【女装盗賊団】決着の刻・上

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:9〜15lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 85 C

参加人数:11人

サポート参加人数:8人

冒険期間:09月28日〜10月06日

リプレイ公開日:2006年10月06日

●オープニング

●築かれた城砦
 時を遡る事、今より一週間前‥‥伊勢にある、何処かの山の中腹辺り。
「何とか出来た様だねぇ」
「えぇ、お陰様で」
 煌びやかな着物を纏い微笑む『姐さん』に、柔らかな微笑を湛えて返したのは女装盗賊団『華倶夜』が誇る最強の部隊とも目されている『戟戦(げきせん)』の頭。
 しかしその名前とは裏腹に、今までのどの部隊よりも華麗にて美麗な彼の立ち姿は辺りの無骨な光景にそぐわず、異質過ぎる。
「まぁ、この出来なら暫くの時間稼ぎには十分かね」
「仮拵え故、穴はあるかと思いますが‥‥それも随時、補強していきますよ。尤も崖の辺りは流石に無理でしょうし、いずれ引き払う事になるのなら必要以上の補強は行ないませんが」
「まぁそれはしょうがないでしょう、じゃあこっちは任せたからね。けれど無理をする必要はないから」
「はい、お任せ下さい」
 だが、それ故に信頼しているのか『姐さん』は彼の対応と、その城砦の出来栄えに一先ず満足すれば彼の返事に頷いた後に踵を返す。
「とは言え、あいつらが相手となればもう一工夫しておく必要があるかね」
 しかし、これだけではまだ策が足りないと考える『姐さん』は右の親指の爪を噛みながら思考の渦に飲まれるもやがて、一つの案を閃いた。
「‥‥『あれ』も使うか。『戟戦』だけでも十分だろうけど今まで散々馬鹿にされた分、あいつらには吠え面をかかせないとあたしの気が済まないし」
 すれば次には満足げに微笑み、いずれ引き払う事になるだろう住まいを見上げて呟いた。
「この『華倶夜』、真骨頂はこれからだからね‥‥」

●引導を渡すべく
 そして刻は今へ戻り、京都の冒険者ギルド。
「度々こんな依頼で申し訳ないが‥‥」
「しょうがないでしょう、少なからず伊勢が頭を抱えている案件の一つなのですから‥‥」
『はぁ‥‥』
 そこへ足を運んでは呻く様に呟きながら久々に依頼を願い出ていたのは伊勢藩主、藤堂守也。
 その表情は少なからず淀んでいたが、今回の依頼内容を簡潔にではあったが聞いたギルド員は彼の心情を察し、宥めるも‥‥二人の口から次いで漏れたのは嘆息だった。
「とにかく、だ。今回を持って奴らには引導を渡す‥‥と言いたい所なのだが」
「だが?」
「恐らく時間稼ぎの為だろう、私達が間を空けていたその隙に根拠地へと至る道を塞ぐ形で山に砦を拵えてしまってな。どうにも一筋縄では行かなくなった」
 だがそれで気を落ち着けたのか、守也が口を開けば次には今回の依頼に対して問題としている懸念事項を告げるとギルド員。
「と言う事は、今回はまずその砦を? 厄介ですね‥‥」
「そうだな、他に方法も時間もない故に強引ではあるが力押しで行く。奴らの思う壺だと言う事は分かっているが、今となっては乗るしかあるまい」
 頷く伊勢藩主の様子から核心を突いた事を察し彼は表情を歪めれば、その意を汲んで尚頷きながら守也は苦々しい表情を湛えるも
「皆には今回は極力早く、砦の機能を潰し突破して根拠地にまで辿り着ける道を作って欲しい。奴らが何時あそこを引き払うか分からない為、短期に決着をつける為に。だからこそ奴らとの戦闘経験がある冒険者の皆に声を掛けた訳だ。勿論、伊勢の藩士達も動かす。次に備えて経験を蓄積しておかねばならないし、状況によっては冒険者だけでは人手が足りなくなる事もあるだろう。今はまだ、三十人程度と余り多く人手が割けないが好きに使ってくれ」
「なるほど、分かりました」
「それともう一つ、砦の近くに村があって多少なりとも被害を被っているらしい。申し訳ないが可能であればそちらも状況だけ、見て来て貰えないだろうか。後日、別働隊を向わせるつもりだが‥‥それまで捨ててはおけん」
 話はそれだけに留まらず、詳細な要求を告げて肩を落とすと再び頷いたギルド員へ今度は申し訳なさげに、もう一つの要求事項を強制こそしなかったが付け加えれば守也は再び溜息を付いて、本音を零すのだった。
「これに関してはもう、決着を付けたい‥‥他に抱えている案件から私は今回、同道出来ないが宜しく頼む」

――――――――――――――――――――
 依頼目的:女装盗賊団『華倶羅』の根拠地周辺に建造された、砦の機能を潰し突破せよ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:無し
 日数内訳:移動六日(往復)、依頼実働期間は二日。
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●今回の参加者

 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2155 ロレッタ・カーヴィンス(29歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4329 李 明華(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)

●サポート参加者

天城 月夜(ea0321)/ ユーディス・レクベル(ea0425)/ エルネスト・ナルセス(ea6004)/ エリーヌ・フレイア(ea7950)/ ガイエル・サンドゥーラ(ea8088)/ 鷹神 紫由莉(eb0524)/ 紗夢 紅蘭(eb3467)/ 寒桜 美咲(eb5541

●リプレイ本文

●溜息、再び
 京都、本日の天気は生憎と曇りがちで太陽はすっかりその中に隠れてしまっている。
 その薄暗い街中にある、冒険者ギルドの前に集うのは女装盗賊団『華倶夜』を討伐すべく彼らが居座る山へ出発を控える冒険者達ご一行。
 見送りの者を含めるとその総数は二十近く‥‥先に現地へ行っている伊勢藩士をも含めれば五十にまで膨れ上がる数を見れば、今回の依頼に対する伊勢藩の意気込みを察する事が出来る。
 とは言え、肝心な一行の表情はと言えば‥‥気だるげだったり、一様に渋面を浮かべていたり、かと言えば笑顔だったりと様々な事からこの依頼に抱く複雑な想いが分かる。
「‥‥噂に聞く女装盗賊団とは、どの様な者なのか‥‥多少楽しみではありますね‥‥」
「女装盗賊団。名を聞くだけで何故伊勢の藩主が真っ先に潰さねばと思う相手か分かります。余興ならともかく真面目に‥‥とは言え、まぁ変った方達の思考回路を思うだけ無駄ですか」
「まぁな。だが、あいつらの信念と情熱はある意味では馬鹿に出来ないぞ」
 そんな人山の中、紡いだ言葉の通りに初見となる女装盗賊団との邂逅を楽しみにする長寿院文淳(eb0711)が艶やかに微笑むと、渋面を浮かべる緋芽佐祐李(ea7197)が藩主の苦労を察して呻けば、『華倶夜』と長きに渡り戦って来た月代憐慈(ea2630)は扇子を掌で弄びながら唯一の長所を上げ、皆へ警告を一応告げる。
「しかし遂に拠点討伐か‥‥江戸からの輸送依頼からはや半年、思えば中々に長い付き合いだった‥‥もうあいつらの女装に軽く慣れた自分が怖いな」
「個人的にですが‥‥よく女性に間違われる身としては、『華倶夜』とは微妙にやり辛さがあるかも知れません‥‥、と言うか‥‥」
 そして改めて、今まで自身の記憶を思い出し‥‥佐祐李同様、顔を顰めると彼の発言に正直な自身の本音を告げてから文淳は辺りを見回して、次に紡ぐべき言の葉を探せば
「変装の腕ならそれなりに自信を持っているから、女装勝負なら受けて立つよ♪ けど僕の場合は可愛さで勝負!!」
「‥‥そう言う勝負なのですか?」
「うん、多分」
「まぁ何にせよ、私も微力ながらお手伝いさせて頂きますね」
「よろしくねー!」
 暫くして目に留まる、可愛らしい面立ち携える小さな忍びの草薙北斗(ea5414)としなやかで凛々しい立ち姿にてその彼と笑顔を浮かべ言葉に握手を交わす李明華(ea4329)の姿で、その二人を見て頷くと女性に間違われる事のある文淳は改めて言葉を紡ぐ。
「味方にもその様な方が居る様で‥‥」
「まぁ‥‥見なかった事にしよう」
「今に始まった事ではきっと、ないでしょうし」
「そうだな‥‥」
 すると生真面目故にこの一件に対して頭を抱える侍の滋藤柾鷹(ea0858)が呻くと、お嬢様らしい品のある笑顔を湛えるロレッタ・カーヴィンス(ea2155)が彼を宥めれば、柾鷹は何とか自身を納得させる。
「しかし、何処の国にも懲りない人はいるんですね‥‥」
「だからこそ、わたくし達がいる訳です。ですから今回も皆、協力し合い討伐を果たしましょう」
 だが、宥めた当人は緩やかな自身の思考の流れの中で今まで歩んできた道を思い出すと何を想ってだろう呟くが、小さな魔術師のエステラ・ナルセス(ea2387)に今度は宥められれば次に頷きだけ返すロレッタ。
 そして皆もまた、想いはそれぞれ違えどエステラの決意に頷く‥‥が。
「えぇ、じゃぱんのへいわのためにがんばりますわ」
「‥‥やる気なさそうねぇ」
「そんな事はないですわ、貴方程ではないにしろ人並み程度のやる気は持ち合わせているかと」
 『華倶夜』の面々に呆れるだけ呆れているのか、潤美夏(ea8214)が酷い棒読みで自身の決意を告げると肩を竦めるが、彼女とは逆に何処か邪まな笑みを湛えているミカエル・クライム(ea4675)の突っ込みは否定すると美夏、髭を撫でて再度自身の意気込みを口にする。
「さて、それでは時間も余りない事ですし現地へ赴きましょうか」
『いってらっしゃーい!』
 そんな様々な光景が見られる中で不意に雲の隙間から顔を出した眩しい太陽が皆を照らし付ければ、その高さから出立に近い時間だろうと察したエステラが皆へ呼び掛けると目的の山がある方を向いて一行は歩き出し、見送りの皆は依頼の成功を願って手を振るのだった。
「そう言えば、パラーリアさんは大丈夫かなぁ?」

 一方その頃、空高く伊勢に向けて飛翔する一羽の鳥あり‥‥尤も、高くを飛んでいる為に地上にいる人々は余り気にしていないが、実際の所は非常に獰猛なロック鳥だったりする。
 故にある程度の高度を保ち飛んでいるのだが、下手をすれば打ち落とされる可能性だってあるロック鳥の、その主人であるパラーリア・ゲラー(eb2257)はそれを認識した上で正しい判断を持ち巨鳥を駆っていた。
「うんうん。今日は調子良さそうだね、ちろちゃん♪」
 しかしながらその為、雲の中を突っ切る羽目となった彼女は大変な目に遭うも‥‥そんな様子は微塵も見せずに大柄な図体の割に可愛らしい名前である愛鳥を撫でれば、巨大な咆哮上げるちろちゃんに応えるべくパラーリアも高らかに叫んだ。
「よーっし、それじゃあ女装盗賊団さんをぎったぎたにするのだぁっ!」

●珍しく、謀略‥‥『華倶夜』編
 それより予定通り、女装盗賊団『華倶夜』が蔓延る山へ無事に辿り着いた一行はまず、伊勢藩主である藤堂守也から様子を見て来て欲しいと言われた村へ辿り着く。
「ここが守也殿の言っていた村か」
「確か、此処で伊勢の藩士の方々と合流する手筈でしたよね?」
「そうだが、姿が見えないな」
 対応可能だと言った一行に対して伊勢藩主、それならばと直前になって方針が変え三十人もの伊勢藩士との合流先をこの村に定め、先んじて到着している筈なのだが‥‥誰一人として姿は見えず、柾鷹とロレッタは揃い首を傾げて静かな村の様子に訝るも
「しかし聞いた話の割には至極普通ですわね」
「そう、かしら?」
 次に響いた美夏の、話とは違う村の様相に安堵するもミカエルは何処か納得が行かず、目を細める。
「なーんか、妙に臭うのよねぇ‥‥」
「あぁ、俺もだ」
 そして油断なく辺りを見回し不信感を露わにすれば、肩を竦めて憐慈が彼女に同意しつつ溜息を一つ付くと同時‥‥村人だろう者が一人、一行の前に現れるのだった。

「事の詳細、教えて貰えるでしょうか? 余り時間は割けませんが、少なからずあたし達だけでも出来る事をしていきたいので」
 それより暫く、此処までは一応早く辿り着いた事から空いた時間を用いて一行、明華の提案もあって村長の元を尋ねれば今は村の状況を聞いているのだが
「奴らはいきなり現れると女性物の着物ばかりを奪っていきまして‥‥初めてだったとは言え、被害がそれだけだったからこそ逆にこちらは困惑を覚えるだけでして」
 淡々と、簡潔に彼女の問いへ答える村長の何気ない仕草に違和感を覚えた憐慈は彼の話が終わった後、言葉にて切り込んだ。
「しかしその格好、そんな役柄だと疲れないか?」
「な、何の事ですか?」
「えーと‥‥それ、貸して」
「なるほど」
 すれば一瞬、言葉に詰まる村長の狼狽を見逃さずに今度はミカエル。
 暫く辺りを見回して巫女装束を持っていた筈の憐慈へ問えば、納得して彼は白き衣をミカエルへ渡す。
「ありがとう‥‥さて、村長さん。これを踏んで貰えないかしら?」
 その早い対応に感謝すると次にミカエルはそれを村長の目の前へ放り、何とも容易い一件を彼に行う様、促すが村長は微動だにしなかった‥‥いや、正確には微動すら出来なかった。
「‥‥俺には踏めんっ!」
「正体見たり、ね」
「ミカエル殿‥‥どう言う、事でしょう?」
「『華倶夜』の連中、って事よ。下手すれば今、村にいる人全員ね」
「あらあらまぁまぁ」
 不意に村長は叫ぶと、その答えを聞いて微笑むミカエルは長く伸びた金髪を掻き揚げるも、話に付いていけない者もいる訳で‥‥先までは礼儀正しく正座を組んでいた文淳が僅かに腰を上げて彼女へ問えば、返って来た答えを聞けば彼とエステラは初めて見た女装盗賊団の、先ずありえないだろう普通の格好に驚くと
「今回の任務に当たり、女装の出来ない貧乏くじを引いて‥‥それでも耐え忍んだ俺の、俺達の努力を返せぇっ!」
「そんなことはしらないですわ」
 二人の内心を察したのか、村長こと『華倶夜』の一人が八つ当たり気味にわめき立てるも出発当初より変わらない、気だるげな態度で臨む美夏がばっさり切り捨てればその口撃を前に偽村長は思い切り顔を顰めるが
「ともかく、人様に迷惑をかけるなんて‥‥いけませんわ。お仕置きが必要ですわね」
「それはこちらの台詞だぁっ!」
 そんな事は全く気に留めず、エステラが冷笑湛え言い放てば『華倶夜』もまた一行に応じると因縁の戦い、その初戦は思いもよらない所で幕を開けた。

 それから、十分過ぎる程の時間を要して一行は村にはびこる『華倶夜』の一団を屠り終える。
「飛んだ手間を取ってしまいましたね」
「全くだねー」
 日は既に沈み、予定していた砦の偵察に遅れが生じた事から佐祐李が嘆息交じりに呟けば、慌しく偵察の準備を整えている北斗も同意して頷くと、急いでいるとは言え長期に渡り捕まっていた村人達と伊勢藩士達を心配し、そちらへ視線を向ける。
「済まなかった、まさか村ごと奴等と入れ替わっているとは知らず‥‥寝入った所をガツンと」
「しょうがありません、あたし達も気付かなかったのですからそう気に病まず」
「そうそう、これからしっかり働いて貰えれば十分だしね」
 その伊勢藩士達、隊長格だろう人物が一行へ事の次第を簡潔に話し詫びるもそれは一行においても同様であり、何とか明るい声音を捻り出して明華が彼を宥めればミカエルも続き微笑み掛けるとここで漸く彼も頷けば、やっと状況が落ち着いた事を察して柾鷹が皆へ的確な指示を出す。
「とりあえず、砦を偵察に行く者以外は急ぎ陣の設営を手伝おう。パラーリア殿も待っている筈でござろう」
「後、村人達も長い間捕まっていたからせめて炊き出し位‥‥ね」
「そうですわね、私も手伝いますわ」
「‥‥そうだったな、済まないがそちらは宜しく頼むでござる」
 も、彼の指示に明華が捕捉すれば美夏も己の手を掲げると柾鷹は失念を詫び、改めて二人へその件を願い出れば、笑顔を湛える料理人達は頷いた後に駆け出した。

「おっそーい!」
「ごめんなさい‥‥少し、村で一悶着があって‥‥」
「ぶー」
「所で、砦の様子はどうだったのでしょう?」
「あ、うん‥‥えーっと、こんな感じだったよ」
 と言う事でまた間を置いて、村に残り炊き出しに臨む明華と美夏と、遅れて偵察に出立した北斗と佐祐李を除いた一行は伊勢藩士共々、陣の設営予定地へと来れば巨大なロック鳥を背に従えるパラーリアの不満げな声を聞かされる事となれば、文淳が丁寧に詫びるも尚不満そうに彼女は頬を膨らますがマイペースが身上のロレッタに笑顔で問われればパラの彼女、一先ずは問われたままに自身が調べた砦の概要を皆へ告げる。
「‥‥ここまで調査出来たのですか、流石です」
「え、えへへ〜。そんな事ないよ〜☆」
 すると、大雑把な内容ではあるが肝心な所はしっかり抑えてある情報に感心して感嘆の声を上げるロレッタに今度は頬を朱に染め、照れるパラーリア。
 すれば一先ず、断片とは言え確かな情報が手に入った事から場にいる皆の気が上がれば次には急ぎ、陣の設営に取り掛かるも
「‥‥さて、それではやられた分をやり返しに行くとするかな」
 その光景を見て安堵した憐慈は一人、ボソリと呟いて森の中‥‥砦の方へと向けて歩き出してはその姿を消した。

●珍しくなく、謀略? 冒険者編
 砦を前に夜通し、小さきながらも陣を張る伊勢藩士達の中‥‥明け方頃になってからミカエルの姿が見受けられた。
「‥‥やっぱり其れなりに数が居れば更に良いわよね〜?」
「な、何か?」
「貴方は‥‥見込みありそうね、はい」
「これで、一体何を」
「勿論、着て貰うのよ。あ、そこの貴方も」
 何かを選別するかの様に彷徨わせる瞳と漏らした呟きを捉えた一人の志士が嫌な予感を拭えずに恐る恐る尋ねれば、彼女より託された女性物の着物をつい受け取るも着物と彼女を見比べて、彼女へ再び尋ねると事も無げにミカエルは答えながら別の志士も捕まえて、同様に着物を渡せば腑に落ちない彼らは更に彼女へ問い掛ける。
「何故、こんな事をするのですか」
「これも全ては女装盗賊団『華倶夜』討伐の為に重要な事よっ!」
『ぇー』
「‥‥うるさい、口答えしない、全ては伊勢の為なんだから! と言う事で続いてはい! 『全ては伊勢の為に!』」
 するとその(ミカエルにとっての)愚問へ決然と言い放てば、当然ながら藩士達から上がる不満の声に彼女は遂に叫ぶと、切り札を切られてしまった事から彼らは呻く事しか出来なかった。
「あー、お帰りー!」
「何か、楽しくなって来たね♪」
「‥‥そうなのだろうか」
 そんな、ミカエルの叱咤に伊勢藩士達の雄叫びが場に轟く中で出撃を前、ちろちゃんの世話を余念なくこなすパラーリアは己が視界の片隅に忍者の二人を捉えれば、手を振り彼女らを労うと‥‥僅かずつ様相を変えている場の雰囲気を察して北斗は満面の笑みを湛え言うが、伊勢藩と一行の橋渡しにと辺りを駆けずり回っていた柾鷹は彼の発言に渋面を浮かべる。
「それでは相談を始めてしまいましょう、余り時間もありませんし」
 だが生真面目な侍を宥める様、エステラが的を射た提案を紡いで皆を集めれば限られている時間を有効に使うべく、最後の相談を始めた。
 一人面子が足りない事に気付きながら、しかしそれは気にせずに。

 それより時を前、鴉が鳴き始める夕刻頃‥‥『華倶夜』が建造した砦にて僅かだが、動きがあった。
「よくもまぁ、一人でのこのことおいで下さいましたね」
「だからこそ、だろう」
 侵入者を捕らえた、と言う話を部下より聞いて『戟戦』の頭はその人物‥‥今は市女笠を被り、巫女装束に身を纏う月代憐慈と向き合えば、皮肉を込めて彼を労うも淡々とした調子で返されれば、それでもたおやかな笑みを浮かべ腰に挿す、刀を抜いては突き付けて問う。
「一体何用ですか、私達を倒しに来た‥‥のであれば、遠慮なくここで切り捨てますが?」
「一つ、頼みたい事があって来た‥‥俺を『華倶夜』に入れてくれ」
「‥‥?」
「俺は今まで貴殿らと半年にも渡って争ってきたが、その度に貴殿らの一つのものに対する揺ぎ無い信念と障害を越えてでも事を成し遂げんとする情熱に心打たれ続けてきた。勿論これまで俺が貴殿らの仲間にしてきた事は決して許される事ではない‥‥だがあれも全て冒険者の立場故にした事。ならば今一度! 今一度だけ、俺に機会をくれないだろうか!?」
 だが憐慈より返って来た驚くべき答えを聞けば彼、その真意を今は測れずに静かに佇んだまま首を傾げると弁明の余地を与えられた風の志士は厳かに口を開き、自身の意を真剣な面持ち保ち紡げばやがて真っ直ぐな瞳を『戟戦』の頭へ向けると遂には声高に叫び、願い出たが
「やだぷー」
「‥‥」
 即決即断、僅かな間すら置かずに答える彼の‥‥答え方はさて置いて、早々と切り伏せられるも憐慈は真っ直ぐな瞳の光は揺るがせない。
「そんな目で見ても、嫌なものは嫌です」
 そして暫く、同じやり取りが繰り返される事となれば‥‥二人の間に漂う微妙な空気の中でやがて、根負けしたのは『戟戦』の頭。
「‥‥しょうがないですね、これきりですよ?」
 その答えに対して憐慈は応と一度だけ頷くと一つ、提案をするのだった。
「助かる‥‥なら、その代わりと言うのもあれだろうが舞を一差し、舞わせて貰えないか?」

 尤も、この判断が間違いだった事に『戟戦』の面々はもう暫くは気付かなかった。

●宴が始まる
 そして日は変わり二日目。
 今にも泣き出しそうな空の下で一行は偵察部隊が得た、精密かつ正確な情報を元に敵の人員把握を終えると人数だけなら『華倶夜』との差が殆どない事と、残る時間のなさから考えていた作戦を早く動かすが
「出立する、伊勢藩士の心意気を見せるんだ‥‥」
「‥‥ぉー」
 正面からの突撃、と見せ掛ける陽動班の大部分を占める伊勢藩士達の士気は何故か低かった‥‥と言うのも当然、彼らのその大よそ半数が『女装』しているのだから。
「女装盗賊団の誇りに賭け、にわか仕込みの女装伊勢藩士に負けてはいけませんっ!」
「はーい」
「く、屈辱だ」
 その光景を目の当たりにした『華倶夜』が自信を持って送る美麗女装部隊『戟戦』は最初こそ戸惑い、目を見張るが‥‥多少の時間を経れば自身らが持つ誇りから彼らとは逆に益々士気を上げて襲い来る。
「隊長〜」
「な、情けない声を出すな。士気に関わる‥‥」
「誰のせいで貴方達が女装しているか、分かる?」
「それは‥‥」
「そう、正解。ならその嘆きと怒りを向けるべき矛先は‥‥」
「頑張って下さいね」
 すれば浮き足立つのは彼ら、伊勢の藩士達であり動揺の声があちこちで響く様になれば戦端はじりじりと後退を始めるも、彼らを女装する様に仕向けた張本人であるミカエルが紅蓮を各所へ放り、『戟戦』を牽制しながら陽動班を取り仕切る伊勢藩士の隊長格へ声を掛ければ改めて『戟戦』を見やる彼らへ頷き微笑むと、女装『させられた』藩士達‥‥目付きを鋭くして彼らを暗き炎宿した瞳で睨み据えれば、その光景に微笑んでいたロレッタが最後にそっと彼らの背を押した。

 と言う事で、それより暫く。
「‥‥右翼、薄いぞっ! 一気に突っ込め!」
 果たしてミカエルの行動は功を成し、伊勢藩士達は憎悪の塊と化せば怒りを向ける矛先である『戟戦』と再びぶつかり、戦線を再度押し込んでいく。
「うわぁ、凄いやる気だなぁ」
「さて、私達も負けない様に行きましょうか」
 盛り返してきた陽動班の奮戦を目に、北斗が笑顔で感心すれば漸く状況が好転した事に安堵して佐祐李は砦への潜入班へ声を掛けると、少数ながらも一陣が動き出せば陽動班と行動を共にする一行も伊勢藩士達の意気に当てられて、益々持って疾く戦場を駆け抜ける。
「その装束、頂きますよ」
「この衣装、欲しいんですか? でも、あげません。あたしも着てますし‥‥キミには勿体無いです」
 その中で明華は身に纏う巫女装束故に『戟戦』の面々と次々に接敵するが、その度に杖を振るってはそれをフェイントに、本命の蹴りを放ってはもう何人目かの敵を屠る‥‥とは言え、『戟戦』も決して侮れる相手ではない。
「‥‥中々、やりますね」
「えぇ。ですが巫女服とか海女服とか女物の服は着られるのに、頭の方は全く持って切れないお馬鹿に負ける訳には行きませんのですわ」
 巫女装束が少しずつ汚れていく中で息を整えながら明華は嘆息を漏らすと、その意見に同意して美夏もまた適度に敵と距離を取りながら交戦しつつ彼らを煽りながら頷けばその時、戦闘が始まってより渋面を湛えたままの柾鷹の声が響く。
「道が開けた、まだ砦内部の無力化は完全に出来ていない様だが此処は拙者らが引き受ける故、先へ進むがいい」
「柾鷹殿は‥‥行かないの、ですか?」
「これ以上は遠慮被るでござる」
「それでは私達は遠慮なく、行って来ますね」
 その彼へ尋ねる、錫杖振るいて『戟戦』をあしらいながら砦上部より飛来する敵が放った魔法に応じて印を組む文淳へ柾鷹は頭を左右に振ると、魔法戦の様相となりつつある戦場の中で愛馬より降りたロレッタは彼の答えに苦笑を湛えながら、依頼を果たすべく一行の先陣を切って砦の中へ駆け込んでいった。

「意外に粘るが、それが数少ない取り柄の一つだったな」
 一方の砦内部‥・・一行を造反したかの様に思われていた憐慈は一人、砦内部のあちこちを走り回っては潜入班の手引きをし、砦内部からの瓦解に勤めていた。
 実の所、憐慈は『華倶夜』に寝返った振りをして砦内部から切り崩すべく一行を招き入れる為、『華倶夜』内部に単身で潜入すると言う危険な役を演じていただけで、寝返ろうなんて事は毛程にも思っていなかった‥‥筈。
「さて、ここで最後‥‥」
 『華倶夜』に取り入る直前、佐祐李と北斗から聞いた話と進入するルートを確実に穿ち道を作るも、その最後の道を作ろうとした時。
「やはり、謀ったのね‥‥」
「薄々でも感づいていたのなら、入れるなよな」
「‥‥貴方の言葉、信じていたのにっ!」
「まぁ、事実も言ったからな」
「え?」
「情熱や信念が凄いと思ってはいたさ、敵ながらに」
 『戟戦』の頭領にそれを見咎められれば、事情の大よそを早く察して彼は静かに言葉を紡ぐも事実を述べた憐慈に返すべき言葉は見当たらずに呻き、本音を真っ直ぐに憐慈へ告げればその次に彼から返って来た答えを聞くと、驚くのは対峙する彼。
 嘘を信じて貰うには一片だけでも真実を織り交ぜるのが有効である、とはよく言ったものである。
「もう少し出会い方が違っていたら、旨い酒でも飲めたのかもな」
「そうね‥‥」
 ともかく、自身も学びたいと思った『華倶夜』の長所を憐慈が上げれば整った面立ちにある長い睫を伏せて彼の意に同意する『戟戦』頭領だったが丁度その時、砦内部に駆け込んで来た一行と出くわせば途端に場は色々な意味で硬直する。
「‥‥修羅場、ですか? お邪魔なのでしたら、出直しますが‥‥」
「‥‥待てよ」
「戦場で芽吹く恋。でもそれはお互いが敵であるが故に許されず、運命に翻弄される二人‥‥可哀想ですわ」
「だから待て、相手は女装しているだけで男だからそんな気は毛頭ないぞ」
 そして暫しの間を置くも、その間をこじ開けた文淳が躊躇いがちな声音を響かせれば憐慈は次いで、呻くも誤解は解けないまま妄想を走らせるロレッタが加われば、何処か羨ましげに二人を見比べる彼女へ先より語調を強めて憐慈は否定の句を紡ぐ。
「まぁがんばってください、ということで」
「何だそのやる気なさげな棒読み口調の応援は‥‥と言うかそんな応援はいらん!」
『残念』
 だがその彼へ、どうでもいいと言った様相で生返事をする美夏へは最初こそ風の志士は彼女のやる気のなさを突っ込むも、ふと肝心な事に気付き声高に叫ぶが次いで場にいる面子から一斉に残念がられると彼は苦悶の表情を浮かべる。
「‥‥無視しないでくれますか?」
「ごめんなさいですわ」
 その、突如として繰り広げられる光景の中で取り残されてしまった『戟戦』頭領は静かに、自身の存在をアピールすると漸く思い出してか美夏はご丁寧に(やはり棒読みで)詫びると嘆息を漏らしながらも彼はたおやかに微笑んで口を開く。
「とにかく‥‥私達は世界中にある名高き衣を全て揃え、五つの願いを叶えるべく今も、これからも全てを敵にしても進み続け、そしていずれは女装を極める! 故に私達の邪魔をする方は問答無用に此処で、散って頂きます」
 ‥‥内容こそ確かにあれだが、憐慈が先に言った通りに己が意思を、信念を変えず貫く事を決意すればいよいよ腰に挿していた二本の刀を抜き放つ。
「ならばいい加減、決着を着けようか」
「‥‥そうですね」
 すればその決意に応じ、憐慈もまた短刀を抜いて真剣な面持ちを湛えたままに言うと『戟戦』頭領が答えた後に沈黙が場を包めば‥‥何時か、砦が揺れて土壁が地に落ち乾いた音を立てると同時に場に介する面々は一斉、地を蹴った。

「あたしが手繰る、猛る紅蓮‥‥この力、存分に発揮させて貰うわよっ!」
 その最中、砦の外部に残る一行と伊勢藩士達は内部にて混乱を招く潜入班と確かな連携を取って、その牙城を僅かずつ切り崩し炎上させていた。
「あ゛ー! 服が燃えていまーっす!」
「は、は、は、早く消しなさいっ!」
 さて内部、そう多くないとは言え彼らにとっては重要である女性物の衣服が紅蓮に包まれれば『戟戦』の内部防衛を司る、少ない人員はその消火に躍起となるのは当然か。
「向こうの倉庫にあった着物は全焼です〜!」
「何ですってー!」
「あっちの倉庫は小火が‥‥っ!」
「皆はこちらを‥‥私が向こうへ行きます、人手が足りない所は何処ですか?」
「こっちだよー‥‥けれどお疲れ様だよね、ここで休んだらどうかな?」
「へ?」
 そしてそれはあちこちへ飛び火すると、怒号だけが響く内部はいよいよ持って混乱の極地に至るも、彼らを統べる長はまだ冷静で近くにいた若き部下へ問えば踵を返す彼を追うも‥‥部下の唐突な提案を耳にすれば彼は間抜けな声を上げると同時、頭部を襲う突然の衝撃に昏倒した。
「よっし、終わりっ」
「向こうも何とか寝て貰えたので、中はこれでお終いの様ですね」
 その彼を打ち倒した部下‥‥ではなく、人遁の術で部下の姿を模っていただけの北斗が殴った方の手を振りながら、それでも自身の役を全うした事に満足して頷くと狭い通路の向こうより衣服が眠る倉庫に火をつけた犯人である佐祐李も姿を現すと、砦内部は一先ず鎮圧出来ただろう事から安堵して彼へ微笑みかける。
「意外に少なかったなぁ‥‥ひゃ!」
「避難、しましょうか」
「そうだね、黒星ー! 行くよっ」
 すると北斗、彼女に応じ頷きながらも思っていたより敵が少なかった事に少々残念がるが直後‥‥自身のすぐ脇に雷が落ちてくればその場で飛び上がると、外の侵攻もそろそろ終わりに近いと察した佐祐李は彼を促し急いで砦から脱出を図った。

「それ以上はさせません!」
「あら、いい感じね。でも‥‥」
「墜つるは閃光、砕くは万物‥‥疾く迸れ、雷神の槌!」
「ぴぎゃー!」
 その外では確かに佐祐李が思っていた通り、終幕に向けて一行と伊勢藩士達がひたすら『戟戦』の面々を打ち倒していた‥‥が同志達が続々と打ち倒されていく中でも未だ息を強く吐く者はおり、ミカエルは感心して微笑を浮かべるが直後に響いたエステラの詠唱とその後に轟く雷撃を彼は全身に受ければ、煙を立ち上らせて地に倒れ伏す。
「これぞ夫の午前様に怒り狂う妻の怒り‥‥正しくその縮図」
「明らかに、それを超えて‥‥いるかと」
「そんな事はないですよ、これだから‥‥ふっ」
 その彼を見据え、決然とした面持ちで告げる彼女はそれでも言葉だけで抵抗を試みる彼へ容赦なく冷笑を浴びせ、黙らせる。
「今の内に言っておくわ。冒険者には『ど〜考えても女の子にしか見えない男の子』って結構居るからね〜、そう言う人達に比べれば‥‥『華倶羅』もまだまだ、よね。精進しなさい」
「精進精進♪」
「‥‥がく」
 すると彼女の後を継いでミカエルは彼を見下した、一言だけ告げればパラーリアからも追い討ちを貰った彼はいよいよ力尽きる。
「漸く抵抗も止んだか、それならば砦を壊す事にしよう」
「よぉーっし! 咆えろっ、ちろちゃーん! 砦を潰しちゃえー!」
 そして漸く『戟戦』の輩がいない事に気付けば、何時もの平静な表情を取り戻した柾鷹は刀を鞘に納めると今度は槌を手にして皆へ最後の指示を下せば今まで以上に張り切るパラーリアが叫ぶと獰猛な巨鳥はその主命に従うべく、幾人もの『戟戦』を打ち倒したその爪を、嘴を砦へと打ち付け始めた。

 同じ刻、砦より『戟戦』の全員を引きずり出した残りの一行はその光景を目の当たりにして、依頼を無事に達成出来ただろう事に安堵を覚えていた。
「‥‥ち、ちょっと待ってよ。何よあれ!」
「鳥ですわ」
「あんな馬鹿でかい鳥がいるかぁ!」
「‥‥分類上、ロック鳥も鳥だと思いますが」
「屁理屈を‥‥」
 がロック鳥が暴れる様を見て驚きを露わにするのは『戟戦』頭領。
 続く美夏の簡潔な答えを聞けば、益々激昂してつい男言葉で叫ぶも文淳の適切且つ冷静な回答と、まだ暫くは続きそうな巨鳥の蹂躙劇は最早どうしようもないと察すれば、後はうな垂れる事しか出来ない彼。
「そもそも外見だけ女に見繕っても中身を繕わない時点で、貴方方の負けでしたわね。私は、中から外まで女性ですので」
「それを言われると‥‥どうしようもない訳で」
 そして肩を落とす『戟戦』頭領へ、次に彼らが勝てない理由を美夏が提示すれば彼は覆しようもない事に渋面を浮かべ、次いで崩れ落ちた。

 こうして、余裕のないギリギリの状況ではあったが何とか一行は砦の陥落を成功させるのだった。

●そびえる牙城
「‥‥それにしても」
「ん?」
 そして今では漸く一息を付いていた一行、縄で縛られあちこちに転がされている『華倶夜』の面々を見ながら唐突に嘆息を漏らす佐祐李。
「こんな所へ砦を作る能力や、その戦闘能力をどうして他に活かせないのでしょうか‥‥だから変った方達の思考回路は‥‥」
「そうだな」
 その嘆息は尤もで‥‥一行は全員が全員、同感だと強く思って頷くが
「そう遠くないのだな。とは言え守也殿の判断も賢明か、この調子では連戦も厳しかろう」
 その傍ら、溜息を堪えつつ崩れ落ちた砦の向こうに見える大振りな屋敷を視界に捉えて柾鷹は改めて周囲を見回し、女装にて精神的に疲弊し崩れ落ちている伊勢藩士達の様子に一人、他の面子とは違う面持ちを湛えれば再び砦の向こうを見やり、目を細めては踵を返した。
「一先ず此度は戻るとしよう。だが次に来る、その時こそ‥‥はぁ」
 結局の所はやはり、彼も溜息をつきながら。

 さてはて、次は果たしてどうなる事やら。

 〜一時、終幕〜