【収穫祭】ベルモットの戦い2〜白軍本隊

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月10日〜11月15日

リプレイ公開日:2004年11月18日

●オープニング

5日間に渡って行われた、模擬戦の準備がようやく終わろうとしている。
 世は収穫の喜びに沸きたち、祭りを楽しんでいる。だがどうだ? パリから2日ほども離れれば、もう戦いを求めている者が居る。
 遠く草原の向こうに見える、小さな城を窓辺から見ながら、マレーアはくすりと笑った。そう、戦いというものは、こうして一歩離れて見ているのが、一番楽しい。
「そうでしょうね、吟遊詩人というものは、常に刺激を求めるものです」
 ちら、とマレーアがアッシュを見上げる。そういうアッシュも、最近は吟遊詩人扱いされているが‥‥。
「間違ってはいませんね、あなたも刺激が無くては生きていけない人ですから」
「そんな事はありませんよ」
 と答え、アッシュがグラスを手に取る。
 一足先に二人が頂いた今年のベルモットは、極上の出来であった。
「勝利の美酒には、料理が欠かせません。もう、上等の牛と鶏を取り寄せてありますよ」
「私はデザートにはちょっとこだわりました」
 くすくすと、二人は見合ったまま笑った。

 部屋に戻ったアッシュは、口を閉ざしたまま窓辺に立った。
 しばらくして、低い笑い声が漏れる。
「デザート? 料理の何たるかも分からない人に食べさせるデザートなんて、ありはしません。それはふさわしい人の元に運ばれるべきです」
 ふふふ‥‥
 冷たい笑い声が、アッシュの口から零れた。
 ふと視線を動かすと、ドアの前に数人、立っていた。
「どうかしましたか?」
「いや‥‥」
 若い男が、短く答える。
 何も突っ込むまい。少なくとも、あの笑いは楽しそうなものではなかっただろう。

 総勢30名の勇士による戦いの結末がどうなるか、それは神のみぞ知る。
 収穫の喜びを戦いという形で表そうとする、この二人の道化師達のどちらに勝利の女神がほほえむのだろうか。
 さあ、勇士達よ。
 美酒を得る為、そして収穫の喜びを表すため、存分に戦うがいい。


[模擬戦ルール]
1:布陣
.両軍は紅軍(防御)と白軍(攻撃)に分ける。参加人数は紅軍10名、白軍20名までとする。
.紅軍は土で城1つと砦6つを、白軍も土で城1つを事前に、相手に見えぬように構築する。

1:防具と武具
.防具は実戦と同様。その上から紅白の布の服を着る。
.槍は6フィートの棒の先をキルトで包み、顔料を塗る。
.鏃は丸い木製でキルトで包み顔料を塗る。
.剣は木剣で刃部分に布を巻き、顔料を塗る。
.急所に顔料がべったりつけば負傷と見なし、城や砦に仲間が回収する。服は紅軍40枚、白軍110枚初期配布され、汚れた布の服を取り替えれば回復と見なす。
.城や砦には防備のために顔料を入れた堀を創ることが出来、城や砦から、顔料を柄杓で掛けることが許される。
.替えの服が無くなった場合は回復できず、負傷の者は戦いから除かれる。
.砦の旗を奪えば、砦を陥落と見なし、戦いから除く。砦に備えてある服も失われる。
.城の旗を奪えば、城陥落と見なし勝利とする。
.敵を全滅させれば、勝利とする。

<追加ルール>
・双方2名ずつ回復要員を選定し、回復用の服を持ち歩く事を許可する。持ち歩く為の服の枚数は指定しない。負傷者は回復されるまでは、その場から動いてはならない。死亡判定は急所に塗料が付く、もしくは服の1/3が塗料に濡れる事。
・魔法の使用は種類によって制限する。味方に作用する支援魔法、及びフィールドに作用する魔法は許可、敵に作用する支援魔法、及び攻撃魔法は不可とする。この制限は、模擬戦内の全ての行動に適用される。
・急所(喉、頭部、局部)への攻撃は不可とする。目つぶし等もこのルールを適用する。
・馬の利用は許可する。なお、荷馬車は不可。
・開始時刻は三時課より終課よりまでとする。開始時の配置は、各城よりマップ3マス以内。
・陥落した砦の使用は可能。

●今回の参加者

 ea0121 ティルフェリス・フォールティン(29歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1000 蔵王 美影(21歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea1662 ウリエル・セグンド(31歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea1944 ふぉれすとろーど ななん(29歳・♀・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea3062 リア・アースグリム(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea7211 レオニール・グリューネバーグ(30歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

ブルー・アンバー(ea2938

●リプレイ本文

 泥だらけになって造った白軍の居城は今、ふぉれすとろーど ななん(ea1944)の後ろにそびえ立っている。心配していた土煉瓦も、無事乾いて堅くなっていた。他のメンバーが城の周囲で話し合いをしている間、ななんは外で作業を続けていた。
 このような直前になってする作業があっただろうか‥‥。城の守備隊に指名されているシャルロッテ・フォン・クルス(ea4136)が、ななんの側へと静かに馬を進め、寄った。
「何をされているのですか?」
「ん?」
 ななんはちら、とシャルを見上げる。シャルはそんなに繊細で綺麗な顔立ちなのに、いざ守備隊となると、前線に出られない事をやや不服そうにしていた。それがちょっと意外で、しかしかえって好印象だった。
「皆さん、配置につくそうです。そろそろ開始の時刻ですから」
 そろそろ‥‥いや、いよいよ戦いの時が迫る。

 全城軍の配置は、四つの隊に分けられていた。
 一つは本隊。これはほとんどが徒歩である。隊長はレオニール・グリューネバーグ(ea7211)。回復役としてゼルス・ウィンディが付く。残りはメリルとななんに加え一名。
 二つ目は、騎馬のみで構成された機動隊。ウリエル・セグンド(ea1662)を隊長として、シエル・サーロット、リア・アースグリム(ea3062)、ティルフェリス・フォールティン(ea0121)と一名。
 そして罠の解除と別任務を受けている、別働隊。これは誰が指揮ともなく、神聖騎士のレオンスート・ヴィルジナが騎馬で、忍者の蔵王美影(ea1000)と回復役のエリィ・セディオン、シフールのアルフレッド・アーツ(ea2100)を守っている。
 最後に城の守備隊。これは残る神聖騎士アウル・ファングオルとシャルロッテ・フォン・クルス、騎士のティム・ヒルデブラントが城に残って守備し、シフールのセルミィ・オーウェルが監視をする。

 時が迫り、合図の鏑矢が放たれた。

 白軍の進軍ルートは、準備段階から設定されている。一つは城からやや南下し、渡河するルート。もう一つは、作戦立案段階で出た東側のルートである。南下して舗装されたルートを通ったのは、ウリエル率いる機動隊五名。東のルートを取ったのは、本隊と別働隊合わせて九名‥‥そして城の守備隊であったティムとシャルロッテ達であった。
 シャルは騎馬で本隊を先導するように駆けると、河へと迫った。シャルの白いライディングホースは、他の馬より速い。機動隊の動きを、ちらりとシャルが見やった。
 予定通り‥‥。
 紅軍が城から出てくる気配が無いのを見ると、シャルは馬を引き返した。後ろから、アウルがやってくる。
「そろそろですね」
 こくり、とシャルが頷いた。自分たちの役目は、ここまで先導してきて紅軍にプレッシャーを掛ける事。充分、任務は果たした。
「御武運を」
 シャルは仲間に一声かけると、アウルとティムに続いて城へと戻った。

 レオニールの率いる本隊は、真っ直ぐ荒れ地を迂回するようにして東に向かった。それから南に折れ、中州を確認して南下していく。河を目前にして、三隊とも動きを止めた。
「‥‥うむ‥‥罠は城の周囲にいくつか仕掛けられているようじゃが、迂回して通る事も可能じゃろう」
 城の周囲に視線を走らせ、メリルが言った。メリルの指示に従い、本隊が迂回していく。回復役であるゼルスをガードしているレオニールは、そのルートに嫌な感じを受けていた。それは、戦場工作に長けたメリルとて同じであった。
「‥‥ちょっと待て」
 メリルが声を掛けた、と同じくして中州の砦から矢が降ってきた。狙ったかのように、真上から降り注ぐ。ななんはシールドで防ぎ、レオニール達もゼルスを庇って矢を叩き落としたが、機動隊はそうはいかなかった。馬の乗っていた為、思ったように回避出来ないのである。
「リア、大丈夫ですの?」
 シエルの前に居たリアの服には、塗料が付いている。リアはふるふると首を振った。
「馬での戦いには慣れていないものですから‥‥」
「そういう時は、致命傷さえ避ければいいのよ、うまく避けようとしなくていいんですのよ。‥‥早く行きなさいな」
 シエルはリアを後ろに追いやると、剣を取った。
 別働隊のレオンスートとアーツ、そしてエリィは、河原を移動して南下していた。どうやら蔵王がそちらに居る為、待機しているようだ。また、彼らには別の任務がある。
「馬をよろしくお願いします」
 馬の手綱をエリィに差し出すリアを、アーツが驚いて見返した。
「どうするんだよ、リアさん‥‥あなたは機動隊じゃないの?」
「私は元より騎馬戦闘は苦手です。御味方の邪魔になるなら、置いていきます」
 リアは馬をアーツに預けると、再びアーツの言も聞かずに中州の方へと駆けた。
 一方本隊は、機動隊と合流して中州の周囲に集結していた。先のゼルスのブレスセンサーにより、中に居るのが人間二人だと判明している。しかし、再びゼルスがブレスセンサーをかけた所、そのうちの一人が城から脱出していた。城の中に、その気配が無い。
 ゼルスらによれば、一人は城の方に逃げ、中州に一人残っているらしい。
「砦の占拠は頼む‥‥俺はシエルと一緒に蔵王を手伝って、城の方の警戒と‥‥罠の解除をする」
「分かった、頼む」
 ウリエルはレオニールに伝えると、騎馬隊に指示を下した。振り返るウリエルの横に、シエルが馬をつける。ウリエルはいつものぼうっとした表情で、口を開いた。
「罠を回避して動くのを予測していたんだな‥‥あの弓の位置からすると」
「動きを読まれているって事ですの?」
 ウリエルは不安そうに、城の方を見やった。

「行くぞ、まずは砦を落とせ」
 レオニールの指示ななんとリアが先に立ち、砦に向かった。砦は一見して小さなものだが、入り口は一カ所しかない。上から上るか、入り口から入るか‥‥。
「わっ!」
 ななんの右壁の横合いから無数の模擬矢が飛び出し、シールドで守られていない右側面にべったりと塗料が付着する。これで負傷半分。急いでななんは、ゼルスの所に引き返す。
 入口から見て時計回りの狭く入り組んだ通路は、白軍を不利にしていた。通路の壁その物が盾の役割を果たし、攻め込む方は難儀するのだ。
「これじゃ、数がいくら居ても駄目よ」
 ななんは、むっつりとした顔で言った。
「確かにこれではキリがないか‥‥」
 レオニールが息をつく。すると、リアが顔を上げた。
「私が盾になります。ななんさんは盾を持っていますし、私は大丈夫‥‥ですから、私とななんさんが盾になって入りますから、他の方で後ろからフォローして下さい。ティルさんとメリルさんは、上から矢の一斉射撃で」
「よし、乗った!」
 ななんが景気よく返事をすると、レオニールもしばらく間をおいて頷いた。
 二人の突撃により、中州は陥落。沈黙した。

 そして南下したレオンスートは、蔵王と合流していた。単身城の様子をうかがいに向かった蔵王は、城の周囲で出来る限りの罠を解除しつつ、その様子を遠目からうかがっていたのだ。
 蔵王には一つの策がある。そう、隙さえあれば一瞬で結果が付いてしまう策だ。
「どうだった、美影?」
 レオンスートが聞くと、蔵王は城の方にちらと視線をやりながら、口を開いた。
「砦を組み合わせて、一つの城みたいに造っていたよ。入り口が少なくて、上から誰かが見ていた。‥‥多分、おいら達の城みたいに見張り台があるか、二階部分があるんじゃないかな」
「二階とな? うむ‥‥何かで補強しなければ、二階を造るのは無理じゃと重うが‥‥確かに補強目的での木材使用は禁止されていなかったようじゃな」
 メリルが言うと、うん、と蔵王が頷く。
「皆、中に居るみたい。‥‥とりあえず出てくる気配は無かったよ」
「中州同様、中に仕掛けがあると思った方がいいな」
 そう言ったレオニールに、小さく同意の声を出したウリエル。
「またああいう仕掛けがあった場合‥‥どう攻める?」
「まだこちらには、アーツの策がある。アーツと弓で空から矢を降らせる」
「でもちょっと待って‥‥二階があるなら、一階部分に矢は降らないんじゃないの?」
 レオンスートの言う通りだ。蔵王の見た所によると、城の内部が全て二階建てになっているようには見えなかったという。全てが二階建てであれば、大きく広い城は、上からの衝撃を受けると崩れ、一気に紅軍が不利になる可能性もあるだろう。
「そんな城を造るとは、思えぬ。ここは正攻法で行くしか無い」
 城までどうたどり着くか、それはよく練ってきた。しかし、城の内部や罠をどう避けて戦うか、レオニール達はそこに目が行っていなかった。
 話し合っている間にもゼルスが城から戻り、中州の城に回復の服を運び込んだ。ゼルスが持ちこんだのは、彼の持ち枚数の残り数十枚だ。

 残された紅軍の城を攻略する為、機動隊と本隊が城の周囲に集結しはじめる。機動隊のうち、指揮のウリエルとティル以外は下馬していた。
「さあ、行くよっ!」
 ななんが、駆けだした。上空から矢を撃ちかけてくるのを、盾で防ぎながら正面にむかう。おそらく、ウリエルが言っていたように罠があるだろう。しかし、後ろから盾を持ってきている支援隊のファイターと二人でガードすれば、後ろが突っ込む隙が出来るはず。
 しかしななんが突っ込んでいくと、怒濤の勢いで堀の水を浴びせられてしまった。
「もう〜、また?」
 座り込む、ななん。
 いくら盾を持っていても、浴びせかけられては防ぎようがなかった。
「そちらがその気であれば‥‥」
 それほど得意分野では無いが、使えないわけではない。シエルは弓を取り、矢を引き絞ると声をあげた。
「ゼルス、今のうちにななんを回収してくださいな!」
「分かった、しばらく引きつけておいてくれ」
 シエルは馬にくくりつけた矢を、次々打ちかける。こうなれば、当たるより撃てだ。数撃ちゃ当たる。
 白軍の攻勢に呼応するように、城から出て紅軍の者が武器を取りはじめた。後方から弓で射かけていたティルを護るウリエルも、次第に前に押しやられる。
 当然、回復もゼルス一人では手が足りない。
 ようやく回復してもらったティルが、視線を上げた。ふ、と表情がゆるむ。
「何だ、あれは?」
 ティルが指したのは、上から手製の爆弾を投下するアーツだった。
 これがアーツの作戦だ。レオンスート達と革袋をたくさん作り、中に塗料を仕込む。それを抱え込んで、上から次々投下していくのである。
 さすがに上空からの攻撃を予期せぬ紅軍は、アーツの的確な投擲に次々犠牲になっていく。ただ、この作戦の短所は、アーツがたくさん抱え込めない所にあり‥‥。
 と、突然地面から人影が現れると、ゼルスに向けて塗料を掛けた。ゼルスは地面に再び消えた紅軍の者を視界に探す。とっさにエリィが駆けだしていた。続いてレオンスートが追う。レオンスートが追いつき、エリィをフォローするように馬を寄せる。
 いつの間にかゼルスとエリィのフォローの為に、リアが砦から出ていた。エリィとゼルスが回復出来ないのは痛い。リアは、二人が居ない穴を埋める為、前に出るしか無かったのである。だがその隙に、さきほどアースダイブでゼルスに塗料を掛けた者は砦に戻っていた。
 砦には、まだ回復されずに残されている紅軍の者が一人居るはず。砦側に二人復活、その上彼女は砦に残されていた服に、ありったけ塗料をぶちまけた。焦るレオニールに、いつもの通りぼうっとしているウリエルが寄る。
「回復出来ない。残っているのは、エリィの服だけだ。だけどエリィの持ち数は‥‥」
「分かっている」
 エリィは元々別働隊に配備していた為、それほど服を持たせていなかった。大量に所持していたゼルスの服は砦にある‥‥いや、あった。

 城攻めは、次第に消耗しつつあった。エリィが取りに戻っているとはいえ、今、もう一人の回復役であるゼルスの元にはわずかな服しか残されていない。
「‥‥ねえティル、アーツ。今から、思い切り城の上空に攻撃してくれる?」
 蔵王の唐突な頼みに、アーツが首を傾げる。
「どうするの、蔵王さん」
「おいらがあそこに登って、城の旗を取ってくるよ」
「でも敵がいるぞ。どうやって登る気だ?」
 ティルが聞くと、蔵王はぎゅ、と拳を握った。
「大丈夫、おいらに任せて。‥‥あっちがその気なら、おいら達だってルールの穴を突かせてもらうだけさ」
 城にむかう蔵王に声を掛けたアーツとティルは、ともかくも彼のフォローに徹する事とした。
「蔵王さんが言うなら‥‥きっと何か策があるんだ」
 蔵王は、じっと城の上を見つめている。
 チャンスは一度‥‥あんな所で負傷して動けなくなったら、もう二度と同じ事は出来ない。旗は立っているが、そこに足場があるとは限らない。その周囲に罠があるかもしれない。
「‥‥よし、行くよ!」
 蔵王の行動に、レオニールやウリエルが気づいた。何か声を掛けようとする。
 ‥‥いや、止めない。蔵王は視界に映るあの旗の下に向けて、微塵隠れの術を使った。
 微塵隠れの術。それは爆発とともに、遠方に一瞬にして移動する術の事である。蔵王は紅軍の城から遙か離れた場所から、微塵隠れの術を使って飛んだ。
 爆発が城の外で起こったと思うと直後、旗の横に立っていた蔵王を止められる者はそこにはいない。罠も無かった。彼の手に、しっかりと旗が握られる。あっという間に蔵王は爆発を起こし、再び仲間の元に戻った。
 うれしそうに掲げる蔵王に対し、呆然とする白軍。

 複雑そうにベルモットを頂くメリルに対し、うれしそうにティムが料理を運び込んだ。夜風の元で頂く料理と酒は、格別だ。
「さあみなさん、お疲れ様でした。せっかくだから、どんどん飲んでくださいね。私も頂きます」
 と、ティムがグラスを取る。料理を運んだり飲んだり、せわしない。
「ワイン掛け‥‥やりたいな」
 ぽつりと言ったアーツの言葉に、皆が同意する。酒が苦手な者は丁重にお断りする所だが、酒が嫌いではない者は、ワイン掛けはやってみたい所だ。
 すると、ティムが皆を見回して大きな声で言った。
「じゃあ‥‥紅軍の方も一緒に飲みませんか? 私、ずっと思っていたんです。せっかくのお酒なんですから、両軍皆で頂ければいいって‥‥」
 ティムに言われて、ななんが同意を示す。
「そうだね! やっぱり勝った人だけで飲むより、皆で飲む方が楽しいよね」
「じゃあ私、紅軍の人の所に行って来ます!」
 セルミィがそれを聞いて、パタパタと羽を羽ばたかせて飛び出した。

(担当:立川司郎)