【Dead Command】〜真実の名は〜

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月19日〜12月29日

リプレイ公開日:2004年12月25日

●オープニング

 ロス氏の護衛を無事に達成してから暫く、予想に反してキャメロットで次の殺人予告は起こる事無く今に至る。
 しかしギルドの方はと言えば年の瀬に向けて沢山の依頼が舞い込み、受付嬢は慌しく依頼書を書いていれば次には乱雑に散らばっている報告書の山を少しずつ片付けたりと、ギルド内をあちこち駆け回っていた。
「あー、この時期は嫌になるわ!」
「‥‥普通、この時期忙しくなる事は分かっているだろう? それを考えれば報告書は常日頃から整理しておくもんだけどな」
「むぅ‥‥」
 整理整頓が苦手なのだろう‥‥そんな意外な一面を見せながらも受付嬢が叫ぶが、その様子を遠めに見守る父親は呆れて呟く。
 確かにその通り、彼女の答えは唸る他なかった。
「手伝いましょうか?」
「気持ちだけ頂いておくわ‥‥っと!」
 そんなやり取りに暇そうな一人の女性冒険者が声を掛けるが、それでもギルド関係者でない人間に手伝って貰う訳にも行かず、彼女の申し出に感謝しながら整理する為に資料をカウンターに積み上げた時だった。
 カランカラン
 冒険者ギルドの扉が開き、その上部につく鈴が可愛らしく鳴ると扉から現れたのは一人の少女。
「どうしたのかな、お嬢ちゃん?」
「お兄ちゃんを一緒に探してくれる人、いませんか?」
 忙しいにも拘らず珍客の到来にカウンターを出ては少女の前に屈んで訪ねる受付嬢に、少女ははっきりとその旨を伝えると受付嬢に硬貨が入っていると思われる袋を渡し
「どんな人なの?」
「とても大きくて、優しくて、白くて長い髪がとても綺麗なんです!」
 更に詳しく尋ねる受付嬢に、少女は満面の笑みでそう答えると静かにその場が凍る。
「それって‥‥」
 言いかけて慌てて口を紡ぐ受付嬢は先日ロス氏を助けた際に報告書をまとめた時、冒険者の話を思い出す。
『‥‥あのでかい奴、顔こそ覆面で見えなかったが破けた所から現れた、白い長髪は忘れようにも忘れられないな』
 そんな事を考えるも、当の少女は話を続ける。
「今までも良く家を空ける事はあったんですけど、今月の頭に出て行ったきり帰って来ないんです‥‥キャメロットにいると思うんですけど、こんなに長い期間家に帰って来なかった事は初めてで心配なんです」
 そう言う少女の瞳は真っ直ぐで、彼女の話に嘘偽りが無い事は明らかに見て取れた受付嬢は一つ頷いて答えるのだった。
「ここに来ている人でお兄ちゃんの事を知っている人がいるかも知れないから、その人達と一緒に探そうか?」
 その言葉に少女もまた頷くと、受付嬢に父親は複雑な面持ちを隠しながらも笑みを浮かべた。

●今回の参加者

 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea6769 叶 朔夜(28歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6900 フェザー・フォーリング(26歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea6902 レイニー・フォーリング(26歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea8202 プリム・リアーナ(21歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

●Breeze
「私はフェザー・フォーリングと言います、「妹」のレイニー共々よろしくお願いします」
「俺はレイニー、フェザーとは兄「弟」だ! 女装は諸般の事情で「しかたなく」やらされている」
 そう言って礼儀正しく一礼をするシフールのフェザー・フォーリング(ea6900)だったが、含みのある言い回しと同時に彼の後頭部目掛けて弟のレイニー・フォーリング(ea6902)が放つ蹴りは見事に命中し、優雅な姿勢から一転して墜落しない様にバタバタとバランスを取ろうともがく。
「よ、宜しくお願いしますね」
 そんな彼らと挨拶を交わしながら、クスクスと笑う依頼人である少女の様子を見て一行は少なからず安堵を覚えた。
「彼女はお兄さんの事については何も知らない様ですね」
「その方が助かる、まだ年端も行かぬ子だ。知っていては平然としていられぬだろう」
 カシム・ヴォルフィード(ea0424)と叶朔夜(ea6769)の呟きに、しかし彼女はそれを聞く事無く自らの紹介を始める。
「私の名前はセアトと言います。それとお兄ちゃんの名前なんですが、ゼストって言います。特徴はギルドのお姉さんに話した通りなので探しやすいとは思うんですけど‥‥」
 徐々に節目がちになりながらも話す彼女の言葉に混じる、白髪の男の名を聞いてヲーク・シン(ea5984)は静かに呟いた。
「あいつ、ゼストって言うのか」
「そう言えば、ギルドのお姉さんが『お兄ちゃんと皆さんはお知り合いだ』って言っていましたけど、そうなんですか?」
 彼の独白を、今度はしっかり聞いたセアトがそう尋ねると一行は言い詰まる。
 まさか本当の事を言う訳にも行かない一行の中
「セアトのお兄ちゃんとはこの前、たた‥‥」
 プリム・リアーナ(ea8202)が言い掛ける真実、人とは肝心な時に素の性格が出てしまう訳で、彼女もそんな一人だったが
「仕事で知り合って、成り行きで剣の相手をして貰ったんだ。尤も、私の技量ではまるで相手にもならなかったのだが」
 彼女より大きな声で話す叶、だが話すにつれゼストとの初見を思い出し声音が小さくなりながらもフォローすると、安堵の溜息を漏らす一行は彼の言葉に頷く。
「お兄ちゃんは強いんだよー」
「あぁ、強かったぞ。それじゃあ早くそのお兄ちゃんを捜しに行く事にしような」
 誇らしげに胸を張って言う彼女に、ヲークはその頭を撫でて言うといつの間にか先を飛ぶ三人のシフールの後を追い掛けるのだった。

●Storm Seeker
 とある酒場で顔全体を覆うヘビーヘルムを身に着けた、いささか場違いな男がマスターに尋ねた。
「ロスさんがセアト、と言う名の少女を探しているんだが知らないか? その少女がこの前ロスさんを襲った白髪の奴を探しているみたいなんでな」
「‥‥さぁ、少なくともここらでは聞いた事のない名前だな」
 そんな彼をいかぶしりもせず首を傾げる初老のマスターに、それでも仮面の男は再び尋ねる。
「冒険者と一緒になって探している様で目立つ筈なんだが、見ていないか」
 その問いに今度は首を振るマスターの表情を確認して、一礼すると彼はその酒場も静かに後にする。
「さて‥‥そろそろ動きがあってもいいと思うが」
 外に出て愛馬の近くまで行き、ヘビーヘルムを脱いだ彼はヲークその人。
 ゼスト他二人の襲撃者達をロスに依頼人の名前を織り交ぜた情報操作で誘い出す為、それ故に顔を隠して同じ様な情報を数日前から様々な話が飛び交う場所で重点的にばら撒き、当人達が出て来るのを待っていた。
「見付かりませんね」
「そうか、参ったな」
 しかし五日を費やしてもまだ動きを見せない目標に苛立ちを隠せず、それでも落ち着こうと空を仰いだ時、上空からヲークに声を掛けてきたフェザー。
 何度か描き直した上でセアトからお墨付きを貰った似顔絵を元に探しつつ、ヲーク同様に情報操作の手伝いをする彼もまた、行き詰った感を漂わせている。
「でもここまで来た以上、頑張るしかありませんね」
「そうだな、今日もあと少しだしもう一頑張りしてみよう」
 そして互いに言葉を交わし彼らは別れると、再び行動するのだった。

 その一方でセアトと一緒に、その兄ゼストを探すカシム、叶、レイニーの三人。
「人探しは地道に探す他ないとは言え、大変ですね」
「全く、とは言えめんどくせぇな」
 セアトから聞いた兄が行っていると思われる仕事先を虱潰しに探すも、今の所は手掛かりなし。
 ヲーク達同様に行き詰まりながら、それでも僅かな情報でも得ようと町を闊歩する四人の中、ふと漏らしたカシムの言葉に賛同するその容姿とは裏腹に荒い言葉を吐いたシフールだったが、失言だった事に気付き慌てて自らの口を押さえるも、時既に遅くセアトは顔を俯かせ
「ごめんなさい、やっぱり難しいですよね‥‥」
「だ、大丈夫だから、なっ、なっ?」
 小さな声音で彼女が言葉を捻り出すと、彼女の回りを飛び交って宥めるレイニーだったがセアトはまだ見つからない焦りも重なってか、益々落ち込んでしまう。
 と、そんな時だった。鳥の様な鳴き声が辺りに響いたのは。
 それを発する主は叶、子供の相手は苦手な忍者だったがその雰囲気を察しての行動に、仲間は苦笑を浮かべ、セアトはいきなりの事にビックリするもやがて顔を上げて笑顔を浮かべた。
「まぁ‥‥あれだ。確かに大変だが、それでも私達が引き受けたから‥‥結果はまだ分からないけど、最善の努力をしているから信じて欲しい」
 たどたどしい口調ながらもセアトに言うと再び鳥の鳴真似する叶。
「きっと見つけますから、ね」
 カシムがそう紡げばレイニーも力強く頷く姿を見て
「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
『‥‥男だよ、僕(俺)は』
「知ってるよ」
 二人の重なる返事に彼女は微笑んだ、子供とはかくも純粋である。

 まだ降る雪の中、一人宮廷図書館を後にするプリム。
「どうしてこんなに情報が少ないのかしら」
 一連の事件に関する謎を解く為に情報収集と断片の整理をするが、襲撃者の一人であるゼストの素性等についてはセアトの話からある程度分かったものの、セアトに尋ねても分からなかった二人の犠牲者及びロスとの接点等、事件を解く為に必要とされる情報がどうしても足りなかった。
「今回の事件の発端‥‥もしかしてキャメロットじゃなく、他の地方で事件なのかな?」
 キャメロットで欲する情報が手に入らない、と言う事は暗にそれを裏付ける事を察する。
 その事が分かっただけでも前進と言えるが、それ以上の進展は望めそうもなく彼女は八つ当たり気味に叫んだ。
「もぉ、何でシフール用の防寒着が無いのよっ!」
 そして寒さに身を震わせながら、一行に合流すべく空へと羽ばたいた。

 それから暫くの時を経ても、ゼストと他二人を見つける事が出来ず苦戦する一行。
 寒さ故に行動出来る時間も限られる中、だが邂逅の時は紛れもなく近付いていた。
 期間も残すは明日だけとなり、それでも一行は明日へ備え夕餉の一時をセアトと楽しんでいたその時だった。
「ご相席、宜しいかしら?」
「貴女は‥‥」
「遅ればせながらお迎えに上がったのよ」
 一人の女性の問い掛け、そしてその声に聞き覚えのあるカシムの言葉に彼女は空いている椅子に掛けると、一行を見回して妖艶な笑みを浮かべた。

●Tempest
「お兄ちゃん!」
 翌日の夜、一行とセアトはシェリアと言うウィザードの指示に従ってキャメロットの外れにある一軒の古びた家へとやって来ると、出迎えたのは白髪の巨漢だった。
 彼は何も言わず妹を抱きとめるとヲーク達と初めて出会った時とは全く違った優しい表情を浮かべ、彼女を肩に担ぎ上げると長い白髪をたなびかせ
「‥‥済まなかったな」
 誰にともなく小声で呟いて、家の中へと消える。
「もう少し、言い方があるだろうが」
「ああ言う奴だからな、気にすると疲れるぜ」
 ゼストの物言いに今回は敵対しない意思を持っている一行の中、それでもヲークが不機嫌そうに言うと宥める襲撃者の一人の男。
「んじゃお疲れさん、あいつも妹の事だけは心配していた様だったからな、助かった‥‥って、それだけじゃ終わらせてはくれないか」
「そりゃな。此処まで来てはいさようなら、って言う訳ないじゃねぇか」
「世間を騒がせている事件ですし、事の真相が気にならない人などキャメロットにはいませんよ」
 その男の言葉に、一行を代表して言うシフール兄弟とそれに頷く四人にシェリアは笑みを浮かべ、家へと招き入れた。

 薄暗い部屋の一つ、ゼストと依頼人を除く八人が一つの卓を囲む。
「今回の件、簡単に言っちまえば復讐、だな。お察し頂いているかも知れないが」
「二人の犠牲者にロスさん達の接点は? 以前から噂以上の情報が全然見つからなかったんだけど‥‥それとそもそも何があって復讐なんて考えに」
「昔‥‥ある土地で、ある貴族の一門が滅んだ。未だにその真相は明らかにされていないが、オレ達が襲った奴らはその事件に絡んでいた。そしてゼスト達は事件の数少ない生き残り‥‥あいつは様々な手で隠蔽された真相を復讐で返そうとし、オレ達はその手助けをしているのさ。それと君が情報が掴めなかったのは、昔の事とは言え此処で起きた事件じゃないからだ」
 グロウと言う名の青年が簡潔な動機を言うと、前々から気になっていた事をズバリ尋ねるプリムにそれも丁寧に答える彼。
「でも、妹さんがいるなら何もそんな道を選ばなくても。出来る事なら、今からでもゼストさんには妹さんと幸せに暮らして‥‥」
「今回の件は感謝しよう。だがそれは受入れられない、オレは奴らを知ってしまった。そして見つけた、あの誓いを果たす時が今なら‥‥もう、話す事はない」
 それでもカシムが優しさ故に紡いだ言葉は、いつの間にか現れた本人によって拒絶される。
「どうやら引く気はない様だな」
「敵としてまた逢い見える時が来たら、あの借りは必ず返そう‥‥」
 ゼストの瞳を見て、揺るがない決意を悟るとヲークに叶はそれだけ言って席を立った。

 そして此処に彼らの道は再び分かたれる、だが次に逢う時もまたそう遠くないだろう‥‥。