【妹よ】解決編 〜聖夜と幽霊〜
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■シリーズシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月22日〜12月27日
リプレイ公開日:2005年12月31日
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●オープニング
●とある空き家にて
「‥‥意外に綺麗ですね」
「えぇ、建ってからもうそろそろで三年しか経っていませんからね」
自身が住まう家から程近い所に建つ空き家(因みに平屋)にて、アリア・レスクードはそこを管理する人から案内を受けつつ、その内部を見て回っていた。
聖夜ももう間近、色々とお世話になった友人知人を招くべくパーティ開場として使えそうな場所を探していたのだが一件目から当たりを引き当て、表情を綻ばせるも
「ですが少々いわく付きでして‥‥この時期になると出るんですよ、幽霊が」
管理人は正直に、この物件が未だ手付かずで残っている訳を簡単に話す。
「そんな、大丈夫ですよ。うん‥‥私、気に入ったので暫くの間此処を借りますね」
「‥‥そう言うんでしたら」
彼女にとっては水を指す様な話に無論自身にとってもメリットはないのだが‥‥管理人の正直な話を聞いて、だがアリアは別段気にする事無く此処を借りる旨を告げればまだ呻く管理人からこの家の鍵を借りた。
その翌日、早々と屋内の掃除を始めるアリア‥‥とは言え、管理人の手もそれなりに行き届いているらしく程無くして掃除を終えると早速内部のレイアウトを行なうとした、その時だった。
彼女の目の前を白い影が過ぎったのは。
「‥‥‥?」
何かの見間違いかと思い、目を擦ってみると
『‥‥久し振りに、我が家へ人が来たわね』
アリアの目の前で白い影は徐々に人の形を成し、薄い唇を開くと言葉を紡ぎ出した。
●何処か落ち着かない兄
「‥‥うーん」
一方その頃、アリアの兄である十河小次郎は人で賑わう大通りを歩きながら一人、何事か悩んでいた。
「母さんはああ言ってはくれたけど、どうしたものかなぁ」
その手に握られているのは一枚の羊皮紙、それに何が記されているかは分からないが珍しく神妙な面持ちで呻く志士。
「今になって‥‥なぁ」
いざ『その日』が近くなると言い出し辛くなって来た小次郎だったが、そんな彼の心情を知らずに重く立ち込める雲は遂に白い雪を降らす。
「けど、こいつは俺だけの手にも‥‥むーん」
だがそれを気にも留めず小次郎はもう当分の間、雪に当てられながら悩むのだった。
●アリアからの依頼
「‥‥と言う事でして」
「冒険者の手を借りたい、と」
後日、クエストリガーにてアリアは一つの依頼を出していた。
その内容はと言えば、
「しかし‥‥幽霊と一緒に聖夜を過ごし、その魂を成仏させようという依頼ですか‥‥」
「でも‥‥彼女も好きであの家にいる訳ではないみたいですし」
「あぁ、すいません。何も責めるつもりで言った訳ではないのですよ」
受付のお兄さんが苦笑を浮かべ、率直な感想を受けアリアはうな垂れるも慌てて宥める彼の言葉はその耳には届いていなかった。
『三年近く前になる聖夜の日、兄と家を飛び出したのよ‥‥その日は酷く雪が降っていて視界も悪くて、少し先しか見えない道に飛び出した直後‥‥運悪く馬車に撥ねられちゃって』
「‥‥‥」
あの日、あれからアルと名乗った幽霊の彼女の話を静かに聞くアリア。
『それで次に気付いたら、此処にいたの。誰もいなくなったこの家に‥‥魂だけになってね、その日の事‥‥きっと後悔しているんだと思う、私』
アルが紡ぐ、今に至るまでの経緯は次に一時止まり沈黙が広がればアリアはその話に出て来た『兄』と言う単語から、ふと自身らの兄妹の距離に付いて考えた。
(「どう、思っているかな」)
確かに小次郎と初めて出会った時に比べれば距離は近付いている、『一応』信頼出来るとは思っている‥‥けれど自身、何かをしてあげられる事はなくて小次郎はどう思っているのだろうかと。
(「‥‥でも何だろう、この感じ」)
それから考える事暫く、自身の中にもどかしさだけある事にアリアは辿り着くが
『だからお願いがあるの、次の聖夜‥‥この家で楽しいパーティを開いて頂戴。邪魔はしないから』
それにアルは気付く事無く、続きを語れば一つだけ願いを告げると
『この家で開く事が出来なかったあの夜の代わり、私に見せて‥‥』
寂しげに笑う彼女を見てアリアは返事の代わり、自身の決意にも併せて頷いた‥‥とりあえずは踏み出してみようと言う、その決意から。
「今更、かな」
「‥‥アリアさん?」
とそんな事を考えている内、不意に様子が変わって心配したのだろう受付のお兄さんの呼び掛けでアリアは我に返ると顔を赤面させては一つ頭を下げ
「えぇと‥‥すいませんがお願いします!」
それだけ、改めて言えば彼女はクエストリガーから慌て飛び出すのだった。
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ミッション:聖なる夜に未練が残る幽霊を成仏させろ!
成功条件:空き家に住み着いている幽霊を楽しませた上で、成仏させた時
失敗条件:依頼期間が終わっても幽霊が居残っている時
必須道具類:(屋外で行動をする場合は)防寒服一式は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)
概要:聖夜にちょっとしたパーティを催そうとしたアリアさん、手近にあった一軒の意外に小奇麗な空き家を借りたのですが何やらいわく付きだった様で、それが当たれば彼女は一人の幽霊と出くわし‥‥しかし幽霊の話と願いを聞けば、それに答えようと思ったアリアさんが今回の依頼を出す事にしたそうです。
傾向等:まったりパーティ(何それ)、非戦闘
NPC:小次郎、アリア
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●リプレイ本文
●
「わーい、久し振りの聖夜祭〜! 楽しみだなぁー」
「とは言えや、本当にいるんやねぇ」
『えぇ、初めまして』
アリア・レスクードが聖夜に備え借りた空き家にて集う一行の中、昨年とは違った久々の聖夜を前に無邪気な声を上げはしゃぐイシュメイル・レクベル(eb0990)の傍ら、シェアラ・クレイムス(ea4049)が年の割幼く見える表情に皺を寄せ、眼前に浮かぶ透けた体を持つアルを見て言うとその彼女は頷き、皆へ挨拶を交わせば
「幽霊が成仏しないとは、良くある話です‥‥この様な事は根本を解決しない限り解決は望めません‥‥」
『そう、なんですか?』
存外に明るげな表情を浮かべ宙を舞うアルへ良く女性と勘違いされる大宗院透(ea0050)が呟けば、幽霊は首を傾げ尋ねると他の皆は一斉に嘆息を漏らしたが
「もし成仏出来なくてもぉ、神様にお願いして(ピュアリファイで)天国へ連れっていってあげるからぁん」
『自称十七歳の女学生』と言い張るエリー・エル(ea5970)のある意味、神聖騎士らしい言葉にそれが聞こえた面子は皆沈黙し、アルに至っては顎をカクカクさせる始末。
「まぁ何にせよ、私達がやる事に代わりはない。そうだろう、皆?」
「あぁ、そうだな。緋雨の言う通りだ、頑張る事にしよう」
だがその場の雰囲気をまず取り繕う様にアリアへ微笑み茉莉花緋雨(eb3226)が言えば、和久寺圭介(eb1793)も続き艶やかな自らの黒髪を撫で付けると
「アルさんは何、食べたいですかー?」
『‥‥暖かな食事を見たいですね』
先のエリーの発言から未だ震えるアルを宥めるべく、カンタータ・ドレッドノート(ea9455)が無茶な注文だとは思いながらも幽霊へ尋ねれば、早く返って来る答えに微笑みその次に皆からそれぞれ聞けば、カンタータは先から黙したままの十河小次郎とその反対に皆と会話を楽しんでいるアリアを連れ、街中へ駆け出した。
●
「アルさんのお兄さんは、どうなったんやろう?」
「話を聞く限り、無事には無事なのだろうけれど‥‥その後の消息が分からないからね、家族の者を連れて来る事は今もケンブリッジにいない限り、相当に難しい気がする」
アルとの質疑応答より暫く、六人は買出しに出た三人とは別方向を歩きながら話を纏めていた。
「まだ‥‥生きているのかな?」
「それは何とも、調べてみない事には」
その中で様々な疑問を出すシェアラに対し、圭介と緋雨がそれぞれ答えると現状ある情報の少なさに皆は溜息をつくが
(「おいらは、いつも答えを探してる‥‥きっとどこかにあると信じて。だから今、此処に居るのも、何か自分がやらなきゃいけない事があるからだと、思う」)
その状況でもシェアラは一人、決意と共に瞳に光を宿せば誰かの呼び掛けで散開する皆に遅れ駆け出した。
「流石にそこまでは私も、キャメロットに行くとまでは聞きましたが何処に住むとまでは」
それから皆は三年前にアルが事故に遭ったと言う現場や、彼女の家だった開場周辺等で情報を集める中、そのシェアラは彼女の家を管理する人物の元を訪れ事情を説明した上で彼女の家族に付いて聞いていたが詳細は分からず仕舞い。
「そうかぁ。今からキャメロットへ行って、すぐに見付かったとしても聖夜には間に合わんよなぁ」
「あ‥‥でも待って下さい」
その結果にうな垂れ、そう判断すると踵を返し次の場所へ向かおうとしたが、何事か思い出した管理人はシェアラを引き止めると自身の家の中へと戻る。
「一つだけ、忘れ物があったのですが‥‥」
「これ、日記?」
止むを得ず寒空の下で待つシェアラの元へ管理人は羊皮紙の束を簡素に纏めた物を携え戻って来ると、再度尋ねる彼に管理人が頷けば
「えぇ、処分しようかとも思ったんですけど捨てられずにね。仲睦まじい家族だった印象が強く残っていたから、じきに取りに来るだろうと思って」
それをシェアラへ託すと、誰が書いただろう日記を手にシェアラはそれを紐解く事に抵抗を覚えるが‥‥やがて意を決して表紙を捲った。
さて、その翌日。
「道具が違うのだが此処はイギリスだからなぁ。で、餅を搗けばいいのか?」
「その通りですよ」
カンタータの檄に小次郎とアリアが見る先には蒸し終わったもち米と、臼と杵の代用品だろう大振りな真鍮製の鍋に何処かいびつな棍棒。このもち米は小次郎が年越しのために、ジャパン人の商人にあらかじめ注文して取り寄せてもらったものだ。
それを見て察した小次郎にアリアが首を傾げる中、カンタータが頷けば棍棒をアリアに、鍋を小次郎へと託し
「息の合った所、見せて下さい〜」
相変わらず頭部を覆うフードは普段のまま微笑めば二人を促すと暫く、小次郎のレクチャーを何処かぼんやりしているアリアが受けていよいよ、餅搗きが始まった。
「やっ!」
「ちょ‥‥おま」
「てぇ!」
「い、勢いがするどっ!」
一行が見守る中、小次郎は比較的手馴れた感じで潰れて行くもち米の群れを濡れた手でひっくり返すが、棍棒を振るうアリアの一閃は確かな威力を持ってそれらを砕き潰し兄を慌てさせれば一度、止めようとしたが
「アリア、少しま‥‥へぶ」
『あっ』
その静止は僅かに遅く次の瞬間、辺りに響く鈍い音と皆の叫びが直後に地へ倒れ伏す小次郎‥‥アリアが振るった脳天への一撃は流石と言うべきか。
「そこまでは期待していなかったのですがー」
何処か冴えないアリアを見つつ、期待以上の光景に思わずカンタータは笑みを零すととりあえず小次郎の様子を見る為に駆け出した。
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「今宵は聖夜。人がほんの少し優しくなれて、暖かな奇跡に溢れる日‥‥」
そして迎える、二十四日の夜‥‥家族が集う場所だろう、広い居間に今は一行と小次郎にアリアとアルが揃ったその中で、緋雨の言葉は誰にともなく響く。
「『聖夜』には歓『声や』笑いが沸くのが一番です‥‥」
「それ、厳しくないか」
そんな、穏やかな雰囲気の中で突如と唐突を持って透の駄洒落が紡がれる‥‥が、それは喧騒の中に埋もれ、あまつさえ聞いていた小次郎に駄目出しされる。
「そんな事は‥‥」
『もうちょっと、分かり易い方が』
「透の駄洒落はむらっ気があり過ぎる、もう少し精進が必要だな」
それに彼は食い下がるも、アルにまでそう言われるとうな垂れる以外の選択肢はなくなり小次郎から駄洒落の評価に付いて頂戴すれば、沈んだ表情を浮かべるも
「まぁ余り気にしない方がいいね、と言う事でそろそろ乾杯を交わさないか?」
「あぁ、そうだな。それじゃあそれはお‥‥」
そのやり取りを見て、透を至極あっさり慰めれば圭介が皆へ提案すれば最初とは様子が大分変わった小次郎が一歩前に出るも
「アリア殿、お願い出来るか?」
圭介が呼んだのは気になる相手のアリアで、先生がうな垂れるその中で彼女は不意に呼ばれた事から表情に逡巡を宿し、両膝を地に付く兄を見やるが
「‥‥それではお言葉に甘えて」
皆の暖かな視線を感じると呼ばれ損ねたその兄の代わりに一歩、前に踏み出して
「今年の出会いに、乾杯」
『かんぱーい!』
簡単に一言だけ言えば次いで皆が復唱し飲物の入った器を打ち鳴らし、ささやかながらも今日だけは楽しげな雰囲気を纏わせたアルの家でその聖夜祭は幕を切った。
「もふ‥‥美味しいー!」
「まだ沢山ありますよー、材料も少しあるので足りなかったら作ってきますけど〜?」
「わーい!」
さてそのささやかな聖夜祭、繰り広げられる光景と言えば部活対抗の料理大会で作ったと言うアップルプディングを中心に、『特に』イシュメイルがリクエストしたお菓子等の出来を聞く、今日はフードを外すカンタータへ彼が他の誰よりも早く多く頬張り微笑めば
「楽しんでない人にぃ、楽しませる事なんて出来ないよぉん! ねぇ〜ん、小次郎☆ 楽しんでいるぅん?」
「あ、あぁ」
その傍らではまだ始まったばかりにも拘らず、恐ろしい勢いで酒を呷っては飲み潰れ掛けているエリーが小次郎の肩へ手を回せば色目を飛ばして彼を狼狽させる等、あちこち慌しい限り。
「今の内に仲良くしておかないと、彼女の様に後悔する事になるのではないでしょうか‥‥」
「う、ん?」
その中で妹の依頼と言う事からアルと不可思議な踊りを舞う小次郎の傍ら、いつの間に近くへ来たのか透が無愛想な口調で言えば動きを止める小次郎へ続け、少しだけ微笑むと
「私もジャパンにいる義妹と出会え仲良く出来た事は、忍の中で生きて来た自分にとって、知り得なかった感情を知る事が出来ましたから‥‥それに、らしくない事はしない方がいいです‥‥」
「‥‥参ったな」
言われた彼は苦笑いを満面に浮かべ、頭を掻いた。
「アリアさん、浮かない顔しているけど‥‥もふ、どうしたの?」
「いえ、少し」
そんな彼らの傍らでは先日から冴えない様子のアリアへ話し掛ける緋雨達。
その一人、バノックやら木の実がぎっしり乗った皿を放さず食べながらイシュメイルが疑問にアリアが紡いだ答えは悪気はないだろうが、何処か素っ気無い返事。
「独りで悩まないで。私達、友達でしょ」
その答えに緋雨は哀しげな表情を湛え、アリアを見つめ優しく言うが彼女の憂いは抜けなかったが
「まぁ、こう言う場やからノリで小次郎さんに聞いてみたい事を聞いてみたらええんちゃうかな? もし何かあればおいら達もフォローするし‥‥」
「こらぁっ、アリアァ! 小次郎要らないのならぁ、私が貰っちゃうもんねぇん。そしたらぁアリアはぁ、透のおばちゃんだぞぉ!」
「うるさいです‥‥」
シェアラが一先ず窘めその後を継ぐが途中、酔っ払いエリーが彼の続く句を遮ると彼女の息子が静かにその首を掴み、何処かへ引き摺り去れば周囲は唖然とするが
「あんまり気にせず、もふもふ‥‥アリアさんらしく振る舞ったら? 小次郎先生もきっと、もふ‥‥喜ぶと思うよ!」
「だから今を大切に生きなさい。大丈夫、きっと大丈夫だから」
イシュメイルが無邪気な笑顔を浮かべて断言すれば緋雨も続くとアリアは暫しの間の後、真直ぐな視線だけ彼女に返し‥‥頷いた。
やがて祭りも終焉に迫り、最初は皆に紛れ話を交わしていたアルは一人高みで皆を見下ろし、とある光景に魅入っていた。
「誕生日、おめでとうございます‥‥」
「ありがとう‥‥」
それとはエリーと透の、珍しくも親子らしいやり取りで女装する彼が誕生日を迎えた母親であるエリーへ花束を渡す光景。
「アルさーん」
とその時、彼女は自身を呼ぶ声を耳にして辺りを伺えば、やがて視界に入るのは手を振るシェアラと微笑むイシュメイルの姿。
「なぁアルさん、アルさんにプレゼントがあるんやけど受け取って貰えるかなぁ」
『私に、ですか?』
その呼び掛けに彼らへ近寄りながらシェアラの言葉に首を傾げるアルへ、イシュメイルと圭介が前へ出れば
「‥‥最後の贈り物、と言った所かな」
「これをどーぞ! 今じゃその首に掛けられないけど折角見付けたから!」
「それと、これも」
圭介の言葉と次いでイシュメイル、今は皿の代わりにこの家で偶然見付けた首飾りを両手で持って彼女の首元へ差し出すと、シェアラがアルの眼前に一枚の羊皮紙を突き付ける。
「こ、れは」
それにはアルが死んでから後、本当に知りたかった事の一端が書き記されていた。
それはたったの一言だったが、アルにとってはただそれだけで十分だった。
『この家には僅かだけど、確かな思い出がある‥‥その最後になってしまったあの聖夜、あんな別れ方をして自身、後悔すれどアルが天国で幸せに暮らしているならそれだけで私は救われる』
『思い出しました、私‥‥兄さんと『喧嘩をして』家を飛び出したんです。それで、一言だけでも謝りたかった。だから私は此処に、それなのにあの聖夜を台無しにした私へ兄さんは自分より、私の心配を‥‥』
「‥‥アル、さん‥‥」
それを凝視し、肩を震わせる幽霊が紡いだ言葉に小さくアリアが身を震わせると、その姿を目に留めた小次郎は頭を掻いたが意を決すると、彼女の元へ歩み寄った。
●
「アリア殿は‥‥と」
さてその後、涙するアルを皆と宥め透かして落ち着かせれば圭介は一人でアリアを探すと、手狭なベランダへと通じる扉を見付け静かに開ければそこに彼女は確かにいたが
「この場に私が入るのはどうやら無粋の様だね、しょうがない‥‥ここは引く事にしようか」
その隣、手摺りに凭れ掛かる様に小次郎の姿を見止めれば彼は二人に気付かれない様、また静かに扉を閉めた。
「しかし次は譲らないよ、小次郎殿」
そして扉一枚を隔てた向こうにいる小次郎へ告げるといつの間に買ったか、手に持っていた花束を肩に担いで圭介は普段の表情を極力保ったまま戻るのだった。
「その、何だ‥‥寒いな」
「はい‥‥」
さてその二人、舞い散る雪の下で微妙な距離を置いてそれぞれ手摺りに凭れれば言葉少なくやり取りを交わすが無論、そんな調子では話が進む筈もなく。
そして暫くの間、雪が降り積もり微かな‥‥微かな音を立てる中で二人はそれぞれに皆から受けた言葉を脳裏に過ぎらせていた。
『らしくない事は‥‥』
全く持ってその通りだ、と小次郎は密かに笑みを浮かべれば
『大丈夫、きっと大丈夫だから』
アリアもまた、緋雨の言葉を思い出して頷き決意すると二人は同時に言の葉を紡いだ。
「ジャパンに行かないか?」
「もっと色々な事を、に‥‥小次郎さんや父さんの事を知りたいです」
そして二人は次に固まり、だが即座に笑い声を弾けさせた。
やがて聖夜は終わり、朝を迎える事となれば後はパーティ会場を片付けるのみ。
たまたま偶然、誰よりも早く起きたエリーは皆を起こさぬ様に一人で二階の寝室から一階への居間へと至ると、ふと静かな事に気付く。
まるで今まであったものが、何か欠けてしまったかの様なその静けさの中で彼女はやはり静かに昨日の夜までいた、彼女の名を呼んだ。
「アル‥‥さぁん?」
しかし、その呼び掛けに答えは返って来ない‥‥そして確か昨日の簡単な片付けの時まで、料理が並んでいた卓に置いてあった筈の首飾りと羊皮紙の束が何故か消えている事に、エリーは有り得ないとは思いながらもある事に思い至ると
「‥‥天国で、幸せに」
まだ暗がりが辺りを包む肌寒い朝、目尻に一粒の涙を浮かべアルに別れを告げて十字を切り、それだけを祈るのだった。
その翌日、密かにフリーウィルへ退職届を出していた小次郎はその校舎を背にアリアを伴い、キャメロットへと向かうのだった‥‥二人が生まれた地、ジャパンへ帰る為に。