【何でもござれ】早過ぎる場所取り.2
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■シリーズシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 8 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月06日〜04月21日
リプレイ公開日:2007年04月15日
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●オープニング
●宣戦布告
京都近郊、桜の木々があちこちにある川の袂にて二人のチンピラ然とした男が辺りに視線を配しては腰を落ち着けている人々を見て、肩を落としていた。
「‥‥やっぱり、何処も一杯じゃねぇか」
「そりゃ、出遅れたからな」
何故かと言えばこの二人、花見の場所取りに負けた訳で‥‥彼らの口から次に当然ながら出て来るのはぼやきばかり。
「どうするよ? このままじゃあ俺達、親分に‥‥」
「分かってるよ、んなこたぁ!」
「‥‥でもよぉ、親分はこの辺りが良いって言うし人数も人数だぜ」
「条件が厳し過ぎるのは確かだな‥‥」
しかも花見はこの二人だけで行う訳ではなく、多くの同胞が集うからこそ時期にぼやきを焦りに変えるとうろたえる部下の一人に、彼よりは立場が上なのだろう男が叱咤すれば肩を縮めながらも食い下がる部下へ遂に同意して男は溜息を漏らすが
「そうなると‥‥頭数、揃えとけ。お礼参りと行こうじゃないか」
やがて唯一つだけ残されている手段を決めると男は部下に指示を配して、自らも懐から和紙と何故今持っているのか習字道具の一式を取り出して墨を摺れば、さらさらと何事かを書き認めた後に歩き出す事暫く。
「とりあえず、これで良し!」
「‥‥これで良いのか、兄貴?」
「気付いたなら男らしく真正面から、気付かなければその身を持って不幸を思い知るだけ‥‥」
人影はまばらだが確かに誰かが居座っている、彼らが求める程度に広く場所を確保してある、以前にも来た事のある桜の木々に囲まれた場に辿り着くと、その一本の桜の樹へ先程書き認めた和紙を短刀にて縫い止めれば部下の疑問には男らしく応じ、やがて二人は踵を返してその場を後にするのだった。
「戻るぞ、これからなるたけ沢山の面子も集めなきゃあならねぇし冒険者だろうが何だろうが、馬鹿にされたら倍返しだ‥‥」
●
「とりあえず、順調そうだな」
「まぁ、な‥‥」
京都の冒険者ギルドにて、花見の場所取りが合間を縫って顔を出した十河小次郎とギルド員の青年は顔を突き合わせ、残り半月の依頼に付いて相談を交わしていた。
「で、今回も引き続きと言う事でいいな? レイからは既に今回の依頼に付いても請け負っているが」
「あぁ、問題はない‥‥けど残りの半月は少し面倒になるな」
「と言うと?」
依頼の折には見せなかった、何処か浮かない表情を湛えたままの志士に‥‥しかしそれは気にも留めず、ギルド員が尋ねると頷く小次郎ではあったが次には肩を竦めると首を傾げる彼の眼前に一枚の和紙を突きつける。
「‥‥チンピラか、やたら広く場所を取った様だからな。目を付けられるのもしょうがないだろう」
「全く、面倒ごとばかり‥‥」
するとそれを見て青年、先ずは嘆息を漏らした後に苦笑を湛えればその彼の反応を見て小次郎は溜息を付くが
「‥‥何だよ」
「いや、この前に来た時に比べれば大分良い顔をしていると思ってな」
「そうか」
それから暫く、己を見つめるだけの青年の様子を訝って小次郎は尋ねるが‥‥振る舞いにその表情がまだいささか覇気が足りないとは言え、時折現場を見に行った際に見受けられた何処か張り詰めていた志士の表情が今は多少なりとも薄らいでおり、それに気付いたからこそ彼がそれを指摘すると肩を竦める小次郎だったが
「まぁ今回も宜しく頼む」
あっさりした反応が返って来たから事からギルド員の青年はそれ以上何も言わず、話を締め括って彼を送り出すのだった。
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依頼目的:押さえた花見場所を半月の間、チンピラより死守せよ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要、また防寒着も必須な時期。
それらは確実に準備しておく様に。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
対応NPC:十河小次郎、アリア・レスクード
日数内訳:依頼実働期間のみ、十五日
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●リプレイ本文
●残り半月 〜その初日、夜〜
京都、その近くに流れている川の袂にて花見の席を守る一行は一時の暇を貰えば今、再び同じ場に集いて残り半月の事に付いて相談していた。
「恋人さんのばかーーー!」
「圭介のアホーーー!」
が既に夜を迎えている為、交代にて花見の場を守る一行の中で今は順番に従い安らかに眠っている桜あんこ(ea9922)と十河小次郎が揃い寝言と言う名の雑音を奏でれば、それも然程進む筈なく。
「‥‥やれやれ、面倒ごとは御免なのだけど」
「すいません、色々と」
「あぁ、アリアは気にしなくて構わないよ」
そんな雑音を聞き止めてもそれとは関係なしに肩を竦めたのは小次郎の寝言に出て来た和久寺圭介(eb1793)で、しかし彼の様子を勘違いして兄の代わりに詫びるアリア・レスクードだったが、微笑を湛える彼の掌が頭の上に置かれれば僅かにだけ闇の中で表情を綻ばせる彼女。
「だけど、本当に困ったわねぇ。何か以前の男性の方に目を付けられている様で」
「律儀と言えば律儀‥‥でもないか、何とも中途半端な」
そんな仲良き二人を見つめる、一行の中で唯一の人妻である淋羅(eb0103)が笑顔を湛えながらも桜の樹に刺さっていたと言う一枚の半紙を手で弄びながら呟けば風の志士が東郷琴音(eb7213)は普段と変わらず、淡々とした表情に生真面目な口調で最初こそ感心し‥‥だがすぐに考え直しては彼らの行いに対し呆れれば
「探せばまだきっと他に良い場所もある筈なのに、横取りしないといけないとか掟でもあるんでしょうか? 不思議ですねー」
「そうね、でも来るのならしょうがないし」
マイペースが身上の雪桜火憐(ec0745)が一人首を傾げながら呟くと、あんこと小次郎に掛かっている毛布を直しながら神子岡葵(eb9829)は苦笑を湛えながら頷くとやがて起きている皆の前に戻って来れば、近くに転がっていた誰かの筆記用具と半紙が一枚を用いては何事か認めるとそれを皆の眼前へ掲げ、尋ねるのだった。
「とりあえず、こう言う答えでいいかしら?」
無論、全員が頷いたのは言うまでもなく初日は一先ず、相談だけで費やされた。
●激突 〜それでも先ずは話し合い?〜
と言う事で翌日‥‥一行が守る花見の席の様子を伺いに来たチンピラ二人は先日、半紙を縫い止めた桜の樹の所にまで来るとその足元に自身が書いた半紙と一緒に一枚の半紙が揃い地面に置かれている事に気付き、それを手に取れば暫し。
『謹んでお断り申し上げます』
「くおぉっ!」
半紙に躍っていた簡潔な内容のそれに思わず憤慨すると、動向だけ伺う筈だったにも拘らずつい叫んでしまえば次には当然ながらその場を守る皆の目に留まる彼らへ先ずは圭介。
「早速、か。今日は余り気が乗らないのだけど」
「んだとぉ、こらぁ?」
大袈裟に相手の耳へ届く程の音量で嘆息を漏らせば、勿論の事ながらチンピラ達はゆっくりと肩をいからせ、彼へと歩み寄るが‥‥多少の距離があったからこそその間に彼は呪文を紡げばそれを完成させると程無くして解き放てば、チンピラ二人へ微笑を湛え圭介は申し出た。
「さて、今日の所は帰って貰えるかな?」
「‥‥しょうがないな、折角会いに来たと言うのに。だが友人の願いだ、止むを得まい。またな!」
すればそれは果たして受諾され、チンピラの一人がにこやかな笑顔を浮かべ答えを返せば二人はその場を後にするも
「圭介。まさかお前、両t‥‥ふべしっ!」
「そんな事はないよ、私は常にアリア一筋だから」
その場面を目の当たりに小次郎が驚愕の表情にて問うがそれは途中、圭介の手刀が額に直撃した事で止まると、屈んでは呻く彼を前にそれだけははっきりさせた‥‥初めての宣戦布告と言う事になるだろうか。
「春ですねぇ〜」
しかしそんな光景の中でも火憐は、鶯が奏でる歌声を聴きながらのんびりとお茶を啜っていたのは言うまでもない事実だった事も補足しておく‥‥春っていいね(何がだ)。
●
チンピラ達が最初の来訪から暫く。
「あ、また来た」
それからは特に目立った妨害なく、一行は予定の半分を消化するも八日目の早朝にあんこは偶然、見付けてしまった‥‥先日、お礼参りに来ては圭介にあっさり追い払われたチンピラ二人組を。
すると彼女は早く寝ている者を起こせば、此方へ歩み寄って来る彼らを眠い目を擦りながら見止めて一行。
「全く、懲りぬ輩であるな」
「尤も、早く解決出来そうで此方としては願ったり叶ったりですが」
「このっ、好き放題言いやがって」
起きがてらにも拘らず琴音が無表情にて肩を竦め呆れれば、何度も頷いては同意するあんこがしかし手間が省けたとその表情を綻ばせると一行の反応を前にチンピラが兄貴分は早々と怒気を己が身に孕ませるが
「ご覧の通りにここは儀式に使用するので、他を当たってくれませんか」
「こんなに場所を取っといて、何が儀式だよ」
「あらあら」
その出鼻をとりあえずは話で挫こうと羅が口を開くも一行が以前、この場が自身らの花見の場であると言う証で張り巡らせた注連縄っぽく見せ掛けている縄を乱暴に弄びながら因縁をつける兄貴分‥‥流石にこの程度では食い下がる筈もなく、彼女は驚きを禁じえずに目を丸くする。
「でもねぇ、下手な言い掛かりとか付ける前にあんた達‥‥他にちゃんと花見が出来る場所を探したの?」
「探してねぇ、ってより親分がこの辺りがいいって言う話でな」
「これで何とかなりませんかね」
「あ、こら。その手は通じないって」
「まぁまぁ、駄目元でもこれで丸く収まるのなら問題はないっすよ。それに前より額は上げてますし」
だが冒険者達もこれしきでは引き下がる筈なく葵が兄貴分へ詰め寄れば、その距離を零にして懐に潜り込めば彼の顔を見上げて凄むと、一行が感嘆の声を上げる中で兄貴分は思わず後ろへ下がるがその間、乾いた音を立てては地に何か落ちると直後に初めて響いた弟分の提案に、兄貴分は窘めるが弟分はとにかく花見を実施する事に重点を置いているからこそ逆に兄貴分を宥めるも
「はぁ‥‥あんた達の親分って、義理や人情は無い訳?」
「そんなこたぁねぇぞ!」
「それならもっと違う頼み方があるんじゃない? お金の問題じゃあないでしょう」
「そうです、それに聞いていれば常に頭ごなし‥‥桜の樹を傷付けた事も許せませんし、それでも花見をする気はあるんですか!」
「な‥‥んだとぉ」
地面にばら撒かれた、決して少なくない金銭を見て葵は大仰に溜息を付いてはチンピラ二人へ問うと、すぐに噛み付いてきた兄貴分に彼女は言葉尻を少し穏やかにして諭し掛けるがしかし‥‥今までのやり取りからふつふつと自身の内に沸いていた怒りを抑えられず、あんこが遂にそれを爆発させると途端、場の雰囲気が一触即発の険悪な雰囲気を宿す。
「皆さん少し、落ち着いて下さい〜。辺りに人もいますし、此処は穏便に事を済ませましょう」
「‥‥話し合いでケリ、着けようって言うのか」
「はいー。でもその前にせめて、英霊となった桜の木々さんの為にも頭を地に付けて詫びて貰わないと〜」
「‥‥煽ってどうする。つか桜、死んでないから」
「あれ?」
が、場の雰囲気に飲まれる事無く火憐が一行の背後より巨躯を揺さぶり、手を振ってはのんびり声を響かせると‥‥瞳をすがめ、彼女を見つめて兄貴分は応じる素振りを見せるが頷いた火憐はしかし、消火しかかっていた火種へ再び火を灯せば小次郎に突っ込まれ首を傾げるが時既に遅し。
「もうどったま来た! てめぇら、やっちまえ!」
「‥‥結局はこうなる訳だ。此方にも非はあるが、自分達の無能さを人に押し付けるとは‥‥ご立派な事で」
やがて火種が爆発すれば、兄貴分は早く抜刀するなり辺りに伏せていた(とは言え皆にその存在はばれていたが)仲間を呼び立てると、一斉に姿を現した一行の倍近い数の彼らを前に圭介は頭を振っては呆れるも
「余り面倒な事は好まないのだけど、たまには良い所を見せないとね」
眼前にて剣を抜いたアリアの背を見つめながら彼は艶やかな黒髪を手で払い、彼女に聞こえない程度で呟けば‥‥次いで最先に地を蹴ったチンピラが一人に狙いを定め白銀の光をその身に宿し、織り紡いだ呪文を解放した。
●激突 〜やっぱりぶつかる、刃と刃〜
そして日が高い内ながらも始まる大立ち回り、場を弁えずに刀抜き放つチンピラ達ではあったが
「鬼さんこちらー、手の鳴る方にー」
「ぬあぁっ、何かむかつくっ!」
先程、うっかり彼らを煽ってしまった火憐がその汚名を雪ぐべく‥‥やはり素で煽りながらも回避に専念しつつ敵の気を惹き付ければ、桜の木々より離れる様に駆け出すと
「貴重な時間を君達に邪魔されるのは大変癪だよ」
やがて人気に桜の樹もない場にまで全員が辿り着くと途端、内心で静かに怒る圭介が踵を返して再び呪文を織っては唱えると淡い光の矢が未だ僅かに距離があるチンピラの一人を打ち据えれば、それを端に魔法を使える面子が意外に多い一行は木々の隙間を縫い現れるチンピラ達を焦がし、凍結させるも
「やはり、数が多いのは何とも」
愛刀を振るいて、真空の刃を生み出し放つ琴音が言う様に物量で勝るチンピラ達は未だ怯む事なく一行へ迫る。
「あらあら、せっかちな人達ねぇ」
しかし駆け出しの冒険者と言える位置付けにいる皆でも多少は戦い慣れしており、辺りに生える樹に紛れて小さな一本の樹に擬態化する羅が己の枝を振るい、皆が待ち構える場に飛び込んでくるチンピラの足を次から次に掬い、払えば
「貴方方の様な乱暴な方にお花見をする資格はありませんっ!」
「その通り! そして純情可憐な乙女の柔肌を傷付けた罪は重いから‥‥食らいなさいっ!」
前線にて数人のチンピラと切り結ぶアリアを援護すべく、葵が雷撃を放ってはその卑怯な振る舞いをなじると皆もまた同じ意気込みを持ってチンピラ達と対峙するのだった。
●
「これ以上は、やるまいな?」
「本来ならば、スリープで寝かせて木の下に埋めてしまおうかと考えていた位だからね。感謝して欲しいものだ」
それより暫し‥‥うずくまるチンピラ達を前、多数との立ち回りにて土埃で薄汚れた琴音が仁王立ちで彼らが眼前に立って決着を告げれば、圭介も土埃を払いながら彼女の背後にて邪笑を浮かべ、あっさり空恐ろしい事を言うが
「貴殿らの目的は何だっ! 花を愛でる事か? だとしても今回の行いは逆にそれを汚す事に相当すると言う事を心に刻み込め」
「ひぇい!」
彼らが及んだ行為に未だ怒り覚めやらない琴音が日本刀を地に突き立て小枝まで震わさん程の裂帛をも放てば、チンピラ達をとことん震え上がらせるも
「‥‥桜の木々を、花々を見たいとどうしても思うのは分からぬでもない。春に咲く此れ等は本当に綺麗なものだ。だから」
「今からでも真剣に場所を確保したいって言うんなら場所を探すの、手伝うわよ」
「此度の件、反省しているのであれば‥‥と条件だけは付けさせて貰うが」
「え‥‥?」
「もう一度言わぬと、分からぬか?」
その光景を前に彼女はやがて嘆息を漏らせば先程とは声音を変え、穏やかに彼らへ呼び掛けると葵も続けば途端、呆けた表情を浮かべる兄貴分へ表情は変えぬまま琴音が再び告げると
「何人でお花見される予定なのですか?」
「えっとですね‥‥」
「ふんふん‥‥依頼人さーん、近くにいるなら今すぐ出て来なさーい!」
「‥‥何だ」
彼らの様子は気にしないまま、今度はあんこが詳細に付いて問い尋ねれば平然と答える弟分の話を聞いて後に彼女は唐突に叫べば何時からいたのか、木陰より姿は現さないままに今回の依頼人が初めて声を発し尋ねるとあんこは笑顔を浮かべ、その口を開くのだった。
「もしこの人達の場所が見付からなかったら、その時はこの場所を少し分けてあげてもいいですか?」
●春のうららな
さて、その翌日。
「先日はご迷惑をお掛けしてごめんなさいね」
桜の木々は昨日と変わらず風にそよぐ中、一時ではあったが騒動があった事から近隣にて花見をしていたり、また一行と同様に場所取りをしていた人々へ羅を中心に皆は酒を片手に、食べ物をもう片手に携えてはお詫び回りに励んでいた。
「とりあえず、これで無事にお花見を迎えられそうですね」
「あぁ、そうだね」
がそれも昼頃までには全て終えると遅い昼食を取る一行の中、漸く事態が収束した事に安堵してアリアが顔を綻ばせると、その隣に座る圭介も頷き笑顔を浮かべ応じるが‥‥此処最近、何時もの様に付きまとう厳しい視線をその背に感じれば嘆息を漏らす彼だったが
「所で何を『やらせん』だったのですか?」
「あー、それはな‥‥憎いあんちくしょうに俺の妹はやらんと言う意だっ!」
「‥‥はぁー」
その視線の主である小次郎から圭介を救うべくしてか(実の所は単なる偶然)、あんこが場違いなまでに殺気を漲らせている志士へ唐突に声を掛けるも‥‥それは果たして逆効果で、圭介を指して小次郎は怒りを尚も滾らせるとその反応を前に彼女は生返事だけ返すのが精一杯。
「まさかこの前アレで大人しくなるとは思わなかったけど、初めてだったらごめんね」
「あら、その年なら女性の経験はあるんでしょう。だから、こんな一児の母親なんかに律儀に赤くなる事なんてないのよ」
「おっ‥‥おう!」
「‥‥本当に〜?」
しかし当の本人らが苦笑を浮かべる様を見ずとも、更に葵と羅が助け舟を出すとその前では多少なりともたじろぐ所を垣間見せる小次郎の様子から、女性経験に関しては然程多くない事が皆の前で露呈されれば格好の獲物となると直後、弄られる事となるのは必然で
「‥‥色好い返事を期待してるよ?」
「あ‥‥はい」
結果、大きな隙を見せる事となった小次郎がその対応で手一杯となれば圭介は肩を竦め、微笑むと今を好機と見て傍らに佇む大事な人を引き寄せてはその耳元へ静かに、焦らせる事なく囁けば辺りに咲く桜より頬を紅く染めてアリアは頷くが
「アリアさんアリアさん、恋人さんに物や接吻で誤魔化されちゃ駄目ですよー。先輩からの忠告です!」
「そんなつもりは微塵もないのだけど‥‥ね」
小次郎の元から何時来たか、あんこがアリアの空いているもう片方の耳へ囁くと微笑か苦笑か、判別の難しい表情を湛える圭介を見て二人は静かに笑う。
「楽しい花見になると良いですね」
「そうだな」
その賑々しい光景を眺めながら火憐と琴音はのんびり、お茶を啜りながら間近に迫る花見に想いを馳せて桜の木々を見上げるのだった。
●
無論、それから以降は目立ったトラブルもなく一行は無事に依頼を果たし、チンピラ達の花見場所も何とかギリギリの所で見付けて上げれば長きに渡った場所取りから漸く解放された皆、待ち望んだ花見に臨んだ事は言うまでもなく。
今年も一体、何があるのかは分からずとも年に一度の事ともなれば楽しき事になるのは間違いなく、だからこそ皆は揃い笑顔でその日を迎えた。
〜続く〜