シェリーが消えた〜前編

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 64 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月13日〜02月19日

リプレイ公開日:2005年02月21日

●オープニング

 全くあずかり知らぬ事ではあったが、自分が住む森に、妖精と仲良くしている少女が居るらしく。全く関心は無かったが、その少女が住むという、自宅からほど近い村が騒いでいるらしく。
 ちょっと、冷たいんじゃないですか。
 ギルド員の男は、アッシュにそう言った。
「私が冷たい? ‥‥そんな今更何を言っているんですか」
 あっさりとアッシュが言った。アッシュは関心なさげに、本を読んでいる。ギルド員は本を取り上げると、アッシュに詰め寄った。
 ‥‥今日は客が居るんです。
 ギルド員がアッシュに会わせたのは、見知らぬ男達であった。格好からすると、貧しくもなく裕福でもない村に住む、農民といった所か。アッシュは、軽く息をつくと、ギルド員を見上げた。
「‥‥どういうつもりですか?」
「あんたがアッシュさんか?」
「そうですが、どちら様でしょう」
 男は軽く一礼すると、部屋に上がり込んできた。やれやれ、と呟きアッシュが眉を寄せる。
「この森向こうの、ティアという村から来たモンですが‥‥ちょいと相談があるんだが、いいですかね」
「内容次第です」
 薄情者、というギルド員の言葉を聞き流し、アッシュは先を促した。
 ティア村から来た男達は、困惑したような顔で、それでも話をはじめた。
「ギルドの人から聞いたかもしれんが、わし等の村の子供が森に入ってしもうたんです。最近、森が騒がしいもんですから、様子を見に行きたいんですが」
「それは、ギルドに頼むのですね」
「あの子は、よく森に遊びに行くもんでなぁ‥‥いつも1日戻らなくとも、何とかいう妖精が着いていてくれるようだから、あんまり心配はしてなかったんだけども‥‥しかし、ここ最近森の精霊達が騒がしくて、わし等も森に入れん状態なんですわ。ギルドに頼みにいった方がええものかどうか、話を聞かせてもらおうと思ったんですが」
 ティアは、決して裕福な村ではない。ホイホイと金が出せる村ではない。本当に危険なのであれば金を出してでも娘を救出に向かってもらうが、そうでないなら自分達で何とかする方がいい。
「‥‥私は、森の事全てを把握しているわけではありませんよ? ‥‥しかし、森のアースソウルや精霊が騒がしいのは気になっていました。娘は何と言う名前ですか?」
「はぁ‥‥メイという名前です。シェリーとか呼んでいる酒を造る妖精と友達で‥‥何でも母親が話すには、ここ最近シェリーが姿を見せない、と心配していたとか」
「それでその妖精を探しに、あの森に入ってしまった‥‥うん? 酒を造ると言いましたか?」
 酒を造る妖精‥‥まさか、シェリーキャンだというのか? そうとなると、アッシュの目の色がかわった。
「そうですね‥‥確かに森の様子も気になりますし、私がその娘の捜索をギルドに頼んでもいいですよ」
 金を出してくれる、という優しい(?)青年に丁寧に礼を言うと、彼らは全てをアッシュに任せて村に戻っていった。
 しかし信じ切れない、ギルド員。
 あなたが何の報酬も無しに、5才の娘一人を救いに金を出すものですか。何をたくらんでいるんです。
「さぁ‥‥。そうですね、しいて言えば‥‥シェリーキャンの作るワインは、美味でしょうね‥‥と」
 つ、捕まえる気ですか! 籠に入れる気ですね! そうなんですね! 飼い殺しですか! 酷いっ!
「‥‥そこまでは言っていませんよ、酷い言いようですね。‥‥娘の事はさておき、何があって精霊達が騒いでいるのか、確かに気になります。森に人を寄せ付けず、なおかつ無理に入ろうとした者に傷を負わせたりもしている‥‥と聞きます。普段は温厚なはずの精霊達が‥‥」
 窓から見える森の方に視線を向け、アッシュは深くため息をついた。

●今回の参加者

 ea1679 丙 鞘継(18歳・♂・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea1695 マリトゥエル・オーベルジーヌ(26歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea1861 フォルテシモ・テスタロッサ(33歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2731 レジエル・グラープソン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3260 ウォルター・ヘイワード(29歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea4159 リーニャ・アトルシャン(27歳・♀・ファイター・人間・ロシア王国)
 ea4816 遊士 燠巫(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5506 シュヴァーン・ツァーン(25歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

 噂通り、アッシュは透けるような銀色の髪と白い肌をした、端正な顔立ちの青年だった。お久しぶり、と挨拶をするマリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)の横で、遊士燠巫(ea4816)はじっとアッシュの顔を見つめていた。
 マリは以前、二度アッシュの依頼を受けた事がある。一度目は苗を届ける依頼で、二度目はこの森に住むアースソウルの少女に関連した依頼だった。一方、燠巫は弟がアッシュに会ったことがあった。
 ぼうっとアッシュを見てる燠巫に気づき、マリが小声で燠巫に話しかけた。
「顔は綺麗だけと、性格はいびつな形をしてるから。よく覚えて置いた方がいいわよ」
「聞こえました」
 にっこりと笑ってアッシュが答える。マリもにこりと笑った。
「あら、そう? ‥‥で、今回はシェリーキャンを捕まえようって依頼だったかしら」
「本当に捕まえてくれるなら、この十倍は報酬を出すんですけどねえ」
 アッシュは本気なのかどうか分からない含み笑いで答えたが、絶対今のは本気だった、と思うマリだった。
「騒いでいる精霊っていうのは、この間の子と同じなの?」
「それも含まれますね。まあエレメンタラーフェアリー、そしてアースソウル。場合によっては火の精霊も出てくるとか聞きましたが」
「‥‥アースソウル‥‥今度のは食べられる?」
 じい、とマリを見上げてリーニャ・アトルシャン(ea4159)が聞いた。金に似た茶色の瞳が、どことなしにきらきらと輝いている。マリは子供をたしなめるように、めっ、とリーニャを睨んだ。
「食べられないわよ、リーニャ。アースソウルも、他の精霊さんも、シェリーも食べちゃ駄目。‥‥侵入者は、もしかすると食べられるかもしれないけど」
「マリ、そんな勝手な事を言ってもよいのか?」
 眉を寄せ、フォルテシモ・テスタロッサ(ea1861)が聞く。
「いいのよ、私も可能性を言っただけだもの」
 しれっと言い返したマリに、やれやれといった表情でフォルテシモはため息をついた。
 リーニャは可能性、という言葉は聞いて無いようだ。食べられるかもしれない‥‥と聞いて、嬉しそうな顔をしている。
「で‥‥何か、変わった事はなかったのか。精霊達が騒ぐような」
 燠巫が聞くと、アッシュは少し考え込んだ。
「さあ‥‥どうでしょう。私も、いつも森の様子を監視している訳ではありませんから。それを含めて調査をお願いした次第ですよ」
「分かった‥‥」
「‥‥私の顔に何かついてます?」
 アッシュが聞くと、マリがぐいと燠巫の腕を掴んだ。
「いつまでぼうっと見ているの、妻子持ち」
「分かってるって、そんなに言うな。‥‥でも‥‥本当に人間なのか、あんた」
「さあ‥‥どうでしょうね」
 どこか、人とかけ離れた顔立ちをしている。アッシュはふいと笑った。

 人の接近した気配に気づいたのは、彼が背後に立った後であった。ウォルター・ヘイワード(ea3260)がふいと振り返ると、何時の間に戻ってきたのか丙鞘継(ea1679)がウォルターの様子を伺っていた。少し向こうで森の様子を見ていたシュヴァーン・ツァーン(ea5506)とレジエル・グラープソン(ea2731)が、鞘継に気づいてウォルター達の元に引き返して来た。
「丙さん、何か分かりましたか?」
 レジエルが聞くと、鞘継がちらりとそちらを見た。
「そうだな‥‥確かに何者かが彷徨いていたのは分かった」
 鞘継が聞いて回った所によると、一週間以上前にノルマンの騎士が通りがかったという。旅をしていると言っていたが、この村には宿が無い。街道から外れている上に、旅人はそもそもこの村で立ち止まったりはしないから、たいてい教会で一晩泊めてもらうか、村の小さな酒場に頼んで泊まるしか無い。
 騎士達は酒場で朝まで騒いでいたというから、村人達も覚えていたという。
「騎士達は、たまたま酒場でシェリーキャンの存在を耳にして興味を覚えていたと言っていた」
「では、その騎士達がシェリーをさらった‥‥という訳ですか?」
「さあ‥‥それまでは分からない」
 鞘継は首を振った。彼の話を聞いたシュヴァーンは、首をかしげて手を顔に当てる。
「シェリーキャンは、精霊ではなくて妖精です。私もシェリーキャンについてはあまり詳しくありませんけど、精霊達と仲が悪い訳ではないと思います。アースソウルは森を守る存在ですから、そういったシェリーキャンを含めた存在に害を及ぼされれば、怒りを覚えるでしょうね」
「メイ殿はシェリーキャンと仲がいい‥‥。よく森に来ていたようだし、精霊達に警戒されずに森に侵入出来たかもしれない」
 鞘継が以前メイと会った時も、メイはシェリーキャンや森の生物たちととけ込んでいるように見えた。精霊達も、メイは警戒していないであろう。
「‥‥ウォルターさん、どうしますか?」
 レジエルがウォルターを振り返ると、ウォルターは森を見渡した。
「そうですね、少し話しを聞いてみましょうか」
 静かに集中し、ウォルターは森の木々に語りかけた。

 視界のあちこちで、じっとこちらを観察する影が確認出来る。燠巫は、木々の影や草むらに潜むエレメンタラーフェアリーの様子を伺いながら、森の中へと目をこらした。
 離れた所では鞘継とレジエル、リーニャが、燠巫達が精霊を引きつけてくれるのを待っている。
 と、鞘継を挟んで燠巫達が待機している反対側から何かの影が現れた。
 小さな影が、こちらを見ている‥‥と思ったら、悲鳴のような叫び声があがった。その声たるや、森に響き渡るかと思う程の大きさ。レジエルが耳を塞ぐと、鞘継がリーニャとレジエルに視線を向けた。
「行くぞ」
 鞘継が駆け出すと、レジエル、リーニャがあとに続いた。
 同時に燠巫が精霊の前に飛び出す。精霊達の目を、鞘継達からそらす為である。ウォルターは、精霊達を阻むようにプラントコントロールで蔦を操る。
 だがアースソウル達も黙っては居ない。一人が燠巫達に向けて、もう一人は鞘継達に向けてグラビティーキャノンを放った。黒い帯のようなものが、地を這うように伸びる。燠巫と、直線上に居たウォルターが巻き込まれ、うち燠巫が地面に転倒した。
 どうやら、鞘継達は巻き込まれずに行ったようだ。
「さて、もうしばらく引きつけておかないとな。‥‥なあアースソウルの嬢ちゃん。お兄ちゃんと鬼ごっこして遊ばない?」
 燠巫が笑顔を作って話しかけるが、アースソウル達は聞き耳を持たない。更にグラビティーキャノンを放ち、続けて木々を操り燠巫を叩いた。吹き飛ばされる燠巫を、フォルテシモが抱える。
「もうよい、元々精霊達と戦うつもりでは無いのじゃ」
「あたた‥‥。しかし、奴らが行くまで引きつけておかなきゃならないんじゃないのか」
 腰をさすりながら、燠巫が言う。フォルテシモは、剣を抜いてはいなかった。
 精霊達のグラビティーキャノンは、ウォルターが自分達を守るように操る木々を、そして木々の後ろにかくれる燠巫とフォルテシモ、そして駆け寄ったシュヴァーン達をも巻き込む。
 マリはアースソウルの様子を樹木ごしに見ながら、眉を寄せた。
「これじゃらちがあかないわ。何とか彼らを落ち着かせなきゃ‥‥」
「話しが出来れば良いがのう‥‥せめて、戦う意志が無い事を分かってもらうしか無い」
 フォルテシモに、マリは笑顔を返した。
「あたし、前にもこの森でアースソウルに会った事があるのよ。だから、分かってもらえるかもしれないわ」
「では、わたくしも手伝います。‥‥効果があるか分かりませんけど、チャームが使えますから」
「そうね。‥‥じゃ、シュヴァーン頼むわ」
 こくりとシュヴァーンは頷くと、竪琴を手に取った。
 柔らかい竪琴の音色が、森の中に流れはじめる。最初は地を削るアースソウル達の魔法の音が強く響き渡っていたが、アースソウル達の前にフォルテシモとマリが立ちはだかると一瞬その手が止まった。
 フォルテシモは、剣を背後の燠巫に放って渡すと、声をあげた。
「この通り、武器は持っておらぬ。わし等は森に危害を加える為に来たのではない、話しを聞きにきたのじゃ」
 精霊達は、木々の影に隠れたまま、こちらを睨んでいる。そのうちの一人が小石を放ると、フォルテシモの足下にぽてりと落ちた。
「この森に、メイという少女が来たはずじゃ。その子供を捜しておる。母御はとても心配しておるのじゃ」
「‥‥」
 精霊達の答えはない。マリはすう、と前に出た。
「この森に‥‥蛇が捨てられた事があったわよね。あたし、覚えているわ。蛇を退治しにきたもの」
 マリが語りかけると、ちょん、と小さな顔が覗いた。マリが見た事のある顔である。マリが笑顔を向けると、少女はじいっとマリを見つめた。

 背後から響いていた、精霊達の叫び声が聞こえなくなった。
 仲間が話し合いをしているのか、それとも何かあったのか‥‥。レジエルはちらりと背後を振り返る。すると鞘継が足を止めた。同じくリーニャも足を止めて鞘継を見上げる。
「‥‥鞘継‥‥森が静まった‥‥」
 リーニャに言われ、レジエルが見上げる。たしかに、あちこちで息を潜めていたエレメンタラーフェアリー達の恐々とした気配が、消えている。
「この間に、メイを探しましょう。‥‥鞘継さん、あなたは確かメイに会ったことがあるのでしたよね」
「‥‥鞘継‥‥メイの行く当て‥‥知らないのか」
 行く当て‥‥。鞘継は考え込んだ。鞘継が考えられる当てといえば、メイのお気に入りの泉か、それとも銀ちゃんの群れか‥‥。考えられるのはまず泉、そして銀ちゃんの群れだ。あの銀色の狼は普通の狼よりずっと賢く、群れで森を移動して回っているから、森の中にも精通しているだろう。
「まず泉に行く。‥‥シェリーが住んでいる泉がある。あそこはメイも気に入っている場所だ。それに、水場だから銀の群が居るかもしれない」
 銀‥‥食べられるか? とリーニャが問うより早く、彼女の口が開いたのに気づいて鞘継が答えた。
「銀は食べては駄目だ。‥‥この森の中では、保存食以外は口にするな」
 鞘継の答えに閉口したリーニャの様子に、レジエルがぷっ、と吹き出した。無言で歩き出す鞘継の後に、レジエルがリーニャの肩をぽんと叩いて歩き出す。一度歩いた森の中だ、鞘継はある程度場所を把握している。
 ほどなくして、レジエルも様子がかわった事に気づいた。
 獣の排泄物がある。狼か‥‥。
「気を付けてください、狼が居る気配があります」
「‥‥そうらしいな」
 歩き続ける鞘継の後ろを、リーニャが歩く。周囲に獣の気配がある事は、リーニャもレジエルも気づいていた。
「‥‥水の臭い‥‥獣の気配‥‥」
「囲まれています」
 それも、十頭近く居る。レジエルも自然と緊張してくる。ぴたり、と鞘継が足を止めた。彼の視線の先にいたもの‥‥それは、ひときわ大きく、銀色の毛並みをした狼だった。
「‥‥メイを探しに来た」
 鞘継が言うと、彼の目的を察していたのか、銀はくるりと尾を向けて奥へと向かっていった。ちらりと振り返り、鞘継が歩き出す。ととっ、とリーニャが小走りで続き、最後にレジエルも続いた。
 木々の間を抜けると、突如景色が開けた。美しい小さな泉の側に寝そべった白い狼の側で、小さな少女が寝息をたてている。少女ずいぶんと歩き続けたのか、靴も服も汚れてしまっていた。
 そうっと歩み寄り、リーニャがその体にマントを掛けてやる。すると少女がぱっちりと目をあけ、リーニャと目を合わせた。
「‥‥お姉ちゃん、誰?」
「‥‥メイ‥‥探しに来た」
 ちらり、とメイが今度は鞘継を見る。鞘継の事は覚えていたらしい。
「久しぶりだな」
 短く話した鞘継の話しを継ぎ、レジエルが笑いかけた。
「きみがメイ? ‥‥私たちは、君を捜しに来たんだ。一人で森に入って帰ってこないから、お母さんが心配していたよ」
 無言で俯いたメイの顔を、レジエルがのぞき込む。
「何があったのか、教えてくれないかな」
「‥‥シェリー‥‥居なくなっちゃった」
 ぽろり、とメイの目から涙がこぼれた。
「シェリー‥‥居なくなっちゃった。シェリーが大切にしてたお酒も、無くなってた‥‥シェリー、どうしちゃったのかな‥‥」
 レジエルが鞘継と視線をかわす。もしかすると、ウォルターや鞘継が聞いた騎士達と関係があるのかもしれない。すると、リーニャがパンを差し出しながらメイに言った。
「大丈夫‥‥友達‥‥見つけてくる。約束‥‥」
「本当?」
 メイが聞き返すと、リーニャはこくりと頷いた。

 精霊達にお菓子を食べさせようと、自分も食っている燠巫の頭をぽんと叩くと、マリが口を開いた。
「‥‥食べてる場合じゃないでしょ。‥‥だから話しを要約すると‥‥森に侵入者があるって事ね」
 その侵入者は、どうやらウォルター達が調べた騎士である可能性が高い。ウォルターは、アースソウル達にその話しをした。
「私達の仲間が、近くの村で聞いたのですが‥‥この近くを騎士が通りがかったらしいのです。木々に聞いた所、確かにここへ人間が三人ばかり入ったとの事でした。あなた達の怒っている原因は、もしかしてその人間なのですか?」
 こくり、と精霊達が頷く。
 人が来た。
 騎士かどうかは、精霊達には分からない。だがその騎士達は、森の中を歩き周り、木々を傷つけ、どこであろうとたき火をして食事の後かたづけもせずに森をちらかし放題。あげくの果てに、シェリーキャンを連れて行ってしまったという。
「では、シェリーは今もその侵入者に捕まっているかもしれないのですね」
 ウォルターが問うと、彼女たちはこくこくと必死で頷いた。
「‥‥その侵入者‥‥村で聞いたという騎士なのでしょうか。騎士にも色々居ますけど、森で酒盛りをするような方も居るんですね」
 シュヴァーンの一言に怒ったのは、誰より騎士であるフォルテシモである。いや、シュヴァーン自身に怒ったのではない。そんな騎士が居るという事に怒ったのである。
「何という事じゃ、騎士が皆そのような常識知らずだと思われとう無いぞ! 騎士とは弱者を守るもの。森や精霊達も騎士が守るべき存在じゃ。何より、シェリーキャンを捕まえて酒を奪うなど、もっての他じゃ」
「落ち着いてください、フォルテシモ様。むろん、その騎士は放っておけませんけど‥‥精霊達も神経質になっています、そんなに怒っては精霊がおびえます」
「‥‥」
 フォルテシモは腕組みをすると、きっ、と皆を見返した。
「捨ておけん、そんな輩は!」
「分かってるわ、森に居る騎士を捜してシェリーを連れ戻しましょう」
 マリは、静かな苦笑でフォルテシモに答えた。

(担当:立川司郎)