【十種之陽光】光臨武装
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■シリーズシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:10 G 22 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:01月05日〜01月14日
リプレイ公開日:2008年01月14日
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●オープニング
●三つ目の宝具と、そして‥‥
伊勢の神宮、本殿の傍らにある仮拵えの斎王の間にてその主らは眼前にある宝具の一つを見つめたまま、話を交わしていた。
「一先ず、今の所は順調なのかしら」
「はい、その宝冠についてはご覧の通りに無事回収されていますし二つ目についても現在、伊勢藩に動いて貰っている最中です」
現在進行形で進んでいる宝具の回収について尋ねたのは言うまでもなく斎王が祥子内親王、その進捗を把握している彼女の側近である光が答えれば斎王は頷くと
「そうなると次だけど、何処になるかしら?」
「一先ずでも動きを見せておりますので此処より遠くにある‥‥七洞岳、法衣『白光』でしょうか」
今度は視線を側近から巨躯を誇る猿‥‥ではなく、導きの神と称されている猿田彦神へと移し問えば神は逡巡しながらもやがて一つ、その場を提示すると再び頷いて斎王はこのタイミングで別の話題を切り出した。
「所で‥‥天照様が眠っている場なのだけど、そちらの掌握は?」
「宝具が五つ揃っていない以上、取り立てて急ぐ必要はありませんが‥‥そうですね、早めに道だけでも開けておきましょうか」
その話題とは現在、天照大御神が眠るとされている『真なる天岩戸』‥‥鍵こそ手中にありながら、しかしその最奥へ至る道は未だ確保されていないからこそ宝具が全て揃った際にはすぐ動ける様、体勢を整えておきたい斎王は果たして進言すれば猿田彦神の同意を得た後に彼女は光へ指示を下す。
「ならばこれより以降‥‥五節御神楽には準備を整えて貰い、この直下にあるだろう真なる天岩戸へ向かって貰いましょう。十種之陽光は七洞岳で宝具を回収した後に同じ任へ当たって貰うつもりなので、その際に纏めて話を通しておいて頂戴」
「陰と陽の二つに道が分かたれており、霊刀の二振りがそれぞれにあると言う話ですからそれが最適なのでしょうね」
その厳粛な姿勢を前、側近は頭を垂れれば猿田彦神は頷く‥‥すると彼女、今度は視線を天井へ向け何事か考え込めば
「そうなると‥‥釘こそ刺す必要こそあれ余り気にする必要がなくなった以上、時間との勝負になるだろうから普通にギルドへも動員を掛けて早目に宝具の回収もしないとね」
「ご迷惑をお掛けします」
「気にする必要なんかないわ、貴方がいなくとも私達だって天照様の力が必要だったのだから‥‥こう言う時にだけ神頼み、と言うのも気が引けるのだけど」
先も見据えての発言をすると、頭を垂れる猿田彦神へ彼女は首を左右に振って微かな渋面を湛えながら嘆息を漏らす斎王。
「‥‥とりあえず十種之陽光に召集を、先ずは法衣『白光』の回収をすべく七洞岳へすぐに向かわせて。積雪が多くて今までの中では一番に厳しいだろう場所だけど十分な装備を整えて任の達成に臨んで頂戴とも伝えてね」
「此処からが正念場ですが、さて‥‥どう出て来るでしょうかね」
しかしすぐに毅然とした面持ちを取り戻せば改めて光へ指示を下し立ち上がると、宝冠を携える猿田彦神は外でしんしんと降る雪と斎王を見比べながら囁くのだった。
●
かたや、二見の海沿いにある妖怪達に占拠された斎宮‥‥。
「天照、生きているとでも‥‥?」
「詳細は不明ですが、猿田彦神が『再び降り立つ』と」
「‥‥今の報告だけでは真実か、それとも流言かを判断するには材料が少な過ぎるな」
相変わらずその頂点たる屋根の上に佇む焔摩天は微動だにせず、部下より人々に不穏な動きありとの報告を受けるも‥‥その情報の少なさから密かに眉根を顰めていた。
「一先ずで構わん、広範囲に以津を放っておけ。何かあればすぐに戻って来いとだけ指示を。狐、お前達はその統括だ。動きがあれば何でも構わん、知らせろ」
「はーい」
直後に下した判断は早く、それを受けて部下とその傍らにてじゃれあっている三匹の妖孤へ指示を出せば、それぞれが動き出す中で焔摩天は厳しげな声音を響かせる。
「アドラメレク、抜かったか‥‥それとも」
斎宮での戦闘の後、酷い傷を負いながらも戻って来たアドラメレクより天照を討ち取ったとの話を思い出すがそれも今、判断するには難く‥‥これより後の手に思考を及ばせる悪魔は予定通り、目論んでいた計画は予定通りに推移させる事だけ決断する。
「そろそろ動かすべき時かも知れんな、彼奴等を。そうなると早く起きて貰わねば困るのだがな」
「‥‥呼びましたか?」
「っ?!」
そして鼻を鳴らし、未だ寝ている存在へ毒づくが‥‥それはすぐ、その当人によって打ち消されれば流石に鼻白む焔摩天。
「何もそう、驚かなくとも。私達は志を同じくする同胞、警戒する必要はないかと思いますが?」
「‥‥漸く起きたか」
「えぇ、まだ完全にとは言えず戦闘こそ覚束ないでしょうが‥‥計画の始動に際しては何ら支障はありません」
「では元の持ち場へ戻って貰えると助かる、何時でも動かせる様に」
「言われるまでもなくそのつもりですよ、それでは‥‥」
その彼を前、アドラメレクは温厚な笑みを湛えれば‥‥唐突な出現に未だ驚いてか焔摩天は呻く様に言葉紡ぐと英国より渡ってきた悪魔、頷き応じればその申し出に応えるべく闇の中でも燦然と輝く孔雀の羽根を羽ばたかせ、早くその場を後にすると
「ふん‥‥あれ程の力を持つ悪魔が無償で力を貸してくれる筈もない。大方、あれを掠め取ろうと目論んでいるのだろうが‥‥そうはさせんぞ、必ず」
その背を見つめ、憎々しげに吐かれた焔摩天の言葉を果たして捉えたか‥‥アドラメレクは吐息を漏らし、微かな笑い声を響かせながらも羽ばたき続けるのだった。
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依頼目的:五つあると言われる天照の宝具の一つ、法衣『白光』を手に入れよ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
また、防寒着も必要な時期なので忘れずに持参して下さい。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)
対応NPC:祥子内親王(同道せず)、レリア・ハイダルゼム、楯上優(共に同道)
日数内訳:目的地まで五日(往復)、依頼実働期間は四日。
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●リプレイ本文
●宝具を求めて 〜十種之陽光〜
伊勢神宮、その門前と言える五十鈴川に掛けられた宇治橋を前に十種之陽光が面々と今回、手を貸してくれる冒険者が一同に介する中で久方振りに姿を見せたシェリル・オレアリス(eb4803)が皆の前、恭しく頭を垂れる。
「極寒の地の果てで修行を積んできたのよ。と言う訳で再び、お願いします」
「あぁ、宜しく頼む‥‥しかし相変わらず、全員は揃わぬか」
「しょうがあるまい。それよりも今は宝具だ」
するとそれに応じ、巫女装束も板についてきたレリア・ハイダルゼムが頷けば皆を見回しては思わず呟くが、それはガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が窘めると口を噤んでは頷きだけ返す彼女を見つめた後。
「天照様のとりあえずの無事を聞いてほっとしたものの、油断はならぬ所だ。故に必要となる宝具の回収に力を尽くすとしよう」
ガイエルもまた場を見回し、改めて皆へ言い聞かせる様に言葉紡げば真剣な面持ちにて頷く一行だったが
「天照大御神に猿田彦大神かぁ。八百万‥‥姿を現す神様はどんだけ〜♪」
その中で一人、女性に見えなくもないが唯一の男性である草薙北斗(ea5414)はあえて、鼻歌交じりに言葉発すれば場の空気を適度に和ませるも
「でも、気楽に居られるのは何時までなのやら‥‥」
「今でも余り気楽な状況ではないのですけれど、これからについてはジャパンに住む人達次第ではないでしょうか?」
次に微かな声で囁き、僅かだが表情を曇らせるが‥‥それには鷹神紫由莉(eb0524)が気配りを持って彼を宥めると、やがて歳相応に晴れやかな笑みを浮かべた彼へ紫由莉も笑顔で応じる。
「神、か。ジーザス会に属する身としては複雑な所はあるが、そんな事を言っている場合ではないのも承知の上だ。先の二つは無事に見付けられた様だし、その勢いで三つ目も‥‥と行きたい所だな」
「はい、今ここでの断言は厳しいですが‥‥それでも、気持ちさえ折れなければ達する事も可能な筈です。ですから、頑張りましょう」
しかしその傍ら、北斗と同じくお手伝い要員のカノン・リュフトヒェン(ea9689)が何時もの事ではあるが淡々と、率直な今の心象を呟き‥‥しかし今まで伊勢に多く関わっている事から今だけはそれを拭うと、将門夕凪(eb3581)が彼女に応じて遠慮こそしながらも皆を鼓舞する様に言葉紡げば、一様に頷いて皆。
「情報量から先を越される、と言う心配は余りしなくても良いかと思いますが私達が目的の物を入手してから奪われる等の危険はあります。神宮へ戻るまでは気を抜けませんね」
「えぇ、それでは参りましょうか? 恐らくは時間との勝負になるでしょうから‥‥」
「善は急げ、ですね」
次に響いた六条素華(eb4756)の警告が場に響き皆に釘を刺すと、直後に夕凪が行動を促せばそれに猿田彦の巫女、楯上優が頷けば一行は動き出すのだった。
「それにしても世の中には色んな神具があるんですね。食べ物はないんでしょうか」
「流石にそれは、私でも聞いた覚えが」
しかしその中でも相変わらず、場の空気を読んでか読まずかマイペースを持って一行の中では一番に巫女っぽく見える大宗院鳴(ea1569)がそんな事を尋ねては、優へ困惑をもたらしながら。
●情報収集
そして一行、程無くして三手へ別れれば何よりも大事な情報を集めるべく散開するとその一つ、伊勢に残りそのまま斎宮で情報収集に励む鳴と夕凪。
「牛草山の伝承って何かご存知ですか?」
「何か、と言われても‥‥光?」
「はい、暫しお待ちを」
「何か、宝具に纏わる文献が?」
「ない訳じゃあないんだけどねぇ」
別段此処では気を使う必要もない事から、彼女らは率直に斎王へ件の事について尋ねると天井を見上げながら斎王、傍らに何時もと変わらず控えていた側近へ声を掛ければ彼女が席を外して暫し。
「牛草山について、記されている文献はこちらになります」
一つの書物を携え戻ってくるとそれを斎王へ託せば、その文献を捲る彼女に鳴。
「‥‥どうですか?」
「自分の目で見て御覧なさいな」
微かではあったが眉根が動いた事に気付いたからこそ尋ねると、しかし斎王は自身の口からは何も言わずにその書物を二人へ渡した‥‥唯一無二のそれに大した情報がなかったからこそ面倒臭くなって。
●
かたや、伊勢から牛草山へ至る道中にある神社仏閣の類へ足しげく運んでは情報を集める面々。
「‥‥そうか、特には」
「はい、確かに伊勢にある山々には色々とある話は聞くのですが‥‥生憎とそこまでは」
「それならそれで調べれば良いだけだ」
「そうだねっ」
一つ目の寺では大した情報が得られず、次へ向かう途中で同道する優に尋ねるガイエルだったが彼女からも手掛かりとなりそうな話は得られず、しかし北斗と共に彼女を宥めると視界の中に次なる寺院を見止めればそちらへ歩を進める‥‥その途中、一人の僧を見掛けてガイエル。
「申し訳ない、牛草山へ修行に向かおうと思っているのだが、何かお話を知っているなら伺いたいのだが‥‥」
「牛草山、ですか」
「何かあるのでしょうか?」
すれ違うその前に口を開き、牛草山について僧侶らしい疑問を持って遠回しに宝具があるかも知れない場について問い尋ねれば、足を止めた僧はその質問を前に天上を見上げるとその様子から優も追随して首を傾げるが
「今の時期であれば修行はおろか、登山も厳しい筈なのでもし行く事を考えているのでしたらお気を付けて」
僧の口から語られたのは牛草山の厳しい環境の事で、それより暫し言葉を交わすがそれらしい解は結局得られず四人は頭を垂れて僧と別れる。
「‥‥うーん、中々良い情報は見付からないねぇ〜」
「この手の類は根気強く行く他にあるまい。さて、次はあの寺院だな」
「そうだねっ、頑張るぞー!」
そして僧を見送りながらボソリ、北斗は呻くもそれに強いて応えた風も見せないレリアが応じれば、すぐに元気を取り戻した北斗は皆を促すと同時に駆け出した。
●
一方、牛草山近辺の村で聞き込みに励む面々もまた頑張っていた。
「雪山の山登りでもしてみようと来てみたのだが、気を付けるべき場所や地元の者が立ち入らない様な場所等ないだろうか? なるたけならそう言った場には踏み込まない様にしたいのでな」
「そうさねぇ」
その内の一人、一寸変わった方向性で老婆へ疑問を投げ掛けていたカノンは彼女の口からそれらしい解を直後に得る。
「山頂近くに社があるけど、そこは入らない様にしときなぁ」
「社‥‥?」
「あぁ、あそこは聖域じゃて私ら人が容易に足を踏み入れてはいけない所じゃ」
内容こそ不明瞭ではあったがその情報に一先ずは満足し、頭上を見上げれば集合の刻限が近い事に気付くと彼女は老婆に礼を告げてはその場より村の入口を示す岩塊の方へ向け、歩を進めればそれより続々と村へ共に来た面々が顔を揃えると、素華が開口一番に皆を見回しながら問う。
「何か、分かりましたか?」
「あぁ、詳しくは皆と合流してから話すが大よその場所は」
その問いに対し面々、それぞれに得た情報を交わせば一先ずの収穫があった事に皆は次へ進める事に安堵するも、ここで問題がある事に気付いた紫由莉が口を開く。
「そう言えば何処で落ち合うか、その詳細を決めていなかったと思うのですが何処で合流したものでしょうか?」
すると今更ながらに他の皆もその事に気付けば揃い暫くの間、悩むのだった。
●牛草山 〜白に覆われた山〜
それより後、合流こそ果たす一行ではあったが皆が揃うまでのロスの分だけほぼ丸一日を余分に費やせば予定より遅れて一行は牛草山へと足を踏み入れる。
「干支の山と言う位の所みたいですので、牛に関係する所にあるのでしょうか。例えば方位とか」
「‥‥そうだな、とは言え先ずは村人が言っていた聖域を探るのが先だろうか」
その中、目立った情報が仕入れられなかった鳴は何時ものマイペースを遺憾なく発揮し、皆へと尋ねればそれにはガイエルが応じる傍ら。
「それにしても‥‥」
「かなり雪深いねぇ〜、これじゃ一筋縄で行かないかな?」
素華と北斗は雪深い白き山を見上げ、ある意味では感心して呟くとこれからの苦難を察するが
「ともかく、これ以上時間を消費するのも宜しくありませんので‥‥」
ジャパンでは至極普通に扱われているかんじきを苦心しながらも履き終えたシェリルが皆へ告げれば、いよいよ一行は雪中行軍を開始した。
「はぁ‥‥はぁ」
その白い吐息は誰が吐いたものか、息も荒いままに白い闇の中を雪踏み締める音だけ響かせながら一丸となって進む一行の足取りはしかし、確か。
「これ程の山を登るのは‥‥久し振りですね」
「優さん、大丈夫?」
「あ、はい。お気遣い‥‥ありがとうございます」
とは言え、その道は優からしてみればやはり厳しく足並みが他の皆より遅れていれば、気遣う北斗ではあったが
「ふむ、もう少し鍛える必要があるか」
「そう、ですね‥‥」
「ですが、何もそこまで」
その彼とは裏腹、レリアは彼女へ厳しい評価を突きつけると頷き応じる猿田彦の巫女の様子を目の当たり、シェリルが二人を宥めるも
「皆さんに少しでも、近付きたいのです」
「‥‥だそうだからな、故に余計な口出しは無用だと思うぞ」
「そう言うのでしたら」
次いで響いた、断言する優にはそれ以上の言葉は返せず素華がやがて頷くが‥‥その直後、直上を飛ぶ鳥よりも大きな影を見止めれば他の皆を見回しては視線だけで警告すると白い闇の中に紛れる一行。
「‥‥まだ本腰ではなさそうですが、やはり動いている様ですね」
「急ごう、今後の為にもここで流れを断つ訳には行かない」
遠目ながらもそれ、敵対する妖の存在である事を察してそれが飛び去ってより後に素華が静かに呟けば、静かに立ち上がってカノンが皆を促すと一行は急ぎ社を目指して歩き出した。
「どうやら、この先の様だな」
それでも、シェリルが天候を操作しては厳しい自然を緩和しながら進めばやがて目的の社の入口と思しき鳥居と、その左右に社へ至る道を示す為に乱立する雪の柱を見止めて一行は安堵の溜息を漏らし、しかしすぐに気を引き締め直すと改めて眼前を見据える。
「‥‥嫌な予感がするのは私だけか?」
「いいえ。一体何でしょうか、この感じは」
左右にある雪の柱が何かは分からないまま、しかし厳か過ぎる程に張り詰めている場の雰囲気の中に混じる嫌な気配を察したガイエルと紫由莉は揃い呟けば、探査系の魔法が使える者は素華より炎の力を宿して貰った後、周囲を探るも特に目立った反応がなければ
「それでも、此処まで来たのなら進む他にありません」
夕凪が決然と言えばいよいよ、聖域に足を踏み入れて一行はその最奥にあるだろう社を目指して歩き出すが‥‥それも程無くして止めざるを得なくなる。
「っ!」
短く息を呑み、唐突に何処からか飛来した影を避けた北斗はその影が降り立った方を見れば、その視線の先にいたのは
「狛犬‥‥?」
それは彼が呟いた通り、小さくはあったが確かに狛犬‥‥しかも左右に乱立する柱の悉くが直後に揺れれば、飾られていた多くの狛犬が一斉に動き出す。
「そう言えば聞いた事があるな、過去にアシュドが遭遇したとか‥‥っ」
その光景を前に友人から以前に聞いた話を思い出しながら、飛び掛ってきた複数匹の狛犬を早く紡がれた詠唱から構成された結界で弾きつつガイエルが呻くと足場の悪いその中で戦闘は始まるが‥‥程無くして足場だけではない、自身らの不利を悟る一行。
「どうやら、見た目の通りに硬い様ですね。するとなると」
「今、持ち合わせている武器では対応出来ないか」
それは用いられている素材、良く目にする物とは言え頑強故に普通の武器では致命傷となる一撃も今は弾かれれば、その数からも決して余裕ではないからこそゆるり紫由莉は微笑むが今回は頼りない得物しかないカノンは歯噛みして呻けば、数にも負ける一行は宝具があるかも知れない社を目前、狛犬らに押し出される様に後退する。
「私が囮で動きますので、その隙を突いてこの先にあるだろう‥‥宝具の回収をっ!」
「この場、私も引き受ける。さぁ、行け」
だがその流れとは逆、狛犬の群れへ向かって動き出した夕凪とレリアが他の皆を促して拳に大剣を振るい牽制すれば、たたらを踏んでいた他の皆は前へ歩を踏み出し‥‥やがて駆け出す。
「‥‥分かりました」
そして僅かにだが出来た道、紫由莉が二人の意思に簡潔に応じては真先に駆け出すと彼女の後に続き、皆もまた目前にある社を目指して駆け出す‥‥だが、狛犬もまたその道を塞がんとするが
「黒き神、その力を貸したもう‥‥振るうは我が眼前、阻まんとする仇敵を打破する為の破壊の力!」
それはレリアの背後にいたシェリルが放ったディストロイにより僅かながらも動きを鈍らせれば、その間隙を縫って皆は更に奥へ駆け出す。
「早速奥の手を使う事になるとは思いませんでしたが‥‥この程度なら、これで十分ですね」
そして先に放った一撃から狛犬の大よその力量を察する彼女、次に巻物を紐解けば先を駆ける一行の背後を守る様に周囲の白とは逆、黒き領域を構築しては社へ至る道を塞ぐとレリアと夕凪にシェリルは皆が戻ってくるまでの間、数が多いからこそその足止めに専念するのだった。
●法衣『白光』
それから一行、十分な時間を掛けて慎重に牛草山を無事に下山する‥‥その一行が素華の手の内には
「無事、手に入れる事が出来たね〜♪」
北斗が笑顔を湛えて言う様に、狛犬の群れの中から脱して手にした天照の力が断片であると言う法衣『白光』が確かにあった。
「一時はどうなる事かと思ったが」
「それでも目的は達しましたし今は喜ぶに十分、値するかと思います」
「そうですわね」
だがその道中は決して容易くなく、振り返ってガイエルは嘆息を漏らすも夕凪と紫由莉の言葉が場に響けば頷く一行。
「あっ!」
だったのだが直後、鳴が何事を思い出してか鋭く短い叫びを発すると驚く一行を前に彼女は続き、口を開くと
「そう言えば今回、美味しい物を食べていません」
「あ‥‥そう言われてみると、そうですね」
「‥‥あれ?」
皆の中、響いたその理由はどんな場においても変わらない彼女らしいもので‥‥だからこそ皆、今更に驚かず彼女へ応じればささやかな反応を前に鳴は首を傾げると皆は苦笑を湛えつつ、牛草山を後にするのだった。
●
と言う事で妖の干渉がないまま今回もまた、宝具の回収が無事に終わった筈なのだが
「‥‥天候に干渉があったよね」
「うん、だからこそ捕捉出来たけど」
「また山、何かを集めているっぽいけど何だろう?」
牛草山周辺の様子を伺っていた妖孤達は天候が不自然に変わった事を珍しく察し、漸く伊勢側の動きが共通点をある程度纏めていた。
「きっと、お祭やるんだよ!」
だが、その真意は見誤ったまま斎宮へ引き上げた事は一行が知らない話。
〜一時、終幕〜