京三郎の面・1〜影なる面
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■シリーズシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 40 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月26日〜08月01日
リプレイ公開日:2005年08月04日
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●オープニング
東条京三郎−十数年前にノルマンに渡り、それから各地で舞踊興行をしていたジャパン人である。
しかし五年ほど前、賊に襲われて死亡。彼が持っていた面や楽器、衣類に渡るまで奪われ、彼の遺体は薄着一つで放り出されていたという。以来、彼の持ち物には彼の呪いがかかっていると言われ、闇市で高値で取引されてきた。
現在、彼の持ち物の幾つかはシャンティイ領主レイモンドの城内に保管されている。
シャンティイのはずれにある森に一人で住むアッシュは、レイモンドの古い友人であった。彼の頼みで京三郎の遺品を集めてきたアッシュの手には、今までの報告書の写しがある。
写しを持ってきたギルド員は、じっとそれを読むアッシュの手元をのぞき込むと、口を開いた。
「それで‥‥やっぱり京三郎について調べるんですか」
「もちろんですよ。‥‥この騎士、何か知っているに違いありませんから」
アッシュは、前回の報告書を広げて答えた。
シャンティイの東にある街に住む、元リアンコートの騎士、クリス・マジェスト。元々彼は領主の命令でジャパンなどを遊歴し、その時に京三郎と知り合ったと思われる。
そしてもう一人、化生面に取り憑いていた男。京三郎と時を同じくして殺害された、若き資産家である。京三郎と取引をしようとしていたが、死亡。
「この資産家‥‥どうやら、リアンコートに住んでいたようですよ。もしかすると、聞き込みをしたら何か分かるかもしれませんね‥‥あれから五年ですし、まだ彼の関係者が生きているでしょう。それと‥‥クリスに対する聞き込み‥‥あとは、彼の過去についての調査ですね。特に五年前の事を」
「どうするんですか、そんな事を調べて」
ギルド員がアッシュをじっと見返す。ふ、とアッシュは笑って報告書をテーブルに投げ出した。
「‥‥気になりませんか? 何故呪われている、などという噂が一人歩きしてしまったのか。化生面を除いて、噂が広まる程には、今までの物品は実害がありませんでした。だったら、他にも何か‥‥呪いが掛かっていると言われる理由を持ったアイテムがあるんじゃないでしょうかねえ」
「依頼を受けてくれた人もみんな疑問に思っていたようですけど‥‥それって、レイモンド様がお集めになっているんですか? 何の為に?」
「ジャパンの面や舞踊の衣服というものは、あまり出回っているものではありません。レイモンドが集めているのは、単に彼の興味ですよ。‥‥私の思惑はともかくとしてね」
と、アッシュは薄く笑みを浮かべた。
沈黙するギルド員に、アッシュがぽつりと言う。
「‥‥そもそも、呪われたものをレイモンドに渡せると思いますか? ‥‥呪われたモノは、私が頂くんですよ」
やっぱり‥‥。
呪い? そうですか、私を呪おうという根性のある物品があるなら、それは見せて欲しいですねえ。
それでは、頼みましたよ。
アッシュはギルド員に言うと、依頼金を渡した。
●リプレイ本文
■京三郎の面・1〜影なる面
アッシュの手元に渡った、京三郎の化生面‥‥。
資産家の霊が憑いていたその面は、今はもう何の姿も無く静寂が戻っていた。
アッシュから改めてその面を見せられ、セルミィ・オーウェル(ea7866)は暖かいアリアン・アセト(ea4919)の肩からぴょんとテーブルに降り立った。
人の面はセルミィには大きすぎる。
しかも、化生面‥‥狐の面は、ちょっと怖い顔をしていた。
「‥‥アッシュ様、まだあの人の霊は居るんですか?」
「いえ、最近見ませんね。おそらく、昇天したのでしょう」
霊から話を聞こうと思っていたアセトはその話を聞いて、少し残念そうに頬へ手をやった。
「そうですか‥‥面の事を調べるには、この方の素性をお聞きする事が不可欠だと思っていたのですが」
「アッシュ様は、何か分かった事はありませんか?」
じい、とセルミィがアッシュを見上げると、彼は椅子を立って棚に向かった。正体の分からぬ瓶や壺に混じって、一枚羊皮紙を取り出す。
「クラフという名前であるとは分かりました。家の場所までは分かりませんが、5年前の資産家であれば、少し聞き込みをすれば分かるでしょう。殺害された場所は、実は私にも分かっていません。墓の場所も分からないのですから」
まあ、噂しか私も聞いておりませんし、とアッシュが微笑した。
背筋を正したまま、アセトがアッシュに話す。
「その件ですが、サラさんが教会でお話を伺っております。カルゼさん達はリアンコートに向かっています。‥‥後は燠巫さんが闇市で聞き込みをすると言っていましたが‥‥巧くお話が聞けるのでしょうか」
ちょっとその辺りが心配だが‥‥アセトは心配そうに目を伏せた。
「アセト様、私たちも皆さんと合流しましょう」
セルミィに言われ、こくりとアセトは頷いた。
闇市‥‥表立って存在しないから闇市な訳で。
さて闇市で聞き込みをしようとしたのはいいが、闇市というものに接触が出来なかった遊士燠巫(ea4816)は、忍びとしての勘を頼りに酒場などで話を聞いて回った。
京三郎の事を調べている、ジャパンの忍者が居る‥‥思いもよらず、燠巫は京三郎の関係者だと思われたようだ。
「あんた、京三郎の事を追ってきたのか」
燠巫がふり返ると、カウンターで酒を飲んでいた男がグラスを手にこちらを見ていた。
「‥‥何か知ってるのか?」
「さて‥‥」
燠巫は男の横の椅子を引くと、酒を頼んだ。男がグラスを空け、主に差し出す。燠巫は舌打ちすると、主に男の分も注文した。
「タダじゃないんだ、その分答えてもらおうか。京三郎の持ち物が呪われているってのは、誰が言い出したんだ」
「最初からさ‥‥京三郎が死んだ頃から、そんな話が流れてたな」
「事件の前に、それらしいものが入手出来る‥‥とか言ってた奴が居ないか」
「それって、京三郎を殺した奴が知りたいってのか?」
よどんだ目で、男が燠巫を見る。
「殺した奴までは知らないねえ」
「役に立たない奴だな」
ため息をついて燠巫が酒をあおる。
‥‥いや。燠巫は、鋭い視線を男に向けた。
「ちょっと待て‥‥お前、俺の事を追ってきたと言ったな。京三郎を追っていた男が居るのか?」
「ありゃ」
戯けたように男が笑うと、グラスをテーブルに置いた。
「よく気づいたな。‥‥何年か前にさ、京三郎が死ぬ前に‥‥ジャパンの男が探してた。柄の悪ぃ男さ」
「お前が言える立場じゃない」
肩を軽く突くと、燠巫は主に酒を注文し、男の前に差し出した。
アセトから、面に憑いた霊が居ないと聞いて、カルゼ・アルジス(ea3856)は残念そうに声をあげた。面に興味があったカルゼは、もちろんジャパンの狐面というものにも興味があったが、幽霊とのお話もちょっぴり興味があったから。
「俺も見たかったなぁ‥‥アッシュさんに頼んだら、また見せてもらえるの?」
「喜んでみせてくれると思いますよ〜、依頼が終わったら参りましょう」
セルミィに言われ、カルゼは少し機嫌を直した。
「それじゃ、早く調査を終わらせないとね」
「全く、調子がいいんだから」
カルゼの肩に座っていた黄牙虎(ea4658)は、腕を組んでため息をついた。
「それで‥‥カルゼとの調査じゃ、うまく思ったような情報がつかめなかったんだけど、その事業家の霊のコレクションの行方を調べてみたの。でも‥‥その人って、いろんなアイテムを集めていたんじゃないの?」
「ええと‥‥整理しますね。確か、その面に憑いていた人は、京三郎さんのパトロンになろうとしていたって聞きました。京三郎さんは元々、ノルマンを旅して回っている舞師だったんだそうですよ」
セルミィが牙虎に答えた。
何だか自分の所為にされて、カルゼが眉を寄せる。
「僕のせいじゃないよ、美術品の事ばかり聞き回って、牙虎だって怪しまれてたじゃないか」
「その事業家さんのコレクションを調べていたら京三郎って人の持ち物と、呪いについて分かるかとおもったんだけど‥‥それじゃあ京三郎の持ち物っていうのは、誰が所有しているの?」
「レイモンド卿だよ」
牙虎がふり返ると、女性が羊皮紙をテーブルに投げた。
仮面を被り、この瞬間からフレイハルト・ウィンダム(ea4668)に戻る。
「妹の振りをするのも肩が凝るね‥‥」
フールはアッシュに、今まで判明している京三郎の持ち物の目録を作ってもらうと同時に、リアンコートの騎士達と接触していた。
もちろん、フール自身は彼らに正面から会うツテは無い。しかし、妹はレイモンド卿のつながりで何度か面会していたから、面識がある。仮面を外せば、妹と見分けがつかない‥‥という訳だ。
「あんた、オレノウと何か調べてたけど‥‥今回は京三郎って人の調査じゃなかった?」
ちらりと牙虎が下から見上げながら、鋭い視線をフールに向ける。
フールは肩をすくめた。オレノウ・タオキケー(ea4251)にフールが頼みごとをしたのは間違いない。
「いや、少し気になる所があったものだからね‥‥どうやら杞憂に終わったようだが」
ちらりとフールは、テーブルを見下ろした。アセトが、フールの持ってきた羊皮紙を開く。これはアッシュが作った目録だ。
「今まで判明しているもののほとんどは、レイモンド様がお持ちなのですね」
「ああ‥‥京三郎の持ち物を集めているのは卿だからね。アッシュは頼まれているだけ‥‥らしいよ。全部が全部卿の手元にあるのでも無いようだけど」
残るは、教会に行ったサラフィル・ローズィット(ea3776)とオレノウ‥‥。
その頃サラは、リアンコートの教会を訪れていた。
丁寧に挨拶をすると、サラは教会の司祭に話しを切り出した。
「突然このようなお願いをして申し訳ありません‥‥。実は、京三郎という方について調査を致しておりますものですから」
サラが彼の名前を出すと、教会の司祭が頷いた。
「呪われている‥‥という噂の主ですね」
「はい。実は彼の持ち物をシャンティイのレイモンド様がお探しでして、その関係で彼の事を調査しております。彼の死因について不明な点がありますが‥‥何かご存じでは無いでしょうか」
たとえば墓の場所とか、とサラが聞くと、司祭が目を寄せた。
「そうですな‥‥少し調べさせて頂ければ、分かるかもしれません」
墓の場所は、じきに判明した。
シャンティイの東にある、センリスという街の外れにある教会墓地に安置されているようだった。
「何せ、彼の持ち物の噂はあちこちで耳にするものですからねえ」
司祭が苦笑まじりに答えた。サラはゆっくりとうなずき返す。
「けれど、呪われているというのは本当なのでしょうか‥‥噂では盗賊に殺されたとか。何か、その辺りの根拠とかご存じではありませんか?」
「さて‥‥わたくしも噂程度にしか。その教会の者が遺体を埋葬したそうですから、お聞きになったらよろしいでしょう。ただ、教会に最近不審な者が彷徨いているそうです。何か関係があるやもしれません」
不審者‥‥。サラはすう、と顔色を曇らせて考え込んだ。
雑踏の中で一人歌声を流し続ける男の前に、フールが立った。ふ、と男が顔を上げる。
「‥‥フゥの樹との関連が見あたらなかったのは、喜ばしい事だろうか‥‥美しい人」
「そんな冗談を言うのは、他の誰かにしてくれないか」
フールはオレノウの言葉をさらりと聞きながして、仮面に手をやった。
「どうやら京三郎は生前、誰かに追われていたようだな。燠巫が言っていた。‥‥それに、最近墓の近辺を誰かが彷徨いているらしい」
「京三郎の死がフゥの樹と関係しなかったとしても‥‥アッシュの言っていた呪われた持ち物とやらは、気になるな」
それが存在するかどうかは分からないが、アッシュは呪われたものが実際に存在するのではないかと考えているようだった。オレノウは、フールを見上げて言葉を続ける。
「京三郎がノルマンに来た理由‥‥前領主との接点はこちらでは見あたらなかったが」
「それは私の方でも見つからなかった。ただ京三郎がノルマンに来る事にしたその切っ掛けはクリスという男にあるようだね」
後は、本人に聞くしかあるまい。
フールが言うと、オレノウも立ち上がった。
何故か?
この男がそうまで人を拒むのには、理由があるはずだ。
騎士はため息をつきながらも、フール達を家に入れた。
落ち着いた物腰で、アセトが口を開いた。
「以前にもここに、セルミィさん達がお邪魔したと聞きました。あなたが面をお持ちだったとか‥‥そして、その面にクラフという事業家の男性が憑いていたと‥‥お聞きになりましたか?」
「京三郎と会いたがっていた男だな。‥‥私は関係無い」
「そうだろうか‥‥京三郎がノルマンに来たのは、貴殿が呼んだからではないのか?」
オレノウが聞くと、クリスは見返した。
「元々京三郎と貴殿は知り合いだった‥‥どのような経緯で知り合ったかは分からんが、かなり古くから知り合いだったそうじゃないか」
クリスはため息をつくと、首を振った。
「もう私は京三郎の持ち物を持って居ない。‥‥それでいいではないか」
「クラフさんは、良くない事が起こるのではないかと心配していました。彼の無念を晴らす為にも、何が起こったのか明らかにする必要があると思いますけれど」
静かにアセトが言った。
黙っているクリスに、フールがこつ‥‥と靴音をさせて歩きながら低い声で話し始めた。
「あなた、京三郎が死ぬ直前‥‥騎士達に京三郎の事を話したそうだね。京三郎が、盗品の面を持っていた事を」
フールの話を聞いて、クリスは顔色を変えた。
それでも黙っている‥‥と。フールが目を閉じて苦笑する。すると、カルゼが口を開いた。
「京三郎さんが死ぬ前のクリスさん‥‥この辺りじゃ悪く言う人は居なかったよ。何か京三郎さんとあったんじゃないの?」
「‥‥今でも、京三郎の墓の周辺にアヤシイ奴等が彷徨いているらしい。‥‥あんた、心当たりがあるんじゃないのか」
燠巫の言葉を聞いて、クリスが視線を上げた。
もう十数年前の話だ。
そう‥‥京三郎がノルマンに来るよりもずっと前だ。
ジャパンで、一人の少年に会った。京三郎という名前の、旅芸人だった。
「ふとした事で意見があってな‥‥。舞の修行が辛い、国に帰りたいと言っていた。彼は旅の一座に売られてきたらしい。金で買われた身だ、楽な扱いをされるはずがない」
京三郎は辛い身のうちをクリスに明かした。それは、クリスが他国の人間で、父ほどに年が離れていたから話せたのかもしれない。
クレスはそれを察し、京三郎を“芸の修行に励むよう”諭した。
「それから暫く経って、京三郎が独り立ちをしてな‥‥訳あってジャパンを出て他国に来たいと言っていたから、ノルマンに来ないかと誘った。‥‥しばらくは、それで彼もうちを訪ねてくれていた」
そんなある日だった。
京三郎の周辺を調べ回る男が居る事に、気づいた。クリスがそれについて聞くと、京三郎は自分が盗品の面を持っている事を明かした。
「私は騎士だ。‥‥盗品を持っているのを黙って居る事が出来なかった」
それをクリスは、友である騎士に話した。
それから暫く経って、京三郎は盗賊に襲われて‥‥命を亡くした。
「その盗品が、もう一つの化生面だ」
「もう一つの化生面? ‥‥それって、アッシュさんちのじゃなくて、きつねの面がもう一つあるって事?」
カルゼが聞くと、クリスが頷いた。
化生面がどうなったのか‥‥クリスにも分からない。セルミィが、手を握って目を潤ませた。
「クリス様は、ずっとお一人でご自分を責めておいでだったのですね」
「まあでも、この人が話したせいで京三郎が死んだかもしれないんだし‥‥」
ぽつりと牙虎が言うと、セルミスが猛然と牙虎に言い返した。
「そうかもしれませんけど、クリス様はもう十分反省しておいでですよ」
「気を遣わなくてもいい。‥‥確かに私のせいだ」
クリスは小さな声で言った。
アセトはそっとクリスに肩に手をやった。
あなたの懺悔は、きっと神が聞いてくださっていますよ。
アセトはそう言うと、仲間をふり返った。
京三郎の周囲を調べていた不審者‥‥。彼を襲った者。
クラフを襲った者。
そして、化生面の行方は‥‥。
(担当:立川司郎)