鉄の爪のナイフ使い3〜続・盗賊の恋

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月26日〜08月31日

リプレイ公開日:2004年08月30日

●オープニング

 ここ最近、盗賊団鉄の爪のジョゼフィンには、悩み事があった。
 街道警備をしているシレンという女性に、恋に落ちてしまった‥‥、
 などとリーダーであるリィゼに口に出来る状況では無かった。悩みというのは、リィゼに関連する事である。そのおかげでリィゼはずっと機嫌が悪く、町で酒に入り浸っている。
「‥‥リィゼさん、やっぱりギルドに相談したら‥‥」
「何言ってんだい、鉄の爪ともあろう者が、ギルドのガキどもに相談なんて出来るはず無いだろう! ボケッとしてないで、犯人を捜して‥‥あたしの前に引きずり出しな!」
 リィゼの一喝に首をすくめると、ジョゼは酒場を飛び出した。
 最初は、すぐに犯人が捕まるだろうと思っていた。
 それがもう5人目となり、1ヶ月が過ぎようとして、事態は深刻さを増してきた。
 街道で旅人が襲われ、無惨な死体となって発見されるという事件が、立て続けに起こっていた。ジョゼはたまたま、その話を街道警備をしているシレンから聞いたのだが、どうやら犯人は鉄の爪、リィゼじゃないかと言われているらしい。
 根も葉もない噂だ。
 リィゼはむやみに殺したりしない。
「‥‥私も、一層街道警備に力を注がなくてはなりません」
 心配そうなシレンに、ジョゼは助力を申し出たが、シレンは笑って断った。
「いいんですジョゼさん。‥‥それに犯人は主に女性をねらっているそうですから、私一人で警備する方がいいかもしれませんし」
 そうは言うものの、彼女を一人にするのは不安だ。
 ジョゼはこっそり、ギルドに依頼を出した。
 犯人を捜し出したい、と。本当はシレンも守ってあげたいが、それよりもリィゼの汚名返上が先である。
「‥‥盗賊の手助けは嫌かもしれませんが‥‥今回は、真犯人を見つけるのが目的です」
 犯人は何の目的で、この街道を通る人々を傷つけているのだろうか‥‥。

●今回の参加者

 ea1695 マリトゥエル・オーベルジーヌ(26歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea1807 レーヴェ・ツァーン(30歳・♂・ファイター・エルフ・ノルマン王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea4159 リーニャ・アトルシャン(27歳・♀・ファイター・人間・ロシア王国)
 ea4359 シルア・ガブリエ(28歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4820 メディクス・ディエクエス(30歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5243 バルディッシュ・ドゴール(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea5406 メイア・ナイン(27歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

「現在、同一犯による犯行と思われる被害者は5名。最初はモンスターによるものと思われていたけど、どうやら違うようね」
 夜更けの墓場を歩きながら、マリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)が後ろを歩くバルディッシュ・ドゴール(ea5243)へと話を続ける。夜更けの墓場は冷たく凍り付くような気配を、漂わせている。マリも、バルディッシュが一緒でなければ、あまり一人で歩きたくは無かった。
 バルディッシュが本来現実的で落ち着いた性格であるため、マリも一層安心出来る。
 話を聞きながらバルディッシュは、相づちをうった。
「剣による傷があると聞いたが」
「ええ」
 マリは足を止めると、一つの墓標を見下ろした。墓を暴く許可は、すでに得ている。くるり、とマリはバルディッシュを振り返った。何も語らないが、マリが墓を暴く作業をバルディッシュに求めているのは明白である。
「私‥‥か?」
 しか居ないな。あきらめて、バルディッシュは鍬に手をかけた。
 埋めたばかりの土は軟らかく、さほど困難もなく堀進められていく。マリは作業を見ながら、話を続けた。
「シレンにいろいろ聞いてみたんだけど、彼女はあまり詳しく知らないようね」
「そうだね‥‥まあ、知って話さない、という可能性も‥‥あるけど」
 手を休めず、バルディッシュが答える。まさか、とマリは眉を寄せた。
「彼女を疑っているの?」
「疑っているのは、私だけじゃないようだけどね」
 深夜の墓場に、土を掘る音が響く。
「私の調べによると、被害者はほとんど、何らかの形でシレンという商人と関係していた‥‥。下で働いていたり、シレンについて調べていたり‥‥彼の商隊を護衛した経験のある冒険者だったり、まあ様々な理由があるが」
 しかし、明確に商人とのつながりが確認出来た訳では無かった。
「ただ‥‥」
 バルディッシュは鍬を横に置くと、穴を見下ろした。穴の下には、棺が眠っている。バルディッシュは棺に手を掛けると、力を込めた。
 残った土を押しどけ、棺が開いた。腐敗したにおいが、風に乗ってマリとバルディッシュの鼻をつく。マリはそっと棺をのぞき込むと、ランタンをかざした。
 ぼんやりとした薄明かりに、遺体が浮かび上がる。すうっとランタンを動かすと、あちこちに傷らしきものが確認出来た。
「‥‥剣の傷‥‥かしら」
「そうだな‥‥それにしても、やけに多いな。じわじわ殺したって感じか」
 ふ、とマリが振り返る。
「‥‥何か言いかけたんじゃないの?」
「ああ。ただ‥‥シレンとあの商人は、関係があるかもしれないな」
 マリが、少し驚いたように目を見開いた。

 広場の向こうから、髪を揺らしながら歩いてくるシレンの姿を見つけ、メディクス・ディエクエス(ea4820)は軽やかに駆けてシレンの前に膝を付いた。
 抵抗する間も無く、メディクスはすう、とシレンの手を取って甲に口付ける。驚いて、シレンは手を引っ込める。
「あ‥‥あの‥‥」
「レディ、君にまたあえた事を神に感謝しよう」
 後ろが白けている事も、彼にはお構いなしである。
「犯人を捕まえるまで、しばらく俺達に警護させてくれないか?」
「で、でも皆さんは他のお仕事で来られているんじゃ‥‥」
「君の仕事は俺の仕事でもある。‥‥君の為なら、いつでも駆けつけるよ」
 少し離れたところで、メディクスが彼女の手を取って歩き出すのをアハメス・パミ(ea3641)とレーヴェ・ツァーン(ea1807)、そしてリーニャ・アトルシャン(ea4159)がじっと見ていた。
 レーヴェがふ、と視線を返すと、反対側からマリとバルディッシュが歩いてくるのが見えた。バルディッシュが軽く手を挙げ、壁にもたれていたレーヴェは体を起こす。
「何か分かったか?」
「そうね‥‥。被害者はすべて女性、傷はナイフによるとものと思われるわね。‥‥そっちはどうだった?」
 マリが、パミの方をちらりと見る。
 パミは一息おいて、口を開いた。
「そうですね‥‥完全には噂の出所は判明しませんでしたが、だいたいの当たりはつけています」
「どうなんだ‥‥リィゼ、捕まえる?」
 じい、とリーニャがパミを見上げた。パミは静かにリーニャを見下ろす。
「リィゼは犯人では無いと思いますよ」
「元より盗賊であるリィゼが、外聞を気にするはずもなし。‥‥自分では無い、と嘘を付く理由は無いからな」
 レーヴェの言うように、まず犯人がリィゼであるとは考えにくい。それはマリやバルディッシュ、他の者もそうであった。
「リィゼ‥‥悪い人じゃなかった‥‥気がする」
「そういえばリーニャさん、あなたは直接リィゼさんに会っているんですよね」
 パミがリーニャに聞くと、こくりとリーニャがうなずいた。
「リィゼ‥‥ナイフ使う。剣は持ってなかった」
「傷は剣によるものだと思われる。ナイフを使うなら、リィゼは犯人じゃない、という事になるな」
 直接傷を確認しているバルディッシュが、答えた。
 リィゼがナイフを使うという事については、レーヴェも以前の報告書などを見て確認している。
 パミの手の中にも、前回の任務による報告があった。
「報告書によれば、シレンさんは前回オーク退治の際、挙動が不審であったとありますが」
 ただ一人、きょとんとしているリーニャが皆を見回す。
「‥‥どうする。‥‥を捕まえる?」
「やはり、犯人は‥‥」
 リーニャが口にした名前を聞いて、レーヴェの表情が曇った。

 さっきからシレンの側にぴったりついて話し続けるメディクスを、半ば感心しつつシルア・ガブリエ(ea4359)が眺めていた。街道警備の仕事に張り付かれ、シレンは迷惑しているように見える。それでもメディクスはかまわない。
 それに付いていく、シルアとメイア・ナイン(ea5406)。端から見れば、ナンパしている男と、彼の取り巻き‥‥といった感じ?
「皆さんは、もうそれぞれ作戦行動の準備に入ったそうですね」
 メイアが、シレンに聞こえないようにやや後ろを歩きつつ、シルアに言った。
 彼女によると、レーヴェとバルディッシュが組み、パミが囮。囮の見張りをリーニャがしているという。もうじきマリが合流するから、マリが来たら彼女に交代してメディクスとメイアは作戦に加わる事になっている。
「では‥‥やはりリィゼさんでは無かったんですか?」
「犯人の目星はついているそうです」
 と、メイアが前方を見る。そこには、メディクスの話を聞いて笑うシレンがあった。無表情で彼女を見つめ、メイアは視線をシルアに戻す。彼女はふるふると首を振った。
「‥‥私、やっぱりジョゼさんが直接作戦に加わる方がいい、と思うんです」
「なぜですか?」
「上司であるリィゼさんが非難され、愛する人を心配するジョゼさんの気持ちを考えると‥‥やはり、側で直接見届ける方がいいじゃないですか。第一、ジョゼさんは依頼主ですし」
 やれやれ、とメイアが呟く。
「では、作戦に加わるように言ったのはシルア様でしたか」
「はい」
 と答え、シルアがふ、と笑顔を浮かべて手を胸で組んだ。
「リィゼさんや思い人の為に、こっそりと一肌脱ぐジョゼさんの心‥‥とっても可愛らしくて愛おしいと思いません?」
「シルア様?」
 メイアはシルアの前に立つと、まじまじと顔を見つめた。
「いいですか。こっそりと一肌脱ぐ、と言えば聞こえはよろしいですけど、あれでは単に好きな方の後をつけ回して個人情報を調べ上げ、勝手な思い込みで押しつけがましい手助けをしようとしているだけです。なおかつ、自分でするならいざ知らず、私達に全部させて自分は後ろからこっそり見ているなんて、ずいぶんと他力本願ですね」
「そうですか?」
 シルアは眉を寄せて、小首をかしげた。
 確かにその通りなんだが、シルアからすればそこが微笑ましいというか、控えめでいいというか‥‥。
「ジョゼさんはそういう方なんですよ、きっと」
 シルアの答えを聞いて、ふうとメイアは息をついた。根本的にメイアと全く反対の人間だとは思っていたが、ある意味これはこれで、とても興味深いと思う。
「シルア様‥‥分かりました、とやかく言いません。ただ、どのような結果になったとしても、お嘆きあそばされませぬよう‥‥」
「ええ」
 ふわりと微笑を浮かべ、楽しそうにシルアは答えた。

 歩きにくい森の中を行くレーヴェを、後ろから誰かが付けてくる。レーヴェは振り返らなかったが、ジョゼがちらりと視線を後ろに向ける。
「‥‥お仲間のようです」
 ジョゼに言われ、レーヴェが足を止める。どうやら、メディクスがシレンの元を離れて合流してきたようだ。
 日は落ちかけ、あたりは次第に闇に包まれていく。メディクスの姿も、森の影となってよく見えなかった。
 近くまで来て、ようやくメディクスの姿をはっきりと確認し、レーヴェとジョゼがメディクスと並んで歩き出した。
「あの‥‥シレン様は‥‥」
 おずおずと、ジョゼがメディクスを見上げる。
「心配しなさんな、何もしてないから」
 からからと笑うメディクスを、レーヴェがにらみつける。
「メディクス!」
「そんなカリカリしなくてもいいじゃないか。‥‥彼女にはマリとシルアが付いてるよ」
 多分、いう言葉をメディクスは飲み込んだ。
 マリが合流した後、シレンはやはり一人で行く、と言っていたのを聞いた。おそらく、マリとシルアも彼女の元を離れただろう。その方が、やりやすいが‥‥。
 ジョゼはうつむいたまま、小さな声で言った。
「‥‥なぜこんな風にシレン様を付けているのですか」
 ジョゼの問いに、レーヴェは答えない。メディクスは肩をすくめて苦笑した。こんな時にばっかり無言ってのは、都合が良くないかねえ、とレーヴェに向けて呟くと、レーヴェは仕方なく口を開いた。
「今回の事件の‥‥重要な容疑者だからだ」
 薄々気づいていたのだろう。ジョゼの顔色は凍り付いていた。

 街道に誰かが座り込んでいる。シレンはそうっと近づくと、顔をのぞき込んだ。
「‥‥どうかしましたか?」
 エキゾチックなローブに身を包み、浅黒い肌をした女性がシレンを見上げる。目は深い夜の闇のように黒く沈んでいた。
「急に目の前がくらくらして‥‥立っていられなくなってしまいました」
 助けを求めるように、女性がシレンを見つめる。年は三十を過ぎている位だろうか。シレンが手を貸すと、女性はよろりと危なっかしく立ち上がった。
「すみません‥‥」
「ここは危険です、町まで私が警備致しましょう」
 シレンがそう言うと、女性はにこりと薄く笑顔を浮かべた。

 早足で歩くマリの後ろを、小走りでシルアが付いてゆく。シルアに付き従うよう侍女のように、メイアが一歩遅れて歩く。
「‥‥どうしてシレンさんが犯人だと‥‥」
 シルアが、やや強い口調で問いかけた。
 先ほどから厳しい表情を崩さぬマリは、前をきっと向いたままシルアに答えた。
「パミさんやバルディッシュさんの調べによると、シレンさんの本名はキャスティア・シレン。あの商人はシレンという名前ではなく、シレンという姓なの。‥‥彼女はあの商人の親族なのね」
「パミ様は、噂の出頃が街道警備の者達にあると突き止めました。それが誰かまでは判明しませんでしたが、街道警備をしていた方を中心にして、リィゼ様犯人説が広がった事は間違いない、と」
 マリに続き、淡々とした口調でメイアが言う。
「‥‥だから私は“どのような結果になったとしても、お嘆きあそばされませぬよう”と申し上げたはずですが」
 シルアは足を止め、空を仰いだ。

 風が一層強く吹き付けた。
 女性は、シレンを見上げている。
 夜の闇に輝く月を背にして、シレンが彼女を見下ろしていた。彼女の手に握られた、鋭い刃‥‥。
 変わらぬ笑みで、彼女が女性を見下ろしている。
 なぜ‥‥。
「何故って?」
 ふ、とシレンがわらう。
「綺麗な肌ね‥‥しっとりと黒く輝く、綺麗な肌をしているわ」
 きっとそんな肌には、あかい色が似合う。
 痛いかしら、悲しいかしら‥‥。
 泣いてみる? 叫んでみる?
 くすくすと笑うと、シレンは刃を振った。
 きいん、と金属音が響く。シレンの目が見開かれた。
 刃ははじかれ、シレンの手がビリビリと痺れる。女性の手が弧を描き、シレンの剣を弾くと再び胸元に引き寄せされる。
 と、後方からひゅう、と風切り音が耳についた。シレンが身を返すと、彼女が元いた場所に細い矢が突き刺さった。
「くっ‥‥」
 シレンの足が地を蹴る。しかし、駆けた先には影が待ち受けていた。
 急停止し、シレンが影をにらみつける。
 手を腰に当て、男が微笑を浮かべて見ていた。
「‥‥レディ、そんなに急いでどこに行くんだい」
「あなた‥‥」
 シレンが振り返ると、女性がローブをゆっくりと脱いだ。静かに、女性が口を開く。彼女がメディクスを見ているのに気づき、シレンはようやく事態を把握した。
 メディクスののばした手を逃れ、森に駆け込もうとしたシレンに新たな影が突っ込んで来るのが見えた。一瞬速く、影がシレンの腕を掴んだ。
「シレン、捕まえる」
 リーニャの手はしっかりとシレンを捕まえ、離さなかった。

 縛り上げられたシレンを、呆然とジョゼが見つめていた。かける言葉もなく立ちつくしたジョゼにかわり、レーヴェが彼女に声をかけた。
「‥‥悪いと思ったが、私とメディクス、そしてバルディッシュでお前を監視させてもらった」
「最初から‥‥分かっていたんですね」
「いいや、多分そう感じていたのは俺達三人だけさ」
 メディクスが、バルディッシュやレーヴェを見ながら答えた。
「でも、パミやマリの調査で疑惑が確信にかわった」
「‥‥私が囮になったのは、顔をあなたに知られていないからです」
 そう、この中でパミだけで彼女と会っていない。だから彼女はパミの事を知らないのだ。
 ちら、とシレンの荷物を探っているリーニャをパミが見ると、リーニャはびく、と体をすくませて手を止めた。
 いけません、人の荷物を漁るのは浅ましい行為ですよ、とパミに厳しい口調で言われ、リーニャが手を引っ込めた。
 そしてリーニャがシレンに言葉をかける。
「‥‥リィゼ、リーニャを切らなかった。宝石も返してくれた。‥‥いい人」
「盗賊がいい人ですって?」
「猟奇殺人犯に言われたくは無いと思いますが」
 ぽつりとメイアが言った。シレンは眉をしかめてメイアをにらみ、それから視線を落とした。
 ジョゼは、ただただ信じられない、といった様子でいつまでも彼女の事を見つめていた。

(担当:立川司郎)