【拭えぬ情念】発端

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月07日〜08月12日

リプレイ公開日:2007年08月14日

●オープニング

●とある墓地にて
 夜、暗がりの中で蠢く影をもう何度目か見掛け‥‥それでも青年は驚き、飛び上がる。
「うひゃあっ」
「そう怖がるものではない‥‥疾っ!」
 その反応を前、まだ距離は遠いも蠢く骸は血走った眼を彼へ向ける‥‥もそれより早く、穏やかな老人の声が響き彼を宥めれば僅か一瞬の掛け声で呪文を構築し、構成すればそれを放っては一体の死人憑きを粉砕する。
「お兄ちゃん、格好悪ーい」
「うぅ‥‥」
「取り敢えず、今日は此処までかの。後は夜を過ごすだけの結界に余力を残さねばならん」
 直後、その光景に安堵して老人の傍らにいた少女が大仰に溜息を漏らせばついで青年を見つめ、非難めいた声を上げると返す言葉の見付からない彼は首を縮めるが老人が苦笑めいた笑みを浮かべ彼女の頭を撫でては呟くと、踵を返して青年の住まいである寺の方へ歩き出すが
「しかしわしらが来ていなかったら此処がどうなっていたか、考えるだけで空恐ろしいわい」
「‥‥本当に、ありがとうございます」
「とは言えじゃ、流石にこの数はわしの手だけでは余る‥‥もう一度、ギルドに打診してするべきじゃろうな」
「じゃろうなー!」
「そう、ですね‥‥」
 しかし、未だ闇の中で蠢く影の数の多さに辟易としてか肩を竦めるとその老人の態度を前に青年は彼の後を追いながら頭を垂れるも老人が下した判断は確かにその通りで、その傍らにつかず離れずいる少女が老人の最後の言葉を繰り返し言う中で彼は溜息を漏らし‥‥そして、再び決断した。

「‥‥ごめん下さーい」
「おろろーん」
「うひー!」
 と言う事でそれから数日後、再び京都の冒険者ギルドを訪れた青年‥‥名を久慈司と言うのだが、が扉を開け放っては恐る恐る声を響かせると以前の来訪の際と同じく馬鹿騎士がヴィー・クレイセアの唐突な出現に驚けば
「‥‥取り敢えず、無事だったか。とは言えその調子に今日の訪問‥‥状況は変わらず、と言った所か?」
「あ、はい‥‥流れの僧侶さんが立ち寄ってくれなければきっと、もっと酷い事に」
「済まんな、前回は力添え出来なくて」
「あ、いえ‥‥」
 以前にも見た光景を前にギルド員の青年が溜息こそ漏らすも、取り敢えず彼の無事に安堵すれば早く状況を察すると、頷いて司は掻い摘んだ近況を聞けばその後に頭を垂れるかれだったが依頼人は頭を左右に振れば、それより暫くして頭を上げてギルド員の青年。
「それで、今回の依頼だが」
「以前と変わりません‥‥流れの僧侶さんに祓って貰ってこそいますが亡霊の数は未だに多くて、一人だけでは如何ともし難いと‥‥それで皆さんに再び、手伝って貰いたいのですが」
「そうだろうな‥‥しかし、妙な話だ」
「妙‥‥?」
 すぐに本題を切り出すと以前と大差ない依頼内容を紡ぐ司だったが、それに首を傾げた青年はボソリ、囁くと墓守見習いの彼が首を傾げれば
「自然に沸く場合、数の増減に極端な差異が見受けられないと思うのだが‥‥傾向は?」
「えー‥‥日々、少しずつ倒してはいるのですが数に余り変わりは見られない様な。あ、もしかして‥‥人為的に、今回の事象が起きている?」
「可能性としてだがな、だがそれを探るよりも先ずは亡霊を祓う事が先決か。すぐに人手を集めよう」
 一つ、気になる事をギルド員が呟いた後に次いで司へ問い尋ねると、それを受けて司は天井を仰ぎ見ながらも答え‥‥やがて何事か察し、しかし理由が分からないからだろう再び首を傾げる彼だったが、先ずはやるべき事を見定めて青年は無愛想で無表情な表情を浮かべたまま、呟きながら同時に筆を取るとそれを眼前にある和紙の上に走らせるのだった。

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 依頼目的:亡霊の群れを滅却せよ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:久慈司(墓守)、安藤兵衛(老練の僧侶)、安藤牧(僧侶の孫娘)
 日数内訳:目的地まで二日(往復)、依頼実働期間は三日。
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●今回の参加者

 ea6437 エリス・スコットランド(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb5301 護堂 万時(48歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5379 鷹峰 瀞藍(37歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5581 東天 旋風(34歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 eb7046 篠杜 観月(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb7343 マーヤ・ウィズ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ec1173 大神 萌黄(33歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ec2502 結城 弾正(40歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

西天 聖(eb3402

●リプレイ本文

●お盆を前に
 京都は冒険者ギルドのその中、とある墓地に集いし亡霊達を滅却べく新進気鋭の冒険者達が集まっては依頼人の来訪を待ち侘びていたのだが、その当人は未だ来ず。
「おぉっ、美人さんが一杯‥‥俺様感激! てな事で鷹峰瀞藍、頑張らせて貰うぜっ」
 故に殆どが初顔合わせでもある事から皆が皆、挨拶を交わせば依頼人が訪れるより前に鷹峰瀞藍(eb5379)は皆と挨拶を交わした後、己の髪を掻き揚げては張り切って女性陣へ熱烈なアピールを付け加えるも
「それより‥‥肝心の依頼人は?」
 落ち合う予定の時刻より既に半刻過ぎている事から一先ずそれを受け流し、魔術師のマーヤ・ウィズ(eb7343)が白き髪を舞わせては辺りへ視線を彷徨わせた丁度その時、ギルドの扉が開け放たれるとそのすぐ後にギルド内へ響く、まだ年若い男性の絶叫。
「うひー!」
「‥‥これはまた、話通りのお人の様で」
(「と言うか、そんな怖がりで良く墓守とかやる気になったわねぇ。妙な人‥‥」)
 冒険者ギルドの内へ至ってすぐ、どこぞの馬鹿騎士が歓迎を受けたからこそで‥‥今回の依頼人の久慈司が漸く現れれば、その光景を前に陰陽師の護堂万時(eb5301)は傍から見た目にも分かる程の苦笑を携え、忍びが篠杜観月(eb7046)は内心で嘆息を漏らすが
「久慈、司様ですか?」
「‥‥あ、はい。すいません、遅くなってしまいました」
「それじゃあ行くとするか」
「宜しく、お願いします」
 その馬鹿騎士を六尺棒で軽く叩いては退けた後、大神萌黄(ec1173)は彼が依頼人か問えば、頷いた後に詫びる彼へ毅然とした態度で侍の結城弾正(ec2502)が臨み言うと再び頭を垂れた司を伴い、一行は冒険者ギルドを漸く後にする。
「しかしもう直ぐ御盆だってのに成仏出来ねぇとは難儀な話だ。ここは一肌脱ぐしかあるまいよ」
「そうですね。それにしても今回の依頼はどうにも、解せませんね」
「普通の墓地なら早々ある事ではない筈‥‥人為的なものでなければ良いのですが」
 そして外へ出れば夏らしい、眩し過ぎる陽光から額に手を当て頭上で輝く太陽を見つめる彼が呟けば、馬鹿騎士にからかわれている見送り人を慰めながら東天旋風(eb5581)も頷き、自身が抱く予想を紡げば万時もまた彼に同意して僅かに厳しい表情を湛えるが
「一先ず、推測だけじゃ埒が明かないから‥‥早速、墓地の方へ行ってみましょう」
「あ、はい‥‥そうですね‥‥っ!!!」
 エリス・スコットランド(ea6437)が皆の気持ちを汲んだからこそ促せば、果たして頷き皆の後を追う司‥‥も最後、言葉を詰まらせれば何事かと振り返った一行の視界には馬鹿騎士から背後より驚かされただけにも拘らず昏倒する彼の姿があり、その光景に皆が唖然とすればエリスもまた、それを見て不安に駆られるのだった。
「‥‥これからが少し、不安ですね」

●黒き、墓場
 そして翌日、辿り着いた墓場は昼間にも拘らず亡者達が既に徘徊して事からか、既に禍々しい雰囲気を宿していた。
「ただ今、帰りました‥‥」
 その墓地が一画にある、良く見る大きさの寺へ亡者達を避けては遠回りに一行を導き司‥‥やがて居住区だろう、その傍らにある木製の戸を押しては声を響かせると
「やっと帰って来たか、取り敢えずこちらはあれから変わらずじゃったが‥‥」
「お帰りーっ!」
「わわっ」
 すぐに返って来たしわがれた声と、その直後に幼子が屈託のない明るき声も響くと唐突に現れた少女に飛びつかれて墓守見習いの彼はそれを受け止め切れずに地へ尻餅を着くと、その後から現れる老人は自身の孫の所業に微苦笑を湛えれば
「で、主らが冒険者か」
「はい、今回は宜しくお願い致します」
「こちらこそ、な」
「お姉ちゃん達、宜しくー!」
 次いで一行を見回し尋ねると、白い旅装束を靡かせてはエリスが恭しくその老人‥‥安藤兵衛に頭を垂れ応じると、顔を綻ばせる彼に司を打ち倒した小さな少女が安藤牧も彼に続き元気良く答えると皆、笑顔を湛えるが
「所で、安藤さんは此度の死人何か気が付いた事はないでしょうか? 例えば‥‥黄泉人が出てきた気配等はどうなのでしょう? わたくしは会った事は無いのですが、特殊なのでしょう?」
「‥‥いや、黄泉人は見んな。ただ」
「ただ、何だろうか?」
 その後に響いたマーヤの疑問から話は本題へ移れば、彼女の疑問は否定しながらも言葉を濁らせる老人へ弾正は更に尋ねると彼。
「少し、おかしな気配がある‥‥尤もそれが何なのか、わしでも分からんがな」
「おかしな、気配‥‥」
「じゃがまぁ一先ず、辺りの亡者共を滅するとしようか。知らぬ気配に付いては‥‥それが済んだ後じゃの」
「そうですね、先ずは目の前の事態の収拾を図りましょう」
 自身が感じた事を率直に切り出せば首を捻る万時ではあったが、老人はすぐに皆へこれよりやるべき事を指し示すと果たして陰陽師が頷く中で皆もまた同意して頷けば、先ずは墓地の様子を改めて見るべくして動き出す一行。
「しかし、お一人で今の今まで耐え抜くと言うのは凄い方なのですね」
「‥‥心強いです」
「わたくし達もお手伝いしますので改めて、宜しくお願いしますわ」
「何、お主らが来ればわし如き老骨が出来る事などありゃせんよ。じゃがまぁ、行くとするか」
 そして外へ出て直後、遠目ながらも見える墓地の淀んだ光景を前にすると改めて老人が今まで成して来た行動に感心し、マーヤと萌黄が揃って頭を垂れると満更でもないか兵衛は照れ臭げにこそ笑い、皆にへりくだっては言葉を返すと皆を促すべく先んじて墓地へ向け、歩を踏み出すと
「頑張ってね〜ぇ!」
「えぇ、その間は静かに待っていて下さいね」
「さ、それじゃあやるとするか。手筈は道中で話した通り‥‥さっさと終わらせるとしようぜ。爺さんも手伝い、宜しくな」
「‥‥やれやれ、漸く楽出来ると思ったんじゃがの」
 牧の口から響いた激励には旋風がにこやかに応じれば、淀んだ空気の中にも拘らず普段と変わらぬ明るい口調にて瀞藍が兵衛を見つめては言うと‥‥肩を竦めては苦笑だけ返す老人だった。

 そも今回の依頼、倒しても現れると言う亡霊達を葬る事が主題となるが‥‥それ故に皆は皆、揃って動く事を良しとせず二十四時間体制にて交代しながら寺の防衛も視点に入れ、戦いに臨んでいた。
「申し訳ねぇが俺は坊主じゃないんでね。故に経文あげて成仏はさせられねぇ‥‥ちっと痛ぇかもしれねぇが、それは勘弁してくんな」
 その最先を勤めるは侍の弾正と土の魔術師がマーヤに、初めてだからこそ兵衛も共に動けば先ずは寺に近い亡者から屠るべく弾正が静かに轟く叫びを放ち、六尺棒にて死人憑きが一体を強かに打ち据えれば
「地に蟠りし精霊達よ‥‥その御力振るいて眼前の敵を悉く、薙ぎ払いなさいっ!」
 その一撃にて左の腕を落としつつ、だがそれは意に介さずに尚も迫るそれへマーヤも続き、詠唱を織れば魔法を完成させるとすぐに重力の波動を放てば死人憑きを吹き飛ばし、転倒させると
「それなりには出来る様じゃの」
「何、この程度の腕前なら他にもごまんといるさ」
 彼らの手並みに老人は彼らの腕前を認めるが、あえてそれは謙遜して受け答えて弾正は苦笑を浮かべるも
「確かに、数は少し多いわね」
「とは言え、何を目的として動いているのか‥‥」
「そればかりは、ねぇ」
「取り敢えず、暫くは様子見か。寺に近付いてきたものだけを倒すとしよう」
「そうね、後は状況次第で臨機応変に」
 次に響いたマーヤの目の当たりにした墓地の光景から出た感想には再び厳しい表情を浮かべ呟くと、肩を竦めるエルフの魔術師だったが改めて三人は意識合わせを成すと再び得物を構えた。

「幼少の頃から、こちらにお住まいではないのですか?」
 一方、寺の方では待機組が辺りを警戒する‥‥その傍ら、牧を寝かせつけた司は僧侶の萌黄と向き合っていた。
「この寺には幼少の頃、少しだけ住んでいました」
「それでは、つい最近まではどちらに」
「此処からそう遠くない、小さな村で父の知人の家で過ごしていました」
「母はそれこそ、僕が物心着く前に亡くなって‥‥父の計らいから今まで、そう言った生活を」
「そうですか」
 そして始まった話は萌黄からの何気ない疑問を端に、他愛のない雑談を交わすも‥‥その途中、唐突に彼からの独白を受ければ彼女はそれが突然過ぎた事からそれだけ返すのが精一杯。
「と、所で話は変わりますが‥‥幾ら他の誰かが久慈様へ進言したとしても久慈様自身が墓守の覚悟をしなければ、前へは進めず‥‥これからも変わらないと思います」
「‥‥そう、ですよね。どうもあの類は苦手で正直に言えば今でも墓守をやるべきなのか、悩んでいます」
 そして内なる動揺はすぐに切り替えられる筈もなく、萌黄は声を上擦らせながらも話題を摩り替えては自身を落ち着かせると、表情からも見て取れる彼女の動揺に思い至らない司はその話を聞いて後に肩を落とし、正直に自身の内を曝け出すと‥‥僧侶は改めて口を開く。
「ですが」
「ですが‥‥?」
「ですが、変えたいと思われるのなら‥‥その時はお手伝いしますよ」
「‥‥僕は」
「男なら、言いたい事ははっきり言えよな」
 その取っ掛かり、反芻する司へ彼女は初めて笑顔を浮かべると‥‥その表情を前に墓守見習いは果たして言葉を詰まらせれば、煮え切らない彼の態度を前に瀞藍が業を煮やし彼の眼前に立ちはだかり言えば再び肩を落とす司だったが
「性分だからしょうがない、って言うんじゃなくて少しは自分を変えてみようって思わないとな」
 それを前にして忍者の割、派手な装いに身を包む彼はやがて苦笑いを浮かべ諭す様に彼へ声を掛ければ再び近辺の見回りに戻るべく踵を返し‥‥その途中で歩を止め、柔らかい口調で彼の方を振り返っては微笑み、言うのだった。
「‥‥ま、でもお前みたいな奴も嫌いじゃないけどな」

●動向
 二日目、空白の時間を作る事無く墓地の中を彷徨っている亡者を屠り続ける冒険者達の傍ら‥‥二人の忍びが密かに影から影を飛び回っていた。
「人払いの為か、人心を惑わす為か‥‥私が思いついた限りの予想ながら、個人的には人払いの線ではないかと思っているのですが」
「その理由が分からないと何とも答えようがないですね」
 その意図は今回の件が何を理由にして起こったのか探る為‥‥墓地の中を疾駆しながら旋風はすぐ脇を駆ける観月へ自身の推測だけ静かに語るも、未だに見えない理由から彼の推測は推測のままにする彼女。
「‥‥分からない事ばかりですね」
「ですが、こうしていれば何か分かるかも知れません」
 すれば駆けながらも未だ掴めない手掛かりに焦燥を覚えてか、旋風が溜息をつくとそれを宥めるべく静かに言葉を響かせる彼女だったが
「‥‥それにしても静か、ですね」
「死人の襲撃は人為的ではない、と言う事でしょうか」
「まだそう判断するのは早計‥‥でしょう。この調子が続くのならそうなのかも知れませんけれどまだもう少し、様子を見てみない事には」
 十分に音量を抑えているにも拘らず、そして夜であるにも拘らず辺りが静寂に包まれている事に気付くと頷く旋風が紡いだ再びの推測にはまた彼女、何とも答えを返せずに今度は窘めれば闇の中、その沈黙を保ちながら二人は手掛かりを見付けるべく駆け続けた。

「漸く、目に見えて数が減ってきたのでしょうか?」
「そう、ですね‥‥そう判断して問題ないかと思います」
 そして最終日である三日目‥‥三組ある見回りの組の中で最後の手番であるエリスと万時が墓地を前にすればその事に気付き、言葉を交わす。
「しかし、解せませんね」
「‥‥今になって、その数が減っている事にですか?」
「えぇ、何かが確かに裏で糸を引いているとは思うのですが‥‥その意図が、全く持って分かりません」
 だがそれ故に疑問を抱く万時の思考は至って正常で、紡がれた疑問の意図を確認するエリスに頷いて彼は未だ、墓地の周辺を調査する二人の忍びからの朗報がない事を思い出せば肩を落とすも
「そう言えば、万時殿の調査の方は如何なのですか?」
「さて、判断し難いですね。何せ怪しい反応こそあれ、刻毎にその場所が違いますので」
 その彼の様子を前に苦笑を浮かべてエリスは時折、万時がダウジングペンデュラムを用いて単独で調査している事に気付いていたからこそ付いて尋ねると、首を傾げる万時が果たして成果のない調査結果を率直に言えば
「まぁこれ自体、果たして信憑性があるのかと言われればそれまでなので頼り過ぎるのも問題でしょうが‥‥」
「それならば一先ず、残りの亡者を放逐するとしましょう」
 今度は苦笑を浮かべ、ダウジングペンデュラムを掲げ言うとエリスも釣られて苦笑を浮かべるが‥‥やがて視界の中に蠢く怪骨を見止めると彼女は厳かに詠唱を響かせ、眩き光をその掌より放つのだった。
「全ての不義に鉄槌を‥‥聖なる光、その代わりとして辺りの影を吹き飛ばしたまえ!」

●意を、決する
 やがて夜を三回過ごし、京都へ戻る事となった一行は果たして無事に沸き続けていた亡者の群れを滅却する事に成功する。
「だが結局、原因は分からず仕舞い‥‥か」
「寺にある文献を調べてみたり、前の墓守様の事に付いて司様から話を伺ったのですが‥‥」
 しかしその原因に付いては最後まで分からず、六尺棒で肩を叩きながら弾正が溜息を漏らすと多少とは言え調査を行った萌黄もうな垂れるが
「‥‥と言う様に、墓守と言う存在は非常に欠かせない存在なのですよ」
「そう言う考え方も、あるんですね‥‥」
 原因が見付からなかった事を気にしていない訳ではないが、早く自身を取り戻したエリスは司へ別れの挨拶の代わりに話術を用いては墓守‥‥と言うよりは墓守を続ける以上、対する事が多くなる筈の亡霊に対する心構えを説くと彼の感心こそ買うも
「一先ず、場の浄化と他に亡者が潜んでいない事は確認しましたので今回はこの辺りでお暇しましょう」
「そうだな、また何か異変があれば‥‥ギルドへ来るんだろう?」
「その通りじゃな」
 そろそろ出立の時間である事に観月が気付けば皆へ声を掛けると瀞藍も頷いて後に司と兵衛、牧に視線を投げては尋ねると首を縦に振り、応じる老人へいよいよ腕を掲げて踵を返せば一行はその場を後にする‥‥その直前、司はありったけの声量を持って叫ぶのだった。
「一人で父が守ったこの寺を僕も‥‥僕も守りたいから、今度は皆さんが知り得る限りの事を教えて、下さいっ!」

 一先ず、司の事に付いては第一段階を突破したと見て間違いはなく‥‥そして根本の原因が解決されていない事から、この案件に付いては以降も配慮する必要が有ると判断する。

 〜一時、終幕〜