【レギオン】変異魔蟲
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■シリーズシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:6 G 20 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月13日〜08月28日
リプレイ公開日:2005年08月20日
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●オープニング
「今戻った」
「ご苦労、探し物は無事に見付かったか?」
ノッテンガム城にて、帰還の報告をするレイ・ヴォルクスへ労いの言葉を掛ける領主のオーウェン・シュドゥルク。
その問いに答えの代わり、一つだけ彼が頷けば早速領主は本題を切り出す。
「‥‥帰って来たばかりで済まないが一つ、調査を頼む」
「『レギオン』に付いて、だな。さっき話は聞いた‥‥いよいよ持って本格的に動き出して来た、と言う所か」
「恐らく、だが幸いにもまだ封印はほとんど解放されていないとゼストから報告があった。だがそれに関連する文献は未だ調査中、口伝に伝わる話通りとすれば厄介なのだがその確証は取れていない‥‥」
「確か護衛付きの商団が襲われたと言う話だったな‥‥現場の調査と索敵殲滅、『レギオン』に付いて出来る範囲での生態情報を集めてくればいいか?」
「うむ、封印についてはシャーウッドの森に住まうエルフ達とゼストに頼んである。一先ずお前にはそれだけ、頼む」
顔を顰め現状に今回の依頼内容を告げればレイは取り急ぎ踵を返し、準備を始めようと退出しようとしたが
「‥‥すまん、長期間に渡って警戒を続ける必要があるのでキャメロットの冒険者ギルドへ依頼要請も出してくれ。一番早く着くだろう伝書鳩は既に準備してある」
領主の願いにレイはやはり「分かっている」と言う返事の代わり、手を掲げれば改めて領主の部屋を退出するのだった。
「しかし何か引っ掛かる‥‥口伝通りなら『レギオン』自体、奴らの手にも負えず封印された筈のものを何故、今になって」
そして一人残されたオーウェンは疑問を呟くも、それに答える者はこの時はまだ誰もいなかった‥‥。
それから数日後。
「‥‥ノッテンガムで一番早い伝書鳩よね、確かこの子って。何か急ぎの依頼なのかしら?」
冒険者ギルドに辿り着いた一羽の伝書鳩を見て首を傾げる受付嬢、足に留められている羊皮紙を解いて伝書鳩を外に放つと、火急の用件が書かれているだろうそれを開き‥‥大仰に肩を落とす。
『レギオン・調査・ノッテンガム危険・長期間・まず十人』
それに記されていた文‥‥と言うより単語はたったこれだけ、これでは依頼書を認める事が出来ない。
「嫌がらせなのかしら、これ‥‥‥‥全く持って意味が分からないじゃないー!」
あり得ないとは思いつつも、そう疑いたくなる内容に受付嬢は暫しどうしたものかと困惑し‥‥だが遂には呆れが怒りに変換されると、我慢出来ずに彼女は羊皮紙を引き千切った。
その行動もどうかと思うが、翌日になって詳細が記された文章を携え別の伝書鳩がやって来ると受付嬢は安堵し、しかしその内容から早々に依頼書を書き上げるのだった。
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ミッション:商団を襲った謎の敵を見付け、殲滅せよ!
成功条件:???
達成条件:謎の敵の殲滅。
失敗条件:殲滅出来なかった時。
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は不要、依頼人側で提供します。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)
その他:商団を襲撃したと思われるモンスターは『レギオン』と言う、ノッテンガムの文献上ではシャーウッドの森に封印されていると言われているモンスターの可能性が非常に高いそうです。
現在、残っている文献を調査中で『レギオン』の能力など詳細については不明となっておりますので、十分に気を付け下さい。
長期間の依頼に加え、今後も対応して欲しいとの要求を受けていますので参加の際はそれを踏まえた上でご協力頂けます様、宜しくお願いします。
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●リプレイ本文
●Darkness(闇の中)
「‥‥『レギオン』はどうだ?」
「封印目指して森を迷走している真最中、ってところか?」
広い部屋に響く声、蒼き鎧を纏う男の問いへ黒き衣を羽織る男が端的に状況を伝えればその彼へ次なる指示を下す。
「‥‥暫くは静観、監視を徹底せよ。今はまだ我々が動く必要はない、なるべく時間を稼ぎ‥‥目を惹く必要があるからな」
「あいよ、そっちはそっちで準備を進めておいてくれよ」
「‥‥分かっている、それでは頼む」
それだけ交わせば黒衣の男は踵を返し、その場を後にすれば扉が閉まると同時に部屋に沈黙が満ちた。
●A Wind(一陣の風)
「お久し振りであります、レイ殿」
「アンドリューか、確かに久しいな‥‥元気そうで何よりだ。それと皆、今回は宜しく頼む」
「はっ! 力の及ぶ限り頑張ります!」
ノッテンガム城が前、冒険者達と邂逅を果たすレイ・ヴォルクスはアンドリュー・カールセン(ea5936)の敬礼を持った挨拶に倣い、敬礼で返してから一行を見回して一人の魔術師と視線が合う。
「この前は貴方の為に働いたレディへとっっっても見覚えのある報酬、ありがとう‥‥それが言いたくてノッテンガムへ来たのよ!」
「ロアもそれだけの為にわざわざ足を運んで貰って済まないな」
その魔術師ことロア・パープルストーム(ea4460)は露骨な皮肉を言うも、彼は平然と言って返す。
(「‥‥この人は‥‥本気で言っているのかしら」)
相変わらず目深に被る皮の帽子のおかげで表情は読み取れないが、飄々とした態度からロアは内心呟きながら後手に固める拳を震わせたりする。
「レイ殿、此度も宜しく頼む。で、『レギオン』や襲われた商団について‥‥それにこれ以外の事件がなかったかお教え頂けるか?」
そんな二人の雰囲気を察してか、静かな雰囲気を纏わせ尋ねるガイエル・サンドゥーラ(ea8088)の問いにレイは頭を掻きながら向き直るとその口を再び開く。
「‥‥此処で話だけ、と言うのもなんだろう。城内に入ってくれ、必要だろう物は残してある‥‥余り見せたくはないのだがな」
「そうも言っていられぬから呼んだのだろう、レイ殿‥‥それと念の為に確認しておきたいのだが、『レギオン』について忘れている事はないだろうな?」
重い口調で言うと同時、踵を返せば一足先に城門をくぐる彼へノース・ウィル(ea2269)がその背へ尋ねると、ぴたりと彼の歩が止まり
「‥‥さぁな」
(『おーい』)
僅かな間を置いてから帰って来た答えに一行は内心で一斉に呻けば、そんな彼らの様子を背中越しに察してか、レイは再び城内目指して歩き出すのだった。
「‥‥腹部の殴打、全身に無数の刺し傷。どれも規則性はない様ですね」
「しかしこの刺し傷、余程深くまで刺さっているな。力があるのか、それとも‥‥」
残された様々な荷の手前、騎士だったと言う一つの死体へ場にいる皆は黙礼をしてから検分を開始すればセリア・アストライア(ea0364)とアレクサンドル・リュース(eb1600)はその死体に残された余りにも多い傷から敵の様相について判別出来ず、首を捻るばかり。
「ねぇ、レイ。此処に残っているものの『何か』を狙って襲ってきたって事‥‥ないかしら?」
その傍らで商隊が運んでいたのだろう、状態こそ様々な物を見てロアが問い掛けると
「それはないな、魔法の武器や特別な代物はなかった。見て分かる通り、一般的な雑貨ばかりで食物も食い荒らされている形跡はなかった‥‥恐らくは偶然『レギオン』に出くわし、巻き込まれたと言うのが現状では濃厚な線だな」
「そう‥‥でも、それを再現して試してみる事って出来ないかしら?」
「襲われた時間も分かれば、それも踏まえた上で行いたいな」
返ってきたその答えに僅か、ロアは肩を落としたが‥‥それでもあり得るだろう可能性を試したいと言う彼女にルクス・シュラウヴェル(ea5001)も賛同するとレイは暫く考えるがやがて一つだけ、頷いた。
「‥‥試してみる価値はあるか、オーウェンにすぐ手配出来るか相談してみよう」
●Over Run(踏み荒らし)
「流石に『レギオン』の死体はありませんね〜、でもこの無数の足跡‥‥」
あれから出来るだけの準備を済ませ商隊が襲われた場所へ辿り着いた一行、騎士のクラリッサ・シュフィール(ea1180)が言う通りに残された無数の痕跡‥‥恐らくは『レギオン』の足跡だろうそれを見て唖然とする。
「余りに多過ぎる、この辺り一帯もそうだったが‥‥随分と森が踏み荒され、木々も打ち倒されている」
「でもこれで一つ確証が取れましたね、多数で行動している事と森の破壊だけを考えている事が‥‥」
現場に残る者達の元へ、レイとアンドリューを連れて戻って来たリィ・フェイラン(ea9093)が状況を皆へ伝えれば、ノッテンガムで未だ進められている『レギオン』の資料解読を一番に手伝ったロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(ea7209)が僅かに読み解けたその一端を思い出し、一つ頷く。
「となると、これは無駄だったかも」
「今更だが、そうなるか‥‥しかし完全に無駄になる事もあるまい。使えるだろうものもあるだろうしな」
「使っていいの?」
そして一行の力で此処まで持って来た荷台をちらりと見やり嘆息を漏らすが、レイの協力的な言葉にロアが尋ね返すと
「無償、と言う訳にはいかんがな」
「‥‥それもそうよね」
彼は口元に笑みを浮かべ返せばそれにロアも納得して笑う。
「皆さん、行きましょう。恐れている余裕はありませんし、手を拱いていれば犠牲は増える一方ですから」
それから暫く、一行は慎重を重ねる為に様々な憶測や推論を立てるもセリアは柔らかな口調で紡ぐ提案に賛成し、魔蟲蔓延るだろう森の奥へと歩を進めた。
「しかしもう少し、文献に付いて読む余裕があれば良かったな。今までに見た事象が文献の通りである以上‥‥『レギオン』は蜘蛛の様な生物なのだろうな」
「見てみないと分かりませんけど、その可能性が非常に高いでしょうね」
レギオン達が走り去った後だろう、根元付近から衝撃によって薙ぎ倒されている木々を傍目で見ながら呟くガイエルが改めてそう考えると、ロゼッタも彼女の話に相槌を打つ。
「‥‥これでは罠を仕掛けようにも仕掛ける事が出来ないな」
「全くだな、現状では目視で捕捉する以外に手段がないか」
そんな周囲の変わり果てた風景に、顔を顰めアンドリューとリィは貢献出来る機会が一つ減った事に呻いたが不意に耳をそばだてたのはハーフエルフの射手。
「リィ殿、どうした?」
「‥‥アンドリュー、あのやたらと匂う保存食を」
彼女の反応にノースが問い掛けると、彼女はアンドリューへそれだけ頼めば皆を見回し‥‥その『音』を捉えたまま、厳かにその口を開いた。
「来る」
それと同時、彼が強烈な匂いを放つ保存食を遠くへ投げると‥‥暫くして何かが駆けて来る音は皆の耳にも聞こえ、慌て隊列を整える。
「やはり『レギオン』について記された文献を完全に解読する必要がある様だな」
その音源を何か察し、その中でも周囲の観察を未だ続けていたルクスが音源のする方向へ向き直り、武器を構えれば二十体近くからなる蜘蛛を醜く大きく歪めた存在‥‥それが『レギオン』だと皆は察するが、多足を忙しなく動かし一丸となって突っ込んで来るその群れに少なからず度肝を抜かれる。
「ちっ!」
そんな一行に代わり、レイが『レギオン』の前へ降り立てば扇状に闘気を炸裂させその出鼻を挫くも‥‥次の瞬間には更にその後から続くレギオン達に吹き飛ばされる。
だがその攻撃によってレギオンの群れは一行の両側を走り抜けるだけに至り、その背後で再び隊列を整え直す。
「レイさんっ!」
「‥‥人の心配より、まずは自分の心配をしろ‥‥」
突然の事態にレイを案じ叫ぶセリアへ彼はそれだけ、苦しげな声音で返し何とか地に降り立つも途端、数匹のレギオンに囲まれる。
「‥‥これは思ったより骨が折れそうだな」
崩れた隊列を立て直すレギオン達を睨みながら、慌てる事無くその様子を観察するアレクサンドルはその統率力に舌を巻く。
「何かおかしいですね、これだけの群れがこうも機敏に纏まって動けるなんて」
「一匹‥‥何処かで小うるさく啼いているのがいる。それがこの群れを指揮しているんじゃないか?」
その不自然さにまず気が付いたのはロゼッタ、どうにも合点がいかないと辺りの様子を伺うとリィが自身の耳へ僅かに聞こえて来る甲高い音からそう推理するも、一行へ思考する暇を与えず再び『レギオン』の群れはレイに囲んでいる数匹を除き、先と全く変わらない陣形のまま突撃を開始する。
「そうそう同じ手は‥‥」
ハーフエルフの剣士が呟き、皆と同時に横へ飛ぶも駆けて来る丸みを帯びた異形の蜘蛛が背後から、刺々しい鎧を身に纏ったかの様な別のそれが後方から飛び掛ってくると慌て叩き落すが‥‥連撃が立て続けに見舞われ、追い付かない。
「危ないですよ〜」
だがそれに割り込み、横合いから『レギオン』の一匹へ闘気の力を漲らせたクラリッサが斬撃を見舞えば、アレクサンドルも彼女に続いて強烈な一撃を叩き込んで早速一匹を捻じ伏せるも、その数は言うまでもなく多い。
「これじゃ、色々と試す余裕はなさそうね」
「保存食を投げる暇もない‥‥なっ」
愚痴と同時、詠唱を完成させたロアが掌へ紫電を生めば突っ込んで来る数匹の『レギオン』目掛けそれを迸らせ、薙ぎ払うと彼女の意見に同意してノースが駆けて来る一匹へ銀の槍穂を突き立て‥‥たがその勢いは殺せず、慌て身を捻っては直線的なその攻撃を回避する。
「硬い上に武器が効かないか」
「やはり、あの『レギオン』には普通の武器が効かない様ですね」
腕に走る痺れを感じ彼女の様子を視界の片隅で捉えセリアは、それでも普通のクレイモアを振るい彼女らが相対する『レギオン』とは違う、より攻撃的なそれを切り伏せる。
「文献通り、と言うのは分かったがこの数は‥‥」
『形状異なるレギオン、爪を振るいしもの以外へ通常なる武器がその命を絶つ事叶わず』
それらの状況をつぶさに結界の内部で観察しては文献の一端を思い出し納得するガイエルだったが、彼女へ殺到する数匹によって即座に結界が破壊されれば身を翻してその場を離脱する。
「埒があかないな」
それをコアギュレイトで援護するルクスは混戦の様相を示す中でガイエルに続き呟いたが、地を揺るがす振動と共に咆哮が一つ上がった。
「挫けるな! 己を信じる事さえ出来れば必ず道は開けるっ!」
‥‥言うまでもなく戦う皆を鼓舞する様にレイの声が辺りに轟けば、それを肯定する様に澄んだ音も同時に響く。
「あれだな‥‥狙う余裕はあるか、アンドリュー」
「やる他ないだろう」
その最中、リィは戦場より離れた場所で背に生えた翼の様なもので浮遊しては耳障りな音を発している一体の『レギオン』をやっとの思いで見付けると、傍らで跳ね回っては鋭利な爪を振り回すレギオンへ矢を射るアンドリューに尋ね、帰って来た答えと同時に浮遊するそれへ狙いを付ければ‥‥その矢を放った。
●Next Stage(次の舞台へ)
「‥‥無茶苦茶だったな、指揮していただろうレギオンを潰しただけでああも無秩序に動くとは」
‥‥あれから時間が流れれば、ボロボロになりながらも全てのレギオンが動かなくなった事を確認してからアンドリューはその場に腰を下す。
「だがある程度、『レギオン』について分かる事はあったな。ブラボーだった」
「だが‥‥まだ残っているんじゃないか?」
それでも一人元気なのはレイ・ヴォルクス、皮の衣服はズタボロだったが収穫があった事から一行を褒め称えるも、あれだけの数を見て不安を拭い切れないアレクサンドルへ
「それは確かに危惧すべき所だが‥‥私達がこの状態はすぐに立て直し出来まい。一度戻る事にしよう‥‥ご苦労だったな、皆」
「任務完了、か。今の所は‥‥」
「そうですね。でもあれだけの戦いにも拘らず幸いに一匹だけ捕縛出来ましたし、幸先はいいかも知れませんよ」
一番に血に濡れた彼の姿に目を細め言うレイの提案へ皆は止むを得ず頷けば、アンドリューが溜息に氷の棺に寄りかかったロゼッタが笑顔を浮かべると、一行はそれが次の戦いへ繋がるだろう事から安堵を覚え‥‥一先ずその場へ寝転がるのだった。
「なぁ、あたしの出番は?」
‥‥再び闇の中、響く女性の痺れを切らした声音に蒼き男
「‥‥暫くはない、が出来損ないの人形が出張ってくる可能性があるやも知れない」
「あの坊やかい‥‥だけどあの時の調子だったら」
相変わらず落ち着いた声で静かに返すと先の任務を思い出し、状況を伝えるも
「‥‥報告があった、『鍵』を手に入れた様だ。まだ時間は掛かるだろうが邪魔をされては叶わん」
「分かったよ、部下に探りだけ入れさせておく。後は時が来たらぶっ壊せばいい、そう言う事でいいね?」
「‥‥追って詳しい指示を出す、それまでは待機だ」
手に入れたばかりの情報を伝え、宥めるがどうにも彼女は落ち着かない様で提案を繰り返すもそれは覆らなかった。
「暇なんだけどねぇ‥‥まぁ分かったよ」
止むを得ず折れたのは窓から差し込む月明かりに照らされた紅の鎧に身を包む女性、しぶしぶとそれだけ言えば踵を返しては退室するのだった。
「‥‥時は近い、不穏分子は確実に排除せねばならん。それが例え‥‥」
その後姿を見送りながら差し込む月光に目を細めると、僅かに苦悶の表情を浮かべ‥‥だがやがて決意した。