【五節御神楽】光臨武装
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■シリーズシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:10 G 22 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月19日〜12月28日
リプレイ公開日:2007年12月27日
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●オープニング
●導く者
伊勢神宮が本宮の近く、仮に拵えられた斎王の間において密かに会談が執り行われていた。
「お初目に掛かります、斎王様」
「貴方が、猿田彦神‥‥ねぇ」
その部屋の主を前に深く頭を垂れているのは巨躯の毛むくじゃらな‥‥一言で言うと猿、その礼儀正しき挨拶を前に斎王はその存在の名を口にすれば
「何か、名前の通りにそのままねぇ」
「斎王様‥‥」
「ははっ、伝承に残る通りだとは良く言われますよ」
次いで率直な感想を口にすると、嘆息を漏らて窘める側近の光ではあったが‥‥猿田彦神、と呼ばれた巨躯の猿はてんで気にした風もなく笑いながら応じるも
「でその猿田彦神が一体、伊勢に何用でしょうか?」
「‥‥言われずとも分かるでしょう」
挨拶が終われば彼女、異形とも言えるそれを前にしても凛と喉を震わせては普段と変わらない調子で眼前の神へ現れたその理由を問い尋ねると、僅かな間を置いて猿田彦神は口を開き逆に彼女へ尋ね返すが‥‥斎王から、その答えはない。
「天照大御神、伊勢の地へ戻り密かに立つ」
しかし答えが返って来る事は気にしていなかったか、沈黙する彼女を前に猿田彦神が再び口を開けば伊勢で過去、自身よりも先にこの地へ現れた神が名を口にする。
「しかし、この地にて先にあった大規模な戦闘より後に姿を晦ませる彼女‥‥」
「その居場所を知っていると?」
「えぇ、しかしそれについては貴女方も既に見当が付いているのでは?」
そしてその続きをも語るが、既に知れているその話をわざわざ勿体ぶった口調で話す様に彼の意を察するからこそ斎王が口を挟み尋ねるも、神より再び問われる羽目になれば‥‥今度はその答えを口にする彼女。
「‥‥真なる天岩戸」
「正解です、鍵も既に揃っている訳ですし一つの問題は解決していると見て大丈夫です」
「でも、まだ何か必要な物とかがあるのね。例えば‥‥そう、宝具とか」
「その通りです」
なればそれを受けた猿田彦神は顔を綻ばせては言うも、やはりその物言いに引っ掛かりを覚えた斎王が一つ、文献等に挙げられているも未だ実態が分かっていない単語を上げれば首を縦に振って頷く猿田彦神。
「詳しい記述が見付けられなかったのだけど、宝具って一体何?」
「宝具とは果たして、天照様が封じた自らの力の断片」
その反応を前に漸く、宝具の存在理由を知る者へ至った斎王は機を逃さずそれについて問い尋ねれば‥‥綻んでいた表情を真剣な物へ変えた神、その答えを紡ぐ。
「ふぅん。で、取り敢えず‥‥天照様は無事なのね」
「えぇ、今はまだ‥‥ですが余裕がある訳ではありません。あの寝所に篭った、と言う事を考えるとこのままではいずれ」
「探しましょう」
「話が早くて良いです、因みに件の場所については此方が全て把握済みですからご安心を」
すればそれを受けて何を感じたか斎王、張り詰めていた雰囲気を唐突に崩して生返事と共に頬杖を突きながら、天照の安否だけ最後に尋ねると再び頬を緩める猿田彦神ではあったが予断は許さないと最後に添えられると‥‥いや、それを聞かずとも必要な駒が既にある程度揃っている事に気付かされた今、果たして彼女はそれだけ断言するとその答えを待っていたかの様に益々の笑顔を持って協力の旨を告げる神ではあったが
「で話が戻るのだけど、これから貴方は一体‥‥何をするつもりで?」
しかし、猿田彦神が望む意だけは未だ分からないままである事に気付いた斎王は今度こそ最後の問い掛けを投げ掛ければ、至って穏やかな声音で猿田彦神は答えるのだった。
「初代の口伝に従い、闇を祓います。伊勢のみならず、ジャパンに蔓延る全ての闇を‥‥天津神へ集結を促してね。その為にも天照様の復活は早急に成されなければなりません」
●そして、冒険者ギルド
日々様々な依頼書が張り出されている中、一枚の和紙だけにはただ『五節御神楽、参集』とだけ記されているものが紛れていた‥‥それ以外に依頼の詳細な内容等の記述は一切、ない。
「なぁ、この依頼って一体何だ?」
「‥‥詳細についてはその一切が秘匿だ」
「て事は‥‥?」
「私も詳細に関しては聞いていない‥‥ただ、『五節御神楽』の面々を集めてくれとだけ」
「何だろうな、このご時勢に」
「‥‥さて」
無論、それを見て気にならない冒険者がいない訳で今日はもう十何人目か、一人の剣士がやはり尋ねるも‥‥同じ様な質問に流石飽きてか嘆息を織り交ぜつつも彼へ答えを返せば、それを聞いて剣士は暫しギルド員と話を交わした後に見えない話から揃い肩を竦める二人。
「ただ、伊勢にとって何らかの機が訪れたのかも知れない」
だが、それでも‥‥見えないながらに水面下で動きがあった事だけは確信するからこそ、それだけ呟いた。
●
数日後、京都某所。
「ふむ、久し振りだな」
集いし面々を前、五節御神楽を束ねているレイ・ヴォルクスが掌掲げては皆へ久々に介する割、簡単に挨拶だけ済ませると
「さて、今回の依頼のその詳細だが過去の調査で分かった宝具についてその詳細と在り処が分かった事から今回、その回収を行う事となった。尚、宝具とは宝冠‥‥その名を日輪」
早々と本題へ単刀直入に至れば、今までの沈黙から唐突に事が進んだ事より首を傾げる一人へレイはその理由を説く。
「とある情報筋から宝具について詳細な情報を得る事が出来、またそれ自体が天照様に深く関わる物である事から速やかに、この任を遂行せねばならない」
しかし、何処か歯に物が詰まったかの様な物言いにまた一人が『とある情報筋』について尋ねると‥‥沈黙の後、果たしてレイはその名を厳かな口調にて紡ぐ。
「‥‥猿田彦神だ。因みに彼の存在については今現在秘匿とされており、知っている者に関してはその全員に緘口令が敷かれている。破った場合にはその者がどの様な立場でも‥‥話を戻す。詳細な場所の情報等については俺もこれから聞きに行くので必要に応じて各自、斎王に尋ねてくれ」
だがすぐに場に介する面々へ釘を刺すも、それは途中で止めれば今回の任務について改めて話を戻せば‥‥しかしそれも途中、今度は本当に知らぬと告げて彼は踵を返せば
「それでは散開だ。久々の任となるが、万全を期して事へ臨み宝具の回収に各自全力を尽くそう」
最後にそれだけ告げて皆より一足早く、その場を後にした。
天照の存命が伝えられ、その復活へと繋がる宝具の存在も明らかとなれば蜘蛛の糸程の細さだった光明は今、確かな脈動を持った‥‥しかしそれが今後どうなるかは先ず、五節御神楽へと託されるのだった。
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依頼目的:五つあると言われる宝具の一つ、宝冠『日輪』を手に入れよ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
また、そろそろ寒くなって来たので状況によっては防寒着も必要になるかと。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)
対応NPC:祥子内親王(ez1075:同道せず)、レイ・ヴォルクス、矛村勇(同道)
日数内訳:目的地まで五日(往復)、依頼実働期間は五日。
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●リプレイ本文
●久々の召集
伊勢、由緒正しき歴史を未だ刻み続けている伊勢神宮を前に五節御神楽の総員が集まったのはどれ程前だったか。
「改めて久し振りだな、皆。一先ず壮健そうで何よりだ」
傍らに矛村勇を着き従える五節御神楽の長がレイ・ヴォルクスはその全員を前、帽子の唾を上げては笑みを湛え第一声にそれだけを言うと
「召集待っておりました。この伊勢より魔を追い払う為に、我が身命を捧げます」
「まぁ、そこまでかしこまる必要はないんだが‥‥ともかく今回、頼むぞ」
「はい、これが最初の一手。反撃開始ですね」
彼へ先ず応じたのは巨人の騎士がミラ・ダイモス(eb2064)、堅苦しく頭を垂れて言えばその反応に苦笑を湛えるレイへ頷き返し、騎士が顔を上げると
「で念の為に確認なのだけど天照様は一先ず、無事なのね」
「あくまで猿田彦神様の話にだけ寄る物だ、斎宮側での確認は取れていないが‥‥大丈夫なのだろう」
「猶予は少ないにしても巻き返すチャンスがあるのなら、それに越した事もないわ。私達の底力、見せてあげましょうか」
「そうでござるの。とは言え余り焦らぬ様に普段通り、成すべき事を確かに成そう」
その後を次いで言葉を発したのは水を手繰る魔術師がステラ・デュナミス(eb2099)で、改めて天照健在について問い尋ねれば返って来たその答えに笑みを湛えながらも次いで断言すると、ステラの意に応じ天城月夜(ea0321)が頷くがその最後では皆をも見回し、久々ながらも重要な任であるからこそ穏やかに言葉響かせれば
「あぁ、それにしても寒い寒い‥‥」
「寒いのは嫌ですねぇ。故にこの任務、給金を弾んで頂きたいものですが」
「それは皆の頑張り次第か」
「『日輪』とか言う宝具を見付けたら暖かくなるかなー‥‥っと」
吐かれる息も白い程に寒い中でハンナ・プラトー(ea0606)はしかし言葉の割に普段と変わらず呑気に言えば、それに応じながら神田雄司(ea6476)も頷くと厳しい環境下での任だからこそとレイへ進言すれば、前向きに検討するとの答えを長が返すもその傍らでハンナ、今回の任にて回収すべきその名を紡げば最後になって自身へ注がれる皆の視線から秘匿すべき情報である事に遅れ気付き、慌てて掌にて口を押さえては口を噤む。
「所で、ジャパンの貝は宝なのか?」
「は、何をいきなり?」
「真珠も貝から出来るそうだし、成程‥‥ジャパンでは貝を尊ぶのだな、面白い」
だがその話の直後、果たしてルクス・シュラウヴェル(ea5001)が至って真面目な面持ちにて素っ頓狂な問いを紡ぐと、唐突なそれに驚きを隠さず鋼蒼牙(ea3167)が尋ね返すが彼の事はさて置き、勝手に一人納得する彼女。
「さて、その宝具探しとな‥‥随分と急な話だが」
「動きがないよりは良いんじゃないでしょうか。それにしても天照様に猿田彦神、更に今回の一件‥‥気が付けば毎度、何かしら探している気がしますね」
その様子を前、嘆息を漏らさざるを得ない蒼牙だったが改めて今回の一件が唐突である事に戸惑いを隠さず呟けば、しかしその後を追って口を開いたルーティ・フィルファニア(ea0340)に宥められると呻く侍の傍ら、土の魔術師は今までの事を振り返ってはその共通項を挙げ、とある事にも気付く。
「‥‥あ、矛村さんを探した時もありましたっけ。ふふ、神様と同列ですね?」
「五月蝿い」
相変わらず無愛想な様相を湛えている勇を見つめては笑みながら、それも付け加えると憮然とした面持ちを尚も厳しくして一言で一蹴すれば、肩を竦めるルーティ。
「しかし天津神の託宣とはまた、凄い話になっているわよね」
「えぇ、全く」
「でもこの探索がジャパンを覆う暗雲を晴らす一助となるなら、何としても成功させないと」
「天照様の復活の為に、そして何よりも伊勢に住まう人々の為に」
任務を前、しかし今までと何ら変わらない情景に安堵しつつも神木秋緒(ea9150)はこの任の発端となった猿田彦神の来訪と宣告に改めて驚けば、穏やかな表情を湛えたままにセリア・アストライア(ea0364)も同意すると改めてこの任、臨むべき姿勢を二人が揃い誇示すると場に集いし十二人は皆一様に頷くのだった。
●
それから一行、宝冠『日輪』があると言われている朝熊ヶ岳の麓にまで至れば近くにある村を訪れると大きく四人ずつ、三班に分かれて件の山についての情報を先ずは集める。
「ん、主ら‥‥こんな辺鄙な場所へ一体何用じゃ?」
その内の壱班であるルクスは早く第一村人である老人に遭遇すると、彼からの問いに対し傍らのハンナより早く口を開く。
「これはご老人。実は‥‥ん、探し物をしていまして」
「こんな所に探し物とは、特に何もない所なのじゃがのぅ」
がその第一声は密かに詰まり、だからと言って老人が訝った訳ではないのだが再び口を開いて彼女へ問い掛けると、微かとは言え先の狼狽から答えに窮するルクスだったが
「美味しいたらの目があるって聞いてきたんだけど‥‥どの辺りにあるのかなぁ、て」
「ほう、外国の方の割に良くご存知な様で」
「えへへ」
「そうさな‥‥わしが行く場所としては山の中腹辺りかのぅ。数は多くないが大振りな物が多くての」
「因みに、ジャパンの歴史的な事にも興味があるんだけどあの山って古くからの言い伝えとかあったりするのかな?」
「そうじゃの‥‥あの山には禁域があるから無闇に足を踏み入れぬ様にな。余りに古過ぎて詳細は今に残っておらんが、魔が封じ込められているとか言う話らしいぞ」
それを悟られるより早く隣からハンナが割り込み言えば、笑みを湛えて老人が言うと笑顔を返す騎士へ老人が果たして応じれば胸を撫で下ろすルクスは次からのやり取りは完全にハンナへ委任すると暫しのやり取りの後、老人と別れて二人。
「先は済まない、咄嗟に反応出来ず‥‥しかし良くそんな事を」
「うん、適当だったけど何とかなったね」
「‥‥本当か?」
そして漸く、老人の背中が畑のある方へと消えればルクスは根が正直だからこそ詰まってしまった先のやり取りに対し、ハンナへ詫びるもあっけらかんとその真実を彼女が話せば偶然の産物とは言え、ルクスは神に感謝するのだった。
「最近、あの山へ探検に行ったりはしていないかの?」
「うん、行ったよ!」
「その時、何か不思議な物を見たりとか聞いたりはしなかったでござろうか?」
「えーと‥‥」
一方の月夜と蒼牙もまた村内にて様々な人から話を聞けば、とある子供と遭遇した月夜は彼と同じ高さの目線に合わせ話を聞くとその後、有益な情報を得る。
「お昼の時間だったから行けなかったけど、上の方で何かピカピカ光ってた!」
「ピカピカ、か」
子供が使う言葉故、抽象的になるのは止むを得ないながら真実に違いないだろうそれを彼女は頭の片隅に留め、暫し雑談に興じてからやがて去っていく子供を見送ると‥‥唐突に何処からか伸びる影。
「手掛かり、あったみたいだな」
「うむ、何とかの。そう言うお主の方は?」
「‥‥犬も歩けば、って風には行かなかったな」
そして直後、蒼牙の声が辺りに響けば彼の方へ振り返って月夜が尋ねると肩を竦める蒼牙へ彼女は勝ち誇った笑みを浮かべるのだった。
●
その初日、山中の捜索よりも麓の村での情報収集に重点を置いた一行は夜になればその村には生憎とない宿の代わり、無人の家屋を借り集うと無作為に山中を捜索した結果に村人より得られた情報を交し合う。
「まだ頂上までは行っていませんが妖の存在は今の所、見受けられませんでした」
「それなら今の内に早く見付けたい所ね‥‥ある程度、場所も絞り込んだし明日から本格的に調査しましょう」
「そうだね〜」
そしてその最後、日が落ちる直前に少しだけ山の方へ赴いたセリアが簡潔に山の状況を皆へ告げると、思案しながらもステラがそれだけ言えば陽気に楽器を奏でながらも頷くハンナへ苦笑を返しつつ、続き口を開いて彼女。
「‥‥因みに『余計な一言』は皆、口外していないわよね?」
「あぁ、狐がもしかすれば姿を変えて潜んでいるかも知れない以上はそう迂闊に」
念の為にと『宝具』の口外について皆へ問えば、果たして応じたのは蒼牙だったが‥‥その言葉の途中、果たして皆の反応が希薄である事に気付くと全員の顔を見回して今度は彼が疑問を投げ掛ける側に回れば
「ちょ、その反応は何だ‥‥まさか」
「そう言えば」
「そんなのが」
「いましたねぇ」
失念していたか、と続く筈の蒼牙が話はその途中で秋緒とルーティに雄司が一節毎に区切り、文章と成して織れば大仰に溜息を漏らす侍の傍ら。
「明日は‥‥雪かもな」
何時もとは逆の立場を見せ付けた彼を見つめ小さな声で囁くのだった、因みにその後の情景については想像に難くない事だけ添えておく。
●いざ、朝熊ヶ岳へ
そして翌朝の早くから一行は本格的に朝熊ヶ岳へと足を踏み入れる。
「一先ず探すべき当ては予想していた山頂と、禁域と呼ばれる場位か」
「ならば、それぞれに一班ずつとその他として全体を捜索する班で一つだな」
「捜索は日が落ちてから一刻程度まで、以降は村に戻って来て翌日の打ち合わせで良かったかな?」
「あぁ」
今は時期が時期故、うっすらとではあるが白き雪に覆われている山を前にしてルクスは改めて、確認を取るべく白き息を吐きながらレイを見て言葉響かせれば頷いて彼、確かに応じるとそれを合図に一行は昨日と同じく三班に別れ、山中へと踏み入った。
「それでは皆、気をつけてな」
「此処が禁域、ね」
老人から得た情報の禁域へ到達したのは参班の面々で、注連縄にて広く覆われているそれを前に呟いた秋緒へルーティ。
「見た目こそ仰々しい趣ですが別段、変わった感じはしませんね」
「とは言え気は抜きません様に、皆さん気を付けて下さい」
周囲の様子を伺いながらそれだけは言うも、ミラの警告を聞けば気を引き締めて四人はその注連縄の中へ入る。
「一先ず、妖もいませんか」
「なら早い所、済ませましょう。でも一体此処って何なのかしらね?」
「知らん」
「勇さんでも知らないとなると、本当にこの辺りだけでしか知られていない事か‥‥」
「詳細は不明、と言う話でしたからもしかすれば噂だけなのかも知れませんね」
そして歩く事暫し、今までの山道と違って比較的に木々が少ないその領域の中で歩きながらルーティがそれだけ言えば、秋緒が皆を促すと一先ず一団のまま辺りを伺いつつこの場の存在意義について勇へ問う彼女だったが、素っ気無く返って来た答えにミラとルーティは苦笑を浮かべながら禁域と呼ばれるその理由について推測するが‥‥それは途中、秋緒が発した声で遮られる。
「あら、石碑ね」
それは禁域のどの辺りに位置するか分からず、だが眼前には確かに秋緒が言うそれがあり、その岩塊を見て魔術師はぼやかずにはいられない。
「‥‥多いですねぇ、伊勢には」
「やはり、何かあるんでしょうか?」
「迂闊に触らない方がいい、今は他の所を探そう。もしかすれば宝具は山頂にあって此処には‥‥」
すると彼女に応じて騎士はそれへ触れようとするも、勇の静止によって寸ででその動きを止めれば最後の句はあえて口にしないがそれは察して秋緒、僅かに考え込んだ後に判断を下す。
「そうね、これが何なのかも分からないから‥‥一先ず、この場を巡るだけ巡ってみましょう」
しかしこの禁域ではその石碑以外、何も見付かる事はなかった‥‥その石碑がある理由すらも。
「しかし今回、忘年会だと思っていたのですがその実、お宝探しだったとはいやはや」
一方、別の山道から朝熊ヶ岳の頂上を目指していた弐班の一行は先を歩く雄司の、のんびりとしたペースと会話に合わせ、進んでいた。
「流石にこの状況じゃあ‥‥」
「余り力んで事に望んでもしょうがありませんから」
その話が一端にて苦笑を湛えつつもステラが応じればしかし、自身の歩調にペースは崩さず振り返っては穏やかな笑みを湛え言う彼へレイ。
「確かにそれも一理、そして忘年会をやりたかったのは此処だけの話だ」
「おぉ、やはり!」
何を言うかと思えば頷きながら同意して彼、自身の心の内を確かに告げると喜ぶ雄司ではあったが女性陣はただ苦笑を浮かべるだけ。
「‥‥どうやら、着いた様よ」
「初日の出、と言うには一週間近く早いのですけれど‥‥良い天気ですね」
しかしステラが嘆息を漏らすと同時、開ける視界を前にすれば前を歩いている彼らへ声を掛けるとやがて、セリアが言う様にその正面へ現れたのは蒼き空と今日は雲に隠れず輝いている太陽に‥‥それとは別の、太陽に比べれば微かではあったが間違いなく太陽とは違う光源を見付ければ、四人は慌てそれへ向けて駆け出すのだった。
●宝冠『日輪』
その日の夜、昨日と同じ家屋の内にて一行は思いの他あっさりと回収出来た宝具を目の当たりにする。
「何か肩透かしな感がしなくもないが、とにかく無事に見付かって良かったと喜ぶべきなのだろうな」
それを前、山中をくまなく歩いていたルクスがそう思うのは当然だったが、実の所‥‥頂上へ向かうに連れて空を舞う妖怪を幾度となく見掛けては身を潜め、時には見付かり掛けた事もあった事を弐班の面々は今、敢えてその事実を口にしない。
「そう言えば」
「ん?」
そんな折、レイの方を見ては口を開き言葉を発したのはルーティ。
「天照様の力の代弁である黒不知火と白焔、そして欠片である宝冠‥‥光臨武装が同様に人に扱えるものなら、何で性質を分けられたんでしょうね?」
「いや、話に寄れば宝具はあくまでも天照様自身のみが振るえる物らしい。力を付与しただけの霊刀とは異なり、正しく自身を分割した物が宝具。故に人が振るえる様には出来ていないと言う話だ」
「成程‥‥その宝具の力を持って、天照様は完全な天照様になると言う事ですか?」
その疑問とは、以前より数多く残されていずれも伊勢の手中にある天照大御神に深く纏わる霊刀と今回の宝具のその関連性についてだったが、いささかややこしいが故にそれをもう一度明確にすべく、聞いた話ではあったがレイが応じると改めて情報を整理し直したルーティは再度、確認すればそれには頷きだけ返す長。
「肝心要の第一歩。その名の通り、私達の行く先も照らしてくれます様に‥‥」
そして、それを受けたからこそハンナは珍しく真面目な面持ちにて今は姿のない神の代わりにそれへ祈りを織ると
「日輪は、冬を退ける太陽となるかも知れませんね」
「そうなって貰いたい物だ」
「どんな時でも日は昇る‥‥か。どうせならこれからも晴れやかな気持ちで見たいものだな」
レイが大事に抱えている宝冠に僅か、視線を走らせてミラが笑顔を綻ばせ言えば頷くルクスに蒼牙もまた同意して、暫し続く宝具捜索の任が今後も滞りなく進む様にと太陽を見つめ願うのだった。
とは言え、まだ始まって間もない宝具回収の任‥‥本当の苦難が待ち受けているのはむしろこれからである。
〜一時、終幕〜