鉄の爪のナイフ使い4〜傷

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月05日〜09月10日

リプレイ公開日:2004年09月12日

●オープニング

 ふらふらとした足取りで、一人の男が歩いている。
 ここ数日、パリ近郊の町に現れている強盗殺人犯。
 夜、仕事を終えて帰宅する男、酒場で働いている女性、誰彼かまわずその牙をむけた。
 その目はうつろで、悲しげだと言う。
 何かを埋めるように、ただ人を傷つけ続ける。
 彼は何かを待っているようだった。何かが、ここを通るのを。何かが運び込まれるのを。
 それを、この手にかける為に‥‥。

 静かにリィゼは、金を差し出した。
「‥‥ま、これも何かの縁だ。最後まで見届けてやってくれ」
 盗賊団鉄の爪のチームリーダーであるリィゼは、酒好きでいつも明るくはっきりとした性格だ。そのリィゼが、いつになく真剣な表情で皆を見回した。
「ばっかじゃないのかい、女に振られてやけになるなんてさ。アホらしいったら無いよ」
 リィゼは散々彼の悪口を並べ立てた。
 気が済むまでまくし立てると、ようやく酒をぐい、と煽って一息ついた。
「ムカつくね‥‥あたしが今まで、あいつにどれだけ目をかけてやったと思ってんだ。それが何だい。惚れた女が殺人鬼だった? ‥‥そんなの、あたし達だってかわりゃしないさ」
 そういうリィゼの目は、鋭く輝いていた。
 どこか寂しそうに、リィゼが手の中でグラスをもてあそぶ。
「あいつは、ただ殺して金を奪うだけの‥‥いや、殺しをする為に金を奪おうとする、殺人鬼になっちまった。‥‥ただ‥‥」
 すう、とリィゼは顔をあげた。
 彼女の目に、もう迷いは無い。
 椅子を蹴って立ち上がると、リィゼが皆を厳しい視線で見回した。
「ここまでつきあったんだ、あんた達も最後のケリは付けたいだろう。一緒に来な!」
 すう、とリィゼが盗賊の顔に戻る。
「数日後、この町にあの女‥‥シレンが運び込まれる。パリまで護送される途中でね。夜の警備は1人‥‥ジョゼの手にかかりゃ、あっという間だ。‥‥連中からすれば、犯罪者なんて死のうと生きようとかまわないって訳さ」
 ふ、と自嘲的にリィゼが笑う。
「あの女が死のうとどうしようと、本当はあたしだってどうでもいい。でも、鉄の爪のままで下らない犯罪に手を貸すのは、このあたしが許さないよ!」
シレンを守りたい訳じゃない。
 ただ、鉄の爪の名を、これ以上汚させない為に‥‥。

●今回の参加者

 ea1695 マリトゥエル・オーベルジーヌ(26歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea1807 レーヴェ・ツァーン(30歳・♂・ファイター・エルフ・ノルマン王国)
 ea2649 ナスターシャ・エミーリエヴィチ(30歳・♀・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea4159 リーニャ・アトルシャン(27歳・♀・ファイター・人間・ロシア王国)
 ea4359 シルア・ガブリエ(28歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4820 メディクス・ディエクエス(30歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5406 メイア・ナイン(27歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

●鉄の爪のナイフ使い4〜傷
 腕を拘束され、腕を捕まれた女性が通り過ぎていく。女性は特別恐怖を感じている様子も無く、もしかすると命を落としてしまうかもしれないなどと、露程も想像していないように見える。
 シレンがドアから監視小屋に運ばれていくのを、リィゼはじっと見ていた。リィゼもまた、表情を変えない。
 やがて視線をはずすと、息をついた。
「世の中にオンナはゴマンと居るっていうのに、わざわざ一人の女のために命を捨てる事ぁ、無いじゃないか‥‥ねえ?」
「同意見ね」
 リィゼに同意すると、マリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)はゆるりと首を振った。
「ほんと、呆れた人ね。‥‥そうなった一端に関わっている者として、けじめはきっちり取らせてもらうわ」
「ずいぶん辛辣だね」
 苦笑をうかべ、メディクス・ディエクエス(ea4820)はマリをちらりと見る。マリはしれっとした様子で、答えた。
「あら、言いたいことは全部リィゼが言ったわ」
 肩をすくめ、メディクスはリィゼを見返した。
 ともかく、こうして話している間にもジョゼフィンが現れるかもしれない。アハメス・パミ(ea3641)とメイア・ナイン(ea5406)がシレンに面会を求める為に監視小屋に向かったのを見届けると、メディクスはリィゼに話しを促した。
「さて、それじゃあこれからどうするか、作戦を練るとするか」
 リィゼはぐるりと見回すと、手を腰に当てた。
「そうだね‥‥まずあの警備員をどうするか、なんだけど」
「それなら、あたしが引き受けるわ。スリープで眠らせれば、しばらくおとなしくしていると思うわ」
「そうかい。‥‥じゃ、頼むよ」
 マリが言うと、こくりとリィゼは頷いた。

 面会で話した事を、パミとメイアはあまり多く語らなかったが、リィゼなどは何となくシレンの様子を感づいているようだった。
 パミ達はひとまず酒場に戻ると、メイアが周囲の警備状況について報告した。
「ドアを入ると、短い廊下が御座います。入ってすぐ左手の部屋にはドアに鍵がついておりまして、ここにシレン様が居ます。その奥にまた部屋があって、1人はそこで休んでいて、もう一人はドアの前で見張っていました。鍵は、見張りをしていた方が持っておられたようです」
 どちらもマリが眠らせ、レーヴェ・ツァーン(ea1807)とパミが縛り上げて置くの部屋に放り込む、という手はずになった。
「周囲は木々に囲まれていて、街道からもやや離れています。夜にあの周囲を通りがかる者は、居ないでしょうね」
 周囲を回ってきたナスターシャ・エミーリエヴィチ(ea2649)が、リィゼに言った。ナスターシャによると、監視小屋の背後は森、前には細い道が町の中心部に続いているが、町はあちこちに木々が植えられており、小屋の周囲は中心部からは死角になっているらしい。
「何か騒動が起こっても、よほど派手な事をしなければ目立たないと思います。私は、ヘブンリィライトニング等は使わない方がいいでしょうね」
「‥‥ジョゼの事はよく知りませんが、侵入経路は想定出来ていますか?」
 返答を求めてパミがリィゼを見ると、リィゼは顔を上げた。
「そうだね‥‥まず監視がどこに居るのか、確認するだろうよ。それから一人ずつ殺って、鍵を奪って侵入‥‥ドアが一つしか無いし監視も二人だ。来るのは夜‥‥」
「正面から侵入する‥‥という事ですか?」
「窓から入ると、それだけで動きを拘束されるからね」
 少し考えると、他のメンバーを見回した。
「では、配置はどうしますか」
「私は外に居よう。外に誰もいないのは不自然だからな。私はエルフだから、夜目もきく」
「じゃ、あたしも外に居る事にするわ」
 レーヴェと同じく、エルフであるマリが言った。
 リーニャ・アトルシャン(ea4159)とナスターシャ、メイアは中。メディクスも外で見張っている。
 どことなく元気の無いシルア・ガブリエ(ea4359)を、メイアがちらりと見やる。
 皆が散っていくと、メイアは皆からそっと離れたシルアの後に続き、カウンターの端に席を取った。
 銀色の髪の向こう側に覗く瞳は、どこか悲しげに潤んでいた。
「‥‥シルア様、私は優しくあなたを慰める言葉は、持ち合わせておりませんし、そうするつもりもございません。それはシルア様の御為になりませんし」
「いいんです、メイアさん」
 ふるふるとシルアは首を振った。
「でも、私は苦しんで手を汚し続けるジョゼさんを見ているのが、辛いんです。‥‥自分が辛いから、あの人を楽にしてあげたい。自分の為なんです、これは‥‥」
 じっとシルアは、メイアを見返す。
 メイアは静かに瞬きをすると、答えた。
「シルア様、世の中というものは、きれい事だけでは解決しない事の方が多う御座います。ジョゼ様が選んだ道は鬼道ですが、シルア様の気持ちは鬼道では御座いませんよ」
「そうでしょうか?」
 ふ、とシルアが微笑した。
 こくりとメイアが頷く。シルアはまた、おかしそうに笑った。
「なんだか、いつも達観した様子のシルアさんにそう言われると、奇妙な感じ。それって、慰められているんでしょうか?」
「人に希望を与えるのも、メイドのつとめですから」
「ふふ、メイアさんはいいメイドだと思いますよ」
 シルアはようやく本来の笑顔を取り戻し、メイアに答えた。

 マリのスリープでぐっすりと眠り込んだ警備員2名を、リーニャとレーヴェは手早く縛り上げていく。
「誰も近づいていません。‥‥今のうちにお願いします」
 ナスターシャが、ブレスセンサーで周囲を監視すると、レーヴェとパミに声を掛けた。レーヴェとリーニャが一人を、パミが一人、部屋に運び込む。
「‥‥パミ、一人で運んでる」
 ぽつりと小さな声で言ったリーニャに、レーヴェは珍しく苦笑を返した。
 苦笑するしか無いのだが。
「わかった、もっと体を鍛える事にしよう」
 レーヴェは言ったが、リーニャはあまり気にしていない様子だ。縛り上げられて運ばれている事に気づいた警備員が、何か言いたげにしている(ただし口はふさがれているのだが)のをじっと見下ろしている。
 警備員は部屋に投げ込むと、レーヴェは窓から外をちらり、と見た。窓の向こう側には、薄暗い森が広がるばかりである。
 ナスターシャは、シレンのドアの前に立って再びブレスセンサーを使った。どうやら、誰もいないようだ。
 リーニャが、ナスターシャの側に座り込んでいる。メイアは、警備員が放り込まれているドアの前に立っていた。
「ジョゼ‥‥まだ来ない?」
「そうですね」
 ナスターシャは、ちらりと小窓から中を覗いた。シレンが顔を上げる。
「マリさんが聞いていましたよ。‥‥殺しは楽しかったか、と」
「‥‥そうね、楽しいわ」
 ふ、とシレンが笑みを浮かべる。
 昼間、パミとメイアが面会した時の様子を、ナスターシャはメイアから聞いていた。快楽殺人者。パミはシレンを、こう表現していた。これには、おおむねメイアやナスターシャも同意である。
「ジョゼフィンがあなたの命を狙っているようですね。怖くないのですか?」
 ナスターシャが聞くと、少しシレンが考え込む。
「‥‥そうね。それもまた、ゾクゾクして楽しいかもしれないわ。‥‥私の体を切り刻まれる所を想像すると‥‥」
「シレン様にとってジョゼ様は、単なる知り合いでしか無かったのですか? あなたはジョゼ様には好意があるように仰っていたと思うのですが」
 メイアの問いに、シレンがくす、と笑った。
「そうでしたか? ‥‥好きだとは言った覚えがありませんけど。私が好きなのはただ一つ‥‥」
 ナスターシャは最後まで聞かず、冷たくシレンを見据えた。
「あなたが何を好きであろうと、私には関係ありません‥‥どうやら来たようですよ。あなたの客が」
 人が近づく気配がする。
 ナスターシャは、ゆっくりと手を握りしめた。リーニャは立ち上がると、警備員を投げ込んでいる部屋の方に向かった。どうやら、裏から回り込むつもりのようだ。
 ぴた、と立ち止まり、リーニャは後ろに視線を向けた。ナスターシャとメイアが、リーニャを見返す。
「どうしたのですか?」
 ナスターシャが聞くと、リーニャが眉をすうっと寄せた。
「‥‥ジョゼ‥‥リーニャに少し似ていた」
 無言でナスターシャが、リーニャの言葉を待っている。
「でも‥‥ジョゼは‥‥やっちゃいけない事、分かってない」
「‥‥殺してしまったら、結果は同じよ。盗みの課程で殺そうが、殺す為に刃をふるおうが‥‥犯してしまった罪は、同じものです。リーニャ、罪は罪よ‥‥あなたはそれを分かっていますよね」
「リーニャは‥‥分かってる」
 リーニャはナスターシャにそう言い残すと、その場を離れた。

 風が‥‥。
 レーヴェは、目を細めて闇に目を凝らした。
 何かが接近している。レーヴェは剣を抜くと、振りかざした。
 今有効である手は、オフシフトを使って相手を引きつけておく事‥‥。急所にさえ攻撃されなければ、反撃する余地は十分ある。
 影が‥‥細い影が突っ込んでくる。
「‥‥どこに行く、ジョゼ!」
 彼の背後に、メディクスが退路をふさぐように立った。ジョゼは、メディクスが後ろに回った事に気づいているのか、ちらりと視線を向けた。しかし、メディクスにかまわない。
 まっすぐレーヴェに向かうと、ナイフを振った。しかし、ジョゼの動きが素早く、レーヴェは避けきれない。鎧を切り裂いてナイフが皮膚をかすめる。
 レーヴェに攻撃している隙を狙い、メディクスがジョゼに剣を振る。メディクスの剣撃は深くはなく、むしろジョゼの意識を引いているようであった。
 レーヴェ、そしてメディクスともにジョゼに攻撃を加えるものの、両手のナイフをうまく使って、ジョゼは彼らの攻撃を避けていく。
 その時、監視小屋の方からシルアの声が響いた。
「どうしてですか‥‥!」
 ジョゼが、ちらりとシルアを見る。しかしメディクスとレーヴェの攻撃が激しく、手が抜けない。
「何故‥‥シレンさんをつれて逃げるという手もあったはずです。相手が殺人者であれ何であれ、あなたがそれほど愛した人でしょう?」
 シルアは涙がにじむ瞳で、じっとジョゼをにらみつけていた。
「‥‥シレンさんは、あなたの心の中に作られたシレンさんとは、違うものであったかもしれません。‥‥でも、あなたはその現実に向き合い、受け入れる事を拒否した‥‥臆病者です!」
 シルアは、はっきりとした声で言い放った。
 その時、メディクスの剣がジョゼの攻撃の手をすり抜け、奥へと突き抜けた。ジョゼのカウンターをかわし、メディクスの剣がジョゼの肩を深々と貫く。立て続けに、レーヴェが剣を斜めに振り下ろした。
 花開く鮮血を、シルアはじっと見つめていた。

 ジョゼの傷を、レーヴェが黙って手当している。ジョゼもまた無言のままであったが、リィゼの視線を避けているように見えた。
「‥‥それでどうするのだ」
 レーヴェが、リィゼを見返す。ナスターシャは彼を見下ろしながら、口を開いた。
「依頼人はリィゼ。だったら、リィゼが判断を下すべきです」
 ちらりとレーヴェがリィゼを見る。リィゼは最初からジョゼを殺すつもりであった。冷たい視線で、ジョゼを見下ろしている。
「あんたは、鉄の爪として処分される‥‥分かっていたんだろう?」
「‥‥あなたのように強くは、なれないのです‥‥」
 小さな声で、ジョゼが言った。リィゼは何事が言いかけたが、深くため息をついた。ナイフをリィゼの手が握る。
 すると、その手をパミがぎゅっと握り、制止した。
「一つだけ‥‥いいですか?」
 リィゼがパミを見返すと、パミは一言、言い返した。
「間接的な自殺の手伝いをするのは、ごめんです。‥‥生ある時の罪は、生あって償うべきです」
 それでもと言うなら、止め術はないが。パミはそう言うと、そっと手を離した。リィゼは、まっすぐパミの目を見返している。
 くす、とマリが笑った。
「そうね‥‥死は現実・罪からの逃亡。死ぬのは易し、生きるは難し。生きてこそ罪は償われる‥‥よね」
「そうか‥‥」
 リィゼはくすくす、と笑うとパミを見返した。
 その手がナイフを、腰におさめる。
「わかった。‥‥ジョゼ、あんたはこのままおいていく事にする。警備員が見つけて、連れて行くだろうさ」
 自殺と言われちゃ、殺せやしないじゃないか。リィゼは、パミにそう苦笑して言った。
 リィゼの決断に、メディクスがうっすら笑う。彼女の決断を、誰も責めはしなかった。
「ジョゼ‥‥リィゼ。これで良かったのか?」
 メディクスを、ちらとリーニャが見上げる。メディクスはリーニャの頭に手を置くと、優しく見下ろした。
「ああ‥‥ジョゼの行いは決して許されない事だが‥‥それでよかったんだろうさ」
「馬鹿な行為ね‥‥」
 ぽつりとマリが言う。
「‥‥それだけ、想いが強かったって事さ。ジョゼの想いは、傷ついた分だけ強かった。‥‥なあ?」
 メディクスがマリに言うと、マリは無言で首を振った。

(担当:立川司郎)