黒馬車ロンド4〜彼らに永遠の安息を

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月01日〜12月06日

リプレイ公開日:2004年12月10日

●オープニング

 珍しく、コールは屋敷の奥に籠もっていた。ほの暗い部屋の壁にランタンを掛け、埃にむせながら次から次へと、ものを手前に運び出していく。古いスクロール、朽ちかけた書類、食器、虫の食った衣服‥‥。
 彼が何をしたいのかさっぱり理解出来ない女中達は、ドアの外からその様子をうかがっているばかりであった。は、と女中達の視線が、廊下の向こう側に向けられる。
 静かな足取りで、彼女はドアの前に立つと、中へと声をかけた。
「コール、何をしているの? みんな困っているじゃないの」
 コールはちらりと振り返り、笑顔で答えた。
「いえ、何でもないんです。お気遣いなく、婆さま」
 お気遣いなく、と言われても放っておけない。この間襲われたばかりだというのに、コールは一体何をしようと言うのだろうか。マリアはため息をつくと、肩をすくめた。
「しょうがない子‥‥。いいわ、気が済むまで倉庫の掃除をさせてあげて」
 くす、と笑ってマリアはふわりと足を前へと向けた。

 見つかったのは、ずいぶん昔領主が代々持っていたと言われている、古い銀の短剣。そして、これもまた古びた衣装。これは領主が昔着ていたと言われている、豪奢なマント‥‥であるが、その豪奢なマントも今は見る影もない。虫に食われた穴を埋めるようにバラして縫い直してもらったら、豪奢なマントはただ刺繍がついた普通のマントになってしまった。
「コール、聞いておきたいの。それはどうするつもりなのかしら」
「‥‥決まっているじゃないですか。あの城に行くのです」
 マリアはそれを聞き、眉を寄せてふるふると首を振った。
「何も今でなくともいいんじゃないのかしら」
「今だから行くのです。‥‥今なら、あの城の死者達の数も減っている。今行かなくて、いつ行くのですか。それともまた一年待つとでも?」
 城に向かった神聖騎士から聞いた、あの死者の最後の言葉。
 彼らは遠い昔、人でありながら人に食われる為に命を落としたであろう事、そしてそれをおそらく‥‥コール達の祖先が行っていたのであろう事。
 それを、彼女がデッドコマンドで、墓場の死者から聞き出してきた。
 責任‥‥?
 いや、使命‥‥?
「僕は行きます。‥‥それが今、僕が成さねばならぬ一つの事です。それに、ロンドと戦うならば、彼らをフォロー出来るのは炎の魔法を使う僕しか居ませんから」
 コールは、いつもの笑顔をマリアに見せる。
「大丈夫。‥‥僕はきっと戻ってきます。‥‥来年こそ、平安でありますように‥‥」
「コール‥‥」
 マリアは、悲しげにそっと目を閉じた。
 ‥‥ギルドから来た彼らとコールが、無事に戻ってきますように‥‥神よ、彼らをお守りください。

●今回の参加者

 ea1625 イルニアス・エルトファーム(27歳・♂・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea1861 フォルテシモ・テスタロッサ(33歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3260 ウォルター・ヘイワード(29歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea3448 チルニー・テルフェル(29歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea4820 メディクス・ディエクエス(30歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8652 ユーリ・ノーンドルフ(29歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

 ドアを開くと、暖かい空気がふわりと舞い込んだ。窓辺に小さな椅子が置いてあり、その上に刺繍が作りかけで置いてある。
「マリア殿、お邪魔ではありませんでしたか」
 フォルテシモ・テスタロッサ(ea1861)、そして彼女の後ろからウォルター・ヘイワード(ea3260)が続いて入り、ウォルターが扉を閉めた。彼女はふんわりと降り注ぐ昼日中の日差しのように、柔らかな笑みで二人を迎え入れる。
「もう出立するの?」
「はい‥‥。一言ご挨拶を、と思いお伺いしました」
「そんな風にかしこまられると、何だか寂しくなっちゃうわ」
 ふふ、とマリアはフォルに声をたてて笑った。釣られて、フォルも笑顔を浮かべる。
「マリア殿、我らが必ずや‥‥この悲劇に幕を下ろして参りますゆえ、ここでお待ちください」
「ありがとう」
 マリアはふう、と窓から外を眺めた。
「もうずうっと‥‥私達はあの人の影と暮らして来たけれど‥‥あの人を追いつめたのは、あなた達が初めてだわ。コールもあなた達も、ほんとうによく頑張ったわね」
「今日来られなかった仲間も、気を付けて戻るようにと案じていました」
「ロンドは今まで何人もの人が戦って命を落とした強敵。‥‥気を付けて行ってね」
「大丈夫です、頼れる仲間が助けに来てくれましたからご安心下さい」
 ウォルターが言っているのは、クレリックのユーリ・ノーンドルフ(ea8652)、そしてアハメス・パミ(ea3641)の二名。パミは、今回のメンバーの何人かとは、依頼で会ったことがある。一方ユーリは、聖職者として各地を旅する事はあれど、ギルドから依頼を受ける事はあまり無かった。
 今回は、参加者の半分が聖職者‥‥ユーリも、前回のまでの依頼結果を見て興味を持ち、戦列に加わることにした。
 ウォルターから預かった地図をパミに手渡し、さらにもう一枚をメディクス・ディエクエス(ea4820)は、ユーリに渡した。
「それはウォルターが作った地図だ。外観と資料から作ったものだから、あんまり正確じゃないがね、まあ無いよりマシさ」
「アンデッドが多数出没すると聞きましたが‥‥規模はどれほどでしょう?」
 ユーリはホーリーやリカバーなどを使うが、実戦で充分通用するほど強力な力を発揮出来るわけではない。むしろ、ホーリーとリカバーならばシャルロッテ・フォン・クルス(ea4136)やメディクスとて使える。メディクスがリカバー、フォルはホーリーの力を持っている。
「どこまでお力になれるか分かりませんが、みなさんをお支えします」
「なあに、クレリックの君にしか出来ない事があるさ。俺達は聖職者とはいえこっちがメインでね、ここのレディも腕っぷしが強い方さ」
「どこの口がレディなどと仰っているのですか?」
 しれっと言い放ったパミ。レディは否定させて頂くが、腕っぷしは否定しなかった。

 かつて、この城は澄んだ美しい湖畔に落ちた、白い涙と歌われた。コール・マッシュの祖先はこの城に住み、この地を治めていたという。その頃は町と城の間の道もきちんと整備されていたし、まだ森の中に人が住んでいた。
 この森に人が立ち入らなくなったのは、もう数十年‥‥いやもっと昔の事だった。森は木々が茂り、道をふさぎ、城を蔦で覆い隠した。城中に灯が灯る事は無いし、生きた人間が出入りする事はむろん無い。
 馬で一時間も駆けると、城が視界に入って来た。パミとユーリ以外は馬を所持していたが、自分でうまく操る事の出来ないウォルターは、パミに手綱を預けて同乗している。ユーリは、身の軽いイルニアス・エルトファーム(ea1625)に乗せてもらっている。
 静かに城の側に馬をつけると、コールが真剣な眼差しで城をじいっと見上げた。
「‥‥ここに来るのは、実は三度目なんだ」
 コールが、ちらりと皆を振り返って話した。
「一度目はまだ子供の頃‥‥侍女の一人が犠牲になった時だったかな。二度目は君たちに依頼する前、昼間に一人でこっそり行ってみた。‥‥ここまで近づく事なんか出来なかったけどね」
「お主の勇気と決断が、我らをここまで呼び寄せたのじゃ」
 はっきりとした声で、フォルが言った。フォルは真っ直ぐコールを見つめている。
「お主が呼んだから、我らはここに居り、新たな道が開けた。希望に満ちた道がのう」
「ありがとう‥‥それじゃあ、行こうか」
 コールを始め、皆それぞれ下馬して荷物を下ろしていく。
 中に入ってしまったら、打ち合わせをする余裕など無いかもしれない。ウォルターは地図が行き渡っている事を確認すると、明かりとなるランタンを出した。
「まずロンドの居場所の見当をつけておきたいのですが」
「そうだな、私は謁見室だと思うが。もしくは城主の部屋だな」
 イルニアスが言った。フォルも、イルニアスの意見に同意を示す。
「そうじゃな。城主の部屋か謁見室しかあるまい」
「食人の儀式などという公に出来ない事を行うならば、どこか人目につかない場所が必要だ。隠し部屋の入り口は、城主の部屋が最適だからな。まずは謁見室に行き、それから城主の部屋に向かう方がいいだろう」
 ウォルターが地図を指すのは、一階部分だ。謁見の間は恐らく一階部分。城主の部屋は二階にあるという。
「私は城主の部屋に向かいます。謁見室には、先に行っていてくれませんか?」
「ウォルター、一人で行くつもりか?」
 いかに言ってもウォルター一人で行くのは無理だ。彼はちらとメンバーを見た。すると、シャルロッテがすうと前に進み出た。
「それではわたくしがお供しましょう。わたくしも、かの城主の部屋は興味があります」
「そいつは俺も興味があるね」
「メディクス、申し訳ないですが先にロンドの方に行ってもらえませんか。私はちょっと‥‥確かめておきたい事もありますし」
 ウォルターに言われ、メディクスはしょうがない、というふうに頷いた。

 昼なお暗くカーテンを閉め切った玄関ホールに、光が差し込んだ。何年ぶり‥‥いや、何十年ぶりなのだろうか。開くなり、剣を抜くことを余儀なくされたイルニアスの後ろから、即座にウォルターがグラビティーキャノンを高速で放つ。
 ざあ、と暗闇に散った蝙蝠を払うと、ウォルターは駆けだした。その前に盾になるように、シャルロッテが剣を持って走る。
「では、後で!」
 ウォルターの声が、階段の方へと消えていく。答える暇は無い。コールを庇ってフォルとユーリが側に付く。フォルとユーリはそれぞれホーリーを放っているが、二人の放つ力では、一度二度で蝙蝠達を払う事は出来ない。ロングスピアにバーニングソードを掛けてもらったメディクスは、スピアのリーチを生かして蝙蝠を牽制する。
 ぐるりとイルニアスが視線を巡らせた。剣を握る手に力が入る。
「三体‥‥か。一体ずつ相手をするか?」
「仕方ないねえ‥‥」
 メディクスはにやりと笑うと、スピアを振ってスカルウォリアーに向かっていった。イルニアスは、強力な技こそ持っていないが、素早いサイドステップで避けつつ、バーニングソードで強化した剣でダメージを与えていく。
 メディクスとイルニアスはいいが、コールの前とイルニアスの背中を守る者が居るまい。パミは素早く片づける為、抜きざまにシュライクでウォリアーの右肩を叩き崩した。
 反撃の剣を二の腕に受けるも、返す刃で更に切り崩す。続けざまにパミの力強い一撃を受け、ふらりと体勢を崩した。後は、枯れ柳も同然だ。
 涼しい顔でメディクスの方を振り返るパミに、メディクスが思わず口笛を吹いた。するとパミはしらん顔で、メディクスの横合いから一撃を繰り出した。メディクスのスピアをすり抜け、パミの剣が叩き込まれる。
「これはどうも」
「‥‥急ぎましょう」
 パミは崩れ落ちるウォリアーに視線を落とすと、視線を周囲に走らせた。
 あ、とユーリが声をあげる。奥から、何かがゆらりと影を落とした。いや、影‥‥そのものなのか。黒い服の影が、ゆらりとこちらに歩いてくる。
 一瞬、パミも‥‥イルニアスもメディクスも、そしてコールを守っていたフォルとユーリも動きを止めていた。彼女の動向をじっと待つ。
 彼女の視線が、すうっと一点を見つめていた。そう、コールを。
「‥‥ロンド」
 コールがようやく低い一声を漏らすと、彼女が顔を上げた。
『コール‥‥マッシュ。強い意志と力を持ったあなたこそ、次の領主にふさわしい‥‥』
「‥‥お前の望む領主とは、民を守る為の領主ではあるまい!」
 コールが答える。ロンドは、ふわりと歩き出した。反射的にメディクスがホーリーライトを作り出し、掲げる。しかしロンドは、一瞬眩しそうにしたが歩みを止めなかった。
「ユーリ、聖歌を歌えるか?」
 スピアを構え、メディクスがユーリに声をかける。ユーリは何を言っているのか、とメディクスを見やる。
「いいから、詠唱の合間でいいから歌っていてくれ。俺は、余裕が無いかもしれん」
 コールの術を受け、メディクス、そしてイルニアスがロンドに斬りかかった。双方の剣とスピアがロンドの体をすり抜ける。手応えは無いが、ロンドの顔が苦痛にゆがんだ。
 きいたのか?
 イルニアスがロンドの顔を見上げた‥‥と、ロンドの手がイルニアスに伸びた。避けきれず、彼女の手がイルニアスに接触する。冷たい闇のようなロンドの手は、まるで水をくみ上げるようにイルニアスから力を奪っていく。
「‥‥聖なる‥‥」
 メディクスに続くように、ユーリの口から言葉が漏れた。

 慈悲深き聖なる救世主
 我らを 無慈悲なる死の手に渡したもうな
 我らの父祖らは御身に叫びぬ

「ロンド!」
 甲高い声が、ロビーに木霊した。ロンドが振り返る。その隙にメディクスがイルニアスの腕を掴み、後ろに引き戻した。ユーリの歌声が止み、彼がイルニアスに駆け寄る。
 するとロンドの視線がイルニアス、そしてコールに向けられた。
「いかん‥‥コール、退け!」
 フォルがコールを突き飛ばした。その身を、ロンドがごう、と駆け抜ける。強く、悲しく、冷たい風が何度もフォルを嬲るように通過する。
「フォル!」
 コールが駆け寄ろうとすると、後ろから誰かが肩を掴んだ。
 光が、ロンドを包み込む。悲鳴をあげ、ロンドがフォルから離れて空を飛んだ。きっ、とロンドの視線が、彼女達に向けられる。シャルロッテはコールをウォルターに任せると、フォルを助け起こした。
 ウォルターが、ロンドと視線を合わせる。彼の手の中にあった、一冊の本。
 薄汚れ、ボロボロになっていた古い日記だった。
「全てここに書いてありました。‥‥あなたがどういう仕打ちを受けていたのか」
 ロンドが、ウォルターに向かう。その彼女にユーリがホーリーを放った。メディクス、そしてユーリもそれに続く。彼らの力では、聖なる力でロンドにダメージを与える事が難しい。
「私は、あなたを救う為に‥‥来たのです。どうかもう苦しむ事なく‥‥永き死の鎖の束縛から解放されて旅だってください」
 ユーリは、すうっと目を閉じて聖歌を口ずさみはじめた。ホーリーが効果を為さないなら、メディクスが言っていた方法に掛けるしかない。
 シャルロッテは、悲しそうにロンドを見た。
「何と愚かな事でしょう‥‥。弱き者を苦しめ、なおかつ命を搾取するとは‥‥。決して許されぬ非道な行為ですわ」
 そっと目を閉じ、シャルが呟く。
『強い者が弱い者を搾取する‥‥それのどこが悪いのです!』
「‥‥ロンド。それは違います」
 静かな口調で、パミが言った。
「私の故郷もデーモンを崇拝しています。‥‥私がこの依頼に興味を持ったのは、それ故‥‥。あなたの考えも理解出来ないわけではありません。しかし肉を喰らって自らの血肉とするのではなく、想いを引き継いでその心の糧とする。それがジーザス黒のあるべき姿というものではないでしょうか」
 ぱら、とウォルターは本を開く。
「あなたはここで当時の領主に、糧として食われた。三度食われ、そのたびに体を蘇生再生されて復活して来た。‥‥一年に一度あなたが襲っていた月は、あなたが四度目に死んだ月だったのですね」
『私は望んで食われたのです! ‥‥あの方の肉となる為に‥‥皆、ロンドの肉は美味しいと食べて頂きました‥‥! だからさあ、コール様。あなたも新たな領主となって‥‥』
「嫌だ、僕は仲間の肉など食べたくはない! 人は人を守る‥‥オークはオークを守る‥‥それが自然の摂理だ! 人が人を食ったら、誰が人を守るんだ!」
 コールの声が響く。

 慈悲深き聖なる救世主
 我らを 無慈悲なる死の手に渡したもうな

 メディクスとユーリ、そしてフォルとシャルが言葉を繋ぐ。
 イルニアスとパミが剣を構えた。鋭いパミの一撃に続き、イルニアスが剣を横薙ぎに切り裂いた。

 静かな風が吹き抜けていく。
 ユーリは、三体のスカルウォリアーと、城内に残っていた死者の躯を墓場に埋葬した。静かな祈りの言葉が、風に乗る。
「誰が当時の領主をあのような狂気に走らせたのか‥‥まだ不明な所がたくさんありますが、少しでも早く御霊が癒されるといいですね」
 ユーリは、立ち上がって振り返った。シャルはまだ横でじっと目を閉じてロンドの墓に祈りを捧げているが、フォルは何やら険しい表情で、歩き出していた。ユーリが声を掛けると、シャルが立ち上がり、あわててフォルに続く。
「あの‥‥フォルテシモ様、どうなさったのですか」
 ユーリの問いにフォルは答えず、ある墓の前で足を止めた。無言で、墓を見下ろしている。それはひときわ大きく、立派な墓だった。
 目を丸くして、ユーリが墓を見下ろす。
 何という事‥‥でしょう。シャルがつぶやき、その場にしゃがみ込んだ。誰の行いか‥‥この墓は、そっくり中身を無くしていた。

 マリアとコールの手に渡された一冊の本は、朽ちかけていた。ウォルターは彼らに領主の日記を渡すと、それとは別に何枚かの紙を渡した。
「そっちは、今回の件について私がまとめたものです。おそらく城には、まだ資料があると思いますが‥‥今回持ち出せたのは、それだけです」
 ロンド。彼女の悲しい死は、百年経ってようやく日の目を浴びたのだ。何が行われていたのか、何が彼女を苛んでいたのか‥‥。
「城内を調べた所、地下室がありました。その地下室の壁に、何かがはがされたような跡がありました。‥‥おそらく、その十字架が設置されていた所でしょう」
「彼女は、体を切り刻まれる時、いつもその十字架を見ていた‥‥という事か」
 イルニアスが、窓から外を眺めながら呟いた。城からの眺めも、またこの屋敷からの眺めも、いつも優しい風が吹く暖かなものだった。せめて、ロンドがその景色で癒される事があったなら‥‥。
 そして、湖畔の城に百年ぶり、暖かな光が灯る‥‥。
(担当:立川司郎)