予定でも?
「そうじゃ、この地下に眠るあのお方が復活なされば‥‥かつての様な美貌も、逃げて行った恋人も、望むもの全てをこの手に取り戻せるのじゃ!」
このバアさん、何やら過去に色々とあった様だが‥‥だからといって悪事に手を染めちゃダメでしょ。
「もうすぐじゃ、あと3人、子供が集まれば封印が‥‥って、何をしておるかーっ!?」
何をって、子供達を助け出そうとしてるんですが。
「安心しな、今から家に帰るぞ」
外の敵をあらかた片付けたソフィアが声をかけ、気さくに子供の頭を撫でる。そのまま手を引いて部屋の外へ出ようとした時‥‥
「折角集めた生贄、取り返されてなるものか! 女、そいつらを止めろ! 我が下僕となるが良い!」
老婆が亞莉子に向かって何やら魔法を唱える。その体が銀色の淡い光に包まれ‥‥
「‥‥チャーム‥‥!? でも、そんなヘナチョコ魔法は効かないってカンジィ♪」
抵抗力は愛の力、らしい。
「仕方がない、こうなったら‥‥!」
老婆の体が再び光る。
「戦闘員を倒して良い気になっておる様じゃが、あれらは所詮は雑魚。待っておれ、たった今テレパシーで八魔将を呼び出した。奴等の手にかかれば、お前達なぞ‥‥」
わざわざ解説ありがとう。
「ふむ、やはりそうした手練の者がいるのであるな。戦ってみたい気もするであるが‥‥」
今は子供達の救出が先だ。と言うか、ご登場を黙って待っている義理もない。
冒険者達は逃げた。子供達を背負い、出口を目指して脇目もふらずに走る。
老婆には彼等を追う気‥‥と言うより体力はないらしい。八魔将とやらにもお目にかかる事は出来なかった。とりあえず、今回は。
どうやら子供達を親元に届けて終わり、という訳には行かない様だ‥‥。