メイと小さな銀色狼〜後編

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月22日〜05月28日

リプレイ公開日:2005年05月27日

●オープニング

 小さな銀ちゃんこと銀色人狼が、メイとシェリーの秘密の場所“泉”にかくまわれて三日。小さな銀ちゃんは、相変わらず口数少なく、シェリーやメイとも積極的に話をしようとはしない。
 ただ、銀ちゃんも生物なので食べなければ生きてはいけない。自分で獣を捕まえてきたり、木の実を取ったりして飢えをしのいでいるようだった。また、メイに邪気が無い事がわかり、メイが持ってくるパンやシェリーの作ったワインは口にするようになった。
「いつまでも小さい銀ちゃん、って呼ぶ訳にいかないわよね。それに‥‥」
 シェリーは、少し離れた所でパンを食べている銀ちゃんをそっと振り返る。メイは、一人で銀ちゃんに色々と話しかけていた。
 シェリーに名前の事を言われ、メイは銀ちゃんの名前を一晩中考えていたらしい。本当の名前があるなら、その名前で呼んであげた方がいいのだろうが、本人が何も喋らないのだから本名で呼んでやる事も出来ない。
 いや、シェリーが気にしているのはそんな事ではなかった。
 シェリーは元々妖精だから、決して頭が良いわけではないし、複雑な思考能力も持ってはいない。だが、その分警戒心は強い。
 どこから来たのか分からない、しかもこの辺りで見た事のない種“人狼”。シェリーも精霊達も、銀ちゃんに警戒心を抱いている。シェリー達がそうなのだから、人間達はなおさらそうだろう。
 シェリーはメイに銀ちゃんの事は話さないように、と言ったが、五才のメイが親に隠し事などできるのは、せいぜいご飯を食べている間くらいだ。お母さんにだけ教えてあげる、とメイがこっそり言った話は、あっという間に村中に伝わった。
 メイは精霊や妖精に好かれているようだから、大丈夫じゃないか?
 いや‥‥シェリーや精霊達も、ゴブリンや人狼など追い返せまいて。もし襲いかかってきたらどうする。
 出ていってもらうのが一番なんだが‥‥シェリー、頼むよ。

 と、結局こういう話になった。

 人狼が居るなら、メイは森に行かせない。人狼が居なくなったら、メイは森に行ってもいい。父と母、そして村長さんに隣のおばさん。みんなして、メイを説得した。
「いーーーやーーーーだーーーー!!」
 メイは大声で怒鳴って泣いて、床を転げ回って、疲れ果てて夜には眠ってしまった。
 そんな村と森の様子を、銀色狼は気づいていたのかもしれない。三日目の夜、シェリーが泣き疲れて眠ったメイを見守った後村から帰ってくると、居なくなっていた。
 ‥‥メイ、また泣くかしら。
 シェリーは、眉を寄せた。
 ところが翌日。銀色狼は、シェリーの所に姿を現した。急いで走って来たのか、息が少し荒い。険しい表情で、銀色狼はシェリーの元に駆け寄った。
「ど、どうしたのよ。戻って来たの?」
 来ない方がややこしい事にならずに済んだのに‥‥と言いたげに、シェリーが聞く。
「‥‥奴等‥‥また来る」
「奴等? ‥‥ホブゴブリン?」
 今度は全部で六体。どうやら仲間を殺された仇討ちに、村を襲う算段をしているらしい。
「大変、知らせにいかなきゃ!」
「俺の方が速い」
 人狼は、狼のような体躯へと変化した。
「駄目よ、村の人はあんたの事警戒してるのよ。逆に攻撃されたらどうするのよ」
「でも‥‥奴等を倒した“ヒト”、遠くから来ているんだろう。速く行かなきゃ、間に合わない」
「‥‥仕方ないわね‥‥あたしも行くわ」
 シェリーは、銀色狼の首にぎゅっとしがみついた。
 ホブゴブリンが襲撃して来るという話に、村人達は騒然とした。いや、ホブゴブリンの話もそうだが、ヒトの姿と狼の姿を持ち合わせた‥‥人狼というものを初めて見た村人達は、遠巻きに見ているだけで、とても詳しく話を聞こうという勇気のある者など居なかった。
 山の中の小さな村では、見た事も聞いた事もない種。
 狼が“狼が来たぞ”と言っているようなものでして‥‥。村人はすぐに手放しに、よく教えてくれた、と喜んで出迎えてくれるものではない。
 村の雰囲気を見て、銀色狼は立ち止まった。見えないけれど、そこに壁がある。銀色狼はシェリーを見返し‥‥。
「銀ちゃーん!」
 ふ、と銀色狼が視線を戻すと、村人達の手をすり抜けて小さな人影が飛び出した。メイは嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、銀色狼に飛びついた。
「銀ちゃん、メイのおうちはこっちだよ。一緒におひるごはん、食べよう」
 母親が驚いて、人垣を抜けてメイの所に駆け寄った。でも、メイは銀色狼を掴んで放さない。
「メイ、離しなさい!」
「いやーーーだーー!」
「ちょっとメイ、それどころじゃないのよ」
 シェリーがメイに、ホブゴブリンが近づいている事を話す。銀色狼に驚いていた母親や村人達も、ようやくシェリーの話に耳を傾けはじめた。
「‥‥ホブゴブリン?」
 すぐに、パリへと使者が飛んだ。

●今回の参加者

 ea3727 セデュース・セディメント(47歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea4823 デュクス・ディエクエス(22歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7171 源真 結夏(34歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea7814 サトリィン・オーナス(43歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 ea8898 ラファエル・クアルト(30歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9142 マリー・ミション(22歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0022 ウィステリア・フィンレー(26歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2221 フローティア・クラウディオス(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

 馬で一足先にメイの村へと向かった3人、デュクス・ディエクエス(ea4823)と源真結夏(ea7171)、フローティア・クラウディオス(eb2221)を追って馬車が走る。
 馬車はまっすぐに、パリを北上していく。
 外を覗いて、風に目を細めると、マリー・ミション(ea9142)はつぶやくように話した。
「‥‥またホブゴブリンが来たの?」
 ホブゴブリンが6体。話には、そう聞いている。
「ホブゴブリン‥‥ゴブリンよりやや体格のいい上位種。戦闘に適したゴブリン、て感じね」
 ラファエル・クアルト(ea8898)がマリーに答えた。これらのオーガ種の多くは、群れて行動している。
「モンスターに追われているなんて、銀ちゃんって何者なの?」
 そもそもホブゴブリンに追われて、銀ちゃんは森にやって来たのである。傷を負った銀ちゃんを自分たちが助けたが、倒したホブゴブリンの仕返しにまたホブゴブリンがやって来た。
「これで終わりにしなきゃ、いつまでたっても同じ事の繰り返しだわ」
 マリーはため息をついた。のんびりとした様子で聞いていたセデュース・セディメント(ea3727)が、静かに口を開く。
「これで十体ですから、これ以上たくさん来るような事は無いでしょう。それより気になるのは、あの小銀の傷ですよ」
「傷? 傷って、マリーが手当していた傷のこと?」
 ふ、とラファエルが体を起こしてセデュースを見返した。
「そうです。聞いた所によると、人狼は通常の武器では傷つかないと聞きます。デビルやゴーストのように、銀や魔法の武器でなければならないと。‥‥だとすれば、あの子を傷つけたのは何者なんでしょう」
 魔法の武器‥‥。ほっそりとした手で馬車の枠を掴み、揺れから体を守る。ウィステリア・フィンレー(eb0022)は、隣で話しを聞いていたサトリィン・オーナス(ea7814)と視線を交わした。
「なるほど‥‥確かにホブゴブリンは魔法の武器も銀の武器も持っていませんものね」
「何に傷つけられたのか分かりませんが、ホブゴブリンを連れてきたのがあの子でないとすれば、その誤解は早く解いてあげなければなりません。ただでさえ村の人には警戒されているようですから」
 サトリィンの言葉に、ウィステリアが黙る。しばしの沈黙の後、ラファエルがそうね、と短く答えた。

 馬車がシャンティイに到着した頃、先行していた三名が村に到着していた。
 馬を下りるなり、結夏が声をあげる。
「みんな聞いて! すぐにここで一番大きな建物に、みんなで避難して」
 結夏の声を聞いて、家の中に避難していた村人達が顔を覗かせる。結夏は村を走りながら、村人を集めていく。
「ゴブリン達が来た時にバラバラに居たら、守りきれないわ。早く避難して」
 声を聞きつけて出てきた村人の中には、メイの手をしっかりと握った母親の姿もある。結夏は中腰でメイに顔を近づけると、笑顔を向けた。
「メイちゃん、少しの間‥‥みんなと待っててくれる?」
「うん。‥‥メイ、みんなと居るよ」
「‥‥それで、あんた達はどうするんだね」
 村長らしき男が結夏に聞く。
 結夏達は、それぞれ警戒しつつ村の近くで待機。残りのメンバーは、馬車で来ている事などを伝えた。
 そういえば‥‥。フローティアは、ふと視線を巡らせた。
「‥‥あの‥‥銀狼さんはどこに行ってしまったのでしょう?」
 シェリーは、きょろきょろと周囲を見回す。
「そういえば居ないわね」
「銀わん‥‥森に居るのかもしれない。‥‥シェリー、頼みがある」
 デュクスはシェリーに、森の精霊達がホブゴブリンを見張っていてくれるように頼んだ。シェリーや精霊達、そして‥‥本物(?)の銀色狼の銀ちゃんの群れにも。
「分かったわ、それ位なら任せなさい」
「俺も‥‥行ってくる」
 シェリーに付いて、デュクスも森へと向かった。

 ホブゴブリンの気配は、まだこの周辺には無い。もしかすると、銀ちゃんが引きつけてくれているのかもしれない。この調子だと、皆の到着に間に合うだろう。
 デュクスは森の中でシェリー達の報告を待っていたが、数人の気配を感じて振り返った。
 相変わらずゆっくりとした動きで、セデュースがやって来る。
 フローティアは、時々振り返りながらセデュースに合わせて歩いていた。
「みなさん、到着しました。デュクスさん、銀狼さんは居ましたか?」
「‥‥銀わん‥‥居ない。たぶん‥‥ホブゴブリン、引きつけてる」
 銀狼の気配は感じられないが、ホブゴブリン達は確実に近づいている。
 精霊達がざわめいていた。
「村の人達にも協力してもらってはどうでしょう。有志の勇士の勇姿というのは中々見れないものですよ」
「‥‥」
「‥‥?」
 黙っているデュクス、そしてフローティアは首をかしげた。
 デュクスがかわって、答える。
「村の人をかり出す‥‥というのは反対だ」
「そういう意味でしたら、確かに‥‥出来ればそうしたくありませんね」
 フローティアもようやく意味を解し、うなずいた。
「あんまり‥‥村の人に‥‥頼みたくない」
 騎士であるデュクスやフローティアは、守るべき立場にある村人をかり出すのは、あまり好ましくない。だからといって、自分たちだけで戦って敗北すれば意味は無いのであるが。
 それが分かっているから、自分達で出来るのであれば村人に出て欲しくは無い。
「わかりました。そうですね、では精霊達もあんまり無理はしない方でよろしいでしょう。小銀が戻って来るまで、我らは対決の準備を整えるとしましょうか」
 セデュースは大きくうなずいた。

 どこかから‥‥何かが近づいて来る。
 ラファエルが顔を上げると、森の奥へと青い瞳を向ける。その光が、ある銀色のものをとらえた。
 森から飛び出した銀色の影はヒトの姿に戻りつつ、駆け寄る。
「銀狼さん」
 フローティアが、笑顔を浮かべる。サトリィンもほっとしたように表情を和らげ、歩を進めた。荒く息をつく銀狼の肩にそっと手をやると、声をやけてやった。
「よかった‥‥無事だったのね。あんまりメイやみんなを心配させちゃダメよ」
 銀ちゃんは黙ってサトリィンを見上げる。それから、シェリーの方に体を向けた。
「連中が来る。‥‥もうしばらくだ」
「銀わん‥‥俺達と一緒に居る」
 デュクスが言うと、銀狼は考え込むように口を閉ざした。サトリィンは、銀狼の様子を見ながら、静かに語りかける。
「ねえ‥‥メイはあなたを信じているわ。だから、もしあなたが少しでも手助けしたい、という気持ちがあるのなら‥‥誤解を解く為にも、きちんとすべてを話して欲しいのよ」
「銀わん、一緒にホブゴブリン倒す。‥‥そうしたら、村の人‥‥安心」
 デュクスに言われ、銀狼は視線をすい、と斜め下に向けた。
「‥‥分かった」
 小さな声で言った。

 六体のホブゴブリン達は、森の木々を押しどけ、草を踏み荒らしながら村に接近して来た。迫り来るホブゴブリンを林間に捕らえると、デュクスが後ろに控える仲間に手を挙げる。
 接近するホブゴブリンを見据えたまま、セデュースが詠唱を開始する。それが止むと、後方に居た一体が急に動きを止めた。と、その前を歩いていたホブゴブリンも足を止める。
 だが、前にいた三体は動きを止めず、こちらに向かってきた。
 剣を抜いたゴブリンが迫った時、結夏は素早く剣を抜いて飛びかかった。結夏の一撃がホブゴブリンの体にたたきつけられる。返す刀を上段から斬り降ろすと、あっという間にホブゴブリンの動きを止めた。
 すい、と視線が次の対象に移る。
「‥‥さあ、行くわよ」
 周囲に視線を走らせる。
 フローティアが一体、ラファエルが一体。そして後方に居たホブゴブリン二体に、デュクスと銀狼が斬りかかった。
 剣に持ち替えたデュクスはホブゴブリンが振り下ろした斧に腕を切り裂かれながらも、剣を両手で握りしめると斬り返す。
 斜めに切りおろされた剣が、ホブゴブリンの皮鎧に食らいつく。そのままぐい、と突いて引き抜いた。
 フローティアは‥‥。結夏が振り返ると、フローティアはホブゴブリンよりも早く動くと、攻撃させる間も与えずに刀で突いた。ふわりと風に髪が揺れ、さらに刀を横薙ぎに振った。
 悲鳴をあげつつやたらめったに振り回す斧を軽いステップでよけた所に、後方から白い光がホブゴブリンを包んだ。ちら、と視線を後ろに向けると、マリーが再び詠唱している所であった。
 今のうちに‥‥。
 フローティアは刀を構え、ホブゴブリンにさらに斬りつけた。
 あっという間に二体をしとめた結夏は、斧で切られた傷を手で押さえながらサトリィンの方に向かい、デュクスは銀狼を庇って二体目を倒すと、銀狼の傷も(実際は斬られても傷一つついて無いのだが)気にしていた。
 フローティアはようやくホブゴブリンを倒した事が分かると、刀を握ったまま瞬きをした。
「‥‥終わりましたか」
「お疲れさま。自分と同じ技術の相手と戦うのって、結構たいへんなのよね」
 ラファエルに言われ、フローティアは自分の体を見回した。どうやら、傷は負ってないようである。致命傷を与える事は出来なかったが、その分自分が傷を負う事もなかった。
 フローティアは笑顔でうなずいた。

 メイとシェリーの秘密の場所‥‥と呼ばれる、小さな泉。
 シェリーは、ふわふわとあちこち飛び回りながら、隠していた酒をマリーに頼んで運ばせた。
 シェリーキャンの作ったお酒!
 マリーは、今にも自分で飲み干してしまいそうな程嬉々とした表情で小さな酒樽を運ぶと、皆の前に置いた。
「さあ、いただきましょう。せっかくだものね」
 マリーは、さっさと酒にありついて口をつけると、ふぅ、と息を吐いた。
「‥‥これなのね、シェリーキャンの酒って。風味があって、おいしいわ」
 苦笑まじりに、ウィステリアはマリーを見ている。それから、フローティアと視線を合わせると笑い出した。
「そんなにお酒が飲みたかったんですか?」
「当たり前じゃない。だってシェリーキャンの酒なんて、めったに飲めないのよ」
 マリーはウィステリアに答えると、セデュースを見た。セデュースは、酒を見ても手を伸ばそうとしない。す、と何も言わずにグラスを進めてみたが、セデュースはぶるぶると首を横に振った。
「いえいえ、とんでも無い。わたくしは酒は結構ですよ」
 むしろ、好きでは無い方でして。セデュースが言うと、マリーは残念そうに眉を寄せた。
「お酒が嫌いなの? せっかくのチャンスなのに」
「それより、もっと楽しみにしているものがありますから」
 セデュースは、デュクスやサトリィンと話をしている銀ちゃんを振り返った。
「そういえば、ラファエルはどこに行ったの?」
 姿の見えないラファエルと結夏の事に気づき、マリーが聞いた。
「お二人なら、村の人の所に行きましたよ。何でも、銀狼さんの事を話に行くんだそうですよ」
 フローティアに言われ、マリーはふうん、と答えてグラスに口をつけた。
 ウィステリアは心配そうな表情をしている。確かに‥‥。フローティアとセデュースが銀狼の所に向かったのを見計らうと、ウィステリアが小さな声で話しかけた。
「‥‥大丈夫でしょうか、ラファエルさん」
「さあね‥‥でもあの人、いつでも自分がハーフだって隠して無いじゃない。平気なんじゃないかしら」
「そう‥‥でしょうか。ロシアの方なのでしょうか」
「さあ‥‥でも、ややこしい事にならなきゃいいけど」
 マリーの言葉を聞いて、ウィステリアは黙った。
 あの銀色狼に対する態度‥‥それは、そのまま自分達への態度にも当てはまる。
 銀色狼さんが一生懸命である事が分かってもらえれば、村の人も態度を和らげて貰えるんじゃないでしょうか。
 そう言ったウィステリアに、マリーは答えなかった。

 日が暮れかけた森を、結夏とラファエルは歩いていた。
 結夏は、自分の事を気に掛けてくれているようだ。しかし、ラファエルは平然としている。それが分かっているから、あえて結夏もそれを言わないようである。
 村の人が、ハーフエルフである自分を避けるのは分かっていたから。
 いくらいい人達だとしても、ハーフエルフに対する負の感情を持っていない者は、ほとんど居ないだろう。
 どんなに仲のいい者同士でも、違う種に本能的な愛情を感じる事は、ヒトの世界ではほとんど無いから。
「別にいいのよ、分かってたもの」
 ラファエルは振り返ると、結夏に言った。結夏は、うん‥‥と答えて、ラファエルに並ぶ。
「私、言われるの分かってたわ。でもあの子は、自分に白い目が向けられるのを承知で危険を知らせに来た‥‥それだけは評価してあげられないかしら。そう思ったの」
 それは、自分にも当てはまるから。
 あの銀狼に向けられる視線、それは自分が常に感じているものだから。
「銀ちゃんがつれて来たんじゃない‥‥っていくら説明しても、それを納得しようとしなかったね。頭じゃ分かってても、心で納得出来ないのかもしれない」
 そうかもしれない。ラファエルは、うっすらと笑った。

 銀色人狼の銀ちゃん‥‥。
 サトリィンは、顔をのぞき込んだ。銀ちゃんは、黙っている。立ち上がって去ろうとする銀ちゃんの腕を、サトリィンが掴んだ。
「ちょっと待って」
 サトリィンが掴んだ腕を、銀ちゃんがじっと見下ろす。
「‥‥何に追われているのかわからない。でも、あんまり心配させないで。あの子はあなたの事を大切に思っているから」
「銀わん‥‥何も教えてくれない。‥‥名前言わないと不便」
 デュクスが言うと、銀ちゃんは俯いた。静かにフローティアとセデュースが近づき、銀ちゃんとサトリィンの顔を見比べる。
 サトリィンは、腕を放さない。小さくため息をつくと、銀ちゃんが口を開いた。
「‥‥なぜだ」
「友達‥‥銀わん」
 デュクスが言うと、サトリィンが笑った。
「そうね、友達。メイも友達よ。私たち、仲間で‥‥友達よ」
「知らない者同士だ‥‥俺は人狼だ」
 銀ちゃんが答えると、セデュースが突然声をあげた。
「とある村の危機を救った、銀色の髪の‥‥謎の少年の物語‥‥第一章」
「‥‥」
 銀ちゃんがセデュースを見返すと、彼は語り出した。
 今まであった事を、物語仕立てにした。
「どうですか? なかなか良い話でしょう」
「でも人狼だ」
「ヒトはその姿形ではなく、その行為により価値が決まるというものです。‥‥理想ですがね」
 セデュースはふふん、と笑って言った。
 そうっとサトリィンが腕を話す。銀ちゃんは、皆を見回した。向こうで酒を飲んでいたマリー、そしてウィステリアと目が合った。
「‥‥あんたは今日から、あたしの部下よ。だから、メイの送り迎えは任せたわ。分かったら返事は? 名前は?」
 シェリーが命令口調で言うと、銀ちゃんはしばらくの沈黙の後、答えた。
 ヴェント‥‥と。

(担当:立川司郎)