【五節御神楽】要石視察

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:9〜15lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 85 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月07日〜10月15日

リプレイ公開日:2006年10月15日

●オープニング

●報告‥‥『闇槍』頭領
 斎宮、斎王の間にて。
「‥‥先日より各地に派遣させていた部下達が戻って来ました」
「成果はどうだったでしょう?」
「要石、総数六つ‥‥全ての所在を確認しました」
「そうですか、それで周辺の状況は?」
「今はまだ、特に何も‥‥但し、一箇所を除いては」
「比較的まだ、静かなのですね」
 今日も何時もと変わらず、悠然と佇み『闇槍』頭領からの報告を受ける祥子内親王は暫し彼の報告に耳を傾けては簡単な状況だけ整理すると、何を気にしてか自身の黒髪を視界の片隅に止め、弄りながら小さな口を開く。
「‥‥状況は今後また変わるでしょうが、それでも今の内に手を打っておく必要がありますね」
「それならばその任、『五節御神楽』に任せるのが適任だと思います‥‥」
「今の内にもっと経験を積んで貰わないと‥‥ですよね?」
 その彼女の問いに対し『闇槍』頭領は惑わず、彼女へ答えを返すと彼の意を察して斎王が言葉を返せば‥‥肯定も、否定もせずに彼。
「しかし‥‥そろそろ、動かれるのですね」
「その為に私は斎王になったのです、ならばそれは必然でしょう」
 話題を掏り返ると、ここで漸く黒髪から手を離した祥子は至って真面目な面持ちで決然と言い放てば
「‥‥ではその間、伊勢は私達が必ず」
「えぇ、その時は『五節御神楽』共々宜しくお願いします。ですがそれはもう少しだけ先、今はまず英気を養っておいて下さい‥‥来るだろう日の為に」
 彼は斎王の決意に答えるべく誓いを立てると頷いて彼女、『闇槍』を気遣えば恭しく頭を垂れる頭領を前にして、いよいよ立ち上がった。

●次なる一手の為に
 京都、冒険者ギルド。
「『倭姫命(やまとひめのみこと)腹掛岩』へ行って欲しい?」
「あぁ」
 ここ最近、よく姿を見かける様になった斎王の側近である光と名乗る女性から今回の依頼内容を聞いて、ギルド員。
「聞いた覚えがないのだが‥‥」
「まぁ、そうだろうな。かく言う私もその岩にまつわる話や倭姫命に付いて、詳しく分からないのだが‥‥その人物が伊勢に深く関わるのは確かだ。伊勢神宮を設立し、日本武尊(やまとたけるのみこと)に天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)を与えたらしい人物だとか」
 首を傾げてはその理由を明解に口にすると彼女も頷きつつ、自身が分かる範囲でだけ説明するが
「‥‥関係のない話に逸れた。とにかく今回はそこへ赴き、その近辺で跋扈している妖魔の群れを払って欲しい。単純明快ではあるが、状況が変わる可能性も考えられる故に気を付けて事に臨んで欲しい」
「因みに『五節御神楽』を呼び付ければいいのだな」
 話が本筋から逸れた事に気付くと生真面目な彼女は丁寧に詫び、改めて今回の依頼内容を口にすると既に筆を走らせているギルド員の彼は詳細を察し、問えば帰って来た肯定の頷きに応じる様、更に筆を速く走らせる‥‥が。
「しかし結構に遠いな、一体その岩が何だと‥‥」
「要石だ、今はそれ以上言えん」
「‥‥まぁ、分かった」
 光より差し出された大まかな場所が記されている地図を見て呻き、やはり抱いた疑問を率直に彼女へ問えば光のはっきりとした口調ながら、取り付く島も与えない答えを聞くと彼は憮然としつつも今は止むを得ず、何とかそれを飲み込んで再び筆を走らせる。
「それと今後、面倒を掛ける事になるかも知れないが‥‥その時も宜しく頼む」
「‥‥?」
「杞憂であればいいのだがな。それでは頼んだ」
 そんな彼の様子には気付きながら、尚彼女は意味深な言葉を残すと再度筆を止め、首を傾げた彼を見て光は自嘲めいた苦笑を湛えながら踵を返すのだった。

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 依頼目的:『倭姫命(やまとひめのみこと)腹掛岩』の近辺視察に妖怪退治!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:祥子内親王(同道はしません)
 日数内訳:移動六日(往復)、依頼実働期間は二日。
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●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●核心へ迫るべく
「よーし、初めての本格的な任務だ。頑張っちゃうぞー」
 場所は京都、冒険者ギルドを前に『五節御神楽』とお手伝いの、以前と変わらぬ面々が揃えばその中でハンナ・プラトー(ea0606)が誰よりも早く、高らかに腕を掲げて叫ぶも
「でも私はお手伝いだけどねっ」
「まぁな。だが今回の事に望む意気は『五節御神楽』のそれと変わらんつもりだ」
「それは頼もしいな」
 捕捉を付け加えれば肩を竦めるが、彼女と同じ立ち位置である鋼蒼牙(ea3167)が同意しつつも瞳をすぼめて早くも剣気を纏えば、彼の言葉に上品な笑みを浮かべる『五節御神楽』が一人のルクス・シュラウヴェル(ea5001)が彼の意気込みに感心するも
「しかし要石‥‥ね。何か封印されているってのが良くあるパターンだが」
「一体、何の事だろうな」
 手を掲げ応えた蒼牙はその次には剣気をしぼませて、重要だろう『要石』について思案すればルクスもまた先までの表情を変え表情に困惑を宿すが
「要石‥‥守護と安定を司ると言われる大事な石、と言う解釈で問題ないでしょうか」
「そうですね」
「そうなると、その近辺で妖怪の活動‥‥気になります」
 それに対して個人的な解釈にて解を与えたのは神道を深からずも知る神木秋緒(ea9150)が紡いだ言葉で、一行の見送りに来た祥子内親王が彼女に対してあっさり頷くと僅かにだけ見えた『要石』のその役割と、それとは裏腹に乱れつつある伊勢の現状を思い出したミラ・ダイモス(eb2064)は眉根を顰め呟けばその時、何かを思い出して口を開いたのは以前より伊勢に関わって来た天城月夜(ea0321)。
「そう言えば以前、レリア殿が探していたモノも岩だったな。それと鬼が暴れた村にも偶然なのか、それと同じ様なモノ‥‥これらは一体?」
「同じもの、とだけ言っておきましょう。こちらとてまだ、完全に断定し切れていませんから」
「とりあえず‥‥『要石』は重要なもの、と言う事ですね」
 祥子を見つめ、長髪を風に靡かせながら以前より気になっていた事を問えば‥‥返って来た斎王の答えに彼女、ふむと呻けばその隣で佇み思案顔にて話を聞いていたルーティ・フィルファニア(ea0340)はふと、自身が体験した昔の事を思い出して呟くも‥‥あの時よりも危険な何かを伊勢が孕んでいる様な気がし、背に走る怖気を留められなかったが
「それにしても視察、って何か役人みたいですね」
 それぞれ、大小あれど抱く不安が漂う場の中に響いたのは神田雄司(ea6476)の、相変わらずも呑気な声音で一行は彼の声を聞くや肩を落とすも、雄司はそれに気付かないまま続き言の葉を紡ぐ。
「あ‥‥今回の一件、もしや神主修業ですかね?」
「それは‥‥ないかな」
 すると雄司の紡いだ疑問に対し、苦笑を湛えながら斎王が答えると今度は雄司が肩を落とす番で、その光景に場が和めばその次。
「そう言えば、この前の模擬訓練は認められたと思っていいのかしら」
「問題ないですよ。だからこそ今回の任が皆に回って来たのですから」
「ならば尚更に精進は欠かせないわよね‥‥って、隊員じゃないのに変かしら?」
「いいえ、そのお気持ち‥‥痛み入ります。そして皆さんも‥‥本当にありがとうございます」
 以前の依頼で自身の実力に疑心暗鬼を抱いてかステラ・デュナミス(eb2099)が静かに祥子を見つめ問うと、微笑む彼女にステラは息を吐くも‥‥『五節御神楽』でない事にも拘らず奮起している自身に今度は疑問に抱き首を傾げれば、誰にともなく尋ねるが斎王の言葉を聞いて彼女は漸く微笑み頷くと、一行も揃い顔を上げれば
「それでは、そろそろ発ちましょう。祥子様の期待に応える為にも、五節御神楽の名に恥じぬ様に頑張りましょう」
『おー!』
 その期を逃さずにセリア・アストライア(ea0364)が皆を見回し呼び掛けると、祥子へ頭を垂れて無言にて依頼の達成を誓うと彼女もセリアの意を察し、微笑めば‥‥一行は斎王が見送る中、『倭姫命腹掛岩』へ向け歩き出した。

●要石視察
「いざ組織に入ってみると忙しいものなんですねぇ」
「‥‥そもそも、纏めるのはあんまり性分じゃないんだがな」
 さてその道中、改めて現地での対応をすり合わせる皆の中‥‥数少ない男性の雄司と蒼牙がそれぞれ、思い思いに嘆息を漏らすが
「とは言え、いい目の保養になるなぁ」
「余りじろじろと見るでないっ」
「減るもんじゃないし、これ位勘弁してくれ」
 侍の彼は次いで辺りへ視線を巡らせ、感嘆の溜息を漏らし言うと月夜の反撃にもめげず、尚も視線を『五節御神楽』の女性陣へ注ぐ。
 と言うのも出立の直前に『五節御神楽』の衣装が出来上がり、五人の元へと届けられれば今は上下とも純白で統一された袖無しの巫女装束の上に足元まで延びる、黒だけで染められた和装の長衣を纏っていたが故。
 露出は無論、抑えられているが間違いなく目を引くその立ち姿には蒼牙の反応も当然と言えば当然‥‥ではなく、単に女性が多いからと言うだけか。
 尚、黒の長衣には右の肩口に紅の刺繍で太陽を模した鏡が密かにワンポイントにあしらわれている。
「へー、はー‥‥いいないいな」
「ちょっと羨ましいかもね」
「そう言う事も余り言わないでくれ、まだ着慣れていないからいささか‥‥照れ臭い」
 その、白と黒を纏う五人を見てルーティが羨ましげに隅から隅まで視線を走らせ率直な感想を笑顔で言えば、秋緒も同意して顔を頷くと珍しくうろたえるルクスが皆から顔を逸らした時。
「どうやら、着いた様ですね」
 彼女とは逆に、普段と変わらないミラの声が響けば一行の視界の先に岩塊が見えてきた。

 それより間も無く、夕刻を前にして一行が辿り着く『倭姫命腹掛岩』を前。
「こ、これはっ!」
「‥‥ただの岩、よね」
「そうですね」
 しめ縄にて結わえられているそれを初めて目にした一行の中、目を見張り叫びを放ったのは雄司だったが‥‥唐突な彼の驚きに僅か、肩を震わせながらも知識欲旺盛なステラが冷静な分析から得た自身の回答を口にすれば彼、普段の表情に戻ると何事もなかったかの様に彼女の言葉に同意すると
「とりあえず、必要なのはお神酒でございますか」
「まぁ話の通りなら、由緒ある岩なんでしょうけど‥‥そこまでしなくてもいいんじゃないかしら?」
 ステラを見てはまた唐突に問い掛けると彼女、今度は苦笑を宿し答えれば雄司が手に持っていた日本酒を下げさせると改めて『倭姫命腹掛岩』へ視線を走らせては華奢な腕を伸ばし、それに触れ‥‥首を傾げる。
「しかし要石、ね‥‥別段精霊が宿っている訳でもないみたいだし、何かしら」
「解せないな」
「何が、ですか?」
 『倭姫命腹掛岩』の岩肌が返してくる、ゴツゴツした感触。
 特に何も分かる事はなく、次いでステラは肩を竦めるが‥‥それ故に渋面を浮かべ言葉を返す蒼牙が見せた反応へルーティは辺りを伺いながら、その真意を深く考えず小首を傾げ彼を見つめるがそんな彼女へその理由を明示したのは子狐を従える秋緒。
「特に変わった所はなし。それなのに相当数の妖怪がこの近隣に群れ、蠢いている‥‥一体何が原因なのでしょうか」
「妖怪が動くから要石に何かが起こるのか。それともその逆か‥‥だろうがさて、見極められるか」
「んー‥‥何だかきな臭いかも? でもでも、ならばこそ払って見せましょう。御神楽の音に乗せて、ね」
「‥‥そうですね」
 ルーティに倣う様、辺りを見回して岩に人為的な傷がない事を確認して尚、解けない怪異に肩を竦めると、秋緒に続き言葉を発したのは月夜。
 要石であると言う『倭姫命腹掛岩』を見据え、厳しい面立ちを浮かべるが‥‥その事情を漸く理解しつつもハンナは至って明朗な声音を響かせると、今まで沈黙を保っていたミラが頷いたその時だった、背筋に走る悪寒を感じたのは。
「少々、雑談が過ぎましたか」
「『五節御神楽』‥‥推して参るっ!」
 新しき『五節御神楽』の衣を靡かせ背後の木立を見やると同時、斬馬刀を隙なく構えると皆もまた彼女に続き、それぞれ得物を手に身構えれば‥‥月夜の叫びと共に皆は駆け出した。

 それより直後、初手の割に敵の数が多いと悟った一行は僅かな間だけ、『倭姫命腹掛岩』への進路を敵より阻めば‥‥炎の力を宿したステラが挨拶代わり、前を駆る者達が散っては視界が開ける直後、豪快に蒼き刃を放ち群れる敵を切り裂き散らせばそれより一瞬だけ遅れルーティも散った敵の、足場が悪い箇所を狙い打って得意とする地の魔法を放ち更に敵陣を細断すると更なる速さを持って刃持つ戦士達、散らされながらも再び蠢きだす死霊の群れへ肉薄しては得物を振るう。
「この調子なら何て事はないんだろうけど‥‥なぁ」
「この先どうなるか、なんて相手に聞けるものなら是非聞きたいわね」
 以前の模擬訓練より少なからず互いの事を把握しているからこそ取れる連携のその中、数は多いも明らかに力量の下回る死霊の群れへ闘気を打ち込みながら見えぬ真意に蒼牙が嘆息漏らせば、己の力量を改めて測る様に詠唱を響かせて水球生み出し次々にそれを放って援護するステラも同意するが
「意外に数が多いっ、済まないが今は集中してくれっ!」
「私の剣は守るべき者達の為のもの、故に私の剣は‥‥私が掲げる月の盾は砕けない!」
 木立の奥より未だ沸いて出る死霊侍を見止めた月夜に叱咤されると二人、誰よりも前を駆るセリアの固き決意を耳にすれば、眉根を引き上げ再び高らかに詠唱を唱え上げた。

 それより暫し、時を経て妖怪達の侵攻が一時収まれば予定通りに一行、三つの班に分かれると一つの班が休む中で二つの班が『倭姫命腹掛岩』を守るべく駆け回れば今、動いている内の一つである弐班。
「‥‥何もありませんね」
「そうですね」
「そうなると‥‥人為的な線は今の所、消えますか」
 初手にて現れた死霊侍が来た方へと要石から離れ過ぎぬ様に突き進んでいたが、特に目立ったものもなく秋緒の嘆息にルーティも頬を掻いて未だ見えぬ状況に困惑するも、一先ず現状だけ纏めた雄司に頷いて七支刀を携える巫女。
「しかし見る相手はいずれも死霊の類‥‥何か関連はあるのでしょうか」
「解き放てよ地の息吹‥‥捻じ伏せんは我に刃向けし者、ただ真直ぐにそを蹴散らさん!」
 静かに詠唱紡いでそれに業火を宿せば、眼前の闇から唐突に這い出てきた三体の死食鬼を見据えると次にルーティの凛とした声が響き渡り、放たれた衝撃波が死食鬼の一体を捉え吹き飛ばせば小さき魔術師。
「これ以上、伊勢の平和を乱させはしません!」
「それ、自分の台詞かな?」
 『五節御神楽』の雄司より先に決め台詞を言ってしまうのだった。

「‥‥向こうも派手にやっているな」
「こっちも負けていないけどね」
「しかしどう切り崩しましょうか」
 一方、同じ刻‥‥『倭姫命腹掛岩』近くでやはり戦っていた参班はと言えば、群れる死霊侍の中を駆け回る朧車を前に手を焼いていた。
「余り得意じゃないからあれだったけど、そうも言っていられないね」
 それは死霊侍も気に留めず跳ね飛ばしながら駆け回り、普通の武器が通じなければルクスのコアギュレイトにも抵抗を続けるそれを前‥‥少なからず慢心がなかったと言えば嘘だと言う事を悟ればハンナは気乗りしないながら、闘気を練り上げ己に宿すと
「なら、これならば‥‥どうか!」
 彼女に倣いミラもまた内在する闘気を立ち上らせれば、判断早く思考を切り替えたルクスが生み出した聖なる光が周囲を眩しく照らしつけ死霊の群れを怯ませると、ハンナと再度の衝突を繰り返す朧車へ黒衣靡かせ、力の巫女が距離を詰めれば長大なる剛剣をそれへ叩き付けた。
「力の巫女が一閃‥‥受け切れますかっ!」

 それより一行の戦いは尚も続いていたが、それでも人であるが故に適度に交代しながら休憩を取れば今もまた、壱班と弐班が交代の時。
「いよっと。あー‥‥長丁場は疲れる」
「お疲れ様です、しかし‥‥ここから見る月は大きいですね」
「んあ?」
 まだ余裕こそあるが、絶え間なく来る妖魔の群れに辟易として蒼牙は『倭姫命腹掛岩』へ寄りかかり言えば労う雄司の、天上を見上げ呟いた言葉には間の抜けた声を返すも
「これだけ明るいのです、影の一つでも落ちていようものならいずれ何か見える‥‥といいんですが」
「だからってこれに祈るのもどうかと思うがな」
 更に続いた彼の呟きと、再び岩へと向き直り手を合わせる様には思わず苦笑を湛えた。

●闇
「とりあえず、依頼は達したと見て問題ないだろう。帰るか‥‥要石の事は未だ、謎のままだが」
「そうですね、ですがそれもいずれ‥‥斎王様が話してくれるでしょうし、その時まで待ちましょう」
 そして一行、それより二日に渡り『倭姫命腹掛岩』の防衛を果たせば‥‥去り際に改めて要石を見やり月夜、難しい表情を湛え呟くもルーティが彼女を宥めれば今は頷くしかない彼女、主を信じるからこそ首を縦に振って踵を返す。
「それでは申し訳ありませんが私達は此処で」
「どうしたの?」
「今回の一件、早めに報告しようと思い斎宮へ赴く。他に斎王様から聞きたい事もあるしな」
 だがその中でルクスとセリア、月夜の三人はこの場にて他の皆に別れを告げると問うステラに対して神聖騎士のエルフは普段と変わらぬ、真面目な面持ちにて答えを紡ぐと
「そうですか、それではすいませんがお願いします」
「それでは皆‥‥また次も宜しく頼む」
 雄司は彼女らが履く、魔力篭りし靴と自身が履く草履を見比べ納得すれば頷くと微笑を絶やさぬセリアが手を掲げ一時の別れを告げ、そして一行はそれぞれに帰路へと着いた。

「‥‥機はそろそろ、熟しそうか?」
 その一行を遠くより見守るものあり。
 それが何者か、誰と組する者か判断は付かないが視線を一行より要石の一つである『倭姫命腹掛岩』へ移すと、目を細めては呟くと
「六つの要石、二振りの霊刀、天岩戸‥‥黒き箱はまだ不要だが、さて」
 指折り数え、何事か思案する事暫し。
 結論が出なかったのか、肩を落としては嘆息こそ漏らすが
「とにかく、斎宮の動向は間違いなく今後も留意する必要があるな」
 再び、立ち去らんとする『五節御神楽』の面々へ視線をやれば、少なからず今後の脅威になるだろう事だけ確定付けるとやがて『それ』もその場より姿を消すのだった。

 動き出す刻は未だ分からず、だが確かに何かが動き出している伊勢。
「必ず、守り通して見せます。誰でもない皆の為に‥‥この身が朽ちようとも、必ず」
「人の本質、それは押さえ込むべきではなく解放すべき‥‥ですから私は力を手にし、この地を始まりとして人をあるべき姿へ導きましょう」
「あの時、守れなかった誓い。守れなかったからこそ、私はここで必ず‥‥」
 何処へ向かうとは未だ知れないが、それぞれが描く想いが交錯する時‥‥その時こそ、間違いなく『始まり』を迎える事になるだろう。

 〜一時、終幕〜