【求めし力】魔像のその袂

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 34 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月31日〜09月09日

リプレイ公開日:2005年09月10日

●オープニング

「‥‥やっと、これでやっと」
 パタン、と軽い音を立てて本を閉じて彼‥‥アシュド・フォレクシーは呟く。
 ノッテンガム城内部にある、アシュドの部屋兼ゴーレム研究所。
 先の聖杯戦争より暫く、アーサー王より男爵と言う重苦しい爵位とゴーレムについての研究をすべきだと進言した事から一冊の本を授かった彼。
 それからすぐにノッテンガムへ取って返せば未だ謎が尽きないゴーレムの研究に彼は今までの憂さを晴らすかの様に没頭し、そして遂にその本から今まで謎のヴェールに包まれていたゴーレムの製造方法を今しがた、見出したのだった。
「‥‥っ、長かったな」
 今まで人から様々な事を言われて来たが、自身が待ち望んでいた日も間近となればそんな事など忘れ万感の想いを込めて静かに呟いた。

 だが此処に至るまでの道はやはり容易ではなく‥‥肝心の本に記されている内容はその殆どが擦れ破れ、読めない代物であった。
 これでは研究が続けられない‥‥焦りながらもページを進めていくアシュドだったが、それでもその最後を締め括る一文だけ辛うじて読み取る事が出来、彼は狂喜乱舞した。
 因みに本の最後の頁にはこう記されている。

『時と共に朽ちるだろう、この本と共に此処に記す全ての英知を下記に記すケンブリッジの遺跡に残し、封じた‥‥この力を欲する者よ、挑め、かの遺跡に。そして私が成し得なかった事を果たして見せよ』

「どの様なものであれ‥‥これでようやく、ゴーレムの謎を紐解く事が出来る。そして‥‥」
 正しく挑戦状と受け取れる最後のくだりを思い出し‥‥それでも彼はそう決意すると、直後に首を傾げる。
「どうするんだったか?」
 知識欲は人一倍だったが、後先の事は考えていなかった様で少し悩んでみるがとりあえず
「はっはっはっはー!」
「うるさいです」
 嬉しさを前面に出して大声で笑ってみたら部屋の片隅でアシュドが乱雑に積み重ね、これまた乱雑に崩すだけ崩した数多なる資料の整理をしていたルルイエ・セルファードに中々厚い一冊の本を放り投げ付けられ、それが見事に当たれば脳内に走る僅かな振動と同時‥‥意識が暗転するのだった。
「全く‥‥こっちの身にもなって下さい」
 あれからちょっとは変わっただろうか、と少しでも考えた自分が馬鹿でした‥‥そう言わんばかりに盛大な溜息を漏らせば彼女は静かになった研究所の後片付けを再開しつつ、次に目を覚ました時に頼まれるだろう冒険者ギルドへ手配する為の文面をどうしようかと考えを巡らせるのであった。

 そしてその頃‥‥ケンブリッジのとある遺跡にて。
「‥‥何かしたか、お前?」
「‥‥いいえ、何も」
「ならどうして」
「さぁ‥‥?」
 つい最近、若き冒険者達がこじ開けた道の奥にてどうしても開ける事が出来なかった扉が調査員達の目の前で何の前触れもなく開けば、二人はただ呆然としては暫しそこに立ち尽くすのであった。

 ‥‥そして運命は静かに動き出す。

――――――――――――――――――――
 ミッション:ケンブリッジに向かい、遺跡の奥にあるゴーレムの知識が記されたものを手に入れよ!

 成功条件:上記ミッションを達成出来た時。
 失敗条件:成功条件を達成出来なかった時。
 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)

 その他:今回、皆さんにはケンブリッジのとある遺跡にて眠っていると言うゴーレムの知識に付いて記されたものを手に入れる為、アシュドさんにルルイエさんのサポートを行なって頂きます。
 扉の奥からは未踏の遺跡探索、と言う事で準備は怠らずにしっかりと整えて下さい。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1757 アルメリア・バルディア(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea3173 ティルコット・ジーベンランセ(30歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea5603 ユーウィン・アグライア(36歳・♀・ナイト・ジャイアント・モンゴル王国)
 ea5981 アルラウネ・ハルバード(34歳・♀・ジプシー・人間・ビザンチン帝国)
 ea6065 逢莉笛 鈴那(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea7263 シェリル・シンクレア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●Harem
 ハンナ・プラトー(ea0606)が奏でる、軽やかな音色の楽曲が僅かな時間で冒険者ギルドにいる人々へ静かに浸透する様、響き渡り始めた頃
「いや〜、シフールからこの依頼について内容を聞きつつの旅は結構大変だったけど‥‥」
 一行の最後、パラのティルコット・ジーベンランセ(ea3173)が皆と合流すれば発した第一声の最後は旅を終えたばかりの疲労感を微塵も感じさせないものだった。
「う〜ん、はーれぇむっ!」
 確かにアシュド・フォレクシーを除けば他は皆、女性だったりする訳で彼としては色々な意味で張り切らざるを得ず、満面の笑みを浮かべたが
『‥‥‥』
「ま、まぁこれで全員揃った訳だし改めて宜しく頼むよ、皆」
 周囲の反応はそれぞれ、がまぁその沈黙も僅かなものですぐに女性陣は苦笑を浮かべるも、それでも慌てたのはアシュド。
 出発前に険悪な雰囲気を避けようとして、だがどもりながらの礼に今度は皆、違う意味で苦笑を浮かべる。
「こちらこそ。あたしはモンゴル出身のナイト、ユーウィン‥‥アシュド君も、ルルイエ君もよろしくね」
 そんな依頼人へ、皆より頭一つ高い巨人がユーウィン・アグライア(ea5603)の笑顔と握手に二人が応えれば一つ思い出してティルコット。
「そう言えばユーウィン、伝言サンキューな。依頼終わったら酒でも飯でも奢るぜ」
「‥‥期待してもいいのかな?」
 旅の途中、依頼について逐一シフール便を用いては情報を提供してくれた騎士へ礼を述べ、それに報いようと一つの提案をするも見上げる彼の目線を受けつつ笑って尋ねる巨人へ一瞬、どう返そうかと逡巡すると
「皆さんの頑張り次第、でしょうけど期待していいんじゃないでしょうか」
 そこへ助け舟を出したのはアシュドに相変わらず付き従う、ルルイエ・セルファード。
 薄い笑みを浮かべ、だがユーウィンへの助け舟にティルコットがうな垂れる中
「ルルイエさんとは本当にお久し振り、会えて嬉しいわ」
「えぇ、お久し振りです。アルラウネさんもお元気そうで何よりです」
 その彼女へ再会を嬉しそうな笑顔で喜ぶアルラウネ・ハルバード(ea5981)へルルイエも笑って応えれば次いで皆を見回し、アシュドの代わりに一言。
「今回の依頼はゴーレムの製造法について記されているものの回収になりますが、それ故に十分気を付けて下さいね」
 表情はそのままに、しかし声音だけは張り詰めて呼びかければ皆も途端に表情を引き締め、頷いた。
「まぁこんなとこだと思うけど、どうよ? アシュドとルルイエは中衛辺りで一緒に行動が良いと思うけど‥‥」
「ふむ、そんなものだろうな。私は前でも一向に構わないが」
 その真面目な雰囲気の中で男性陣二人、隊列についてティルコットの提案を受けて何気なく言ったつもりだろう、アシュドの一言は
「‥‥止めておいた方がいいわよ、アシュド君。むしろ止めて」
 友人としてアルラウネの突っ込みにアシュドが呻いたその時、一つの疑問を思い出して逢莉笛鈴那(ea6065)が両手を振ってその口を開く。
「そう言えば質問っ! その遺跡についてはどこまで分かっているの?」
「それは道中、話しましょう。一先ず皆さん揃った事ですし‥‥」
「張り切って『アシュド男爵おめでとう記念』、遺跡探検へレッツゴー!」
 それにルルイエ、落ち着き払って太陽の位置を確認すると皆へ呼び掛けようとしたがその続きはハンナが紡ぐ事となり、それに噂の本人が呻く中で一行はハンナが奏で連ねる音に合わせ歩き出すのだった‥‥失われた知識を得る為に。

●Elder Record
「此処はこの前まで何もない遺跡だと言われていました。長い時間を掛け、散々調べたのですがそれが全て徒労に終わればそれは当然ですが‥‥最近になって隠し通路を見付けるとそこから更に奥へ続く不可思議な仕組みで閉ざされた扉が一つ、見付かりました」
 目的の遺跡について概要を聞きつつ到着すればその一行、遺跡の前にベースキャンプを築くと早々に最深部目指して遺跡の探索を開始する。
 既に幾人もの探索者が通った通路を歩きながら、同族故に懐いてはこの遺跡の謂れに付いて尋ねるシェリル・シンクレア(ea7263)へルルイエは微笑むと、続きを語る。
「その時は扉が開く事はなかったのですが、それがまた最近になって‥‥」
「怪しいですね、タイミングが良過ぎます」
 その途中、アルメリア・バルディア(ea1757)は過去に彼が関わった依頼から今回の依頼でどうにも拭えない不安を口にするも
「まぁ確かにね。でもアシュドさんがあの調子じゃ、止める訳にも行かないでしょ?」
 同職の彼女へ賛同しつつ、床や壁へ目を凝らしては注意を払うディーネ・ノート(ea1542)がその傍らを歩くアシュドを見やって笑う。
「ゴーレム、ゴーレム、楽しみだなー」
「‥‥ゴーレムについては余り存じ上げませんけど、この機会に勉強してみたいですね」
 その話題の当人は遺跡に入ってからと言うもの、鼻歌を交えてはずっとこの調子‥‥その様子に彼と初対面のアルメリアは絶句するが自制心の強い彼女、沈黙も僅かに一瞬で次には表情を綻ばせ言うと
「ゴーレム、かぁ。どの国も確立してない技術、その秘密がこの遺跡の奥に! わくわくするよね〜」
「でもただ単に、『貴方にも三分で出来るゴーレムの作り方』みたいな本が転がっている訳じゃなさそう」
 それへ鈴那が笑顔で応えればやがて、皆の視界にルルイエが語った扉が映れば目的の部屋に眠るだろうものに付いて何と無く嫌な予感を覚えるユーウィンであったが、それでも一行は未踏の区域へ歩を進めた。

「こんなブービートラップに俺が引っ掛かるかよ!」
 それから歩く事暫く、ティルコットを先頭に露骨に目立つ罠を掻い潜っては順調に奥へと進んでいた。
「でもなんでこんなに罠を目立たせているのかなー?」
「そうね、魔法を使うまでもない位に目立つ罠よね‥‥」
 そんな状況が続けば逆に不安を覚えるのが人と言う者、今はランタンを掲げ辺りを警戒するハンナの疑問にアルラウネも頷き、エックスレイビジョンを唱えるべきかと逡巡する。
「‥‥話だけで推測の域は出ませんでしたが、どうやら此処はゴーレムについて大規模な研究を行なっていた場所だった為でしょう」
「これだけの規模なら侵入者がいてもゴーレムが守ってくれるでしょうし。なら、研究する人が安全に出入りする為?」
 困惑する一行を落ち着かせる為、口を開いたのはルルイエ‥‥因みにアシュドは前へ進もうとするもユーウィンにその襟元を掴まれ未だ、地に足が着いていない状態。
 それはさて置き彼女の話から小首を傾げつつ、理由を予想して呟くディーネへルルイエが頷くと
「それもあると思いますが、万が一ゴーレムがこの施設を出ようとした際の防壁も兼ねているのではないでしょうか」
「成る程。それで殺傷用じゃない、捕縛用の罠ばかりなのか」
 続くもう一つの理由に今度はティルコットが納得すると、経験豊富なレンジャーの様子から僅かに浮き足立っていた一行の雰囲気が和らぐ。
「そう言えば私達以外にここに誰か来た形跡、ありますか?」
「‥‥いや? 今の所は俺達より先に誰かが此処へ足を踏み入れた形跡はないぜ」
 そんな折だった、アルメリアがその疑問を紡いだのは。
 それは何かの狙いで人為的に開かれたのでは、と他者の思惑を感じずにはいられなかった彼女の疑問だったが、確かに彼に言われるまでもなく床に薄く積もる埃は掻き乱された風もなし。
「杞憂だったのなら、それでいいんですけ‥‥」
 アルメリアの懸念、その考えを同様に抱いていたシェリルは僅かに安堵し言葉を紡ぐもその途中、綺麗に舗装された通路で唐突に転倒すれば何処かで罠のスイッチを入れたのだろう、天井より降って来た巨大な檻に閉じ込められる。
「‥‥大丈夫?」
「んー、大丈夫かなぁ」
「慎重に行かないと‥‥ねー、アシュド君にルルイエさん?」
 ディーネの問い掛けに慣れているのか童顔のエルフはのんびりそう答えるも、それでも痛みに顰めるシェリルを檻の外から慰めアルラウネ‥‥振り返らずに過去、手伝った依頼を思い出して二人へ呼び掛ければ当人達は静かに苦笑だけ浮かべ、周囲の警戒をすべく辺りへ視線を巡らせるのだった。

 それから二日を掛け、どれだけ進み上っては下っただろう‥‥時折、既に朽ちて動かないゴーレムを見掛ければ研究室と思しき隠し部屋で有益な物を確保しつつ進むアシュド探検隊はやがて、その終点へと着いた。
「中は異常なし、っと‥‥行くぞ」
 アルラウネが放った石が乾いた音を立てる中、静かなままの部屋の様子を伺ってからティルコットが背後の皆へ振り返り呼び掛ければ、彼は一瞬硬直するも一つ咳払いの後で一行を導く様に、古の知識が眠るだろう部屋へ足を踏み入れた。

●That Dig The Air
 終点であるその部屋は、高さから幅から下手に小さな家ならそのまま入るだろう広さを持っており一行は驚きの余り、辺りを見回すも誰よりも早くその部屋の『不自然さ』に気付いたディーネ。
「アシュドさんが求める知識、それを守る物もまた然り‥‥なのね」
「わーい、ガーゴイルだっ、初めて見るぞ‥‥っぎゃー!」
 中央にそり立つ尖塔と思しきオブジェとそれを囲む様に三体の、悪魔を模した彫像を見据えれば少しずつ動き出すそれへアシュド、条件反射に飛び込もうとし‥‥だが冒険者達の突っ込みを受ければ彼は直後、地面をのた打ち回る。
「あちゃ、力入れ過ぎた?」
「流石にそれは」
「柄とは言え、そんな重い物で叩くと痛いわよ‥‥」
 その様子にハンナが屈んで彼を突くと、ユーウィンにディーネはアシュドへ同情の視線を投げ掛ける。
「皆さん、来ますよ!」
 それでもアルメリアの警告に三体のガーゴイルは永き眠りから完全に目覚め、部屋に遍く大気を穿ち舞うと一行は即座に戦闘態勢へ移行する。
「さぁって、いっくぜぇっ!!」
 その先手はティルコット、勢い勇んでダーツを投げ命中させるもそれは乾いた音を立てて弾かれる。
「‥‥あれ?」
「参ったわね、結構格上の相手みたい」
「ストーンゴーレムよりその表面は硬いです、そして空を飛ぶ分だけ‥‥」
 その光景はそれを投擲した本人はおろか、アルラウネの溜息に皆をもは唖然とさせればそれを傍目にルルイエ目掛け飛来する一体のガーゴイル‥‥彼女目掛け拳を振るうも、赤髪のジプシーが果敢にルルイエへ飛び付き拳が薙ぐ軌道から救い出す。
「どうするの、アシュド君! 言っておくけど見惚れている場合じゃないからね!」
「‥‥分かっている、優先度は失われた知識が上だ。倒すのが難しいなら暫くの間だけでも動きを止めてしまえばいい、確かディーネも水の魔法を使えんだったな? 手伝って貰うぞ」
「勿論、任せてよねっ!」
 暫く地を転げ、何とか体勢を立て直してから微動だにしないアシュドへアルラウネが一喝へ彼は一瞬の間の後、現状の戦力から最適な行動を導くと賛同を示す代わり、指を弾くディーネ。
「なら俺が出来る事は‥‥これだけかっ」
 僅かな相談の中で自身が持つ武器を確認して嘆息を漏らし、それでも成すべき事を見出した小柄なレンジャーは誰よりも速く囮となるべく魔像へ駆け寄ると、皆も動き出す。
「遍き集う風の精、私の声に耳傾けて」
「‥‥御身を鋭き刃と化して、かの者を切り裂いて〜!」
 石の魔像へ風の刃で疾く、エルフの魔術師達が牽制するもその隙間を縫って魔術師達へ迫るガーゴイル、だがその眼前に立ちはだかるのは二枚の壁。
「‥‥怖いけど、それでも前に出るのが私の役目だよっ、っとと」
 初撃を取り回しに難のあるハンマーで受け流すハンナだったが、その重さ故によろめいた所へ流石に二撃目は喰らうも、その膝は崩れない、崩さない。
「まだまだだぁー!」
 裂帛の叫びを上げ、堪える彼女を助けるべく鉄弓を振るうユーウィン。
「只の弓兵と思ったのが、君の不覚だよ♪」
 用途は違うが唸りを上げ迫るそれを紙一重で避け、上空へ舞う魔像だったが逃走用に召喚した鈴那操る大ガマに気を取られれば、風を巻いて迫る矢に一翼を穿たれ中空でバランスを崩す。
『これでっ!』
 それを見やり、ティルコットと鈴那を中心に残る二体の魔像を惹き付け押さえ込む合間、片翼のガーゴイルへ狙いを定めてディーネとアシュドの凛とした声が重なり響けば、大気は瞬く間にその形を氷牢へ変え‥‥。

●Lithography
「はぁ‥‥とりあえず何とかなったな。回収すべきものへ氷漬けのガーゴイルが落ちた時は流石に死ぬかと思ったが」
「正直、俺は死んだかと思ったけどな」
「あのすぐ後にいきなり倒れたからね、アシュド君」
 遺跡の外、既に日は沈みかけている‥‥あれから無事に三体のガーゴイルを氷漬けにした一行は休む間無く、石版を積み上げ作られた尖塔を崩し、百枚近いそれを全て引き上げ今に至れば、アシュドが漏らす安堵の呟きへティルコットとユーウィンは揃って笑う。
「‥‥とりあえず、だ。何時もながら助かった、次もまた手伝って貰うつもりだからそれまでゆっくりしてくれ」
 それはやがて皆へ伝播し、ルルイエまで笑えば彼は顰めながらもそれを遮って礼だけ言うと踵を返し、石版の山に向かおうとするのだが
「で‥‥そろそろ聞かせて貰ってもいい頃よね? 『あれ』の事について」
「あ、あぁ‥‥」
 そのアシュドの腕を掴み、凄い剣幕で迫るアルラウネ‥‥その勢いに気圧され彼が頷けば、半ば引き摺る様にちょっと木立が深そうな方へ二人、歩き出す。
(「今回はどんな事になるのかな、ドキドキ」)
 そんな二人の様子を視線の片隅に、シェリルはこの前の続きを見る事が出来ると胸をときめかせ立ち上がれば、二人の行末を見届けようと動き出したその時だった。
「その前にとりあえず皆と夕食を食べよー、依頼も無事に成功した事だしね!」
 外に出て、僅かな時間しか経っていないにも拘らず簡素な保存食に一工夫拵えた、少し早めの夕食をディーネと共に作り上げた鈴那がアシュドとアルラウネへ差し出すと、皆へも声を掛けては微笑むのだった。

 その夕食後、鈴那の服の裾を引っ張りシェリルが非難めいた視線を投げては無言の抗議をしたのは此処だけの話である。