もう一人の狼〜新たなる狼
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■シリーズシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月12日〜07月17日
リプレイ公開日:2005年07月20日
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●オープニング
リアンコートを出発した馬車は、静かに‥‥目立たぬように街道を南下していく。
側に付いているのは、一見して普通の傭兵のように見えるが、その腰に下がって居るのは決して安い剣ではなかった。
馬はシャンティイの誇る訓練された軍用馬であり、積み荷も商用品などではなかった。
中に居るのは、訓練された兵士‥‥騎士である。
街道脇の木影で、のんびりと煙草をふかしながら、その様子を見ている男が居る。
着ているものはうす汚れており、髪も手入れがされておらず伸び放題。剣も高価な宝石がついている訳でも、細かで美しい装飾がついている訳でもなかった。
ただ一つ、剣につけられた狼の紋章を除いて。
馬車が通り過ぎたあとも、男はじっとそこで休んでいた。誰も、彼の事は気にもしない。やがて‥‥彼の目の前を、一台の馬車が通りがかった。
こちらは、普通の木の荷台を馬二頭で引かせているだけの、粗末なものである。
男は、ちらりと視線をあげる。
幌の隙間から、何かが覗く。
人‥‥。男の姿だ。それと、馬車の中に死臭が‥‥。
薄い赤毛で、着ているものは上等の白いシャツ。
男は、ゆっくりと立ち上がり、馬の手綱を取った。
ガスパー・クラークがシャンティイ城に戻ってきた時、すでに“祭り”は終わったあとであった。
つい先日まで近隣諸地のお偉いさんが集まって会議をしていたと聞き、ガスパーはとても残念そうな顔をした。会議は楽しみではないが、出される料理とご婦人方は楽しみだ。
「残念ながら、お茶会をする為に集めたのではありませんよ。ご婦人方はいらっしゃいません」
「そいつはもったいない。皆さま方、お城の中で退屈しておいででしょうに」
ガスパーがレイモンド卿にそう言うと、レイモンドはふ、と笑みをこぼした。
「ガスパー。よく戻ってきましたね」
「あんた方にゃ負けました。入れ替わり立ち替わり、兄さん姉さんがやってきて文句を言われちゃ、俺も困りますねえ」
そう言って、ガスパーは肩をすくめた。
「それに‥‥聞きましたよ、うちの“狼”が罠にかかっちまったって」
ガスパーの義弟‥‥フェール・クラークが目撃されたのは先日。クレルモンからシャンティイに、悪魔崇拝団体フゥの樹の一員である、ヒス・クリストファを護送する際に、輸送を請け負った冒険者達の前に姿を現したという。
「俺は東ルートの方を張ってました。‥‥ハルトマンを見ましたよ。俺の事は気づいて無いようですがねえ、シャンティィ近くに戻ってきているようだから、こっちの様子をうかがっているんでしょうよ」
「会議があり‥‥ヒスが輸送され、おそらくフゥの樹は近々カシェか使徒に関するものが輸送される、と踏んでいるのでしょう。シャンティイとパリギルドは情報収集の為に見張られている、と思った方がいいですね」
レイモンドは、小さく息をつくと、テーブルに肘をついた。ガスパーは、腰に手をやってレイモンドに話しを続けた。
「言っちゃあ何ですが、ハルトマンはあまり賢くない奴です」
ふい、とレイモンドは顔をあげた。ガスパーは、珍しく真剣な顔つきであった。
「やってくれるんですか?」
「‥‥まだ‥‥フェールは助かるかもしれない。その前に、何としてもハルトマンにだけは、やり返さなきゃ気が済まない」
「もう、怖くないんですか?」
「怖いですよう、ほら‥‥」
と、ガスパーは手のひらを出して見せた。手のひらは震えていたが、わざとやっているのか、それとも本気なのかわからない。
「だから、恐がりの狼の為に‥‥レイモンド様は傭兵を雇ってくれるんでしょ、ギルドで」
「そうですね‥‥クレイユ騎士隊の話を引き受けてくれるなら」
そう言うと、レイモンドは意地悪く笑った。
「クレイユから、重要物資の輸送を頼みたい レイモンド・カーティス子爵」
そう、パリのギルドに掲示された。
●リプレイ本文
湖畔にある、森深い城クレイユの門に立ち、仮面の青年が馬車を振り返った。月は上空に上がり、煌々と城を照らしつけていた。
「そろそろ、いいかな」
フレイハルト・ウィンダム(ea4668)は、振り返るとガスパー・クラークに声を掛けた。馬を操れる者はガスパーとフール、そしてウリエル・セグンド(ea1662)。ユーディクス・ディエクエス(ea4822)の四名だ。そのうち、ウリエルは御者の任から降りている。
「この間‥‥迷子になった。俺‥‥すぐ迷子になる」
ウリエルが、いつもの調子でそう言った。
「ま、このあたりの地理はあなたが一番詳しいんでしょうし、むしろその方がいいかと思いますわね」
馬車の中でシルヴァリア・シュトラウス(ea5512)が笑みを浮かべる。ガスパーはふ、と苦笑した。
「まあ、庭みたいなもんだから」
「じゃあ、御者はガスパーくんに任せるとしようか。ちょうど頃合いもいい、うまく引っかかってくれるといいが」
フールが答えると、馬車からシルヴァリアが顔を覗かせた。
「ルート、少し街道からはずれた方がいいんじゃなくて? 戦闘になったら、人を巻き込んでしまうかもしれないわよ」
「‥‥最初から‥‥違う道通って良いなら‥‥」
ぽつりとウリエルがつぶやくと、シルヴァリアが眉を寄せた。
「ダメよ、元の道に戻れなくなったらどうするの」
「いや、むしろ最初から違う道を通ろうとしていたら、迷って正規のルートを通るかもしれないよ」
「‥‥それだ!」
そうじゃなくて。フールの案に思わずそう声をあげたガスパーに、シルヴァリアが突っ込みを入れた。ガスパーの後ろに、シルヴァリアが腰に手をやって立つ。
「そういうあなたも、道を間違えたりしないんでしょうね?」
「俺は間違えないよ、目を瞑ってでも帰れるさ。じゃ、出発しますか」
ガスパーが突然馬車を出発させたものだから、シルヴァリアが体勢を崩した。よろめいてフールに受け止められたシルヴァリアは、ガスパーに何やら怒鳴りながら荷台に引っ込んでいった。
ひょい、とウリエルが顔を出す。
「シルヴァリアさんが‥‥裏門から出た方がいいって」
「ああ、裏門てのはクレイユには無いんだ」
クレイユは城と街が離れている。ロンドによる支配の時期に領主が街に移住し、それ以来街には南門と北門しか無かった。城の方は森の中にあるから、城壁も存在しない。
「念を入れたし、ハルトマンという男がガスパーくんの言う通りなら‥‥きちんと襲撃してくれると思うけどね」
フールは、荷台に座り込んで作業をしているシルヴァリアとマリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)、マリー・アマリリス(ea4526)の女性三名を見やる。
対して、心配そうなのはユーディクス・ディエクエス(ea4822)だった。ユーディは何か考え込むように黙っている。リーニャ・アトルシャン(ea4159)は、マリーの側の床に、毛布にくるまって眠っていた。毛布の隙間から、赤い髪の毛が見えている。
沈黙していたレイ・ファラン(ea5225)は、ちらりとユーディを見た。
「‥‥何が気になる」
ユーディはレイを見返した。幼げな顔立ちをゆがめ、ユーディは剣を抱え込んだ。
「その‥‥ガスパーさんは死臭がしたと言っていたけど‥‥何が乗っていたんだろうと思って。フェールさんが遅れを取るほどの相手‥‥普通のアンデッドじゃない気がして。俺、悪魔が出てきたら、銀のダガーしか持ってないよ」
「安心したまえ、ユーディくん。みんなそれらしい武器は持って無いから。まあ、連中の配下は神父にしろシシリーにしろ、命の危険が発生するのには違いないよ」
はは、とフールが乾いた笑い声をたてる。
誰も笑わなかったが。
ユーディ達が、とても勝てそうにない敵の襲撃を予想して沈黙している間、マリとシルヴァリアはハルトマンをおびき出す為の小道具の作成をしていた。
マリが持ってきた書物用の薄い木片と、シルヴァリアが用意したペンと絵の具。マリがまず木片をまとめて、シルヴァリアがそれを受け取って文字を書き入れはじめた。
シルヴァリアは精霊魔法に通じているだけあって、古代語も簡単な言葉なら読解出来る。
「マリ、何かいい単語ない? この間聞いてきたんじゃないの、レイモンド様から」
ふいとシルヴァリアが、木片を抱えたままマリに聞く。マリは少しの間考え込むと、シャンティイ会議の時にレイモンドが言っていたクーロン写本を思い出した。
「クーロン‥‥綴りはどうなの?」
ペンを持ったまま、シルヴァリアが聞いた。マリは彼女の手元を見ながら、考え込む。
クーロン‥‥couronne‥‥王冠?
「‥‥いえ‥‥クーロンではなくて王冠って書いてもらえる?」
「いいわ、カシェ写本、王冠って書けばいいのね」
「あ‥‥待って!」
クーロンが王冠だとすれば‥‥。カシェ、cachet。封印‥‥。
「いえ、いいわ。カシェ写本、王冠と書いて頂戴」
じっとマリは、シルヴァリアの書く文字を見つめていた。
カシェ“封印”、クーロン“王冠”、そしてフゥ“異常”。マリはすう、と目を細めた。
でも、何が“王冠”なのか。そして、フゥの樹“狂った樹”とは一体‥‥。
シルヴァリアが題名を書いた偽の写本は、きちんと布に包まれてマリーに手渡された。マリーはいつもより高価そうな服に身を包み、高位の司祭に見えるように身なりを整えていた。
マリーはちょっと不安そうに、マリーやシルヴァリアを見返す。
「‥‥どうでしょうか?」
「うん、いいんじゃない。わたくし程じゃないけれど、上品に見えますわよ」
つんとした顔でシルヴァリアは言うと、くすっと笑ってマリーの服の襟元や裾を正してやった。
深夜出発した馬車は、明け方‥‥動きを止めた。
眠気に耐えかねてうつらうつらとしていたマリーが目を覚ます。ぼんやりとしたまま目を開けると、ユーディとレイが馬車の外に立っていた。ゆっくりと、横に居たリーニャを揺する。
「‥‥ん。食う時間‥‥か?」
「まだ夜ですよ、リーニャさん」
ふいとリーニャは顔を上げる。
彼等は起きていたのだろうか。フールは、ユーディ達と何か話している。
「どうか‥‥したのか?」
「うん、車輪が外れただけだよ。すぐ直すから」
フールはリーニャに短くそう答えると、シルヴァリアと話し始めた。
マリーが小首をかしげる。
そう、これはフールが最初から仕組んでいた罠だった。シルヴァリア達と話し、わざと夜半に出発した。何か重要物資が積まれているように見せかけ、慌ただしくクレイユを出て、そして隙を見せる為に馬車を停止させる。
相手のペースで襲撃させない為に、こちらのペースで事を決行させるのである。
いつになく黙っているガスパーの所に歩み寄ると、ウリエルがじいっと見上げた。
「何だ?」
「この間‥‥フェールさんに会った」
ガスパーが驚いて、目を見開く。思わず、ウリエルの襟元を掴んでいた。
「どこで見た!」
「クレルモンから‥‥ヒスを護送する時‥‥。強かった‥‥けど‥‥苦しそうだった」
フゥの樹メンバーであるヒスを護送する際に、フェールが襲撃して来た。フェールはあっという間に六人を殲滅した。
しかし、その目に見えた狂気の影。
ガスパーは手を離すと、視線を落とした。
「そうか‥‥」
ウリエルは、ガスパーの手にそっと自分の手を重ねる。まだ、彼の手は振るえているだろうか。ぎゅっと握ると、ガスパーが顔を上げた。
「何だ、男に手ぇ握られたって嬉しかないねえ」
ガスパーが苦笑すると、ウリエルも笑った。
と‥‥。マリが視線を森の奥へと向けた。
「来たわよ!」
マリの声と同時に空が光った。炎が空から舞い降りる。外に居たレイが声を上げた。
「避けろ!」
レイとユーディ、そしてフールは馬車から飛び退く。しかし、中に居たマリーとマリ、そして荷台に居たガスパーは逃げる間も無かった。
とっさにガスパーがふり返ったが、荷台からでは二人に手は届かない。
炎が直撃し、煙を巻き上げて爆発を起こした。爆発で、フールとユーディの体が地面にたたき付けられる。馬車は幌が落ち、燃えていた。
よろりと体を起こし、ガスパーが声をあげる。
「‥‥くっ‥‥よ、予定通り‥‥行動を開始しろ」
「分かった。‥‥ウリエル!」
レイは声を掛けると、剣を抜いてウリエルとともに森の奥を見据えた。暗闇から軽馬車が一騎‥‥そして一人の男が飛び降りた。
「あいつがハルトマンだ」
低い声でガスパーが言うと、こくりとウリエルとレイが頷いた。にやりとハルトマンは笑み浮かべ、後ろに視線をやった。
軽馬車の奥から、何かが飛び出してきた。
その動きに、思わずウリエルの目が奪われた。
死臭のするモノ‥‥それは確かにズゥンビに見えた。だが、動きの鈍いズゥンビとは違う、その俊敏な動き。口から覗いた牙が、ウリエルとレイの肩に食い込んだ。
レイの肩から、血が噴き出す。ぐら、とレイの足下がふらつく。
「な‥‥っ‥‥」
とっさに剣を引き抜き、斬りつける。しかし、体を斬りつけられたというのにズゥンビの動きは鈍らない。いや‥‥。
「こいつ‥‥ズゥンビじゃないのか」
レイが呆然としたまま、剣を構えた。レイの剣を臆する事なく‥‥むしろ、剣を受けようと手をかざそうと、かまわず突進して来る。レイの剣が二度、三度と切ってもいっこうに倒れる気配がない。
だが、それはウリエルも同じだった。
ウリエルは傷を負うにつれて動きが鈍るのに、同じ速さの奴等は動きが全く鈍らない。
ついにウリエルの膝が地についた。
そうか、ユーディの言っていた死臭のするモノ‥‥フェールを倒したのは‥‥。
「体を起こさないで!」
甲高い‥‥シルヴァリアの声が聞こえた。ウリエルとレイは、地に倒れたままその声を聞く。
次の瞬間、頭上を吹雪が駆け抜けた。
炎に焼かれた肌を押さえ、シルヴァリアは死者を睨み付ける。
ガスパーに引きずり出されたマリは、リーニャとマリの無事を確認してふり返り、ハルトマンの位置を確認する。
ハルトマンは、更に炎を打ち込んでくる。ガスパーはマリーを突き飛ばすと、叫んだ。
「お前さんは下がってろ! マリ、リーニャ行け!」
こくり、とリーニャが頷く。リーニャのやや後ろを、マリが駆けた。
腰の、狼の紋章の付いた剣をゆっくりと抜くと、ガスパーは唇の端を引きつらせた。
「さて、ヒトじゃないなら思う存分出来るってもんだ。ユーディ、一体ずつ相手にするぞ。マリー、それからフレイハルトとシルヴァリア。その間に二人を後ろに引きずって回復させろ」
「はい!」
ガスパーはユーディの動きを見ながら死者に突っ込むと、体ごと剣を突きつけた。牙をむく死者を剣で牽制しつつ、更に一撃。
「‥‥その剣‥‥お前、何者だ」
ハルトマンが声をあげる。ちらりとガスパーが視線をあげた。
「悪いねえ、影の薄い男で」
「そう‥‥か。ガスパー・クラーク‥‥。何で‥‥くっ」
そのまで口にした時、真後ろに赤い髪の少女が立っていた。
腰にナイフが二本、刺さっていた。
「それ以上‥‥動く‥‥ダメだ」
ナイフを引き抜き、リーニャは首筋に押し当てた。
リーニャがハルトマンを縛り上げているのを、ガスパーは無表情で見下ろしていた。その横に、フールがすう、と立つ。
レイは剣を持ったまま周囲を油断無く見まわし、マリーはレイやウリエル達の手当をしていた。
「フェールに命令権利者、という指示では、ムーンアローは戻ってきた‥‥ハルトマンは、指揮権は無いのかな」
「命令権利の有無自体が曖昧だったら、そういう事もあるさ。そこから先は、本人に聞くとするか。‥‥なあ、ハルトマン」
ガスパーが、睨むと、ハルトマンは笑った。
「はっ‥‥俺から話が聞きたきゃ、拷問器具でも持って来るんだな」
「ハルトマン‥‥フェールさんに何をしたんだ」
ユーディが、ハルトマンの側に膝をついて聞いた。温厚なユーディだったが、ハルトマンを見る目は厳しい。答える気のなさそうなハルトマンに、フールが何かを差し出す。
フールが持っているのは、彼が乗っていた馬車から探し出したものであった。
「この程度の罠にかかるとはね‥‥これ、な〜んだ?」
「旨いもんだよ」
「‥‥本当か?」
リーニャが手を出そうとすると、意外にもマリーが手を引っぱたいた。
「リ、リーニャさんダメですっ! それは‥‥それは大麻です。悪魔の嗜好品です」
残念そうな顔をしているリーニャに、くすっと笑ってマリが言った。
「リーニャ、ハルトマンは罠にかかったそうよ」
罠‥‥肉を獲る‥‥ハルトマンは肉?
「ハルトマン‥‥喰っていいのか?」
「そうよ」
「マリさんっ!」
マリーが叫ぶと、マリは肩をすくめた。
さすがのハルトマンも、真剣な眼差しのリーニャに驚いている。ハルトマンの肩にがっちり手をかけた所で、リーニャは再び残念そうに手を止めた。
「お前はシシリーか!」
「じゃあ、シシリーに突き出される方がいいのか? ‥‥ハルトマン、フェールさんはどうなったんだ!」
ユーディが叫ぶと、ハルトマンはにやりと笑った。
まあ、俺達ゃ俺たちなりに色々手があるもんでね。大麻と悪魔憑依‥‥それから拷問とね、ちょいと巧く組み合わせたらここをぶっ壊すくらい、訳無いのさ。
と、ハルトマンは自分の胸を差していった。
ガスパーの拳が、ハルトマンに叩き付けられる。
彼の手は振るえていた。マリーは、静かにガスパーの後ろに立って彼の手を引いた。
「ガスパーさん‥‥」
「悪いね‥‥ハルトマン。そいつは、俺の弟なんだ」
濁った目で、ハルトマンがガスパーを見上げた。
パリに戻ったフールは、一通の手紙を受け取っていた。その手紙を、ガスパーへと投げる。ガスパーはそれを受け取ると、目を通した。
「ヒスの公開処刑に、フェールが来るそうだよ」
ガスパーは、ゆっくりと振り返る。
「すまんな、ここまで付き合わせて」
「仕事だ」
「そうね」
レイとシルヴァリアはさらりと言ったが、マリーはくすりと笑った。
「ふふ、ガスパーさん元気になって‥‥よかったです。また、お会いする事もあるかもしれませんね」
「何だかんだ言っても、ここで‥‥シャンティイで縁があったら、会うでしょうよ」
お腹に手をやっているリーニャを苦笑しつつ見下ろし、マリは髪をかきあげる。ウリエルは、ガスパーからフールの手紙を受け取って読んでいた。読み終わったウリエルが、フールと向かいあう。
「俺‥‥パリに戻って‥‥受ける」
「じゃ、パリについたら連絡くれないかな。俺も知り合いに連絡つけとくからさ」
ウリエルは頷くと、足早にその場を去る。
ガスパーは心配そうな顔をしているユーディの肩をぽんと叩くと、軽く手をあげ、のんびりとシャンティイ城へと歩いていった。
(担当:立川司郎)