メイと小さな銀色狼〜前編
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■シリーズシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 48 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月07日〜05月13日
リプレイ公開日:2005年05月15日
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●オープニング
メイは、パリから少し離れた山の中の村に住む、5歳の女の子だ。
背は、同年代の子から比べると少し小さいけど、優しく元気一杯で、好奇心も人一倍強い。そのおかげでいい事もあったし、怖い目もあってきた。
いい事の一つが、シェリーキャンという種の妖精、シェリーと出会った事だ。それからシェリーは、いつも森の中でシェリーと一緒に駆け回って遊んでいる。自分の感じた事を素直に表現出来るメイは、森の妖精達や生き物たちにも受け入れられ、最近では危険な目にあう事なく、一人で森を出入り出来るようになっていた。
そんな日の事である。
いつになく、森が静まっている事に、シェリーは気付いていた。
何かが侵入して来た時、何かが起こった時、森の精霊達は何らかの形で警告を鳴らしてきた。シェリーは、その警告を敏感に感じ取っていた。
「メイ、しばらくの間森の奥に来ちゃ駄目よ。何か変な感じだわ」
シェリーは、メイに言った。しかし、メイは“変”と言われると、なおさら気になって仕方ない。
森の中には、友達が沢山居る。
「シェリーや、精霊さんや、銀色狼の銀ちゃん達は? 何があったのか、調べてみなきゃ!」
「メイ‥‥あなた、この間森の中で怖い目にあったの、忘れたの?」
シェリーが強い口調を放った。
「でも、危険かどうかは調べないとわからないでしょ?」
「調べてからじゃ遅いと思うけど」
シェリーは何度も止めたが、結局メイはシェリーと二人、森の奥へと探索に出掛ける事になった。少しであればシェリーも魔法が使えるし、精霊達も近くに居る。シェリーは警戒しつつ、またメイは探検にでも行くような気持ちで森の奥へと向かっていった。
森の中には、メイの友達は沢山居る。シェリーが言葉を仲介して聞いてまわった所、幾つか原因と思われるものが判明した。
一つ目。人のような形をした銀色狼が姿を現したという。それは大人の女性より少し小柄な位の背丈で、狼が立って駆けているような容姿だったという。どこから来たのか分からないが、この辺りに住んでいたのでは無いだろう。
シェリーはメイに言って、その事を村人達に知らせる事にした。
「あんなの、この辺じゃ見た事ないわね」
シェリーが言うと、村長はシェリーに聞き返した。
「危険なものなのか? ‥‥この間の荒くれ騎士が居なくなったと思ったら、今度は獣か‥‥どうしたもんかのぅ」
原因二つ目‥‥。森の精霊達が警戒する理由の八割が、こっちの方だ。
「そいつを追いかけて、ホブゴブリンがウロウロしているようなの。三、四体だそうよ」
村人達は、ゴブリンと獣と‥‥ギルドに依頼するかどうか、相談を始めた。
銀色のヒト‥‥メイはどうしても見てみたいとシェリーにこっそり言ったが、シェリーは眉を寄せて大声をあげた。
「駄目っ。‥‥危ないのは駄目よ!」
「でも‥‥危なくないかもしれないじゃない。ちっちゃい銀ちゃん、助けてあげようよ」
「‥‥」
シェリーは困って口を閉ざした。
うるうると潤んだ目で見つめる、メイ。いつもこの手で負けてしまうのだ。
●リプレイ本文
「あら、あんたがシェリーね!」
シフールより小さな妖精、シェリーの姿を見つけると、長身の青年が嬉しそうに声を上げて駆け寄った。シェリーはびっくりして目を丸くしている。
「な、何よいきなり! あたし、あんたなんか知り合いじゃないわよ」
「なるほど‥‥これなのね、これ!」
首をかしげているシェリーを、ラファエル・クアルト(ea8898)はまじまじと見つめた。
「いえね、可愛い妖精が居るってうちの連中に聞いてたもんだから。で、こっちがメイちゃんね。よろしく」
ラファエルが手を差し出すと、メイは全く警戒せずにラファエルの手を取った。
「ちっちゃい銀ちゃん、助けてくれるの?」
「助けてやるけど‥‥メイは留守番だ」
メイより頭ひとつ大きい位の背丈の神聖騎士、デュクス・ディエクエス(ea4823)がメイに言葉少なめに言った。デュクスはじっとメイを見つめる。
「どうして? メイも行きたいよ!」
「森にはモンスターが居ますし、危険です。メイちゃん、ここで待っていてくれませんか?」
ウィステリア・フィンレー(eb0022)が言うと、源真結夏(ea7171)がメイの側に座って、真っ直ぐ見返した。
「モンスターはきっとやっつけてあげるから、それまで待っててくれないかしら? 大丈夫、必ず会わせてあげるから!」
にっこり笑って結夏が言うと、メイが不安そうな顔をした。
「本当に?」
「約束‥‥する」
デュクスがそっと頭を撫でてやると、メイは二人を見上げた。
いい子で待っていれば、きっとご褒美がありますよ。そうウィステリアが付け加えると、メイはこくりと頷いた。
「うん。じゃあ、メイ待ってる。見つけたら、絶対に教えてね!」
シェリーはメイの上をぐるりと回ると、結夏とデュクスの前を抜けてラファエルの肩にちょこん、と座った。
「じゃ、行くわよ!」
「はいはい、それじゃあ行きますかお嬢さん」
ラファエルはくすりと笑って歩き出した。
結夏とデュクスがそれに続き‥‥まだ少女ともいえる年齢のクレリック、マリー・ミション(ea9142)はその様子をじっと観察していたが、ウィステリアが歩き出すと少し後ろを続いて歩きだした。
シェリーは、ラファエルの耳を引っ張って“ハーフエルフって初めて見たわ”とはしゃいでいる。しかし、嫌っている様子は全く無い。
マリーは髪の毛とローブの奥の瞳を、そちらに向けた。
「ねえ、シェリー。あなた、ハーフエルフの事を何とも思わないの?」
ちらりとウィステリアが、そう聞いたマリーを見る。ウィステリアにも、マリーの言いたい気持ちはわかる。だから、黙ってウィステリアもシェリーの方を見た。
「何とも? 何を?」
「その‥‥他の人のように」
「ヒトの事はよくわかんないけど、ハーフエルフがどうかしたの?」
シェリーがラファエルを見上げると、ラファエルはふ、と薄く笑った。
「ハーフエルフは人間に嫌われているのよ。ロシア以外はね」
「ふうん‥‥あたし達や精霊にはよく分かんない都合があるのね、ヒトの世界って」
ハーフエルフが嫌悪されているのは、ヒトの世界だけ‥‥。マリーはそっと視線を落とした。
一人、ゆっくりと後ろを歩いている男が居る。体力が無い訳ではないのだが、あまり動きが機敏では無いようだ。一人ででもさっさと歩いてしまう元気な結夏は、先頭を歩きながら時折後ろの仲間を確認していた。
「大丈夫、セデュース? あんまり無理しない方がいいわよ」
「ええ、ご心配なく」
セデュース・セディメント(ea3727)は笑顔で答えた。
途中の泉までは、メイでも一人で行ける。迷いはしないし、歩きにくい道でもない。結夏は、ラファエルの肩に座っているシェリーの方を振り返った。
「ねえ、道はこっちであっている?」
「合ってるわ。モンスターが居るのは、その奥だと思うわ。連中は騒がしいから、すぐに居場所が分かるだろうけどね。でも、早くしないと小さい銀ちゃんが危険だわ」
‥‥メイが心配しているし、とシェリーが付け加える。
「あの‥‥聞いていいかしら?」
セデュースを除くと、この中で一番年輩のクレリック、サトリィン・オーナス(ea7814)がシェリーに聞いた。
先ほどから小さい小さいと言っているが、それはどうしてだろうか。サトリィンがそう言うと、シェリーがくすくすと笑った。
「だって、大きい銀ちゃんが居るんだもん」
「大きい銀ちゃん?」
「そう。この辺りにね、狼の群が居るのよ。その中で一番偉くて頭がいいのが、銀色狼の銀ちゃんなの。まぁ、メイが銀ちゃんって呼んでるだけなんだけどね。だから、小さい銀ちゃん、なの」
「銀色狼ですか。それは珍しいですね」
いつの間にか鞄から本を取りだし、セデュースがぱらぱらとそれをめくっていった。
「銀毛種、と呼ばれる銀色の体毛をした狼が希に居る、とは聞きますが‥‥こんな所に居るとは驚きました」
「銀毛種‥‥?」
珍しく、興味をひかれたような様子でデュクスがセデュースに聞き返す。
「はい。銀毛種はいずれも知能が高く、群れのリーダーである事が多いようです。その人狼も銀毛種なのかもしれませんね」
「銀毛種の人狼‥‥」
「見てみたいねえ!」
デュクスと結夏が同時に声を上げた。
ホブゴブリンが現れた場所は、泉よりやや森の奥に進んだ場所であった。それより更に奥へ行くと道はほとんど消え、獣道のような細い道筋しか残されていない。
シェリーは道を進みながら案内していく。シェリーの言う方へと、結夏が先頭になって歩いて進んだ。
話をしながら歩いているのだから、多少耳がよければ遠くからでもその気配は察する事が出来る。ふいにラファエルが顔をあげた。
「‥‥来たかしら」
ラファエルの声に、結夏が腰の日本刀に手をやる。それに応ずるように、ウィステリアは後ろに数歩下がった。ちらりと振り向き、結夏が声をかける。
「奴らは手強いから、後ろに下がってなさい。フォロー、頼むわよ」
「お願いします‥‥わたくしは‥‥」
ウィステリアは、ぎゅっと拳を握りしめて森の中に目を凝らした。結夏、そしてデュクスが駆け出す。相手は四体、結夏とデュクス、そしてラファエル、フローティア・クラウディオス(eb2221)で丁度一体ずつの計算だ。
奴等の一撃が手強い事はシェリーからも聞いて分かっている為、ラファエルはまず相手の動きを待った。だが思ったより動きが早く、ゴブリンの斧がラファエルの肩をざっくりと斬り割いた。
「くっ‥‥避けるのは難しいわね‥‥」
傷を庇って斧を振るが、ラファエルの手に力が入らない。すかさず、後方からサトリィンが術で束縛しようとするが、動きが止まる様子は無い。
が、一歩二歩歩くとホブゴブリンの動きが鈍った。ラファエルはその隙に傷を庇い、後退した。どうやら、セデュースの幻影の術が効果を与えているようだ。
サトリィンにより回復を受けると、ラファエルは斧を構えなおした。フローティアも苦戦しているようだが、結夏は自分に術を掛けると、鮮やかに剣を振るい薙ぎ倒す。
「デュクス‥‥」
結夏が最年少のデュクスの方を振り返ると、丁度デュクスの持っていた巨大なクレイモアがたたき付けられた所であった。あの大きさのクレイモアを受ければ、もう戦う事は出来まい。
「‥‥結夏姉さま‥‥何か‥‥言った?」
「ああ‥‥いいのよ。フローティア、加勢するよ」
「あら、私には加勢してくれないわけ?」
息をきらせながらラファエルが聞くと、結夏はかまわずフローティアとホブゴブリンの間に割って入った。フローティアは、ダガー一本でゴブリンと戦っている。
マリーがホーリーで加勢しては居るが、それでも足りない。いくら攻撃を受ける事が出来ても、これでは致命傷を与える事はなかなか出来なかった。
「助けが必要だったかしら?」
眉を寄せ、ラファエルは斧をホブゴブリンにたたき付けた。間髪入れず、サトリィンに声をかける。今度はサトリィンの術が効果を発揮し、ホブゴブリンは動かなくなった。
重そうに盾を構えたまま、フローティアがあたりを見まわす。
「‥‥もう‥‥居ないでしょうか」
「そうね‥‥フローティア、ちょっといいかしら」
結夏が、彼女の手にあるシルバーナイフを取る。ラファエルも、それをじっと見ていたが、声をかけた。
「フローティア、ナイフじゃ与えられるダメージに限界があるわ。それじゃあ、いつまでたっても倒せない相手が居るの」
「あなたは腕力が無いから、余計にそう。今のホブゴブリン‥‥全く効いていないのに気づいていた?」
結夏に言われ、フローティアはナイフと‥‥結夏が倒してくれたホブゴブリンを見下ろした。
「気絶させる事でも出来れば、と思っていたんですけど‥‥」
だが、人間ならばともかくモンスターのどこを突けば気絶させる事が出来るのか、モンスターに対する知識の無いフローティアでは分からなかった。
「すみません、お力になれずに‥‥」
「重ければ‥‥いいという訳でもない」
一番重い武器を持っているデュクスがさらりとそう言うと、森の奥へと視線を向けた。
「銀わん‥‥探す」
「そうね」
ラファエルは答えると、シェリーを伴ってサトリィンとともに森の奥へと様子を見に向かった。
気配を察しているのか、小さな人影はうずくまったままこちらを睨んでいた。距離を保ったまま、サトリィンが仲間をそっと呼び寄せる。
人が歩く気配に小さな影は肩を振るわせたが、逃げる様子は無い。
「ヘタに近づくと、攻撃される恐れがあるわ」
マリーが、サトリィンの指す方向をじっと観察する。怪我をしているのか、肩に手をやっていた。マリーはそっとサトリィンを見上げる。
「でも‥‥怪我をしているわ。ホブゴブリンに傷つけられて、怖がっているだけじゃないかしら」
「もしあの銀色狼が危険な存在だったら、メイちゃんを連れて来るのは危険だわ。もっときちんと調べておかなくていいのかしら」
サトリィンは首をかしげる。しかし、ふと気づくと‥‥そうっとデュクスが武器を置き、銀色狼の方へとすたすたと歩き出していた。それも、警戒しているのかしていないのか、そもそも敵だと思っているのかどうか怪しい。
‥‥いや、思って居なさそうだが。
「ちょっとデュクス、あたしも行くわよ!」
結夏も慌てて武器を仕舞い、デュクスの後に続いて歩き出す。マリー、そしてフローティアにウィステリアが向かう。
ぽつん、と残されたラファエルはサトリィンと視線をかわした。
「‥‥メイちゃんを連れて来た方がよくないかしら」
「そのようね」
サトリィンは苦笑を浮かべた。
銀色の毛並みをして、人の形を取ったモノ。低いうなり声をあげている銀色狼の肩から、血が流れて毛並みを伝っていた。静かにフローティアが側にかがみ込む。
「もしかして‥‥迷子ですか?」
銀色狼は答える様子が無い。そうっ、とデュクスは銀色狼の傷へと手をやると、手をそこに押し当てた。銀色狼の爪がデュクスの手を引っ掻き、鋭い爪痕が参本、デュクスの手についた。
「銀わん‥‥怪我してる」
「うう‥‥触る‥‥なっ」
「あ‥‥喋った」
フローティアが声をあげた。
銀色の髪が、さらさらと風になびいている。人狼の正体は、デュクスとさほど年がかわらない少年だった。
珍しそうに、メイがじっと人狼を見つめている。メイの側には、警戒するようにサトリィンが立っていた。
「銀ちゃん‥‥怪我したの? 痛い?」
メイが手を差し出す。銀色狼ははね退けようとしたが、相手はまだ小さな子供だ。寸でその手を止めた。メイの手が、先ほどマリーから治癒を受けた傷に触れる。
メイの手は、優しく傷あとを撫でた。メイと並んで、デュクスが銀ちゃんの顔をまじまじと見ている。メイはちらりとデュクスを見上げた。
「ねえ、何で喋ってくれないの? 銀ちゃん、メイの事嫌いなのかなぁ」
「‥‥銀わん‥‥きっと、まだびっくりしている‥‥」
「そっか、銀ちゃん怖かったの?」
小首をかしげ、メイが銀ちゃんを見つめた。
どこから来たのか、どういう名前なのか、全く話そうとしない。このままでは“銀ちゃん”という名前になってしまいそうな勢いだ。
「あの子‥‥どこから来たんでしょうか。そもそも一人で‥‥」
ウィステリアが、銀ちゃんの方を見つつ言った。セデュースが腰に手をやり、ちょっと困ったような笑い顔を作って口を開いた。
「周囲に仲間がいる気配はありませんし、そもそもこの近辺に住んでいた訳ではなさそうですね。かといって、何故こんな所でホブゴブリンに追われていたのか‥‥聞いても、答えてくれそうにありませんねえ‥‥」
「ご家族‥‥心配していないでしょうか」
「そうですね‥‥フローティアさん。あのような人の姿をしている種族なのですから、人に紛れて生活している事も考えられます。父や母を探すのは困難かもしれませんね」
「じゃあ‥‥村に滞在出来るようにしてあげられないでしょうか」
フローティアが皆に聞いた。考え込み、ウィステリアがため息を漏らす。
「どうでしょうか‥‥人狼という種族というものすら知らないかもしれない村の人が、受け入れてくれるとは思えませんが‥‥」
メイはまだ子供だから警戒心が無い上、いつも森の中で妖精や精霊と接している。人狼も“ちょっとかわった子”位にしか認識していないかもしれない。だが、これを村人や両親が知ったらどう考えるだろうか。
無邪気な顔で、メイは銀ちゃんに話しかけていた。
(担当:立川司郎)