【妹よ】調査編 〜実は忘れていました〜

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月07日〜11月12日

リプレイ公開日:2005年11月16日

●オープニング

「そ、そのハンカチ‥‥」
「分かるなら、話は早いな‥‥アリア」
 ケンブリッジは町の一角、十河小次郎はつたない英語を用いてフォレストオブローズの制服に身を包んだ、アリアと呼ぶ女性に話し掛けては一枚のハンカチを見せていた。
 それを見た彼女の表情は驚愕に歪む、何故ならアリアもまた全く同じ物を持っていたから。
(「もしかしてこの人‥‥」)
 以前、母親から血の繋がっている兄がいると言う話を思い出してポケットの中に入っている同じハンカチを握り締める。
 話だけ聞いたいた存在が今、目の前にいるのだから‥‥だが
「ジャパンに帰らな‥‥」
「いやぁぁぁっ!」
 本題を切り出そうとして、思わずジャパン語で話し掛けた小次郎へアリアは『条件反射』で携えている木剣をその頭部へ打ち込んだ!
「ぐべぁ!」
「ジャパン語を話す人なんか、例え血が繋がっていても知りませんー!」
 と言うのも彼女、どう言った理由かは分からないが『ジャパン語が嫌い』でジャパン語を持って話し掛けると問答無用に木剣で打ち据えられると言う話が有名だったりする。
「それは‥‥初耳だった」
 だがその事を初めて知った小次郎はやがて駆け出す彼女の背中を見送りつつ、意識が闇に飲まれ気を失うのだった。

「‥‥と言う訳なんだ」
「はぁ、そんなお話があったとは‥‥初耳でした」
 後日、クエストリガーにてその話を受付のお兄さんに話しては嘆息を一つ漏らしていた。
「そりゃそうだ、俺だってこの前‥‥とは言っても夏の辺りだったが思い出したばかりだったからな。此処に来てからすぐ、バタバタしていたりしていた事もあったし」
「はぁ‥‥(そんなにバタバタしていたかなぁ?)」
 そして返って来る生返事は気にせず、小次郎は話を続ければそれに対してもやはり生返事を返す彼、今度は内心で疑問を持ちながら。
「‥‥て事で困っているんだ、助けてくれよー」
「何をすればいいんでしょうか?」
 そんなつれない受付のお兄さんの反応をやっと察して先生、一瞬の沈黙の後にすぐ本題を切り出せばそれでも小次郎の真意を理解してか、尋ねてくれた彼へ
「そうだなぁ‥‥妹、アリアの事を実際良く分からないんだ。あいつが生まれてからすぐ離れ離れになったって事もあるし、最近ようやくあいつを此処で見付けたんだが‥‥どうにも毛嫌いされている様でな、いつも追い払われてばかりでどんな事を考えて、どんな生活をして、どんな物が好きなのか・・・・全く分からないんだよ」
 小次郎は視線を床に落として、本音を持って答えるのだった。
「何かしてやりたいんだ、けれど今のままじゃ何も出来やしない‥‥だから、俺の代わりにアリアがどんな奴なのか、見て来て欲しい。何でも構わない、教えて‥‥欲しい」
「‥‥小次郎先生」
 その真剣な声音に受付のお兄さんも心打たれてか、真剣な眼差しで彼を見つめるが
「女装だけじゃなく、ストーカーでしたか。しかも自分の手を汚さずに」
「‥‥勘弁してくれ」
 最近流れている噂から容赦のない一撃を見舞うと、小次郎先生はカウンターに勢い良く突っ伏しては涙するのだった。

――――――――――――――――――――
 ミッション:小次郎先生の妹さんに付いて、調査せよ!

 成功条件:特になし
 失敗条件:特になし
 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)

 その他:今回の依頼ですが、小次郎先生の妹さんに付いての調査になります。
 皆さんの情報を元に今後小次郎さんが頑張るそうなので、どの様な情報でも構わないからなるだけ沢山集めて来て下さいとの事です。
 尚、小次郎先生は依頼期間中、彼女に近付かない様ですが状況に応じては対応するそうなので何かあれば遠慮なく言ってくれとも仰っておりました。
 但し、十分に気を付けて下さいね‥‥特にジャパン人の方は。
 知る人の中ではとても有名な話らしいなので、まず間違いなく‥‥。

 傾向:調査系、下手に見付かるとやばいです、ジャパン語を使うのも危険です
 NPC:十河小次郎、アリア・レスクード
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea4049 シェアラ・クレイムス(21歳・♂・レンジャー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0753 バーゼリオ・バレルスキー(29歳・♂・バード・人間・ロシア王国)
 eb0990 イシュメイル・レクベル(22歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb1793 和久寺 圭介(31歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3226 茉莉花 緋雨(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

クレハ・ミズハ(ea0007)/ 桜 あんこ(ea9922

●リプレイ本文


「兄妹は他人の始まりと言います、追い駆けられれば逃げたくなるものです」
 色々とショックが抜け切っていない十河小次郎に会うなり、笑顔を浮かべ誰よりも早く挨拶の代わりにバーゼリオ・バレルスキー(eb0753)が紡いだ言葉の意味は尤もで、彼の先制パンチに小次郎は何も言え返せず、早々と地に膝を着く。
「まぁバーゼリオ、何もそこまで言わなくとも。小次郎だって真剣なのだからね、だが女性が相手なら私に任せて貰えれば‥‥」
 しかしその彼を和久寺圭介(eb1793)が宥めれば、小次郎の肩を叩いて微笑むも次には愉しげな表情を湛え、語り出す圭介。
「なぁ‥‥今の俺のこの気持ち、何て言えばいいんだ?」
「‥‥先生だいじょうぶ?」
 そこから先の言葉は耳を塞ぎ、更にうな垂れる十河小次郎だったが心の底からイシュメイル・レクベル(eb0990)が励ますと
「そんなに気を落とさないで下さい、小次郎さん。きっと、大丈夫ですよ〜」
 彼に続いて小次郎の事を良く知るカンタータ・ドレッドノート(ea9455)も優しく慰め、そこでようやく立ち上がる先生。
「初めて逢った兄、ねぇ」
 そんな長閑な光景を冷静に見つめていた茉莉花緋雨(eb3226)は尚更に、今回の依頼における調査対象であるアリア・レスクードの事を想って嘆息を漏らせば
(「色々あるとは思うけど、私はアリアさんを応援したいな」)
 なんて依頼人泣かせな事をぼんやりと考えるその傍らでは
「今の所はぁ、私達が親子だって事は秘密にしておこぉん」
「分かりました‥‥」
 エリー・エル(ea5970)が大宗院透(ea0050)に何やら耳打ち‥‥どうやら二人は親子だが、この依頼ではそれは内密にと母が囁けばその提案を理由は分からずとも呑む透は落ち着いた一行の輪へ加わりその最後、小次郎へ一つの質問を繰り出した。
「“妹”は“いつもと”雰囲気が違うのですか‥‥?」
「‥‥っ」
 だがその駄洒落は彼には厳しかったらしく、どう返したものかと言葉を詰まらせるのだった‥‥先がちょっとだけ、不安である。

●薔薇の森にて
 アリア・レスクードとの接触は皆が思っていたより簡単だった。
 その実力がそれなりに噂になっているらしく、FORに潜入してから情報を集めつつ探し回れば僅かに小一時間程度で彼女と接触を果たす。
「十七歳の女学生エリー、行きまぁす♪」
 そして今、授業の一環である剣技の実技でエリーが何とかアリアを相手として獲得すれば始まる訓練、因みに彼女が半分もサバを読んでいる事には誰も気付かない。
「はっ!」
 それはさて置きサバ読み母さん、駆け込み様に胴を狙って木剣を振るうがそれはアリアに受け流され、次いで体が泳いだエリーの背へアリアが自身の得物を振り下ろそうとするも、勢いのまま駆け抜けた彼女には届かず。
「っえい!」
 だがそれを機に二人、交わされる言葉はないに等しいが縦横無尽に剣閃が走れば、続く剣舞から両者の腕前は拮抗している事を圭介と緋雨が見て理解したが、不意に両者はその距離を置く。
「‥‥面白いですね、貴方。でも訓練とは言えっ!」
 だが負けず嫌いな性格なのかアリアが地を蹴り、エリーと再び刃が交えようとするが
「もう太陽が真上に昇っているね、一息つかないかい?」
 その二人の間に短剣が一本、割って入れば次いで圭介の声が風に乗って昼時である事を告げると
「そうねぇ〜、確かに圭介君の言う通りねぇ。うん、終わりにしましょぉ〜♪」
 自称、十七歳の女学生は彼の提案に納得し笑顔を浮かべて木剣を仕舞うも、アリアは未だ不服そうに構えを解かなかったが直後、彼女の腹部から小さな音が鳴る。
「‥‥食堂に行きましょうか。此処で知り合ったのも何かの縁ですし、アリアさんもご一緒にどうですか?」
 失礼に当たらない様、密かに微苦笑を浮かべながら緋雨が彼女の肩を叩いて昼食に誘うと止むを得ず彼女は頷き
「‥‥行きましょう」
「えぇ、美しい貴方となら何処までも」
 一人早々と踵を返せばその背後から掛けられる圭介の言葉には振り返らず‥‥実際には色々と恥ずかしかったのだろうが、彼女の反応に彼は肩を竦めながら追い駆けるのだった。

 それから暫く、彼らとは別に校内を秘密裏に駆け回る透とイシュメイルら。
「アリア・レスクードが傷害事件を起こしているらしい事から、秘密裏に彼女の事を調査しているのですが、普段の素行はどうなのですか‥‥」
「まぁ確かに、ジャパン語で彼女へ話しかけるのは命知らずもいい所だけどそれを除けば至っていい子だよ。その話は前々から皆が知っている話だから誰でも彼でも殴っていたら今頃、此処にはいないよ」
(「ふむふむー」)
 人遁の術を駆使してFORの生徒に紛れ校内で教師、生徒を問わずに透がアリアの事に付いて尋ね回ればその傍らを遠巻きに校庭を掃除しつつ追い駆けるイシュメイルは、ふとその視界の片隅に校門を潜って市街の方へ歩み去る、目標と別働班の姿を捉える。
「反応、ないなぁ」
 その誰しも通る校門の片隅、誰でも見えるだろう位置の歩道に何処から入手したのか、ジャパン製の着物やら様々な雑貨を置いて彼女の反応を伺おうと目論むイシュメイルだったが、アリアが全く反応しない様子に肩を落とすも
「まだ、時間はあります‥‥」
「‥‥うん、そうだよねっ! じゃあ町の方に行って見るよ!」
 その不自然な風景には突っ込む事無く、無愛想な透が珍しく慰めればイシュメイルは元気を取り戻して駆け出し、人遁の術を解いた彼も急ぎ皆の後を追い駆けるのだった。
「“透”が校門を“通る”‥‥」
 静かに駄洒落を呟きながら。

●街中にて
「アリア・レスクードに木刀で殴られたと訴えている人がいるのですが‥‥彼女は良く人に暴力を振るう人物ですか?」
「いいやー、イギリス語で話し掛ければ普通に可愛い子だぜ。まぁ成績がいいから、平凡な俺から見れば高嶺の花だけど、気さくに話せる」
 彼女の事を知る、フリーウィルの学生さん(♂・十八歳)のコメント。
「レスクード嬢が問題生徒か判断する為、彼女の生活態度について調査しているのですが」
「生活態度、ねぇ‥‥至って真面目よ? 変な噂も‥‥まぁ『あれ』以外には聞かないし、それさえなければいい子だと思うけど」
 FORで教鞭を振るう、ちょっと目立たない先生(♀・二十八歳)のコメント。
「そう言えば最近のFORの雰囲気ってどうなんですか?」
「昔と変わらず、規律慄然とした所だよ。フリーウィルと違ってね‥‥あ、別に悪い意味で言っているんじゃないぜ?」
 FORに在学中の学生さん(♂・二十二歳)のコメント。
 
 とそんな調子でアリアに付いて様々な観点から人々に聞いて回るバーゼリオとカンタータ、笛の音に誘われる様に広場へバーゼリオが現れれば
「悪い話は聞きませんね、それどころか」
「あの先生の妹の割、ジャパン語で話し掛けると殴られると言った事以外は特に悪評は聞かなかったです、私も」
 その音を奏で自身、所属する笛部の宣伝をしていたのだろうカンタータが彼の姿を見付ければ途中経過を伝え、毒舌家な彼も自身が聞いた話を簡潔に纏め交換する。
「もう少し、話を聞いてみましょう。私は少し、市場の方に足を伸ばしてみますね〜」
「えぇ」
 カンタータは頷くと、思う存分に宣伝をしたのか彼にそう告げると踵を返して人で賑わう界隈の方へと足を向けた。
「やっぱり、此処で既に彼女は彼女なりの生活を営んでいるんですね」
 そして一人、広場に残されたバーゼリオは今まで聞いた話から少なからずそう感じると表情こそ微笑んだまま、瞳の奥の光だけ僅かに揺るがせては静かに呟いた。

 今日で四日目、今日も変わらずアリアと一緒に帰路に着く三人は彼女と何とか打ち解けていた。
 も先程、アリアにジャパン語で話しかけるFORの生徒(実は人遁の術を施した透だが)と一悶着、相手の俊敏さに後一歩で攻撃を当てる事出来ず、だが撃退だけ果たし再び平穏な歩道を歩く中
「どうしてジャパン語が嫌いなんですか?」
 緋雨が紡ぐ、先の騒動の後なら必ず上がるだろう質問にアリアが難しい表情を浮かべると、彼女と同じ年の騎士が慌て発言を取り消そうとしたが
「ほら、ハーフじゃないですか。緋雨さんならまだ見た感じイギリスの血が濃そうですけど、私はその逆ですからね。昔は良く虐められていたんですよ」
「貴女程の人が?」
 それより先にアリアが苦笑を浮かべながら口を開けば、その質問への答えを語り出す。
「昔は弱かったんですよ、でもそれが悔しかったからそんな人達には負けたくなくて剣の腕を磨いて、いつか痛い目にと‥‥」
 話が進むに連れ、その瞳には僅かに暗い炎が宿っていた気もするがそれでも話は続き
「一年位掛かったけれど、それは果たされてすっきりしたんです。でも‥‥その頃からジャパン語で話し掛けて来る人を敵と思う様になって、今でもその条件反射が抜けなくて」
「それで、ですか‥‥大変だったんですね」
「話だけ聞いていたらぁ、どんな子かと思ったけど‥‥苦労していたのねぇ〜!」
 一通り、答えになるだろう話が終われば口をへの字に歪め、呻く彼女へ複雑な表情を浮かべつつ緋雨が見据え言えば、エリーは彼女を慰める様に抱き締めると
「むぎゅ‥‥あ、すいません。私は向こうの道なので此処で」
 その強い抱擁に窒息しそうになり、だが視界の隙間に皆とは違う自身の帰り道を見付けると何とか彼女の腕から摺り抜け、その道目指し駆け出せば
「また明日、逢いましょうね」
「いい娘だね‥‥このまま学園生活を楽しむ、って言うのも良さそうだ。尤も、この制服がどうにかなればの話だろうけどね」
 別れの挨拶と共に走り去って行く彼女の背中を見送りつつ、圭介が窮屈な襟元を弄りながら微笑むと、二人も釣られて笑った。

「すみません〜、そっちに男の人が走っていかへんかった?」
 そして三人と別れて一人歩くアリアを背後から呼び止める声に彼女は振り返ると
「『このハンカチ落としたで』と、拾って渡そうとしたら走って行ってもうて‥‥困ったわ」
「そのハンカチ‥‥は」
 そこにいた年若いエルフの青年、シェアラ・クレイムス(ea4049)なのだが、小次郎から借りたハンカチを風にはためかせ言えば彼女が僅かに固まり、そんな彼女の様子にシェアラは
「持ち主、知っとるん? なら助かるんやけどな。おいらは今、ケンブリッジを観光中やさかい、ここいらの道とかあんま知らんし」
 首を傾げながら捲くし立てる様に尋ね、辺りへ視線を彷徨わせるもアリアは彼に反応する事出来ず、沈黙する。
「ん、どないした? もしかして‥‥その人の事、嫌いなん?」
「嫌い、と言う訳じゃ」
 そしてその様子から彼女の心情を察し、沈黙を破るシェアラの問いに彼女は口篭ると彼は苦笑を浮かべ、彼女の話に聞き入る。
「‥‥ただ、いきなりそのハンカチを持って『あの人』が来たから混乱して」
「なるほど、何か悪い事したみたいやな。そんな時は一発謝ればすぐに解決するで」
 胸元にぶら下がるペンダントを握り締め一言だけの忠告を笑顔で言えば、続けざまに言の葉を紡ぎ出す。
「まぁもしかしたらこれを探しに此処へ来るやも知れんし、すぐに『お兄さん』やって言われても実感湧かへんだろうけど、もし伝えたい事があったら伝えとくで」
「‥‥何か最初と話が違うのですが『あの人』の事、知っているんですか?」
「あ、あー‥‥いや。そのやな、何ちゅうか‥‥あれや! あれはなんやっ!」
 だがシェアラの口から吐いて出た『お兄さん』の言葉に『あの人』としか呼んでいなかったアリアが訝ると途端、童顔のレンジャーは詰まれば彼方を指差し彼女の反応を伺う余裕すらなく駆け出すのだった。
「あ、ちょっと‥‥」
 待って、と言おうとしたがそれが紡がれるより早くシェアラの背中を静かに見送りつつ
「でも、よくよく考えてみたら私も『あの人』の事‥‥全然知らないのよね。ちゃんと話だって聞いていないし、少し位は話を聞いてみても」
 暫くの間、歩道で立ち止まり逡巡する彼女を木陰から静かに伺っていたイシュメイルが一人、彼女の独り言に頷いていたのは秘密だ。


 そしてあっと言う間に時間は過ぎ去り最終日、夕刻時の食堂「プレミアム」にて。
「で、どうだった!」
「これに纏めておきましたよ、小次郎さん」
「自分達が聞いた話に皆の話を統合すると、成績優秀、明朗活発で人付き合いが良ければ容姿は端麗で騎士としても立派‥‥本当に小次郎殿の妹かと疑いましたね」
 皆に夕飯を振舞い、尋ねる小次郎が視線を辺りへ彷徨わせればカンタータと目が合った時、彼女が数枚の羊皮紙を差し出すと共に動いていたバーゼリオが簡潔に、毒を混ぜつつ報告すれば
「すまん、助かるっ!」
「家族が離れ離れになる事程、悲しい物はないからなぁ‥‥頑張ってや!」
「けれど、彼女には彼女の生活が既にあります。それも忘れない様に、先生」
 自身に都合の悪い話は流し小次郎は叫んで礼を言うと、シェアラの激励と毒舌家の忠告が次に響けば彼はその毒舌家だけ、激しく叩く。
「だから先生と言うなって!」
「そんな事より小次郎殿、自分が言った事が分かりましたか?」
「何とかなるだろう‥‥うん」
 その威力は流石に、彼を机へ屈服させる程度で抑えられていたが自身が言いたかった事に付いて尋ねれば楽観的な声音の割、珍しく凛々しい表情を浮かべる志士だったが
「小次郎君も、結構いい男よねぇん。ジャパン人は経験あるから安心していいよぉん」
「な、何をだ?!」
 その横顔を食い入る様に見つめエリーが顔を寄せ囁くと、悪い気分ではなかったものの小次郎、何となく立ち上がっては後ずさる。
「そんなに照れなくってもぉ〜、逆にこっちが恥ずかしくなっちゃうわぁ♪」
「それでは小次郎の代わりに私では、どうかな?」
「うぅ〜ん、まぁ君でも‥‥悪くはないかもねぇ〜」
 それでも彼女は小次郎が後ずさった以上ににじり寄るも、その間に入って来た圭介が彼を庇いつつ逆にエリーを誘ったりするものだから途端、妙な雰囲気が辺りに漂えば
「‥‥ま、まぁあれだ。折角の夕飯が冷めてしまう! 皆、食べろ食べろ!」
 小次郎が詰まりつつも叫べばそんな二人はさて置いて、残る皆は我に返り先生持ちの夕餉に改めて臨むのだった。