鉄の爪のナイフ使い2〜盗賊の恋

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月15日〜08月20日

リプレイ公開日:2004年08月20日

●オープニング

 男は周囲と目を合わせないように俯き、足早にギルドを後にした。誰かに見つからなかったか、誰かに後をつけられていないか、男はしきりに後ろを気にしている。
“あいつを手助けしたら、タダじゃおかないよ!!”
 と言ったリーダーの顔が、まだ脳裏に映っている。
 本来、盗賊である鉄の爪の一員、ジョゼフィンがこんな昼間からギルドをウロウロしているはずは無い。しかしジョゼは、ここに来なければならない理由があった。
 それは10日前に遡る。
 たまたま街道を見張っていたジョゼが、ある女性を助けた。
 女性の名前は、シレン。シレンはパリ近郊の街道を中心とした警備の仕事を主に、ギルドを通じて受けている。
 二十歳過ぎの若い女性だ。
 そのシレンに、ジョゼはすっかり心を奪われてしまった。
 物腰柔らかく、見目麗しい(ジョゼ談)シレンは、ゴブリンの群れから助け出してくれたジョゼに丁寧に礼を言い、謝礼を断るジョゼの手を握って“それでは、このお礼はまた後ほど”と去って行ったという。
“だまされてんだよ、あんたは”
 と呆れるリィゼの目を盗み、ことあるごとにジョゼはシレンに会いに行った。

 所が、きのうからシレンの表情が浮かない。
「‥‥どうやらここ数日、オークの群れが出没しているようなんです。被害も出ているようですし、一掃しておかなければ、もっと被害が出ます」
「シレンさん‥‥一人で大丈夫‥‥ですか?」
 か細い声で、ジョゼが聞いた。
 シレンは一人で大丈夫と言うが、オークの群れを一人で倒すのは、今の彼女では難しい。
 ジョゼはこっそり、彼女の手助けをしてくれるように、ギルドに依頼を出した。

●今回の参加者

 ea1695 マリトゥエル・オーベルジーヌ(26歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea1807 レーヴェ・ツァーン(30歳・♂・ファイター・エルフ・ノルマン王国)
 ea2649 ナスターシャ・エミーリエヴィチ(30歳・♀・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea4159 リーニャ・アトルシャン(27歳・♀・ファイター・人間・ロシア王国)
 ea4359 シルア・ガブリエ(28歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4820 メディクス・ディエクエス(30歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5243 バルディッシュ・ドゴール(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea5406 メイア・ナイン(27歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 恋は盲目、と言うけれど。
 当人は盗賊で、相手は街道警備をしている、お天道様の下を堂々と歩けるひとだ。
「この間は私達の敵でしたけど、今回は依頼主‥‥という訳ですか」
 皮肉たっぷりで、やや大きめの声でナスターシャ・エミーリエヴィチ(ea2649)が言った。どこかでジョゼが聞いているはずだから、むろん聞こえるように言ったのだが。
 これも何かの縁だ。レーヴェ・ツァーン(ea1807)は、ジョゼが居るであろう後方へちら、と視線を向けつつ、ナスターシャに答える。
「ジョゼの事は、彼女に言わない方がいいだろうな」
「乙女心ですね‥‥影ながらそっと見守り、手助けするなんて‥‥」
 ふわりと笑顔を浮かべた、シルア・ガブリエ(ea4359)。乙女じゃなくて男でしょう、と言うナスターシャの声も、彼女には聞こえていないらしい。
「シルア、ジョゼは盗賊ですよ。‥‥シレンさんが知ったら、何と言うやら」
「でも、もしかするとシレンさんも逆に盗賊になったりするかも‥‥」
 どことなくうれしそうに、シルアが言った。
「そうすれば、その方もいずれ鉄の爪の一員になるという事でしょうか? ‥‥それにしても‥‥」
 ナスターシャは、急に真剣な表情で考え込んだ。
「何か気になる事があるのか?」
 足を止め、レーヴェがナスターシャを振り返る。ナスターシャはっ、と顔を上げた。
「いえ‥‥以前の‥‥あの商人と同じ名前なんだと思っただけです」
「エレメンタラーフェアリーを売買していた‥‥あの商人か。確かにそうだな」
 商人のシレンの噂は、あまり良くは無い。だが、シレンは街道警備をする冒険者だ。
「いえ‥‥気にしすぎですね。すみません」
 街道の向こうで、リーニャ・アトルシャン(ea4159)が一行を待っている。
 マリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)は、いつの間にか居なくなっていたリーニャを、妹を叱る姉のように眉を寄せて見下ろした。
「リーニャ、どこに行っていたの」
「‥‥シレン‥‥どこに行ったのか、調べてきた」
「ジョゼに聞くから良かったのに‥‥でもご苦労様」
 ぽん、とマリはリーニャの肩を叩いた。
 リーニャはこくりとうなずき、一行に付いて歩き出す。
「何か分かりましたか、リーニャさん」
 ナスターシャがリーニャに聞くと、リーニャはしばし考え込み、いつものように片言で話し出した。
「シレンは‥‥いつも一人で居る。誰かとパーティーを組まない」
 そう、彼女は一人で行動し、街道警備も一人で行っている。時折誰かと組んだりする事もあるが、相手が多かったり、盗賊の襲撃が予想される時など、パーティーでの行動を余儀なくされる場合に限る。
「もう‥‥シレン、巣に向かっている」
「あたし達も急ぐわよ」
 マリは皆を振り返ると、急ぎ歩き出した。

 2割増し、と呟いたメディクス・ディエクエス(ea4820)に一声掛けて軽く諫め、マリはシレンに近づいていった。
 絶対の美女、とはいかないが、美しいプラチナブロンドの髪に細身の体。目つきは鋭く、実際の年齢よりやや上に見える。
「‥‥あなた達は?」
「このあたりにオークの巣があるので退治してほしい、と頼まれたものでね。こんなところで一人でどうかしたのか、レディ」
 素早いメディクスの動きにあっけにとられるマリ。
「ええ‥‥私もオークの巣が気になったから、来てみたんです。‥‥あなた達も‥‥ですか?」
「一人で相手をするつもりだったのか? 無茶だ」
 レーヴェが言うと、シレンはええ、と短く答えた。
「平気です、一体ずつおびき寄せれば」
「失礼だが、オーク6体を相手に出来る程場慣れしている、とは思えないが」
 レーヴェから見ても、彼女の腕は自分達とさほど変わらないように見える。
「ここは共同戦線といきましょう。‥‥リーニャが巣の様子を調べて来るらしいから、あなたもあたし達と行けばいいわ」
「そう‥‥ですね。すみません」
 シレンは微笑を浮かべた。
 リーニャが巣を探していくと、マリとシルア、そしてメイア・ナイン(ea5406)までがメディクスを押しどけてシルアの周囲に陣取った。
 3人ともジョゼに頼まれたとは言えないが、どうしてもジョゼの事が聞きたくて仕方ないのだ。
「あなた、一人で仕事をしているの? ‥‥誰かに協力してもらったりしないのかしら」
 さっそくマリが探りを入れると、ナスターシャが小声でつっこんだ。
「‥‥あなた、そういう話に興味が無かったんじゃないんですか?」
「あら、あたしは仕事の内容に興味が無いって言っただけよ」
 シレンは、何がなんだかわからずに困っているようだ。
「‥‥よく手助けしてくれる人は居ますけど」
「どんな人?」
「この間、街道をはずれたところでゴブリンの群れにおそわれたんです。その時、苦戦していた私を助けてくれた人が居て‥‥その後も何かと助けてくれるんです」
 その人はジョゼというらしい、とシレンが答えた。
「白馬の王子様ってわけね」
 何かすごく乗り気で、マリが聞いた。
 ジョゼ、王子‥‥というにはほど遠いが。
「そのジョゼ様、どのような方ですか? ぶっちゃけ、うざい系ですか?」
 はっきり言ったメイアを、マリが困ったように腰に手を当ててにらんだ。
「メイア、それはぶっちゃけすぎよ」
「ですが、こういう事はきちんと聞いておかなければなりません。シレン様はお一人で仕事をされておられる方ですから、つきまとわれて辟易しておられるかもしれませんし」
 しれっと言い返す、メイア。シレンはふるふると首を振って、間に入った。
「い、いえ‥‥そんな事は無いです。ただ、仰る通り、一人で仕事をして来たものですから‥‥やっぱり仕事は一人の方が性に合っているんです」
「では、好意があっての事では無い、と」
「いえ‥‥あの、ジョゼさんはいい方ですし‥‥」
 とほのかに顔を赤らめたシレンを見て、シルアがほうっと息をついた。
「ああ、私こういう話に弱いんです。‥‥幼い頃に輿入れさせられたものですから」
「それは初耳ですね」
 と、メイアがぴくりと聞き耳をたてた。
「実家の政略で、物心付く前に決められたものですから‥‥恋などした事がありませんし、ぜひお聞かせ頂きたいです」
「大丈夫です、シルア様。恋をしすぎるのもアレですから」
 アレと言うな、アレと。
 メディクスは言い返したかったが、言い返す隙がなさそうである。
「シレンさんは、その‥‥殿方の好みとか、いかがですか? その方は好みに適しているんでしょうか」
 シルアがさらに聞く。すっかりシレンは弱り切って、口ごもりながら答えた。
「好み‥‥というものは特に。‥‥あの、私もよく分かりませんし」
「では私と一緒ですね。‥‥マリさんやメイアさんはいかがですか?」
 メイアはぴたりと口を閉ざした。
「どうやら、こういう話に限っては私たちに割ってはいる隙は無いようだな」
 と、バルディッシュ・ドゴール(ea5243)は苦笑してレーヴェと目を合わせた。
 恋愛話に花を咲かせる性格では無いレーヴェはともかくとして、シレンに接近したメディクスまで押しどけられてしまっている。
「それが女のかわいいところさ。無愛想なあんたには、縁がない話かもしれんが」
 とレーヴェを意味深な目で見るメディクスに、レーヴェは怒る事なく言い返した。
「女の噂話は邪魔しない方が良い、くらいは心得ている」
「それもそうだ」
 はは、とバルディッシュが笑った。
 そうして、もう一人‥‥恋にまだ縁がなさそうなリーニャが戻ってきた。

 オークの巣を遠巻きに見ながら、ナスターシャは一行を振り返った。
「‥‥相手は6体です。マリさんが言っていたように、巣からおびき出して戦う方がよろしいですね。燻り出すのがいいと思いますけど‥‥どうですか、リーニャさん」
「生木とかで‥‥燻り出す」
 湿気がある方が煙が出やすいというので、リーニャに言われるように生木を集め始めた。生木だけでなくとも、枯れ木を湿らせるのも手だ。
 はたはたとリーニャがマントであおると、煙が巣の方へと流れていった。
 風下に居ても、煙がまとわりつく。
 ナスターシャとマリ、そしてシルアは煙を避けるように後ろに下がった。
 バルディッシュは剣を抜き、構える。レーヴェとシレンもそれぞれ、剣を抜いた。煙を避けていたナスターシャが、声をあげる。
「来ます、構えてください」
 煙の中から、奇声をあげながら飛び出して来た影に、バルディッシュが切り込んだ。木はまだ燃え続けており、煙が巣の中を満たしていく。
 これでは、戦う方もたまったもんじゃない。
「‥‥リーニャ、これを何とかしろ」
 咳き込みながら、バルデイッシュがリーニャに言うと、弓を構えていたリーニャがたき火の側に駆け寄ると、火元を蹴った。土が舞い、火を覆う。
 ショートボウで後方から出てくるオークに射かけながら火を消すと、レーヴェの戦っているオークに射かけながらフォローした。
 レーヴェとバルディッシュが前に立ち、剣を振る。巣の入り口はそれほど大きくないから、待ち受けていれば囲まれる事もそうそう無い。
 ちらりとバルデイッシュがシレンを見ると、彼女もオークを相手に善戦していた。カウンターと突きを使い、うまくオークの一撃を避けている。
 しかしどうしても単独での戦闘を重視するためか、ほかのメンバーの動きが読み切れない。注意が散漫になったのか、横からの一撃を受けて転倒した。
 とっさにメディクスが前に立ち、彼女を庇う。
「ほら、立てるか?」
「‥‥は、はい」
 シレンは立ち上がると、再び剣を構えた。
 メディクスは肩をすくめ、ちらりと後ろを見た。
「あんまり王子様を心配させちゃ、駄目だぜ」
 ふ、と笑うとメディクスはオークに踏み込み、下から剣を切り上げた。
 メディクスやバルデイッシュが手の足りない二体はナスターシャのウィンドスラッシュに続けてマリのスリープで眠らせ、足止めをする。
 その間、リーニャとシルアの弓でフォローしながら数を減らしていった。
「こらシルア、邪魔をするな」
 さっきからバルディッシュやメディクスの後ろに隠れながら射るシルアに、バルディッシュが困惑の声を上げた。
「すみません」
「シルア、騎士たるものは正々堂々と戦うものじゃないのか」
 メディクスが笑いながら聞く。
「はい、兄上にもよく叱られました」
 息を止め、メディクスの手元のオークに一撃を加える。
 どうやら、あらかた片づいたようだ。シルアはふ、と笑った。
「兄‥‥か」
 小さく呟いたメディクスを、シルアがきょとんと見上げた。
「どうかなさいましたか?」
「いいや。それじゃあシルア、今日から俺が兄代わりになろう」
 と、メディクスはシルアの手を取った。
「えっ? ‥‥あの‥‥どういう意味でしょう」
「それはむろん‥‥」
 突然、ここでバルディッシュの声が響いた。

 オークが片づくと、バルディッシュは遺体の数を確認した。
「‥‥どうやら六体、これで終わったようだな。‥‥レーヴェ、俺は中を見て来る」
「行く‥‥」
 リーニャが、バルデイッシュのあとに続く。
 すると、シレンがバルディッシュに声をかけた。
「あの、私も行きます」
「いや、キミ達はここで待っていてくれ。まだ中に何があるか分からない」
「しかし‥‥」
 彼女は落ち着かない様子で、こちらを見ている。バルディッシュはレーヴェと目を合わせる。レーヴェは意図に気づき、彼女の腕を取った。
「怪我をしているようだな。むこうで手当を受けた方がいい」
 シレンは中の様子を気にしているようだったが、レーヴェにつれられていった。
 ひょい、とリーニャが巣の中に掛けていく。
「リーニャ、あまり急ぐなよ」
 リーニャに声を掛けながら、バルディッシュは薄暗い洞窟の中を歩いていく。中はそれほど広くなく、汚れていた。
 何だろう。においがする。
「‥‥リーニャ、気をつけろ」
 こくり、とうなずくリーニャ。彼女も気づいていた。
「食べられないにおい」
「リーニャ‥‥」
 さすがに笑えない。
 何かが腐ったにおいだ。
「うっ‥‥こいつは‥‥」
 バルディッシュは、口元を手で覆った。においが籠もっている。
 外の方から、レーヴェが声を掛けている。
「‥‥どうした?」
 中をレーヴェがのぞき込み、バルディッシュとリーニャの返事を待っている。すう、とナスターシャが足を踏み入れた。
「待て、女が見るもんじゃない」
「かまいません、予想はつきましたから」
 と、ナスターシャは中に入ってきた。マリとシルアも後に続く。
「‥‥食べられない?」
 じい、と見つめるリーニャに、あきれ顔でメディクスがため息をついた。
「リーニャ、レディが食べる食べられないでものを判断するもんじゃないぜ」
 メディクスの足下には、女性の遺体が転がっていた。
 周囲をバルディッシュが見回したが、遺体のほかには身元を証明するようなものは転がっていない。
 メイアは遺体の側に膝をつくと、遺体にふれた。
「あの‥‥だ、大丈夫ですか? 遺体を‥‥」
 シレンがおろおろとした様子で、メイアに聞いた。
 メイアは表情一つ変えず、遺体を調べている。
「大丈夫です、お気遣いなく」
 あちこちオークに殴られたり食われたと思われる箇所があるが、ほぼ五体満足だ。が、『あ』とメイアが手を止めた。
 ただ一カ所、剣で切られたと思われる箇所があった。
 鋭くまっすぐな切り口が、ぱっくりと口をあけている。
 剣を使っているオークが‥‥居たかな。
 メディクスが、のぞき込みながらそう口にした。

(担当:立川司郎)