【新たな斎王】巫女不足に付き 〜地の巻〜
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■シリーズシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月30日〜05月14日
リプレイ公開日:2006年05月07日
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●オープニング
●伊勢の現状
「‥‥以上じゃろうか?」
「はい」
「思ったより集まりましたが、それでもまだ我々だけではあれが根本的な原因なのか断定し難いですね」
「近頃めっきり、妖怪共がなりを潜めたのが気になるが‥‥」
「このまま沈静化‥‥はしないですよね?」
「楽観は出来ぬじゃろう、寧ろこれから気にせぬと」
「‥‥所で、群行を間近に控えている『斎王』様の歓迎準備は?」
「それが‥‥」
「人手が足らぬ、と」
「はい、この件に人手をいささか割き過ぎまして」
「なるほど、ならば空いている者はおるか?」
「それなら神野殿が」
「‥‥ある意味、適材か。詳細に関しては珠へ一任する故、すぐ手配する様にと伝えておくれ」
●求む、巫女 〜犠牲者〜
「頼まれておくれよぉ〜」
「いやだ」
話は花見より少し前に遡る‥‥何やらレリア・ハイダルゼムへ泣きついている神野珠の姿があった。
しかしその彼女はキッパリと拒否すれば、よよよと泣き崩れる珠だったが
「そんな、友人が困っていると言うのに!」
「そうだぞ、持つべきものは友だ!」
「そうだよねぇ〜」
「うむ!」
口を挟んできたヴィー・クレイセアに同調すれば再び握り拳を作って立ち上がる彼女へ、剣士は嘆息だけ一つ。
「‥‥そう言う時だけ息を合わせないで下さい、それに第一巫女は」
「種族やジャパン人が云々、なんて事はないけどねぇ」
次いで断るに相応しい理由を挙げようとするが、それを察していた珠が彼女の言葉を最後まで言わせず、遮れば
「それにほら、冒険者の皆も知っている人がいれば多少でも安心するだろうし、巫女の先輩も付けるから‥‥助けておくれよぉ」
「‥‥いやだ」
何事かの依頼なのだろう、冒険者達を誘う事と協力者がいる旨を告げて珠は再度泣きつくが‥‥取り付く島のないレリアはそれを聞いて尚も拒む。
(「くぅ、是非見てみたいのに!」)
そんな彼女へ内心でだけ、呻く珠だったが‥‥何処のおっちゃんだ貴女は。
だが誰もがそんな個人的理由は知らないながら、神は舞い降りた。
「‥‥‥」
何時の間に話の輪に加わっていたのか、その神ことエドワード・ジルスがレリアの上着の裾を引っ張り、彼女と視線を見つめれば
「ほら、エドも見てみたいって!」
本当にそう思っているかは本人以外知らないが、訪れた機を逃さず珠は捲くし立てる‥‥エド君って意外におませさんだったのね、とか言う突っ込みは此処ではあえてなしで。
「ついでに我ぼっ!」
因みにヴィーも同意してみるがレリアにとってはどうでもいい様で、振り返りもせずに背後から声を掛けて来た彼が言葉の途中、鞘に収まったままの大剣で思い切り頭頂部を打ち据え黙らせる‥‥何と可哀想に。
「‥‥今回だけ、だからな」
だが流血の大惨事に至る騎士が悶絶する中でも、変わらず注がれるエドの視線に貫かれてはレリア、折れる他になかった。
●
「しかし何だって急に‥‥巫女がいない訳ではないのだろう?」
「いないのさ、ちょっと前からあちこちへ派遣させているから肝心の伊勢神宮に残っている巫女があれだけじゃあねぇ。一般への対応こそギリギリだけど、そうでもなきゃ依頼を出してまで巫女の急募なんかしやしないさ」
あれから暫く、庭でまどろんでいた珠へ尋ねるレリアに振り返らず返って来た巫女からの答えは剣士へ一つの予想を打ち立てさせる。
「今回の件‥‥『斎王』だな、もうそろそろ来るのか?」
「あぁ。新しい『斎王』様は来月の末に江戸を発たれ伊勢は二見にもうじき出来る、『斎宮』に移って来るよ」
「伊勢の藩主も頑張っていると言う話は僅かに聞くが果たして伊勢が抱えている問題、『斎王』はどう捉えるか」
「そればかりは何とも」
その予想に珠は頷き答えれば、意外に耳聡いらしいレリアが伊勢藩主と伊勢の問題を話に出すもそれには肩を竦めるだけの彼女。
「ま、話を戻そうか。今回、あんた等にやって貰いたいのは巫女になって貰う事。とりあえず『斎王』様が来るまで大よそ後一ヶ月、時間があるからその間に私が皆へ教育をした上で『斎王』様に接する所まで、やって貰うつもり」
「‥‥ちょっと待て、いきなりでそんな大役を?!」
「私が任されたから、人員に関しても私が決めてOKなの」
だがやがて脇道に行った話を戻すべく珠、漸く本題を切り出せば事の大きさから普段は至って冷静な剣士でも驚かざるを得なかったらしく、目を見開くと続く伊勢神宮の巫女の言葉に彼女。
「貴女は一体‥‥」
「表面ではちょっとだけ、偉いかな?」
友人とは言え、知らない事も多い珠自身の事に付いて問えば返って来た曖昧な答えから次いで渋面を浮かべるも、珠は微笑むだけでそれ以上の答えは発しない。
「それで肝心な内容だけど‥‥今回は試練の洞窟、まぁ私が勝手に名前を付けた洞窟だけど、そこに潜って貰って『ある物』を取って来て貰う。まぁ体力面と知識面のテストみたいなものかな? それ程険しくないし、敵もいないけどいい修行にはなる筈だよ」
そして押し黙るレリアだったが、続く彼女から告げられた肝心な巫女教育の内容を聞かされると、常に笑顔だけ浮かべている彼女へ意を決して頷けば
「そう言う事で、宜しく!」
家へと戻る珠の、いやに楽しげな背中を見送ってレリアはその逆に溜息をつくが‥‥とにかく、賽は投げられた。
伊勢神宮の明日は明るい‥‥といいなぁ。
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依頼目的:珠の試練に挑め!(体力&知識編?)
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)等は伊勢神宮から出ます。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
NPC:神野珠、楯上優、レリア・ハイダルゼム
日数内訳:京都から伊勢神宮〜とある山まで往復日数七日、実働日数七日。
その他:女性限定(ご協力、お願いします)
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●リプレイ本文
●試練を前に
「ファルネーゼと申す、宜しくじゃな」
「こちらこそ宜しく‥‥だが」
「随分とまぁ、思っていた以上に外人さんばかりだねぇ」
「やはり、まずいか?」
依頼人、神野珠に指定された『試練の洞窟』前にてその本人と巻き込まれる形で参加するレリア・ハイダルゼム、皆の引率(?)として招かれた楯上優と合流を果たす一行の中、豊かな胸を誇示するエルフのファルネーゼ・フォーリア(eb1210)と握手を交わすレリアが何か言い淀むと、その後を継いで珠の率直な感想が場に響けば上品ながらも何処か堅苦しい言い回しで不安げに尋ねる巨人のルミリア・ザナックス(ea5298)。
「いやいや、興味を持って貰えた様で嬉しい限りさ。大丈夫大丈夫」
「ならいいが‥‥では宜しく頼む、珠殿。それと同伴されるレリア殿に優殿も」
巨躯を縮こまらせる彼女の反応に珠は苦笑を湛え、手を振り言えば次いで頭を垂れた彼女へ依頼人も倣い、頭を下げると
「今回はメイドじゃなくて巫女として頑張るよ!」
「正確には巫女見習いかな、まだ」
「でもこれじゃあ、鎧は着れないよねぇ」
「ちょっと厳しいですね」
「しかしこれが巫女装束か。ふむ、興味深いの」
そのルミリアの隣、彼女と比べると半分程の背丈しかない為、何時も以上に子供とも見受けられるティズ・ティン(ea7694)が明るい声音響かせ純粋な笑顔浮かべれば、珠が笑顔で訂正するとその彼女の纏う衣装を見て小さな剣士が嘆息を漏らすと、レリアと共に一行へ同伴する楯上優も首を傾げるがそれを眺めていたファルネーゼが感心すれば四人、やがて盛り上がる中。
「しかしロア殿もか、一体どうされた?」
「何か失礼な物言いの気もしなくは無いけど‥‥気付いたのよ、私には学問の才能しかない事を」
「才能があるだけ、いいではないか」
「ま、そうね。ジングウ関係者には精霊碑文学を研究している人が居るって、勇に聞いたわ。だからミコ志願、本格的に学びたいの」
彼女らの傍ら、ガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が見知った顔であるロア・パープルストーム(ea4460)へ問い掛ければその質問へ不満げに肩を揺すって彼女、独白すると至って静かな面持ちで返すガイエルにその決意を打ち明ける。
「ふむ、そうか」
「私と違って、立派な志です」
「ん、そう言えばフィーナはどうして?」
「いえその、何と言うべきか‥‥」
「まぁ、いいのではないか」
すると深く聞かず納得だけする彼女へロア、今度は肩を竦めた時‥‥背後からやはり顔見知りのフィーナ・ウィンスレット(ea5556)が彼女の決心に感心し、言葉を紡ぐとふとその反応が気になったロアが尋ねれば、珍しくうろたえるフィーナに首こそ傾げるがガイエルに諭されれば、同意して頷いた。
「しっかし、いい眺めじゃのぅ。やはり巫女はいいねぇ」
「巫女‥‥ジャパンでは神聖な職業と噂に聞く、実に得がたき体験だ。衣装も実に気に入っているし、頑張りたいかと!」
「レリア様や皆様と一緒に、り‥‥立派な巫女さんになれれば良い、な」
「‥‥まぁ、頑張ろう」
そんな折、一行を見回し早くも巫女装束に着替えている者の立ち姿を見て珠が悦に入る中、それでも生真面目にルミリアが決意固めれば、その彼女とは裏腹に人見知りのきらいがある水葉さくら(ea5480)もおずおずと頷いてレリアを見ると嘆息を漏らすが彼女、漸く腹を括る。
「んじゃま、行ってらっしゃい。気を付けてね」
「お父ちゃ、お母ちゃ、見ててけろ‥‥!!」
「ほらちとせ、一人で握り拳固めてないで行きましょう?」
「あ、はーい!」
「それでは、また。エドワード殿も、な」
そして暫しの間を置き、珠が持参した巫女装束に皆が着替え終わった事を確認すると依頼人が見送る中で背筋を正した相馬ちとせ(ea2448)が虚空に浮かぶ両親へ約束交わすもロアが呼べば、駆け出した彼女に続いてルミリアが一行を見送る珠とエドを見やりそれだけ告げて深遠の闇へ消えた。
●試練の洞窟、内部
「うーん、試練は一体何が待ち構えているのでしょうか」
「珠殿の事だから何を考えているか、仕掛けているか皆目見当がつかん」
試練の洞窟に入って暫し、緩やかに下る岩肌だけで覆われた道をルミリアとちとせが棒と槍の柄で小突きながら進む中、紡がれたフィーナの疑問はガイエルや他の皆にしても分からず苦笑だけ浮かべれば、先を先頭へと視線を移すと
「でもこの調子なら楽勝だね!」
「この調子のままなら、ね」
直後、響く可愛らしい剣士の明るい声に赤外線の視覚を得ているロアがまだ入ったばかりとは言え、警戒心を募らせティズを窘めるが
「この試練を乗り越えて、み、認められると、本物の巫女さんになれるんです‥‥よ、ね。ならこの洞窟はその第一歩‥‥き、気持ちよく‥‥スタート出来る様、頑張りましょう」
「そうだね。うんっ、がんばろー!」
肩を落とした彼女へ今度は慰める様、さくらが声を掛ければ彼女も笑顔で応えると軽い足音立てては駆け出した。
●
第三層、此処で漸く洞窟はその牙を剥く‥‥とは言っても断崖絶壁なだけで深いながらも下に道は続いており下りるだけで済む話なのだが、一行にとってはそれだけでも一苦労。
「そこは滑りそうなので、ちょっと右に逸れた方が良い」
フィーナがフライングブルームで一人連れては下りる中、ルミリアがロープを垂らし断崖へ豪腕振るってナイフを突き立て足場を作りつつ体力に自身のある者を導けば先に下りたファルネーゼが指示を出し、見守っていたその時。
「っ?!」
「危ないっ!」
そのロープと足場のナイフを頼りに降り始めたティズが着慣れない巫女装束に足を取られ中空へ投げ出されると慌て腕を伸ばすさくらより早く、長く一本の棒が伸びればそれに反応してティズもまたその棒を掴むと
「ファイットォーーーッ! いっぱあぁぁぁーーーつ!」
正しく雄叫び上げて、勢い良く彼女を引き上げるちとせ‥‥凄い気合だ。
「だ、大丈夫‥‥です、か?」
「‥‥傷は時間が経てば治りますよ、それに」
「一人は皆の為に、じゃな?」
だがその棒、短い槍の穂先を持っていたちとせの血に濡れた掌を見てさくらが不安げに彼女を覗き込むも‥‥思い込んだら命をも懸ける志士は平然と笑顔を湛え、下から響くファルネーゼの自身言おうとしていた続きの句に頷いた。
●
「参ったわね、この木の根。スクロールが出来ていたら良かったのだけど」
「この程度、無くとも何とかなろう」
「そう言う問題じゃ、無いんだけどね」
第五層、岩壁を突き破り処構わず這い回る木の根に道を阻まれている光景を見てロアは頬を掻き嘆息漏らせば、ガイエルが宥めるも尚不満だと訴える彼女。
「ここは一つ、メイドに任せなさいってね!」
そんなロアに黒き僧侶が苦笑を湛えた時、ティズの声が響けば辺りを走る木の根を己が身以上の大剣振るい切り開くが、それはメイドの仕事とは少し違うと思う一行だったが
「‥‥洞窟だからと言って、汚さない様にね」
その中、先まで難しい表情を湛えていたロアが過去から書き綴っているメモ代わりの巻物をなんの気無しに開けば、飛び込んで来た一言を目に留め感慨深く微笑むと道を切り開くメイドへそれだけ告げた。
●
「迷い路へようこそ、正しき道は一筋なり。しかし誤りは誤りにあらず、悩み惑え。さすれば答えは与えられん‥‥だそうです」
「まだ先は長いのに随分、手が込んでいますね」
「明らかに人工物、だな。良くもこさえる暇があったものだ」
第八層、眼前に立つ石の板に刻まれたジャパン語を読んでちとせは皆を振り返れば、フィーナとガイエルは珠が仕込んだのだろう迷路に感心する。
「時間も押していますし壊して先に進めれば、楽なんでしょうね」
「意外に大胆な事を言うな、優殿」
「こ、壊せば‥‥いいんですね?」
と次いで響く優の一言に、今度は苦笑を浮かべて巨人の騎士が彼女を見やった時‥‥巫女の言葉を真に受けたさくらの声が遠慮がちに響くと、皆は一斉に首を傾げれば同時に鈍く激しい衝撃音が辺りへ轟いた。
「ま、まぁ‥‥肝要なのは一番下にある何かを取ってくる事じゃし、問題はなかろう」
「それもそうだな、では我も手伝う事にしよう」
「でもこれでいいんでしょうかね?」
その唐突な光景にファルネーゼは呻きこそするが、砕け出来た道の先に異常がない事を察すれば、さくらに倣ってルミリアも六尺棒を振るって次なる壁を崩すも真面目なフィーナは当然ながら疑問を覚えたが結果良ければ全て良し、である。
別段何が起こる事もなく、一行が呆れる程にあっさりと道は開けた。
「『誤りは誤りにあらず』‥‥辿る道が誤りでも、切り開ければそれも正しき道になると言う事なのでしょうか?」
しかしその疑問に答えられる者は、今は此処にいない。
●
「随分と大きな池じゃのぅ‥‥いや、むしろ湖と言うべきか」
「特に湖の中には何もいないみたい」
「だが向こうへ渡るには魔法を用いるか空を飛ぶか、と言った所か」
第十層、一行を阻むのは大きな湖‥‥向こう岸が見えるだけまだ幸いだがそれを見据えて呆れるファルネーゼの声が響けば、ロアの赤外線視覚には何も映らない事だけ皆へ告げると次にガイエルの提案が上がれば
「耐寒の魔法も掛けておきましょう。皆さんこちらへ‥‥レリアさん?」
「果たしてどれ位深さがあるのだろうな‥‥っ?!」
念には念を、フィーナが寒さに耐性を得られる魔法を皆へ付与すべく呼ぶが岸から湖を覗き込むレリアが振り返ったその時、唐突に盛大な水音立てて地底湖へ頭から突っ込んだ。
「大丈夫、ですか?」
「‥‥心配ない、身を持って深さを測っただけの事」
(「ドジっ子だ」)
「何だ、その物言いたげな視線は」
『何でもないです』
それを彼女の背後で見守っていたさくらが心配そうに声を掛けると、返って来た何時もの声音に皆は安堵こそするも内心それだけ覚えれば、一行の心情を見透かし彼女は不満げに皆を一瞥すれば陸に残された全員は口を揃え、首を左右に振るのだった。
●道中、憩いと勝手な噂話
「えと、と、所で、ちょくちょくお話に出て来ている『斎王様』とは、どちら様の事‥‥なんでしょう?」
時間にして三日目か‥‥『試練の洞窟』の最下層まで後僅かな一行、流石に溜まった疲労を拭い切れず休息を取る中、皆へ安らぎを与えるべくちとせが纏う巫女装束を靡かせて舞を披露すればその時、さくらの口から不意に紡がれた疑問。
「そう言えば、私も詳しい話は聞いていないな」
「‥‥少々、変わったお名前の方‥‥ですよね、きっと」
その問いへレリア、自身も聞かされていない事に今更気付くと再び彼女、どう言った根拠からかそう言うと
「掻い摘んで言えば『斎王』とは伊勢神宮を統べる人の総称ですね、今度お越しになる新しき斎王様の名は確か‥‥」
焚かれる焚火と舞うちとせを前に、優がその問いへ対する答えを厳かに紡ぐと皆の視線が集まる中で続くだろう言葉は途中で止まると
「忘れました」
「‥‥優さん」
あっさりそれだけ言い放ち、フィーナを筆頭に一行は頭を抱えるが
「女の子がだらしないよ‥‥っと、これで良し!」
「申し訳ない限りじゃ」
「それでは行きましょう、帰りを考えると余り時間もありませんし」
何時の間に綻んだかファルネーゼの巫女装束を見とめたティズがそれを見事な手際で縫い直せば、彼女の礼に笑顔で返すと丁度舞い終えたちとせに促されて皆は立ち上がった。
後僅かで辿り着くだろう、最深部を目指して。
●至る、最奥
そして一行は三日目も終わるだろう頃になって漸く『試練の洞窟』が最深部へと至る。
「はぁ、はぁ‥‥」
「‥‥流石に最後はしんどかったな、これで仕掛けまであったら厳しかったろう」
「最後は純粋に体力勝負、でしたからね。これを持って来ていなかったら」
平均以下の体力を持つエルフ四人組が一人、ロアが息を切らせればガイエルもまた地に座り込みぼやくと魔法の箒にてファルネーゼを乗せ、宙を駆っていたフィーナが闇の中へ舞い降りれば今まで辿って来た道程を振り返り、激しい自然の起伏と己が持つ箒を交互に見やり冷汗こそ掻くも
「どうやらこれの様ですね、珠さんが持って来いと言っていた物は」
「こ、れ‥‥何でしょう? 見覚えは、ありますが」
その四人の先を少しだけ進んでいたちとせ、岩棚らしき物の上に束となって置かれている小ぶりな特徴的に刻まれた和紙が結わえられている木の枝を見付ければ、首を傾げる彼女に同意してさくらが虹色の布が巻かれる両手をそれへ伸ばし、手に取る。
「玉串ですね。人数分あります、恐らく珠さんが私達の為に準備してくれたのかと」
「何に使うのじゃ?」
「祭事の際に良く用いる道具です‥‥が、詳しい話は後にした方がいいでしょうね」
「そうね、残る油の数から考えると時間も余りないし」
小さな志士と、次いでエルフの黒きクレリックが問いへ優が簡単にだけ説明するもロアが油の残数を確認し優の問いへ答えれば、皆は来た道を戻るべく踵を返す。
「それにしてもどうやって珠さんは此処まで来たのでしょうか?」
そんな折、今まで歩いて来た険しい道を依頼人は果たしてどうしたのだろうとちとせは疑問に思うが‥‥誰もがその答えを持ち合わせてはおらず、依頼とは関係ないながらもそれだけ疑問として残ったまま、一行は地上を目指し歩み始めた。
●
「や、ご苦労! まぁ何とか、時間通りだね。ギリギリだったけど」
「珠殿に、エドワード殿も。もしかして、ずっと此処で?」
「あんたらが頑張っている時にのんびりと茶を啜っている訳にも行かないだろう? それに何時出てくるか分からないからねぇ。まぁこれ位、当然当然」
『試練の洞窟』が入口まで戻って来て一行、夕焼けながらも久々に浴びた日の光へ目を細めた時‥‥ルミリアが二つの影を捉え呼べば、その影が一つである珠は笑顔で一行を迎えるも
「‥‥‥」
「って、エドに言われた」
「所でこの試練、巫女を務めるのに必ず通らなければならないだろうか?」
「‥‥そんな事はないよ、私の趣味」
その隣にいる、エドに凝視されれば本音を零す彼女はうな垂れると一行の笑いが響く中で紡がれた、ガイエルの唐突な問い掛けに彼女は僅か逡巡し、だが笑顔で言い切るのだった。
「どうやら次も、骨が折れそうだな」
とぼやいたのは果たして誰だったか、しかしながらその予想は裏切らないだろう事だけ一行は感じて溜息を付いた。
〜続く〜