黒馬車ロンド後日談〜聖夜祭

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月23日〜12月28日

リプレイ公開日:2004年12月30日

●オープニング

 100年ぶりに人の手に戻った、湖畔の古城『クレイルの白い涙』。
 古城には、領主であるマッシュ家の跡取りであるコール・マッシュと祖母マリアの姿があった。父は相変わらず雑務に追われ、クレイユの屋敷に居る。
「ツリーを?」
 コールが、まだ片づけすら終わっていない古城のホールに立ちつくし、マリアを振り返った。マリアは楽しそうな笑顔で頷くと、ホールを歩き出した。
「この城を取り戻したのは、ギルドの人達のおかげなのに、何一つお礼も出来ないままだったし‥‥どうかしら、彼らに森からもみの木をとってきてもらうというのは。そうすれば、一緒に聖夜祭をお祝い出来るわ」
「‥‥そうですね」
 せっかくの聖夜祭を、この城で迎えたいとクレイユの人々は皆思っている。その気持ちは、コールやマリアも同じであった。だからこそ、聖夜祭の期間までには準備をしたいと思っていた。ただ、古城の掃除が手一杯で、とても飾り付けまで出来ていないのが現実だ。
「昔は街からこの城まで、二十四日の夜に街の子供達が城を訪れて、城でお菓子をもらって帰ったというわ。飾り付けられた馬車に乗った子供達が手に手にろうそくを持って、城に来るのを城の者は皆心待ちにしていたと聞きます。来て頂ければして頂きたい事はたくさんありますけれど、きっと準備を通じて聖夜を楽しんでいただけるわ」
 マリアはすっかりその気のようだ。

 クレイユの街から城までは、歩けば朝から昼過ぎまで掛かる距離だ。しかし馬車を使えば、一時間ほどで到着する。レディ・ロンドというゴーストに城が占拠されるまでは、聖夜祭の二十四日には、城を子供達が訪れ、お菓子をもらって帰っていた。聖人ニクラウスの逸話に基づいていつからか行われるようになったイベントで、クレイユの街は二十四日から二十五日が最も華やぐ。
「二十四の夜は本来家族で過ごしている事でしょうから、きっとギルドに依頼を出しても来て頂けないかもしれないわね。ただ、一人でも来て頂けるなら暖かく迎えましょう」
「そうですね」
 コールは頷いた。コールも、聖夜祭はあまり家族で祝った事は無い。それは父が多忙であるという事もあるが、毎年父はこの時期はシャンティイの領主レイモンドの元に招かれているからだった。
「どうせこの時期、僕と婆さまの二人だけで祝っていた事だし‥‥人が増えるのもいいかもしれませんね」
「そうよ、コール。大きなツリーを門前に飾って、二十四日の夜は子供達にお菓子を配るの。そして深夜を迎えたら、皆で料理を頂きましょう」
 聖夜を待ち遠しそうに、マリアが笑顔で言った。

●今回の参加者

 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1861 フォルテシモ・テスタロッサ(33歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1987 ベイン・ヴァル(38歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3260 ウォルター・ヘイワード(29歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea4820 メディクス・ディエクエス(30歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4919 アリアン・アセト(64歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 たしか‥‥以前にここに来た時は埃が舞い、薄暗く、廃墟のようだった。シャルロッテ・フォン・クルス(ea4136)は屋敷の中を見回しながら、その変化に驚いた。すっかり片づけられ、カーテンが引かれ、暖炉には火が灯っている。
 屋敷から持ってきたのか、大きなテーブルが暖炉の前に置かれていた。
「やあ、いらっしゃい。‥‥聖夜祭だというのに、お邪魔じゃなかったかな」
「いや‥‥最後の戦いには、力を貸す事が出来なかったからな。聖夜祭に呼んで頂いて感謝する」
 アレクシアス・フェザント(ea1565)の声に、シャルロッテがふと視線を戻す。おもての方では、馬一杯にお菓子を積んできたウォルター・ヘイワード(ea3260)とベイン・ヴァル(ea1987)が、城の使用人に手伝ってもらって荷物を下ろしている。
「まあ、こんなに用意してくれたの? 子供達もきっと喜ぶでしょう。‥‥さあ、それじゃあ中に入れてちょうだい」
 マリアは、ウォルターとベインのお菓子を見て嬉しそうにほほえんだ。お菓子は他にも、マリアがタルトを作る事になっていた。お菓子と聞いて手伝いを申し出たのは、メディクス・ディエクエス(ea4820)。
「菓子なんて‥‥作った事があるのか?」
 怪訝そうに聞くアレクシアスに、メディクスが何とかなる、といった調子で笑った。
「一人二人で作るより、男手があった方がいい事もあるさ」
「‥‥」
 少し心配だったが、アレクシアスももみの木を取りに行かなくてはならない。メディクスも行きたがっていたが、お菓子作りともみの木、どちらも時間がかかる為、両方とも‥‥という訳にはいかない。
 結局、アレクシアスとシャルロッテ、そしてプラントコントロールの使えるウォルターに、ベインとアハメス・パミ(ea3641)、フォルテシモ・テスタロッサ(ea1861)の6人。メディクスはお菓子づくりの為に残され、アリアン・アセト(ea4919)は木を運ぶには年齢的に無理がある。もっとも、アセトはアセトで、聖職者ならではの為すべき事があるのだが。
 木は、フォルテシモやアレクシアス達の馬に引かせる。
「皆さん、もみの木は面倒でも伐採せずに持ち帰ってくださいね」
「何じゃ、切ってはならんのか。‥‥そういえば、聖夜だというのに殺生は良くないかのう」
 何となく、そんな話を聞いた気がする。フォルテシモは、首を傾げて考え込むと、こくりと頷いた。
「分かった、伐採せずに持ち帰ろう。となると、なかなか大変じゃのう」
「心配いりませんよ、ある程度は私がコントロールして抜きやすくしますから」
 ウォルターがフォルテシモに答える。
 二人を残し、アレクシアス達は森へと向かっていった。

 生クリームは、決して安易に出てくる食べ物ではない。見かけたことがある者も、彼らの中では居るか居ないか‥‥。メディクスも、見るのは初めてだった。
「日持ちがしないものだから、今日一日使う分しか作らないわね」
「これ、子供にやると喜ぶだろうなあ」
 メディクスは、これを兄の孤児院に持ち帰った光景を思い浮かべる。マリアは苦笑して、付け加えた。
「これは、今日私たちが食べる分なの。子供達には、残念だけどあげられないのよ」
「え? ‥‥でも、こういうのって子供に食べさせてやりたいが」
 ふ、とマリアが笑う。
「そうねえ。‥‥でも、痛みやすいから、子供に持ち帰らせたら食べる前に腐らせてしまうわ。残念だけど、これは私たちの分」
「そっか‥‥。あ、それじゃあいいものがある」
 と、メディクスが自分の馬に駆けていった。戻ってきたメディクスが持っていたのは、いくつかの壺であった。
「パリで買ったの、忘れる所だった。これ、果物を蜂蜜に漬けたものなんだ。タルトに乗せてくれ。‥‥これなら、子供が持ち帰っても大丈夫だよな」
「まあ‥‥そうね、それじゃあそれをタルトに乗せましょう。あなたは子供が好きなのね」
 マリアに言われ、メディクスは少し照れたように顔をうっすらと紅くした。

 メディクス達がお菓子を作っている間、アセトは持ってきたキャンドルを入り口に飾っていた。アセトの持ってきたローズキャンドルは、灯をともすとほのかに花の香りがする。
 マリアが様子を見にやって来ると、アセトはキャンドルに火を付けていた。
「とてもいい香りね。‥‥でも、使ってしまってよろしいの?」
「いいんです。パリでたまたま手に入れたものですけど‥‥せっかくの聖夜祭に使って頂きたいですもの」
 アセトはふ、と笑って言った。パリから来たメンバーの中では、エルフのシャルロッテを覗けばおそらくアセトが一番マリアに年が近い。とはいっても、アセトとマリアでは十才ほども年が離れているのだが。
「ここにはきちんとした教会が無いでしょう? ですから、あなたに来て頂いて助かったわ」
「お役に立てて幸いです」
 ふう、と息をつくとアセトはロビーを見回した。じきにここも、人で一杯になる。

 もみの木を取りに行った彼らが戻ってきたのは、昼も過ぎて夕刻近くになってからであった。馬も疲れただろうが、取りに行った彼らが一番大変そうな顔をしている。
 着く早々、パミは馬を離れた。門前には、馬車が待機している。
「それではみなさん、私は馬車で子供達を迎えに行きますから‥‥あ‥‥」
 パミは視線を戻すと、フォルテシモと視線を合わせた。
「私の荷物に、シェリーキャンリーゼが有ります。私は酒は口にしませんから、出してかまいません」
「分かった。おぬしも気を付けて行けよ」
 軽く手をあげ、パミは馬車に乗り込んだ。
 それにしても、大きなもみの木だ。確かにこれでは、抜くのは大変だっただろう。マリアとアセトは、静かに見上げた。
「‥‥皆さん、お疲れでしたね」
 アセトがそう口にすると、フォルテシモが肩をすくめた。
「欲はかくものではないのう‥‥切らずに抜くのは、なお大変じゃ。それもアレクシアス。おぬしが立派な木などと言うからじゃぞ」
「人手が六人もあるんだ。‥‥別に対した事じゃない」
 しれっとアレクシアスが言う。ウォルターがプラントコントロールで細かい根を操り、抜きやすくした事。そして馬に引かせた事で、何とか抜いて運ぶ事が出来たようだ。しかし、聖夜祭の前に早くも汗だくだ。
「マリアさんが湯を用意してくれたそうですから、体を拭いて着替えていらっしゃって」
 アセトが言うと、シャルロッテがぱっと反応した。
「あ‥‥そうします」
「せっかくですから、着飾ってはいかがですか」
 シャルロッテの心を見抜いたように、アセトが言った。

 先ほどまで飾り付けをしていたウォルターも、テーブルに着いた。ここに居ないのは、子供を迎えに行ったパミだけであったが、彼女はそれを承知で出ていった。
 自分は異教徒だから、と言うが、それを言うならベインも無神論者だ。テーブルに着いて祈りの言葉を捧げる事に抵抗はあったが、それじゃあ座っているだけでもいいから、せめて同じ卓につきましょう、とマリアに言われてベインもテーブルに着いた。
 城に詰める全ての使用人が、部屋に集まる。暖炉の前に立ったのは、アセトであった。

 今日この日をこの城で迎えられた事を、神に感謝しましょう。長い辛苦から救われ、この日の喜びを得られた事、そして平穏が続くよう祈りましょう。

 しばしの祈りの沈黙の後、コールが顔をあげた。
「この城で新たな年を迎えられ、僕は本当に嬉しく思っている。いろんな問題や疑問が残っているけど‥‥ひとまず、喜びを分かち合おう」
「そうね。‥‥さあ、みんなグラスをあけてちょうだい」
 ぱっ、とマリアが手を叩いて言った。

 次々に手を伸ばしてくる子供に面食らいながら、フォルテシモはウォルター達が持ってきたお菓子を渡していく。アセトは笑みを崩さず、一つ一つ子供に持たせてやりながら言葉をかけていた。
 さすがに年の功というか‥‥。
「こらこら、喧嘩なんかするなよ。ほら、ちゃんと兄弟仲良く持って帰るんだ」
 メディクスは、ぎゅっと小さな子の手を握った男の子に、お菓子を持たせてやる。何やら意味ありげに、メディクスはその兄弟の方を見ていた。
「‥‥メディクス、何をしておる。さっさと配るのじゃ」
 フォルテシモの言葉に、メディクスはこくりと頷いた。
 それにしても、ウォルターとベインはどこに行ったのだろうか。
「ベインさんなら、子供は苦手だからと仰っていましたよ」
 子供が苦手だと? と文句の一つでも言ってやりたい所だったが‥‥。
「馬車を出しますよ。‥‥次の子が待っていますから」
 パミが馬車の御者席から声をかけた。
「あー、ちょい待ち。ほら、馬車の中でお菓子をやるから、みんな戻るんだ」
 メディクスはひょいと馬車に乗り、子供の手を引いてやった。パミの馬車が発車し、ごとごとと馬車が揺られて走る。
「‥‥エジプトでは、シリウスは特別な星でした」
 ぽつりとパミが語り出した。
「シリウス?」
 メディクスが聞き返す。子供達は、真剣なまなざしでパミの話を聞いていた。
「一番明るい星です。‥‥エジプトでは、ナイル川が夏に増水するのですが‥‥」
「そいつは大変だな」
「話の腰を折らないでください」
 ぴしゃりと言われ、メディクスは困ったような顔をした。子供達が笑っている。
「この辺りのように肥えた土地ではないナイルでは、冠水して農耕地が潤うと喜ばしい事です。この冠水に先立って、シリウスが姿を隠すのです。その後日の出直前に姿を現す‥‥シリウスは、女神イシスの化身とされ、太陽神ラーとイシスの光がともに差し込む、本当に特別な日なのです」
「‥‥」
 返事が返ってこないのに気づき、パミがちらりと振り返る。やはり子供には、夜更かしはちょっと無理だったのだろうか‥‥すやすやと寝息をたてていた。しいっ、とメディクスが声をあげないようにパミに小声で言う。
 パミは視線を正面に戻した。
 聖なる日‥‥か。メディクスの呟いた言葉に、パミが静かに答えた。
 真に聖なるものは、あがめる神で区別はありませんよ。聖なるものに違いは無いのです。
 そう言うと、メディクスが小さく頷いた。

 子供達のお菓子ラッシュに一段落がついたのは、深夜の事だった。窓辺からじっと外を眺めるシャルロッテに、アセトが気づいて声をかける。
「あら、こんな所でどうなさったのですか」
「‥‥え? ああ‥‥何でもないのです」
 シャルロッテは否定したが、アセトはじっとシャルロッテを見つめている。
「もしかして‥‥ダンスのお相手が必要だったかしら」
「そういう訳では‥‥」
 と言い返すものの、きっちりドレスを着てきたシャルロッテは、言い訳が出来ない。
 メディクスとパミはまだ戻ってこないし、ウォルターとベイン、フォルテシモはコールとともに調べ物をしている。
 アセトは部屋に戻ると、廊下を歩いていたアレクシアスを捕まえた。
「今、お暇?」
「‥‥別に」
 別に、とは暇なのか暇では無いのか。
 城の中を散策していた、と答えたアレクシアスに、アセトがそっとテラスを指した。
「お嬢さんが一人、ダンスのお相手を捜しているんです。‥‥今ここに居るのはあなただけ‥‥お暇だったら、彼女をエスコートして差し上げて」
 断ろうとも思ったが、黙ってアレクシアスはテラスに向かった。少し寂しそうに、シャルロッテが外を見ている。シャルロッテも、いつもは戦いに明け暮れているが、聖夜祭の夜には人並みにダンスを楽しんでみたりしたいのである。
 シャルロッテが振り返ると、アレクシアスは手を差し出した。
「‥‥俺も人並みにしか踊れないが」
「ありがとうございます」
 シャルロッテは嬉しそうに微笑し、アレクシアスの手に手を乗せた。

 ドレス姿のフォルテシモが書庫に入ると三人は本に視線を落としていた。
「何じゃ、聖なる夜だというのにおぬしらは‥‥」
 ウォルターがぱっと顔を上げ、笑いかける。
「いえ‥‥どうしても気になった事があったので」
「あの墓の事か?」
 フォルテシモが言っているのは、暴かれていた墓の事であった。ベインはその現場を見ていなかったので、コールやウォルターから話を聞いただけであるが。
「地下室があったというから、ウォルターと二人で行って来た」
 ベインとウォルターが行くと、その部屋は入り口を家具で偽装され、一見してわからないようになっていた。部屋の中には、あんまり見たくない、どす黒く汚れた包丁やテーブルがまだ残されていた。
「壁の一角に、十字架が設置されていたと思われる箇所があった」
「それで、その十字架を設置して来たというのか?」
 フォルテシモが聞くと、ベインは首を振った。
「あんな所に置いていく訳にはいかないだろう」
「その部屋は、入り口を埋める事にした。‥‥あんまりいい目的で作られた訳じゃないようだからね」
 コールが答えた。
 ウォルター達の調べによると、食人が始まったのは当の領主になってからだと思われる。何故かは分かっていないが、ジーザス教黒の信仰しばらくしてから、と思われる。墓の持ち主は、その領主のものであったらしい。骨は持ち去られていた。
「調べてみたら、他のパリの依頼でも同じように持ち去られていた‥‥という事があったらしい。それは‥‥殺人鬼に関する依頼だったかな」
 コールもパリに再々出向いているわけではないが、それについてはウォルターやベインにも、パリに戻れば確認出来るだろう。
「そうか。‥‥おぬしは本当によくやった。それは皆認めている。じゃから、今夜くらいはゆっくりしても良いのじゃぞ」
「分かっているんだけども‥‥」
 とコールが苦笑する。
 どうも、黙って座っていられない性格らしい。
 フォルテシモは窓から外を眺め、ふと目を丸くした。
 ほう、雪じゃ。フォルテシモの言葉に、一同が視線を窓に向けた。

(担当:立川司郎)