●リプレイ本文
●怪しくないよ? 合同結婚式
伊勢、いよいよ目前に迫る合同結婚式‥‥それを迎える者達が誓いを立てるその式場を見回して緋月柚那(ea6601)はやや不満げに、首を傾げていた。
「むー‥‥式場は和洋折衷が良いのじゃ」
「まぁ、あちこちから来ているからねぇ。宴会場の方はそうなっているけど」
「重きを置く部分が違うのではありませんか?」
そんな彼女の言い分に今回の合同結婚式、主となって取り仕切る神野珠はと言えばあっけらかんとした口調で応じると苦笑を湛えて神田雄司(ea6476)も口を挟むが
「だって伊勢だし」
「「「‥‥あぁ」」」
あっさりと一言だけでその解を巫女が言えば、場にいる冒険者を納得させるがそれでも食い下がって柚那。
「と感心しておる場合ではないっ、余り時間がないのではないのかー!」
「ないわねぇ」
ばっと腕を振り実はまだ完全に出来上がっていない式場を指し示しては叫ぶも暖簾に腕押し、その事実を認めるからこそ珠は頷けば
「‥‥なぁガイエル、こいつうっちゃって良いか」
「貴殿では無理じゃろう。まぁともかくある時間を考えれば式場は一先ずこの方向で、精一杯に出来る事をする他にあるまい」
「そうですね」
やる気があるのかないのか要領を得ない巫女を指差して少女は傍らにいたガイエル・サンドゥーラ(ea8088)に縋りつくが、冷静に応じながら彼女は突貫での作業は止むを得ないだろうと判断したからこそ言うと、雄司も頷いて細々とした部分で手が入っていない式場を臨み自身の為にも奮起すべく腕まくりをした。
一方、宴会にて新郎新婦を持て成す料理の食材やら酒やらを買出しに街へ出たのは天城月夜(ea0321)と、幼い姿の天照大御神。
「皆、幸せな顔をしておるでござるなぁ♪」
「‥‥鬱陶しい、と言うか好い加減に降ろせ」
「これは失礼を」
すれ違うカップル‥‥数日後には夫婦になるのだろう、男女のつがいを微笑み見送る月夜だったがその際、抱える幼子を強く抱き締めていた様で不機嫌な声を露に天照が言えば止むを得ずそれに従う浪人の彼女。
「‥‥しかし、拙者はまだまだ無理そうでござるなぁ」
「何か言ったか」
もう十何度目かすれ違うカップルを見てぼそり囁くも、その声量故に聞き取れなかった天照の問い掛けには首を左右に振り、今は笑顔で言うのだった。
「良い結婚式になるといいでござるな」
●婚姻の儀 〜確かな誓い〜
何処か賑やかで、何処か慌しかった結婚式に至るまでの日は言うまでもなくあっと言う間に過ぎれば、無事にその当日を迎える。
装いは自由、と言う事でそれぞれに好きな格好で臨む集団のその中にミリート・アーティア(ea6226)とエドワード・ジルスの姿も当然ながらあった。
「今日は特別な日‥‥それじゃあ、旦那様にエスコートをお願いしてみよっかな」
互いに洋風の装い、ミリートだけは今日も髪を下ろしてうっすらと化粧も施せば何時もより艶のある笑みを浮かべ言い、手を差し出せば静かに頷いてエドが力強くその華奢な手を握り返せば歩みを進めるも
「‥‥むぅ」
「小次郎さん」
「ん‥‥あ、あぁ。済まないな」
そのかたや、十河小次郎はと言えば緊張しているのか面持ちは厳しいままだったが、それでも白無垢纏う茉莉花緋雨(eb3226)はそんな彼をリードする様に先の彼女らとは逆、新郎の手を握ればぎこちないながらも笑んで応じ、漸く式場の方へ歩き出す。
「‥‥‥」
そして続々とカップル達が式場へ向かう中、何時もより小奇麗な和の礼装に身を包む鋼蒼牙(ea3167)は傍らを歩く祥子内親王‥‥今となっては祥子か、を凝視して何事か思案する。
「何を考えているの?」
「‥‥洋風のドレス姿の祥子も見てみたいんだよなぁ。式終わった後でも良いから見せてくれ」
その様子に祥子は気になったからこそ尋ねるも、果たして彼から返って来た答えには拳だけで応じると言う、ある意味では普段と変わらない仲睦まじい光景があった事も添えておく。
「この良き日を迎えられ、お慶び申し上げます。皆様、この度は御成婚の儀、誠におめでとうございます」
と言う事で程無くして合同結婚式に参加する全員が式場に集えば珠の指名で司会進行を勤める事となったガイエルの挨拶を機に、式はいよいよ始まる。
「これからも末長く共に支え合い睦まじく日々を過ごされる様、未来に幸多からん事を御祈念申し上げ、祝辞とさせて頂きます。それでは‥‥」
とは言えガイエルでも緊張するか、挨拶が形式的なそれと同じなのはご愛嬌でそれでもつつがなく進めると、先ずは祝詞を織る珠‥‥流石にこれは本職の出番である。
が、これからが彼女らしいと言うか伊勢の本領発揮と言うか。
「これで祝詞が織り終わりました‥‥それじゃあ後は適当にお互い、誓いの言葉でも何でも交わしちゃって頂戴」
「「「ちょっと待てー!!!」」」
最初こそ務めて穏やかに言うも僅かな間を置いて後、すっかりと投げやりな調子で次に進めば無論、所構わずブーイングが起きるのは必須でガイエルと柚那は事前の打ち合わせでも聞いていなかったそれには舞台袖で流石に唖然として、どう対応したものかと逡巡するが
「はーい、天照様に焦がされたい人ー?」
その二人が解を導き出すより早く珠、後ろ手に隠していたのだろう天照大御神の襟元を掴みぶら下げては宣言すると‥‥先ず真っ先に焦がされた珠を見れば場に介する一同、それを前にしたからこそそれぞれに粛々と誓いの言葉等、発し始める。
「此処、伊勢の地が天照様の御許にて、生涯‥‥私の愛したエドワード・ジルスの伴侶として、共に在る事を誓います」
そんなちょっと混沌とした様相の中、それでも伊勢らしいと微笑んでミリートはやがてエドに向き直ると、果たして何時もの様に先んじて口を開き宣言すると
「生涯、誓います‥‥ミリート・アーティアを伴侶に、悲しみの夜に覆われても二人‥‥手を取り乗り越えていく事を」
エドもまた、何時も以上にはっきりとした声音で穏やかに宣言すれば初めて彼の方からミリートへ唇を寄せ、キスを交わせば新婦は目元から一筋の光の粒を零した。
一方、緋雨と小次郎はと言えば式場にいるにも拘らず今更な事を確認していた。
「結婚して、良いですよね」
「今更そんな事を聞くな‥‥」
無論、新婦のその問いに小次郎は否と言う筈もなく、最後に首だけ縦に振ればやがて意を決して緋雨を抱き寄せると‥‥暫くそのまま、固まるのだった。
やはり小次郎は据え膳食べない甲斐性無しかもしれない、なんて密かにほんの少しだけ緋雨は考えたが、自身の意は既に決めているからこそ固まる新郎の唇に自身の唇を重ねた。
「‥‥これからはずっと共に生きていこう。愛している、祥子」
「だが断る!」
「何ーっ!」
と何時もの漫才をやっているのが何処の新郎新婦かは察して貰うとして、とは言え流石にこの場で冗談を言うとは思えず指輪を手に持つ蒼牙は本気で衝撃を受けたからこそたたらを踏むが
「嘘よ」
直後、その様子に満足してか祥子は躊躇わずに先の解を訂正すると今度は身を前に屈め安堵する新郎へ、新婦は尚も言う。
「‥‥結婚しても変わる事はささやかだから、そんなに畏まる必要はないわよ」
「そんな事は‥‥」
その結婚論に蒼牙は僅かに悩み、それもまた答えではないと思ったから反論しようとするも‥‥それが言い終わるより早く、祥子は自身の唇で塞ぐのだった。
とまぁそんな感じでつつがなく伊勢らしい結婚式は思いの他にあっさりとその幕を閉じる‥‥のだが。
●最後まで宴会です
「うむ。二人とも可愛いでござるよ♪ お似合いかな。お似合いかな」
「エドが結婚とは正直驚いたが出会った頃に比べて、本当に男らしく頼もしくなったな。良い事だ。これからは二人仲良くな」
その後はと言えば言うまでもなく宴会が開かれれば数多いる新郎新婦の中を縫って回っては祝いの言葉を投げ掛ける月夜にガイエルへ、今はミリートが照れつつも頷き応じればエドもまたガイエルへ素直に頷くと邪魔者は退散と言わんばかり、颯爽と去る二人。
「‥‥今迄、無理に背伸びしてきたけど、もう必要ないかな?」
そんな二人の背中を見送りミリート、下げた髪を弄りながら囁けば首を傾げるエドと視線が合うと彼と向き合えば
「好きになってくれてありがとうだよ」
満面の笑顔でそれだけは言うと、やはり静かに頷いて後にエドは彼女の手を握り微笑み返した。
「しかし、レリアはそうなると姑の立場となるのか、保護者解放になるのか。レリアもそろそろ自身の幸せを考えた方が良いぞ」
その場面を遠目に、何時からかいた正装に身を包むレリア・ハイダルゼムへ言うガイエルではあったが、彼女と視線を合わせて後に剣士は微かにだけ笑むと颯爽とその場から踵を返すのだった。
暫しの時間の後、二人は蒼牙と祥子の元へも当然の様に顔を出し、祝辞を述べるも
「祥子は俺の嫁だ、手を出すんじゃねー!」
「祥子様、後悔は無いのですな?」
「‥‥まぁ、あればここにはいないし」
傍らで何やら叫んでいる新郎を冷めた目で見つつガイエルが投げた問い掛けには多少の間を置いて答える彼女、苦笑こそ湛えてはいるがそれでも一応は幸せと思っているらしい?
「が、その相手も蒼牙殿とはな‥‥ガンバッタ」
「温い視線なんか送るな!」
無論、似た様な反応は月夜も浮かべる訳で果たして肩を叩き励ます彼女に蒼牙は憤慨するも
「何が決め手だったのかと聞いてみたくは‥‥」
「ほぅ、それは確かに」
「俺も俺もぷげ」
その次に響いたガイエルの疑問には皆揃い、興味を覚えたからこそ祥子の方を見るも‥‥顔を真っ赤にして新郎を殴る辺り、恥ずかしくて言えないらしい。
「何かと苦労なさる事もお有りかと思いますが御協力致しますので、その時は何なりと‥‥斎王を辞められても我が主と思っております」
ともあれ肩で荒く息をする新婦を前に改めて恭しく、ガイエルが頭を垂れれば落ち着いて後に祥子は満面の笑顔を湛えて言った。
「ありがと、喧嘩でも何でもその時は呼ぶから宜しくね?」
「小次郎殿もいよいよ年貢の納め時か。女装先生と呼ばれていたのが何だか懐かしい限りだ。周りに押し流されぬ様、しっかりな。貴殿は優し過ぎるのか、どうにも心許無い‥‥伴侶に愛想を尽かされぬ様、気を付けられよ」
と笑顔で言うガイエルではあったが‥‥彼女含め近くにいるものは皆、その妹の存在が未だ見えない事に落ち着かない。
「大丈夫ですよ、小次郎さんなら」
だがそれでも、彼女の強さを信じるからこそ緋雨は気丈にも明るく振舞い笑顔を浮かべてガイエルに応じるが
「小次郎殿‥‥尻に敷かれてくれ。多分、そっちの方が楽しいぞ」
「お前ら‥‥」
月夜の茶々は流石に眉間を引き吊らせて呻く新郎に、新婦は果たして指輪を差し出す。
「とりあえず、これをつけて貰えませんか? そして祈りを捧げて下さい」
「まぁ、その程度なら‥‥が、そのお祈りの意味は?」
すると彼女の手で左手の薬指に嵌められたそれ、禁断の指輪は小次郎の祈りを受けて輝けば彼の肉体が女性らしい丸みを帯びる。
「何じゃこりゃー!」
無論、その効果に叫ぶ彼は女性になった事に気付くが、だからこそ場が盛り上がったのは言うまでもなく‥‥最後の最後で南無三と言う他になく、密かに新婦もほくそ笑んでいたのはここだけの話。
●
さて、そんな賑々しい新郎新婦を傍らに見守る者らの方もそこそこに盛り上がっていた。
「随分と静かに飲んでいるな、主賓ではないのか」
「はい、一応そうではありますが」
果たしてその界隈を練り歩く伊勢藩主、藤堂守也は雄司の姿を見止めると声を掛ければ徳利を差し出すと、杯を掲げて頷く彼に返って来た答えと比較してその身の回りを見れば一先ずの状況を察して話題を変える。
「‥‥そう言えば冒険者と言う位だ、他所の土地と比べて伊勢はどうだったか?」
「そう、ですね‥‥」
その問い掛けに対し、雄司は杯を煽り一息に酒を飲み干せば暫しの思案の後に笑顔を持って答えた。
「余り気にしてはいませんでしたが‥‥ここでの冒険が一番楽しかったと、そう思っています」
「はにわんこの名前は決めてあるのじゃ‥‥『八曜丸』じゃ!」
その一方、柚那と言えば宴会に呼びつけたアシュド・フォレクシーの傍らで伊勢海老の刺身を頬張りつつ、後僅かで完成に至る犬型埴輪の名を告げ、満面の笑みを浮かべていた。
「今後、八曜丸の調子が悪くなった時、柚那ではどうする事も出来ぬ。故にその時はアシュドーが診てくれるのであろう?」
「あぁ、その時は何時でも来ればいいさ」
が同時に不安も覚えていたからこそ彼女は重ねて問い質してみれば相変わらず苦笑を浮かべながらも魔術師が頷いた、丁度その時。
「折角だから、久し振りに一曲、贈らせて貰います!」
果たしてそう告げたのは今日の主賓がミリートで、リュートを掲げては弦を弾くと朗々たる詩を紡ぎ上げる。
『日向で交わる えにしの日
重ねた月日に 色彩を 明るく示すは胸の内
想いは募り 尚鮮やかに
望んだ絆は 熱を帯び 共に在りたいと願う今
手を取り合うこれからと それまでの暖かさに微笑みを‥‥』
明るくもこれからの希望を切に歌い上げるそれに聞き入る一同の中、月夜は天照に近付いては言葉囁く。
「式典の締めに天照様の一発技‥‥もとい、祝福の光っぽいものは出来ぬでござるらんかな? こうぱーーっと☆」
「そんな器用な事は出来ん、まぁ精々この程度だな」
その内容こそ偉く抽象的ではあるが、要は皆の門出を祝福したいと言う彼女の申し出に天照は頷き一つ、断りだけ入れれば盛大に新郎新婦の門出を祝うのだった‥‥宴会場の天井へでかい穴を開ける程の万物焼き焦がす閃光を持って成す祝砲で。
「最後までこんなかー!」
これが伊勢クオリティです、まる
●
果たして合同結婚式が終わってからどれだけの時が流れたか‥‥伊勢に残る者、また旅に出る者とその動向は様々であったが
「職がなければ この太刀は質に入れるべきか」
伊勢に残った者の一人は今、既に質屋を前にしていながらも悩んでいた。
褐色の肌を持つその浪人、傍らで微笑む女性の視線に気付いてかなりの時間を労しているにも拘らず何時までも待つと言った風に表情を変えない彼女へ、微笑を返せば
(「‥‥この人ならいいだろ、小夜?」)
内心で返って来る筈のない問い掛けをして後、やがて決心すると質屋へと足を踏み入れて伊勢にてこれから刻む未来への歩を進めるのだった。
それぞれの未来はそれぞれにあり、それぞれに形は違えどそれが幸せと思えるのなら、それは確かにその人にとって『幸福』であると思う。
それは何時か唐突に途絶えるのかもしれないけれど、それでも出来るのなら何処でも構わない‥‥何時までもそんな穏やかで幸せな刻を過ごして欲しいと、私は願って止まない。