【女装盗賊団】外伝 〜更正のススメ〜

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 91 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月29日〜12月08日

リプレイ公開日:2006年12月08日

●オープニング

●伊勢藩主は考えた
 伊勢藩主、藤堂守也は己が屋敷にて漸く収束した一件‥‥女装盗賊団の処遇に付いて思案していた。
 京都で今再び乱が起きているからこそ、今後に備えるべく伊勢の内情を確かなものに固める為、真剣に。
「確かに切り捨てるは易し‥‥だが」
 普段であれば処断する事が至極当然であり、最初こそ彼もそのつもりではあったのだが
「彼らが言う事もまた一理、上手く扱える事が出来るのなら伊勢藩もこれから楽にはなろうが」
 女装盗賊団『華倶夜』を一網打尽にしただろうその日、助力して貰った冒険者達よりの懇願‥‥と言うと違うかも知れないが、とにかく外見こそあれだが有能だろう彼らへ寛大な配慮をすべきだとの旨を告げられては今、考えあぐねていた彼。
「生憎と私にはその自信はない」
 一人、部屋の中で自身だけの考えより一先ずの結論こそ呟くが‥‥今までに多大な協力をして貰った冒険者達の意見も蔑ろにする訳には行かず、出来ず、それ故に彼は筆を手に取るのだった。
「それならば‥‥」

 そして京都の冒険者ギルド、五条の反乱により内外問わずにごった返しては慌しいその中に一通の手紙が届けられる。
「送り主は‥‥伊勢藩主か、一体今の時期に何用だろうか」
 その手紙を飛脚より受け取り、訝るギルド員の青年だったが少なからず知られている伊勢の内情を思い出せば、一先ずその封を開けると中に入っていた文には丁寧な文字で以下の様に記されていた。
『先日は『華倶夜』討伐に協力して頂き、非常に感謝している。だがそれもまだ完全には解決しておらず‥‥今回はその件の後始末に付いて、貴殿らへ願い出るべく文を認めた』
「後始末‥‥?」
 先ず冒頭、机上に置いた手紙に視線を走らせながら墨の準備をする彼は一つの単語に引っ掛かりを覚え、首を傾げるがとりあえずは続きを読むべく瞳を再び左右へ動かす。
『本来であれば『華倶夜』の皆には相応の処罰を与えるつもりだったのだが‥‥冒険者の皆から受けた意見もあって私は踏み止まり、考えてみた。確かに話の通り、見方を変えれば『華倶夜』の面々はこの上なく有能であると判断出来る存在である』
「まぁ見かけこそあれだが、確かにな」
 次いで書かれている『華倶夜』の持ち得る能力に、今までの報告書をに記されていた様々な事を思い出しては頷いて、彼は筆を手に取りつつも更に先を読み解くと
『‥‥のだが今の状況を考えるに、この一件を伊勢藩が対応するのは非常に厳しい。京都への増援を派遣出来る程の余裕無く、伊勢の民を先ずは守るべく厳戒態勢を敷くだけで精一杯である事から彼らの更正に人手を割く程の人的余裕がある筈もない』
「それはそうだろう」
 その次は濁す様に認められていた伊勢藩主の書き様に、青年は同意して再び頷きながら今度は和紙を手にして藩主の手紙が隣に置けば、後は一気に最後まで読み進めて彼。
『とは言え何時までも彼らを投獄させて置く程の余裕もまたなく、それ以上に皆の意見を捨て置く訳には行かないだろうと判断した私は今回、皆に彼らの更正を頼みたいと思ったのだ。この案件が上手い方へ転べば伊勢が抱えている人的余裕もある程度は払拭されるだろうし、正直な所‥‥彼らを更正するにしても私達だけではどうしたものか、良き案が思い浮かばず。それ故に皆の協力を仰ぎたく思っている、京都の大事は未だに続いているが何卒宜しくお願いされたい』
「‥‥先を見据えての動きと考えておくべきだろうがさて、この状況では一体どうなる事か」
 此処で漸く顔を上げると‥‥先までと全く変わらない冒険者ギルドの慌しき光景に青年は果たして面子が集まるのか、不安になるのだった。

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 依頼目的:女装盗賊団『華倶夜』を更正させよ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに、防寒着もそろそろ必須な時期。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:藤堂守也(相談には乗るが同道はせず)、助っ人として十河小次郎の緊急招集は希望あらば対応の予定あり。
 日数内訳:移動四日(往復)、依頼実働期間は五日。
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●今回の参加者

 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4329 李 明華(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)

●サポート参加者

リオーレ・アズィーズ(ea0980)/ 逢莉笛 鈴那(ea6065

●リプレイ本文

●伊勢の未来の為に‥‥?
 此処は伊勢、藩主が住まう屋敷の門を前に予定の時刻よりやや遅れて訪ねる者が二人いた。
「さてさて、女装変態盗賊団『華倶夜』を壊滅させたのは良いですが‥‥」
「今度は女装軍団を更正ですか? 確かにあのエネルギーをもっと建設的な方向へ活かせられれば‥‥でも更正って」
 その二人、門前に立つ門兵より屋敷へ踏み入る事を許されれば藩主が待つ部屋へ伸びる回廊を歩くその途中、ドワーフ故に女性ながらも髭を伸ばしては背丈も低い潤美夏(ea8214)が隣を歩く自身より頭三つ分はきっと高いだろうジャイアントの緋芽佐祐李(ea7197)を見上げながら、今回の依頼を思い出しては呟き嘆息漏らすと巨人の彼女は美夏の後を継ぎ遠い目にて藩主の部屋へ至る襖を見つめ、首を傾げると
「難しい話ですわよね、まさか後始末もお仕事に入っていたとは考えていませんでしたわ。何故に伊勢藩は面倒ごとばかり私達に‥‥」
 髭を擦りながら何時もの毒舌を披露すれば佐祐李に苦笑をもたらすと同時、何気なく襖を開けると‥‥部屋の中にて二人の到着を待っていた伊勢藩主が藤堂守也と視線が合えば小さき彼女。
「こほん、人材が足りない様ですわね。まぁ乗りかかった船ですので、最後までやり通しますかね」
「しかし、事実ではあるな。それを言われると私としても痛い限りだ」
「とは言え、私達も今回の件を依頼と引き受けた以上はやり遂げなければなりませんから余り気にしないで下さい。で面子も揃ったのでそろそろ、本題に入りませんか?」
「‥‥そうだな」
 咳払いを一つ響かせ先の話を濁すかの様に改めて言葉を選び言い直すが、守也は渋面を浮かべたままで、だがその彼を李明華(ea4329)が傍らにて嗜めれば彼女の言葉に一先ず頷き応じる伊勢藩主は改めて一行を見回し言葉を紡ぐ。
「今回の件に際し、私に出来る事があれば先ずは遠慮なく言って貰いたい」
「とりあえず、小次郎殿を呼んで下さい」
「元教師の実力を発揮して貰わないと始まるものも始まらないわ」
「分かった、暫し待て」
 伊勢の今後を考えるからこそ自身も尽力すべく皆へ告げれば直後、真剣な面持ち携える月代憐慈(ea2630)の率直な要求が場に響けば続きミカエル・クライム(ea4675)も同意して微笑むと、伊勢藩主は一瞬の間すら置かず応と頷いた。

●更正のススメ
「誰が呼んだか、俺の名を‥‥つうか呼ぶな!」
 と言う事で、一行の最初が申し出に伊勢藩主が応じてより暫し‥‥皆が待つ部屋の襖を勢い良く開け放ち、最初こそテンション高く登場する十河小次郎は即座に『華倶夜』上層部も含む面々へ突っ込むも
「『華倶夜』と縁ある小次郎殿にお手伝い願うのは当然でござろう。まさか『俺には関係ない』と逃れようなどと考えてはおられまいな?」
「うっ」
 それを静かな声音にてあっさり流したのは真面目な侍、滋藤柾鷹(ea0858)。
 相変わらずの真剣な面持ちにて小次郎へ問い掛けると逆に彼が怯み、後ろへ一歩たたらを踏むが
「期待しているからねー、小次郎先生が本気を出せば皆きっと共感してくれる筈♪」
「っ、そう言われては」
 彼の逃げ道を遮るかの様、可愛らしい表情に笑顔湛えて草薙北斗(ea5414)が宥めると皆の視線を浴びている事に次いで気付けば、漸く腹を括ってその場に座する元先生。
「さて、それでは始めようか」
 すれば声を響かせる憐慈の呼び掛けにいよいよ始まる『華倶夜』上層部へのアタック‥‥とは言え、『華倶夜』を伊勢藩へ取り込む為の説得なのだが。
「‥‥つまりは伊勢藩へ助力しろ、って事かい?」
「まぁ、端的に言えばそうだな。今までと比べ、自由はなくなるが追われる事もなくなる」
「じゃあ先ず、あんたらの話から聞こうじゃないか」
 先ずは掻い摘んでの説明から入る憐慈に対し、真正面から彼に向き直る『姐さん』は先まで仰いでいた扇を閉じれば、一行を見回して囚われの身と同義である事から一先ず主導権を彼らへ託すと、最初に口を開いたのはミカエル。
「女装と言う事自体は全然問題無いと思うのよね。あたしも(他者を)趣味で(もて)遊んでいるし」
「そうだろうねぇ」
「でも、どんな事情でも悪事に手を染めた時点で負け。そして女装への侮辱よ」
「その通りです、故に先ずは女装をしても世間から後ろ指を差されない人になるべきかと」
 自らの事を肯定し、真直ぐに『姐さん』だけを見つめ言うと彼は破顔するも次には一行と『華倶夜』の相違点を紡げば途端、『女装』と言う単語を出されただけに渋面を浮かべる『姐さん』へ、しかし佐祐李も続けば
「自分達の考えばかりを押し通しているだけでは駄目です。現にこちらの小次郎氏、本人が幾ら女装好きでも皆が生暖かく見守るだけで、誰も何も言いませんよ。それ即ち、成すべき事を成しているからなのですから」
「‥‥褒められているのか、けなされているのか」
 閉じた扇で自身の掌を忙しなく叩く『姐さん』の視線に怯まず至極全うな事は言いながら、しかし彼女の口から吐いて出た例え話には肩を落とし呟く小次郎の様子を皆は気に止めず、話を続けるといよいよ憐慈が口を開く。
「‥‥俺達の申し出を拒否して罰を受ければ志を貫いた事にはなるのかも知れない。だが、そうなればあんた達の『道』はそこで途絶える」
「だから? まぁ仮に伊勢藩へ仕えるにしても私達は一体どう受け止めればいいのかね」
 深く彼らを知るからこそ、先日その口から出た話をしっかり織り交ぜ紡げば、僅かに表情を揺らがせながら‥‥それを隠そうと再び扇を開いて『姐さん』、口元を隠し問えば
「これは寄り道と思うといい。その寄り道でもしかしたら、あんたらをちゃんと見てくれる人が現れるかも知れない」
 憐慈は彼のその仕草を別段気にせず『姐さん』へ‥‥引いては『華倶夜』へ以前こそ宿敵だったからこそ、真摯な想いにて諭し掛けると自身の信条に反しているとは思いながら、その彼を見つめたまま今度は顔を綻ばせると
「何なら寄り道の間に俺達への敗因を考えてまた挑んで来てくれてもいいしな、女装勝負なら何度でも受けて立つぞ‥‥主に小次郎殿が」
「俺かよ」
「ふん、でもまぁ悪くない考えだねぇ。で、あんたらが望む事は?」
 呻く小次郎を尻目に、場の雰囲気が次に和めばその中で『姐さん』は口元こそ相変わらず隠したまま、しかし目尻だけ下げる彼が再び問えば一歩前進したにも拘らず佐祐李は厳しい声音を響かせる。
「盗賊を辞め伊勢藩に付き従う事と、周囲状況を考え女装する時と場所を考えて貰う事でしょうか」
 瞳には冷ややかな光を宿したまま顔を顰め言う彼女へ『姐さん』は表情だけで拒絶の意を示すも
「私が貴方方を甘いと言った一番の理由はそこです、もし分からなければ‥‥それはご自分で考えてみて下さい。余り時間はありませんけれど」
 その様子に目を細めて佐祐李は最後、それだけ言い放てばそれより黙する『姐さん』を今度は見る事無く立ち上がると一人、部屋を辞した。

 一方その頃、伊勢藩主に対しても一行の何人かが彼の元へ赴き、最初こそ‥‥もしかすれば今も乗り気ではないかも知れない藤堂守也と『華倶夜』に付いて妥協点を模索していた。
「彼等が女装を行なう場‥‥組織に組み込まれると言う事ですからせめて、駐留する館内のみでも認めてあげるのは如何ですか? 女装姿で外に出るのは禁止と言う形にすれば問題は少ないと思いますし」
「それ位の譲歩はこちらも必要か」
「完全に禁止する事は出来ないと言う事は藤堂様もご存知でしょう?」
「まぁな‥‥」
 その尖兵たるは明華で、彼女の言う事も道理であると感じるからこそ続き響く彼女の言葉を聞きながら、しかし他にも伊勢藩が抱える問題を思い出せば文字通りに頭を抱える藩主だったが
「余り暗い事ばかりだからって落ち込んでちゃ駄目駄目! こんな時こそ笑顔で事を進めよう〜♪」
「‥‥確かにそうだな」
 何時来たのか、『華倶夜』の面々と介していた筈の北斗が此方へも足を運ぶなり彼のその意を察し、明るき声を発して守也を元気付けると暫しの間を置いた後に伊勢藩主は俯けていた顔を上げると何とか微笑を湛え北斗へ応えるも
「それが例え非道だったとしても♪」
「いや、それはどうか‥‥」
「僕が思うに、飴と鞭は必要なんだよー!」
 次に響いた、先と変わりない声音ながらも不穏な発言には真面目な面持ちにて伊勢藩主が否定するが彼女の反論が響く中で伊勢藩主は『姐さん』同様に、確かな答えを持たなければならない事に思い至ると明華が次々と上げる提案へいよいよ、真剣な面持ちにて聞き入るのだった。

 それより二日の日を経て憐慈らが『華倶夜』を想ってからこその説得ありき、また藩主の妥協案も決まったからこそ漸く皆の申し出に『姐さん』が応じると一行は次の段階へと移行する。
「完璧に女子同然、見た目も振舞いも可能であるのなら表面上、女子として雇い入れる事は可能な筈でござる‥‥それならば各々、更に精進されるべきだろう」
「そうよ、貴方達はまだ甘いわっ!」
『ガーン!!!』
 伊勢藩主が邸宅の庭にて『華倶夜』の面々が勢揃いな中、彼らの前にて柾鷹とミカエルが口上を持って始まったのは憐慈命名による『正しい女装講座』‥‥って何だそりゃ。
「けど、私達の為に此処までしてくれるって‥‥」
「初めて、かもね」
 だがそれはともかく本気で『華倶夜』の更正に望む一行の、女装の否定はこの短期間では無理だからこそ、それは認めた上で更なる向上、発展を目指し臨む皆の姿勢には人それぞれかも知れないが感激した者も少なくなく、いよいよ持ってその講座は開かれるとまずは北斗。
「女装を極めるなら女性になりきるだけじゃ駄目だよ。男性の視点、考えも捨てずに理解してこそ更に上へと登れるんだよ」
「なるほど、それは考えた事がなかったかも?」
「‥‥着たい衣装を着ているだけで満足して、悲しくなかった?」
「それは‥‥」
「自らが働いて得た糧を持って女子の装束を手にすべきかと拙者は思うが、どうでござろうか?」
 自身の観点にて女装に付いて語り、また次には彼らへ哀しげな声音にて問う『飴と鞭』に彼ら、声を詰まらせればそれを聞いて柾鷹は尚も表情は変えず、だがその様子から根っからの悪人ではない事を悟って優しく問い質せば此方の組は様々な方向へ話を広げながら『華倶夜』の女装レベルの向上を図るのだった。

 さて一方、『華倶夜』の面々より適当に抽出した者達率い男性らしい格好をさせては伊勢の町を巡っていた美夏、今は伊勢藩主邸宅へ一応無事に帰還を果たし厨房へと向かっていた。
「まぁ、皆々さんの事情はお察ししましたですわ」
「とは言え、癖みたいなものですから中々に抜けない者も」
 その意は『華倶夜』が手癖の悪さの判別に、どれだけ女装をしない状態に耐えられるかを見定める為で、その折に彼らから聞いた今までの境遇を大よそ纏めながら頷くが次いで響く『鉄閃』に所属する一人の言い訳じみた回答には頭を巡らせるも、厨房の前まで辿り着けば連れ立った面々を改めて見回した後に彼女は口を開いて次の指示を出す。
「とりあえず女装してなくて落ち着かない方も見えますんで、その人達はこれから夕餉を作るの手伝って下さいですわ。あ、そちらの方々はお屋敷の掃除でもしておいて下さい」
「でも何で、料理?」
「一寸した気晴らしですわね」
 すると首を傾げては尋ねる彼へ美夏はたおやかに微笑みながら答えるが‥‥尤も彼らはこの時まだ、美夏の笑顔が奥底にある悪戯心に塗れた邪笑には気付かなかった。

『むぎゃーす!』
「なぁ‥‥この光景は何だ? ついでに俺は何をしているんだ?」
 と言う事で日も沈めば早々に催される夕餉の一時、広い割には余っている部屋のほぼ全て開放して皆が臨む中で一部、『華倶夜』の面々が何事かにて悶絶すれば小次郎はその根源だろう美夏へ問うていたが
「踊っていますわね、女性者の着物を纏って。ついでにこの光景は精進の足りない人達が辛子満載、蓮根の天ぷらを食べて悶絶している図ですわ。元先生もお一つ如何です?」
「遠慮する」
 先ずは部屋の中央にて憐慈や明華より手解きを受けて舞う、現実を受け止めていない元先生へ今の現実を確かに告げると辺りを見ては今も悶える『華倶夜』が一人の目の前にある器より蓮根摘まみ、差し出すがあっさり断る小次郎の態度に美夏は密かに舌打ち一つ響かせると彼女に元先生が反撃するより早く憐慈。
「中々にいい光景だな。それに小次郎殿、案外筋が良いな‥‥良い手本になりそうだ」
「うぉい」
「ちょっとあんた‥‥」
「軽い冗談だ、とは言えまだいささか時間があるとは言えこの調子では‥‥少々厳しいか」
「最早これまで、でしょうか」
 微笑を湛え、ある意味阿鼻叫喚の地獄絵図と言えなくもない光景に顔を綻ばせると小次郎と『姐さん』が突っ込みは流しつつ、今日一日を振り返り次には渋面湛えると常にこの日、常に厳しい表情を浮かべていた佐祐李が何を思ってだろう立ち上がれば
「いえ、それは早け‥‥」
「切りましょう」
『は?』
「最後の手段です、切りましょう!」
「わー、早まるなー!」
「佐祐李殿がご乱心召された!」
 皆の中で一番に『華倶夜』へ厳しく接していた彼女を見やり明華が宥めようとするがその途中、視界の中で唐突に抜剣する彼女へ皆が目を剥けば‥‥何を切るかは不明瞭なままだったが、高らかに断言する佐祐李を皆は言うまでもなく取り囲むのだった。
「‥‥これも一種、愛情表現なのかねぇ?」
 とそんなドタバタの中、その光景を前にしても動じず呟いた『姐さん』の言葉を耳にした憐慈は彼へ答えを返す事無く、苦笑だけ湛え肩を竦めるが‥‥最後に一言だけ漏らせば『姐さん』は顔を綻ばせた。
「でも、あんたらみたいに僅かでも私達の事を見てくれる人がいるのなら‥‥せめてその人達の為だけにでも、頑張ってみるのもいいかもね」

 そしてそれから数日を経て‥‥一行が親身になって尽くしたからか、短期間の割に『華倶夜』の更正はそれなりに目に見える形となってきた。
 とは言えまだ、完全と言えないレベルに伊勢藩主は最終日まで散々悩むに悩んだが
「‥‥一先ずは貴殿らの意見等、参考にさせて貰いながら私達がこれから努力するべきなのだろうな」
「後は守也さんの手腕次第ですね、期待していますよ」
 今日に至るまでの経緯を見ていたからこそ、今は一行を信じて決断すれば微笑み激励の言葉を紡いだ明華へ口元を引き結び相変わらず堅苦しい表情のまま、一行と『華倶夜』へ頭を下げるのだった。

 しかし苦難の道はまだまだ続く、果たしてこれからどうなる事か‥‥それは仏様すらも未だ知らない。

 〜終幕?〜