【Dead Command】〜正義は何処〜
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■シリーズシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月07日〜12月12日
リプレイ公開日:2004年12月14日
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●オープニング
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
「まだ始まったばかりなのに、そんな調子で続けられるの?」
小川がせせらぐ山中、荒い息を吐いている一人の大柄な男が血に濡れ硬直した手から得物を何とか引き剥がすと、その様子を見て川岸に佇む女性はからかう様に彼に話し掛ける。
「次はうまくやるさ‥‥次は」
暗い表情に小声で呟く彼を見て、やれやれと両手を上げる彼女の耳に小枝が擦れる音が飛び込んで来るとやおら立ち上がって印を組もうとする。
「‥‥オレだ、いつもながら早とちりするな」
「警戒するに越した事はないし、間違ってあんただったとしても魔法じゃそう簡単に死なないかなー、って」
「お前程の腕前なら、オレでも死に掛けるだろうさ」
森の中から出てくる別な男性に彼女は皮肉を込めて言うも、正面切って真面目に言う彼の言葉に彼女は両の頬を膨らませる。
どうやら彼女が期待していた答えではなかった様で、彼は彼女を見て苦笑いを浮かべた。
そんな二人のやりとりを見ながらも、川面で体を洗っていた青年は血を洗い流してから岸へと上がり森から出てきた男性に問うた。
「次はどこだ?」
「ま、慌てなさんな。まずはこいつで腹ごしらえをしてからにしよう、明日もあるしな」
答えをはぐらかすかの様に両手に携えている鳥を掲げると、止むを得ず青年は巨躯を揺さぶってその場に座ると
「明日なんか‥‥いらねぇ」
憎しみの炎を瞳に宿し、小さく小さく呟いた。
「最近、本当に物騒よね」
「あれか、殺しの予告。次が起きればもう三件目か」
いつもの冒険者ギルドにて、日も短くなりまだ昼を過ぎてそう時間が経っていないにも拘らず既に頂点を逸れている太陽が更に西を目指す頃。
受付嬢と今は隠居しているがその昔、冒険者ギルドで働いていた父親が珍しくカウンターに顔を出し、最近起こっている物騒な事件について話していた。
「そうそう、怖いわよね‥‥それでその次の予告がどうやらある貴族さんに届いた様なんだけど、その護衛をしてくれないかって依頼がうちに来ちゃったのよねー」
たはー、と溜息をつく彼女に首を父親は傾げる。
「いい事だろ、でかい山だし成功させれば此処の箔もつく」
「そうなんだけど‥‥今まで狙われた人って余りいい噂を聞かないのよ。それでもしかすれば過去に何か‥‥何か黒い共通点があって、それで狙われているんじゃないのかな」
「もしかすれば殺す側に正義があるかも知れないから、と言う事か?」
父親の言葉に受付嬢は思っている事を口にすると、彼はその悩みの種を言い当て彼女が頷いて顔を上げるのを確認してから呟いた。
「正義なんて人それぞれさ、世界に生きている皆が皆同じ正義を持っている訳じゃない。そんな事、考えるだけ無駄だ」
それでも何か納得の行かない彼女に父親は、最後に一言だけ贈った。
「まぁ今回の依頼の中身は貴族様の護衛だろ? それだけなんだから何も問題は無いさ」
その言葉を受けて彼女は賛同する様に一つ頷くと、依頼書に向かうのだった。
●リプレイ本文
●Before Storm
「なぁなぁ、そこのメイドさんー。お仕事終わったら町でお茶でもしないー?」
依頼人の屋敷に到着した一行の中、着いて間もないにも拘らず相変らずナンパに勤しむヲーク・シン(ea5984)だったが、その腕前は未熟で声を掛けられたメイドは彼の言葉にふいと顔を背けると一行とは反対に歩き去っていった。
「此処のメイドさんはお堅いなー」
「‥‥それよりもまず、ロスさんと顔合わせをしないと」
そんな彼に少し先を進んでは呼び掛ける彼女‥‥もとい、れっきとした男性だがその風貌故に良く女性と間違えられるカシム・ヴォルフィード(ea0424)が諭す様に言うと、ヲークは肝心な事を思い出し一行の後を追い駆けると、依頼人が待つ広間へと入って行った。
ロスとの挨拶を終えた後、一行は二手に分かれる。
「依頼人だからって言っても、あの態度は頭にくるなー」
「それでも依頼として引き受けた以上、全うしなければならない‥‥」
「分かってるけどね、でもああいう人なら黒い噂なんてのがあっても当然そう」
「まぁ、調べていけば分かるよ」
外に出て、今回の件に絡む情報を集めに走るのは叶朔夜(ea6769)とその肩に止まるシフールのプリム・リアーナ(ea8202)にカシムの三人。
依頼人の横柄な態度が気に入らないと未だに引き摺るプリムを二人は宥めながら、先を歩く叶の足はキャメロットに店を構えるそれなりに大きな酒場の入口をくぐって、喧騒の最中でカウンターに座しては洗い物に精を出すマスターの目の前の椅子に腰を掛けると叶が単刀直入に話を切り出す。
「最近、巷を騒がせている殺人事件について話を聞きたいんだが」
「その事を聞いてくる、って事はロスさんの依頼を引き受けた冒険者か」
静かに頷き、プリムはカウンターへ金貨を一枚置いた。
「‥‥内容にも拠るが、知っている事は少ないぞ。そしてそれについてはどこも同じだが、問題ないよな?」
マスターの言葉に、数が少なくとも情報が枯渇している現状を鑑みて二人は頷く他なかった。
「堂々と予告する位だ、普通にはやってこないだろうな」
情報収集している三人とは別に、襲撃に備えてヲークが講じた策を仕掛ける残りの三人の中、ソラム・ビッテンフェルト(ea2545)とカオル・ヴァールハイト(ea3548)は屋外の手薄そうな場所に鳴子を設置していた。
「普通ならそうなんでしょうがまだ情報が得られていない以上、思い込みも危険ですよ」
「まぁ、確かにな」
ウィザードらしい発言をするソラムに彼女が頷いた時、依頼人であるロスがやって来て声を掛ける。
「そんな物で何とか出来れば苦労などしないがな」
挨拶の時も「金はたっぷり払ったんだ、オレの命はしっかり守れよ」といきなり言う辺り、金と権力さえあれば何でも出来ると思っている小物な貴族だと伺え、一行の心象は良くなかった。
「‥‥何もしないよりはいいと思いますが」
「それとも、最善を尽くさずに死にたいのですか?」
相変らず高圧的な依頼人の態度に二人は静かに言い、再び作業に戻ればロスはふんと鼻を鳴らし
「‥‥頑張ってくれ給え」
彼女らの発言に自らを省みる事無くそう言うと、その場を後にする。
「貴族ならば文武に優れていなくてはな‥‥ふぅ、仕事に私情は禁物だな」
「分かってはいるんですが、あの手の人は好きになれないんですよね」
彼が去り、二人がそう静かに呟く中
「そこの庭師のお姉さんー、一休憩にお茶でも一緒にどうですかー?」
ヲークのそんな行動に二人は、さっきとは別の意味な嘆息を漏らさずにはいられなかった。
「‥‥とまぁ依頼人の評判は余り良くないみたい、でもそれは態度から来るものだけで命を狙われるまで、とは思えないな〜」
「接点については全く出て来なかった、だが暗殺者についての詳細はある程度分かった」
「動機は分からずとも、罪は罪。償って貰おうか」
プリムと叶が仕入れてきた情報を聞く四人の中、カオルの言葉は確かに真理。
「いづれにしろ、手心を加えるつもりはない。それで異論はないな?」
彼女の言葉を受けて、この依頼で初めて聞くヲークの真面目な声音に複雑な表情を浮かべるカシムがいたが、それでもやがて皆は頷いた。
●Darkness Battle
そして予告された当日を迎える一行、プリムと叶が仕入れた情報を元に警戒は昼から始まり、そして今は月が頂点へと昇っている。
休憩を挟みながらも常に二人一組の計四組で屋敷の周囲の監視を怠らず続けていたが、その一角が不意に崩れた。
「くせ‥‥」
多くの篝火が揺らめく中、最後まで言う事無く大振りのナイフを喉元に突き刺され覚める事の無い眠りにつく、そしてもう一人も既に息はしていない。
「灯りがあるだけで、人は気を緩ませる‥‥」
「にしたって、鳴子に気を使い過ぎじゃないか?」
「しかも向こうさんは大歓迎と言わんばかりね」
次々に囁く二人に、彼は屋敷を見ると確かに窓に板を貼り付けてあるのが見えるだけでも内部がどうなっているかは想像に難くない。
「‥‥来る、駆け抜けるぞ」
「結局いつもと同じなのね」
溜息をつく彼女だったが、存在が気付かれた事を察すると三人は揃って駆けるのだった。
カシムのブレスセンサーが効果時間ギリギリでその事態を感知すると
「来ました‥‥屋敷の入口近く、三つの呼吸が増えて今まであった二つが消えました」
「比較的近いか、なら急ごう。しかし、まさか正面から来るとは」
口笛を吹いては追い駆けるカシムに叶は開け放たれた玄関を潜ろうとした時。
微かな灯りの屋敷内から、叶目掛けて突如現れた影が振るう凶刃を避ける事叶わず胸元を切り裂かれ転倒する。
「ぐっ!」
「叶っ!」
「先に行く」
倒れる叶に駆け寄るカシムを傍目に、切り掛かってきた当人はもう一人の男を連れ立って迷う事無く廊下を先へと進む。
「また面倒な所だけ押し付けて‥‥これだから男って!」
そう叫びながらも暗殺者の一人は手早く印を完成させ、遅れて駆けつける自警団の一組に狙いを定めて暴風を叩きつけ、しかし結果を確認する事無く続けて同じ印を組み始めるが今度はカシムもそれに対応する様に叶の前に立つと、女性であろう暗殺者と同じ印を組みストームを完成させる。
同時に展開され衝突する暴風に、しかしカシムが僅かに押される。
「へぇ、面白い」
「く‥‥けれど貴女だけでも先へは進めさせませんっ!」
まだ余裕があるのか、明るい声音で言う暗殺者にカシムは叫ぶと再び二人は同時に印を組み、そして荒れ狂う風と風が激しくぶつかり合った。
ず‥‥ん
「来たか」
口笛の音の後に続いて微かに屋敷が揺れるのを感じて、ヲークが呟きカオルは静かに抜剣すれば
「報酬分ははたら‥‥」
ロスが言葉を紡ごうとした矢先、扉は思い切り蹴破られ大きな影が飛び込んでくると自警団の一人を切り捨て、速度をそのままに依頼人へ肉薄して再び刃を振るおうとするも
「吹き荒れよ、氷雪の刃‥‥アイスブリザード!」
真正面からの突撃に驚きながらも、角度と配置を計算した上で放つソラムの氷の嵐に巨躯の影はそれに構わず尚も肉薄するが、そこにヲークが間に合いその刃を受け止めて驚く。
「白い‥‥髪だと」
「ちぃ」
破れた覆面から覗く白い長髪に舌打ちし、ヲークが振るう剣の腕前に苛立ちを覚えながらも剣戟を幾度と重ねる。
「覚悟して貰うぞ」
二人の激しい剣戟の中、カオルはもう一人の襲撃者と対峙する。
「そう怖い顔しなさんな、美しい顔が台無しだ」
「黙れ! 行くぞっ!」
軽口を叩く襲撃者目掛けて振るう強烈な一撃だったが、交差させた二刀の前にいなされる。
『出来る』
刃を交えた者同士、瞬時にそれを察すると場の緊迫感が一気に上がる。
「何の為にお前は人を殺める‥‥もし正義とか言うのなら、それは他人が決める事だ!」
それでも叫び、ロングソードを叩きつけるヲークの一撃はまたしても受け止められるが、それでもその場に押さえつける様にギリギリと力を込める。
「そのつもりはない、過去にしがみつく亡霊としてはな」
「ちっ」
言うと同時、軽く膝を落とし一瞬だけヲークの体勢を崩すと再び依頼人の元へと駆ける。
「悪いけどソコで凍ってて」
だがその危機を救うのはプリム、彼の刃がロスへと届く直前に印は完成し、瞬く間に依頼人を氷の棺に封印する。
「んなのありかよ!」
カオルと剣を交える男の連撃が鎧を掠め、距離を置いて見たその光景に叫ぶ。
「氷の棺よ、彼の者を封じ‥‥っ」
その隙にカオルと剣を交える男を目標にアイスコフィンを紡ぐソラムだったが、辛うじてそれに気付いた男が投擲するナイフによって阻まれる。
「退くぞ、状況が不利過ぎる。捕まりたいなら話は別だがな」
「‥‥ちっ」
男の提言に白髪の男は舌打ちすると迫るヲークの刃をすんでで避けて距離を置くと、ナイフを投げて室内の照明を破壊すればもう一人の男もまた正確に照明を壊す。
「逃がすかよ!」
「また‥‥いづれ来る」
闇に包まれる部屋で辛うじて白髪の男の男を視認して振るう刃に手応えを感じるもそれは浅く、尚迫ろうとしたが直後に割れる窓の音を聞くと深追いせず、剣を振るっては血糊を払うヲーク。
「取り敢えず、何とかなったな」
「ロスさんにとって、今回の件がいい薬になればいいですが」
傷だらけの皮鎧を撫でながら安堵するカオルに、ソラムは未だ氷漬けの依頼人を見て微苦笑を浮かべた。
●End of Next
翌朝、犯人一味こそ逃がしたものの依頼人は守りきった一行は出立の準備をしていた。
何はともあれ、依頼は成功したと言えよう‥‥但し、緊急とは言え依頼人を氷漬けにした件は棺から解放された当人に激しく怒られた為、成果としてはプラスマイナスゼロだろう。
「しかしお互いがまだ生きている以上、同じ事がまた起こるだろうな」
「その時が来れば、今回の事からまた此処に依頼が舞い込んで来るだろう。その時に決着をつければいい‥‥」
叶の呟きにカオルの言葉に頷く一行、謎こそ残るがまた合い見える日は然程遠くないだろう。
遠くから響いてくるヲークの声に溜息をつきながらも、そう感じずにはいられなかった。