HEのイゴール君とフェイザリーお母さん

■シリーズシナリオ


担当:橘宗太郎

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 44 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:07月16日〜07月23日

リプレイ公開日:2005年07月24日

●オープニング

●ごめんなさい
 早朝。
 小鳥達が、忙しく飛び回っている。
「ん〜」
 イゴールは、寝袋から這(は)い出て、屋根裏から『イゴールに屋根裏を貸しているお爺さん』のいる一階へと降りていった。
「キィッ!」
 途中で『ふとっちょネズミ』のネズミーを踏んづけたが、気にしない。
「ご飯」
 と言うと、お爺さんが朝食を出してくれる。
 パンをゆっくりとカジりながら、イゴールは上を向いた。‥‥困ったなあ、という表情である。
 シャハノン伯爵の死後、イゴールには何も起こらなかった。伯爵の館で起こった出来事も、記憶の隅(すみ)に追いやられようとしている。
 気になるのは、ただ一つのこと。
(「お母さん」)
 生きているはずなのに、母親は会いに来ない。
 捨てられた事自体は気にしていないイゴールではあるが、やはり寂しくはある。
 そう思っていると、何も手に付かなくなって、イゴールはボ〜ッとしていた。狩りに出ても、この頃はサッパリである。
 今日も、ポカ〜ンと口を開けながら出かけていくイゴール。
 ‥‥何時通りのはずだった。
 後ろから、
「ごめんなさい」
 と声をかけられるまでは。

●イゴール君とフェイザリー
 何時の間にやら、パリの富豪リューリクの館にイゴールとフェイザリーの親子の姿があった。
「お世話になっている身なのですから、あまり騒がないようにしてくださいね」
「‥‥うん」
 一緒にいるものの、どこかよそよそしく、あまり馴染んでるようには見えない二人。
(「何時までいる気だ」)
 二人を見ながら、眉間に皺を寄せるリューリク。
 イゴールがハーフエルフということもあって注目が集まり、
「リューリク様のお父様の落とし子」
 などと噂されるのでリューリクとしては迷惑である。しかし、『久しぶりに会った親子』だと聞いているので、追い出すわけにもいかない。
 冒険者ギルドに、リューリクの執事が来たのは、それからすぐの事だった。
 話を聞いてみると、どうやらイゴールとフェイザリーの親子の仲を『普通の親子』のようにしてもらいたいらしい。
「二人で屋根裏暮らしは辛そうなので、置いてはいるのですが‥‥。それに、イゴール様は照れておいでなのか、全然話しませんでなあ‥‥」
 それは何時もの事なので、
「あ〜」
 と納得するギルドの担当者であった。
 その頃、イゴールは‥‥
「これ‥‥ネズミー」
 猫に食べられないように籠に入れられ、
「キィー!」
 と暴れているネズミーを母親に紹介していた。
 ‥‥もちろん、それ以上の会話は続かない。

●今回の参加者

 ea0508 ミケイト・ニシーネ(31歳・♀・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea3338 アストレア・ユラン(28歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea5283 カンター・フスク(25歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea7504 ルーロ・ルロロ(63歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8539 セフィナ・プランティエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea9248 アルジャスラード・フォーディガール(35歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb0703 リジェナス・フォーディガール(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb1193 エディン・エクリーヤ(32歳・♀・バード・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

メリル・マーナ(ea1822)/ シェアト・レフロージュ(ea3869)/ ミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)/ ナロン・ライム(ea6690

●リプレイ本文

●リューリクの館
 冒険者達は、イゴールとフェイザリーに会いに、リューリクの館を訪れていた。
「執事はん、良かったら紅茶をもらえへん?」
 そう言ったのはミケイト・ニシーネ(ea0508)。
「ミルやんからハチミツ漬けを貰って来たんやわ〜」
 その言葉の通り、彼女は手にチェリーと木苺のハチミツ漬けが。
 ミルやんことミルフィーナ・ショコラータが、
「イゴールさんとフェイザリーさんの仲が良くなれば」
 と言って渡してくれたものだ。
「ワシも食べ物を持ってきたぞい」
 ルーロ・ルロロ(ea7504)は手に包みを抱えていた。
 ナロン・ライム(ea6690)が
「みんなで摘んでください」
 と言って持たせてくれた『ミニ弁当』だ。
「皆様、ご用意がよろしいですなあ」
 執事はひとしきり笑った後、すぐに紅茶の用意をしてくれた。
「レーヌ、ここの猫さん達と遊ばせてもらいなさい」
 と言って、セフィナ・プランティエ(ea8539)は、愛猫レーヌを館の猫達と遊ばせていた。
(「わたくしも混ざれないかしら‥‥」)
 リューリクの館に住む猫達は人嫌いのため、彼女自身は猫達の輪に混ざれず、チラチラと猫達の様子を見ていた。
 しかし、『秘密兵器』がある。
 スチャッ!
 セフィナは、布切れを巻きつけた棒を取り出すと、パタパタと振りだした。
「にゃ〜ッ!」
 突っ込んでくる猫達。
 セフィナは、
「‥‥ウフフ♪」
 と微笑みながら、猫達と遊んだ。
 ミケイトは、
「ミルやんが作ってくれた菓子は美味いんやで〜」
 イゴールとフェイザリーに持ってきたハチミツ漬けを勧(すす)めていた。
 一口食べて、
「美味しいよ」
 とフェイザリーに話しかけるイゴール。
「はい」
 と答えるフェイザリー。
 アルジャスラード・フォーディガール(ea9248)とリジェナス・フォーディガール(eb0703)の兄妹も、ハチミツ漬けとミニ弁当を摘(つま)んでいる。
(「‥‥なかなか美味いな。よく味がしみている」)
 と、意外に深いことを思っていたのはアルジャスラードだ。
 彼は、料理も得意なのである。
「イゴールは狩りが上手くなったのかしら」
 前回に続いて行動を共にしている兄に、そう話しかけたリジェナス。
 アルジェスラードはその問いには直接答えず、
「今は、色々と大変そうだからな‥‥」
 と答えた。
(「やっぱ気まずそうやなあ。‥‥イゴールはんの場合、言葉より行動やね」)
 と思ったアストレア・ユラン(ea3338)は、イゴールとフェイザリーの間をクルクル飛び回りながら、
「なあなあ‥‥キャンプでもせえへんやろかー?」
 と話しかけた。
 ミケイトも、横からイゴールに
「うちも一緒に狩りしたいんやけど‥‥どうやろ?」
 と話しかける。
「‥‥う〜ん」
 フェイザリーを見るイゴール。
 リジェナスも、その横から
「二人には、仲良くなってほしいから」
 と話しかける。
 アルジャスラードはその場では特に何も言わず、後日のことをかんがえていた。
(「キャンプか‥‥事前に色々と用意しておかないとな」)
「家の中でお昼寝をするのも気持ち良いのですけれど‥‥外で日向ぼっこも良さそうですわね」
 エディン・エクリーヤ(eb1193)は、ジタバタしているネズミーを抱えながら、ニッコリと微笑んだ。
 ジタバタしているので、勘違いしたのか、
「あら、ネズミーさんも飲みますの?」
 ネズミーに紅茶を飲ますエディン。
 小さい手で一生懸命飲むネズミー。‥‥意外と美味しいので、
「キィ〜?」
 お代わりを頼む。
「む〜」
 かなーり行きたそうにしているイゴール
「ボクもキャンプには賛成だ。‥‥もちろん、二人が行きたいのならだけどね?」
 皆とは少し離れた位置で紅茶に口を付けていたカンター・フスク(ea5283)が、軽く微笑みながら問いかけた。
 イゴールとフェイザリーは顔を見合わせ、フェイザリーが
「せっかくですから」
 と言うと、イゴールも
「うん」
 と答えた。
 アストレアは、フェイザリーの肩にちょこんと座った。
「‥‥フェイザリーはん、イゴールはんの誕生日って何時なん‥‥?」
「6月6日のはずです」
 それを聞いたアストレアは、天井の辺りでクルクル回りだし、
(「誕生日過ぎてから日が経ってないんやな‥‥問答無用で祝ったろ〜」)
 と、何やら企んでいた。
 カンターは、紅茶を飲み終わると、執事に話しかけた。
「美味しかったよ。よければ、紅茶の葉を譲ってもらえないかな? あちらでもお茶を楽しめればと思うんだ」
「どうぞ」
 と言って執事は、袋詰めされた紅茶の葉を渡してくれた。
 ルーロは、フェイザリーに話しかけた。小さい声で。
「前にも言ったが、イゴールは、お前さんに捨てられた事など気にしておらん。無闇に謝らん事じゃ」
 そして、こう続く。
「イゴールは家族に興味があるのじゃ。伯爵に会いに行ったのも、そのため。家族になってやりなさい」
 フェイザリーは老人にお礼を言ったが、彼は「いらんいらん」と言って、冷めた紅茶を飲みはじめた。
 なぜ冷めた紅茶なのかというと、『猫舌』だからである。
 リューリクはキャンプと聞いて、ホッとした様子を見せた。
(「リューリク殿の周囲の方々の誤解を解こうぞ」)
 メリル・マーナが気をきかせて周囲に事情を説明してくれたが、彼女自身がイマイチ事情を把握していないこともあり、効果は薄く、困っていたのだ。

●仲直りキャンプ
 さて、森へキャンプへやってきた一行。実は、ルーロだけいないのだが、出かける前に
「虫がお邪魔虫に‥‥なんて困りますから」
 と言ってシェアト・レフロージュが用意してくれた『虫除け用の葉』を渡してくれていた。‥‥虫があまり寄ってこなくなった気もする。
「リジェ、すこし手伝ってくれ」
 人一倍多くの荷物を抱えていたのは、アルジャスラードだ。
「わかったわ」
 荷物を降ろすのを手伝うリジェナス。
 アルジャスラードは、キャンプのために色んな道具を抱えてきてきたようだ。
 イゴールの狩りのライバル(?)ミケイトが、
「一緒に狩りにいかへん? 前からしたいと思ってたんやわ」
 とイゴールを誘うと、狩りの師匠リジェナスも同行を申し出た。
「私も行きたいわ。‥‥どの程度上達したのか、見てみたいしね」
 イゴールは、フェイザリーから
「あなたの自由にしていいのよ」
 と言われると、喜んでリジェナスとミケイトの下に走っていった。
「どっちが大物獲れるか競争や〜」
 と言って、ミケイトがニッと笑うと、イゴールも真似して、笑った。
 カンターは、何時も通り料理当番。
(「うん、この香り‥‥やはり高いものは違うな)
 彼は、紅茶を使った料理のレシピをかんがえたりしていたが、しばらくすると湯を沸かしだした。
 すでに日持ちのするお菓子を用意してある。
 アルジャスラードも手が空いていたので、
「手伝うか?」
 と言って、手伝ってくれた。
 その横で、何やらゴソゴソと準備をしていたのは、アストレアだ。
(「問答無用で祝ったろ〜」)
 どうやら、イゴールの誕生日パーティー用にお菓子を作ってきたらしい。
(「ひっそりこっそり〜」)
 と、イゴールがいない間は『ひっそりこっそり』準備は進めてられた。
「ネズミーをお借りしますわ」
「キィ〜」
 一緒に日向ぼっこをしようとネズミーを抱きかかえるエディン。意外と毛並みが良いのか、モワモワしていて気持ちが良い。
 エディンの表情は、本当に気持ち良さそうだ。
(「フワフワしていて、気持ち良さそうですわ‥‥」)
 寝てしまい‥‥夢の中でも、花の綿毛を追いかけていたりする相変わらずのエディン。
「‥‥ん‥‥」
「キィィィ!」
 ‥‥たまに、寝返りでネズミーが潰されかけていたのは内緒である。
 セフィナは、フェイザリーの横に腰を下ろし、話しかけた。
「イゴールさんとの接し方でお悩みのようですけれど」
「あの子とは、長い間疎遠でしたから」
「最初から上手くは行かないものです。人は、血の繋がりだけで家族になるのでは無く、想う心で絆を強めるのだと思います」
 セフィナは微笑みながら、こう続けた。
「これから、ゆっくりと本当の親子になればよろしいのです。イゴールさんにしてあげたかったことも沢山あるはず‥‥どうぞ、お別れした時のままのイゴールさんだと思って、可愛がってあげてください」
 クレリックのセフィナらしい言葉であった。
「イゴールさんは、甘え方を知らないだけだと思います」
 フェイザリーの頬から、涙が流れた。
「良くしてあげたいと思います」
 狩りをしながら、イゴールは何も話さなかった。
 ミケイトとリジェナスが、ちょうど一匹ずつのウサギを獲ったしばらく経った頃、ようやく彼も彼女達に追いついた。
「やるやないか〜」
「上達したわね」
 とミケイトとリジェナスに言われ、ニコニコ。
 ミケイトは、彼に言いたいことがあった。
「イゴールはんは、独りやないで。友達‥‥そして、狩りのライバルやで?」
 突然の言葉に、キョトンとするイゴール。
「ホンマに寂しい思ったんなら目の前におるお母はんに素直に甘えたらえぇねん」
「‥‥‥」
「狩りの達人にでもなって、お母はんを迎えに行ったらどうやろか?」
「‥‥うん」
「フェイザリーさんのためにも頑張るのよ」
 リジェナスも、応援してくれた。
「獲物をよく見て、一瞬の隙を見逃さないようにしなさい」
 イゴールの狩りの師匠である彼女も、弟子がやる気を出すのが喜ばしくないわけはない。もちろん、母親と仲良くしてくれることも。
 イゴールは、その言葉に頷いた。その言葉を聞いたミケイトは、彼に微笑みかけ、
「これは、餞別や。アストレアはんから聞いたで‥‥この間誕生日やってんてな?」
 二つの『木で出来たブレスレッド』をあげた。どうやら、イゴール‥‥そしてフェイザリーのぶんらしい。
 戻ってきたイゴールを、皆が出迎えてくれた。
「皆さん、お揃いですわね」
 エディンも、ネズミーを抱えて戻ってきた。
 そして、獲ってきたウサギを手にぶらさげていいるイゴールを見て、ウトウトとしたまま、こう言った。
「今の自分を、お母様にみせてあげると良いと思いますの」
 こう続く。
「話すのが気恥ずかしいのでしたら、行動で示せばよいのですわ」
 自分が生活出来ているということを見せて安心させてあげなさい、という意味らしい。
「これ獲った」
 エディンにそう言われて、フェイザリーに獲ってきたウサギを見せるイゴール。
 フェイザリーも褒めてくれた。
「お袋の味を披露したらどうやろ?」
 アストレアが、フェイザリーにウサギを調理してくれるように頼むと、彼女は喜んで引き受けてくれた。
 カンターは、一段落つくとイゴールを連れ出した。
 話しだした内容は、イゴールを驚かせた。
「実は、ボクはこの依頼が終わったらイギリスに行くんだ‥‥仕立て屋の勉強のためにね」
「‥‥寂しい」
 肩を落とすイゴール。
 カンターは、イゴールの視線に合わして話を続けた。
「キミの母親の心の中では、キミは赤子のままなんだと思う。安心させるためには、キミが一人で生きていけることを示さなきゃならない」
 彼は、言葉を続けた。
「それに‥‥僕にもキミの成長した姿を見せてほしい」
 そう言って、カンターは戻った。
 その間に、アルジャスラードもフェイザリーと話をしていた。
「親って、何かしなけてばいけないという事は無いんですよ」
 敬語で話しかけていたが、表情を変え真剣に話出すと、口調が元に戻った。
「イゴールは、もう十分一人立ちしているしな。あいつは話しかけると言う事はしないからな、もっと自分をさらけ出してみると良い」
 フェイザリーも理解した様子で、コクリと頷いた。
 さて、食事時。
 誕生日のお祝い代わりなので、豪華な食事が用意され、イゴールは喜んだ。
「ネズミーはん、ご飯な〜。最初はカジられるて思てごめんな」
 アストレアは、ネズミーに豪華なご飯をあげていた。
 アストレアに撫でられ、豪華な食事も貰え、ご機嫌のネズミー。
 ギュッ。
「キィ〜」
 なんとなく抱きしめてしまう。‥‥抱き心地は良かった。
「ちょっと前に誕生日だったんやなー。このお菓子は、お祝いなー」
 ひとまずネズミーから離れ、イゴールの表情を見るアストレア。
「美味しいやろか?」
「うん」
 ぱくぱく。
 一生懸命、用意されたものを口に入れるイゴール。
 フェイザリーとの仲も、良くなってきているように思える。
 その夜、
「アルジャスラードはんと一緒に一曲披露するわー」
「では、楽しんでくれ」
 楽士のアストレアとアルジャスラードが演奏してくれた。
「さっきよりは上手く出来ていると思うけど」
 カンターが、紅茶を入れてくれた。
「う‥‥ん‥‥」
 ネズミーを抱えたまま、寝てしまったエディン。
(「こんなのも悪くはないわね」)
 リジェナスも、兄の近くに座りながら、音楽を楽しんでいる。
「イゴールはん」
 ミケイトにうながされ、イゴールはお揃いのブレスレットをフェイザリーに手渡した。
 音楽が流れる中、イゴールから『ある言葉』が発せられた。
「お母さん」
 と言うと、フェイザリーの頬からは大粒の涙が溢れ、親子はぎこちなく、それでいて力強く抱き合った‥‥。
 セフィナは、少し寂しそうに親子を見ながら、
(「わたくしも何時かは、あんな風に、母親になったりするのでしょうか‥‥?」)
 ふと想い人の顔を思い浮かべた。

●キャンプの裏で
 リューリクは、目の前にいる老人に呆れた表情を見せた。
 どうやら、ルーロが『説得』に来ているらしい。
「あの二人、一緒には住めなくとも、時間のある時には何時でも会える様にしてやれたら‥‥と思うんじゃが」
 ルーロは、期待感有り有りな感じで話しだした。
「伯爵の所で侍女をしておったという事じゃ。どこかに侍女を雇ってくれる所はないかの〜?」
 ルーロの視線を無視するリューリク。
 不機嫌だ。
「それにしても、この屋敷は良い場所にあるのう‥‥イゴールの住居も近いし」
 とリューリクの態度を無視して話を続けるルーロ。
 そんなやり取りが続き、‥‥つい根負けしたリューリクが
「侍女にするのは無理だが、生活の基盤を整えてやる程度なら、何とかなる」
 と言い出す。
 一応の返事に
「流石はリューリク殿! 器がデカイのう!!」
 と喜ぶルーロ。
「礼はいい。そんなに、あの子が気になるのか?」
「あれは、手がかかるからのぉ‥‥」
 苦笑いした後で、二人は肩を揺らした。

●帰り際
 『お揃いのブレスレット』をした親子は、仲が良さそうに見えた。
 皆がイゴールを褒めてくれたり、撫でてくれたり、再会の約束をしたりしてくれた。
 最後に、カンターは、そっとイゴールの頭のなでた。
 イゴールの瞳は、カンターの何時もと違った笑みを映す。彼本来の笑顔を。
「いつか必ずまた会えるさ。僕たちに用意されている時間は、とても長いものだからね。それに、どれだけ離れていようとも、僕たちが親友であることにかわりはないのだから‥‥」