鉄の爪のナイフ使い1〜小さな箱が泣く

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 10 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月08日〜08月14日

リプレイ公開日:2004年08月16日

●オープニング

 彼は、いつどこに居ても目立つチームリーダー、リィゼといつも行動を共にしていたから、いつどこに居ても目立つ事は無かった。
 ひょろりと背が高く、やや猫背の痩せた男。名はジョゼフィンと言う。
 小さな頃から悪事のおこぼれ頂戴をして生きてきたジョゼフィンは、リィゼや鉄の爪のリーダー達の顔色をうかがって、ようやく人を数人使う今の地位に上がってきた。両手にナイフを持ち、素早い身の動きで相手の懐に入って致命傷を与える戦闘スタイルだ。
「‥‥いいかい、ジョゼ」
 リィゼは、鋭い視線でジョゼを睨んだ。
 身動きひとつせず、ジョゼは彼女の話を聞いている。
「2日後、この街道を商隊が通る。その商隊には、パリの貴族達に売りさばく予定の貴金属が一箱載っている。それを頂いて来るんだ」
 お前達は、しっかりジョゼをフォローしな、とリィゼは自分の配下五名に言いつけた。頼りない連中だが、まあ貴金属を頂いて来る位だったら出来るだろう。
「もしそいつが護衛を頼んでいて邪魔されるようだったら、わざわざ相手をする事ぁ無い。宝石だけ頂ければ、それで構わないから。‥‥気をつけな、あいつは強欲で有名だからね」
 こくり、とジョゼは頷いた。

 パリのギルドに、依頼が出された。
 最近、街道に盗賊団・鉄の爪が出没するという。その鉄の爪から荷物を守り、商隊をパリまで運んで欲しい。ここから三日ほど行った場所にある村で護衛と交代し、パリまで代わって護衛をして来る事。
 ただし‥‥。
 荷物は大切な商品だから、何としても守って欲しい。
 荷物には手を触れるな。
 シレン、と名乗った商人は、きつく冒険者達に言いつけた。
 彼の悪い噂は、絶えない。ここ最近の噂も、耳に届いてきた。彼の運ぶ荷物‥‥その中に、小さな箱がある。その小さな箱は、しくしくと泣き声をあげるというのだ。
 絶対に触るな、と言われては、荷物を改める事は出来ない。
 “非常時”でもなければ‥‥。

●今回の参加者

 ea1695 マリトゥエル・オーベルジーヌ(26歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea1807 レーヴェ・ツァーン(30歳・♂・ファイター・エルフ・ノルマン王国)
 ea2649 ナスターシャ・エミーリエヴィチ(30歳・♀・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea2790 バルザ・バルバザール(25歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea4159 リーニャ・アトルシャン(27歳・♀・ファイター・人間・ロシア王国)
 ea4359 シルア・ガブリエ(28歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5243 バルディッシュ・ドゴール(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea5406 メイア・ナイン(27歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 人の子すら入れない小さな箱を、その商人は一つ、二つ、あちこちからパリへと運んでくるという。大切そうにその箱を運び入れ、箱に入ったままそれは取引される。
「どうやら、その箱に生き物が入っているらしいというのは、ずいぶん前から噂されていたようですね」
 待ち合わせの町に到着するなり聞き込みに回っていたナスターシャ・エミーリエヴィチ(ea2649)は、馬車を待つ仲間へとはなした。まだ19歳のナスターシャ一人では不安だったので、ナスターシャはさんざん迷ったあげくに上流階級に関する知識を持ったメイア・ナイン(ea5406)とシルア・ガブリエ(ea4359)のうち、シルアについてきてもらうことにした。
 メイド姿なのはいいのだが、メイアは笑ったり怒ったりという表情の変化が足りない。ナスターシャも感情表現の得意な方ではないので、二人揃うとよけいに印象がよくない。
「やっぱり、シフールだったの?」
 子供が入れない大きさであるとすると、シフールであろう、とマリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)が聞いたが、シルアが首を横に振った。
「いいえ、中に何が入っているかまではわかりませんでした。ただ貴族の間で、高価で取引されているようです」
「違法な取引をしているのであれば、そのことを訴えたりすることもできます。泣き声が聞こえる‥‥ということですから、中身はひと型のものと見て間違いないでしょうね」
 シルアに続けて、ナスターシャが答えた。
 泣き声‥‥と聞いて、今までじっと話を聞いていたリーニャ・アトルシャン(ea4159)が、ぽつりと口を開いた。
「‥‥泣き声‥‥あ‥‥」
「どうかしましたか、リーニャさん」
 シルアが聞くと、ぽんと手を打ってリーニャがすうっとシルアを見上げた。
「‥‥妖精さん?」
「妖精ですか‥‥そうですね、その可能性もありますね」
 すると、マリが少し首を傾げた。
「妖精だとすると、シフールよりふた周りほど小さいわよ。箱もシフールサイズより小さいと思うわ」
 マリはちらりと路地の向こうを見やる。どうやら、お相手が到着したようだ。
 話を聞いて、子供のようにそわそわしながら待っている13歳のナイト、バルザ・バルバザール(ea2790)の頭をマリはぽんと軽く叩くと、眉を寄せた。
「ほら、はしゃがないの!」
「何だよ、皆だって楽しみなんだろ? 中身はシフールかな、妖精かな‥‥」
 きらきらした目で、バルザは近づく馬車を見つめた。

 道中1日目は、何事も無く過ぎた。
 商隊と合流するまでもそうであったが、食料の調達は主にシルアが行い、調理はバルディッシュ・ドゴール(ea5243)が担当していた。大柄なジャイアントのバルディッシュが調理をするのも意外だったが、華奢な印象のシルアが狩猟を得意としているのもまた、意外だ。
 おいしそうなにおいに釣られてきたのか、バルディッシュの手元を、じいいっとリーニャが横から見つめている。無言で料理を観察するリーニャに、バルディッシュがちらりと目を向けた。
「リーニャ、見張りはどうしたんだ」
「‥‥」
 リーニャが振り返ると、馬車からやや離れたところにたっているレーヴェ・ツァーン(ea1807)が目に映った。バルディッシュは苦笑まじりに、リーニャの頭に手をやる。
「わかった、少しだけだぞ」
 バルディッシュは小声でそういうと、スープを皿に少しだけ入れて、リーニャに渡した。こくりとうなずき、リーニャは皿を手に取る。
 いつもは言葉少なめで無愛想なリーニャだが、スープを飲む時はとてもうれしそうだ。
 バルディッシュとレーヴェの目が合うと、レーヴェはため息をついた。
「遊びではないぞ。いつ盗賊が襲撃してくるか‥‥」
「あちらは、あの二人が見張っているさ」
 バルディッシュは、荷物のそばで時折魔術を使い、周囲を探索しているナスターシャとマリを見やって言った。ナスターシャがブレスセンサー、マリがムーンアローで周囲に鉄の爪が潜んでいないか、確認している。
「鉄の爪っていうのは、この辺じゃ名の売れた盗賊団だそうだな」
 バルディッシュが聞くと、スープを飲んでいたリーニャが小首をかしげた。
「‥‥鉄の爪‥‥どこかで聞いた」
「あなた、以前に鉄の爪のリィゼから宝石を取り返す依頼を受けているじゃないですか」
 ナスターシャに言われ、リーニャはああ、と答えた。
「そんな‥‥気もする‥‥」
「仕方ない人ですね‥‥。リィゼは鉄の爪のリーダーの一人です。どうやらこの周囲で活動しているのは、リィゼと‥‥彼女の配下にジョゼフィンと呼ばれるナイフ使いの男が居て、この2人が指揮しているようです」
「‥‥あくどい商売をしている輩の荷物だが、依頼となれば守らぬ訳にもいくまい」
 レーヴェが眉を寄せて小声でそう言うと、メイアは料理を運びながらレーヴェにさらりと答えた。
「もとより、後ろめたいことの無い荷物であれば、隠し事をする必要など無いのです。何らかのアクシデントで失われても、文句は言えないと思いますが」
「そういう問題では無い‥‥」
 レーヴェが言い返すと、バルディッシュが苦笑した。
「まあ、中身が何なのかによって、こちらも対応を変えるとしようじゃないか」
「‥‥しかし、シフールであればよろしいですが、リーニャさんの仰るように妖精であったなら、非合法とは言えなくなります。まず‥‥どうにかして箱の中を確認しなければなりませんね」
 シルアは、馬車に積まれた小さな箱をじろじろ見ているバルザにちらりと視線を向け、バルディッシュに聞いた。
 バルディッシュは、酒を飲ませて酔いつぶすという方法を提案したが、酒を飲まない場合も考えられるため、ナスターシャは襲撃された際に確認するのが一番だと言った。
「戦闘になれば、御者や見張りも荷物から離れなければならなくなります。その間に確認してはどうでしょう?」
「もし妖精だったら、逃がしてあげなきゃ。もっと何か時間稼ぎできないもんかな?」
 バルザはもう、逃がす気のようである。
「妖精だろうとシフールだろうと、お金で売り買いするのは正義に反してる! 僕は絶対逃がすべきだと思うな」
「そうね‥‥それじゃ、あたしのスリープを掛けるっていうのはどうかしら。お酒もいいけど‥‥それが戦闘中だったら敵の誰が魔法を掛けてもわからないでしょう?」
「マリトゥエル、守るべきものに魔法を掛けるのは‥‥」
 レーヴェが反論しようとすると、マリがしっ、と制止の声をあげた。
 マリが先ほど放ったムーンアローが、自分に返って来ない。レーヴェが剣を抜くと、荷物の箱に興味を誘われていたバルザがひょいと起きあがった。
「敵か?」
「‥‥近辺に5‥‥6名ほど潜んでいます。来ます、迎撃の準備をしてください」
 マリに続いてブレスセンサーを掛けたナスターシャが、荷台のそばに寄る。バルザとレーヴェ、シルアは剣を抜いて周囲を見回した。
 ナスターシャの視線は、馬車の左側面に向けられている。
 突如、暗がりから人影が飛び出した。たき火の光を浴び、4つの影が地面にのびる。そして続けて2体。
 最初に飛び出した4人は、それぞれリーニャ、レーヴェ、そしてバルディッシュとシルアに向かった。レーヴェがちらり、と馬車を振り返る。馬車の方に、ジョゼと思われる男と盗賊が一人、向かっていた。
「バルザ、行ったぞ!」
 レーヴェが声をあげる。バルザは剣にオーラを込めると、相手がつっこんで来るのを待った。ジョゼの前には盗賊の男が居り、盾になるようにバルザの前に立ちはだかった。
 ふいとバルザを避けたジョゼを、メイアが待ちかまえた。
「あなたは私がお相手します」
 メイアも、ジョゼと同じく両手で武器を持って戦うスタイルだ。ただし、メイアの方はショートソードを使うため、ややジョゼよりリーチが長い。ジョゼの鋭い攻撃を、メイアは両手のソードで払っていく。流しきれない攻撃は、レザーアーマーのうち装甲が厚い部分で受けるように身を返した。
 だが、ジョゼは彼女にはやや手が余る。
あっという間に馬車に詰め寄られた。ちらりとバルザを見ると、彼にも敵の突きが迫っていた。バルザは剣の柄で受け流すと、そのまま流しざまに剣を突いた。
 バルザの突きが、盗賊ののど元に深々と突き刺さる。
 と、ジョゼがふ、と横に身を動かした。
 あっ、と思うと馬車に乗り込まれていた。
 荷物のそばに居たナスターシャのウィンドスラッシュが、ジョゼに襲いかかる。ジョゼは再び馬車から降りると、後ろから迫っていたバルザの剣を片手のナイフで受けた。
「‥‥ここは危険です、降りていてください!」
 ナスターシャは、後ろに庇った御者と使用人に声を掛ける。二人とも、荷物をおいていくべきか自分の命が先か、判断出来ずにオロオロしていた。するとメイアが、二人の背後の布を剣で切り裂いた。
「お早くどうぞ。‥‥長くはもちませんから」
 メイアにせかされ、二人は馬車から飛び出した。続けてメイアが馬車から降り、馬車の中に立つマリに目配せをすると、2人の方を振り返った。
「荷物はお任せください」
「そ、そうだな。‥‥一番大事なものは宝石‥‥宝石だ! あれを盗られると、シレン様に怒鳴られるからな‥‥」
「わかりました。‥‥それとお気をつけてくださいね」
 メイアが、少し‥‥笑った気がした。
「敵にも魔法を使うものが居るようですから」
 ‥‥と言い終わるが先か、一人がふらりと身を崩した。声を掛けようとした御者の視界も、ゆらりと揺れる。
 地面に倒れ込んだ御者と使用人を見下ろし、メイアは口を開いた。
「ごゆっくりお休みください」

 マリは外にでた二人が眠っているのを確認すると、視線を前に向けた。
 レーヴェとバルディッシュは早々に盗賊を片づけると、リーニャとシルアの助勢に回っていた。バルディッシュのスマッシュとレーヴェのポイントアタックの助けもあり、マリが使用人と御者を眠らせた頃には、4人とも片づいていた。
「さあ、ほかの方は片づいたようですけれど、あなたはどうなさいますか」
 シルアが、ナスターシャとマリの前に立ち、庇いながらジョゼに聞いた。むろん、荷物は一つも盗らせる気は無い。
 ジョゼが退路を確認するように、視線を後ろに向ける。
 するとどこからともなく、甲高い口笛が聞こえた。
 ふ、とジョゼは顔を上げると、馬車の外で待ちかまえていたリーニャの横をすり抜けた。
 風のように姿を消したジョゼの後を追い、まだ動ける盗賊もよろりと立ち上がる。倒れたまま身動きの出来ない盗賊にそっと近寄ると、シルアは膝をついた。
「‥‥宝石はお渡し出来ませんけれど、けがを治してさしあげる事なら出来ます。だから今日は、もうあきらめて頂けませんか?」
 すう、とシルアが微笑した。

 シルアはそうっと馬車の外をのぞくと、ふっと息をついた。
「どうやら、まだ眠っているようです‥‥泣く箱を確認させて頂きましょうか」
「‥‥シルア、箱はおもちゃじゃ無いぞ? 本物のシフールが入っているんだ」
 バルディッシュが言うと、シルアはきょとんとした顔をした。
「そう‥‥なんですか?」
「見てみりゃ、わかるって!」
 バルザは箱に飛びつくと、釘で打ち付けられた箱に手をかけた。
 小さな箱の蓋は簡単に開き、それと同時に中から何かが飛び出した。
「わ!」
 バルザが驚いて声をあげる。
 メイアは馬車の中を飛び回る小さな“なにか”を目で追った。確かに、シフールよりは小さい。それは自分を取り囲むヒトをおそれるように、馬車の端っこの箱の影に逃げ込んだ。
 メイアがその影を、上からそっとのぞき込む。
「私たちは、あなたに害をなす者ではありません。ご安心ください」
 メイアは静かな口調でそう言った。
 しかし、でてくる気配は無い。バルザは肩をすくめた。
「おまえが怖いんだよ、きっと」
「それはどういう意味でしょう?」
 にっこり笑ってメイアが問い返す。
 メイアの目がマジだ。
 マリはバルザとメイアの間に割ってはいると、二人を交互に見た。
「二人とも、止めなさい。‥‥スリープの効果が切れるわ」
 いや、そういう問題では‥‥と、レーヴェが言いたげだ。
 レーヴェの非難を無視して、マリは腕を組んで考え込んだ。
「それで、あれは妖精なのかしら?」
「たぶん、エレメンタラーフェアリーだ。羽が4枚ある、小さい妖精なんだ」
 バルザは答え、箱の影をのぞき込んだ。
「ほら、でて来いよ。‥‥大丈夫、助けてあげるから」
「フェアリー‥‥食えるのか?」
「いや、食えないから」
 バルディッシュが、小声でつっこみを入れた。幸いな事に、今のリーニャの一言はほかのメンバーには聞こえていないらしい。
 少し残念そうな顔でバルザの手元を見ている、リーニャ。
「あ‥‥」
 バルザがふいに顔を上げた。
 妖精が箱の影から飛び出すと、ふわりとバルザの顔の前に飛び出した。雲間から現れた月の光がさあっと妖精の羽に当たり、青白い光を反射させる。
 妖精はくるくると馬車の中を飛び回ると、外へと飛び出した。
 誰も止める者は居ない。
 どこかの貴族の慰み者になるはずだったフェアリーは、自由を取り戻して、森の中へと消えていった。

(担当:立川司郎)