京三郎の面3〜化生面の男
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■シリーズシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月28日〜10月03日
リプレイ公開日:2005年10月08日
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●オープニング
センリス周辺で、人から人に伝わる噂。
獣の面を着けたハーフエルフの男が、人を襲っているという。男は街道を通りかかる商人や裕福そうな馬車をみると襲いかかり、動いている者は皆殺しにしていく。
故に、何の目的で‥‥何故そのような行為を繰り返すのか、誰にも分からない。
髪の色は薄く輝く白銀。常に白い獣の面を着け、ほっそりとした体つきだ。人は、クレルモンに現れた殺人鬼、ランズ・シシリーではないかと噂しているが、そもそもシシリーは現在アンジェコートに身を隠しているはずであり、シシリーはハーフエルフではない。
この殺人鬼のせいで、街でのハーフエルフの評判は悪化する一方だった。
どうやらアッシュが不在のようなので、京三郎を知る元騎士、クリスがかわりに冒険者達を待っていた。
「この間捕らえた盗賊から聞き出した話によれば、その男は元々彼らの仲間であったらしいな。彼は、もう一つの化生面を探しているのではないかと言っていた」
そう、すなわち‥‥クリスが所持していた、化生面だ。
既に化生面は、アッシュから預かってクリスが持っている。
「しかし、何故この面を探しているのか‥‥こちらにも、さっぱり分からない」
長い間クリスはこの面を持っていたが、曰く付きであるとか呪われたという話は聞いた事がない。‥‥憑いていた霊を除けば、だが。
この面はクリスが元から持っていたものだが、死霊が憑いていた。この面のせいで死亡したと言うこの死霊は、面がクリスの元に戻るように事件を起こしていた。
かたや、男の所持している面は、京三郎がずっと死ぬまで持っていた面だ。以前クリスは、その面は京三郎が盗んだものだと聞いている。また、盗賊達は仲間の一人からその面が呪われた盗品だという話を聞き、奪おうとして京三郎を殺害した。
「その面がどういう縁があって京三郎の手に渡ったのから分からぬが、私は彼に対して責任がある。アッシュ殿にかわって、頼みたい。あの面は取り返してくれ。‥‥面は、ひとまずアッシュ殿にお預けする」
その面‥‥かならず何時の日か、盗まれた者の手に戻そうと思う。
クリスはそう言うと、そっと目を伏せた。
雲の深い晩‥‥面を着けた男は、街道に、シャンティィとセンリス間の街道に出没するという。
商人や、裕福そうな馬車を狙い、襲いかかる。
その目は既に‥‥人としての理性は、失っていた。
●リプレイ本文
街道で馬車を襲っているハーフエルフが居る。そんな噂が立った為か、フレイハルト・ウィンダム(ea4668)が馬車を探すと、すんなりと見つかった。ギルドで来ている事を話すと、彼らは荷物や書簡を届けるついでに馬車を貸してくれると言ってくれたのである。
人を沢山雇って輸送するより、ギルドの依頼で来ている彼らに、ついでで頼む方が安くつくという訳だ。
馬車の馬は、藍星花(ea4071)やレオンスート・ヴィルジナ(ea2206)の馬が居る。星花とリョーカ、フールが馬車の準備をしている間、オレノウ・タオキケー(ea4251)はくだんの殺人鬼についての情報を集めていた。
「殺人鬼についての情報がどこから流れて来たのか、気になって調べて来ました。いえ、皆殺しにされるという割に、ハーフエルフであるなど情報が細かいものですから」
今のところ判明しているのは、相手がハーフエルフである事。面を着けている事、そして武器として剣を持っている事‥‥。
しかし、必ずしも全員、一人残らず殺されている訳ではない。
中には、男に見つからないように隠れ、生き延びた者も居た。
「相手はやはり、化生面を探しているようですね。しかし、人の話を聞かないのか‥‥持ってないと言っても、知らないと言っても結局逆切れして皆殺しにしていくのだとか」
「み、皆殺しですか? えっと‥‥それって、面のせいなんでしょうか、それとも狂化のせい‥‥?」
セルミィ・オーウェル(ea7866)が眉を寄せて、ぎゅっとアセトの肩を掴んだ。ふ、とアセトは笑みを浮かべ、そっと手をセルミィに差し出す。
「まずはデディクトアンデットで、その盗賊を確認してみてはいかがでしょう? レジストデビルや‥‥メンタルリカバーなども併用して、確認しましょう」
悪魔の仕業か、何かが憑依しているのか、それとも‥‥噂通り、呪いなのか。
アリアン・アセト(ea4919)は、呪いであればリムーブカースが必要になると考えているが、この中の誰もリムーブカースを使える術者が居ない。むろん、アセトも修得していなかった。
「‥‥やはり、その面に何かある、と考えるべきか」
フールは何か考えつつ、ちらりと視線を面へと落とした。この面はクリスが持っていたものであり、クリスの許可を得てフールが持ってきていた。
ひらりとセルミィは飛び回り、その面を見下ろした。
「やっぱり、面が揃うと何かあるんでしょうか?」
「さて、それは手に入れてから確認してみるとしよう」
と、にっこり笑ってフールがオレノウを見返した。
‥‥何か悪寒がする。オレノウは、引きつった笑みでフールから視線を逸らす。
フールはまず、元々クリスが持っていた面を取り出すと、サラフィル・ローズィット(ea3776)の方に差し出した。
「サラ、この面に大麻のような薬物が使われていないか、確認して頂けないかな」
「ええ、わたくしに分かる範囲でよろしければ‥‥」
サラは面を受け取ると、面の素材や臭いなどを確認した。術などで確認するわけではない為、サラも正確な所は分かりかねる。しかし、大麻の独特な臭いはしないようだった。
「では、いざとなったら、サラやアセトさんに頼るとしようか」
「‥‥ええ、まあ面を被るというのも一つの手だとは思いますが」
とアセトが言った所で、フールは既に面を自分の顔に当てていた。あ、オレノウやセルミィ達が驚いたような表情を浮かべる。
思いますが、の後に、レジストデビルを付与した後で、とアセトは付け加えるはずだったのだが‥‥。
リョーカは、腕を組んでため息をついた。
「あんたって、後先考えない人ねえ‥‥」
「‥‥これといって、変わったところは無いですね」
面を外し、フールが首をかしげる。この面には、特別な力は無いのだろうか。
あとは、盗賊の持っているという面‥‥。
本当にそれは、呪いのアイテムなのだろうか。
乾いた音をたてて、馬車が進む。
「異常は無い?」
荷台から、星花が顔を覗かせる。結局馬車の御者台に座ったのは、リョーカだった。
理由は簡単だ、リョーカしか馬に乗れないからである。セルミィは御者台の後ろの影に隠れてうとうとと眠りに誘われており、アセトやサラ、オレノウ、フールといった後方支援組は荷台の中で待機している。
星花は荷台の後ろに腰を下ろし、周囲を見まわした。
後ろは、遊士燠巫(ea4816)が見張っているはずだ。日が落ち、あたりは暗くなってきている。ランプに火を入れ、星花は荷台に吊した。
「‥‥前で戦うのは俺とあんたしか居ないわ、準備はいい? 俺、手加減なんて出来ないかもしれないけど」
リョーカがちらりと星花を見ると、星花はくすっと笑った。
「もちろん‥‥私も手加減なんて出来ないと思うわ。燠巫に期待するとしましょうか?」
「面を取り上げて‥‥それで済めばいいけれど。どの道‥‥」
どの道、死人も出ている事件だもの、面だけのせいだなんて思いたくは無いわよね。
リョーカはそう言うと、視線を前に向けた。
後ろでうとうとしていたセルミィが、突然がくんと馬車が揺れ動き、ぴくんと顔を上げた。上の方で、声が聞こえる。
「ごめんなさい、セルミィ。どこかぶつけたかしら?」
「ええ‥‥星花様、何ともないです。‥‥ところで何かありましたか?」
ひょい、とセルミィが羽を羽ばたかせて飛び上がった。
いつの間にか、月が出ていた。視界の端で、リョーカの抜いた刀が光を反射する。
「ええ、大ありね」
リョーカが呟くと、荷台から飛び降りた。星花は腰の刀を抜きながら、後ろに声を掛ける。彼が油断なく視線を向ける先には、影が落ちていた。
「あんたね、面を探しているハーフエルフってのは」
「‥‥面を‥‥狐面を持っているか」
掠れた声で、男が聞いた。顔を覗かせたセルミィが、荷台に幻を作り出す。昼間にフールから見せてもらった、狐面を模した幻である。
「面って‥‥これの事ですか?」
セルミィがそう言うがはやいか、男が剣を抜き放ち、飛び込んできた。
リョーカと星花が、その前に立ちはだかる。月光が差す男の顔には、狐面があった。荒く、息をついている。
「‥‥はぁ‥‥はぁ。この‥‥面。こちらに渡せ!」
「この面は、あなたの持ち物ではないでしょう?」
荷台から、アセトが男に言う。男は剣を、星花に突きつけてきた。
「くっ‥‥」
剣は恐るべきスピードで、星花の脇腹を抉った。リョーカが星花と男のあいだに割って入り、刀を横薙ぎに振る。
刀は男の肩を切り裂いたが、男はなおもかまわず、剣をリョーカに叩き付けた。
「なっ‥‥避けきれ‥‥っ」
受けようとしたリョーカの刀をも制する勢いで、剣は彼の体に叩き込まれた。傷口を押さえ、ふらりと星花が後ろに下がる。
サラが即座に、傷を回復する。
「月光よ‥‥男の付けている京三郎の面に降り注げ!」
フールが声を上げると、月の光は矢となって男の面に降り注いだ。しかし、ムーンアローではわずかに面に傷をつけただけである。
刀を両手で構え、リョーカは男に体ごと突き掛かった。
「だから‥‥手加減なんて出来ないのよ、俺はっっ!」
刀が男に突き刺さる。
同時に、自分も刃物の感触を味わっていた。視線の向こうに、黒髪の青年の顔が見える。
男の背後に立った燠巫は、素早く面に手をやった。結わえた紐を引くと、顔から面が外れて燠巫の手元に引き寄せられる。
ふり返った男の視界が暗転する。
ぐらり、と男は体勢を崩して、地に倒れた。さくさくと歩き、オレノウが男をのぞき込む。
「‥‥ふう、良かった。一回でかかってくれて」
「意外に手こずったけど‥‥これでおしまいね」
星花はロープを取り出すと、男を縛り上げた。
京三郎の盗んだ‥‥もう一つの面。
リョーカは、燠巫の手の中にある面をしげしげと見て表情を曇らせた。
「やっぱり、こういうものって燃やすかどうかした方がいいんじゃないかしら」
「え? 燃やす‥‥ってイキナリだな」
燠巫は、燃やす事に反対のようである。
「なんで、って‥‥そもそもノルマンにあったって、面は本来の使われ方をしないわけでしょ? だったら、持ち主と一緒に天国に行く方がいいんじゃない?」
「‥‥まあ、それならアッシュに届けて‥‥ジャパンに持っていくっていう手も。ジャパンに持ち帰って、また新たな京三郎の物語を‥‥」
「あんたはアッシュに会いたいだけでしょ」
ズバリとリョーカに言われ、燠巫は苦笑した。
燃やすかどうかはともかくとして、フールやサラはまだ面の事を調べるつもりのようである。オレノウは、特にフールの様子が恐かったのか‥‥男への聞き取りの方に行ってしまっている。今フールに関わりたくないらしい。
サラは面を少し調べて見て、フールに手渡した。
「大麻の臭いはしないようですけれど‥‥フールさん、どうされるのですか?」
「ええ、ちょっと失礼」
フールは面を手に取った。そしてまたしても‥‥。
「あ‥‥フレイハルトさん!」
サラとアセトが声をあげる。
またしても、フールは何の準備もナシに被ってしまった。サラとアセトが、心配そうにフールを見ている。
何も臭いはしない。
フールは面のこちら側から、じっとリョーカとサラ、アセトを見た。
外すように、彼らが言っている。だが‥‥何だ?
こんな貴重な面を、おめおめと渡してしまってもいいのか? 彼らは単に自分を信用してないから、面を取り上げようとしているのだ。
‥‥?
彼らに対する不信感‥‥落ち着かない感情。気が付くと、持っていた木刀を振っていた。術で確認しようとしていたアセトに、それが向けられる。
とっさに、リョーカが木刀を掴んでいた。
「な、何してんのあんた!」
「‥‥あ‥‥っ」
リョーカはフールに平手打ちをすると、面をたたき落とした。呆然とそれを、フールが見下ろす。
「‥‥メンタルリカバー‥‥お願い出来るかな」
小さな声で呟くと、アセトが何も答えず、フールにメンタルリカバーをかけてくれた。サラが、顔をのぞき込む。
「汗だくです、フールさん‥‥」
そっとサラがハンカチを、フールの額にあてた。
あれを被るのが自分じゃなくて、本当によかった。
オレノウは心からそれを喜びつつ、星花に縛り上げられた男の前に立った。アセトが、そっと詠唱を口にしながら男に触れる。
そっと目を開くと、顔を上げた。
「悪魔の気配は無いようですね」
アセトは続けて、メンタルリカバーを男に掛ける。先ほどフールがあんな事になったばかりだ、メンタルリカバーを掛けるにこした事はない。
「それで‥‥あなたの凶行の理由を聞こうではないか?」
「そうね。あの面についても聞かないと」
オレノウ、そして星花が刀を男に突きつけたまま、声をかけた。
一つは、京三郎の面を何故狙っていたのか。
もう一つは、あの面の効果。男の横では、セルミィが静かに歌を歌っていた。
なごやかに、セルミィが歌声を流し続ける。ゆるやかで暖かな声が、聞こえる。
男は無言で皆を睨み付けている。燠巫は腰に手をやって、ため息をついた。
「お前が京三郎の面を探していた事は、とっくに分かってるんだ。さっさと吐いちまいな」
「はっ、ギルドの人間か? 話す事なんて無いね、面はどうせ持ってっちまうんだろうが」
男はそれきり、話す事は無かった。
元々、彼らも男から情報を聞き出すつもりは、あまり無かったし、その準備もしていなかった。
少し物寂しそうな顔で、セルミィは男を見た。星花は仕方なく、男を荷台に連れて行く。
「‥‥どうしたんですか」
オレノウが聞くと、セルミィはこくりと頷いた。
「あの面の事も、京三郎さんの事も‥‥結局何も分かりませんでしたね。それに、あの人が人をたくさん殺したのは、面のせいなのか狂化だったのかも分かりませんでしたし」
もしかすると、相乗効果だったの‥‥かもしれない。
そんなセルミィに、リョーカの言葉が思い出されたのだった。
結局面は、アッシュの元に返される事となった。
リョーカは燃やした方が、とやっぱり思っていたし、あんな事があった後だからサラとアセトは、それが正しく保管されるようにとアッシュに念を押していた。
霧の森の調査から戻ったばかりだというアッシュは、どこか疲れたような様子であった。
「アッシュさん、結局この面って‥‥何だったんでしょう」
セルミィが聞くと、アッシュはすう、と目を細めた。
「そうですね‥‥恐らく、二つの面は同じ作者によって作られたものなんでしょう。よく似ているでしょう?」
「そうだな‥‥俺も同じだと思う」
ジャパン人の燠巫から見ても、面は同一人物が作成したように見えた。
しかし、このうちの一つが盗品だとすれば、もう一品はどうやって手に入れたのか、という疑問が残る。そして、何故呪いがかかっているのか、という問題も‥‥。
「二つ目の面が揃う事によって、何かが起こる‥‥?」
アセトの問いかけに、アッシュはふ、と微笑した。
さて‥‥それはこれから調べてみるとしますか。
京三郎が、何故この面を手に入れるに至ったのか‥‥そして、呪われている、その訳を。
(担当:立川司郎)