【五節御神楽】天岩戸

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:12 G 41 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月25日〜09月06日

リプレイ公開日:2007年09月02日

●オープニング

●天岩戸近辺
 夜の影の中でそれらは影の中に潜み、天岩戸を眺めていた。
「良くもまぁ、あれだけ集まったものですね」
「‥‥今まで自身の内より来る衝動を耐えてきたのだ。鬱屈してしょうがなかったのも当然と言えば当然だろう」
「だよねー」
 その影が一つ、アドラメレクの言葉が端を切って辺りに響けばもう一つの影である焔摩天が囁き応じると三匹の妖孤が一匹もそれに同意する。
「さて、これからが本番ですよ」
「言われなくても分かっている‥‥」
「たっのしみだっな〜」
 それを受けてアドラメレクは果たして頭上に輝く月を見上げ言えば、素っ気無く答える天魔にしかし妖孤に至って陽気に鼻歌でも歌えば
「先ずはこの一戦、取る事さえ叶えば‥‥」
「楽になる筈ですよ、手筈通りに事が進んだ上で次の仕込みが大まかにでも済んでいるのであればね」
「‥‥問題はない」
 厳しい表情を湛えたままに焔摩天が呟くと、にこやかに頷いてアドラメレクは天魔を見やればそれは憮然な表情を湛えたままに応じるも
「ねーねー、今回は何をするのー?」
「‥‥話していなかったのですか、肝心要の役だと言うのに?」
「万が一の事を考えてだ」
「成程」
 その中で次に響いた三匹目の妖孤が問い掛けを聞けば悪魔が響かせた疑問へは焔摩天が淡々と答えると、それに納得すれば改めて場に居合わせる妖らへアドラメレクは月を見上げたまま、呼び掛けるのだった。
「それでは、最後の打ち合わせが済み次第‥‥早々に動くとしましょうか。あの方の為にも三つの鍵を揃えて、ね」

●斎宮、ざわめく
 伊勢は斎宮、残暑による熱気に包まれている中でその内部は騒然としていた‥‥それは闇槍が首領よりもたらされた、一つの報告からだった。
「天岩戸を中心に妖怪の群れが?」
「‥‥はい、しかも今までにない程の異常な数が」
 斎宮が中枢の斎王の間にて、その報を受けては斎王が祥子内親王は唐突な妖達の動きに訝り、眉根を顰めるも闇槍の首領は更にその状況へ補足を加えれば
「要石はこちらが既に抑えていると言うのに、どうしてかしら‥‥」
「先んじて、天岩戸だけでも押さえたいのか‥‥それとも他に狙いがあるか」
 万事抜かりない事だけを思い出し、疑問だけ膨らませれば推測を並べるレイ・ヴォルクスの話を聞いて斎王は暫し、視線を落とし考え込むも
「‥‥他には何かなかった?」
「アドラメレク、焔摩天、妖孤が三匹の存在も確認しました」
「その中枢まで動くか。本気、と言う訳か」
「‥‥参ったわね」
 考えてもキリがないからか、再び視線を上げては闇槍の首領へ他の報告がないか問うと‥‥果たして直後、彼の口から紡がれた答えはレイと斎王を呻かせる事になる。
「で、今回の件に関して闇槍としての意は?」
「斎宮の刃たる我ら、今回の件に関しては打って出る事で総意しております」
「‥‥それなら、こちらも総力で臨みましょう。問題は?」
 すると斎王はそれを受けて闇槍が持つ意を聞けば、返って来た答えにやがて応じるとレイを見つめる彼女。
「相手の真意が分からない以上はない、と言えんな‥‥しかし天岩戸を抑えられる訳にも行くまい」
「ならば、早急に各員へ打診を。レイも皆が来るまでの間で準備をなさい。優とルルイエは‥‥」
 その視線を受けて彼はボソリ、囁くが‥‥やがて自身の意を決するとそれよりすぐに場に介する一同へ指示を配する斎王だったが
「悪いが俺は此処に残る、天岩戸は勇とあいつ等で十分だろう」
「此処には天照様もいるのだけど、良いでしょう。でも、ある程度の指示だけは出しておきなさいな。そうね‥‥五節御神楽は遊撃を務めて貰いましょう」
「分かった、それだけは俺から伝えておこう」
 その中でレイは立ち上がればそれだけ言うと、これより臨む大きな戦い故にがら空きとなる斎宮の事を考えれば斎王はその意見を認めると五節御神楽の役割だけは告げれば頷く彼に
「‥‥皆の事だから下手に貴方が仕切るよりは良いのでしょうけどね」
「あぁ、問題ない」
 苦笑を湛えては呟く斎王へ向けた背はそのまま、レイは付き合いが短いにも拘らず断言すると間も無くして斎王の間を後にするのだった。

 そして再び天岩戸を巡る攻防戦がここに始まる、果たしてこの戦いが何を導く事となるか‥‥この時、それは誰にも分からなかった。

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 依頼目的:天岩戸近辺に現れた、多数の妖を闇槍や十種之陽光と協力して撃破せよ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:祥子内親王(同道せず)、矛村勇
 日数内訳:目的地まで五日(往復)、依頼実働期間は七日。
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●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

カノン・リュフトヒェン(ea9689

●リプレイ本文

●天岩戸
 天岩戸、妖らの群れに包囲される。
 唐突に起きたこの問題は至急、斎宮に届けられれば最近になって設立された戦闘に携わらない筈の巫女部隊『十種之陽光』までも借り出す決断を斎王が下せば、五節御神楽に属する冒険者も程無くして召集されるのは当然であった。
「天照様招来直後に動き出したか‥‥アドラメレク。そして焔摩天と妖狐」
 その渦中にこれより飛び込む五節御神楽が一人、天城月夜(ea0321)がその証である黒い衣を纏いながら呟けば、眼前にそびえる天岩戸を見上げ‥‥久しく見ない、仇敵を虚空の彼方に見て睨みつける。
「今までは、嵐の前の静けさだったのでしょうか」
「そうでしょうねぇ。あれだけの数の妖が今まで身を潜めていたとなると」
 未だ妖の動きが見えない中、着々と準備を進める五節御神楽の面々が一人であるセリア・アストライア(ea0364)が囁くとそれに応じ、肩を竦める神田雄司(ea6476)だったがその振る舞いの割に表情は固いまま。
「さて、此処からが正念場か‥‥」
「私達が闇を祓うのか、それとも飲み込まれるのか‥‥踏ん張らないといけませんね」
 それでも漸く、軍団として準備を終えた五節御神楽が毅然と居並ぶその光景を前に鋼蒼牙(ea3167)が刀を鞘ごと地に突き付け言えば、ルーティ・フィルファニア(ea0340)は不安を覚えながら‥‥それでも決意すると、頷く彼女に倣い首を縦に振るのは巨人の騎士がミラ・ダイモス(eb2064)。
「えぇ、そして間違いなく敵も本気です。故にこの一戦、決して思い通りにはさせません」
「でも何故今更、焔摩天やアドラメレクが数を『本命』にするか少し気になるけれど‥‥とにもかくにも放ってはおけないか」
「今は考える事よりも動く事が先決だ‥‥」
 敵には屈せぬと厳かな響きを持って断言すれば、しかしステラ・デュナミス(eb2099)の疑問が唐突に響く‥‥そんな疑問を抱くのもこの状況からすればまた当然ではあったが、それよりも先ずは眼前の事に集中すべく言い直すも直後、矛村優に釘を刺されれば彼女は苦笑だけ返す。
「どうやら焔摩天も居るみたいだけど‥‥安易な挑発に乗ったりしては駄目よ。今は天岩戸を守り、奴等の目論見を阻む事を第一に考えて。仇討ちはそれからでも遅くないわ」
「‥‥‥」
「納得出来ないなら‥‥仇を討つ前にまず、奴等に敗北感を味合わせてやると言う復讐の一環、そんな風にでも考えておきなさい」
 だがそんな彼へ神木秋緒(ea9150)が今度は釘を刺し返せば、押し黙る彼に嘆息を漏らし彼女は頬を掻いて、最後に一言だけ告げる‥‥だがそれと同時、唐突に場の空気が淀むと
「うーん‥‥何か色々と責任重大になってくね。でも、期待には応えないと駄目っしょ」
「あぁ、そうだな。斎王様の為にも‥‥」
 それを察しながらハンナ・プラトー(ea0606)はしかし、何時もと変わらない声音にて皆へと呼び掛ければルクス・シュラウヴェル(ea5001)が黒い衣靡かせ決意も固く応じると直後、響いたのは誰の声か。
「五節御神楽、動くぞ!」
 そしてその号令の後、天岩戸に蔓延りだした淀む空気の源より守るべきものを守るべくして五節御神楽はいよいよ、その全兵力を初めて戦場に投入するのだった。

●激戦 〜ただ、駆ける〜
 やがて始まる戦いは天岩戸のその全周を覆う妖や悪魔がその網を徐々に狭めてくる‥‥ものと思いきや、思っていたよりも統率は取れておらずちぐはぐなその包囲網に防衛する斎宮側の兵は皆、戸惑いを覚える。
 とは言え、その数は確かに多く気が抜ける筈はなく天岩戸が各所にて戦いは始まる。
「昨日の三日月は凄く細くて赤かったですよ」
 しかしその中、雄司が隊は戦場だけが独特に持ち得る雰囲気の中にも拘らず、安穏と話を交わしていた‥‥それは果たして、正しくもあるだろう。
「虫が鳴いていましたねぇ、もうそんな季節になりましたか」
 初めての大部隊として動く以上、いやが上にも戦場の空気が、これより赴くべき戦いが皆を押し潰すのだから‥‥だから、その刻が来るまでは。
「花札を憶えたのですよ、後で皆さんと‥‥」
 そして雄司が花札の話題を切り出せば‥‥その途中、場の空気が一変した事を察知して彼は立ち上がると部下達にも次いで静かに目配せだけで促せば
「守る為‥‥今はそれしか、出来ません。だからこそ‥‥神田抜刀隊、進め!」
 やがて眼前に現れた妖怪の群れを前に雄司は声高らかに告げれば、直後に十一本の刀が同時に抜き放たれると彼らは揃い、地を蹴った。

「何だか最近、個人で戦うよりも人を率いている事が多い気がします‥‥」
 その傍ら、珍しくもぼやいていたのは自身の隊名を『陽の盾』と定めたセリアだったが‥‥その声音の割、表情は至って厳しい物だった。
「貴様らにここを通させてなるか‥‥!」
 それもその筈、蒼牙が叫ぶ様に天岩戸へ迫らんと殺到する妖らの群れを塞き止めているのだから、自身気にせずとも内に留めている思いが漏れるのも止むを得ず‥‥しかし、セリアは率いる隊が専守防衛である事は常に念頭へ置いたまま、十人の兵を統率して妖らの流れを断ち切らんとする。
「良いか、これだけは覚えて置け‥‥細かい作戦とか色々あるだろうが突き詰めれば単純だ! 守るもん守って生き残れ!」
 そして蒼牙もまたその状況故に誰へともなく、叱咤するかの様に叫び放てば後方にて魔法での援護に専念するルーティの傍らにいる勇を見つめると
「一蓮托生、って勝手に決めましたから♪ なのでその背中は何とか、お護りしますからね?」
「‥‥勝手にしろ」
 相当に釘を刺されてか、大人しく彼女らの部隊警護に当たっている勇に尚も笑顔でルーティが語り掛けている光景が目に留まり、微かにこそ表情を綻ばせるが‥‥その刹那、視界の一端を横切った影は果たして焔摩天に酷似しており
「親玉が、来たか‥‥!」
「伊勢の人々の為にも、此処で必ず決着を着けます‥‥!」
 その影を視線だけで追いながら蒼牙が呻けば、セリアもその影が留まる中空を睨み据えては叫ぶと皆を呼ばんとするが‥‥それよりも早く、焔摩天と思われた影は更に空高くへと飛び上がり、やがてその姿を消す。
「可笑しい、ですね。私達を誘っているのでしょうか」
「それにしては決して戦況がこちらの不利に傾いている訳ではない。何か、考えがあるのなら敢えて乗る必要は‥‥」
 唐突なその行動を目前に果たして闘気を練り上げていた蒼牙が首を捻ればセリアも焔摩天と思われた影の、その行動を訝るが‥‥すぐにその行動に対して蒼牙が判断を下すと同時。
「ルーティさん、どうしましたか?」
 やはり突然に後方から魔法の援護が止めばそれを束ねているエルフの魔術師へ尋ねたセリアは直後、彼女の口から紡がれたその理由に身を震わせた。
「斎宮が‥‥」

「襲撃を、受けた様だ」
 果たしてその報は彼女らより遅れ、月夜達が天岩戸周辺に展開している部隊を支援する遊撃隊の元にももたらせる。
「一寸待って下さい、それでは‥‥」
「アドラメレクや焔摩天が向こうにいる可能性も十分考えられる。拙者らの目を欺く為、狐と入れ替わってな」
「‥‥参ったわね。確かに斎宮が落ちようものなら、かなりの痛手を被る事になるわね。まさか抱いていた不安の一つが的中するなんて」
 すれば直後、ミラの問い掛けを端に走る動揺‥‥応じる月夜にステラもまた額を押さえては呻くと、場の動きはそれから止まるが
「でも、それより何より今はそれ所じゃないって!」
 すぐに場に轟いた声の主はハンナのもので、珍しくもいきり立ち彼女は尚も言葉を続ける。
「それならそれで、早く此処を抑えれば良いだけの話!」
「‥‥それは事実ですね、変に私達が浮き足立っては回りにも影響を与えかねません。ならば此処は必ず死守しないと」
 するとそれを受けて早く天岩戸が今、置かれている状況を思い出した巨人の騎士が頷き応じては再び剣を掲げると
「成すべき事を成しましょう、私達が此処で、成さなければならない事を」
「そうでござるな、斎王様らの無事を信じて‥‥なっ!」
 ステラは深く溜息こそ付くが瞳に鋭い光を宿しては今、やらなければならない事を改めて場にいる皆へ言い聞かせるべく言葉紡ぐと、月夜も応じては圧され気味となっている目前の戦線へ切り込めば
「戦いに、綺麗も汚いもないが‥‥それでも斎王様の身に何かあれば、拙者は主らを絶対に許さぬぞぉっ!!」
「盾を前面に、その隙間から槍穂を突き出し敵を食い破れ!」
 今まで守り抜いてきた物を守ってきたからこそ、斎宮強襲に対して強い自制心を珍しく揺るがせ、怒りを露わにして刃を振るえば皆を守るべく盾を前面に掲げてはミラの隊が前面に出ては妖達を押し返さんと動き出すも‥‥増援にか、空からその場へ飛来せんとする妖らが現れこそするもそれを阻むのはステラ。
「私達を欺いた事、後で必ず後悔させてあげるわ」
 月夜とは違い、静かにながらも瞳すがめ怒りを前面に押し出しては空に蟠る群れを氷の嵐にて薙ぎ払うと
「ほら、私達も皆に続くぞー‥‥演奏会とかもやらなきゃいけないんだから、一人でも欠けたら駄目だからねっ」
 その光景の中でしかし発奮していたハンナは出遅れていたが、身に纏う黒き衣を靡かせては自身が率いている兵達に今度こそ、普段の調子で促せば最後にそれだけ告げると魔力に煌く、細身の剣を高く掲げては突撃を開始するのだった。

●その狙い
 天岩戸防衛戦は果たしてそれより、膠着状態へ移るが‥‥それでも数に勝る敵を考えれば十分に斎宮側は奮戦していると言えるだろう。
「天照様は?」
「太陽‥‥」
「本物で何よりです」
「‥‥そう簡単に、取って代わられるか」
 その中、敵の中にいるだろう妖孤の存在を警戒して合言葉を交わすのは雄司と勇。
 闇夜の中で応じる勇が黒不知火を鞘に納めたまま抜き放っては地へ翳すと、微笑む雄司に眉根を顰める彼だったが
「そう苛立たないで。機会はまだあるのだから、ね」
「親父の仇、だけじゃない。これ以上‥‥伊勢を奴らの思うままにはさせたくない、俺の命を賭しても」
 相変わらず辛辣な態度の彼を宥めるべく、秋緒が穏やかな声音を響かせるも‥‥それを受けて彼はボソリ、言の葉を紡げば初めてその真意を皆の前で告げるが
「殊勝な心構えだけど、自分一人で何でも背負い込まない事ね」
「神木殿が言われる通りだな。もう少し、自身の立場を‥‥」
 それを聞いて微笑を湛えながらも嘆息を漏らせば、ルクスもまた改めて彼へ釘を刺す事は忘れず言葉を織った、その時。
「よ、元気でやってるか?」
 唐突にその場に現れたのはまごう事無く、この場にいる筈のないレイ・ヴォルクスその人で‥‥それを知っているからこそ、その場に居合わせる皆は唖然とするも
「‥‥天照様は?」
「‥‥天津神?」
 取り敢えず、知っている筈のない答えに付いて尋ねてみれば‥‥やはり返って来た不正解に問い掛けた秋緒は長槍を振るえば、流石に慌て飛び退る偽物レイ。
「早速、尻尾を出したか」
「あれ、出てる?」
 その光景を前にルクスは瞳すがめ厳しい声音にて言葉発すれば、眼前の彼は姿を保ったままに自身の背後を何度か振り返ると、その様に改めて四人は絶句。
「‥‥貴方達の狙いは一体、何なのかしら?」
「勿論、鍵を揃える為だよっ!」
「黒不知火が鍵と言うならば、焔摩天に化けた方が良かったろうに」
「あ」
 それでも、秋緒は何とか喉を震わせてその真意を探らんと声を発するが応じて彼は果たして断言すれば、ルクスが紡いだ指摘には今更ながら呻くも
「流石にこっちは厳しいか」
「そう易々と思い通りに事は運ばせませんよ」
「ふーん、まぁ良いや。またいずれ、取りに来るからその時こそ‥‥」
「勇!」
「焔摩天へ伝えておけ‥‥伊雑宮が宮司の息子の矛村勇が必ず‥‥っ!」
 偽物レイはやがて肩を竦めればそれだけ言うと、太刀を掲げ応じる雄司に溜息と共に告げれば踵を返すが‥‥それより早く、狐に迫るのは黒不知火が所有者で、唐突なその行動を前に秋緒もすぐ地を蹴ればその中で彼は漆黒に染まる刃を偽物レイへ突き付け言う。
「だから、自重しなさいと」
「‥‥コワイヨコワイヨ」
 だがそれは最後まで響かず、秋緒が突き出した槍の石突にて激しく後頭部を穿たれ吹き飛ばされれば、つい手加減を忘れた事に顔を顰めながらも倒れる勇へ告げると眼前にてその光景を目の当たりにした狐は震え、しかし出来た隙にすぐ印を組めばその場より姿を消すと
「しかし、これは」
「まさかこう言った形で負傷者が出るとは思わなかったが」
「‥‥鍛え方が足りないのよ」
 場に残された五節御神楽は狐の動向を気にするよりも先、余程良い所に入ってか昏倒する勇を見つめ雄司とルクスが揃い呻けば、その所業を成した当の本人は鼻を鳴らすだけだった。

●戦、終わる 〜未だ付かぬ、決着〜
「何とか、天岩戸を守り切る事が出来ましたね‥‥」
「えぇ」
 果たして、そう呟いたのはルーティで久し振りに集った五節御神楽の面々は顔を合わせては天岩戸防衛を達して喜びを分かち合うも‥‥応じた雄司が響かせた明るき声音のその割、皆の表情は淀んでいた。
「ですがまんまとしてやられましたねぇ」
「斎宮は果たして今、どうなっているか‥‥」
 それでも声音を変えず頬を掻く彼にルクスは皆が淀んだ表情を湛えるその理由とは、斎宮襲撃が判明してから後の状況が分からない不安。
 予め斎宮へルーティが自身養っているユニコーンこそ送りテレパシーでの情報交換が行える状態ではあるのだが、襲撃から後の報告は途切れ途切れで詳細も分からなければ幾ら五節御神楽と言えど、不安を抱くのは止むを得ない事である。
「無事さ、きっと」
「アシュド殿とハニワナイトがいるからな」
「それに、レイさんと天照様もですね」
 だがそれでも、蒼牙が言葉少なくながらも断言すればルクスが事前に話をつけておいた魔術師が名と、その彼が造る新型の埴輪の名を言うとルーティも頷きながら心強き者らの名もその後、添えれば無理にでも漸く普段の表情を取り戻す皆。
「だから何を企んでいたって関係ない。そんなのは必ず潰してみせるから」
「あぁ、そうだな‥‥ともかく皆、ご苦労様だった。一時だけだが今は先ず少しだけでも、休もう」
 そしてその中、決然とハンナが今は見えぬ闇を見据える様に瞳に固い決意を宿し告げればルクスも彼女に応じこそするが‥‥すぐにその場へ腰を下せば調理の支度を始めながら彼女は斎宮の危機に気が逸っているだろう皆へ一つ、提案すると
「そして信じよう、斎宮にいる皆の無事を‥‥」
 何とか平静を保ったまま、祈りを織るのだった。

 未だ混迷が続く伊勢‥‥果たして綻びが生じた今より先の未来、何が待ち受けているのかは更に分からなくとも、必ずや明るき未来へ至る道を切り開くべく彼らの戦いは未だ続く。
 果たして五節御神楽が伊勢へもたらすものは‥‥?

 〜一時、終幕〜