【黙示録・黒の断章】 第二詩節

■シリーズシナリオ


担当:谷山灯夜

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:04月05日〜04月12日

リプレイ公開日:2009年04月14日

●オープニング

 キエフから南に移動する事2日の位置にある村。音もなく駆けてくる人々の姿に村人は目を見張る。そろそろ種まきや麦を刈り入れる準備の頃だが、娯楽もない村では隊商に集まる異能の集団の話で持ちきりだった。

「二代目」
 早駆けで集まってくるのは醍醐屋の諜報員らしかった。皆、普通のどこにでもいるロシア人にしか見えないが、実はジャパン人だと聞かされて冒険者は驚愕する。
「食べる物や話し方、何より地の水を飲んでいると変わるんですよ」
 負傷から回復した諜報員の一人が屈託無く話す。
「わたし達は子供の頃からロシアにいますから。この体はロシアの土地と空と水が作ってくれたんです」
 だからジャパン人の誇りを持ち、ロシア人として戦うつもりです、と彼は言う。

「なるほど。出奔した方達は冒険に慣れていないのがこちらに有利となっているようですね」
 広げた地図を見ながら思案をしているのはクリル・ミツ・グストフ(ez1200)。三月のはじめに14歳になったばかりの少年であるのだが体躯、何より彼の顔付きが既に青年と呼ぶのに相応しくなっている。そして実際彼は少年ではない。醍醐屋二代目総代という呼称が彼の体と心に染みついている。
「歩く速度も冒険者さんの7割程度でしょうか。魔物に遭遇しないよう広い道を通り、夜の行軍は避けている、と」
 地図に線を引いていく。多くの村から出発した線は蛇行する軌跡を描きながらやがて一つの方向へと収束するように見えた。
「この村より東の方角ですね。ドニエプル川を目指している‥‥?」
 川に向かうのはあり得ない話ではない。少年達が何を目的に行動しているのか。いや、デビルが関わっているとしたら、それもハルファスの名を名乗る者が荷担しているのだとしたら。目立つ陸路より水路を使うのは必然に思えた。

「恐らく、今から走れば少年達の一群には追いつけそうですが」
 早駆けで情報を伝えてきた醍醐屋の一員が言い辛そうにしている。無理もない。「神の国を創る」と言って少年達が出奔した村の数は20を超えている。ひとつの村から出奔した少年達に追いつき村へ戻るように説得した所で残りの村の少年達には追いつけない。

「判断が難しいですね。最後まで尾行してどこへ行くかを突き止めてから行動するが一策。あるいは追いついた少年達の集団に入り何が起きているのかを探った上で対処するのが一策‥‥」
 それぞれに一長一短があるとクリルは考える。尾行はまず見つからない事が前提だが、それ以上に全ての集団が一点に集まるのかも判らない。集まった順に船に乗るような事態になれば結局後手になる。そしてこれが大事だが皆が集まると言う事はデビルも全員が集結してしまうのだ。監視だけなら醍醐屋の面々でも可能だが戦闘になるとしたら仮に冒険者が居合わせたとしても戦力差はどれほどになるのか検討もつかない。
 もう一案は安全ではあるかも知れないが賭でもある。誘導しているデビルを発見しそれを斬る、だけで終わる訳にはいかないからだ。「神の国」とは何であるのか、この集団はどこへ向かうのか、そして何をしようとしているのかまで突き止めなければ足取りを失ってしまう。しかし、どうやって潜り込む?

「道中、新たに仲間を増やすような行動を取っているかが問題ですね」
 推察でしかないが、デビルはともかく少年達が口にしている「神」を信奉するのなら溶け込む事は可能かも知れない。
「総代、今、親書が届きました」
 最新の親書を開く。そこに書かれていたのは違う村から出奔した集団が別の村の集団との合流を果たした、という事である。なぜならば。
「冬眠明けのグレイベアが現れたと書かれていますね」
 場所にしてこの地より北東寄り。北にある村から出立した5つの集団が山越えをする前に一つに集まろうとしているらしい。
「では、今判っている事を全て冒険者の皆さんに話しましょう。その上でご協力を仰げるかを伺ってみます」
 クリルは醍醐屋の面々に一礼をして労う。一人になった事を確認してから広げた地図に目を落とす。ぽとり、ぽとりと熱い滴が落ちて地図に染みができた。
「なぜ、なの。なぜ、こんな事に‥‥」
 少しの間だけでいい。ただの少年に戻らせて欲しかった。そしてあの優しい微笑みで頷いて欲しかった。だが。
 クリルはぐっと涙を拭いた。拳が強く握られ爪が掌に食い込む。
「ユーリー。君がエリンとハルファスの意志を継ぎ世界を混沌と戦いに落とすなら」
 拳を地図に叩きつける。
「『みつ』の名を継いだ僕は、その意志を砕き、止めると誓う」

●今回の参加者

 ea7222 ティアラ・フォーリスト(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0744 カグラ・シンヨウ(23歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2554 セラフィマ・レオーノフ(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5299 エレイン・ラ・ファイエット(27歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb7789 アクエリア・ルティス(25歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb9928 ステラ・シンクレア(24歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

サラサ・フローライト(ea3026)/ 以心 伝助(ea4744)/ アデリーナ・ホワイト(ea5635)/ クル・リリン(ea8121

●リプレイ本文

●山中
「そんなに興奮しないで、お話ししませんか‥‥?」
 ステラ・シンクレア(eb9928)の呼びかけに戸惑うグレイベアの姿があった。キエフから南に位置するロシアの山中。「偶然」通りかかった学者とその護衛は、山中で「偶然」20人ほどの少年少女たちが上げる悲鳴に気付き駆けつけた。そこにはテリトリーに入り込まれいきり立つグレイベアの姿があった。
 急ぎグレイベアと少年達の集団との間に割り込む学者とその一同。
「セラフィマさん、アクアさん。そのままで威圧して下さい」
 後方から指示を出すのはエルフの学者。エレイン・ラ・ファイエット(eb5299)はモンスターの造詣も深い。登山用に使っていた木の杖を握り直し、セラフィマ・レオーノフ(eb2554)隙なく構える。
「アクアさん、小熊を捕まえに来たんじゃないなら早く消えろ、ってグレイベアは言っています」
 アクアと呼びかけられた者の懐の中に入り込んでいたステラが囁く。
「山の掟も知らないでぞろぞろ踏み込むんじゃないわよ。熊を刺激するからっ! ほら、とっとと行きなさいっ!」
 アクアことアクエリア・ルティス(eb7789)は少年達の集団を叱咤する。セラフィマと共に殿を務めながら少年達の集団、エレイン、最後に自らの順でその場から撤退した。
「危ないところをありがとうございました」
 少年達の集団の中からラビと名乗る少年が前に現れて礼を述べた。
「こんな山中にこんな集団で、どうされたのです?」
 遺跡の調査を行っている学者とエレインは自らをそう名乗った。
 ラビは注意深くエレインを見る。自分たちの捜索に来た冒険者の可能性も考えたが学者というのは本当らしい。
「ちょっとあんた達、急いで行きなさいと言ったでしょ!」
 後ろからアクアが駆けてくる。多少強引でも良い。大事なのは不自然でないようにこの集団と行動を共にすることなのだ。
 この集団の中には少年達を導いたデビルがいるはずだとエレインをはじめ、セラフィマもステラもアクアも、実は知っている。デビルの立場なら同行に反対するかも知れない。あるいは人集めが目的ならむしろ同行を喜ぶかもしれない。だが、今まで旅をした事もない少年少女の立場なら思考の先は見えている。
「エレインさん達は‥‥どちらに向かうのですか?」
 自分達の行き先は言わずラビは質問をして来た。
「マスターは山を抜けたらドニエプル川に向かう予定ですわ」
 セラフィマが熊を追い払うのにも使った山歩き用の杖を用いて地面に線を引き、地図を描く。それは「偶然」にも少年達が向かう目的地と一致していた。
 いや、偶然ではない。全て情報に基づき計画された作戦であり、そして依頼であった。依頼主は広くロシアに根を張っている醍醐屋、その二代目総代のクリル・ミツ・グストフ。依頼の目的は出奔した少年の確保とそれを煽動したはずのデビルの調査にその目的の把握。
 巧みに偶然を装う作戦を練り上げた冒険者は、その少年達の集団に潜入する事に成功した。

●追撃
「‥‥わかりました。あの少年がデビルです」
 マロース・フィリオネル(ec3138)が指でふたりの少年を指を指し、大いなる神の力に祈りを捧げる。
「デビルは日の下で行動を嫌うことが多いと聞くのに、日中活動する者もいることを不思議に思っていました。‥‥なるほど。変化というのは、姿だけではなく本当に変化するのですね」
 陽小明(ec3096)が呆れたように呟く。彼女はかつて変化の力を最大限まで悪用したデビルと戦いそれを滅ぼした経緯がある。
 醍醐屋の情報に従い、冒険者はドニエプル川を目指す少年達の一団に追いついた。早朝、まだ寒さが残るロシアでは吐く息が白くなる。マロースが見破ったデビルも、なんと白い息を吐いている。
 あるいは「ふり」なのかも知れない。しかし小明は先日参加した戦いで驚くべき話を友のアクアから聞いていた。ネルガルの一体がハルファスに変化し、交えた剣もネルガルのものではなかったと。恐らくだがハルファスと同等だったのでは、とアクアは言った。ネルガルのことをよく知っているアクアが言うのだから間違いはないだろう。
「なら、人に化けているのなら今はデビルではなくただの人、なんですね‥‥。『神の国』などと語ったデビルにふさわしい罰かも‥‥」
 カグラ・シンヨウ(eb0744)は天を仰ぎ見て手を組み祈る。心優しきセーラ様。神を僭称するデビルを叩き潰そうとする我らの無慈悲をお許し下さい‥‥。
「一瞬で決めちゃおうね。周りから見たら人を襲っているみたいにしか見えないから」
 ティアラ・フォーリスト(ea7222)が困ったように笑うと皆も苦笑する。

「あの‥‥。本当に‥‥」
 タマーラという少女が、呆然とした表情で佇んでいる。小明、マロースの足元に倒れ地面に吸い込まれるように消えて行くデビルの姿を見つめていた。先刻までは少年の姿だった。だが、死体となったそれは仮の体を維持できず、地獄へと帰還した。
 勝負はあっけないほど一瞬で決まった。変化とは本当に、変化したものになってしまう技らしい。少年の体に変化したデビルは魔法さえ使わないまま倒された。
「くそっ!」
 もう一体は急いで変化を解き始めたがそれにも時間は掛かるらしい。ティアラのローリンググラビティに跳ね上げられた「それ」は地面に落下する。デビルとも人ともわからない醜い姿の「それ」はカグラが放つホーリーに浄化された。
 タマラは最初暴漢が襲って来たとおののき、襲われる仲間に神のご加護を祈り、そして仲間だと思っていた少年がデビルであることを知る。目まぐるしく変わる状況に眩暈さえ感じながらも、遂に自分達を導いていたのが神の使徒でもなくデビルだった事を理解すると顔を手で隠しながら号泣した。それは命よりも大切なもの。自分達は神の使徒であるという選民の誇りが崩れていく。自分達は神に選ばれたのではなくデビルに騙された愚か者である事を認めるには、彼らには精神が壊れるほどの衝撃であった。

●神の国
「『神の国』って、何?」
 にっこりと優しくカグラは微笑みながら問いかける。だが目は怖い。マロースも腕を組んで後ろに立っている。びくっとしながらもタマラを始めとする5人の少年少女は口を開いた。話を聞いたカグラとマロースは軽く眩暈を覚える。

「ロシアってなぜ災厄に襲われるか、考えたことはない?」
 場所は変わり。セラフィマ、アクア、エレインはそれぞれに打ち解けた少年たちと食事を共にしていた。打ち解けるに従い『神の国』について語る少年達の口は熱を帯びた。
「国王が悪いと国に災難が起こるんだ。え? だって、そう聞いたよ。昔、悪い王様が治めていた国は災厄が続いたんだって」

「それは神様が王を見捨てたから。災難を防ぐには国を創りなおさなきゃいけないの。国の命を革めるために神様は人を選ぶそうです」
 カグラに付き添われたタマラが口にする話を聞いた小明は呆然とする。それは、華国でも起こった話ではなかったか。暴君と妖妃、それを打つために任を受けた者。天は悪政を施す国の命を終え新たな国へと革めた。故に、「革命」と言う。

「僕たちの手でロシアに革命を起こす」
 熱っぽく聴くふりをしているアクアの呼吸、鼓動が荒くなるのをステラは感じた。今までの経緯をアクアから聞いた。アクアは、どれ程傷ついているのだろう。豊満なアクアの胸に包まれながら溜息を付く。この一連の事件を画策しているのはかつてアクアやその友が救おうとして救うことができなかった少年だと聞いていたからである。
「ロシアの各地に同志が散らばっている。神の啓示が来るその時まで仲間を増やし、神の啓示があれば。みんな一斉に蜂起するんだ」
 農民を支配している王や諸侯の首を撥ねて神に差し出すんだ、と語るラビの目に映る狂気をエレインは見つける。

●独立と信仰と
 ふう、と息を吐くカグラとマロースに大丈夫ですか、と小明が近寄ってくる。恐慌を起こしていた5人の少年、少女をふたりは寝かしつけていたのだ。送り返すことを考えれば醍醐屋の馬車に乗せた方が安全だと思い、別行動しているクリルに合流すべく一同は前に進むことにした。
「大丈夫です‥‥。しかし随分と人の気持ちがわかるデビルがいるものですね」
 メンタルリカバーを唱え続けていたマロースは微笑を返しながらも、怒りと、不安が混じったような呟きを漏らす。
「私たち冒険者の間でも、なぜ神は助けてくれないのかという声が上がるほどですから無理は無いかもしれません。その不安を利用して、更に傲慢や嫉妬の悪徳を植えつけているのがわかります。そして問題は‥‥」
 セーラの教えと異なり、広くロシアに信奉されているタロンの黒い教えでは人は自律独歩を求められる。黒の司教は神にすがる行為をさえ諌めるのだ。問題は、デビルがこの思想を逆手に取っていることである。己の手で未来を拓くことを美徳とするなら、不運も自己の責任になる。それは正しいのだが、運命に翻弄されるだけの弱者は弱者であることが間違いという思想にすり替えられた時、むしろ神に従うものほど思いも付かない発想に手が届いてしまう。
「民を守れない国なら滅ぼしても構わない、と。むしろ滅ぼせ、と」
 理屈では、そうなってしまう。

「残念ながら、ブレスセンサーでは判別できませんでした」
 申し訳なさそうにエレインが頭を下げるとセラフィマ、そしてアクアは慌ててそれを押し戻した。
「ここにいる少年も少女も、全員呼吸しています。本当にデビルはいるので‥‥、いえ、頑張りましょう」
 不安になりそうな気持ちをぐっと堪えてエレインは微笑んだ。収穫がない訳でもない。進展は確かにあった。セラフィマはクリルからから託された貴重な紙に情報を書き込むと目印をつけた木のうろの中に隠す。諜報の任に就いている者が回収してくれるだろう。この集団の行き先が遂にわかったのだ。
 集団の中にいるはずのデビルに発覚してはいけない。皆と合流できるその時までは学者と護衛として貫く事に冒険者たちは務めた。冒険者とうち解け耳を傾ける少年達も多い。万が一誰かが不穏な行動をすれば即時対応できるだけの構えは執っている。デビルも、迂闊に計画を進める訳には行かないだろう。ぼろを出すのは時間の問題と思えた。

「お話があります。お待ち下さい」
 先行する醍醐屋を追いかける形になったティアラ、カグラ、小明、マロースが小川に差し掛かった時、不意に声が聞こえてきた。
「あなたは、川姫、だよね‥‥?」
 清冽な気配を感じる存在の名を、カグラは知っていた。フィディエルと言いジャパンでは川姫と言う。川の守りをする精霊が静かに佇んでいた。
「精霊が、一体何の御用です‥‥?」
 ティアラが問いかけにフィディエルは頭を下げる。
「お願いがあります。わたし達が大切にしている人間が、デビル、いえデビノマニの手に落ちました。助けてください」
 デビノマニは人に見えるがデビルと同じく、その本体は地獄にある地獄の住人であるとフィディエルは震えながら訴える。
「神とデビルが現世で戦えば地上は破壊されます。かのデビノマニはそれを知っていて神が介入しないことを逆手にとり悪事を働いております」
「それで、掴まった人はどんな人‥‥?」
 フィディエルからその者の特徴を聞いたカグラ、そして何よりも小明は心臓が止まるような思いをすることになる。

●暗転
「またしても邪魔してくれたようだな。‥‥予定よりも少ないが仕方あるまい」
 ドニエプル川。仮設の船着場に船が来るのをユーリー・ハルファスは静かな気持ちで見つめていた。目の前にはロシア南部から集まってきた少年少女の姿がある。20の村にデビルを送り込んだ結果、現在到着しているのは14。ひとつふたつなら分かるが6つの村が未到着なのは何かがあったと見て間違いはない。そしてその原因も分かっていた。
「第一便は出立の準備」
 ここまで来る道中で少年少女は、神を求める心を現体制の破壊へ衝動に書き換えられた、まさに革命の志士たちへと変貌を遂げていた。神の名の下に死せば天国に行けると熱く語る少年少女に、ユーリーは優しく微笑む。
「同志諸君。いまこそ諸君の力でロシアに神の国を創ろう。力を求めず努力を怠る者は堕落した者と神は言う。ならば、堕落しきった王侯を倒し神の使徒としてロシアを正そうではないか」
 おお、の歓声があがる。
「そして諸君に言いたい。神の道を進む我らが道にはデビルが立ち塞がる事を忘れるな。今、ここにデビルの使徒がいる。力を求めず人に全てを託す堕落した魂の持ち主だ」
 ぐっと引き出されたのは自分たちと歳が近いように見える少年だった。集まった少年少女から罵倒の声が飛ぶ。「デビルの使徒は殺せ!」の合唱が起こる。
「諸君の気持ちは判る。だが今は待とう。冒険者を雇い我らの道を閉ざそうとした。きっと冒険者たちがこの地に来る。その時、このデビルの使徒には相応しい末路を辿ってもらおう」
 ユーリーはぐったりしたまま両手両足を縄で縛られ枷された少年を突き押した。石が飛び綺麗な少年の顔は血にまみれる。
 ユーリーはしゃがみこみ、その少年の耳元で囁いた。
「デスハートンの味はどうだった、クリル。じわじわと殺してやりたいがお前にはまだ、利用価値がある」
 ユーリーは懐から白い玉を取り出して少年、クリルにそれを見せ付けた。
「お前の魂だ。これにサインをしてくれよ、クリル。そうすればお前は二度と我に逆らわない従順なペットだ」
 昔のように友となり一緒に暮らそう、とユーリーは言い残しクリルを木に縛り付けさせた。