【十種之陽光】真なる天岩戸・陽
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■シリーズシナリオ担当：蘇芳防斗 対応レベル：11〜ｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：10 G 86 C 参加人数：8人 サポート参加人数：3人 冒険期間：01月23日〜01月30日 リプレイ公開日：2008年01月31日 |
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●オープニング
●真なる天岩戸伊勢神宮本殿、その傍らにある仮拵えの斎王の間‥‥今日も今日とて、伊勢の重役達が集っては何事か話を交わしていた。
「入口は二つ、道は二つ、出口は一つ‥‥それぞれに試練があって、それを共に乗り越えないと最奥の寝所へは至れない、ねぇ」
「厄介な仕掛けではあるな。尤もその用途を考えれば当然だろうが、一度解いてしまえば以降の行き来は自由か」
さて、斎王が今日切り出したその議題とは、名前こそ挙がってはいないが『真なる天岩戸』に関する事で、今までに知り得ている情報を改めて纏め場に集う皆へ告げると‥‥五節御神楽の（一応）長がレイ・ヴォルクスも先に紡がれたその仕掛けと、解放すべき時期について思い悩む‥‥本当に、まだ宝具が完全に揃っていない今に開け放っても良いものか判断しかねるからこそ。
「因みに、まだ話には出ていないのだけど‥‥宝具の最後の在り処は何処？」
「えぇ、それなんですが‥‥」
と言う事で場に介する皆は慎重に慎重を期すからこそ頭を抱えるその中で斎王、四つ目の宝具が在り処こそ聞いてはいたが最後の宝具がまだだった事に思い至ると部屋の隅、巨躯の割に小さく佇んでいる様な気がする、導き手が猿田彦神へ最後の宝具について尋ねると彼女を手招きしてはこそこそ、耳打ちすれば直後‥‥斎王はやおら立ち上がっては予想だにしなかった答えを聞いて思わず、大きな声で叫ぶ。
「‥‥ちょ、知らないって？！」
「お恥ずかしい限りで、はは」
「そんなオチはいらないのに‥‥光、文献とかの調査の方は？」
「今の所、最後の宝具の所在までは。ですが今までの宝具の所在については文献に記載があったのでもう少し、時間を頂ければ見付けられるのかと」
その叫びを前、場に居合わせた一同も流石に唖然とするが‥‥しかし笑って誤魔化す猿田彦神を恨めしそうに見つめながら斎王はしかし、すぐに気を取り直すと今日も近くにいる側近へと問えば即座、返って来る明確な現状の進捗を回答として聞けば考える事暫し。
「それでは最後の宝具についてはこちらで調査するとして‥‥『真なる天岩戸』はどうすべきかしらね。宝具の回収を待ってから開けるか、もう開けるか」
「『真なる天岩戸』について、情報の流出が懸念される可能性は？」
「ないわね」
「ならば、先んじて開けても良いだろう。ましてや宝具の最後の在り処が分かっていないのだから」
「そうね。ましてやその所在が此処、伊勢神宮内部なんだから」
一先ず最後の宝具が在り処は置いておき、本来の議題である『真なる天岩戸』解放について話を戻せば彼女、皆を見回しては改めて意見を求めると‥‥レイの疑問へ即座に応じれば彼が一つ、断言するとそれに賛成して伊勢神宮の巫女達を束ねる神野珠も頷けばやがて意を決した斎王は改めて、部屋の隅にいる猿田彦神へ視線を配しては判断材料として一つの疑問を投げ掛けるのだった。
「‥‥なら、『真なる天岩戸』に待ち構えている試練についての詳細は何か知っている？」
「はい、それならば‥‥」
●霊刀『白焔』
「十種之陽光の参集？」
「はい。『真なる天岩戸』解放の為に」
それより数日後、京都の冒険者ギルドにて新たな依頼の発行を願い出ていたのは猿田彦が巫女の楯上優、その目的を明確にギルド員の青年へ告げれば
「と言う事は、聞くまでの事でもないだろうが何らかの仕掛けがあると言う事か」
「その通りです、ですがその詳細までは」
「分からない、か‥‥」
そこまでの事態、容易に推測出来る状況について確認の為に尋ねれば頷きつつも優はしかし、顔を俯けるとその反応から青年も筆を止めて微かに呻くが
「しかし精神的な面で試練が課されると言う事と、その課題として『無』、『痛』、『己』、『光』が与えられる事だけは分かっています」
しかし優の話はそれだけでは終わらず、一先ず分かっている事だけは確かに協力を仰ぐ皆の為にも告げると、それを耳にして再び筆を走らせながら青年。
「分かった、早急に手配しよう」
その試練についての細部こそ彼女と同じく分からないまま、しかしそれだけは彼女に誓うと早く依頼書を認め張り出すべく、筆を走らせる速度を尚も上げた。
●
一方その頃、斎宮では‥‥。
「‥‥祭？」
「何か集めていたし、此処最近多かったし」
「きっと、間違いないよ！」
「‥‥‥」
先日、牛草山にて十種之陽光が動向を確認した妖孤ら三匹は揃い報告をしては主が焔摩天を悩ませていた。
「‥‥どう思う？」
「さて、私に聞かれましても」
その、相変わらずとは言え珍妙で結論だけが提示される報告に眉根を潜めながら彼は傍らにいるアドラメレクへ尋ねるが、肩だけ竦めるその反応に内心で呻きながらしかし思考だけは巡らせると
「他には？ 何を集めていたか」
「うーん‥‥祭具、かなぁ？」
一つ、核心に迫れそうな疑問を駄目元で妖孤らへ投げ掛けてみると‥‥それには漸くまともな答えを返す一匹に焔摩天。
「‥‥調べる必要はありそうだな、それと例の件」
「今月中には展開出来るかと思います、数も十分に揃っていますので」
瞳をすがめれば考えを纏めるとアドラメレクへも指示を下し、返って来た答えに一度だけ頷けば果たして場に介する皆へ告げるのだった。
「準備は滞りなく進んでいる。障害なきこの機を逃さず各自、予定通りに事を推移出来る様に善処しろ」
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依頼目的：精神に関わる試練を突破し、『真なる天岩戸』最奥の寝所へ至れ！
必須道具類：依頼期間中の保存食（日数分）は必要なので確実に準備しておく事。
また、（一応）屋外での行動になるので防寒着も必要な時期なので忘れずに持参して下さい。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
（やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事）
対応NPC：レリア・ハイダルゼム、楯上優（共に同道）
日数内訳：目的地まで四日（往復）、依頼実働期間は三日。
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●今回の参加者
ea1569 大宗院 鳴（24歳・♀・志士・人間・ジャパン）ea8088 ガイエル・サンドゥーラ（31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国）
ea9689 カノン・リュフトヒェン（30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国）
eb0524 鷹神 紫由莉（38歳・♀・志士・人間・ジャパン）
eb3503 ネフィリム・フィルス（35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国）
eb3581 将門 夕凪（33歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国）
eb4756 六条 素華（33歳・♀・志士・人間・ジャパン）
eb4803 シェリル・オレアリス（53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国）
●サポート参加者
野乃宮 霞月（ea6388）／ 源真 弥澄（ea7905）／ 鳳 令明（eb3759）●リプレイ本文
●真なる天岩戸天照大御神を祭神として奉ってはその名をジャパン全土に轟かせる伊勢神宮‥‥その本殿が最奥、密やかにその入口はあった。
「前回の宝具探しに引き続き、助っ人としての参加となるが‥‥今回も宜しく頼む」
「満更縁がないって訳でもないし、力になるさね」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
それを目前、五節御神楽が傍らにて十種之陽光が八人の一人で今回も彼女らを補佐するカノン・リュフトヒェン（ea9689）とネフィリム・フィルス（eb3503）が皆へ改めて協力を申し出ると、将門夕凪（eb3581）が既に見知った存在の彼女らへ礼儀正しく応じればいよいよ一行は眼前にある一枚の岩扉へと揃い、視線を向ける。
「皆、宜しく頼むわよ。因みに今更言うまでもないだろうけど今回の目的は天照様復活の前準備だから、くれぐれも抜かりなくね」
すると皆を送り出す為、足を運んだ斎王に檄を飛ばされると厳かな場の空気に僅かだが飲まれるからこそ頷く巫女達だったが
「いよいよこの時が来たのね、おばさんも頑張るわよ」
「そんな事はないですよ」
「あら、ありがとう」
それはすぐ、シェリル・オレアリス（eb4803）が紡いだ言の葉によって崩されると漸く穏やかな笑みを湛え、口を開いた楯上優へ笑いながら返せば丸くなるその雰囲気の中。
「しかし精神‥‥即ち心ですか。一人として同じ得ないモノが果たしてどの様に試されるのか」
「わたくし、美味しい食べ物への執着なら誰にも何にも負けませんよ」
「‥‥それはそれで、どうかと思うのですが」
一人、先までと調子を変えず六条素華（eb4756）が普段通りではあるが何処となく冴えないその表情を携え呟くと、それを汲み取って‥‥と言う訳ではないかも知れないが、大宗院鳴（ea1569）が何時ものマイペースを持って彼女を宥めれば、一先ず彼女の緊張も適度に解される。
「それにしても『無』『痛』『己』『光』と言う単語となると、どうしても全て茶の心と答えたくなってしまいます。己を無くし痛みに耐え真なる己に気付き内なる光に気付く、とか‥‥とは言え、漠然としてますわね」
だが、これより何が待つか分からない場へ考えを及ばせるのは避けられる筈もなく、鷹神紫由莉（eb0524）は量こそ少ないそのヒントから一人ごちるも考えが纏まる筈もなければ嘆息を漏らした後。
「とにかく何があっても茶の心を忘れずに、でしょうか」
「それと焔摩天らに気付かれぬ様、警戒も怠らぬ様にせねば」
皆を見回しては一人、先の呟きを纏めると彼女へ苦笑を返しながらガイエル・サンドゥーラ（ea8088）は頷き、そして斎王を見てはこの場を離れる前に警告を発する。
「無論、神宮周辺について抜かりはないわよ」
「だと良いのですが‥‥何か、不穏な空気が漂っている様でなりません」
「‥‥それには同意だ」
するとそれには笑顔で応じる彼女だったが、夕凪とレリア・ハイダルゼムが続き紡いだ言葉には息を吐いては考え込むがその間、憂いを断つべくしてシェリルが巻物を開いては微か未来を覗き見れば、見えたビジョンは伊勢神宮を訪れた時と何ら変わらぬ風景。
「‥‥一先ず、おかしな事は起きそうにないです」
「配備の状況や警備体制にも問題はなさそうですし、大丈夫かと思います」
「ありがと。それじゃ、行ってらっしゃい！」
その見えた未来を掻い摘んでは言うと、素華も続き斎宮周辺の警備状況等について綻びがない事を告げれば斎王が礼を言うと次には皆の背を言葉にて押し出せば
「ガイエルさん、これを」
「さて、白焔とは久しいな」
優から白焔を受け取ってガイエルはそれを抜けば、岩扉が眼前へ歩き出すと黒不知火の主と息を合わせ、白焔を掲げては願うのだった。
「岩戸の扉を開く為に今一度、力を貸してくれ‥‥」
●待ち受けるもの・無
「ここから先が本番、だぁね」
さすれば間も無く開いた扉を目の当たりにネフィリムはその先にある闇を鋭い眼光にて見つめながら、歩き出すと広い空間へ出ればその部屋。
「別段、これと言ったものは‥‥」
『無、人が恐れるもの。全ての存在は存在せず。器と魂は境界を持たず。己は己を保てず‥‥ただ、等しく塵芥と化せ』
「これは‥‥」
何がある訳でもない、ただのがらんどうで自然体で臨む紫由莉はのんびりと呟くが‥‥直後、皆の脳裏に何者かの声が響けば微かに眉根を顰めるガイエルだったがそれよりすぐ一行はそれぞれ、個に断絶される。
「成程、正しく無の様ですね」
先まで周りにいた筈の皆の気配はなく、それ所か自身の感覚までがおぼろげになっていく事を実感しながら素華はそれでもボソリ、呟く。
「自分をしっかりと保って人との繋がり、世界との繋がり‥‥その全て、忘れないわ」
そしてシェリルもまた、素華と同じ感覚を捉えながらしかし自身の存在を強固なものとすべく周囲へ自身を繋ぎ止めようと言の葉を織れば
「いずれ来るかも知れないその時は‥‥享受しましょう、だけど今は」
素華は何時かの未来、自身へ訪れる時こそは認めながらも今はそれを強く拒絶すれば
「その時じゃ、ないわ。まだ、歩まなければならない道は続いているのだから」
互いの存在が感じ取れずとも、その続きを正しく紡いでシェリルが決然と言い放てば自身の存在を改めて、その場に確立させた。
●待ち受けるモノ・痛
「‥‥想像していた以上に、難儀な試練だったな」
それより程無くして素華とシェリルが呆然と立ち尽くすだけの皆を揺さぶるも‥‥試練を自身、解けない間は外部からの干渉を受けないのか皆が試練を終わるまでひたすら待って漸く今に至れば、レリアが言う様に彼女らが歩む道は時間との勝負と言える事に一行は気付くも
「もう、次の間ですが‥‥宜しいですか？」
程無くして次の扉が皆の視界に入れば、夕凪は皆へ問うが頷く他にない皆は首を縦に振るとやがて開かれたその扉の奥はやはり先の部屋と変わらない空虚な場の中、皆の脳裏に何者かの声が響く。
『痛、人が拒絶するもの。全身をくまなく貫かれ、しかし死すら許されない‥‥ただ、悶えよ』
『――――――っ！』
すればそれが消えるより早く一行は声にも出来ない激痛が全身を駆け巡るのを実感し、その場に崩れ落ちれば再び始まる個の戦い。
「全て受け止め‥‥耐える、人の痛みも‥‥引き受けよう」
「痛みとは、生きている証なのさね‥‥だからこの程度で‥‥弱音なんか」
その個の戦いが只中において、しかしガイエルとネフィリムは今までに味わった筈もない激痛に苛まされながらも恐るべき胆力にて個を保ち、言葉を生む‥‥他の皆は痛みを堪えるだけに精一杯な中で。
「‥‥生を実感するからこそ伴う苦痛に、何の問題が‥‥あるってばさ！ この程度の痛みに、屈したりは‥‥しないっ！」
そしてネフィリムは呻きながらも声を荒げては叫ぶと、痛みの中でも微かに残っている感覚にて未だ握り締めていると感じる事が出来る剣を懸命に掲げ地へ打ち据えれば
「‥‥例え苦痛に苛まされようと、進むべき道に‥‥変わりはなし‥‥！」
酷く遠くで聞こえた気がした彼女の裂帛にガイエルもまた自身を揺り動かしては意気を吐くと‥‥まず先に二人、脳の髄まで貫いていた激痛より解放されるのだった。
●待ち受ける者・己
「はぁ‥‥」
激痛に苛まされる間より解放されて皆、先こそを急ぐも嘆息を漏らす鳴が如実に示す様に一行に疲労が蓄積されていたのは確かだったが
「まだ二つ、残りも二つ‥‥です」
「そして次の試練も目前です、あと僅か‥‥頑張りましょう」
紫由莉が言う通りに未だ試練は二つ残されており、三つ目の扉が目前に迫るからこそ素華が静かに皆を奮い立たせる言葉紡げば今更に確認はせず、眼前の扉を開け放ってはの部屋の内部へ足を踏み入れる。
『己、人が目を背けるもの。自身が抱える弱さを認めたくないもの。その闇の中に真実こそがあるのにも拘らず‥‥故に、向き合え』
「正しく、己ですわね」
するとやはり先までと変わらず、何もない部屋の内部ではやはり皆の脳裏へ凛と声が響けば次いで空間が歪むと再三に個へ断絶される中、紫由莉は己の眼前に立つ『己』を捉えて苦笑を浮かべると次に開かれた、『己』の口から紡がれた言の葉は何か。
「‥‥それでも、今はただ夫に認められている自分を信じるだけです」
時を同じくして、夕凪もまた『己』と向き合っては自身の出自について苦悩する様を眼前にしかし、ただ弱音だけを言う自身を一瞥すれば紡いだ言葉はただの一言‥‥それはただ夫を愛し、愛されている事を実感しているからこそ断言すれば
「今は、頼れる仲間がいます。過去の過ちは拭えずとも‥‥今より続く未来、より良い方向へ至るべく進む事こそが自身やるべき事と認識している以上、歩む道に何ら惑いは抱きません」
紫由莉もまた、すぐ傍らにいる筈の仲間を信頼するからこそ夕凪と同じく『己』へ決然とした面持ちにて言い放てば、自身の影を間違いなく打ち払うのだった。
●待ち受ける、光
そして漸く、四つある試練の内の三つを突破した一行ではあったが‥‥己の弱点を前にそれを打ち払うのは時間の長短に関わらず精神的な負荷を強いられ、この後にも必然的に来る精神的疲労から休憩を挟む他になく時間を浪費する。
「‥‥あぁ、退屈なんだか大変なんだか」
「今の所、妖の介入もない。このまま無事に終われば良いが‥‥」
だがそれでもやがて、まだ伸びる通路を進み始めれば至って呑気にネフィリムが本音を漏らせばその傍ら、微かに苦笑を湛えつつも未だ妖の干渉がない事にカノンは疑念を抱くが、そんな彼女らの前にやっと最後の扉が現れる。
「此処を開ければ、最後の試練ですね」
「準備は良いか？」
見たままのそれを改めて丁寧に言葉にする紫由莉に優も頷けば、皆を見回して尋ねるレリアへ一行は聞くまでもないとすぐに頷き応じればやがて、開かれる扉のその奥に広がる光景とは。
「あれ‥‥随分と大きな所に出ましたね」
「扉が見える、となると此処が寝所の眼前か」
「それと向こうにも、人影が」
素っ頓狂な声音を響かせる鳴が言う様に今まで以上に広い部屋で、そこは壁伝いと向き合って対面にある二つの扉に壁伝いにある扉の近く、幾多の人影以外に何もなければ考え込むガイエルの傍らで夕凪、暫し後にそれが五節御神楽の面々である事に気付けばこれでこの部屋に集うのは計、二十と二。
「‥‥これだけの人数で一体どんな試練を」
『光、即ち妾の事』
「まさか」
これだけ纏めての人を揃えて果たしてこれより何が行われるのか、うっすらと背筋に冷たい汗が伝うのを実感するからこそ素華が呟けば直後、脳裏に響く声に皆は周囲を見回せば果たして対面の扉が開け放たれるとそこより出でたのは幼き一人の少女。
「天照、大御神様‥‥？」
「随分、ちんまいのな」
それを目の当たり、その姿見とは裏腹に余りにも神々しい雰囲気にシェリルが初めて見たにも拘らずその名を紡げば、やはり初見のネフィリムは思ったままの事を率直に口にするが次いで煌いた、一筋の閃光が五節御神楽の面々がいる方を貫けばその閃光が自身らの眼前までも薙ぎ払う唐突の暴挙に流石、紫由莉とて驚く。
「‥‥っ、何が‥‥」
ただ、皆の眼前を舐めただけでも明らかなるその行為、乱心したとも受け取れる天照の攻撃を前‥‥だが皆の狼狽には気に留めた風も見せず、天照はその視線を十種之陽光の方へ向け貫けば、凛とした声にて問い掛ける。
「主らにも問うぞ。妾と、戦う覚悟はあるか」
「は、何を‥‥」
「一つ、言っておくが容赦はせん」
その、唐突な問いに対して戸惑いを隠し切れずに夕凪は尋ねるが同じ事は二度言わずに天照、鋭い眼光は携えたままに一行へ告げれば十種之陽光の面々を猛々しき眼光にてねめつけると‥‥明らかな力量の差に言葉を失う一行だったが
「‥‥当面、関わってしまった以上はこの地の悪鬼や妖を討ち滅ぼすとなる‥‥再会を誓った者の故郷一つ、守り抜けなければな。故に、その為ならば私はそれも厭わぬ」
「人は光と闇を持っています、光だけでは存在出来ません」
どれだけの時間を経てだろう、折れそうになる膝を掌にて支えながらやがてカノンが視線だけは小さき神へ向け小さくもその解を返せば、鳴もまた彼女に続いて何時もとは違った調子で応じると
「だからこそ、今の天照様を諌めろと言うのなら‥‥躊躇わず、戦いましょう」
「‥‥ふっ、はっは！」
最後には果たして断言すれば‥‥次いで笑い出した天照を前、唖然とする一行へ彼女はその真意を漸く口にする。
「冗談じゃ、ただ主らの覚悟を知りたかっただけじゃよ」
その笑い声を前に唖然とする一行へ最後の試練、皆の心持ちを試したと暗に告げればさして長い時間でなかったにも拘らず、対峙する一行は漸く安堵してその場へ暫し腰を下ろすのだった。
●その最奥
「これが真なる天岩戸でござるか、天照様はこの奥に‥‥」
「そうじゃ、寝ておる」
それより後、一行は真なる天岩戸が最奥へと招かれれば岩塊で出来た大きな籠の様な恐らく天照大御神が寝るべき場と、周囲を囲う様に置かれている五つの祭壇を前に五節御神楽が面々の質問に応じる天照の相も変わらずに凛と響く言葉へ耳を傾ける。
「しかし、此処の扉は霊刀を行使しなければ開かない筈では」
「内側からなら開くぞ、来訪者の存在も察知出来るしな」
『はー‥‥』
その素っ気無い造りながらも厳粛な空気が漂う中、ふと思い出した伊雑宮の宮司が口を開いては自身が携える霊刀を掲げて此処へ潜る前に聞いていた話と相違する事について尋ねると、それにはいともあっさり天照が解を示せば呆れる一行だったが‥‥直後に彼女は膝を折って地に崩れ落ちる。
「‥‥とは言え、未だ無理は出来ん。強がりも先のが精一杯じゃ‥‥じゃから宝具の準備が出来たらまた来るが良い。寝所の扉以外は開けておく故、その時まで妾は寝る。では去ね」
「あれれ‥‥？」
そして顔を上げないままにそれだけを場に集う皆へ告げれば、不可視の力が働き部屋の外へ皆放り出されると狼狽も露わにする鳴の眼前で寝所の扉は再び閉められた。
「何て言うか、色々とあっと言う間でしたね」
「呆れる位になぁ‥‥ま、目的も達したし帰ろうさね」
すれば今は閉じられている扉を前に未だ唖然と見つめながらシェリルが今回、一通りの目的を達したからこその感想を紡げば、ネフィリムもまた屈託のない笑みを湛え応じては立ち上がってきた道を引き返そうと皆を促すが
「‥‥ですが天照様、本当に大丈夫でしょうか」
「希望や太陽の光は常に共にあり、照らし続けている。それが今回分かっただけでも十分、だろう」
歩き出しながらも何度か振り返りながら夕凪が不安を覚えるからこそ、扉の向こうにいる存在を気遣うがガイエルが響かせた言の葉を聞けば今はそう思う他になく、皆と揃い目前へ視線を向けて一行は一時だけその場を後にするのだった。
〜一時、終幕〜
