【伊勢終章】覚悟と決意を

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月01日〜01月08日

リプレイ公開日:2010年01月09日

●オープニング

●その前に 〜理由〜
「まぁ単純に、指揮系統及び兵力を一本化する為に斎宮、斎王の制度を廃しようと考えたのが今回の話に至る発端だ」
 そもどうして伊勢が合同結婚式を行なう事になったか、その経緯を話すのは伊勢藩主の藤堂守也。
「それぞれに兵を抱え、束ねる者を抱え、相互に連携を図って今まで事に臨んでいたが‥‥先日の大事の際、妖の策中に嵌まって上手く機能せず分断された。確かに戦力はある程度、分散しておいた方が広い範囲をカバーこそ出来るが‥‥だからこそ、分断された際の対応も確かな手段を確立していないと各個撃破が関の山で今回、その弱点が明確に露呈された」
 淡々と、伊勢の今までを振り返って言の葉を紡ぐ。
「また斎宮の持つ兵力こそ侮れないとは言え実際、戦闘に行使出来る兵力となると限られている。それらの現状で果たして分断されれば‥‥」
 まぁぶっちゃけた所、今までの態勢では効率が今一つで今後も何時かあるかも知れない有事を考えれば、藩主の考えはいずれ落ち着くべき所なのかもしれない。
「故に国司様と相談し、先に起きた事態を踏まえて二の轍を踏まない様に伊勢藩が主体となって戦力の一本化を図る事となった」
 だからこそ彼は断言する、斎宮に斎王を廃し伊勢が保有する戦力を統一して藩の下で管理、運用すると。
「その、こちらからの提案に対して斎王は快く首を縦に振ったが‥‥その条件がこれ、と言う訳だ」
 だがしかし、次には引き締まっていた表情に影を宿せば溜息を漏らすのだった。

●伊勢大盛り上がり
「‥‥って事で、結婚したい人は伊勢の方に行けば今は大盛り上がりらしいわよ」
「何か随分と投げやりな言い方だな」
「結婚出来ないからって拗ねている訳じゃないわよ」
 と言う状況を説明しながら伊勢藩から舞い込んできた宣伝告知を依頼書に置き換え書き認めたものを貼り付ければ、そのぞんざいな物言いに呆れる冒険者が一人の男性に(バレバレな)真意を見抜かれたからこそ鼻を鳴らして応じる、ギルド員の女性。
「実際、伊勢の街の方って今はどんな感じなんだ?」
「そりゃもう、街やら神宮やら観光名所等の至る所でカップル達が愛を囁いたり結婚を誓ったりキスを交わしたりとか‥‥キー!」
「あぁ、まぁ落ち着け落ち着け」
 そんな拗ねている彼女へ更に、追い打ちとなる様な質問を投げかける冒険者だったが‥‥言うまでもなく火に油を注ぐその発言には遂にいきり立ってヒステリーを起こす彼女。
「‥‥ま、件の合同結婚式は年が明けて暫く経ってから行われる様だから、そんな感じで盛り上がっているって。想い人がいるならこの機会、連れ立って伊勢に行って見たらどう?」
「ふーん、じゃあそうするかな」
 それから暫く宥め、漸く落ち着けば彼女。
 肩を竦めて言うギルド員に対し、果たして彼はそう応じると彼女を見つめては口を開くと
「‥‥一緒に来て貰えるか?」
「‥‥は?」
「だから、伊勢に一緒に来て貰えるかと言っているんだ‥‥駄目だったらいい」
 思いも寄らなかったその問い掛けに彼女は最初こそ口をぽかんとあけ、間抜けな返事だけ返すも改めての問い掛けと途端、ふいと背を向けた彼の背中を見れば慌てて彼女は答える。
「行くっ!」

 と中にはこんな調子で、ぞろぞろとカップル達やその縁にあやかろうと思う者達は挙って伊勢へその足を向けるのだった。

●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb1793 和久寺 圭介(31歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3226 茉莉花 緋雨(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●伊勢、(違う意味で)動乱
「新年明けましたー‥‥て事で今年もよろ!」
「はいはい、宜しくね?」
 斎宮を前に一行を出迎える主の斎王こと祥子内親王へ、何時もと変わらぬ屈託なき笑みを浮かべて緋月柚那(ea6601)が新年の挨拶を交わせば彼女も釣られ笑顔で応じるも
「斎王は、祥子殿で終わりになるのでござろうか?」
「そう言う事になるわね」
 その直後、出会い頭にも関わらず表情も凛々しく天城月夜(ea0321)、この騒動の発端となり今では明確となったその確認を改めてすれば首肯する彼女に麗しき浪人。
「神皇や源徳や‥‥まあ色々とあるのではないかと、心配しておるが」
「その辺りは藩の方に任せているわ」
「‥‥それに加え、藤堂様に提案の条件と言うのがこの合同結婚式と言う訳か? 祥子様」
「‥‥‥」
 その身の回りこそ心配するが、それこそ自身にとっては無駄な心配と斎王はあっさり言葉を返すと続くガイエル・サンドゥーラ(ea8088)の問いにもまた、笑んで応じれば果たして訝る鋼蒼牙(ea3167)だったが‥‥それも僅かだけ。
 自身の内にある天秤の秤にそれぞれを掛ければどちらを取るべきか、それは余りにも明確だったから逡巡したのは僅かだけ。
「ふむ、まぁ目出度き事は良きじゃ。ならば神職にある身、全部纏めてお祝いしちゃいましょう★」
「あぁ、そうだな」
 そんな彼の内心は知らず、満面の笑みを湛えて柚那が口を開けばガイエルも同意すれば流れる穏やかな空気の中、しかし自身の事に一杯一杯な者もいる訳で。
「ど、どう話せばいいんだろ‥‥む〜」
 その一人、ミリート・アーティア(ea6226)は気もそぞろに思い耽るも
「まぁ‥‥小難しいのはさて置き、今は逢いたいや」
「そう、ですね」
 やがて普段の調子を取り戻して先ずはすべき事を見出すと茉莉花緋雨(eb3226)も同意すれば
「一先ず、話はこの辺りで良いだろうか? 今回はいささか骨が折れるんでね、早めに出向きたいんだが」
「時間もないし、別に私が皆を拘束する理由もないからまぁ好きにして頂戴」
 久しく見た割、風貌こそ変わらないが何時も以上に張り詰めた感のある和久寺圭介(eb1793)の声と纏う雰囲気を察すると斎王が最後、それだけを言うとそれぞれに動き始める中。
「そう言えば‥‥」
 今になってはと気付く緋雨、ギルドでは一緒だった筈の神田雄司(ea6476)がこの場にはいない事に。
「あぁ、雄司殿なら‥‥」
 そんな彼女の素振りから何事か察しのついた月夜は口を開けば‥‥。

●決意と覚悟と
 場所は変わり、京都。
 ある一つの墓の前に、彼は屈んで瞳閉じ祈りを織っていた。
 それは亡き恋人の墓、守れなかった恋人の墓‥‥その墓前、雄司は今日までにあった出来事を走馬灯の様に巡らせる。
 冒険者ギルドで依頼人の為に己が振るう太刀で守ると決意して、しかしそれでも届かない自身の手に限界を覚えて伊勢での部隊公募に臨み、無事に入隊こそ果たすもそれでも広がる闇は止められずに落胆し‥‥それでも今、腰に佩く新たな太刀に誓った想いを、抱いた願いを。
「小夜を忘れた訳じゃないんだ。新しい生活の扉を開ける為に伊勢へ行くんだ。そして伊勢で暮らす‥‥でも必ず、小夜の命日には戻ってくるからね」
 だからその墓前を前にも彼は確かに誓うと、漸く腰を上げて蒼穹に浮かぶ太陽を見上げてやがて笑めば、踵を返して急ぎ伊勢へと歩き出した。


 戻って伊勢、それぞれに行動する中‥‥伊勢の巫女を統括する神野珠の邸宅、若しくはレリア・ハイダルゼムとエドワード・ジルスの下宿先へ足を伸ばしたミリートは今日も変わらず静かに軒先で佇んでいる魔術師の姿を見付けると、着物姿で動き辛くはあったがいても立ってもいられずに駆け出し、傍らに並ぶ。
(「結婚か‥‥漠然と考えた事はあるけど、何だか不思議な感じ」)
 やはり今日も剣士の姿はなく、その事も気にはなったが‥‥それ以上に自身が抱く気持ちの方が強ければ、視界の中にエドしか映らなくなるのは必然か。
「‥‥ねぇ、エド君」
「何時も‥‥ありがとう」
 最初に声を発したのはミリートだったが僅かな間も置かず口を開いたエドの、普段とは違う調子には思わず戸惑うと
「何時でも、僕の事を考えてくれて」
 次いで彼の口から初めて聞いた感謝の言葉にミリートはたまらなく愛おしくなり抱き締めれば、エドの耳元へ優しく囁く。
「そんな事、私にとってはどうって事ないよ。だって私はこれからもずっとずうっと、エド君の側にいたいから‥‥だからこの先も、私と一緒にいて。もう何もないなんて言わせないんだから♪」
 すれば彼もまたミリートに応える様、強く抱き締め返せば口調こそ何時もと変わらない調子で、だが確かに言う。
「‥‥僕も、これからずっと‥‥ミリートの側に、居たい。一つだけでも、大事なものがあれば、僕は‥‥」
 そして後、彼女を押し倒せば‥‥良く分からないままの自身の行動に、エドは思わず首を傾げた。

 その一方で市街に居を構えているアシュド・フォレクシーの元へ、今回は自ら足を運ぶ柚那。
「‥‥珍しいな」
 やがて目的の家屋に辿り着けば彼女、別段気にせず引き戸を豪快に開け放つと‥‥来ると察していたか、アシュドは振り返らず呟けばその場で頷いて後に彼女は履物を脱ぎ、その内に上がると柚那の視線の先に見えたのは柴犬を模した、埴輪。
「まだ、形だけだ。ちゃんと動ける様になるのは‥‥もう暫く先だな」
「そうか」
 まだ形だけと言う彼に柚那が浮かべた表情は果たして笑顔ではなく、何処か思い詰めた様な厳しい表情。
「はにわんこを強く希望したのは‥‥幼い頃より可愛がってた柴犬が亡くなってしまった時、凄く悲しくて‥‥埴輪だったら自分より先に逝く事はないと思って」
 次いで紡がれた言葉に、しかし余計な事は言わず聞かずアシュドはただ彼女の頭の上に自身の掌だけ乗せれば
「まぁもうじきだ、それ位は我慢出来るな?」
 それだけ端的に言うと、言葉なく頷いて彼女は漸く微笑んだ。


 同刻、十河家の方は何やら慌しい事になっていた。
「おや、婚約者に再会のキスもなしとは‥‥冷たいな?」
 果たしてその門前、圭介の来訪にアリアは顔を背けて応じていた。
「‥‥伊勢に来たのは、どれ位前でしたか?」
「ふ、それを言われると困ってしまうが」
 そして投げ掛けられた痛い質問には相互に色々あったとは言え否定せず、言葉のままに困り果てる圭介‥‥だったが態度は以前と変わらず飄々としたもので
「しかし覚悟と決意、ね‥‥疾うにそんなものは見せているつもりなんだが」
 だが表情だけは普段と違い、至って真面目なそれで‥‥やがてアリアの両肩を掴み、自身の方を向かせれば今度は笑んで言うのだった。
「まぁ、説き伏せる相手がいない以上は暫くのんびりと待たせて貰うよ。今までの埋め合わせをしながらね」

 と圭介が説き伏せなければならない相手はその頃、彼より先に晴れ着を着て訪れていた緋雨と初詣に伊勢神宮へ足を運んでいた。
「しかしまぁ、話に聞いてはいたが改めて目にすると何と言うか」
「良いんじゃないですか、早々私達も目立ちませんし」
「ん、む‥‥」
 が伊勢神宮も市街と見られる光景に変わりはなく、あちこちで否応なく恋人達が仲良く歩く様を目にすれば戸惑う小次郎だったが、満更ではない緋雨は笑んで言うと生返事で応じるのが精一杯の志士に彼女は次に一切の躊躇もなく、自身の気持ちを改めて吐き出す。
「愛しています。小次郎さん」
「こんな所でにべもなく‥‥っ」
 そんな彼女の気持ちに真っ昼間、人の往来も激しい伊勢神宮内で言われるとは思わず小次郎は驚く辺りを伺うも、無論気にする者等いる筈なく。
「‥‥まぁ、そこまで言うなら何処までも着いて来いよ?」
 そんな周囲の状況に流されて‥‥と言う訳では決してなく、しかし合わせていた視線を唐突に外して歩き出すが彼、出来得る限り精一杯に応じれば
「後で十河家の味を教えて下さいね」
「あぁ、そうだな」
「はっ、そう言えば後でアリアさんと相談しないと‥‥」
「あー‥‥」
 後姿だけでも分かる程、耳まで朱に染めている小次郎の様子に緋雨は気付けば微笑むと、次に吐いて出た言葉に彼は今度こそ素直に応じ、だがその次に響いた彼女の呟きには何事か思い出して志士は深く溜息を漏らした。

「難儀だね、全く」
「あぁ、それには同意する」
 やがて二人、十河家へと戻れば小次郎は今度、圭介と向き合い静かに視線だけで火花を散らす。
「こんなにも人とは容易く変われるのかと、今でも不思議に思うよ」
「悪いが話が良く見えん」
「確かに私自身も一人の女性に熱くなるなど思ってもいなかったから、あの時は内心酷く戸惑ってもいたんだ。私らしくない‥‥とね」
 もそれだけの応酬に飽きた圭介がやがて口を開くが、今一つ彼の心情を理解し得ない小次郎は率直に言うも、別段気にせず圭介は話を続ければやがて自嘲の笑みを浮かべれば小次郎を前、アリアが見守る中で彼は再び稀にも見せない真摯な表情に態度を覗かせて言葉吐く。
「まぁともかく、認めて貰う為なら何でもしよう‥‥アリアが可愛いのは私も同じでね、今回ばかりは折れる訳には行かない」
 その凛々しき断言の後に今度は互いに眼光鋭く、本当に火花こそ散りかねない勢いで視線絡めれば‥‥その拮抗を崩して小次郎、果たして抜刀すると厳かな声音で一言だけ告げる。
「じゃあ、死ね」
 本気の殺意を前、圭介は僅かにだけ気後れ身動き取れなければやがて振るわれる白刃を前に‥‥しかし二人の間にアリアが割り込めば、眼前まで寸分の所で刃を止める小次郎。
「‥‥っ!」
「‥‥久しく逢った割、アリアの気持ちも変わらないと言うのなら俺に止める理由はないな」
 息を呑む妹を前、小次郎はやがて納刀すると彼女の頭に一度だけ手を置いてそれだけ言えば身を翻すと、緋雨も小次郎の後を追い家の中に入ればその場に残された二人‥‥久しくも今日は初めて、静かに強く抱き合うのだった。


「いや何と言うか‥‥前回のあの宣言のせいでどうすればいいのか大混乱状態だったけど‥‥俺がまずやるべき事は決まってるので」
「また独り言?」
 さてその頃、斎宮では‥‥何か以前と同じ様な呟きに突っ込みを蒼牙が一人繰り広げるも、ある意味では何時もと変わらない風景なのでお互い余り気にする筈もなく。
「祥子さんの‥‥気持ちを聞きたい」
「んー‥‥」
 とは言え蒼牙からしてみればその代わりないやり取りでも、いずれしなければならない話から緊張は隠せる筈もなく‥‥やがて率直に話を切り出せば、祥子。
「まぁ‥‥嫌だったら此処にはいないわよ」
 素っ気無い、それでいていやに遠回しでそっぽまで向いて言う彼女に蒼牙は苦笑浮かべつつも早々と話を先に進める、変に弄って機嫌を損ねてもあれだし。
「で、えーと‥‥合同結婚式、と言う訳なんだが。気持ちを確認してすぐで早過ぎやないかと思うかもしれんが‥‥俺の気持ちとしては間違ってないので言わせて貰う」
 と言う事で表情を引き締め、祥子の肩を掴み自身の方へ顔を向けさせれば‥‥今までにない乱暴な扱いにそれでも頬を朱に染める彼女と視線を絡めて後、彼は確かに言った。
「祥子‥‥結婚しよう」
 その答えに対し彼女は照れたまま、最初こそただ首を縦に振るのが精一杯だったが‥‥やがて祥子は一歩踏み出すと、蒼牙の頬へ唇を僅かにだけだが触れさせた。

●最後(いやはて)へ
 とどうしても伊勢の状況が状況から色恋に燃える者達が自然と目に入るが‥‥それだけではないのが、人の繋がり。
「さて‥‥」
 再び伊勢市街、柚那と入れ替わりアシュドらが腰を下ろす宅へ訪れたガイエルは引き戸を開け放ったまま、未だはにわんこを弄る魔術師のその背へ言葉を投げる。
「アシュド。二度は言わぬから、よく聞けよ」
「‥‥はぁ」
「貴殿がどう思っておるか知らんが、私は割と貴殿を気に入っている。正直、異性としてか自分でも良く分からぬが、異種族だし私の年が年なのでな」
 その第一声には生返事だけで応じる彼に苦笑こそ湛えつつも改めて言葉を紡ぐ彼女に、漸く振り返ってアシュドは唐突なその発言に何と応じたものか首を傾げる。
「ただ、共に荷を背負う関係でありたいと思うのは正直な気持ちだ。ルルイエの事、見届ける義務が私にもある‥‥手伝わせてくれ、これから先も」
 そしてガイエル、先の発言に動じた風も見せず尚も言うと漸く間を置いて視線を未だ眠りの淵にいる彼とは番とも言える女性の魔術師を見れば溜息一つ。
「‥‥無理にとは申さんよ。聞き流しておけば良い」
「いや、その申し出は正直に言えば助かる‥‥手間を掛けるな」
 漏らした直後、返って来たアシュドからの答えにガイエルの表情は静かなまま‥‥しかし内心では何と無しに安堵した。

 そして天照大御神の元へも一人、足を運んでいる者が。
「天照様はこれからどうされるのでござろうか?」
「さてな、まぁ島に戻っても退屈じゃし」
 果たして問いを投げ掛けた者、月夜のそれに見た目は幼い少女の天照は伊勢にある名の高い団子屋の席にて、みたらし団子を頬張りながらも頭上を見上げ思案する様子から今後の具体的な身の振り方は何ら決めていない様子。
「斎王は居なくとも伊勢神宮はありつづけるでござろう。なればこれからも天照様が居られて見守っていて頂けるのは、伊勢に暮らす者達も解っている事でしょう」
 そんな彼女の傍らにて一口、茶を啜った後に月夜は口を開き言葉吐くと間を挟んでから一つ、提案する。
「ならば暫し、ゆるりと出来るのではないかと。少しの間でも、美味しいものを求めて各地を旅すると言うのも乙でして」
「まぁ、悪くはないな」
 すればその問いに対し天照、満更でもないと応じるとその答えに対して月夜。
「拙者はお許し頂ければ近くで仕えたい」
「ふん、別に許しを請う必要はないぞ」
 微笑んで言えば、やがて返って来た答えの後に少女の頭に掌乗せて一度だけ撫でるのだった。

 何処かで閃光迸るも、それでも伊勢は今日も平和で‥‥他に前例のない、合同結婚式へ向けて着々と時間を進めていく。

 〜一時、終幕〜