【五節御神楽】模擬訓練

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜17lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 20 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月21日〜09月26日

リプレイ公開日:2006年09月28日

●オープニング

●闇槍
 斎宮内部‥‥斎王が日々勤めを行う執務室とも呼べるだろう広大な部屋にて、今日も仕事に励んでいる斎王こと祥子内親王。
 忙しなく、片端から目を通した書類をあちこちへと放る中‥‥不意に何処からか、声が響き渡る。
「‥‥斎王様」
「珍しいですね、貴方から話し掛けてくるとは。それで用件とは一体何でしょうか?」
 姿は見えず、だが確かに呼ぶ声を聞き止めて彼女は動じた風も見せず『声の主』へ尋ねると
「斎宮の新たな守り手達のお話、伺いました‥‥」
「貴方方の存在を無視した所業、不服でしたか?」
「いえ‥‥止むを得なき事かと」
 静かに、再び声を響かせた『声の主』が話を切り出せば、その話を聞いて微笑んだ斎王‥‥率直に再度問えば、否定の言葉こそ返って来るも
「相変わらずですね。任務は淡々とこなすのに普通の会話では感情を隠し切れず、綻びを生じさせてしまう所は。貴方の声音で十分、分かりますよ」
「‥‥‥」
 僅かに淀み響いた声音から次に斎王がその心情を察しつつも忍び笑いを漏らし言うと、的を射られた『声の主』が沈黙だけ返せば彼女。
「そうですね、まぁ丁度いい時期でしょう。もう暫くしたら私も此処を一時、離れねばなりませんし‥‥その前に紹介はしておこうと思ったので」
「なら、一つ提案があります‥‥」
 『声の主』が何かを言うより早く、長い付き合いである『声の主』が心情察し言えば返ってきた言葉に対して斎王は首を左右へ振り、告げるのだった。
「言わずとも、分かっています」

 翌日‥‥京都の冒険者ギルドにて斎王の側近である光、と以前に言っていた人物がギルド員と何事かを話していた。
「先日、試験的に設立した『五節御神楽(ごせつのみかぐら)』の面子を揃えて頂きたい」
「漸く動き出すのか?」
「いや。もう暫く先、と言った所だな」
 切り出された話とは先日、今後斎宮を‥‥如いては伊勢をも守るという新たな目的を持って設立された部隊の話で、何事かの事態からか唐突な召集を求められればギルド員がその真意を尋ねると彼女‥‥それは否定して改めて、本題を切り出す。
「模擬訓練を催す、今回はそれの参集だ。ないとは思うが、いざと言う時に動けないと困るのでな」
「だが下手な相手であれば‥‥」
「その心配はない、古くから斎宮の隠剣である『闇槍(あんそう)』が相手をする」
 模擬訓練、と言う話だけ聞いてギルド員は逆に相手への不安を露にするが‥‥それは杞憂であり、彼女が次に呟いた名を聞けば初めて聞いた名とは言え僅か、眉根を潜める。
「故に五人だけでは手が足りないだろう。その倍、面子を募ってくれ。彼らも同じ数で臨むので変に気にする必要はない」
「‥‥それでも不利過ぎやしないか?」
「そうだな。個々では恐らくとしか言えないが、部隊の練度だけで見れば『闇槍』の方が明らかに上だろう。とは言え今後、彼らと相応にまで動けなくなって貰わねば試験的とは言え新たに部隊を立てた意味はなく、斎王様としても困るからな」
「ふむ‥‥」
 だが彼の変化には気付かず、と言うよりは気付かない振りをして光は今回の依頼に際し要求する概要を告げれば次いで、斎王の真意も添えるとそれに納得しつつ‥‥しかしギルド員は逡巡するが
「とにかく、斎王様と‥‥何よりも『闇槍』幹部からたっての希望だ。頼んだ」
 取り付く島も与えず‥‥誰にとっても与える訳には行かず彼女、最後にそれだけ告げれば彼の返事を聞くより早く、踵を返すのだった。

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 依頼目的:旧来より斎宮の隠剣として存在する特殊部隊『闇槍』との模擬訓練!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:祥子内親王
 日数内訳:移動四日(往復)、依頼実働期間は一日。
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●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ヒースクリフ・ムーア(ea0286)/ クロウ・ブラックフェザー(ea2562)/ ソムグル・レイツェーン(eb1035

●リプレイ本文

●模擬訓練
 京は伊勢二見、まだ真新しい斎宮の近辺にて‥‥日が一番高くにまで昇った頃、周囲の散策を終えた一行は斎王、祥子内親王に告げられた場所へ集っていた。
「朝晩もそうですが、昼時も大分涼しくなりましたねぇ」
「もう九月も半ばまで過ぎましたからね」
 しかし、これから模擬訓練が行なわれるにも拘らず太陽を見上げながらのんびりした声音で『五節御神楽』の一人である神田雄司(ea6476)が言葉を紡げば、ルーティ・フィルファニア(ea0340)もそれに応じつつ以前に来た時からまた変わった二見の景色を見回すも、まだ『闇槍』はその影すらも見せない。
「模擬戦とな。しっかり連携取って戦うのも‥‥久し振りな気がするなぁ」
「しかも相手は強敵。それでもやらなくちゃいけない、だよね」
「えぇ。『五節御神楽』として、初めての仕事ですし力を合わせて頑張りましょう」
 しかしそれでも自身らの調子を保つべく、しみじみと鋼蒼牙(ea3167)が遠くを見つめ苦笑を湛え呟くとハンナ・プラトー(ea0606)がそれに補足し、明るい声音を響かせればミラ・ダイモス(eb2064)の続く同意と決意に皆、頷き返すが
「しかし‥‥一体どんな者達なのか、楽しみな」
「そうだな」
 未だ名前だけの存在である強敵に、そしてこれから肩を並べて戦う事もあるだろう戦友に想いを馳せて、不敵に微笑む天城月夜(ea0321)へ『五節御神楽』の同僚であるルクス・シュラウヴェル(ea5001)も言葉少なく応じるが‥‥周囲に視線を巡らせど、やはり人影は未だ見えず。
「所で昼寝休憩、ありますかね?」
 すれば僅かずつではあるが場に蓄積され、漂うのは緊張だったが‥‥それを解さん様にと雄司が至って生真面目な面持ちで誰ともなく尋ねた、その時だった。
「思っていたより余裕ですね、頼もしい限りです」
「あ、斎王様‥‥」
「お久し振りです、または初めての方もいる様で‥‥ともかく、道中お疲れ様」
「斎王様こそこの場にまでご足労の上、労い頂きありがとうございます」
「ここではそんなに堅苦しくなくていい‥‥と言う訳にも行かないか」
 不意に場に響く、祥子の声を聞けば彼は今度、狼狽を露わするも斎王は微笑みだけ返せば、改めて一行を見回し恭しく一礼交わすと、誰よりも早く彼女へ礼儀正しく一礼を返したのは『五節御神楽』の手伝いとして同道した神木秋緒(ea9150)。
 その彼女の丁寧な対応を宥めて祥子はしかし途中、背後を振り返れば‥‥常にいる側近を今も見止めると肩を竦めると皆へ失笑をもたらすも
「だが今回の訓練、急と言えば急な話だったな」
「そうですね、ですがもし文句があるのでしたら言い出した方へ言って頂ければ」
「‥‥何時の間に」
 和んだ雰囲気のその中でルクス、思った事をそのまま口にすると苦笑を湛えて斎王は視線を彼女から一行の背後へ移し言えば、何時の間にか影の様に佇む細身の人物に漸く気付いて蒼牙は呻くが、その人物は黙したまま。
「『五節御神楽』を気に入らない『闇槍』の方々の気持ちも判らないではないですけれど‥‥実の所、単純にそう言った意図を含んでいる訳ではなく、今回の模擬訓練は役割分担や部隊編成と言ったものの様な気がします。よく言うじゃないですか、『鶏を裂くに牛刀を用いんや』と。どうでしょうか?」
「‥‥ふむ、概ねその通りです。気に入らない、と言うのは違いますが」
 しかしセリア・アストライア(ea0364)はその様子を気にはせず、彼の沈黙から‥‥と言うよりは依頼の話があってから考えていたのだろう予想を紡げば初めて言葉を発し微か、邪気のない笑みを湛える彼。
 その反応には皆、今回の模擬訓練の意図を汲んで納得するが‥‥別の事で合点が行かなかったステラ・デュナミス(eb2099)は此処で漸くその口を開き、久々に見えた斎王へ問い掛ける。
「しかしどうして、倍の面子を募ったのかしら? 『闇槍』の構成がそれだけでは成り立たないから、だと思うけど」
「‥‥地味だから」
「え?」
「いいえ、何でもありません。独り言ですよ」
「それでは、この辺りの地形もご覧頂いた事ですし‥‥始めましょうか」
 するとその問いに対し、彼女から返って来た答えを聞けば一行は唖然とするが斎王は早々と皆を煙に巻く様、一行と黒き彼へ呼び掛ければ訓練の開始を告げるのだった。
「一度は捨てる覚悟をしたのですが、どうやらまだ暫くは必要みたいですね。この太刀は‥‥」
 静かに、黒き彼を見つめる雄司がまだ裏に潜んでいる彼の実力を何となく察知し、今後の事を考えれば思わず嘆息を漏らした、その中で。

●訓練開始
「ありがとうございます」
「何、俺に出来るのはこれ位だからな」
「しかし‥‥静かですね」
 恭しく頭を垂れる秋緒に蒼牙は手を振り、尚も闘気を皆へ付与していくが‥‥『闇槍』頭領が斎王の合図と同時に消えれば、それより未だ場を包む静寂に不気味さを覚えてセリアが呟く。
「余裕、か。それとも‥‥」
「後者でしょうね」
「行きましょう、私達の実力を見て貰う為にも」
 次いで、二つの推論を並べようとするがステラに遮られれば艶やかな黒髪持つ騎士も同意して頷くも、巫女らしい出で立ちのミラに促されれば一先ず魔法による付与も落ち着いた事からいよいよ動き出す一行‥‥だったがその直後。
「‥‥?」
 不意にルーティが首を傾げれば目を細めると、その視界に映る遮蔽物のない平原の向こうに影を三つ捉える。
 その唐突な『闇槍』の動きを前に彼女は無論、その反応から一行も急変した事態に気付けば暫し逡巡するも‥‥戸惑いは僅かに一瞬だけ。
「荒れよ嵐、吹けよ氷雪‥‥唸り狂うは氷竜の吐息!」
 詠唱を始めようとするルーティを手で制し、距離に風向を予め確認していたステラが詠唱を完成させれば、響いた声と同時に吹き荒れたのは時期尚早な氷の嵐。
 特に狙いは付けず、牽制の意味合いを持って放たれたそれはしかし三つの影の一つが印のみで完成させた同じ呪文にて阻まれる。
 互いが互いを打ち消して、やがて場には何事もなかったかの様に秋風がそよげば
「どうやら同じ事を考えていた様ね」
「やっぱ、一筋縄じゃあ行かないよね」
 再び静まる場に平静を装い長い銀髪を掻き揚げたステラの心情を察し、明るき声にてハンナが彼女を宥めたその間、三つの影が再び動き出す‥‥惑わずに後方へ。
「躊躇の欠片もないですね、判断が非常に早い。これは全くやり辛いですが‥‥」
「まだ始まったばかり。追うとしよう」
 その早き行動を前に雄司は感心して言い淀むが、続いたルクスの言葉に応じ頷けば一行は三つの影が消えた方へと向けて駆け出した。

「さて‥‥」
 その光景を遠目に見守る『闇槍』頭領、一行の全員を見てその戦力を抜け目なく観察すれば本格的な進攻を開始すべく、部下達へ合図を送り先に行動している三人と合流を図るのだった。

 と言う事で一行、三つの影を追って来れば果たして辿り着いたのは二見の片隅にある森。
「参ったな、こりゃ」
「正しく、虎穴と言った感じですね」
「私達も森に慣れているとは言え、この状況では明らかに分が悪いわね」
 その中へと一行が進み入れば、呻く蒼牙を筆頭にセリアとステラは今、自身らが置かれている状況を冷静に判断してその場に立ち尽くしていた。
 辺りに降り注ぐ木漏れ日の中で踊る影は捉え難く、戸惑う一行を傍目に今は牽制だけに集中しながら間違いなく包囲しつつ徐々にその輪を狭める『闇槍』だったが、それを前に早く判断を下したのはルクス。
「ならば、下がろう」
 努めて冷静な声音で呟き、下した彼女の判断と視線だけで僅かに森が開けている方を見て駆け出せば一行、彼女の後へと続くがその動きを予め読んでいたのか次々に樹を蹴り、そちらを塞がんと木立の中を飛翔する。
「拙い腕の俺だけど、精々時間を使って下さいな。足止め程度しか出来ぬ事は重々承知の上、それでも出来る事はしっかりやろうっ」
「『五節御神楽』の実力と意思‥‥受け取りなさい!」
 だがそれは見透かして蒼牙とセリアが後方より愛馬による突撃を行えば、疾く一行へ迫った『闇槍』の一人を強烈な裂帛と共に放つ連撃にて地面へ叩き付けると
「地の足枷よ、戒め縛り付けん!」
 次に響いたルーティの詠唱より呪文が早く完成し、即座に効果を成したアグラベイションが間違いなく次に迫った『闇槍』の面々に足枷を課せば、後退する一行の殿を務めんと蒼牙は再び動き出した『闇槍』を睨み据え闘気を練り上げては啖呵を切った。
「さて‥‥あと少しだけ、付き合って貰おうか」

 それより刻は然程立たず、だが一行が森から抜けるには十分な時間を経て殿を務めた蒼牙とセリアは『闇槍』の前に辛くも膝を屈していた。
「先の心意気やよし。しかし何故、諦めました?」
「失礼だな、諦めちゃいないけど俺弱いし」
「自身の実力を過信はせずとも、蔑んで見るのも問題ではありますね」
「せめて現実的な判断、とか言ってくれ」
 その彼らを見て問い掛ける『闇槍』頭領へ侍の彼は肩を竦めて答えれば、嘆息を漏らす頭領へ蒼牙は渋面を浮かべ訂正を訴える。
「しかし流石と言うべきか‥‥判断は早く思い切りもいいですね、こちらとて手を抜いている訳では決してないのですが、この調子では長くなりそうですね」
「無論です、模擬訓練とは言えこちらにも負けられない理由はありますから」
 だが彼は僅かにだけ微笑むと次いで、一行が駆けた方を見て今までの交戦から抱いた客観的な感想を呟くと、拙い腕にて酷い目に遭わせてしまった愛馬を労わるセリアが柔らかな面立ちに浮かぶ瞳に強い光を宿したまま言えば
「‥‥成る程、少なからず貴女と私達は『同じ』様ですね。すると大分骨が折れるでしょうか」
 二人の様子に納得して頭領は頭を掻くと僅かな間を置いた後、追撃すべく駆け出した。

 それよりまた時間を置けば一行と『闇槍』は再び、静かに凪ぐ海を前にした砂浜にて激突する。
「いっくよー!」
「ご覚悟!」
「受けるがいい、拙者達が破陣の舞を!」
 その中、雄叫び上げてハンナに雄司、月夜の三人が縦に並んで皆の援護を受けながら駆け出せば、さながら槍の穂先が如く『闇槍』が敷く布陣を切り裂き断絶すると一行はそれぞれ、己が役目を全うすべく動き出す。
「‥‥これなら、行けるか?」
 そして直後に再び吹雪が広く辺りを包み吹き荒れればその中で詠唱織りてはコアギュレイトを放つルクス、確かに足場の不確かさ故に一行の速力こそ落ちてはいたが『闇槍』においてもそれは同様であり、また先よりも視界が開けているからこそ先よりは少なからず勝機を見出すも、それだけで『闇槍』と肩を並べたと思うのは早計だった事に彼女は暫くした後に改めて感じる。
「力の巫女の技、受け切れますか」
 長大な刀に風を巻きつけ孕ませて、巫女装束を纏うミラが峰に返した剛剣振るえば対峙する『闇槍』の一人は受け流し損ね、豪快に吹き飛ばされこそするも強烈な一撃を繰り出したが故、僅かにだが出来た隙を看破されれば『闇槍』の面々は一斉に踵を返し、突出し気味なミラへ一斉に迫る。
「‥‥っ!」
「ミラさん!」
「大丈夫‥‥です」
 尤も全てが全て、彼女に迫ったかと言えばそれは否ではあったが‥‥それでも三人ばかり、彼女へ連撃見舞えば、全てを捌き切れずに力の巫女は屈強な体を揺らがせる。
 すれば一行はそれぞれ、『闇槍』の攻撃を凌ぎながら何とか彼女の元へ駆けつけると彼らもまた間を置かんと一時、頭領の周りに集結する。
「僅かな隙でも綻びでも見付ければ途端、そこを狙うとは」
「自らを活かし、相手を倒す術を確かに備えているわね」
「うー」
 別段指示もなく、動く彼らを視界に捉えて秋緒が感心しながらも呻けば相手の実力を改めて実感したステラは水を再び生み手繰りながら、これからどう攻めるべきか今までの経験から最も相応しい対抗手段を講じ始めるも乱戦故、思う様に魔法が打てないルーティは彼らを睨み据えるだけ。
 そんな彼女の様子に一行を包む場の雰囲気が緩めば、再び一行は次の激突に備え身構える。
 故にまだ、余裕に余力はある。だが
「ですがこれが『闇槍』の力、学ばねばなりません‥‥」
「いいえ。全てに置いて学ぶ必要は、ありません」
 次に口を開いたミラが感じた、『闇槍』との確かにある差もまた事実であり、彼女は呻くが『闇槍』頭領はその言葉を否定して言葉を続ける。
「私達と貴方達、思想は違う。故に今回、肝要なのは刃を交えると言う事。その結果はさて置いて、互いが互いの事を知る為にはこれが一番に早いでしょう」
「そうだな。これから私達が成すべき事を見出さなければならない以上、この機会は望んでも避けるべき機会ではないな」
 そしてその話に緩やかな笑みを湛える月夜が頷けば、鞘に収めていた小太刀を再び抜いて彼はそれを突き付け一行へ尋ねた。
「さて、それでは宜しいでしょうか?」
「えぇ、話す事ならこれからでも十分に出来ますし‥‥」
 すれば六尺棒を構え、凛と声を響かせ応じる秋緒に続き皆も身構えれば
『いざっ!』
 次いで誰かが放った声が重なると同時、乾いた砂が次々に宙を舞った。

●戦い終わって
「よく働いた後は酒に限りますよ、ささどうぞ」
「いやぁ、済まんね」
 その日の夜の内、催されたのは互いを労っての簡素な酒宴。
 明日には移動するにも拘らず、簡単に治療こそ施されたもののまだ訓練にてあちこちに拵えた傷が疼くのにも拘らず、こう言う時となれば一行は元気で‥‥『闇槍』の面々もまた意外に元気なもので先までは静かだった一人が雄司の勧めに対し、杯を差し出しては酒を酌み交わしていた。
「材料が余り揃わなかった故、大した物は作れなかったが良ければこれも食べてくれ」
「ふむ‥‥」
 その中、『闇槍』の頭領へ道中で摘んだ食べられる野草を簡単に調理し斎宮から拝借した皿に誂えた物を勧めるルクスだったが、相変わらずな彼の反応に首を傾げれば
「どうか致しましたか?」
「口に合わなかっただろうか」
「いや‥‥たまにはこう言うのも、悪くはないかと思っただけ」
 やはりその反応が気になった秋緒が率直に問うと、料理が盛られた皿を見つめる彼にルクスも問えば‥‥返って来た無愛想な答えに二人は顔を見合わせ、次いで微笑むとその時に鈴虫達は不意に羽を擦らせ、合唱を始めるのだった。
「月も鈴虫の鳴き声も、清く正しく美しく」
「そだね、でも五節の御神楽か。んー‥‥神楽、私に作れるかなー」
「何とかなるさ、きっと」
 その響く音色に聞き入りながら、満身創痍ながら地に寝転がり呟いた雄司へ頷きハンナは挑んだ事のない特殊な楽曲の構築に想いを巡らせ、首を傾げるも‥‥彼女を、皆を見て月夜が断言する中で。

 とは言え、『五節御神楽』が最初の一歩を踏み出しただけである事には変わらず‥‥これから起こる事はまだ、誰の目にも映っていなかった。

 〜一時、終幕〜